「売れるものを売れるだけ集める」、これを毎週仮説検証し

季刊 イズミヤ総研 Vol . 101(2015年1月)
シリーズ 流通の明日を拓く −プロフェッショナルたち−(第十二回)
「売れるものを売れるだけ集める」、
これを毎週仮説検証しながら繰り返す
(談)イズミヤ株式会社 ノンフード商品部レディース & シューズ部バイヤー
(まとめ)大阪市立大学大学院 経営学研究科教授
山口 昌史
加藤 司
小売業を取り巻く環境はますます厳しさを増している。少子高齢化で全体の市場が縮小しているだけではな
い。多くの市場は成熟しており、売上を伸ばし続けることは困難である。靴の市場も同様で、バブル経済がピ
ークとなった 1990 年頃を境として売上も毎年減少している。そうした中で、スニーカーなどの販売が好調な
ABC マート、チヨダがそれぞれ 1,500 億円、イオン系のジーフットが 1,000 億円と、一部の小売業による寡占
化が進行している。そうした厳しい環境にもかかわらず、イズミヤの靴の売上はここ数年毎年 5%前後着実に
伸びており、靴の売上は 70 億、衣料品 400 億円の中での構成比は他企業に比べても高いし、9 月の靴服飾大
バーゲンは過去最高の売上を記録したという。
その要とも言うべき婦人靴の担当者が山口昌史さんである。1988 年入社、その後 4 年間の売場経験を経て、
バイヤーになってから 22 年、服飾一筋のバイヤーの経歴を持つ。現在イズミヤのバイヤーの中では 48 歳と最
高齢に達しているそうだが、その飽くなきチャレンジ精神やバイタリティは衰えることを知らない。その秘密
はどこにあるのか、今回も興味津々でインタビューに臨むことになった。
入社の動機と最初の配属
山口さんの自宅は京阪沿線の樟葉駅であり、
大学一回生の時からイズミヤくずは店でアル
バイトを三年間続けたという。くずは店は当
時衣料品の単独店でナンバー2の売上を誇る
店舗であった。くずはモールというショッピ
を実施)の中にあり、
食品はダイエーが担当し、
イズミヤは衣料品中心(一部布団・寝具の住
居関連を販売する)という棲み分けができて
いた。バイトの中身は裏方であったが、その
衣料品部門で夜遅くまで働くイズミヤの社員
を見ながら、
「しんどくても、楽しそう」に仕
ングセンター(今年、二回目のリニューアル
事をしているように見えた。実家から通える
関西圏で働ける企業に就職したいという希望
もあり、アルバイトの経験もあるイズミヤに
就職したという。
1988 年に入社、最初の配属先は中型店の門
真店で、婦人服の担当となった。二年目から
服飾部門長代理になり、三年間続くことにな
る。
(現在はアパレルと服飾部が一緒になって
22 年間、服飾バイヤー一筋の山口さん
レディース&シューズ部門となっているが、
当時は靴・バッグ・アクセサリーを扱う服飾
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部が独立していた。その後、部門の所帯が小
さくなってきたので再編され、レディース・
動かすことが第一の障害となったからである。
シューズ、メンズ、子供・インナーという3
部門となった。
)
日頃のコツコツした売場作りこそが大切
店でのチャレンジ経験
上司は厳しい人であったが、
「今までの常識
を覆して、いろいろなことを考えてみろ」と、
チャレンジすることを勧めてくれた。売上だ
けを取りにいき、
「これだけ売ったのに、これ
しか利益が出ないのか」といった商売の仕組
みのイロハも学んだ。その後につながるチャ
レンジが、一階の売場の約半分を使った靴・
服飾・バッグのバーゲンの成功である。門真
店での成功がやがて全店に波及し、半期に一
度の「靴服飾大バーゲン」というイズミヤ挙
げての大きな催事になったのである。
また、この時に一階の全面改装も経験し、
がむしゃらに商品を積み上げて販売するより
も、きれいに販売する方が効果的であること
も学んだ。当時はキャパがあれば、少しでも
売場をとっていきたいとの思いがあり、いろ
いろな商売の引き出しを持っていると自負し
ていたので、隙さえあれば「ハイ、やります」
という気持ちが強かった。今ならリスクをと
ることに躊躇するが、当時は若いので失敗を
恐れることもなかった。
しかし、本部バイヤーの中には「そんなこ
とをして本当に売れるのか」と、拡大策を不
信に思う人もいた。当時の門真店は中型の規
模だったため、拡大した売場を埋める商品を
