卒業論文 3つの超新星 つの超新星 SN2011by, SN2011dh, SN2011fe の光学観測 I08G065 若林佑也 岡山理科大学 総合情報学部 生物地球システム 生物地球システム学科 システム学科 田邉研究室 要約 2011 年、幸運にも我々が観測可能な近傍の銀河に3つの超新星 SN2011by,SN2011dh, SN2011fe が出現したので、これらの光学観測を行った。その結果、光度曲線とスペクトル (SN2011fe のみ)が得られ、そのうち SN2011fe はⅠa 型超新星の特徴を示した。Ⅰa 型 の特性から、その超新星(銀河)までの距離を算出したところ、セファイド変光星の周期・ 光度関係による距離と誤差の範囲内で一致した。 目次 第 1 章 はじめに p.1 第 2 章 超新星 p.2 2.1 超新星の分類 p.3 2.2 超新星爆発のメカニズム p.3 2.3 各型の特徴 p.6 2.4 今回観測した超新星について p.8 第 3 章 観測 p.9 3.1 観測場所 p.9 3.2 観測装置 p.9 3.3 観測方法 p.11 第 4 章 データ処理 データ処理 p.15 4.1 測光データの処理 p.15 4.2 分光データの処理 p.17 4.3 観測ログ p.21 第 5 章 結果 p.23 5.1 光度曲線 p.23 5.2 色等級図 p.24 5.3 スペクトル p.25 第 6 章 解析 p.26 6.1 光度曲線 p.26 6.2Ⅰa 型超新星の理論 p.27 第 7 章 まとめ p.29 参考文献 p.30 謝辞 p.31 第1章 はじめに 夜空には、明るさが変化する星(変光星)がある。なかには肉眼では確認できなかった 星が肉眼ではっきり確認できる程の明るさに変化する星もある。それ故こういった星は、 紀元前から中国において、星がない場所に星が現れるという意味で「客星」と呼ばれてい た。客星は紀元前 134 年~近世まで多くの記述が残っている。これは中国だけではなく、 西暦に入ると日本の明月記や朝鮮半島などにも記録が残っている。しかし、この記録は出 現記録が主で、継続的な観測や研究はあまり行われていなかった。これは、中国では星が 変化することは当たり前であると考えられていたことに起因する。そのため、初めてこう いった星の継続的な観測や研究がなされたのは西洋でのことである。西洋では明るさの変 わる星はないと考えられていたため、それまで客星のような星の記録はほとんど残されて いなかった。しかしそれ故、明るさの変わる星を変光星として認識し、発展させることが できたと考えられている。 観測されたのは、1572 年にカシオペヤ座に急に現れた明るい星、観測者はデンマークの 天文学者ティコ・ブラーエ(Tycho Brahe)である。この星は 14 ヶ月にわたって明るく輝 き、その後見えなくなった。西洋では当時、星が変化したり、彗星が出現したりするのは すべて月下界(月の軌道の内側、大気中)での出来事であり天上界は不変であるというア リストテレス(Aristoteles)の考えが一般的だった。しかしティコによる、当時としては正確 な位置観測の結果、これは大気中の現象によるものなどではなく、天上界のものであると 結論づけられた。そこでティコはこういった星を、新しい星が誕生したという意味で「新 星」(nova stella)と名付けた。その後いくつかの新星が発見されていった。 19 世紀に入って変光星の観測が盛んになった中、1934 年にウォルター・バーデ(Walter Baade)とフリッツ・ツヴィッキー(Fritz Zwicky)が、1885 年にアンドロメダ座大銀河 M31 に出現した新星について、M31 までの距離から考えると、この星は典型的な新星よりもず っと明るいものであることが見出され、こういった星を「超新星」(supernova)と分類した。 また、超新星ではない新星を「古典新星」(classical nova)とした。その結果、今まで客星 と呼ばれていたり新星とされていた星の一部は超新星に分類された(表 1) 。また、1604 年 までの記録に残っている超新星はすべて銀河系内で出現したものだが、これ以降銀河系内 で出現した超新星は確認されていない。 表 1 超新星に 超新星に分類された 分類された星 された星 年 1006 1054 1181 1572 1604 1885 ※ 超新星名称 SN1006 SN1054 SN1181 SN1572 SN1604 SN1885A 星座 銀河 発見者、記録された文献 おおかみ座 銀河系 明月記(日本)、宋史(中国)など かに座 銀河系 明月記(日本)、宋史(中国)など カシオペア座 銀河系 明月記(日本)、宋史(中国)など カシオペア座 銀河系 ティコ・ブラーエ、明実録(中国)など へびつかい座 銀河系 ケプラー、李朝実録(朝鮮半島)など アンドロメダ座 アンドロメダ銀河 エルンスト・ハルトヴィッヒ他 超新星の名称は SN(supernova)、発見された西暦、番号で表される。 番号はその年で 1 番目に発見されたものから順に A,B,C,…,Z,aa,ab,…,az,ba,bb,…となる。 現在の天文学では、これらは新しい星が誕生したのではなく星の爆発現象であること、 古典新星と超新星では爆発の規模とメカニズムが違うことが分かっている。古典新星は星 の表面上で起こる爆発、超新星は星そのものの大爆発現象である。それは、超新星が星の 進化の最終段階における一度きりの現象であり、星の死であることを意味している。この 爆発により、超新星は数ヶ月~数年に渡って明るさを変化させながら輝くのである。この とき、もっとも明るいものでは絶対等級で-19 等以上にも達する。また、超新星爆発によ って吹き飛ばされたガスによる星雲状の天体は、超新星残骸として知られている。表1の 星が超新星であった証拠として、現在ではそこに超新星残骸が存在している。例えば、M51 かに星雲は SN1054 の超新星残骸である。 超新星にもいくつかの爆発過程があり、数種類の型に分類される。中でもⅠa 型に分類さ れる超新星は爆発過程の特徴から、そのすべてがほぼ同じ光度を持つとされている。その 性質と見かけの等級の関係から、宇宙における距離決定の指標に使われるなど、宇宙論に おいても大変重要な要素となっている。この関係や分類、超新星の詳しい爆発のメカニズ ムについては後の章にて触れる。 以上のことから、超新星を観測することは大変有意義である。しかし、超新星は一度き りの現象であるため、出現したそのときにしか観測できず、いつ、どこで出現するかもわ からない。そのため超新星の観測には、いざ出現した際にすぐさま望遠鏡を向け、継続し た観測を行える環境が必要である。この点においては、小口径ながらも複数の望遠鏡を持 つ故、豊富なマシンタイムをもつ岡山理科大学田邉研究室の得意とするところである。こ うした環境があった上、2011 年には幸いにも近傍の銀河に3つの超新星 SN2011by, SN2011dh, SN2011fe が出現した。そのため本研究では、この3つの超新星の小口径望遠 鏡による光学観測を試みた。 以下、本論文の構成は第 2 章超新星について、第 3 章観測について、第 4 章データ処理、 第 5 章結果、第 6 章解析、第 7 章がまとめとなっている。 第2章 超新星 2.1 超新星の 超新星の分類 超新星の観測例が増えていき、超新星から放射された光の分光によって天体の素性が調 べられていった結果、そのスペクトルの性質から大きく 2 つに分類されるようになった。 最も明るくなる極大期のスペクトルに、水素の輝線が見られないⅠ型と水素の輝線が見ら れるⅡ型である。Ⅰ型の超新星は、どれも似たような光度曲線を示すが、スペクトルにケ イ素の吸収線やヘリウムの吸収線が見られたり見られなかったりするものが観測されてい ったため、スペクトルの特徴によってさらに細分化されている。