感染対策ネットワーク 第1回 学術集会 2015年11月15日'日(10:40~11:00 血液・体液曝露防止と 発生時対応 独立行政法人 地域医療機能推進機構 Japan Community Health care Organization : JCHO 下関医療センター Shimonoseki Medical Center 感染管理認定看護師 坪根淑恵 内容 1. 職業感染,職業曝露とは 2.血液・体液曝露について 1(現状 2(予防策と曝露後の対応 3.HBVワクチン接種について 何と呼んでいますか? 針刺し事故 針刺し 針刺し損傷 事故 ・・・避けることができない出来事 針刺し・・・安全器具などを用いれば避けることができる 職業感染・職業曝露とは • 一般に医療従事者が業務中に様々な感染症に 罹患した場合を「職業感染」という. • 特に血液体液曝露に関しては,個人の不注意の 問題になりがちであるが,組織の問題でもあり, その施設が患者だけでなく,医療従事者へも 安全な環境を提供する義務がある. • Accident'事故(ではなく incident'出来事( 治療を行う医療従事者が 被災者になる 針刺しは「災害」です 針刺しは「不注意」や「過失」が原因ではなく, 予防措置を講じなかったために発生した 医療現場の「労働災害」です. 公務災害・労働災害補償の対象 受傷した瞬間から,職員は「被害者」であると 同時に「患者」になる. 日本環境感染学会 感染制御インストラクターコース 吉川徹先生 スライドより引用 職員の安全健康確保は 事業主の責務です 1999年3月 大阪地裁判決 1994年4月,採用後18日目の新人看護師'21歳(が 血ガス測定の際,自分の指を刺してHCV肝炎に 原告主張:安全配慮義務違反 ・針刺し防止の遵守事項の説明なし ・患者がC型肝炎であると説明なし ・針刺し後の処置方法について説明なし 民事訴訟 病院主張:針刺しは本人の過失 判決要旨:病院の安全配慮義務違反は明確 原告看護師に対する損害賠償として2,742万1614円を認定した. '逸失利益:2046万8461円,慰謝料1000万円,計3046万8461円から10%の過失相殺( 木戸内清:医学・医療における安全衛生.医事新報.3954:47-61.2000. 針刺し・切創の現状 受傷者の職種 • 圧倒的に看護師、医師が多い. • 看護師は50%,医師は36% • 業務員は増加傾向 発生場所 • 病室・手術室で30% • 病室・病室外の発生割合は減少 • 手術室は増加 JES2011.職業感染制御研究会HP'http://jrgoicp.umin.ac.jp/(より引用 針刺し・切創の現状 発生状況 • 使用中は28% • リキャップによる受傷の割合は 10%以下に下がった. 原因器材 • 翼状針による針刺しは減少 • 縫合針の割合が減少傾向に転じる • 薬剤充填針は増加傾向 JES2011.職業感染制御研究会HP'http://jrgoicp.umin.ac.jp/(より引用 C型肝炎の感染原因 感染経路別割合'1999年~2009年( 35% 国立感染症研究所 感染症情報センター IDWR 2011年第21号「速報」より掲載 http://idsc.nih.go.jp/disease/hepatitisC/2011week21.html 院内感染防止に関する 厚生労働省通達 平成17年2月1日厚生労働省医政局指導課長通知 平成19年,23年もあり 院内感染防止に関する 厚生労働省通達 厚生労働省医政局指導課長 「医療施設における院内感染の防止について」 注射針使用の際,針刺しに よる医療従事者への感染を 防止するため,使用済みの 感染制御の組織化 標準予防策と感染経路別予防策等 注射針に再びキャップする 空気予防策,飛沫予防策,接触予防策 いわゆる「リキャップ」を原則 手洗い及び手指消毒 として禁止し,注射針専用の 職業感染防止 廃棄容器などを適切に配置 環境整備と環境微生物調査 医療器材,医療機器等の洗浄,消毒,滅菌 するとともに,診療状況等 必要に応じて,針刺しの防止 手術と感染防止 新生児集中治療部門での対応 に配慮した安全器材の活用 感染性廃棄物の処理など を検討するなど,医療従事者 などを対象とした適切な感染 予防対策を講じること. 