(61)富士山噴火の社会的影響: 火山灰被害の影響についての富士山周辺製造業郵送調査 ―富士山噴火対策研究:噴火による社会経済的影響に関する調査研究 その2― ① 総括データ 発行年月:2005 年 1 月 報告書のタイプ: 災害タイプ:噴火 現地調査:アンケート 執筆者:関谷直也 Naoya Sekiya 廣井 脩 Hiroi Osamu 報告書の概要: 1 調査の目的と方法 2 企業の富士山噴火対策 3 富士山噴火の企業活動への影響 4 まとめ 添付資料:附属資料 アンケート調査票(調査実施地域別単純集計結果) ② 災害の概要 平成 12 年 10 月から 12 月、平成 13 年 4 月から 5 月に富士山周辺で低周波地震が観測さ れた。そして、これは富士山の噴火活動と関連性があることが火山関係学者によって指摘 された。 ③ 調査の内容 本調査では、富士山が噴火した場合に降灰の影響を受ける可能性があると考えられる神奈 川、山梨、静岡県全域における製造業の防災管理者に対して、アンケートを実施した。調 査は、郵送で行った。帝国データバンクの企業リストより、神奈川、山梨、静岡県全域に おける製造業を比例配分抽出し、2003 年 1 月 21 日発送、2 月 7 日に回収を締め切った。 調査方法:比例配分無作為抽出による郵送自記式質問紙調査 調査対象:神奈川・山梨・静岡県下に本社・事業所を構える製造業の防災管理者 回収票数:768 社(回収率 38.4%) 調査期間:2003 年 1 月 21 日∼2 月 7 日 ④ 主な結果 企業の富士山噴火対策: 富士山噴火への関心、富士山関連情報の認知:東海地震とくらべると低い。だが、 「非常 に関心がある」、 「多少関心がある」と答えた企業を合わせて8割近くになる。「低周波地 震と富士山火山活動の関連性があると言われていること(78.9%)」 「ハザードマップを政 府の委員会が作成しようとしていること(65.3%) 」 「富士山噴火を想定した避難訓練が行 われたこと(56.6%) 」の順に認知度が高かった。 企業の富士山噴火対策の現状と積極度: 避難訓練・・・富士山噴火を想定した避難訓練への参加要請があった場合の参加意図: 約半数の企業が、避難訓練への参加要請があった場合参加意志がある、と答えている (45.2%) 。 防災マニュアル・・・富士山噴火を想定した防災マニュアルの作成予定:もし政府や自 治体が企業用の富士山防災マニュアルのモデルを作ったとしたら、8割以上の企業が、 富士山噴火を想定した防災マニュアルを作成する意図があると答えている。富士山噴火 を想定した防災マニュアルがあると答えた企業は 1.5%(12 社)、防災マニュアルを作 成する予定があると答えた企業は 19.6%、作成する予定はないと答えた企業は 76.0%で あった。 「富士山噴火関係の情報の認知度」と「富士山噴火対策への積極度」との関係(仮説1) : 「低周波地震の認知(問3) 」 「ハザードマップ作成の認知(問4) 」 「富士山噴火防災訓 練の認知(問5) 」それぞれの回答数の合計を認知度(情報入手数)とし、これと「富 士山噴火防災訓練参加意図」「富士山噴火防災マニュアル作成意図」とクロス分析した ところ、それぞれ相関関係にあった。富士山噴火関係の情報を得ている企業ほど、富士 山噴火対策に積極的であることがわかる。 「富士山噴火対策への積極度」と「企業規模」 「風評不安」「通常の地震防災対策」の関 係: 「企業規模」と「富士山噴火対策への積極度」の関連性(仮説2):資本金規模が大き いほど富士山噴火対策に積極的であり、また従業員規模が大きいほど富士山噴火対策に 積極的である。 「風評不安」と「富士山噴火対策への積極度」の関連性(仮説3):富士山噴火に関し て 56.1%( 「東海地震・富士山噴火、両方に関して不安である」 「富士山噴火に関して不 安である」の合計) 、東海地震に関して 67.2%( 「東海地震・富士山噴火、両方に関して 不安である」 「東海地震に関して不安である」の合計) 、の企業が不安があると答えた。 富士山噴火対策において、この風評不安と防災対策の積極度を分析すると、風評不安が ある企業ほど、富士山噴火対策に関して積極的である。 従来の防災対策(地震防災対策)と富士山噴火対策の関連(仮説4):元々防災対策に 積極的な企業ほど(地震対策に積極的な企業ほど)、富士山噴火対策に積極的であるこ とがわかる。 富士山噴火対策の促進・阻害要因: ・防災担当者が富士山噴火に関連する社会事象を認知している企業ほど、富士山噴火 防災対策に積極的である(富士山関連情報認知の富士山噴火防災対策への影響) (仮 説1) 。 ・富士山噴火によって自社の地域が「危険な土地であると思われ、自社の製品の供給 に不安を持たれたりするのが怖い」 (以下、富士山に関する風評への不安と略)と考 える企業ほど、富士山噴火防災対策に積極的である(風評不安の富士山噴火防災対 策への影響) (仮説2の逆) 。 ・企業規模が大きいほど、富士山噴火対策には積極的である(仮説3)。 ・元々防災対策に関心の高い企業ほど、富士山噴火対策には積極的である(仮説4) 富士山噴火の企業活動への影響: クリーンルームおよび製造工程上の問題:、「富士山噴火による大量の降灰が空気中に舞 っている」という異常な状況を想定して設計されているものではない。このような状況は、 予見されてもいないし、経験もない。クリーンルームが製造工程の上で重要な位置を占め る工場においては、このクリーンルームが機能しない場合は、企業の生産活動はストップ してしまう。 交通麻痺などによる企業活動への影響: 従業員の出勤の問題:そもそも、従業員の多くは自動車による出勤が多い。自動車が使用 できない場合は、従業員が出社できない場合も考えられる。もちろん、従業員の家屋が被 災している状況では出社は望めない。ある程度、落ちついた段階でも、どちらかといえば 仕事より家庭の方を優先せざるを得ないパート社員を多く抱える工場もあり、降灰および その完全除去までは、操業に影響がでると考えられる。 従業員の移動に関する問題:従業員が仮に出勤できたとしても、富士山噴火由来の降灰被 害によって、従業員が通常業務で使用するさまざまな交通手段が利用できない場合が考え られる。その場合は、商品の入荷・出荷や打ち合わせ・営業活動に多大な影響を与えると 思われる。 個別分野における影響: 医薬品・医療用品の不足:ソフトカプセル製造業者が、富士市、富士宮市地域で全国の 8割程度を生産しているので、多大な影響があると考えられる。また、大手医薬品等製 造 Y 社が位置するので、抗癌剤などある種の特定医薬品の供給ができなくなる可能性 がある。地域的には、医療用酸素の供給がストップする。 紙の不足:静岡県下には、製紙業が非常に多くある。富士市周辺には、紙パルプ業界の 大手2社の生産拠点をはじめ、衛生紙や白板紙等を生産する多くの中小メーカーが集積 している。また、島田市にも板紙(ダンボール原紙)業界大手の T 社が立地している。 なかでもトイレットペーパーと白板紙の全国シェアは 4 割を超えるなど、生産量は日本 一である。再生古紙を利用したトイレットペーパーは富士市だけで全国シェア 65%を占 めている。これらが製造不能、出荷が難しくなる可能性がある。 コピーのトナーの不足:ある大手、複写機メーカーの感光体、トナー(感光体、トナー、 マーキングユニット)の生産拠点が神奈川県西部にあり、コピー機の消耗品が不足する 可能性もある。 フィルムの不足:ある大手フィルムメーカーのフィルム製造拠点が位置しており、医療 用フィルム、カメラ用フィルムが不足する可能性がある。 他地域における商品製造のラインの停止:大手メーカーの製造部品を製造している企業、 大手メーカーの製造工場があり、特殊な部品を製造している企業がある。その場合、地 域に限定されず、その商品の生産ライン全体がストップする。 各企業において共通するシナリオ:中期的な影響として、①受注生産の場合、そもそも取 引先から発注されない可能性がある。また、②発注先企業と取引慣行がある場合でも、発 注企業側のリスク回避のため、噴火の後、発注数減、もしくは、発注自体がなされない可 能性がある。長期的な影響として、①発注企業の海外や他地域のメーカーへの受注シフト への懸念が挙げられる。②大手メーカーではない中小企業の場合、カンバン方式、長期的 取引慣行の崩壊による企業活動の停滞、停止への懸念がある。大手企業の製造拠点の場合 は、製造拠点の変更が挙げられる。 ⑤ 提言・結論 短期的な影響: ・従業員が出勤できないことにより生産活動の停滞。 ・原材料の入荷先企業の休業、交通マヒによる入荷不能、入荷遅延、在庫不足。 ・製造商品の出荷先企業の休業、交通マヒによる出荷不能、出荷遅延。 ・降灰の直接的影響として、クリーンルーム、そのほか生産ラインの機能不全。 ・品質低下や商品への灰・ちりの混入をさけるため生産・製造ラインの自主的判断による 停止。 中長期的な影響: ・受注生産の場合、そもそも発注されない可能性がある。 ・発注企業側のリスク回避のため、発注数減、もしくは、発注自体がなされない可能性が ある。 ・住宅関連商品、生活必需品以外の商品など災害の長期化により、需要が冷え込み、そも そも受注されない可能性がある。 長期的な影響: ・発注企業の海外や他地域のメーカーへの受注シフト。 ・カンバン方式、長期的取引慣行の崩壊による企業活動の停滞、停止(中小企業の場合)。 ・製造拠点の変更(大企業の場合) 。
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