逆にⅡ型の超新星は光度 曲線の個性が強く、変化に富んでいたため、光度曲線の特徴によってさらに細分化されて いる。型の分類については図1の通りである。 最大光度のとき 水素の輝線あり/水素の輝線なし Ⅱ型 Ⅰ型 光度曲線の形 ケイ素の吸収線あり/ケイ素の吸収線なし Plateauあり/ Plateauなし Heの吸収線あり/Heの吸収線なし Ⅱ-P型 (Plateau)) Ⅱ-L型 Ⅰa型 Ⅰb型 (Linear)) 図 1 Ⅰc型 超新星の 超新星の分類 高原(1994) 1994)を参考に 参考に作成 2.2 超新星爆発の 超新星爆発のメカニズム 超新星爆発には単独星が爆発する重力崩壊型超新星と、連星系が爆発する熱核暴走反応 型超新星がある。Ⅰa 型のみが熱核暴走反応型超新星であり、図1で示された他の型はすべ て重力崩壊型超新星である。 2.2.1 単独星の 単独星の進化と 進化と重力崩壊型超新星( 重力崩壊型超新星(Ⅰb,Ⅰ b,Ⅰc,Ⅱ c,Ⅱ型) 単独星は自ら光を放射することで輝くため、輝くことによってエネルギーを失ってしま う。よって、星が輝き続けるためには、自らエネルギーを生み出し続ける必要がある。こ れは主に、内部で核融合反応を起こすことで得ている。そのため星は常に同じ状態にとど まることができず、進化していくのである。星を構成する元素の中で最も多量に存在する のが水素である。そのため核反応は、水素の原子核の融合によりヘリウムの原子核ができ る水素燃焼から始まる。しかし、生まれたばかりの星の中心部は核反応が生じるほど高温 ではないため、別の方法でエネルギーを得る必要がある。これは、星が収縮することで得 られる。星は収縮すると重力エネルギーが低い状態になる。つまり、収縮前と後の重力エ ネルギーの差だけ余分なエネルギーを得るのである。これが輝くことと星の内部の温度を 上昇させることに使われる。そうして収縮を続けていく内に、内部の温度が約 1.5~2×107K まで上昇すると水素燃焼が始まる。これにより中心部にはヘリウムがたまっていき、水素 を多量に含む外層とヘリウムのコアの2層構造になる。水素燃焼によりヘリウムのコアは だんだんと大きくなっていくが、ある程度の大きさになると、コアは自身を支えられなく なり収縮を始める。すると収縮によってヘリウムのコアの内部の温度が上昇する。そうし て温度が 1.5×108K まで達すると、今度はヘリウムの原子核が融合して炭素の原子核にな り、さらに炭素とヘリウムの原子核が融合して酸素の原子核ができるヘリウム燃焼が始ま る。これにより炭素と酸素のコアが形成され、ヘリウムのコアと同じように大きくなり、 収縮し、次の核反応が始まる。このように核反応とコアの収縮を交互に繰り返し、次々に 重い元素でできたコアを形成することで星は進化していき、そのたびに大きくなっていく。 この多層構造をたまねぎ構造という。この核反応がどこまで続くのかはその星の質量によ って異なり、質量が大きい星ほど核反応が進行していくが、最終的にケイ素から鉄のコア が形成されると止まってしまう。さらに重い元素でできたコアを形成するのは、今までと は逆にエネルギーが消費される反応だからである。この状態にまで達するのは質量が 10Mʘ 以上の星だけである。こうなると高い温度を維持できなくなり、圧力(重力に対する反発 力)が弱まってしまう。そのため自身の重力を支えることができなくなり、急激な収縮を 起こしてつぶれてしまう。これが重力崩壊である。重力崩壊により星の中心密度が急激に 上昇することで、中性子でできた高密度のコアが形成される。このコアの内部では収縮が 収まり、重力崩壊が止まる。しかしコアの外側では重力崩壊が続いているため、コアに向 かって外層が自由落下に近い速度で衝突し、跳ね返される。これをバウンスといい、この ときの膨大な重力エネルギーが、主にニュートリノ(ν)として解放され、その一部が外 層を吹き飛ばす。これが重力崩壊型超新星である。 層 M C +O + Ne + O Si Fe 外 H 量 に 含む を多 He g 図 2 たまねぎ構造 たまねぎ構造イメージ 構造イメージ図 イメージ図 2.2.2 連星系の 連星系の進化と 進化と熱核暴走反応型超新星 熱核暴走反応型超新星( 型超新星(Ⅰa 型) 連星系とは、2つの星が互いの重心を回っている天体の ロッシュ・ ロッシュ・ローブ ラグランジュ点 ラグランジュ点 ことである。この2つの星の重力圏の境界をロッシュ・ロ ーブと呼び、これが接する点をラグランジュ点という。星 の進化が進み片方の星 A がロッシュ・ローブよりも大きく 星A 星B なると、ラグランジュ点を通ってもう一方の星 B に質量が あふれ出し、降り積もっていく。これを降着という。降着 により星 A の質量は減少し、星 B の質量は増加する。する と星 A のロッシュ・ローブは小さくなっていくため、どん どん星 B に質量が降着していく。結果、質量の移動により 外層を失い、コアがむき出しになり、白色矮星になる。そ の後、星 B が進化しロッシュ・ローブより大きくなると、 今度は白色矮星に質量がゆっくり降着していき、星 B の質 量が減少する。これを質量交換という。白色矮星は、電子 の縮退圧で星の質量を支えている。しかし縮退圧で支えら 白色矮星 れる質量には限界がある。これをチャンドラセカール質量 (Mch)といい、Mch =1.44Mʘ であることが知られている。 質量交換の際、白色矮星の質量がチャンドラセカール質量 に近づくと、約 1.3Mʘ で炭素燃焼が始まる。縮退圧は温 度に依存しないため、膨張して温度と圧力を下げることが できず、核反応が暴走してしまう。その結果、星全体が吹 き飛んでしまう。これが熱核暴走反応型超新星である。こ 図 3 連星系の 連星系の進化過程 高橋( 高橋(1994) 1994)を参考に 参考に作成 の核反応の暴走により、多量の鉄が作られる。 また、これ以外にも白色矮星同士が連星系を成し、衝突、合体することでチャンドラセ カール質量に近づき、熱核暴走反応を起こすこともあると考えられている。 2.3 各型の 各型の特徴 (a)Ⅰ型の超新星 Ⅰ型はスペクトルに水素の輝線が見られない超新星である。これは、水素の外層がない 状態で星が爆発したことを意味している。つまり、Ⅰ型の超新星はたまねぎ構造の外層で あるところの水素の層がなんらかの要因で失われていることになる。 また、光度曲線は指数関数的な減光を示す特徴がある。 (a(a-1)Ⅰa 型超新星 2.2.2 で述べたように、Ⅰa 型超新星は白色矮星の爆発である。白色矮星であるが故、水 素の外層がないⅠ型の特徴を示している。 また、Ⅰa 型超新星は白色矮星がチャンドラセカール質量に近づくときに爆発することか ら、爆発の初期条件が非常に均質であり、Ⅰa 型超新星であればそのすべてがほぼ同じ最大 絶対等級を持つとされている。 特に B 等級においてその最大絶対等級(MB,max)は Vaughan et al (1995)によって MB,max = (-19.74±0.06) + 5log(H0/50) (mag) と与えられている。ここで H0 はハッブル定数(km s-2 Mpc-2)である。この最大絶対等級 (MB,max)と、観測から得られた最大実視等級(mB,max)には次の関係(ポグソンの公式)がある。 mB-MB = 5log(d/10) + AB ここでdは距離(pc), A は星間吸収量(mag)である。また、星間吸収量については以下の関係 がある。 AV/EB-V ≒3.0 EB-V = AB-AV ここで EB-V は色超過である。本来Ⅰa 型超新星は極大時において B-V ≒ 0 となる性質が あるため、極大時に実際に観測された B-V の値を EB-V として使用することで、星間吸収 量を求めることができる。 