標準予防策の実践 血液,体液は感染性のあるものとして,これらに 接触する可能性があるときには個人防護具を 使用する. 針を取り扱う際は 手袋をつける 血液や体液が飛散する可能性が ある場合は、ゴーグルを着用する 安全な廃棄システムの整備 • 安全にデザインされた針廃棄容器の設置 -耐貫通性 -液漏れしない -蓋付き -器材の廃棄に適した口径 • 使用後すぐに廃棄できる環境の整備 安全機能付き器材の使用 • 用途に応じた安全機能付き器材を使用する. • 正しく作動させるための訓練を行う. • 針や鋭利器材,ガラス製品はほかに代替品に なるものがあれば切り替える方向で検討する. 安全装置を正しく作動させることが重要! 安全器材は,鋭利器材である以上,あくまで「針刺し損傷リスクを 減ずるものである」という認識が必要である. 作業手順における予防策 • リキャップしない. • 鋭利器材取り扱い時の基本的な注意を守る. -作業環境の整備 -器材を持ったまま他の作業をしない • 不要な針をなくす • リキャップをしなくてよい環境 -充分な数の廃棄容器を設置 • したくてもできない器材 -安全装置付き など 片手リキャップ法 当院での使用例 <廃棄容器> 回診車 採血,点滴時 採血室 職業感染研究会HP 日本環境感染学会HP 教育動画あり,研修会などで使用できます. 職業感染研究会HPから ダウンロードできます. 日本臨床検査 標準協議会 針刺し切創を防止し,医療従事者が 健康を守るために作成されたマニュアル 血液媒介病原体別の 感染経路と感染確率 感染源 B型肝炎 ウイルス C型肝炎 ウイルス HIV AIDS 針刺し損傷による 伝播リスク 粘膜 損傷皮膚 咬傷 ◎ ○ 50回に1回 1.8%'1-7%( ○ △ 300回に1回 0.3%'0.2‐0.5%( ○ △ 30回に1回 6-30% HBe抗原'+(22-31% Hbe抗原'-(1-6% 発生時の対応 • 曝露部位を多量の流水と石けんで洗浄する. -血液の絞り出しや曝露部位への消毒は有効性が 証明されていない. -目や口は粘膜なので何度も洗う. • 速やかに責任者に連絡をとる. -いつ,どこで,どのような状況で • 曝露源の感染症を検査 HBV汚染血液曝露後予防 曝露者の 免疫状態 曝露源患者のHBs抗原の有無別の曝露後感染予防策 陽性'+( 陰性'―( 不明 HBV感染歴あり 無処置 無処置 無処置 ワクチン 未接種 HBVワクチン1コース かつHBIGを1回 HBVワクチン 1コース HBVワクチン 1コース HBs抗体 基準以上 無処置 無処置 無処置 HBs抗体 基準未満 HBVワクチン1回追加かつ HBIGを1回 無処置 HBVワクチン 1回追加 HBs抗体 無反応者 HBVワクチン1コースかつ HBIGまたはHBIG2倍量 無処置 リスクが高ければHBs 抗原'+(と同じ処置 ワ ク チ ン 接 種 歴 あ り • • • • 曝露後感染予防はできるだけすみやかに,可能ならば24時間以内に実施する. 