私はこうしてゼロから地域一番店になった

私は、こうして札幌で0から地域一番店になった
~私が体得した売買仲介業の経営ノウハウ~
セミナー講義録
講 師:副都心住宅販売株式会社 代表取締役 藤
本
隆
日 時:平成 14 年(2002 年)3 月 6 日(水)10 時から 16 時 30 分
会 場:中央大学駿河台記念館2階275号室
東京都千代田区神田駿河台 3-11-5
※本原稿は、上記セミナーの講師の許諾を得て株式企画環境企画がセミナーの録音テープをもとに講演内容を原
稿化して、配列をしなおすなど整理したものです。
主催 不動産ブレーンバンク株式会社
企画・運営 株式会社環境企画
1
1 不動産売買仲介業の原点確認と経営戦略
1-1 原点確認
不動産業では大手不動産会社も中小零細不動産会社も、同じ案件を扱っている。現在はオープンマーケットの
時代である。あそこに行けば物件がたくさんあって、こちらにはないという状況ではなくなっている。情報は公
開しなければならない。そのような状況下でどんな戦略を展開すればよいか。
◆買主は物件を選ぶ、売主は会社を選ぶ
売買仲介業には2種類のお客様がいる。売主と買主である。この両者は考えることが違う。売主は何を考える
のか、買主は何を考えるのかということを考えなくてはならない。
買主の場合は、答えは 1 つしかない。どんな物件を買おうかと考える。マンションを買おうか、中古を買おう
か、新築を買おうかと考える。
売主は、何を売ろうかと考えることはない。一般的には1物件しか持っていない場合が多いし、多数持ってい
たとしてもどれを売るかは決まっている。売主の考えることは、
「どの会社に売ってもらおうか」ということであ
る。このことを忘れていることが多い。
「あの会社に頼んだら上手に売ってくれる。信頼できる」という会社には物件が集まる。買主は会社ではなく
て物件を選ぶのだから、物件が集まるということは買主が集まるということである。
「売主に選ばれる会社にな
る」というのが、不動産売買仲介業の原点である。
◆不動産仲介業とは
不動産仲介業は仕入れ不自由業である。どこかに注文すれば商品がそろうわけではない。不動産仲介業界には
メーカーや問屋がない。したがって、
「売主から選ばれる会社になる」
、すなわち、売主を押えて「仕入れ自由業」
に転換していくことが最大の戦略となる。
このために時間がかかる。このために長期の戦略が必要になる。
「○年後に仕入れ自由業にする」という明確な
意思と戦略的な発想が必要である。
1-2 経営戦略の策定
不動産仲介業では「経営計画書」を作成していない会社が多い。一般的にいってこの業界は「戦略」とか、
「経
営計画」ということとはあまり縁がなかった。一般の会社では年度の初めに経営計画を策定することは当たり前
のことである。
1-2-1 経営計画書
(1)経営計画策定の基本
◆経営計画書の重要性
経営計画を作成しない人の中には「どうせ作っても計画通りにならないから」と言う人が多い。
「では、計画を
しなかったらどうなるのか。一生それでいいのか」と考えてみたことはあるだろうか。
計画を立てて、未達の原因を究明して、対策をすることによって進歩する。経営計画立案の最大の目的は、達
成できないときに失敗事例を残し、原因を究明することである。
戦略や経営計画書がないということは、船が港を出航しようとするのに行き先が明確でないということと同じ
である。この場合の“羅針盤”にあたるのが財務諸表である。月次決算を行って、経営計画書と照らし合わせて、
何が遅れているのかという会社の状態を把握すべきである。財務諸表の見方をもう一度勉強していただきたい。
2
◆戦略的発想の重要性
同じことをしたら、同じ結果しか生まれない。このことはほとんどの人が経験済みである。このことをよく知
っているにもかかわらず、同じことをしている会社が多い。
「今年はこうやる。今月はこうやる。明日はこうやる」
というようにしていくためには、戦略的な発想が必要である。戦略的な発想がないと連続しない。
(2)経営計画策定の方法
経営計画書の作成方法は市販の単行本がたくさん出版されているので参考にしていただきたい。ポイントはそ
の中から一番簡単なものを購入することである。経営計画策定のポイントを以下に掲げる。
・発想して、仮説を立てる。
「こうすればこうなる」という仮説を立ててみる。いわば思いつき、アイデアである。絵に描いた餅がどれだ
け描けるかが大事である。これがないと同じことになってしまうケースが多い。誰かが行ったこと、どこかの会
社が行ったこと、もしくは思いついたことを仮説として、自分の会社だったらどうなるだろうかと考える。
・実行してみる。
・分析する。
大事なことは分析である。実行したら、分析して、また発想に戻る。この PLAN-DO-CHEKE のサイクルを回す
ことが大事である。このサイクルを回すことを習慣づけた会社は、だんだん良くなっている。この回転ができる
会社は同じことをしない。どうして計画通りに行わなかったか、何が原因なのか、あるいは怠けていたからなの
かと分析して、対策を立てて、それを実行して、また分析していく。ミーティングはこのために行う。このよう
なことをしっかりと行う会社の風土づくりが大事である。
1-2-2 経営戦略策定
(1)戦略とは何か
◆戦略とは段階である
戦略は利益を出すための源泉であるが、
内容的には段階的なものである。
一度に利益を出すことはできないし、
また、小さな利益にしかならない。大きな利益を出すためには段階を踏む必要がある。
「5年間でこうしよう、
10 年経ったらこうなっている」という段階を踏むことで成長していくし、またそれが励みになる。
◆基本戦略はランチェスター戦略
地域戦略を展開するためにはランチェスター戦略が欠かせない。田岡よしこ著「ランチェスター戦略」が読み
やすい。
「ランチェスター戦略」全 6 巻を読むと、こういうときはこうすればよいというイメージがつかめる。
要するに勝ち方が分かる。
ランチェスター戦略の基本は、
「10 対 1 で戦うとき、同じ武器で同じ戦闘力だったら、絶対に 10 のほうが勝
つ」というごく当たり前のことがベースになっている。財閥系のM社やS社を相手に同じ土俵で戦っても普通な
ら負けてしまう。負けないようにするにはどうしたらよいか、そのようなことについてヒントを与えてくれるの
がランチェスター戦略である。
ランチェスター戦略のポイントを以下に掲げる。
①集中の原則
広範囲に分散しない。戦力・投資は分散しない。戦力・投資は随時投入するのではなくて一気に投入する。
15 隻、20 隻の船を相手に1隻で戦えば必ず負ける。しかし、1対1であれば勝つか負けるか分からない。中小
企業が大企業と戦うには局地攻めが必要である。一騎打ちを行うしかない。
②弱者の戦略
しかし、強者との戦いは避けなければならない。すなわち、隙間を狙う。大手の出てこない地域で戦う。
③ナンバーワン戦略
ある地区で戦ったらナンバーワンになるまでは、次の地区へは移らない。
日本一高い山は富士山ということは誰でも知っているが、では2番目に高い山はご存じだろうか。2番目、3
番目は分からないものである。一番にならなければ差別化はできない。売り主から選ばれる会社、ナンバーワン
にならなければならない受託占有率は 20%を超えたところが目安でなかろうか。ただし、それ以上の同業者がい
る場合は除くが、他社が 20%、30%を占有している地区を攻めるのは弱者の戦略ではない。
3
④差別化戦略
・他社との差別化を図る。
売り主は会社を選ぶと前述したが、選ばれて当然という会社になるには差別化をしなければならない。このた
めに選ばれる原因を創出する。原因とは他社との差別化、他社との違いである。しかも、その差別化が自己満足
ではいけない。他人から見ての差別化でなければならない。
・他社にないもの、他社がやっていないことを創造する。
「売買に強い会社はあるが賃貸に強い会社はないから賃貸をリンクさせた新たな方法を考えよう」
「他社はオー