これらの性質と関係から、Ⅰa 型超新星の観測を行うことで、超新星までの距離(超新星 が所属する銀河までの距離)を得ることができる。 (a(a-2) Ⅰb 型超新星 水素の外層がないため、半径の小さい星の爆発であると考えられている。半径が小さい ため、光度曲線はⅠa 型の白色矮星のものとよく似た形を示す。 しかし、だからといってⅠb 型は白色矮星が爆発したものというわけではない。仮に白色矮 星の爆発だとすると、多量に合成された鉄によりヘリウムの吸収線が隠されてしまうから である。したがって、Ⅰb 型超新星は水素の外層が恒星風や連星内での相互作用などで失わ れ、ヘリウムの層が残っている状態の星が重力崩壊を起こしたものだと考えられている。 (a(a-3)Ⅰ 3)Ⅰc 型超新星 スペクトルにヘリウムの吸収線が見られないことから、水素の外層だけでなく、ヘリウ ムの層まで失われた星が重力崩壊を起こしたものだと考えられている。しかし、まだ確立 されたモデルはない。 (b)Ⅱ (b)Ⅱ型の超新星 スペクトルに水素の輝線が見られる超新星である。これは水素の外層が残っている状態 で爆発したことを意味している。スペクトルの特徴で細分化するⅠ型と違い、Ⅱ型は光度 曲線の形で細分化される。 (b(b-1)Ⅱ 1)Ⅱ-P 型超新星 最大光度に達した後、光度曲線が平坦になる特徴を持つ。この平坦な部分をプラトー (plateau)と呼ぶ。 (b(b-2)Ⅱ-L 型超新星 最大光度に達した後、光度曲線が指数関数的(直線的:リニア Linear)な減光をする特 徴がある。 Plateau Ⅱ-P型 型 Ⅱ-L型 型 図 4 Ⅱ型超新星の 型超新星の光度曲線の 光度曲線の特徴 Filippenko(1997)より Filippenko(1997)より引用 より引用 一部改変 2.4 今回観測した 今回観測した超新星 した超新星について 超新星について 3 つの超新星の諸量は以下の通りである。 表 2 3 つの超新星 つの超新星の 超新星の諸量 発見日( 発見日(2011年 2011年) 発見者 場所・ 場所・銀河 赤経( 赤経(α) 赤緯( 赤緯(δ) 観測期間( 観測期間(2011年 2011年) SN2011by 4月26日 26日 Zhangwei Jin, Xing Geo おおぐま座 おおぐま座・NGC3972 NGC3972 11h 55m 45.56s +55°19′33.8″ 5/2~ 23までの17 までの17夜 17夜 /2~7/23までの SN2011dh SN2011fe 5月31日 31日 8月24日 24日 Tom Reiland, Palomar Transient Thomas Griga,他 Factory Griga,他 りょうけん座 おおぐま座 りょうけん座・M51 おおぐま座・M101 13h 30m 05.8s 14h 03m 05.8s +47°10′11.2″ +54°16′25.3″ 11~9/14までの までの27夜 27夜 8/26~ 12/28までの 28までの30 までの30夜 30夜 7/11~ /14までの27 8/26~12/ C NGC3972 SN2011fe M101 M51 C C SN2011by SN2011dh 図 5 3 つの超新星 つの超新星の 超新星の位置関係( 位置関係(C は比較星) 比較星) 第3章 観測 3.1 3.1観測場所 観測は岡山理科大学 21 号館屋上の田邉研究室 天文台にて行った。 北緯 34°41′37.56″ 東経 133°55′50.87″ 図 6 田邉研究室天文台 図 7 スライディングルーフ 図 8 測光用望遠鏡ドーム 測光用望遠鏡ドーム 3.2 観測装置 3.2.1 測光観測系 a.望遠鏡 a.望遠鏡 C9(Celestron 社) 口径 :235mm 焦点距離:1480mm 形式 :シュミットカセグレン b.CCD カメラ 図 9 測光用望遠鏡 ST-7XE(SBIG 社) 冷却方式 :1段電子冷却(ベルチェ素子) チップサイズ :6.9×4.6mm ピクセル数 :765×510 ピクセルサイズ:9μ×9μ ST-9XE(SBIG 社) 冷却方式 :1段電子冷却(ベルチェ素子) チップサイズ :6.9×4.6mm ピクセル数 :512×512 ピクセルサイズ:20μ×20μ 図 60 CCD カメラ c.フィルター c.フィルター B,V,Rc,Ic フィルター(Johnson-Cousins) d.駆動系 赤道儀:EM200(タカハシ社) e.制御系 望遠鏡コントローラー :Temma2 CCD カメラ制御ソフト:CCDOPS(SBIG 社) 赤道儀制御ソフト 図 11 フィルター :Telescope Tracer 2000 3.2.2 3.2.2 分光観測系 a.望遠鏡 a.望遠鏡 C11(Celestron 社) 口径 :280mm 焦点距離:2800mm 形式 :シュミットカセグレン b.分光器 b.分光器 図 12 分光用望遠鏡 DSS-7(SBIG 社) 分散 :5.4Å/1pixcel 分解能 :15Å レゾリューション:約 400 速度分解能 :約 700km/s スリット幅 :50μ,(100μ,200μ,400μ) c.CCD カメラ ST-402(SBIG 社) 冷却方式 :1段電子冷却(ベルチェ素子) チップサイズ :6.9×4.6mm ピクセル数 :765×510 ピクセルサイズ:9μ×9μ d.駆動系 赤道儀:NJP(タカハシ社) e.制御系 望遠鏡コントローラー :Temma2 CCD カメラ・分光器制御ソフト:CCDOPS(SBIG 社) 赤道儀制御ソフト :Telescope Tracer 2000 3.3 観測方法 観測方法 3.3.1 観測準備 a.ファインディングチャート a.ファインディングチャートの ファインディングチャートの作成 ファインディングチャートとは、目的天体を見つけるために使う星図のことである。こ れにはインターネット上の The STScI Digitized Sky Survey のアーカイブデータを使用し ている。このとき、目的天体の赤経(α)と赤緯(δ)を調べておく。実際に使用したファイン ディングチャートは図 13 の通りである。ただし、今回は超新星の観測であるので、所属す る銀河などのだいたいの位置を示している。また、既知の変光しない星を比較星として使 用する必要がある観測を行う場合は、ファインディングチャート内で比較星(C)を決定する。 今回は超新星の差測光も行うため、比較星も決定しておく。比較星には目的星に近い色(B -V)と明るさを持つものが適している。そのため、Cartes du Ciel (Sky Charts)などの天 文ソフトやインターネット上の SDSS DR7 Navigate Tool などを利用し、比較星の諸量を 調べて決定する。また、Johnson-Cousins の B,V,Rc,Ic フィルターを使用しているため、比 較星の諸量も B,V,Rc,Ic 形式に変換しておく。 C C C 図 13 実際に 実際に使用した 使用したファインディングチャート したファインディングチャート 30′× 30′×30 ′×30′ 30′ 表 3 各比較星の 各比較星の諸量 SN2011byの SN2011byのC SN2011dhの SN2011dhのC SN2011feの SN2011feのC 赤経( 赤経(α) 11h 56m 39.1s 202.64178 (deg) 211.09030 (deg) 赤緯( 赤緯(δ) +55°26′11″ 47.27906 (deg) 54.32290 (deg) B等級 12.18 14.394 12.821 V等級 Rc Rc等級 等級 Ic等級 12.56 11.99 13.596 13.223 12.873 12.121 11.727 11.357 b,CCD b,CCD カメラの カメラの冷却 CCD カメラは、各ピクセルが光の明暗を電流の強弱に変換する半導体素子でできており、 光が当たらない状態でも各ピクセルに序々に電子がたまっていってしまう性質がある。