手足口病について - 検査法の視点から

手足口病について - 検査法の視点から
○近平 雅嗣,荻 美貴 (健康科学研究センター感染症部),藤本 嗣人(国立感染症研究所)
【背景と目的】
感染症発生動向調査における病原体検索の黎明期
から,地方衛生研究所が調査に携わってきた手足口病
は,ヘルパンギーナ等と共に夏季に患者が集中する代
表的なエンテロウイルスの乳幼児感染症で,成人の感染
も報告されている.口腔粘膜や手足に出現する水泡を伴
う発疹は短期間で軽快し,一般に手足口病は予後良好と
されるが,稀に中枢神経系や心筋などの合併症により重
症化する.中でも,1997 年以降のエンテロウイルス 71 型
(EV71)による手足口病では,東アジアを中心に重症例
や死亡例が多く報告され,兵庫県内でも死亡例から本ウ
イルスを検出した.患者からは EV71 に加えて,コクサッ
キーA6(CA6)や CA10 等の A 群を主体に様々なエンテ
ロウイルスが検出される.
表 エンテロウイルス属の型
群
A
B
型
コクサッキーA: 2,3,4,5,6,7,8,10,12,14,16
エンテロ:
71,76,89,90,91
コクサッキーA:
9
コクサッキーB:
1,2,3,4,5,6
エコー:
1 ~ 7,9,11 ~ 21,24 ~27,29 ~33
エンテロ:
C
D
69,73 ~ 75,77 ~ 88,97,100,101
コクサッキーA:
1,11,13,17,19,20,21,22,24
ポリオ:
1,2,3
エンテロ:
96
エンテロ:
68,70
新版)を精査した.
【検査の概要】
1. 手足口病起因病原体の主体は CA16, EV71,CA6
及び CA10 である.
2. ウイルス分離に用いる細胞は RD-18S,RD-A,HEL
(ヒト肺 2 倍体細胞),Vero 等多岐に渡っている.
3. 細胞分離したウイルス同定のための抗 CA16,
EV71, CA6, CA10 血清は,エコーウイルスや
CA 同定に用いる汎用プール血清には含まれない
ため,それぞれに対する単味抗血清を用いることに
なる.
4. 遺伝子検査では VP1 領域と VP4-VP2 領域を増幅
するが,型同定は VP1 領域が基準となっており,
配列が 75%以上一致すれば同一型となる.
【考察】
2000 年頃までは,分離ウイルスの中和による同定が
一般的であったが,型間や株間でも細胞感受性が異なり,
さらに細胞も継代を続けることでウイルス感受性に差が生
じるなど,細胞分離では安定性のある結果を求めること
が難しい.
このため,ウイルス分離によらず臨床検体からのダイ
レクトなゲノム解析による型別を行うことが多くなった.た
だ,この方法はすべての型のエンテロウイルスを検出•型
別することを主眼に開発されたため,検出感度が高いと
は言い難い.ゲノム多様性が高い VP1 領域ではプライマ
ーのミスマッチによる偽陰性も多く,比較的保存性の高い
VP4-VP2 領域で解析する研究所も多い.
普遍的なエンテロウイルス検査法の開発が望まれる.
エンテロウイルスの同定は,細胞や乳のみマウスで
分離後に,中和反応によって血清型別が行われてきた.
最近は,分離ウイルスの血清反応と併行して,ウイルス
VP1 領域の配列から型別したり,臨床検体から直接抽出
したゲノムの配列からウイルスを同定するようになった.と
ころが,血清型と遺伝子型が一致しない株が見出される
など,遺伝子検査法の発展により,検査を取り巻く状況は
複雑になっている.
本発表では,手足口病の現状と検査法の課題につい
てまとめた.
【方法】
現在,検査実施に最も利用されている手足口病病原
体検査マニュアル(2016 年現在にネット上で得られる最
図 検査マニュアルによるエンテロウイルスの同定手順