プンハウスをやっていないからやろう」というように新しいことを行わなければ差別化にはならない。しかし、
これが難しい。なかなか考えつかない。そこで、他地区や他業種も参考にする。
・質で勝ち、量で勝つ。
例えば、チラシでいえば、他社が月1回やっているならば、自社は2回やって、まず量で勝つ。そしてそのチ
ラシの内容も印刷も他社より優れた差別化されたものにし、いつもワンパターンでなく、自社がどんなことを考
え、どんなサービスができるかを告知し、質で勝つということである。チラシ以外に量と質で勝つものはいくら
でもある。例えば、営業マンがお客様のところにいって使うセールスツール、セールストーク、または看板類、
オープンハウスの開催のやり方、開催数その他いくらでもある。これらの差別化を図りつつ質、量で勝つことが
ナンバーワンに一歩一歩近づく道である。
・エリアを絞ることにより売り主や買い主が想像できる。
量、質で他社より上回るにはお金がかかる。また、ノウハウや執着心を持つパワーが必要になってくる。ラン
チェスターの法則から集中の原則を利用し、地域(エリア)を絞ることによって目的の達成が加速度的に早まっ
てくる。
例えば、
その地区で選ばれる会社になるために知名度を上げるためにエリアを絞ることで広告費を削減できる。
他社が広い範囲でやっているならば、エリアを絞り込めば、自社の予算の中で量と質が勝つわけである。チラシ
でいうと、他社が1万部のチラシを月1回1万世帯に入れていると仮定したら、自社は3千世帯に月3回入れる
ということである。エリアを絞ることにより、
「あそこの家に知ってもらいたいから訪ねよう。あの会社に覚えて
もらいたいから会社名の入ったジャンバーを着てその近くを掃除しよう」ということになる。
・局地域は戦術が立てやすい。
エリアが狭いほど、
「こうやってきたらこう攻めよう、こう守ろう」という戦術が考えやすくなる。いろいろな
ことが見えてくる。建物が古い地区、マンションが多い地域、交通の便が良い悪いなど、見えてくるものが数多
くなる。そこで、差別化と集中の原則を使い、それぞれの地区にあった戦術プランを描いていくわけである。地
域に特化した専門化することにより、他社と差別化し、一点に絞り込むことでそれをどうやって売るかが分かっ
てくる。
(2)外部要因と内部要因
◆一般的な戦略策定の要因
戦略を考えるにあたっては外部要因と内部要因を考えなければならない。
外部要因とは市場の動向、
経済状況、
地域の状況、ライバルの状況などである。また、自社が地域密着戦略を展開しようと考えたら、ライバル会社は
どの地域で、どのくらいのパワーを持っているのか、どのようなノウハウがあるのかということを調査しなけれ
ばならない。
内部要因とは、会社の内情である。自社にはどういう戦力、あるいは問題があるのか、モチベーションはどう
なのか。これから入社してくる人間についても考えなくてはならない。すなわち、過去と将来について考える。
「これまではこうだった、これからはこうしたい」と考える。
「定着率がよいから、平均年齢が毎年 1 歳ずつ上
がっていく」というようなことも考えなければならない。
◆戦略策定の3要因
具体的には、ここでは以下の3要素で考えたほうがよい。
・自社の置かれた環境(体質・体制・規模)
・他社
・市場
現在、戦力となる営業社員は何名いて、地区戦略に投入できるのは何人なのか、社員を育てる能力、ノウハウ
はあるか、資本的な余裕はどのくらいあるか-と自社の環境を分析し、地区戦略を行ううえでライバルとなる会
4
社の動向はどうか、市場的にビジネスになるのかの3要素を考慮する。
(3)順番と場面
仮説を立てて計画を策定するときに大事なことは「場面」と「順番」である。場面が見えないものはイメージ
できないから計画できない。
「こうしたらこうなる」という場面が見えないと、本当に絵に描いた餅だけになって
しまう。10 階まで登るのにエレベータで一気に上がるわけにはいかない。
「1階から2階に上がったら一服して
3階に上がって、4階でジュースを飲んで」というようにその場面が見えることと、その順番が必要である。ど
のようにして頂点すなわち理想に到達するのか、その過程にどういう場面があるのかを考えなければならない。
外部要因と内部要因、過去と将来を考えて、しかもそれをランチェスター戦略に従い考えてみる。
(4)心構え
、、、、
「必ずやれる」という信念と、
「途中では必ず失敗するだろう」という心構えが必要である。いろいろなことを
してきたが、本当に失敗に終わったのは1つだけで、後は成功している。しかし、その過程は失敗の連続である。
あまりにも失敗が連続したために出社拒否症に陥ったこともある。しかし、どういうわけかまた始めて、結局、
行ったことのほとんどが成功したから、読み違いはなかったということである。
1-2-3 売買仲介業における戦略
(1)地域戦略
最初に行った戦略は「地域戦略」である。この戦略の中味は、前述した「ナンバーワン戦略」である。小さな
ナンバーワンを作って行き、点から線、線から面にして、それをつなぐとナンバー1 になるという手法である。
30 万~50 万人都市ならば2、3年でナンバーワンになれるだろう。
(2)チャンネル戦略
情報をキャッチする機会を多くする戦略である。提携戦略といってもよいだろう。具体的には、いろいろな関
係者(社)との間にパイプを築き、このパイプを太くしていく。その中には競合会社との提携ということもある。
弁護士ルート、税理士ルート、ハウスメーカールート、分譲マンション会社ルート、工務店ルート、金融機関ル
ートなどある。
(3)商品戦略
基本は前述した集中の原則である。具体的には扱う商品の絞り込みである。扱うというより磨いていく商品の
絞り込みである。
◆商品の絞り込みの重要性
中古マンション、中古戸建て、団地、大規模土地、30~40 坪の小さな土地など売却する商品を選択する。これ
も上記の3要素をあてはめ、尐人数であれば単一商品で考える。ただし、将来的に考えれば市場は動くので、マ
ンションが売れる、高額商品が売れる年など色々と変化する。短期間でのリスクを避けたい会社は、複合する地
区(いろいろな種類の物件が混在する地区)を選ぶことをお勧めする。しかし、集中の原則からいえば、この地
区のマンションのナンバーワンとか戸建てナンバーワンをつくってから、複合化したほうがナンバーワンづくり
には早道といえる。
(4)総合(複合、相乗)戦略
賃貸仲介・管理、リフォームなど複合した商品を提供する戦略である。売主は会社を選ぶと前述したが、選ば
れて当然という会社になるには差別化をしなければならない。
何のために多角化していくかというと、選ばれるため、差別化するためである。ところが、無目的にあれもこ
れもと行っている会社が多い。戦略の基本は選ばれるための差別化である。したがって、特徴が重要である。例
えば、1人しかいない会社で、
「賃貸も注文住宅もあれもこれもします」という会社は信用できるだろうか。選ば
れないだろう。百貨店方式は流行しない。問題はどれを強くすればよいかが分からないことである。選ばれるた
めには、幹を1つ築かなければならない。
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1-3 地域戦略の具体的展開
1-3-1 地域戦略の展開方法
戦略の展開にあたって重要なことは、数値を固めていくということである。エリアと商品(マンション、一戸
建てなど)の選定が一番のポイントになる。
(1)売り主に選ばれる会社とは
◆戦略と戦術
戦略とはある大きな目標や計画に対する方向づけであり、この戦略をこういう方法で効率的・効果的にやろう
というのが、ここでは戦術と位置づける。
「売り主は会社で選ぶ」
「買い主は物件を選ぶ」と前述した。したがって、売り主に選ばれる会社にならなけれ
ばならない。売り物件が出れば、買主は物件を選ぶのだから買主はついてくる。買主を見つけても物件は見つか
らない。物件を見つけるから買主が見つかる。にもかかわらず、このことに気づいているようでいて気づいてい