た まる電子の量は温度が高いほど多くなるため、なるべく CCD の温度を下げる必要がある。 そのため CCD カメラを冷却するのだが、冷却直後は温度が不安定になり、撮像を行っても 図 のような円状のノイズなどが発生してしまう。それ故、CCD カメラは観測の数時間前 から冷却をして安定させておく必要がある。 図 14 冷却開始後、 冷却開始後、安定前( 安定前(左)と安定後( 定後(右) c.フラットフィールド c.フラットフィールドの フラットフィールドの撮像( 撮像(測光観測 測光観測の場合) 場合) CCD は各ピクセルに感度ムラがあるため、それを補正する必要がある。その補正に必要 なものがフラットフィールドである。フラットフィールドは、夕方や明け方の薄明時に鏡 筒上に光拡散板を乗せた状態で天頂に向けることで、均一な光を撮像したものである。こ れをフィルターごとに撮像する。ここでは、カウント値が 20000~30000 カウント内に収 まるようにして、CCDOPS の dark also で各フィルター10 枚ずつ撮像している。 図 15 フラットフィールド撮像例 フラットフィールド撮像例 3.3.2 天体の 天体の導入 赤道儀の電源を入れ、観測室で Telescope Tracer 2000 を起動する。望遠鏡の天頂設定を 行った後に導入するのだが、いきなり目的天体の赤経、赤緯を入力しても、1 回で CCD の 視野内に導入することは難しい。そこで、目的天体付近の明るい恒星を導入し、赤道儀の 位置設定を行う。 a.赤道儀 a.赤道儀の 赤道儀の位置設定 まず、Telescope Tracer 2000 上で目的天体付近の明るい恒星を探し、クリックから導入 を行う。その後望遠鏡コントローラーを用いて、CCD の視野の中央に恒星が位置するよう に調節する。この調節は望遠鏡のファインダーを見て直接行う。ただし測光観測用望遠鏡 のファインダーには、ビデオカメラが取り付けられているため、制御室のモニターを見な がら行うことができる。調節が完了したところで、Telescope Tracer 2000 上の恒星をクリ ックから位置設定を行う。 b.目的天体 b.目的天体の 目的天体の導入 Telescope Tracer 2000 に目的天体の赤経、赤緯を入力する。ファインディングチャート を見ながら目的天体を探し、位置を調節する。このときピントの調節も行っておく。 3.3.3 測光観測 a.目的天体 a.目的天体の 目的天体の撮像 目的天体と比較星が CCD の視野内に収まるように位置を調節した後、B,V,Rc,Ic の 4 色 のフィルターで撮像を行う。本研究では露出 60 秒で、1 夜に各フィルター約 5~15 枚の撮 像を行った。 b.ダークフレーム b.ダークフレームの ダークフレームの撮像 画像を読み出す際に現れる読み出しノイズや、冷却で除去しきれなかったノイズを取り 除くために、天体撮像の際と同じ露出時間で、望遠鏡に蓋をして光が入らない状態で撮像 をする。これをダークフレームといい、観測データから引くことでノイズを除去すること ができる。 3.3.4 分光観測 a.スペクトル a.スペクトルの スペクトルの撮像 目的天体が、CCDOPS で表示されるスリットの中心に来るように調節した後、スペクト ルの撮像を行う。本研究では、光度の関係上 SN2011fe のスペクトルデータしか得られなか った。露出時間は 90 秒。その長さ故、天体がスリットから外れてしまわないように、タイ ミングを見計らって位置調整をしている。1 夜に約 15 枚のスペクトルの撮像を行った。 b.コンパリソン b.コンパリソン( コンパリソン(比較光源) 比較光源)の撮像 得られたスペクトルの波長較正のために、スライディング ルーフを締め切り、水素とヘリウムの放電管からそれぞれス ペクトルを得る。60 秒露出で1枚ずつ撮像している。 図 16 放電管 c.フラットフィールド c.フラットフィールドの フラットフィールドの撮像 同じくスライディングルーフを締め切った状態で、 筒上に光拡散板を乗せ、白熱球2つの光を撮像する。 60 秒露出で10 枚撮像している。 図 17 白熱球の 白熱球の配置図 d.ダークフレーム d.ダークフレームの ダークフレームの撮像 望遠鏡の蓋をして光が入らないように撮像する。ダークフレームは、フラットフィール ドと同じ露出時間、天体のスペクトルと同じ露出時間の 2 種類が必要である。本研究では 60 秒露出 1 枚と 90 秒露出を 10 枚撮像している。 第4章 データ処理 データ処理 4.1 測光データ 測光データの データの処理 4.1.1 一次処理 第 3 章で述べたように、観測データには CCD の感度ムラや、ダークノイズが含まれる。 これらを取り除くことを一次処理という。一次処理にはすばる望遠鏡画像解析ソフト:マ カリ(makalii)と CCD 画像処理ソフト:AIP4Win Ver2 を用いる a.ダークフレーム a.ダークフレーム 解析する上で邪魔になるダークノイズのみ を撮像したものがダークフレームである。つ まり観測データからダークフレームを引くこ とで、ダークノイズを除去することができる のである。本研究では、10 枚のダークフレー ムを重ね合わせた(composite)ものをマスタ ーダークフレームとして、観測データから引 いている。この重ね合わせるのにマカリ、観 測データから引くのに AIP4Win Ver2 を用 いている。以下断りがない限り、重ね合わに はマカリを、一次処理には AIP4Win Ver2 を 使用している。 図 18 マスターダークフレーム b.フラットフィールド 観測データから、各ピクセルに均一に光を 当てた状態であるフラットフィールドを割る ことで、感度ムラの補正を行う。ただし、フ ラットフィールドにもダークノイズが含まれ ているため、同じ露出時間で撮像したダーク フレームを引く必要がある。しかし測光観測 ではフラットを撮像する際に dark also(撮像 後に自動でダークフレームも撮像し処理して くれるモード)にしているため、このままで フラットフィールドとして使用できる。本研 究では、フラットフィールドを 10 枚重ねた ものをマスターフラットフィールドとして、 観測データから割っている。 図 19 マスターフラットフィールド 4.1.2 測光 測光するにあたり、観測データのカウント値が低いと正確な測光はできない。そこで、 本研究では、一次処理した観測データを約 10 枚重ねたものを使用している。測光は、 AIP4Win Ver2 を用いた差測光を行った。差測光とは、同一視野内の既知の変光しない星(比 較星C)の明るさ(カウント値)と、目的天体(V)の明るさの差を測ることで、その星 の等級を測る方法である。比較星については 3.3.1 節で触れた通りである。 AIP4Win Ver2 では、どのように星の明るさを測っているのかを説明する。明るさはカ ウント値であるが、単純に星のカウント値がその星自体の明るさではない。なぜなら、夜 空自体が光害などである程度の明るさを持つからである。そこで、AIP4Win Ver2 では Aperture Photometry と呼ばれる測光をして いる。これは天体に径の異なる 3 つの円(ア パーチャー:Aperture)を当て、一番小さい 円、図 20 でいえばと緑の円の内側のカウント 値の合計から、青い円同士の間(スカイ幅) のカウント値の平均を引くというものである。 これにより、星のカウント値から夜空のカウン ト値を引いたことでその星自体の明るさになる。 