風のたより - 竹内工務店

風のたより
2005 年
VOL
発行者
1月
18 号
竹内
明
風(k,s)のたよりは、
EQ の母といわれている 「かきくけこ」 感動、興味、工夫、健康、恋と そして、環境、建築を
加えた K の集りの意味です。IQは、単なる知能指数をあらわしますが、EQとは、心や感性の豊かさを
あらわします。私達の元気の元のこれらのkたちの話題を私なりにまとめてみました。
是非ご一読ください。
「古くて美しいイギリスの街並み−1」
イギリスはいくつかの島々からなる島国ですが、緑が多く自然が美しく、古い文化と歴史が
あり整った街並みが多く残っていることや、農業国から工業国へと転換し工業立国として一世を
風靡した事等、日本と良く似た所が多いように思います。
が、イギリスはイングランド、ウェールズ、スコットランドとアイルランドという国々からなる
連合王国です。又、それらの国は個別の歴史風土を持っていてそれらの国の国旗を重ねて今の
イギリスの国旗が出来上がっています。(ウェールズは含まず)
地理的には極東の日本とイギリスとは随分と距離がありますが、しかし明治時代の初期に
スコットランドと日本に東西の接点がありました。それは現在の東京大学にスコットランドの
大都市にあるグラスゴー大学の教師が多数派遣され日本人の大学生を指導、教育していた事です。
彼等によってスコットランド民謡が、日本に伝えられ「蛍の光」「夕空はれて」となりました。
又、日本人の東大の優秀な卒業生が、グラスゴー大学の国費留学生として彼の地で学んで、明治
時代の日本の殖産興業政策を推進し、大きな足跡を残しています。
チェスターの街並み
「チェスターの街並み」―ローマ時代からの城塞都市
* 1 チェスターは、ビートルズの生まれ故郷のイングランド西部のリバプールの少し南に
位置するローマ時代の遺構を残すとても古い特徴のある町です。
チェスターの西は北ウェールズに隣接する都市です。元々ウェールズはイングランドとは
違った民族で言語や風土、文化も違います。
そんな辺境に位置するが故に、国境を守る役目でここに要塞が築かれたのがこのチェスターの
地(歴史上において)の生立ちです。
チェスターの町は四角い形の町を総長約 3km のシティ・ウォルズといわれる城壁に囲まれて
います。その城壁は低い所で 3m 高い所で 12m の高さがあります。
その高い城壁の通路からは古い整った町並みを見廻す事ができ、南にはディ―河のながれを
(美しい絵になる光景を)目にする事が出来ます。
その城壁には北にはノースゲート、南にはブリッジゲート、西にはウォーターゲート、東には
イーストゲートというそれぞれの名のついた4つの門とその門を結ぶ4つのメインストリートが
ありそれらが交差していて、その通りに面して妻入り 3∼4階建ての中世のチュウダー様式
(イギリス中世の様式で白壁と黒い柱や梁を持つ)のコントラストが鮮やかな建物群が連なって
建っていて、この地の特徴ある整った街並みを構成しています。
城壁の中には城や大聖堂、博物館、市庁舎そしてもちろんホテルやカフェ、飲食店、物販店
そして大型のショッピングセンターのロウズ(THE ROWS)があります。
(ロウズというのは、長いとか連なるという意味です。)
そのロウズも外側からみるとチュウダー様式の* 2 ハーフ・ティンバーの古い家並みを残しており、
その中に大きなショッピングセンターがあります。
表から見ると中層の木造建物群にしか見えませんが、一歩中に入るとそこは近代的なショッピング
センターそのものです。
町全体が中世の街並みを残していて、とある貸家の看板のある建物の前でふと目を留めると、
その看板には 1503 年という数字を見つける事ができました。
なんと 1503 年に建てられた建物がいまだに貸家として使われている事に非常に驚きを感じます。
城壁とディ―河
ザ・ロウズ
「ワ−ズワ−スの家」(ダウ゛・コテージ)―詩人の湖水地方の家
ピーターラビットのふるさとの湖水地方に詩人ワーズワースの住んでいた家があります。
美しい自然の中に建つ簡素な小さな家。ダウ゛・コテージと呼ばれるのがその家です。
ダウ゛というのは、清純な人を意味し、コテージというのは、我々の思っている瀟酒な山小屋風
の家ではなく、小作民の家で小さな家を指します。
この家の中には古い水屋の家具、暖炉や古い椅子が往時のまま残されており、かなり質素な生活を
していたと思われます。
ワーズワースの家−ダウ゛・コテージ
イギリスの B.B(民宿)の少し暗い照明や、水の出の悪い蛇口も今風にいえば、エコロジー
の実践です。又少し前の日本人(経済的に豊かになる前の)も同じ生活をしていたはずですが、
今の私達は、確かに物質的には豊かになりましたが、逆に心は貧しくなりました。
日本人の見失いかけたものをイギリスの人たちは大事に育みそだてて、若い人達に伝えようと
しています。おじいさんやおばあさんの使用した古い家具や食器を今でも大事に使っていますし、
又上手に飾っていたりして生活を楽しんでいます。
古い家も何代も手を入れて使い愛着を持って生活をし続けて、収入のわりには豊かに生活を
楽しんで暮らしています。自信を失った迷える今の日本人は、是非とも見習いたいものです。
(まさにこれが簡素なスローライフですね。)
ダウ゛・コテージの暖炉
イギリス人建築家はこう言った。
「戦前までは農業が発達し、歴史があり、物がなく、質素な暮らしを続けてきた日本の環境は
イギリスにとてもよく似ていた。ところが、今や日本は小さなアメリカだよ.かつては日本には
すばらしい伝統があったのに、人々はそれを忘れてしまっている.だから今の日本の家や暮らし
の中にはなにもないんだ」
家とは個人の暮らしが集約される舞台だ。
イギリスの家には日本人が捨ててしまった暮らしの知恵が残されている。
イギリス人は今でも、家を買うなら戦前の家がいいと考える。
彼等はイギリスの家を「古い家・オールドハウス」と呼ばれる事は正しい表現と思っていない。
イギリスのこの類いの家を「キャラクターハウス」(個性的な家)、又は「マチュアーハウス」
(成熟した家)と呼ぶ。
ゆるやかに豊かな時の流れるイギリス
「古くて豊かなイギリスの家
便利で貧しい日本の家」
著者
井形慶子
大和書房より
* 1 チェスター イギリス、イングランド中西部のチェシャー県の県都。中世の香り漂う街並みに加えて、
ローマ時代の要塞として防御地点の防壁や石造りの円形劇場跡等 16 世紀創建の大聖堂等の歴史的
建造物も多数保存されている。
* 2 ハーフ・ティンバー 柱・梁・筋違等の骨組みを木材で密に組み、その間を煉瓦・石・土等で充填して
壁とした物で、木の骨組みはそのまま外に現され装飾もかねる。
* 3 「ウィリアム・ワーズワース」1770∼1850 イギリスの大ロマン派を代表する詩人。
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