ない会社が多い。売主に他社を選ぶのではなく、自社を選んでもらわなくてはならない。では、売主はどういう
会社を選ぶのか。主な理由を以下に挙げる。
①安心でき信頼できる会社
②親しみやすい会社
敶居が高いとだめである。
③早く売ってくれる会社
スピードがあるというイメージがなければならない。
④高い価格で売ってくれる会社
これは両刃の刃である。買主は安く売ってくれる会社でないとだめだから大変に微妙である。あまり高い査定
をするように広告に書くと買主がついてこなくなる。
⑤自宅から近い会社
(2)売主に好かれるための差別化
差別化で一番効果があるのは「○○専門」という訴え方である。会社も「○○専門」であれば、営業マン1人
ひとりも「○○専門」である。
これまでの不動産会社は、当たったところが的であった。偶然に当たったのが的ではなく、的をしっかりと作
るというのが戦略である。
「この地域の何千世帯」と的を決める。営業マンも「この家とこの家とこの家を売ると
きは絶対に逃すな」と言えば、方法が見えてくる。訪問や DM など、いろいろな方法が見えてくる。
「札幌中が
担当」と言われても戦術レベルでは何も出てこない。
エリアを小さくすれば小さくするほど営業マンにはやり方が見えてくる。世帯数は地域によって異なるが、そ
のエリアだけを扱わせるということは、その地域だけ、その地域の商品だけ覚えればよい。すなわち、会社も個
人も専業特化である。対象地域には「現在、この物件とこの物件がいくらで売りに出ています。私はこの家とあ
の家を売りました」と言えるようにする。
「世界広しといえども、そこを専門に扱っているのは私しかいない」と
いうことである。査定でも、買いでも売りでも、このことは通用する。入社後3、4カ月すれば、その地域では
もうナンバー1である。地域を絞ることで素人でも短期間で戦力化が可能になる。
ターゲットとするエリア選定は何よりも重要である。変な地域を選んでしまったら大変である。一度選んだら
やり続けないともったいない。だからエリアは慎重に選ばなくてはならない。
(3)地域戦略展開の具体的手順
①エリアの選定
“おいしい”地区から始める。まず、
「たな卸表」
(地区の売り物件の一覧表=後掲)でチェックする。最小の
経費で最大の効果が上がる地区をマーケティングする。
②商品の選定
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土地か戸建てかマンションか、新築か中古かを決める。
③差別化戦略立案
普通の商品では「当社の商品はこんなに軽いとか多機能である」と差別化するが、このような商品をつくるに
は時間がかかるし他社にすぐに真似される。しかし、われわれサービス業の場合はさほど難しくない。地域ナン
バーワン(小さな地区から)を目指すことである。
差別化戦略をキャッチコピーで表現することは大事である。会社の名前を覚えてもらうときに、何をしている
会社でどういうサービスを受けられるのかを分かってもらうことによって、選ばれる会社になるのである。
④セールスツール・告知ツールの準備
差別化戦略を広く知らしめる戦術が効を奏して集客に結び付くのである。
(4)地域戦略の展開方法
①差別化の戦術
会社の名前を覚えてもらうことが大前提である。会社の名前を顧客が知っていなければ連絡のしようがない。
名前を覚えてもらうために駅前に出店しているのである。会社の名前を知っていただき、他社と差別化した印象
をもってもらわなければならない。
当社の場合、
「○○地区専門」
の不動産会社というキャッチコピーで他社と差別化したナンバーワン戦略を推進
した。すなわち、
「『○○地区専門』だから安心できるよ。
『○○地区専門』だから親しみやすいでしょう。
『○○
地区専門』だから早く売れるよ。
『○○地区専門』だから高く売れるよ。
『○○地区専門』だから会社が近くにあ
るんだよ」というわけである。
エリア絞り込みの最大のメリットは前述したように営業マンの仕事がしやすくなるということである。
「あな
たはこのマンションとあのマンションだけをやればよい」
というスタイルなので営業マンが育ちやすい。
「札幌中
やれ」というのでは営業マンは手をつけられない。いわばその地区のプロ中のプロをつくるのである。
②告知戦術
差別化した会社を顧客に認知してもらうために、どのようなものを使って、どのような方法でアクションを起
こしたらよいのか。ここでは集中の原則と相乗効果を狙って関連部署との連動・メディアミックスで考える。
いろいろなかたちでミックスしながら告知する。すなわち、賃貸が出たら売買もちらりと入れる。駐車場に看
板が上がっていたら、賃貸も売買も入れる。ただし、集中の原則を意識していなくては玉虫色になって分からな
くなってしまう。この点は感性の問題なので難しい。集中の原則と相乗効果は相反するものなので注意が必要で
ある。
小さなエリアに向いている媒体と大きなエリアに向いている媒体(マスメディア)がある。小さなエリア(3
千から1万世帯)に適している媒体を以下に挙げる。
・チラシ(宅配、新聞折り込み)
・ダイレクトメール
・口コミ(紹介)
・電話、ファクシミリ
・看板
・訪問
エリアには小中大とあるが、小を束ねると中になる。最初から中だ大だと考えないで、小をまとめて中にして
いくという考え方がよい。大きな市場ばかり狙っていると、いつまでたっても市場を制圧できない。ナンバーワ
ンになれない。
「集中の原則」を守りながら計画的、波状的にメディアミックスしながら「差別化した会社」を売っていく。
「物件を売る」のではなく「会社を売る」のである。不動産業は仕入れ不自由業であると前述したが、仕入れ不
自由業から脱することのできる会社がナンバーワンになれるのである。会社と顧客の出会う機会をできるだけ多
くしていくことが大事である。
③売りと買い市場の連立戦術
アパートもマンションも戸建てもあり、かつ築年数の古いものも新しいものもあり、更地もあるという地区は
バラエティに富んでいて、売りと買いの市場が連立しており、成功の歩留まりが高い。なぜかというと、売却す
る商品の価格がバラエティに富んでいると、買客に合わせて物件を振っていける。持家もあればアパートもある
ところは売却しながら、物件の仕入れもできる連立市場となり効率的である。
④チラシ配布エリアの点検
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準備が必要である。すなわち、チラシ活用のルールを決める。チラシは差別化したものでなければならない。
何にでも使えるチラシやのぼり旗は何にも使えない。しかし、会社の規模や予算というものがあるから、のぼり
旗だけは共通のものを作ろうと決めることもある。
大事なことは、会社の名前、マーク、場所を覚えてもらうことである。そういうものが前面に出ていなければ
ならない。物件だけしか表に出ていないようなものはチラシではなく“ちらかし”である。
⑤エリア担当者の決定
最後に誰がどこをやるのか、責任と権限を持たせることによって、営業マンの逃げ道を閉ざす。逃げ道を閉ざ
すことにより、自分の畑をどうやって耕すかを考えるようになるし、その地区のプロフェッショナルづくりにな
る。
1-3-2 対象エリアの決定
(1)ターゲットとするエリアの選定基準
エリア選定の条件を掲げると以下のようになる。
・よく売り物件が出るエリア
・物件がよく売れるエリア
・価格が高いエリア
・ライバルがいないエリア
・価格、物件種別、築年数などが変化にとんでいるエリア
1千万円の物件もあれば3千万円の物件もあるところがよい。なぜなら買客に対する成約の歩留りが高くなる
可能性があるからである。築年数も広さも同じようなものばかりだと価格帯も同じになり、1軒の家が買えなけ
れば、どの家も買えないことになり選択肢が狭まってしまう。マンションにしても広さ、築年数、グレードが違
うものがそろっていれば、Aがだめなら、Bを勧めることができ歩留りが高くなる。また、景気に左右されにく