これを、目的星と比較星でそれぞれ行い、さら にその差をとることで、比較星との等級の差を 図 20 アパーチャーを アパーチャーを当てた星 てた星の例 求めることができる。目的星と比較星を選択し、アパーチャーのサイズを調節するだけで ここまでの計算を AIP4Win Ver2 が行ってくれる。後は、比較星が既知の星であることか ら、比較星の等級に目的性との等級の差を足すことで、目的星の等級を得ることができる。 図 21 目的星(V) 目的星(V)と (V)と比較星(C) 比較星(C)の (C)の選択 4.2 分光データ 分光データの データの処理 4.2.1 一次処理 基本的には測光観測と同じであるが、一次処理には美星天文台で開発された分光ソフト BeSpec を用いている。 また、ダークノイズを取り除かなければフラットフィールドをそのままで使えないこと も測光観測と異なる。 4.2.2 分光 測光と同様に、一次処理を終えた観測データを 10 枚ほど重ね合わせたものを使用する。 図 22 一次処理後、 一次処理後、10 枚重ねた 枚重ねた SN2011fe のスペクトル a.スペクトル a.スペクトルの スペクトルの読み取り 観測データには異なる5つのスリットとスペクトルが存在しているため、解析範囲を 指定する必要がある。以降の作業は BeSpec で行う。 図 23 解析する 解析するスペクトル するスペクトルの スペクトルの範囲を 範囲を指定 これをグラフ化すると図 24 のようになる。しかし、この状態では横軸はピクセルナンバ ーであり、波長ではない。縦軸はカウント値である。 図 24 抽出した 抽出した SN2011fe のスペクトル b.波長較正 b.波長較正 横軸をピクセルナンバーから波長に変換するために、比較光源として撮像した水素と ヘリウムのスペクトルを抽出し、グラフ化する。 図 25 ヘリウム放電管 ヘリウム放電管の 放電管のスペクトル 図 26 ヘリウム放電管 ヘリウム放電管の 放電管のスペクトルグラフ このときに見られた主な輝線の頂点のピクセルナンバーを、ガウスフィット等で調べ て、エクセルにメモし、波長の同定を行う。 図 27 輝線の 輝線の頂点の 頂点のピクセルナンバーを ピクセルナンバーを調べる 図 28 輝線の 輝線のピクセルナンバーと ピクセルナンバーと波長をまとめる 波長をまとめる 図 28 に基づいた散布図を作成する。2 次の回帰直線を引き、その関係式を得る。 図 29 ピクセルナンバーと ピクセルナンバーと波長の 波長の回帰直線と 回帰直線と関係式 この関係式のXにピクセルナンバーを代入すれば、波長較正は完了する。 c.規格化 c.規格化 波長較正したものを BeSpec で開き、規格化メニューから、そのスペクトルにフィット する black body を指定し、それを1としたスペクトルに変換する規格化を行う。 図 30 規格化前の 規格化前の SN2011fe のスペクトル 点線が 点線が指定した 指定した black body. body. 図 31 規格化した 規格化した SN2011fe のスペクトル 4.3 4.3 観測ログ 観測ログ 本研究における3つの超新星の測光観測ログを以下に示す。 日付け 5月2日 5月5日 5月8日 5月13日 5月20日 5月24日 5月30日 6月1日 6月3日 6月4日 6月24日 6月28日 6月29日 7月11日 7月12日 7月14日 7月23日 JD 5684.188 5687.059 5690.128 5694.961 5701.994 5706.01 5711.999 5713.981 5715.972 5716.985 5736.987 5741.021 5742.01 5753.995 5754.982 5756.983 5766 表 4 SN2011by の測光観測ログ 測光観測ログ B V 冷却 等級 誤差 等級 -10℃ 1.3217 -10℃ 13.133 0.009 1.0149 -5℃ 12.98771 0.016 0.879667 -5℃ 13.1108 0.012 0.9234 -5℃ 1.04575 -5℃ 14.041 0.068 1.489 -5℃ 14.76089 0.039 1.7718 -5℃ -5℃ 14.992 0.218 1.854833 -5℃ 15.459 0.294 1.936857 3℃ 3.092 4℃ 3.25 4℃ 4℃ 4℃ 3.463 4℃ 4℃ 誤差 0.021 0.006 0.013 0.032 0.013 0.053 0.040 0.056 0.047 0.100 0.136 0.139 Rc 等級 13.5259 13.1937 13.10611 13.1004 13.4947 13.75275 13.89733 14.013 14.05333 13.99438 15.0579 15.1648 15.34778 15.8343 15.476 15.552 15.426 誤差 0.018 0.007 0.007 0.040 0.013 0.019 0.014 0.059 0.024 0.031 0.051 0.044 0.063 0.070 0.123 0.080 0.114 表 5 SN2011dh の測光観測ログ 測光観測ログ B 日付け 7月11日 7月12日 7月14日 7月20日 7月23日 7月26日 7月28日 7月29日 8月2日 8月3日 8月4日 8月9日 8月11日 8月24日 8月28日 8月30日 8月31日 9月5日 9月6日 9月7日 9月8日 9月9日 9月11日 9月12日 9月13日 9月14日 9月22日 JD 5754.013 5755.002 5756.994 5762.968 5765.968 5768.972 5770.977 5771.976 5775.966 5776.953 5778.098 5783.008 5784.954 5797.995 5802.047 5803.981 5805.021 5810.006 5810.979 5811.976 5812.975 5813.982 5815.949 5816.98 5817.95 5818.948 5826.954 冷却 4℃ 4℃ 4℃ 4℃ 4℃ 4℃ 4℃ 4℃ 4℃ 4℃ 4℃ 4℃ 10℃ 10℃ 10℃ 6℃ 6℃ 3℃ 3℃ 3℃ 3℃ 4℃ 4℃ 4℃ 4℃ 4℃ -2℃ 等級 15.1424 14.86713 15.277 15.6429 V 誤差 0.042 0.034 0.072 0.066 等級 13.778 14.0935 14.1756 14.2739 14.282 14.556 14.443 14.277 14.432 14.441 14.6 14.862 14.507 14.8 誤差 0.064 0.080 0.049 0.016 0.074 0.135 0.114 0.042 0.056 0.036 0.036 0.104 0.047 0.064 14.896 0.081 15.425 15.25 0.088 0.086 15.34 0.210 Rc 等級 13.3406 13.3639 13.4179 13.6036 13.68818 13.7409 13.8649 13.7877 13.9082 13.8764 13.9184 14.0164 14.0424 14.3584 14.3784 14.4394 14.4594 14.5114 14.5494 14.5634 14.4804 14.4854 14.6594 14.6974 14.6414 14.7784 14.8404 Ic 誤差 0.010 0.013 0.012 0.006 0.016 0.037 0.030 0.013 0.030 0.029 0.018 0.061 0.031 0.030 