調達するためにバイヤーを説得するのも一苦
労であった。売上の上がる大型店であれば、
バイヤーも積極的に支援をしてくれ商品も回
してくれるが、実績の無い店舗では商品部を
門真店で学んだ基本として、仮説検証型の
店作りがある。山口さんによれば、売上を確
保するために派手なバーゲンもやったが、む
しろ日頃の売場作りが基本で、目に見えない、
コツコツとすることが一番大事であるという。
単純に言えば、売れるものを集めて、売れな
いものは排除して、売場の「鮮度」を保つ。
口で言うのは簡単だが、それを毎週毎週、仮説・
検証を繰り返すことで、売上が着実に上がる
というわけである。
実際、引き継いだ時の売上は 1 億 6,000 万円
だったが、転出するときは 2 億 4,000 万円に
まで増えていた。門真店は中型で目立たない
店だったが、売場の改装を機にいろいろな商
品が入るようになり、婦人靴だけがよく売れ
る店になった。
「それで、たまたまバイヤーに
なった」と謙遜するが、売れるものを売れる
だけ集めてくる、そういう仮説・検証を繰り
返した結果が、婦人靴の売れる店になったと
言えよう。日頃のコツコツしたことが大切で、
靴服飾大バーゲンはその集大成にしか過ぎな
いと断言する。
他方で、こうした経験が後にバイヤーにな
ってから役立つことになる。バイヤーの仕事
は、売り込みの塊(かたまり)をどう作って
いくか、店舗が在庫をどのくらい持ち、どの
くらい発注するか、仮説を立てて実行しても
らう「お膳立て」をすることだからである。
バイヤーとしての鍛錬
小売業の中には、バイヤー経験のない売場
の担当者にいきなりバイヤーをさせるような
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辞令を出す企業もあるという。女性のファッ
ション衣料品など、センスが重要な商品の場
グ的な検証しかできなかった。それが関東で
合は、そういう抜擢の仕方もあるのかもしれ
ない。だが、商品のチョイスだけであれば何
とかできるかもしれないが、バイヤーの仕事
は、
「これぞと思う商品」については特定の店
舗で販売してもらい、どのように売場で並べ
られているか、どのように販売されているか
や、売れ行きを自分の目で確かめるという、
はそれだけではない。売上高、値入率、在庫
アナログ的な実験ができたのである。
の管理、値引き判断など、担当してすぐに出
来ないことも多いのである。
現在は人が減ってアシスタントバイヤーも
少なくなり、いわゆる OJT で経験を積むこと
もできにくくなっている。昔は、先輩バイヤ
ーの「カバン持ち」で、一緒に問屋や産地メ
ーカーを回り、基本を教えてもらうとともに、
「どうしてこんな商品を仕入れるのか」
「自分
だったらこういう商品を仕入れるのに」と判
断力を磨く余裕があった、と振り返る。
山口さんは、その後、婦人靴バイヤーとし
ての経験を積み、2004 年からは関東の服飾バ
イヤーに配属されることになった。関東と関
西では市場が異なる。関西ではお客様は自転
車や徒歩で店舗へ来られるので、雪駄やサン
ダル履きが多いが、関東では基本的に電車で
来店されるので、女性であればパンプスが多
くなるのである。また大阪は「すごく派手」
とマスコミは報じるが、大阪も「意外とコン
サバ」と弁明する。他方、関東は京都に似て
いて、さらに保守的であるとも言う。
忙しいバイヤーの一週間
月曜日は、過去一週間分の売上データの整
理をして、売れ筋ランキングなどの情報を各
店舗へフィードバックする作業に当てる。各
店舗の売上情報も公開することで、
「あの店に
負けた。悔しい」というように競争心を刺激
することになる。またバイヤーの重要な役割
として、よく売れる店舗には三週間分の在庫、
あまり売れない店舗は五週間分の在庫量を目
安として伝えているという。その目安に「各
店舗の想いを込めて」発注して欲しいという
のが狙いであり、店舗側の仮説・検証型の発注、
売場作りでの変化を誘導している。かつては
「ドバッと発注しておけ」といった、アバウト
なやり方が多かったことを考えると、雲泥の
差があると言える。
火曜日は、今後に展開する企画、売場づく
りを考える時間である。カラー展開について
当時、関東には 6 店舗あったが、関東のバ
イヤーはあくまでも補完的な位置付けであっ
た。セントラルバイヤーではないので、店舗
数が少ないと逆に実験ができるというメリッ
トがあったと言う。例えば、現在では POS デ