い。好景気のときは高い物件を売ればよいし、不景気のときは安い物件を売ればよい。
・会社の近くのエリア
・社員の自宅があるエリア
担当するエリアに住めば、
そのエリアのいろいろなことがよく分かってくる。
昼休みに家で休むこともできる。
このような条件でエリアを選定したら、次に市場調査を行う。
「たな卸表」を作成する。
(2)エリア選択のポイント
エリアを決めるときにまず考えなくてはならないことは次である。
①持家数
持家率はエリアによって異なる。全国平均は 48%である。賃貸マンションばかりの地域もあれば、アパートと
混在している地域もある。単に世帯数が多ければよいというわけではない。
②新現率
年間あるいは月間で新規にどのくらいのターゲット物件(売却物件)が出るのか。価格はどれぐらいのものな
のか。新現率も地域によって異なる。新現率は商品によっても異なる。マンションと戸建てでは違う。
③受託率
売却物件のうちどのくらいの割合で専任媒介を取れるか。
④手数料率
一般に不動産の仲介報酬は3%であるが、
“両手”の成約により6%になる。次頁「2002 年実績表」の右端の
「手数料」欄を見ていただたきたい。店別の手数料率が載っているが、平均は 4.72%である。
⑤損益分岐点
こうして計算した結果が、1人あるいは1店舗当たりの損益分岐点を超えているか。超えているのが理想的で
あるが、またはイコールか。
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(3)エリア選定のための試算例
◆地域と大きさと絞り込み戦術
1つの目安として、1人の営業マンが担当する世帯は多くて5千~6千世帯と思われる。この地区の中に賃貸
世帯がどのくらいあるかで変化させなければならないので、次の式にあてはめて検討してほしい。
持家世帯数×新現率×平均価格×受託率×成約率×手数料率=仲介料収入
上記の式に実数値を入れて検証してみる。
仮に世帯数が6千戸ありそのうち半分が持家で他が賃貸世帯とする。
持家率の全国平均は 48%である。1年間でその近くから売却物件が 60 件出るとしよう。新現率は2%である。
一般的には戸建てでは3~5%である。25~30 年で1回転する。マンションは5~6%である。20 年以下で1回
転する。その平均価格は 2500 万円、
「当社はこういう方法論で行うから、受託率は 20%、成約率は 80%あるだろ
う」という仮説を立てる。そのエリアの売却物件 60 件の中から自社が 20%売却すると仮定する。それに手数料
率は2件に1件の割合で“両手”とすると約5%となる。
3000 世帯×2%×2500 万円×20%×80%×5%=1200 万円
この仲介料収入が1年間の営業マン1人当たりの損益分析点を超えていればよいわけである。このほかにこの
地区で問い合わせがあった買客に対する収入もある。地区の大きさを決めるには、その地区の成約率、平均単価
でそれぞれ違いが出る。また、その会社の営業力によって受託率、成約率に大きく差異が出るので十分に検証し
てほしい。地区(エリア)を遮断する障害はあるのか、川や山や丘で閉ざされているのか、沿線が異なるのかと
いうことも考える。経費を考えるときは人件費のほかに広告宣伝費を考えなければならない。
◆重点エリア・重点ブロックと設定事例
「たな卸表」を突き合わせるとよい市場かどうかが分かる。だめな市場に出てもだめである。今一番“おいし
い市場”を攻める。将来を考えたら物件の種類は更地、一戸建て、マンションと多品種でなければならない。
札幌には東、西、南、北、中央区がある。北区の世帯数は 15~16 万である。7名を投入している。重点ブロ
ックをAブロック、Bブロック、Cブロック、Dブロックとする。それぞれにサブブロックを作る(A´、B´、
C´、D´)
。新しい社員が入ってきたときに担当させるエリアである。戸建てを 4 名が担当し、地下鉄の回り
に存在するマンションを3名が担当している。そのほかの物件は店長もしくは新人が担当すると決めている。
「このあたりの不動産を買いたいんですが」という顧客が来たら、その地区の担当者が忚対する。担当エリア
から離れた物件は自分が担当しない。紹介をしても、社内のルールに従って若干の手数料をもらうだけである。
買いも売りもエリアの中で処理する。そうすれば移動時間が尐ない。ある顧客から別の顧客のところに行くのに
20~30 分であるから、調査や訪問が楽である。マンションであれば事例が数多くあるのでどこにトラブルがある
かも分かる。
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2 勝ち組になるための会社の文化と風土の変革
2-1 会社の文化・風土
(1)会社の文化・風土とは
「風土」とは、人でいうと「性格」もしくは「習慣」である。伸びる会社と伸びない会社の違いは文化・風土・
習慣にある。能力ではない。能力のある社員はいるが、良い文化・風土・習慣がなかったり偏ったりしている会
社は何をしても長続きしなかったり拒否反忚にあって実行できなかったりする。人であればマンツーマンで指導
できるが、会社は改善が困難である。
戦略・戦術の前に会社の文化・風土の変革が必要である。そのためにマネジメントダイヤリー(※)を作った。
会社の文化・風土をもとに、部門・個人の風土・習慣をつくっていく。
「去年の自分はこうだったから、今年の自
分はこうでありたい」というものをつくり尐しずつ実行していけるようにしたい。
※風土づくりをするために、営業マンが毎日、事あるごとに記載する。日々の生活の中で使っていく目標、習慣、読んだ本、社員の
指導方法を毎月記録する。履歴を残すという習慣づくりである。
(2)文化・風土・習慣を支援するもの
文化・風土づくりにはそれを忚援するものが必要である。それは合言葉、キャッチフレーズ、スローガン、社
訓・社是であるかもしれない。しかし、お題目だけではだめである。行動が伴わなければならない。また、第三
者(顧客など)の評判も必要である。
副都心住宅販売には今まで社是や社訓はなかった。ただし、合言葉はあった。
「現状維持では後退するばかりで
ある」
。ちなみにこの言葉はウォルトディズニーが社内を説得するときに使った言葉である。2002 年4月1日か
ら「ありがとう」がグループの社是になった。
「今日 1 日、何回、ありがとうを言ったか、また何回言ってもら
ったか」ということを文化にしようとしている。
「社会に奉仕しよう」
「顧客第一主義」というような抽象的なも
のではなく、
「ありがたいと言われたい、またありがたいと思う」という風土にしていきたいと考えて、
「ありが
とう」を社是とした。
2-2 最低限必要な文化・風土・習慣とは
(1)計画を立てる習慣
◆計画のない行動はしない
いつからどういう順番で誰が行うのか。計画を立てないことはしないというのが当社の風土である。内部要因・
外部要因、過去・現在・将来、順番・場面を考えて計画する。無計画で行うと履歴が残らないので分析できない。
<事例>
2001 年 12 月、分譲マンションとレンタル事業のために6名が入社したが、2カ月間何もしなかった。それは
計画書が作成できなかったからである。1 カ月で作成することを命じたが、2カ月経っても、3カ月経っても満
足したものができなかった。私も一緒に泊まり込みをしてやっとその一部ができた。2カ月間、6名を遊ばせて
いたのだから、会社としては大きな損失である。しかし、風土・文化が大切なのである。
(2)計画には必ず目標が必要
計画には到達すべき具体的な目標と段階が必要である。この目標に到達するための段階として今はここを行う
ということが明確になっていなければならない。目的が明確になっていないと途中で違う方向に行ってしまう。
(3)文書にする
決めたことは文書にしなければならない。文書にしないと、
「…だったよね」とか、
「言ったっけ」
「いつまでだ
ったっけ」ということになってしまう。