0.061 0.033 0.030 0.035 0.030 0.034 0.059 0.074 0.032 0.042 0.040 0.039 0.059 等級 誤差 13.5084 13.4274 13.4794 13.5484 13.5994 13.7684 13.8494 13.9084 0.103 0.015 0.0198 0.045 0.0215 0.0832 0.0487 0.0342 14.0454 14.0384 14.0254 14.1474 14.0874 0.0255 0.0317 0.0458 0.2298 0.0716 14.1314 14.2524 0.0306 0.0325 表 5 SN2011fe の測光観測ログ 測光観測ログ B 日付け 8月28日 8月29日 8月30日 8月31日 9月5日 9月6日 9月7日 9月8日 9月9日 9月10日 9月11日 9月12日 9月13日 9月14日 9月18日 9月22日 10月4日 10月7日 10月8日 10月12日 10月18日 10月20日 10月27日 12月14日 12月16日 12月17日 12月19日 12月20日 12月22日 12月28日 冷却 10℃ 10℃ 6℃ 6℃ 3℃ 3℃ 3℃ 3℃ 4℃ 4℃ 4℃ 4℃ 4℃ 4℃ 4℃ -2℃ -5℃ -10℃ -10℃ 0℃ 0℃ 5℃ 0℃ -10℃ -15℃ -15℃ -10℃ -10℃ -10℃ -10℃ JD 5802.011 5803.002 5803.948 5804.97 5809.963 5810.957 5811.954 5812.95 5813.955 5814.975 5815.934 5816.97 5817.937 5818.934 5822.954 5826.94 5838.932 5841.938 5842.908 5846.912 5852.918 5854.908 5861.878 5910.275 5912.328 5913.325 5915.274 5916.318 5918.272 5924.314 V 等級 12.7491 12.2281 11.8061 11.5181 10.5471 10.4501 10.4061 10.3641 10.3471 10.3361 10.2521 10.3151 10.3621 10.3981 10.6951 10.9921 誤差 0.015 0.016 0.014 0.033 0.007 0.007 0.009 0.047 0.023 0.011 0.011 0.010 0.012 0.009 0.021 0.008 等級 12.4379 12.0089 11.6379 11.3129 10.4479 10.4399 10.2749 10.3149 10.1299 10.2909 10.2839 10.3119 10.1689 10.2359 10.0289 10.2569 誤差 0.011 0.015 0.007 0.011 0.005 0.006 0.007 0.011 0.015 0.009 0.007 0.006 0.008 0.008 0.101 0.009 12.5251 12.6441 12.9141 13.1441 13.2271 0.054 0.064 0.087 0.022 0.036 11.3649 11.4229 11.8729 12.0759 12.1059 0.028 0.020 0.040 0.016 0.020 14.1361 14.1711 14.1951 14.1941 14.2251 14.1991 14.3381 0.051 0.026 0.026 0.021 0.050 0.020 0.034 13.6299 13.6979 13.6929 13.7179 13.7869 13.7799 13.9919 0.035 0.021 0.019 0.019 0.043 0.018 0.036 Rc 等級 12.2655 11.8235 11.4685 11.1505 10.2745 10.2195 10.1705 10.1605 10.1265 10.1125 10.0645 10.1085 10.0775 10.1065 10.3045 10.6275 10.8535 11.0545 11.0845 11.2985 11.7525 11.8365 12.0995 13.6465 13.6395 13.6745 13.7585 13.7125 13.8505 14.0095 Ic 誤差 0.007 0.008 0.005 0.005 0.003 0.004 0.005 0.007 0.005 0.005 0.004 0.005 0.004 0.010 0.043 0.005 0.007 0.011 0.011 0.030 0.010 0.013 0.021 0.029 0.017 0.020 0.019 0.055 0.023 0.030 等級 12.2525 11.8215 11.4435 11.1505 10.4115 10.3685 10.3515 10.3635 10.3785 10.4115 10.4405 10.4935 10.5045 10.5745 誤差 0.008 0.009 0.007 0.004 0.003 0.004 0.005 0.007 0.005 0.005 0.004 0.006 0.005 0.005 11.0315 0.0051 10.8025 10.7865 10.9965 0.0131 0.0104 0.0224 11.5605 0.0148 13.8375 13.8795 13.9035 14.0315 14.0585 14.0955 14.3005 0.0552 0.0342 0.0385 0.0371 0.1126 0.0311 0.0624 第5章 結果 5.1 光度曲線 観測した各超新星の光度曲線を以下の図 32 に示す。欠測を補うため海外(VSNET 経由) のデータも利用している。横軸はユリウス日(-245000),縦軸は等級を表す。 10 7 SN2011 SN 2011by 2011 by SN2011dh 11 9 12 magnitude magnitude 11 13 14 15 13 15 16 17 17 19 18 5670 5690 5710 5730 5750 5770 5790 5700 5720 5740 6 5780 5800 SN2011fe 7 Ic - 4 Rc-2 V B+2 Ic((海外 海外の データ) Ic のデータ )- 4 Rc( Rc ( 海外の 海外の データ) データ) - 2 海外の データ) V( 海外 のデータ ) 海外の データ)+ )+2 B (海外 の データ )+ 2 8 9 10 magnitude 5760 JD(-245000) JD( JD ( - 245000) 245000 ) 11 12 13 14 15 16 17 5780 5800 5820 5840 5860 5880 5900 5920 5940 JD(-245000) 図 32 3つの超新星 つの超新星の 超新星の光度曲線 図 32 より3つの超新星の見かけ上の極大(m)と極大日は表 6 の通りである。 表 6 3つの超新星 つの超新星の 超新星の見かけ上 かけ上の極大 超新星 m B ,max 極大日( 極大日(B) SN2011by 12.988±0.016 (mag) 5月9.35± 35±0.19 (UT) UT) SN2011fe 超新星 10.257±0.009 (mag) m v,max 9月10. 10.45± 45±0.13 (UT) UT) 極大日((V) 極大日 SN2011dh 12.73±0.099 (mag) 6月17. 17.50± 50±0.30 (UT) UT) 5820 5840 5.2 色等級図 図 34 に色等級図を示す。