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7、濡れた髪
ソフィーはおしゃれな子で、きれいな服を着て、すてきにしていたいと思っていました。でも、
ソフィーはすてきではありませんでした。ふっくらとした顔は健康で生き生きとしていて、灰色の
とてもきれいな目、少し大きくて上を向いた鼻、大きくていつもすぐに笑いだす口に、ブロンドの
髪は巻き毛ではなくて男の子のように短く切っていました。ソフィーはきれいな服を着たいと思っ
ていましたが、いつもとてもひどいかっこうでした。夏も冬も、襟が広くあいた短い袖の白い平織
り木綿のシンプルな服、少し大きめの靴下に黒の革靴といういでたちでした。帽子をかぶることも
手袋をすることもありません。お日様にも雨や風や寒さにもなじむのがよいとママが考えていたか
らです。
ソフィーのいちばんの願いは、髪をカールすることでした。ある日、ともだちのカミーユ・ド・
フルールヴィルのブロンドの巻き毛がほめられているのを聞いて、それ以来、いつも自分の髪をカ
ールしようとしていました。ソフィーが思いついたことの中でも、いちばんひどい思いつきがこれ
です。
ある午後のこと、雨がひどく降っていて、とても暑かったので、窓も玄関のドアもあけたままに
なっていました。ソフィーはドアのところにいました。外に出てはいけませんとママに言われてい
たのです。ときどきソフィーは手を伸ばして雨を受けていました。それから、少し首を伸ばして雨
のしずくを頭に受けました。そんなふうにして頭を外に出すと、雨どいがいっぱいになって、雨水
が滝のように落ちているのが見えました。そのときソフィーは、カミーユの髪の毛は濡れていると
きの方がよくカールされていることを思いだしました。
「私の髪も濡らしたら」とソフィーは言いました、「カールするかもしれないわ!」
それでソフィーは、雨のなかを外に出て、雨どいの下にきました。そして、大喜びしながら、雨
水を頭にも首にも腕にも背中にも受けたのです。たっぷり濡れたあと、ソフィーは客間に入り、髪
がカールするよう念入りに逆立てながら、ハンカチで頭を拭きはじめました。ハンカチはすぐにび
しょびしょになりました。そこで、ばあやに新しいハンカチをもらうために自分の部屋に走って行
こうとすると、そこでママとはちあわせしました。ソフィーは、びしょ濡れで、髪の毛は逆立ち、
ぎょっとしたまま、じっと震えていました。ママは、最初はびっくりしましたが、ソフィーがなん
ともおかしな顔をしているのを見て、笑い出しました。
「素晴らしいことを思いついたものね、ソフィー!」とママは言いました。「いまどんな顔をして
いるか見たら、あなたもきっとママみたいに笑い出すでしょう。外に出てはいけませんと言ってお
たのに、またいつものように言うことを聞かなかったのね。罰として、食事の時まで、逆立った髪
の毛も、濡れた服も、そのままでいなさい。パパとポールに、あなたの素晴らしい思いつきを見て
もらいます。さあ、このハンカチで顔と首と手を拭いてしまいなさい。」
レアン夫人が話し終えようとしていたちょうどそのとき、ポールがレアン氏と入ってきました。
二人ともソフィーを見て唖然として立ち止まりました。かわいそうにソフィーは、恥ずかしくて赤
くなり、しょげかえってはいたものの、その姿がいかにもおかしかったので、二人とも笑い出しま
した。ソフィーが赤くなってうなだれ、どうしてよいかわからず情けない様子をすればするほど、
逆立った髪の毛と濡れた服がなおさらおかしく見えたのでした。ようやくレアン氏が、その仮装は
いったいどうしたのだ、まさか謝肉祭の食事に行くのじゃないだろうね、と聞きました。
レアン夫人
きっと髪をカールさせようと思いついたのでしょう。なんとしてもカミーユのように
カールさせたくて、カミーユがするように髪を濡らしたのね。そうすればカミーユのようになる
と思ったのでしょう。
レアン氏
おしゃれな子のやりそうなことだ!
すてきになるつもりが、逆にひどいことになるわ
けだな。
ポール
ねえ、ソフィー、すぐに行って体を乾かし、髪をとかして着替えたらいいよ。変なかっこ
うをしているってわかったら、ちょっとのあいだでもそのままじゃいられないだろうね。
レアン夫人
いいえ、ソフィーは食事のときまで、その逆立ったすてきな髪型と、砂だらけでびし
ょ濡れの服装でいるのです。
ポール(話をさえぎって、ソフィーに同情して)
そんな!
おばさま、おねがい、ソフィーを赦
してやって。髪の毛をとかして着替えさせてやってちょうだい。かわいそうに、あんなに悲しそ
うにしているもの。
レアン氏
わたしもポールと同じように、今回は赦してやりたいと思うよ。また同じことをしたら、
そのときは別だが。
ソフィー(泣きながら) 約束します、パパ、もう二度としません。
レアン夫人
ソフィー、パパがおっしゃるから、部屋に行って着替えてもいいです。でも、食事は
一緒にはできません。客間にくるのは私たちの食事がすんだあとです。
ポール そんな! おばさま、それじゃああんまり……
レアン夫人
いいえ、ポール、もうこれ以上はだめよ。いまわたしが言ったようにするのです。
(ソフィーにむかって)さあ、行きなさい。
ソフィーは、ばあやに髪をとかしてもらい、着替えさせてもらったあと、自分の部屋で食事をし
ました。食事のあと、ポールが呼びに来て、おもちゃのある客間に遊びに連れていきました。その
日から、ソフィーはもう二度と、髪をカールさせるために雨で濡らすようなことはしなくなりまし
た。