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(4)利益最優先ではない
当社の最優先事項は「ありがとう」である。利益を最優先にすると目先のことにとらわれて大きな仕事ができ
ない。
勝ち組みに残るための基本的な戦略を展開するには“忚援”が必要である。自社だけでは実現できないと考え
ている。最も力になるのは社員からの“忚援”であるが、顧客、取引先、同業他社からの“忚援”が必要である。
このためには「良い会社である」という評判が必要である。社員はもちろん、取引先、同業他社、世間一般から
の評判を大切にしたいので利益最優先にはしない。
周囲の評価を高めるためには実力だけでなく公明正大でなければならない。クレーム対忚をする場合でも、正
義なのか正義でないのかを考える。このような考え方も文化・風土である。
(5)進化し続ける組織
「同じことをしたら、同じ結果にしかならない」
。進化し続けることを文化・風土・習慣にする。例えば、1年
間ずっと同じ書類を使い放しというのはおかしい。ベストなものではないはずなのに、疑問に思わないのはおか
しい。このように考える習慣をつけることが大事である。
2-3 どうしたら風土・文化・習慣を変えることができるのか
(1)ルールを習慣にする
風土・文化・習慣を変えることは難しい。しかし、あきらめては先に進まない。ルール・規則を設けて習慣づ
けをすれば、それが文化になっていく。
「うちの会社はこうである。うちの会社はこのように仕事をする」と決め
て習慣づけていく。規則・ルールがない会社は文化がつくれていない会社である。
どんな会社でも始業時間があるが、これもルールである。そのようなルールをたくさん作る。オープンハウス
を行うときのルール、ミーティングのルールというように各場面のルールを作成する。ミーティングには、朝の
ミーティング、週のミーティング、月のミーティング、幹部のミーティング、部署のミーティングがある。こう
いう帳票を使って、こういう履歴を残していこうというルールを作るのである。
(2)簡単なものからマニュアル化する
ルール・規則は簡単なものから作っていけばよい。ルール・規則を設けたら、手順・方法をマニュアル化する。
マニュアル化で大事なことは、目的を決めることである。
「このようにしたいので、こうする」というように目的
を決めることである。
(3)根づくまではチェックが必要である
作っただけではなかなか習慣にはならない。最初のうちは「今日はやったか」とチェックする。1 週間、1 カ
月単位でチェックする。根づくまでは細かくチェックする必要がある。
チェックは誰がどういう帳票を使って行うのかも決めておく必要がある。そうしないと根づかない。実行しな
かったらしかり、実行できたらほめながらチェックする。根づいてしまえばチェックする必要はない。
(4)すぐに進化させる
最初に作成したものは仮説である。すぐに進化させなければならない。もっと良い方法はないかと考える。
(5)履歴を残す
ファイルを作成しておき、何かルールを作ったらファイルに追加していくという習慣をつける。このようにし
ていくと、だんだんと理想の風土になっていく。一番大切なのは社長の熱意である。
「経営者の器以上に会社は大
きくならない」と言われるが、それは社長の能力・性格ではなく、社長の熱意であろう。
「社長の熱意以上の会社
にはならない」という意味であろう。社長あるいは経営幹部の熱意によって、会社は変わる。
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3 地域戦略を展開するための帳票の活用による計数管理
3-1 帳票活用の重要性と活用方法
(1)月に1回は数値を記帳し分析しなければ成長しない
PDC(PLAN-DO-CHECK)をしていくためには定量的なデータがなければならない。最初は分析しようとしても
分析の仕方がよく分からない。手数料率を上げるにはどうすべきかと考えてもピンとこないだろう。毎月続けて
行っているうちに数字を見ただけで、
どこをどうすればよいかが即座に分かるようになる。
「売り走れ」
とか、
「こ
ういう物件ばかりが来ているからこの媒体を使え」となる。この積み重ねである。すぐにはできなくても、繰り
返し行っているうちにできるようになる。
帳票作成と分析について、
「自分のところは3人しかいないからしない」という会社がある。しかし、1人、2
人だから始められるのである。最初から 10 人分をまとめるのはルールが混乱して大変である。1人、2人から始
める。当社の場合も私と専務の2人から始めた。
「おれはこうだけど、おまえは。来月どうする」と家で酒を飲み
ながらやりとりしたのが始まりであり、その延長が現在である。最初はヨチヨチ歩きからでよい。やるかやらな
いかである。やり出したらきっちりやることである。これが最後には社風になる。何を行うにも、計画を立てて、
担当者を決めて、PDC をしながら行う癖がつけば、何をどうするにしてもすぐに動き出すことができるようにな
る。伸びる会社と伸びない会社はここで差がつく。これができない会社は「今月これをやるぞ」といって材料を
与えたところで、3カ月たっても何も動き出さない。
動き出してすぐに数字が上がる会社とそうでない会社では風土が違う。新しいことを始めようと思ったら、計
画は毎回変わって当然である。経験がないから反響が分からない。だから、週に1回は PDC をしなければならな
い。そうしないと、やりっぱなし、投げっぱなしという状態になる。1人であろうと2人であろうと、いったん
きちんと締めるという行為をしなければ次につながらない。
(2)帳票の導入・活用における留意点
帳票導入・活用の留意点は下記の通りである。
・すべての帳票は継続することにより目的を達成する。
ある一定期間継続しなければ何にもならない。ルールを決めて、いつ行うのかを明確にする。
継続しやすいのは事務員である。何月にはこうやる、何日にはこれをすると決まっているからである。例えば、
給料が遅れることはない。経理担当者の場合、
「25 日が給料日だから○○日にこれをしなければならない」と決
まっている。
・すべての帳票は、個々の内容および質は判断できない。
数字だけでは分からない。朝会、夕礼、ミーティング、月末会議でヒヤリングをしなければ具体的な指示はで
きない。具体的な指示を出したうえで「がんばれよ」と言うのが、組織のマネジャー・管理者の仕事である。
数字を見ただけでは顧客を訪ねてもどんな話をしているのか、
あるいは顧客と話した時間が 10 分間だけなのか、
3時間なのか分からない。そこで、ヒヤリングをするが、帳票はその材料となる。
・手ぶらのミーティング・会議および目的が不鮮明な会議はしない。
とにかく集まれというような会議はだめである。手ぶら会議は目的がないから無意味である。
・すべての帳票は PDC のためにある。
動いたから帳票をつけるのである。動かなければつける必要はない。帳票をつけるというと、めんどうなよう
に思うかもしれないが、朝、ちょこっとつけて月末に合計するだけある。何も煩わしいことはない。
PDC は向上するためにある。会社が、部署が、個人が、そしてある方法が向上するために行う。
・誰が、いつ、記入するのか。それを実行しているかどうかをチェックするのは誰で、いつ行うのかを決める。
「いつ」だけしか決めていない会社が多い。いつ、誰が行うのかというチェックのルールを決めなければ絶対
に継続できない。
「何日までにやる」という決め方ではいけない。
「何日までに行うために、いつ誰がチェックするか」を決める。
肝心なことは、計画があって実行したら必ずチェックすることである。チェックしないと計画に戻すことがで
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きない。チェックする習慣、分析する習慣が大事である。
計画の第一歩は誰がいつチェックするかを決めることである。
帳票類についてもスタート時は真似でもよいが、自分たちで考えて改良していくという癖をつけることが大事