横軸はユリウス日(-245000)、縦軸は等級を表す。 2.0 1.6 SN2011by B-V 1.5 SN2011dh 1.4 V-R B-V V-R 1.0 1.0 magnitude magnitude 1.2 0.5 0.8 0.6 0.4 0.0 0.2 0.0 - 0.5 56 80 5 700 572 0 57 40 5 760 575 0 5 760 5 770 5780 57 90 JD(-245000) JD(-245000) 2.5 SN2011fe 2.0 B-V V-R 590 0 59 20 B-I magnitude 1.5 1.0 0.5 0.0 -0.5 -1.0 578 0 58 00 5 820 584 0 58 60 5 880 5 940 JD(-245000) 図 32 3つの超新星の 超新星の色等級図 また、B フィルターの見かけの極大付近の B-V は表7の通りである。 表 7 mB,max 付近の 付近の B-V 等級 超新星 UT SN2011by 5月8.64 SN2011fe 9月10.48 等級 -0.072 0.045 誤差 0.029 0.020 5 800 5 810 582 0 5.3 スペクトル 3.3.4 節でも述べたように、SN2011fe のスペクトルのみ得ることができた。また、超新 星のスペクトルを得ることができたのは、岡山理科大学田邉研究室天文台において今回が 初めてのことである。図 33 に極大付近のスペクトルを示す。 SN2011fe(9/11) relative intensity ケイ素 2 1.8 1.6 1.4 1.2 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 4000 4500 5000 5500 6000 6500 7000 wavelength(Å Å) 図 33 極大付近の 極大付近の SN2011fe のスペクトル Ⅰa 型超新星の特徴である、水素のケイ素(SiⅡ)の吸収線が見られる。 7500 第 6 章 解析 6.1 光度曲線 3つの超新星の極大が判明したので、それぞれ光度曲線の横軸を極大日を 0 とした時間 とすると図 34 のようになる。 10 7 SN2011by SN2011dh 11 9 12 11 magnitude magnitude 13 14 15 13 15 16 17 17 18 19 19 -20 0 20 40 60 80 Day from B maximum 6 -20 100 20 40 60 80 100 Day from V maximum SN2011fe 7 Ic - 4 Rc-2 V B+2 Ic((海外 海外の データ) Ic のデータ )- 4 Rc( Rc ( 海外の 海外の データ) データ) - 2 海外の データ) V( 海外 のデータ ) 海外の データ)+ )+2 B (海外 の データ )+ 2 8 9 magnitude 0 10 11 12 13 14 15 16 17 -20 0 20 40 60 80 100 120 Day from B maximum 図 34 3つの超新星 つの超新星の 超新星の光度曲線 横軸は 横軸は B フィルター( フィルター(SN2011dh のみ V フィルター) フィルター)の極大日を 極大日を 0 とした時間 とした時間、 時間、縦軸は 縦軸は見かけの等級 かけの等級. 等級. 図 35 を見ると SN2011fe の光度曲線とよ く似ている。また、SN2011by と SN2011dh では SN2011by の方が、似た特徴を示して いる。 図 35 典型的な 典型的なⅠa 型超新星の 型超新星の光度曲線 山中( 山中(2008) 2008)より引用 より引用. 引用. 6.2Ⅰ 6.2Ⅰa 型超新星の 型超新星の理論 スペクトルや光度曲線の形から、少なくとも SN2011fe はⅠa 型超新星であろうので、 2.3(a-1)で述べた理論に当てはまるかを検証する。 まず、Ⅰa 型超新星に共通の極大絶対等級(MB,max)を求める。式は次の通りである。 MB,max = (-19.74±0.06) + 5log(H0/50) (mag)…① ここで使われているハッブル定数(H0)は、観測事実をもとに作られた、銀河系の天体の 後退速度は距離に比例するというハッブルの法則(d=cz/H0)の定数である。その定数には 幅があり、現在も観測例によって変化し続けている。本研究では、Riess (2011)による H0 = 73.8±2.4 (km/s・Mpc)を使用する。ちなみに、①式が発見された周辺時期では、 H0 = 57±4 (km/s・Mpc)が使われていた(Niemeyer 2000)。 ①式と H0 = 73.8±2.4 より MB,max = -18.89±0.13 また、極大時の B-V≒0 になる」ことから、Ⅰa 型超新星の極大時における B-V 等級 の大きさが、その星(銀河)までの星間吸収 EB-V になるので、星間吸収量 AB を求めること ができる。ここで既に調べられた、銀河までの星間吸収量があれば、超新星がⅠa 型なのか、 又は理論に合うのかを確認することができる。探してみたところ、SN2011fe については Patat (2011)により銀河系とホスト銀河の星間吸収が調べられていた。つまりこの2つの星 間吸収を足したものが、B-V の値と誤差の範囲内で一致するかで確認がとれる。しかし、 SN2011by,SN2011dh については、NASA/IPAC Extragalactic Database より、銀河系での 星間吸収までしか分からなかった。得られたデータを表 8 にまとめた。 表 8 B-V と星間吸収 超新星 SN2011by SN2011fe SN2011dh 極大付近の 極大付近のB-V 0.072±0.029 (mag) 0.045±0.020 (mag) ― 銀河系の 銀河系の星間吸収E 星間吸収EB-V 0.014 (mag) 0.011±0.002 (mag) 0.035 (mag) ホスト銀河 ホスト銀河の 銀河の星間吸収E 星間吸収EB-V ― 0.014±0.002 (mag) ― 表8より SN2011fe は、Patat (2011)による星間吸収が 0.025±0.004、B-V による星間吸 収が 0.045±0.020 なので、誤差の範囲内で一致している。以後の計算には、B-V による 星間吸収を使用する。また、SN2011dh については星間吸収を得ることができなかったた め、以降のⅠa 型超新星の理論からは除外している。 EB⁻V が得られたため、2.3(a-1)で述べた星間吸収の関係から、AB を求める。 表 9 星間吸収量A 星間吸収量A 超新星 SN2011by SN2011fe EB-V 0.072±0.029 (mag) 0.045±0.020 (mag) AV 0.216±0.087 (mag) 0.135±0.060 (mag) AB 0.288±0.116 (mag) 0.180±0.080 (mag) 極大絶対等級 MB,max と星間吸収量 AB が得られたため、見かけ上の極大等級(mB)と極 大絶対等級の関係(②式)から、超新星(銀河)までの距離dを求める。 mB-MB = 5log(d/10) + AB…② また、これ以外にも外部のデータにより、ハッブルの法則やセファイド変光星によるdも 比較のために求めたり、引用したりした。 