3.寄席と落語

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随筆
ZUIHITSU
~
頃、金のかからない楽しみはもっぱらラジオ
であり、「音楽の泉」などでクラシック音楽を
聴き、一方では寄席や落語の番組を探しては
聴いて、笑って楽しんでいた。
理屈抜きで笑って楽しめればよいとはいっ
たものの、数多く聞いているうちにおのずか
ら自分の好みが生じてくる。当時よく聞いた
噺家では、文楽、志ん生、柳橋、円生、今輔、
0数 人 位 か と 思 う 。 中 で も ラ
歌笑・・…・など、 1
ジ オ で 聴 く 限 り で は 、 金 馬 (3代目)が声もよ
く通り、聴きやすく、一番好きであった。「居
酒屋」、「孝行糖」、「金明竹」、「やぷ入り J な
ど思い出す。
0年 代 末 頃 で あ っ た 。 先 輩 に 落 語 の 本
昭 和2
当の面白さは、ラジオから耳で聴くだけでは
だめで、寄席でナマの噺を聞かなければと誘
われて、はじめて寄席(新宿末広亭)へいった。
今までラジオなどでは聴いたことのない若手
の前座や二つ目をはじめ真打までの噺を聞き、
噺家の顔や目の表情、体、子、扇子、手拭な
どのしぐさ、噺家の踊り、ラジオでは聴けな
昨 夜 、 テ レ ビ の 「 思 い 出 の 名 人 芸Jて¥林家
い艶笑噺、ナマの噺を自で聞く面白さ、色物
正蔵(彦六)の「中村仲蔵」、三遊亭円生の「唐
も加えて高座と観客が一体となっての笑いの
茄子屋政談」が放映された。いずれも両名人
楽しさ、寄席のムードを満喫した。
の晩年の落語で、弟子による生前の師匠のエ
そ れ か ら の 30年 代 は 、 新 宿 末 広 亭 、 上 野 鈴
ピソードなども披露され、久し振りに名人芸
本、人形町末広、東宝演芸場、東急文化寄席、
を楽しむことができた。
東横落語、そのほかホール落語などへもとき
元来、寄席演芸が好きで、落語をはじめ漫
どき通うようになった口日寺聞をかけてじっく
才、漫談、曲芸、俗曲、手品、物真似など、
りと噺を聞くには寄席よりもホール落語、何
なんでも見たり聞いたりしている。なかでも
何名人会といった所がよかった口しかし、一
落語、古典落語が好きである口といっても、
方寄席の方は、ホールとは異なり、客席の設
別にその道の通でも、何々後援会に入る愛好
備も悪く、椅子席といっても板のベンチ程度
家でも、もちろん評論家でもない。ただ理屈
の も の で あ り 、 両 桟 敷 や 2階 で は 正 月 な ど は
抜きで演芸、落語を見て、聞いて、笑って、
満員でもギューギュー押し込められ通勤電車
楽しむ観客のひとりに過ぎない。
並みであった。それでも寄席独特のムードは
はじめて、落語とは面白いものだなと感じ
楽しかった。
た の は 、 中 学 3年頃(戦時中)ラジオで聴いた
その頃活躍した噺家は非常に多く、名人級
落語であったと思う。しかし、落語は面白い
では文楽、志ん生、円歌(先代)、円生、正蔵
ものだとの印象だけで、誰の、どんな噺であ
(彦六)、柳枝、小勝、小さん、小円朝、円蔵、
ったか言己憶:にない。
柳橋、小文治、柳好、今浦、三木助、可楽、
終戦前後の 2~3 年は、食糧難、生活に追
金馬(先代)などがづらりと並び、さらに若手
われラジオで落語を楽しむといった状況には
真打昇進組では三平、円楽、談志、馬生、志
なかったが、その後少し世の中も落ち着いた
ん朝、小南、円鏡など、まだまだ多勢おり、
ダクタイル鉄管
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雑 誌 「 落 語 界J の 表 現 を 借 り る と 、 締 羅 、 星
の如く、名人、上手が芸を競い、まさに落語
史上、昭和の黄金時代と表している。
その後、各家庭にもテレピを通し寄席ブー
昭和 5
8
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0 第3
5号
お休み、てのはいかがで
?J
「何だい、一日十五日はお休み、面白くも
なんともないじゃないか、からかっちゃいけ
ない」
ム、お笑いブームが到来し、スイッチを入れ
「いえ弱りましたなどうも、!弄風だからツ
るとどこかの局でお笑い番組をやっているよ
イタテ。そこでツイタテ十五日となるわけで
うになり、そのうちにやたらとギャグの連発
.
.
J
で、これでもか、これでもかと笑わせようと
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可です。ちっとも面白くない。ちゃんと
する番組が多くなり、テレビの番組も厳選し
やってくれなくちゃ困ります。あれ、庭のす
て視るようになった。
みからカニが出て来た、あれでやってわくれ J
また、寄席の方は客席もりっぱになり、観
客層もがらりと変わり、以前は大部分が男性
「あのうーと、ニワカニは酒落られません
ってのはどうでございましょう」
で、僅かに年輩の女性が混っている程度であ
「にわかに酒落られなければ、ゆっくりゃ
ったのが、半数位が女性で、しかも若い女性
ったらいいだろう?、なんだお前さんは名人
となり、場所によっては観光パスの団体がガ
だと聞いたが、ちっとも酒落られないじゃな
ヤガヤと出入りし、せっかくのムードを壊わ
し
ミ
カ
、J
されることもあった。
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亡がしく
そうこうしているうちに、イ士司王も '
年のせいか夜出かけるのも憶劫となり、また
こんなことでも困ったもので、大いに落語
でも聞いて頭の潤滑油にしてもらいたい。
おわりに、私の好きな円生が晩年に抱負を
前に並べた名人級のほとんどが故人となり、
語った中で、「もっと落語を勉強し、数を覚え
名人芸を聞くことができないこともあって、
たい口もっとうまくなりた PJ といったと聞
ここ数年は寄席もご無沙汰している。しかし
いている。ネタの多いことでは随ーといわれ
テレビの新人、若手の落語コンクールなどを
た名人が、まだまだ勉強したいという気持、
視ていると、若手が古典落語を熱演してわり
芸に対する執念には感銘を受けた。
これら若手の活躍で昭和第二の黄金時代の到
では、おあとがよろしいようで口
寺している。
来を其月 f
最近は、なき名人で、私の好きだった噺家
のレコードやカセットをぽつぽつと買い集め
先日も一番好きな円生の古典落語全集を入手
したばかりであり、休日に聴くのを楽しみに
している。
当世余りにも忙しく、ギスギスした社会で
は、家庭でも職場でも日常会話の中に、時に
はユーモアや酒落も必要と思う。
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、日新に、
ノ
「あのう番頭さんや、よくみんなで酒落を
いったとかどうしたとか、笑っていなさるよ
うだが、私はこの年になるまで、そういう結
構なものを聞いたことがなし」私の前でひと
つその酒落というものをやっておくれ、頼、み
ますよ J
r左 様 で す な 、 じ ゃ あ こ の 扉 風 で ひ と つ や
ってみましょう。えーと、ツイタテ十五日は