である。自分たちが使いやすいように自由に変える。良いものを真似してでもよいから、自分たちで加工して作
ることをルールとする。現状維持は後退するばかりであるというのが当社の社風である。
3-2 帳票の事例
(1)2002 年度実績表
全体実績
これは2002 年2月の実績である
(前掲)
。
右下の全体売り上げを見ると売買仲介料だけで約7,200 万円である。
2月の計画および累積実績については下の表を参照していただきたい。当社の場合、厚別店は厚別の物件だけし
か扱わないというのが特徴である。5人あるいは3人という小さな店が多い。全体で 41 名である。
本数にすると、2月は全体で 94 件である。2001 年秋からずっと新記録を続けている。これまでの2月の記録
は 50 本台だったから、約 2 倍である。昨年、8名ほど社員を増やして育てたので、昨年は収益が大きく落ちた
が、3、4カ月で新入社員が育ってきたので数字が伸びてきている。2002 年も4月に 10 名ほど採用する予定に
なっているから、一度は数字が落ちる。新人でも顧客を与えて場数を踏ませることによって、3、4カ月で稼げ
るようになるので、また数字が伸びていくことになる。
ここに表示されているのは月末で締めた数字である。普通は毎週 1 回開かれる店長会議の前日に帳票をファッ
クスするが、それには見込みが入っている。
部門
東店は暖簾分けした別会社である。毎月、売り上げに対するロイヤリティが入ってくる。一種のフランチャイ
ズシステム(FC 店)である。
戸建ての担当者は戸建てしか扱わない。マンションの担当者はマンションだけを扱う。
「宅地1課」
(宅地1)
の担当者は、重要事項の説明もしなければ、契約書を読んだこともないし、ローン手続きもしたことがない。ハ
ウスメーカーを回っているだけである。
「宅地 1 課」は、ハウスメーカーの造成地を 1 人で 1000 筆扱っている。
売れないので 1 人である。
「宅地 2 課」
(宅地 2)の担当者は「家を建てるための土地を買いたいのですが」という問い合わせをしてきた
顧客をハウスメーカーに紹介して建築紹介料と土地仲介料を得ている。
「事業課」はアパートだけを扱っている。2 月は 3 本で 762 万円である。昨年、すべての部署の数字が落ちた
が、ここだけが時代の波に乗った。最初1人だったが現在は6名態勢になり、3、4店舗分を稼ごうということ
で事業部にした。
「コンサルティング」
(コンサル)は 1 名で公庫保証の下請けなどを行っている。また、競売になった事故物
件の売却委任をもらってきて、店舗で売らせることで自分の実績になる。
主要な項目について解説する。
帳票の項目
「部署経費」
ハウスメーカーから受託してきたものを地域店舗群が売ると、ハウスメーカーから受託してきた部署に費用を
支払わなければならない。いわば社内振替である。
「見込み」
契約日が決まったものである。
「タラレバ」
契約日は決まっていないが、だいたいまとまってきていて、ローンや値交渉などが残っているものである。
「新築・紹介」
新築マンション、建売住宅、注文住宅を紹介した場合の紹介フィーである。
「付属1」
「付属」とは「付属収入」のことである。ローンの事務手数料や公庫の概要書作成の手数料などである。その
他に、解体業者、土地家屋調査、測量士、火災保険代理店、引越業者などからのフィー(紹介料)がある。2月
は付属収入が約 300 万円あった。本数の割にはこの月の付属収入は尐ない。北海道は 12、1、2月はあまりよ
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くない。他の月の半分くらいである。2002 年の 2 月は雪が尐なかったので、成績が良かった。
仲介料以外の収入が昨年は 1 億円を超えた。これが大きい。年間ベースでは仲介料7億円に対して、付属収入
が 1 億円である。付属収入は経費がかかっていない。引越業者や解体業者に紹介するのも、ファクシミリ1本で
ある。それでフィーが入ってくる仕掛けになっている。営業マンが何も知らなくても紹介したことになっていれ
ば、自動的に毎月 25 日に各会社から伝票が送られてくることになっている。それが約 1 億円あるということで
ある。ここでも他社とは体力が違ってくる。
「価格」
取扱高のことである。厚別店の場合、戸建ては4本で 7,110 万円の取扱高になった。マンションは3本で 3,220
万円の取扱高になった。手数料率は 6.08%であった。要するにほとんど両手だったということである。全体では
4.72%である。普通は 5%である。2月は 94 本であるが、受託ベースが月に 60、70 本だから、
“分かれ”が多
くなった。
「手数料率が悪くなったのは成約本数が多いから」という分析になる。売りと買いのバランス-売却受
託と買客の集客のバランス-が重要である。
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(2)中央店 在庫表 11 月
「たな卸表」ともいう。担当している地域における他社取り扱い物件も含めた売却希望物件の一覧である。先
月、中央店の担当エリアで市場に出ていた物件は 226 物件である。11 月に新規に市場に出てきた物件は 55 件で
あった。成約件数は 46 件である。良い数字である。よく売りが出て、よく売れていて理想的である。売り止め
(売却を中止した物件)は 5 件である。
「繰越在庫」は 230 件である。たな卸をきちんと行えば、市場が見えて
くる。この地域における当社の市場占有率は 8%である。先月繰越物件 226 件のうち当社が受託した物件が 17
件入っている。新規物件を 7 件受託した。新規物件の 13%は当社が受託した物件である。
中味はともかくこの帳票自体はとても参考になる。これもエリアを絞るからできるのである。アルバイトが月
に 1 回だけ電話をかけてデータを集める。1 件 30 秒で済むが、226 件では 5、6 時間はかかる。
買客との成約は 50%以上でもかまわないが、受託シエアは 30%以上にはしないことになっている。受託シエ
アが高すぎると地域が活性化しなくなる。一般の経営論では市場占有率は高ければよいことになっている。40%
以上が安全圏だといわれているが、不動産仲介業の場合、共同仲介により市場を形成しているので、オンリーワ
ンになるわけにはいかない。ナンバーワンになってもよいが、オンリーワンはだめである。費用がかかりすぎる。
また、営業マンも気を抜いてしまう。
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(3)媒体別集客表
上の表は「買い問合せ」
、下の表は「売り問合せ」である。どの媒体から問い合わせが来たかの一覧表であり、
広告戦略立案の基礎データとなる。
媒体別、投入から時系列別に問い合わせ件数を記録していくが、
「黒」とは「黒客」の意味である。
「黒客」と
は、お客様から問い合わせをいただき、氏名、住所、電話番号などが判明し、こちらから連絡(営業)できる顧
客になったことをいう。反対が「白客」
(白)である。
①チラシ
・地域活動チラシ
月 1 回の定期的なチラシは会社が作成している。各営業マンの担当地域に対するチラシ(
「地域活動チラシ」
という)は、担当営業マンが行う。会社のロゴなどを印刷したチラシの原型だけは会社が用意するが、後は営業
マンの創意・工夫で行う。件数が多いのは、各個人が行う地域活動である。地域活動は全部で 100 以上ある。
この表からどの媒体が効果的かということが判明する。一般的にいえることは、会社が出す「ハウスデータ」
とか、
「住宅情報」といった物件情報誌への広告よりも、各営業マンが出すチラシのほうが、問い合わせが多いと
いうことである。
「地域活動」すなわち個人の活動がいかに大事かが分かる。会社の活動は個人の活動を忚援する
ものである。会社が行うのはイメージ戦略である。