1コース=0,1,6ヶ月後の計3回接種 HBIG=抗HBs人免疫グロブリン「日赤」1バイアル'1000単位,5mL(を筋注 基準は各施設で使用する抗体測定系により異なる. HCV汚染血曝露後 検査スケジュール 対象 患者 曝露した 医療従事者 HCV-RNA 時期 HCV抗体 肝機能検査 直後 ○ 抗体'+(なら推奨 不要 直後 ○ 抗体'+(なら推奨 ○ 4~6週 推奨 推奨 推奨 4~6ヶ月 ○ ○ ○ • 受傷早期のガンマグロブリン製剤やインターフェロン投与は 有効性がなく,実施しない. • HCV感染予防の重要な対策は,HCV急性肝炎の際に適切に インターフェロン療法を実施して,慢性化を阻止することである. • HCV急性肝炎は自覚症状に乏しく,感染・発症したことに気付か ないまま慢性化することがあるので必ず6ヶ月フォローを実施する. HIV汚染血液曝露時の対応 血液・体液曝露事例発生 曝露した部位を流水で洗い流す 感染管理・産業医等へ報告 予防内服に関する指示を仰ぐ 曝露レベルから危険性を評価 部位,曝露量,傷の深さ, 原因器材,発生状況など 対象となった患者の感染性を 評価,上記の危険性を考慮し, 具体的な対応を決定 参照:国立国際医療研究センター www.acc.go.jp/accmenu.htm 曝露の種類,患者の感染状況に 応じてできる限り早く'2時間以内( に曝露後予防内服を開始する. 院内で対応が出来にくい場合は, 連携病院を決め,連絡調整を行って おく'エイズ拠点病院など(. HBVワクチン • 医療機関では,患者や患者の血液・体液に 接する可能性のある場合は,B型肝炎に対して 感受性のあるすべての医療関係者に対して B型肝炎ワクチン接種を実施しなければならない. • ワクチンは0,1,6ヶ月後の3回接種'1シリーズ(を 行う. • 3回目の接種終了後から1か月以上のちにHBs 抗体検査を行い,ワクチンの効果を評価する. 日本環境感染学会 院内感染対策としてのワクチンガイドライン HBVワクチン • 1回のシリーズで抗体陽性とならなかった医療 関係者に対してはもう1シリーズのワクチン接種 を考慮する. -3回接種しても抗体ができない'免疫反応不応答者( 頻度は,成人で約10% • ワクチン接種シリーズ後の抗体検査でHBs抗体 陽性が確認された場合は,現時点ではその後の 抗体検査や追加のワクチン接種は必須ではない 日本環境感染学会 院内感染対策としてのワクチンガイドライン 1コース3回接種になっているが, 2回の接種で抗体が陽性になった. 3回目の接種は省略してよいか? × はじめてB型肝炎ワクチンを接種される場合は通常2回の 接種では,抗体の上がり方が3回に比べて十分とはいえず, 抗体の持続が望めない. 3回目の接種によるブースター効果で抗体が急激に上昇 するので,医療関係者,海外長期滞在者など,長期に わたって抗体や予防効果を持続させる必要にある方は 必ず3回の接種を勧める. 予防接種に関するQ&A集 日本ワクチン産業協会 接種するのを忘れた場合は? 接種を開始する • 2回目を忘れた 可能な限りすぐに接種する.2回目接種が遅れた場合で あっても,3回目の接種は2回目から少なくとも2カ月の 期間をあける. • 3回目を忘れた 可能になったときに接種する. 一度抗体がついたのに消えた. 追加接種したほうがいい? 考え方が2通りあり→各施設で基準を作る ✓ 追加接種を推奨 抗体陰性になった場合はすみやかに1回追加接種する ことでブースター効果により抗体が上昇し,さらに数年間 免疫が維持できる. ✓ 追加接種は不要 一旦抗体を獲得した場合は,その後B型肝炎ウイルスに 曝露しても顕性の急性B型肝炎の発症はない. 抗体価低下に伴うワクチンの追加接種は必須とはしない 予防接種に関するQ&A集 日本ワクチン産業協会 針刺し対策ポイント まとめ • 標準予防策を実践 -個人防護具 -十分な数の廃棄容器の設置,持参 -安全装置つき医療器材の利用 -リキャップ禁止 • • • • 継続的な教育・研修の実施 恐れずに報告できる風土としくみ 曝露時の対策を整備 B型肝炎ワクチン接種は全員に
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