後期 今回は、「近代のイギリス女性史」について述べたいと思う。まず

後期
今回は、「近代のイギリス女性史」について述べたいと思う。まず、近代女性史
に影響を与えた科学について説明し、次に近代家族における女性の立場につい
て検証した後、ヴィクトリア時代の女性についての資料をいくつか取り上げる
ことにする。
1.科学
まず、近代女性史に大きな影響を与えた科学は、大きく分けて二つある。
一つは、19 世紀前半に流行った骨相学である。これは、顔の角度、脳の重さ、
骨格から人の性質を解明した。もう一つは、19 世紀後半にダーウィンが説いた
進化論である。彼の著書『種の起源』で最も革命的な箇所は、自然淘汰である。
それは、あらゆる生物は何万回も変異を繰り返すうちに、有利な変異を遺伝と
して子孫に伝え、新種が誕生するという考えである。当時、キリスト教の天地
創造説が一般的だっただけに、これは人々にとって衝撃的な影響を与えた。
そしてこの骨相学と進化論は、女性の劣位をも証明した。女性は未開人、犯
罪者、子どもと同様に発達が停止し、退化した存在であるとされたのである。
その結果、女性は弱きものであり、男性に保護されるべき存在として見なされ
るようになった。
2.女性の立場
近代家族は、資本主義と科学の影響を大きく受けている。
まず、資本主義の発展が核家族化を進めた。今まで農業を営んでいた男性が、
家族を離れて工場へ働きに出ることで、家庭をやりくりする専業主婦が必要と
なった。このことから、男は外、女は家庭という性的役割分業が成立する。
同時に、家父長制という考えが強固になり、女は男の所有物であるとされた。
女は主婦として、家事・育児に専念するのが当然とされたのである。特に、ヴ
ィクトリア時代において、女は「家庭の天使」でなければならないという考えは
一般的であった。
科学は、さらに女性の近代家族におけるあり方を決定づけた。物理学のエネ
ルギー保存則において、女性は子を産み育てることにかなりのエネルギーを費
やすため、その他の精神的活動である教育などに必要以上のエネルギーを注い
ではいけないとされた。そして、子宮の語源であるヒステリーも女性特有のも
のであると考えられていた。
3.ヴィクトリア時代の女性
近代、最も女らしさ(domestic ideology)が求められたのは、ヴィクトリア
時代の中産階級である。その影響は、家庭重視イデオロギーや女性の下着、当
時を描いた文学からも顕著である。
家庭重視イデオロギーでは、女性はまず「家庭の天使」として良き妻、良き母
であることを基本とした。そして何よりも男性に安らぎを与え、家庭を守る存
在でなければならなかった。なぜなら女性は男性よりも劣り、男性に従属する
ものと考えられていたからである。
また、コルセットも当時の女の立場と深く関係している。ウエストを締め、
自由な動きを制限することで、女性を労働からかけ離れた存在に見せることが、
男性の金銭的な能力の証として機能したからである。
この時代を描いた D.H.ロレンスの『虹』にも、トムの時代において「家庭の天
使」の姿を理想の女性像とし、女を自分の所有物とする考えを伺うことができる。
最後に
今回は、「近代のイギリス女性史」を辿っていった。その過程で、現代の女性
の存在が、イギリスの社会環境の延長線上にあることがよくわかった。今日の
女性は、骨相学や進化論、資本主義などから生まれた近代のイギリス女性史の
なかで誕生したのである。そこのことが理解できたことは、今後女性として生
きていく上で貴重な学びであったと思う。