・成約御礼チラシ
受託した物件が成約したら、
「成約御礼」のチラシを打つ。要するに、
「当社で売れた」ということを訴求する
ことが大事である。このチラシの裏には「前回のオープンハウスで○名の方がいらっしゃいましたが、お1人様
に買っていただきました。後○名の方が探していらっしゃいますから、売りたい方はいらっしゃいませんか」と
書いてある。
また、成約物件には「成約御礼看板」を出す。引き渡しまでの誰も住んでいない時期に看板を出させてもらう。
「副都心が売った」と書いてあって、
「近々、お引っ越しをされますので仲良くしてください」というようなこと
が書いてある。
・求むチラシ
買いたい人の生の声を載せる。当社では「記述式求むチラシ」が主流である。会社のイメージが書いてある。
このようなことを行っているうちに受託がある。受託したものについてオープンハウスを行う。オープンハウス
の招待状を送付したり、マジック 25(近隣 25 軒を訪問する営業活動)を行うが、これが何回転するかが、当社
でいうところの「地域密着」である。
②オープンハウス
オープンハウスも同様である。オープンハウスのマニュアルのなかにはいくつかの目的が記載されているが、
最初に出てくるのは「オープンハウスは会社を売るための最大の武器です」とある。買客が何人来たかは無視し
ている。たいした意味がない。また、当社には会社名の看板・幟(のぼり)はあるが、
「オープンハウス」という
看板・幟はない。
「“当社が”オープンハウスを行っている」ということが大事なのである。一生懸命にしている
という当社のスタンスを示すことが大事である。オープンハウスには“ひやかし”の客も来るが、そのような人
が大事である。
1~2年のうちに売却の依頼をしてくれる人である。
。
このことをマニュアルに書いておかないと、
営業マンは「何しに来たんだ。おれは忙しいんだ。お前みたいなのは、おれは相手にしていないんだ」という顔
をしてしまう。しかし、このような客を絶対に逃してはいけない。オープンハウスは会社を宣伝する最大の方法
である。オープンハウスは自分の畑を耕すためにある。
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(4)当月の売問い合せ表(6月 中央店)
売却依頼の問い合わせについての集計表である。この事例は新設の中央店のものである。以下の項目がある。
「媒体1」
紹介か、チラシか、どういう手法で問い合わせがあったかをまとめたものである。
媒体2の6月18日に「コンビで査定」とある。当社には「コンビニで査定」というものがある。賃貸(賃料)
と売買のどちらでも査定するという意味と“気軽に”という意味をかけている。
「売却理由1」
売る理由と売った後どうするのかが書いてある。
住んでいる家が狭くなったからか。
資産処分の場合は、
どうして資産処分するかを記述するように決めてある。
売却理由1と2から、どういうチラシをどこに打ったら物件の情報が入るのかが分かる。どうすれば売りがつ
かめるかが分かる。
「査定価格」
当社には売れないものは受けないというルールがある。
「ひょっとしたら売れるかもしれない」
というようなも
のは受けない。なぜなら、売れないものを受けてしまうと評判が悪くなるからである。買主は自分の希望の物件
が出なくても文句を言わない。しかし、売主は売れると思っているから、
「あそこは何もやってくれないよ」と周
囲に吹聴する。そのような悪評判を立てさせたくない。受託物件の成約率 80%を保つために無理な価格では受け
ないことにしている。
どうしても受けなくてはならないものは「うちでは自信がありません。他社にもお願いしてください」と告げ
て、一般媒介で受ける。もしくは他社を紹介する。何でも受けてくれる会社がある。そういう会社は何もしない
会社である。何もしないから、数カ月後にはこちらが黙っていても当社に戻ってくる。
「やっばり売れない。この
価格で売ってください」と言ってくる。
「営業内容」
どういう営業をしているのか、次の月に何をするのかが書いてある。
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(5)個人別営業活動表 2月度(中央店)
個人別の営業活動の実績表と店全体の集計表からなっている。
「売保」
「買保」
何らかの理由で態度を保留している客である。売りの保留客(売保)
、買いの保留客(買保)とがいる。
「売客」
「買客」
今、どれだけのお客様がいるのか。今月、どれだけのお客さんが入ったのか。
「初訪」
「初訪」とは「初回訪問」の略である。
「初回面談」ともいう。お客様と初めて面談することである。初回面談
はお客様の家に行く「訪問」と、店舗に来ていただく「来店」に分かれている。
「再訪」
初回面談後にお客様と面談することをいう。
「案内」
物件への案内のことである。クロージングに結び付けるために重要な営業行為である。件数とともに、人数も
記録している。家族全員で物件を見に来ることがあるからである。
「クロ」
「クロージング」の略である。
「案内が終わったら必ずクロージングする」というルールが当社にはある。買う
かどうかは別である。買わない場合であれば「どんな物件であれば買おうと思いますか」というクロージングを
かける。
「初査」
初めての査定の意味である。
「再査定」
2度目の査定の意味である。
「売訪」
売り訪問の略である。受託のための訪問である。
「F査」
ファクシミリで査定書を送ることである。
「メ紹」
メーカー紹介である。
「MG」
「マジック 25」の略である。受託物件の近隣を訪問することである。
「御礼」
御礼チラシを打つことである。
その他の「業訪」
「ク訪」
「部同」
「上同」などについては表を参照していただきたい。
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(6)在庫管理表
店全体の在庫だけでなく個人別の在庫も管理している。
「塩漬け」
受託後3カ月を経過しても売却できない物件のことである。
「価格交渉」
売主との売却価格の値下げ交渉のことである。100 万円以上の値下げでないと、
「価格交渉」とはいわない。何
百万円下げるかという目標が入る。
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4 景気に左右されない経営を目指すための新戦略と提携戦略
(1)まとまり仕事として
まとまり仕事とは、1つの商品、1つの方法、1つのターゲットで関連分野にビジネスチャンスを広げる、も
しくは関連分野にビジネスをつなげるということである。いわば複合化に近い。ただし、売買仲介はあくまで売
買仲介である。
例えば、
空き地があったとしよう。
空き地の所有者に DM をしている。
当社が現在扱っているのは 700 筆だが、
尐しずつ増やしていっている。空き地の所有者に対して「売りませんか」
「買いませんか」という DM を出して
いる。別の機会には以下のような DM を出している。
・管理地にしませんか。ごみを片付けます。
・駐車場の経営をしませんか。駐車場の運営をさせてください。
・コンテナをしませんか。コンテナの運営をさせてください。
・家を建てませんか…など。
これがまとまり仕事である。これを一度に行わない。DM は 4 カ月に一度同じところに 1 回ずつ行う。回転し
ていくのである。すなわち、接点を数多く設けていくのである。当社は電話セールスをしていない。確率で考え
ているからである。DM は事務員の仕事であり、営業マンは何もしない。問い合わせが来たら営業マンの担当に
なる。
(2)みずからの媒体づくり
①「ハウスデータ」
この情報誌は当社の戦略商品のあらゆるものに使用している。札幌では「住宅情報」よりも情報量が勝ってい
る。1 号当たりの販売部数も当社のハウスデータのほうが多い。ただし、単体で考えれば赤字である。
ハウスメーカーにも掲載を依頼している。密接な関係を築くためにハウスメーカー、工務店、宅地流通協議会