表 10 距離d 距離dの比較 超新星 SN2011by SN2011fe 観測した 観測した超新星 した超新星による 超新星による距離 による距離d 20.8±2.7 (Mpc) 6.2±0.6 (Mpc) ハッブルの ハッブルの法則による 法則による距離 による距離d 11.6±0.4 (Mpc) 3.3±0.1 (Mpc) セファイドによる セファイドによる距離 による距離d ― 6.4±0.7 (Mpc) ハッブルの法則については、NASA/IPAC Extragalactic Database より赤方偏移zを引用し、 d=cz/H0 よりdを求めた。C は光速。引用した赤方偏移zの値は表 11 の通りである。 表 11 引用した 引用したz したz 超新星 SN2011by SN2011fe 赤方偏移Z 赤方偏移Z 0.002843±0.000005 0.000804±0.000007 セファイド変光星による距離dは Shappee (2011) より引用. また、ハッブルの法則とセファイド変光星による d を使用したときの極大絶対等級 (MB,max)はどうなるかもまとめた。 表 12 理論上の 理論上のMBmax 超新星 SN2011by -18.89±0.13 (mag) SN2011fe MB,max の比較 MBmax( max(ハッブルの ハッブルの法則による 法則によるd によるdのとき) のとき) -17.38±0.09 (mag) -17.42±0.11 (mag) MBmax( max(セファイドによる セファイドによるd によるdのとき) のとき) ― -18.87±0.25 (mag) 第 7 章 まとめ 以上のことをまとめると以下のようになる。 (1) 光度曲線を見ると、SN2011by と SN2011fe は典型的なⅠa 型の光度曲線に似ている。 (2) スペクトルを見ると、SN2011fe はⅠa 型超新星の特徴を示している。 (3) SN2011fe の観測による極大時の B-V が外部のデータの星間吸収 EB-V と誤差の範囲内 で一致している。これはⅠa 型超新星の特徴である。 (4) SN2011fe の観測による距離dと外部のデータのセファイド変光星による距離dが誤差 の範囲内で一致している。 (5) ハッブルの法則による距離dは他の方法による距離dと約 2 倍、極大絶対等級でいえば、 役 1.5 等の差がある。 したがって次のことがいえる。 (1) SN2011fe はⅠa 型超新星である。 (2) 今回得られたデータでいえば、Ⅰa 型超新星の極大時の B-V≒0 であった。 (3) SN2011fe はⅠa 型超新星としての理論に沿っており、宇宙での距離決定の指標として 機能していた。 (4) ハッブルの法則は、SN2011by と SN2011fe の距離域では正常に作用しない可能性があ る。 今後の課題としては (1)⊿m15(B)を用いた MB,max の算出と考察 Ⅰa 型超新星の見かけ上の極大等級mB,max と、それから 15 日後の等級から、極大絶対等 級 MB,max を算出することができる。これが理論上の MB,max と一致するのかなど、考察の幅 を広げたい。 参考文献 [1] Cox,N,A, 1999, “ASTROPHYSICAL QUANTITIES”, (AIP RRESS), pp 451-469 [2] Filippenko,V, A, 1997, “OPTICAL SPECTRA OF SUPERNOVAE” [3] Niemeyer.C. J and Truran.W. J, 2000, “Type Ⅰa Supernovae:Theory and Cosmology”, (CAMBRIDGE UNIVERSITY PRESS),p2 [4] Patat,F, Cordiner,A ,M, Cox, J, L,N, 他 , 2011, “ Multi-epoch high-resolution spectroscopy of SN2011fe - Linking the progenitor to its environment” [5] Phillips.M.M, 1999, “THE REDDENING-FREE DECLINE RATE VERSUS LUMINOSITY RELATIONSHIP FOR TYPE Ⅰa SUPERNOVAE” [6] Riess,G,A, 2011,” A 3% SOLUTION: DETERMINATION OF THE HUBBLE CONSTANT WITH THE HUBBLE SPACE TELESCOPE AND WIDE FIELD CAMERA 3*” [7] Schneider, Peter, 2006, “Extragalactic Astronomy and Cosmology”, (Sprnger) , p49,pp324-325 [8] Shappee,J,B and Stanek,Z,K, 2011, “A New Cepheid Distance to the Giant Spiral M101 Based on Image Subtraction of Hubble Space Telescope/Advanced Camera for Surveys Observations “ [9] Vaughan,T,E , Brandch,D , Miller,D,L , & Perlmutter,S , 1995 , (Apj) , p34, p390 [10] 今井優二, 2005, 卒業論文「超新星 SN2004et の CCD 多色測光観測 」, (岡山理科大 学・田邉研究室) [11] 今村和義, 2008, 卒業論文「活動銀河核の CCD 分光観測」, (岡山理科大学・田邉研究室) [12] 日本変光星研究会 編,2009,「変光星観測」,(誠文堂新光社) [13] 尾崎洋二,2002,「星はなぜ輝くのか」,(朝日新聞社) [14] 高原まり子, 1994,「壮絶なる星の死-超新星爆発-」,(培風館) [15] 西村昌能,2004,「ティコの星とケプラーの星が当時の社会に与えた衝撃」(天文教育 2004 年 11 月号)掲載 [16] 野本憲一,「元素はいかにつくられたか」,(岩波書店,2007) [17] 野本憲一,定金晃三,佐藤勝彦(編),「現代の天文学 7 恒星」,(日本評論社,2009) [18] 山中雅之, 2008,「早期発見により実現可能となった Ia 型超新星の早期観測とその多様 性」,(第 19 回 西はりま天文台シンポジウム)集録 謝辞 それまでの講義に始まり、3 年生のプレゼミから 4 年生の卒業に至るまで、天文学だけで なく、幅広い分野の学問とそれを学ぶ姿勢など、多岐にわたり丁寧にご指導、ご助言をし ていただいた田邉健茲先生には、大変感謝しております。おかげさまでゼミ生になってか らは、濃くて充実した時を過ごすことができ、数多くのことを学ぶことができました。本 当にありがとうございました。 また、実際の観測やデータ処理の仕方などをご指導していただいた、大学院生の今村和 義さんと高木良輔さんにも大変お世話になりました。ご迷惑をおかけしたこともあったで しょうが、お忙しいであろうときでも、こちらの質問に対して丁寧に受け答えしていただ き大変感謝しています。ありがとうございました。 そして、ゼミ生である小木美奈子さんには、よく観測を手伝っていただきました。とき には観測の穴を埋めていただくこともあり大変感謝しております。ありがとうございまし た。 また、田邉教授の奥様である直子夫人にはよく気を掛けていただき、その暖かい心遣い には大変感謝しております。ありがとうございました。 最後に、皆様のご指導とお力添えがあっての、この論文です。とても一人では完成させ ることはできませんでした。VSNET にデータを寄せて下さった皆様にも厚く御礼を申し上 げます。本当にありがとうございました。
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