ータで全店の売上データが瞬時に把握でき、
特定の商品の売れ行きをつかむことができる。
しかし、少し前まではそれが出来ず、アナロ
想像以上にハードなバイヤーのスケジュールを聞く
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は、日頃から考えているので、それほど時間
はかからないと言う。水曜日からは仕入先、
産地メーカーの訪問と商談に当てる。産地と
して残っているのは、神戸、大阪生野、東京
浅草ぐらいで、どの産地も規模を縮小してい
る。週に一回は神戸、月に一回は浅草、名古
屋、半年に一回は中国へ出かける。週末は最
近では店舗回りをすることが多いので、満足
に休みが取れない週もあるようだ。山口さん
に加えて、アシスタントバイヤーとパートタ
イマーの3人で婦人靴の仕事をこなしている
が、バイヤーの一週間は思った以上にハード
である。
派手な大型チラシの靴服飾大バーゲン
「靴服飾大バーゲン」のチラシを見せてもら
ったが、最近、これほどの大型サイズのチラ
シは見たことがない。コスト面の問題もあろ
うが、シューズだけで裏表を構成するという
のはそれなりの覚悟と実績があるからだろう
と推測される。
靴について過去最高の売上を叩きだした、
そのバーゲンの中で「目玉は何か」と尋ねた
ところ、おもむろに説明してくれたのが掲載
された商品の上質感ということであった。例
として挙げられたのは子供靴だ。子供は成長
が早く買い替えが頻繁なために機能よりも価
格が重視され、1,000 円や 1,980 円といった価
格帯が売れ筋と思い込んでいたが、もはや安
い商品が売れる時代ではなくなっているとい
う。最近の子供靴は機能性重視となり、コス
トも上がってきて、3,300 円、3,800 円が主流
になっているのである。明らかにお客様のニ
ーズが変化しているのである。それゆえ、今
回のチラシでも量販店では通常販売していな
いようなワンランク上の商品を打ち出し、
「ち
ょっと良い物があるので行ってみようか」と
思わせる内容にしたと言う。
安く売ることができる仕組み
最近のバイヤーは、市場環境が厳しくなっ
ている中で、せめて値入れを合わそう、せめ
て値下げはしないようにしよう、せめて在庫
は少なくしよう、と守りに入らざるを得ない
面もあるが、利益率を上げるために売価が上
ずれして、かえって売れなくなっていたり、
在庫を減らして売り逃すこともある。その点、
山口さんの部隊は価格を思いっきり下げるな
ど、
「先に攻める」ことができるという強みが
あると言う。
イズミヤは、他社よりも安く調達できてい
るわけではないが、安くできる仕組みがある
と言う。そもそも、売上、利益、値入れ率を
組み合わせることで、ある程度のバーゲンは
可能となる。単純に利益=売上(単価×数量)
×値入率だとすれば、値入率を下げても、数
量が増えれば利益を維持することは可能であ
る。またこれが商品ごとに当てはまるとすれ
ば、商品によっては原価すれすれの売価で利
益が出なくても、別の商品の利幅が取れれば、
全体としては同じ利益を確保することが可能
であろう。いわゆるマージン・ミックスとい
う手法である。
メインの取引先にとっても、ブーツを値引
きして赤字を出しても、それ以外の定番商品
を販売しているために、値引きによる集客効
果で定番の売上も上がるという目論見がある
のであろう。単品ではなく、総合的な取り組
みによって、多様なプロモーションが可能に
なる例と言えようか。
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ただ、靴服飾大バーゲンは採算をとるとい
うよりも、半期に一度の「お祭り」という性
気に売上が跳ね上がる。それがようやく理解
してもらえるようになったというわけである。
格が強いようだ。お互いが損を出しながらも、
イズミヤにとってはワンランク上の品質の商
品を販売することでイメーシアップ、取引先
売上高が高い秘訣は、お客様の年層が広い
ことである。ヒールの高さの違いによって広
にとっては回転率の低い商品を販売できる機
会であるが、むしろお祭りとして、取引先の
協賛は日頃のイズミヤの売上貢献に対する期
待や感謝の表れと考えるべきなのかもしれな
い。
「このバイヤーは、多少無理を言ってくる
が、きちんと売上を上げてくれる」という期
待があるからこそ、メーカーも協力してくれ
るし、イズミヤ本体も大型チラシを許してく