のメンバーには、無料あるいは 5,000 円か 1 万円で広告を掲載してもらっている。分譲マンション会社の場合、
当社と業務提携をすると広告代を 30%割り引きしている。賃貸会社の場合、20%である。灯油ジェネックスから
灯油を買っていただければ 30%割り引きである。
このように提携促進のためのツールがハウスデータである。ハウスデータは収益を上げなくてもよいと考えて
いる。現在、分譲マンション会社9社と業務提携を結んでいる。
「分譲マンション会社と業務提携をする」という
企画プロジェクトがあり、1人に専任させていた。朝は 12 時に出社して、夜は分譲マンション会社の人を接待
していた。こうして9社と提携した。このように銀行やいろいろな会社とも関係を結んでいくために、いろいろ
なことを行っている。
③「サブリブ」
これは 2002 年 3 月 1 日に創刊した当社の子会社が発行している分譲マンションだけに配布するフリーペーパ
ーである。分譲マンション会社のチラシなどを折り込んで配布している。これも戦略商品である。マンション管
理会社と業務提携していて、マンション管理会社の広告宣伝も入っている。すなわち、マンション管理会社、分
譲マンションを供給しているデベロッパー、自治会から推薦をいただいている。分譲マンションの賃貸、売買時
に発生するビジネスをいただくための戦略商品である。ただし、単体では月に 100~200 万円の赤字ではあるが、
広告宣伝費として見ればたいした金額ではない。要するに、まとまり仕事をつくっているのである。何かを核と
して全部をそこに集中させるという方式である。ただし、仕事はあくまで仲介というのがベースである。これが
まとまり仕事である。
(3)中古マンションの売却と賃貸の相乗効果
札幌には 16 万戸の既存のマンションがある。これらのマンションの売買、賃貸に伴う仲介を戦略的に一手に
行おうというためのツールが前述した「サブリブ」である。フリーペーパーで、13 万部発行しているので配布す
るだけでも大変である。そこで、自治会などで推薦をもらって、マンションの管理人さんに配布してもらおうと
いう発想になる。したがって、管理会社と組むことになる。管理会社の無料広告を載せるなどして、管理会社を
味方にしていく。道管連(北海道マンション管理業協会)の推薦もいただいた。
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マンションには、①空き家になっているもの、②賃貸になっているもの、③所有者が住んでいるもの-の三つ
の利用のされ方がある。これまでは所有者が住んでいるものだけを扱っていた。他の2つについても手掛けよう
ということで、空き家と賃貸のものを専門に取り扱うという部署を設立した。空家や賃貸になっているマンショ
ンを売買に持っていったり、賃貸の方には1、2年後には買ってもらおうという部署である。収入源は賃貸仲介
料、賃貸管理収入、リフォーム、売却仲介の4つである。こうして中古マンションの売却と賃貸という相乗効果
を狙った方法を試してみようという部署である。
(4)宅地について組織的な活動
札幌には売れずに残っている宅造地がたくさんある。60 団地くらいあった。これを何とかするのは当社の役目
だと考えた。破綻している区画整理組合あり、それらを何とかしようという発想であった。ハウスメーカーを組
織化して行おうということで、宅地流通協議会というハウスメーカー、ゼネコン、区画整理組合という供給者側
の団体を設立した。同業他社、一般の地主も含めて、まとまり仕事として組織的に活動を行っている。
今は売れない。でもいつまでも売れないわけではない。現在 1,000 筆あるが、3年後、5年後に景気が回復し
たときには3~4年で売り切れるだろう。当社の担当営業マンは1人であるが、その人が 1,000 筆売ることにな
る。自分で売るわけではない。自分は管理するだけで、ハウスメーカーや同業他社に売ってもらうのである。要
するに、仕事をしない、経費をかけないで売るということである。宅地流通協議会には 480 人の営業マンがいる。
給料を払わなくてよい営業マンが大勢いるわけだ。経費を負担していない会社、すなわち同業他社が 70 社所属
している。当社は彼らに、その他収入の獲得の方法を伝授している。現在、宅地流通協議会は任意団体だが、法
人化の手続き中である。
(5)中古アパートの市場とアパート流通事業部
札幌の新築アパートの利回りは 8~11%である。中古アパートは 13~15%である。宮崎では 4~5%、福岡で
は 8~10%、東京では 10%前後の利回りである。13~15%の利回りが期待できるのであれば。中古アパートの
売買は市場性がある。
このためにアパート流通事業部を設立した。アパートはチラシ1枚で売れるわけではない。まだ全部はできて
いないが、事業部営業マニュアルはできている。建物履歴、入居履歴、家賃履歴、滞納履歴などのデータが必要
である。これらに経営計画書を添付して 20 数枚の書類をそろえている。こうすれば信用してすぐに買ってくれ
る。素人でも売れる。この書類を作成する支援ソフトの作り込みをしているところである。そのほかに以下のよ
うなことをしている。
・顧客囲い込みシステム
舩井財産ドックと業務提携して開発しようとしている。
・アパート売買専用ネットワークサイト
・プロパティマネジメント
・チャンネル開発業務
・OEM アパート経営書の刊行
アパート経営のための本を書店に置いてもらおうというものである。著者は「副都心住宅販売○○事業部○○
○○」となる。誰かが書いた本を当社の名前で書店におく。読んだ人から「買いたい」
「管理してほしいんですが」
と電話がかかってくることを目論んでいる。
・オーナーズ新聞
賃貸オーナーのための新聞を作って、オーナーに配布してもらう。その中に「副都心住宅販売のアパートを買
いませんか」という広告が入っている。また、賃貸オーナーのためのセミナー開催などの案内も掲載する。
・イエイエギャラリー
顧客を 1,000 人集めるイベントである。この中でアパート経営のセミナーを開いている。
これらがアパート流通事業部の活動の流れである。
(6)副都心グループの提携戦略
副都心グループは8社で構成されている。営業3名、製作3名の出版会社だけが唯一の赤字会社である。この
8社が、宅地流通協議会、FRK(同業他社の会)
、マンションメーカー連絡会、鯛友会(引越業者、金融機関、
解体業者、司法書士、マット・清掃道具会社など)とつながりをつくっている。
なぜ、同業他社まで巻き込んでこのようなことをしているのか。組織を守るためである。外側には財閥系のM
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社、S社、電鉄系のT社など大手強豪5社がひしめいている。それらに“本丸”を攻められないようにするため
である。当社1社で5社を敵にまわしたのでは勝つ見込みがない。そこで、このような提携組織をつくってガー
ドしてもらっているのである。
「うちを攻めたら、みんなを敵にまわすよ」というかたちをとっている。
業務提携は早いもの勝ちである。密接な関係を続けるにはビジネスでつき合わなくてはならない。
「知り合い」
というだけではだめである。ビジネスでつき合わないと、もっと利益をくれるところに取られてしまう。
税理士、弁護士のルートも必要である。今日からでも、いくらでもすることはある。何から行うのか。風土づ
くりか、ルート戦略か、商品戦略か。もうけ口はいくらでもある。同じことをやり続けていると変化がなくてお
もしろくないし、また変化を好まない社員ばかりになってしまう。同じことをやっていたら同じ結果しか生まれ
ないから、考えることもないし楽だが、それではおもしろくない。しっかり考えて、しっかり勉強していただき
たい。
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