1 1 7 随筆 ZUIHITSU ~ 頃、金のかからない楽しみはもっぱらラジオ であり、「音楽の泉」などでクラシック音楽を 聴き、一方では寄席や落語の番組を探しては 聴いて、笑って楽しんでいた。 理屈抜きで笑って楽しめればよいとはいっ たものの、数多く聞いているうちにおのずか ら自分の好みが生じてくる。当時よく聞いた 噺家では、文楽、志ん生、柳橋、円生、今輔、 0数 人 位 か と 思 う 。 中 で も ラ 歌笑・・…・など、 1 ジ オ で 聴 く 限 り で は 、 金 馬 (3代目)が声もよ く通り、聴きやすく、一番好きであった。「居 酒屋」、「孝行糖」、「金明竹」、「やぷ入り J な ど思い出す。 0年 代 末 頃 で あ っ た 。 先 輩 に 落 語 の 本 昭 和2 当の面白さは、ラジオから耳で聴くだけでは だめで、寄席でナマの噺を聞かなければと誘 われて、はじめて寄席(新宿末広亭)へいった。 今までラジオなどでは聴いたことのない若手 の前座や二つ目をはじめ真打までの噺を聞き、 噺家の顔や目の表情、体、子、扇子、手拭な どのしぐさ、噺家の踊り、ラジオでは聴けな 昨 夜 、 テ レ ビ の 「 思 い 出 の 名 人 芸Jて¥林家 い艶笑噺、ナマの噺を自で聞く面白さ、色物 正蔵(彦六)の「中村仲蔵」、三遊亭円生の「唐 も加えて高座と観客が一体となっての笑いの 茄子屋政談」が放映された。いずれも両名人 楽しさ、寄席のムードを満喫した。 の晩年の落語で、弟子による生前の師匠のエ そ れ か ら の 30年 代 は 、 新 宿 末 広 亭 、 上 野 鈴 ピソードなども披露され、久し振りに名人芸 本、人形町末広、東宝演芸場、東急文化寄席、 を楽しむことができた。 東横落語、そのほかホール落語などへもとき 元来、寄席演芸が好きで、落語をはじめ漫 どき通うようになった口日寺聞をかけてじっく 才、漫談、曲芸、俗曲、手品、物真似など、 りと噺を聞くには寄席よりもホール落語、何 なんでも見たり聞いたりしている。なかでも 何名人会といった所がよかった口しかし、一 落語、古典落語が好きである口といっても、 方寄席の方は、ホールとは異なり、客席の設 別にその道の通でも、何々後援会に入る愛好 備も悪く、椅子席といっても板のベンチ程度 家でも、もちろん評論家でもない。ただ理屈 の も の で あ り 、 両 桟 敷 や 2階 で は 正 月 な ど は 抜きで演芸、落語を見て、聞いて、笑って、 満員でもギューギュー押し込められ通勤電車 楽しむ観客のひとりに過ぎない。 並みであった。それでも寄席独特のムードは はじめて、落語とは面白いものだなと感じ 楽しかった。 た の は 、 中 学 3年頃(戦時中)ラジオで聴いた その頃活躍した噺家は非常に多く、名人級 落語であったと思う。しかし、落語は面白い では文楽、志ん生、円歌(先代)、円生、正蔵 ものだとの印象だけで、誰の、どんな噺であ (彦六)、柳枝、小勝、小さん、小円朝、円蔵、 ったか言己憶:にない。 柳橋、小文治、柳好、今浦、三木助、可楽、 終戦前後の 2~3 年は、食糧難、生活に追 金馬(先代)などがづらりと並び、さらに若手 われラジオで落語を楽しむといった状況には 真打昇進組では三平、円楽、談志、馬生、志 なかったが、その後少し世の中も落ち着いた ん朝、小南、円鏡など、まだまだ多勢おり、 ダクタイル鉄管 1 1 8 雑 誌 「 落 語 界J の 表 現 を 借 り る と 、 締 羅 、 星 の如く、名人、上手が芸を競い、まさに落語 史上、昭和の黄金時代と表している。 その後、各家庭にもテレピを通し寄席ブー 昭和 5 8 .1 0 第3 5号 お休み、てのはいかがで ?J 「何だい、一日十五日はお休み、面白くも なんともないじゃないか、からかっちゃいけ ない」 ム、お笑いブームが到来し、スイッチを入れ 「いえ弱りましたなどうも、!弄風だからツ るとどこかの局でお笑い番組をやっているよ イタテ。そこでツイタテ十五日となるわけで うになり、そのうちにやたらとギャグの連発 . . J で、これでもか、これでもかと笑わせようと 1 1 可です。ちっとも面白くない。ちゃんと する番組が多くなり、テレビの番組も厳選し やってくれなくちゃ困ります。あれ、庭のす て視るようになった。 みからカニが出て来た、あれでやってわくれ J また、寄席の方は客席もりっぱになり、観 客層もがらりと変わり、以前は大部分が男性 「あのうーと、ニワカニは酒落られません ってのはどうでございましょう」 で、僅かに年輩の女性が混っている程度であ 「にわかに酒落られなければ、ゆっくりゃ ったのが、半数位が女性で、しかも若い女性 ったらいいだろう?、なんだお前さんは名人 となり、場所によっては観光パスの団体がガ だと聞いたが、ちっとも酒落られないじゃな ヤガヤと出入りし、せっかくのムードを壊わ し ミ カ 、J されることもあった。 1 亡がしく そうこうしているうちに、イ士司王も ' 年のせいか夜出かけるのも憶劫となり、また こんなことでも困ったもので、大いに落語 でも聞いて頭の潤滑油にしてもらいたい。 おわりに、私の好きな円生が晩年に抱負を 前に並べた名人級のほとんどが故人となり、 語った中で、「もっと落語を勉強し、数を覚え 名人芸を聞くことができないこともあって、 たい口もっとうまくなりた PJ といったと聞 ここ数年は寄席もご無沙汰している。しかし いている。ネタの多いことでは随ーといわれ テレビの新人、若手の落語コンクールなどを た名人が、まだまだ勉強したいという気持、 視ていると、若手が古典落語を熱演してわり 芸に対する執念には感銘を受けた。 これら若手の活躍で昭和第二の黄金時代の到 では、おあとがよろしいようで口 寺している。 来を其月 f 最近は、なき名人で、私の好きだった噺家 のレコードやカセットをぽつぽつと買い集め 先日も一番好きな円生の古典落語全集を入手 したばかりであり、休日に聴くのを楽しみに している。 当世余りにも忙しく、ギスギスした社会で は、家庭でも職場でも日常会話の中に、時に はユーモアや酒落も必要と思う。 j 、日新に、 ノ 「あのう番頭さんや、よくみんなで酒落を いったとかどうしたとか、笑っていなさるよ うだが、私はこの年になるまで、そういう結 構なものを聞いたことがなし」私の前でひと つその酒落というものをやっておくれ、頼、み ますよ J r左 様 で す な 、 じ ゃ あ こ の 扉 風 で ひ と つ や ってみましょう。えーと、ツイタテ十五日は
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