れるというわけである。いずれにしても、仕
入先や社内での日々の「信頼関係」がなけれ
ば実現できない、半期に一度の靴服飾大バー
ゲンなのである。
い年代層のお客様に支持されているという。
当初は 2 型しかなかったが、メーカーとの直
取引に際して、箱とクッション性のある中敷
きを変えることにした。その後バリエーショ
ンを増やして 8 型まで増やした。そういう歴
史の中で、よく売れる 2 型については通常よ
りも大き目サイズの 25.0cm、25.5cm、26.0cm
も展開しており、多様なお客様のニーズに対
応することが可能になっているのである。
成長した大ヒット商品である。フォーマルな
ので春が最も売れる季節であるが、秋でも週
間 2,500 足、昨年一年間で 55,000 足、西宮ガ
ーデンズ店1店舗で1万足も売るという。
売り方の工夫
関東での経験のもう一つの成果が、外箱を
積んで販売するという手法であった。量販店
ではこの手法は人手がかかるためにタブーと
考えられてきたが、新しいプロモーショとし
て積極的に活用している。これに二年ほど前
から始めた DVD による商品説明を加えると、
実に効果的であるという。
今年の新商品は、大型店向けに開発した高
いインヒールの「美脚効果」をもつ商品であ
る。仮説・検証に基づいてリメイクした商品で、
売れる自信はあるものの、今年は実験段階で
あると言う。こうした新商品の企画は、約一
年前から取引先メーカーの営業マンと商談を
開始、それとは別にメーカー本体の企画の二
種類があり、両方の提案をメーカーの企画部
昔は「定番商品はチラシに載せる必要はな
い」と言われてきた。自分たちが一所懸命開
長と一緒に荒選定を行い、サンプルアップし
た段階で、棚割りを考えながら商品と数量を
発した商品であり、一番力を入れて販売した
い商品なのに、チラシに載せることが出来な
かったのである。しかし、チラシを打つと一
決めるという段取りを踏んでいる。過去二年
程度の傾向をもとにした今年の予測のもと、
仮説・検証型の売場作りを進めている。
チラシに「定番商品」も掲載
チラシには、超定番の商品であるパンプス
も掲載されている。もともとは山口さんが関
東のバイヤー時代に発掘した商品で、最初は
問屋経由の仕入れであったが、関西の商品本
部へ戻ってからメーカーとの直接取引に変え、
その商品を全店で展開するようになったもの
である。ここ三年で 22 万足を記録するまでに
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デジタルサイネージの試み
電子看板(デジタルサイネージ)といえば、
きるのである。
チャレンジ精神旺盛な山口さんは、チラシ
かつては、たとえばビール売場でメーカーの
TV コマーシャルを流すというぐらいでしか
なかったが、現在、イズミヤでは食品売場だ
でも QR コードを一部の商品に添付して、お
客様がイズミヤのホームページに飛ぶことが
けでなく靴売場でも活用されるようになって
いると言う。映像の制作コストが障害だった
が、そのコストもかなり下がっているようだ。
もっとも、画像を店頭で再生するモニター
などの機器は高価で、本部からは、かかった
費用を本当に回収できるのか、費用対効果を
シミュレーションすることを求められたとい
う。また、ちょうど節電が話題になった時で
もあり、節電のために再生モニターは使えな
いと利用を断ってきた店舗もあったそうだ。
しかし、今では全店に広がり、いろいろな売
場で使われている。
量販店では、インショップでもない限り、
セルフ販売が中心で接客はできない。それゆ
え、店頭で商品の特長をお客様に理解しても
らうことができず、せっかくこだわりの商品
を開発しても売上につながらない場合も多い。
その点で、デジタルサイネージという手法は、
できるような仕掛けを実験している。だが、
直接特定の商品には到達できないため期待し
たほど効果は出ておらず、その改善が今後の
課題であると言う。
サイネージの効果もあると言う。
商品を理解してもらい、売場作りに協力し
てもらうという意味では、月一回の商品会議
において DVD を使って売場担当者に商品説
ともかく「やってみる」
2014 年 9 月の靴服飾大バーゲンは過去最高
の売上を記録した。にもかかわらず、山口さ
んは今がスランプでもあると言う。成熟した
市場はピーンと張ったゴムのようなもので、
縮もうとする力が強い。それゆえ、今までの
やり方で市場を開拓・拡大することには限界
があると認識している。その打開策は、お客
様のニーズを探ったり、新しい方法を考える
ために情報を集める以外にないという。
常に商売のネタを探している山口さんにと
って、川下や川上の情報は貴重である。川下
であれば競合店舗のやり方も参考になるし、
バイヤーとしての経験が長いために他社のバ
イヤーや川上の取引先メーカーからもいろい
ろな情報は入ってくる。問題は、情報が入っ
てきても、一歩踏み出す勇気であると言う。
事業には常にリスクが伴い、それをいかに引
き下げながら、チャレンジしていくかが課題
なのである。山口さんは、その点はしたたか
で、最初からドカンと生産するわけではない。
明をすることが効果的なようだ。店頭でお客
様から質問があった場合にも、これまでは担
最低の生産ロットは 1,000 単位であり、競合店
の売れている商品を見つければ、ロットを小
当者から本部バイヤーに問い合わせがあった
が、DVD によって売場担当者の理解が高まれ
ば、お客様の質問に対しても、売場で対応で
さくしてシーズン末に実験し、うまくいくよ
うであれば、次のシーズンには本格的に導入
することも多いという。
店頭でお客様に商品のこだわりや情緒的な感
動を伝える上で効果的な手段である。イズミ
ヤの靴の売上が上がっているのは、デジタル
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他方で、コンプライアンスなど、バイヤー
にとって注意しないといけないことが多くな
り、ガチガチでやりにくい時代になっている
とも言う。もちろん、商品の安全性など順守
すべきことは当然としても、過去実績のある
無難な商品だけではお客様に飽きられる。必
要以上にビビリ過ぎていては、エキサイティ
ングな売場はできないのである。
いろいろなことにチャレンジし、実績を積
んできた山口さんの体験から言えば、
「勝てば
官軍」という言葉の喩えのように「成功すれ
ば反対する人もいなくなる」ことが多く、新
しいことに成功することが大切であると言う。
チャレンジすることにビビっしまっていては、
エキサイティングな売場は出来ない一方で、
リスクを取りながらも、それを減らす工夫も
必要である。山口さんを見ていると、リスク
とチャレンジを両立させながら、
「ともかくや
ってみる」ことが大切であると感じる。
感想
インタビューに同席したイズミヤ総研の川
崎さんによれば、山口さんは“古き良き時代”
のバイヤーであるという。最近の若いバイヤ
ーは、何かがあると落ち込み、売上も落ちて
いく一方なのに、山口さんには絶えず売上を
伸ばし続けることができるだけの“しぶとさ”
があるというのがその理由らしい。商品にこ
うまくいった時の喜びは大きく、山口さんに
とって、人一倍やり甲斐を感じられるのがバ
イヤーの仕事だからであろう。最近、いつま
でバイヤーを続けることができるか、と悩み
始めている。年齢が高くなると現場のバイヤ
ーにとどまることはできず、管理職として現
場を離れなければならないだろうと考えるか
らである。
バイヤーというと、市場の変化や消費者の
生活に敏感でなければならず、年齢を重ねる
と、市場の変化、とくに若い人たちのライフ
スタイルの変化を理解できない恐れがあるよ
うに思われる。しかし、こと山口さんについ
て言えば、その行動は一見単なるチャレンジ
精神に支えられているだけに見えるが、仮説・
検証を繰り返すことで単なるチャレンジに終
わらせていないことが強みである。ワンラン
ク上の商品、機能重視の商品開発、それをお
客様に説明する DVD の活用など、すべての
チャレンジは仮説・検証を通じて「実態」と
の摺り合わせが可能になっているのである。
そうした思考が出来る人は年齢にかかわらず
貴重であり、そうした情報、ノウハウの共有
こそが組織として求められている課題といえ
よう。
だわり、常に新しいことを考え、それを実現
していくバイタリティがあるからこそ、売上
を持続的に伸ばすことができると言えよう。
山口さんは、できればバイヤー一筋、
「生涯
一バイヤー」を貫きたいと言われる。
「何より、
仕事が楽しい。楽しいからこそ前に進むこと
ができる」からである。しんどい時もあるが、
「経験に基づく情報やノウハウの共有こそが組織に求
められている課題」と語る加藤教授
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