特別支援教育便り No,4 平成27年5月11日発行

平成27年度
Special Needs Education
5月 11 日 No.4
発行特別支援教育係
岩見沢市立南小学校
教職員用資料
リスク要因と保護要因
大津方人
障害やそれを疑わせるような状況のお子さ
特別支援教育といえば発達障害という印象
んは他のリスク要因を受けやすい状態であ
がありますが、支援の対象になるお子さんが全
ると考えます。例えば、叱られ続けるという
て発達障害ということはありません。ちょっと
リスクを毎日のように受け蓄積していたら、
何か違う、ちょっと心配、ちょっと学習の遅れ
元々衝動的だった行動に暴力性が加わるか
が気になるといった「ちょっと」のお子さんに
もしれません。字が書けない事をみんなの前
取り立てて発達障害の診断を求める必要は無
で馬鹿にされたら、字を書けない事をごまか
いですし、診断を受ける事が問題の解決に即つ
すために他者との関係を拒否したり、言われ
ながるということはないと思います。
る前にやってやれといった激しい行動で表
以前にも紹介した品川裕香氏の著作「心から
現をするかもしれません。(そだちでも紹介
のごめんなさいへ −一人ひとりの個性に合わ
しました)すると発達障害が軽微だったとし
せた教育を導入した少年院の挑戦−」中央法規
ても、いや発達障害などなかったとしても他
出版 (2005/07)では、触法少年の多くに発達障
のリスク要因によって二次的な障害を被る
害が疑われるお子さんたちがいること、そして、
ことになります。目の前のお子さんの困難性
そうした少年たちの背景と実態やそれに対す
を目にした時、私たちはそのお子さんのリス
る少年院の取り組みが丁寧に紹介された本で
ク要因となっているものは何かを探り出す
す。その中の問題の整理の仕方として、私たち
必要があります。
にも参考になるのではと思われる事がありま
(2)保護要因
した。このことについては校内研修の仮説検証
一方、お子さんを取り囲む環境の中には保
レポートにも書きましたが改めて説明をした
護要因もあります。わかりやすく丁寧に教え
いと思います。
てくれる、話し相手になってくれる、対等な
(1)リスク要因
付き合いができる、自分を認めてくれるとい
少年が犯罪の道に入るのには訳がありま
った経験は保護要因となり得ます。家庭の養
す。字が書けない、衝動的な言動、他者との
育が不適切であっても学校という場が保護
関係が築けない、不適切な養育、周囲の環境
要因となる場合もあります。反対に学校にリ
等々。LD、ADHD、自閉スペクトラム症など発
スク要因があふれていても家庭の中で保護
達障害に近似するものもあれば、外的な要因
されるという事もあるでしょう。
もあります。これらを「リスク要因」としま
(3)リスクを減らして保護要因を増やす
す。触法に至るのは極端な例だとしても、学
お子さんたちは学校、家庭、その他の場で
校の中でも同じようにリスク要因を抱えて
色々な表情を持ちつつもひとつの人格を持
いるお子さんはいます。ここでは発達障害の
って生活をしています。全体の中でリスクと
みがリスク要因であるとはいいません。発達
保護の要因のバランスを取りながら学習や
生活をしていると言えるでしょう。例えば、
ンスしていることに着目していました。それに
あるお子さんが授業中にふざけています。い
よってお子さんは自分の行動が正しいのだと
つも手遊びをしています。現象だけを見れば、 その場で理解する事ができます。私たちは(私
手遊びを注意することになりますが、実は字
だけ?)悪い行動に目がいきがちで注意に注意
を書くのが苦手というリスク要因を持って
を重ねてしまいます。時にはねちっこくなって、
いたとしましょう。リスクの根本は字が書け
なんで叱っていたのかさえ忘れてしまうこと
ないということですから、授業中に板書がど
だってあります。叱られているお子さんは「じ
んどん進み、追いつかなくなり、あきらめた
ゃあ、どうすればよかったのさ!」と思ってい
状態なのかも知れません。すると注意するだ
るに違いありません。その時の私たち(やはり
けでは状況は変化しません。むしろ悪循環に
私だけ?)の決め台詞は「自分で考えなさい!」
はまってしまいます。この場合リスク要因で
です。逆に杉島先生のほめ言葉は、良い行動を
ある書くことに対する保護要因を増やして
伝える事で、周囲のお子さんたちにも良いモデ
あげることで授業に対する意欲が増し、結果
ルとなります。「ああ、こうしたら良いんだ。」
手遊びも無くなると考えることができます。
というように。そういう話しを中嶋先生として
物事はそう簡単に解決するものではありま
いて、私は心の中で反省するのでした。
せんが、私たちの頭の中に天秤を置き、その
<エピソード2>
お子さんのリスク要因と保護要因を天秤に
職員室の入り口にイラスト付きの「職員室へ
かけ、排除が可能なリスク要因は排除し、逆
の入り方」の説明書きがあります。子どもの目
に保護要因を増やしていき、保護要因側に天
の高さに貼っているので、子どもたちにもきっ
秤が少しでも傾くようにできれば、ほんの少
ととても見やすいと思います。先生への用事で
しでも困難な状況に変化が現れるのではな
頭を一杯にしたお子さんは、職員室への入り方
いでしょうか。そして、その子のための保護
なぞすっぽり抜けてしまっています。でも入り
要因は学級全員のための保護要因にもなる
口にあるその絵が目に入ると「あっ!」と思い
はずです。
出せるかもしれません。1年生の下駄箱には写
真付きで靴の入れ方が掲示されています。写真
何気ない配慮の中に2
はことばで継次的に説明するよりも一瞬でそ
<エピソード1>
の状況を説明してくれます。「あれ?職員室前
昨年までお世話になっていたパートナーテ
の掲示物は箇条書きで説明しているから継次
ィーチャーの中嶋先生と、杉島先生の「ほめ方」
的であって、下駄箱の写真とは違うんじゃな
について話しをした事があります。杉島先生は
い?」と思われるかもしれませんが、あらかじ
お子さんが発表したり、指示を聞いて素早く行
めきちんと説明しておけば、あのかわいい絵を
動できたり、遅くてもしっかりやっていたりす
見ただけで「あっ!先生何か言ってたな。」と
ると即「いい!」
「グッド!」
「すてき!」と間
思い出すきっかけになるはずです。「何か」を
髪入れずにほめます。もちろん注意をすること
忘れていたら文章を読めば済むだけの話しで、
だってありますが、それ以上にほめ言葉にあふ
一瞬でも一旦行動を止めて考えることが大切
れています。ほめ言葉はそれこそ保護要因の最
なのだと思います。聞くより見ることが得意な
たるものです。中嶋先生はそれに加え、お子さ
お子さん、忘れっぽいお子さんにはこうした掲
んのアクションや成果に対して即時にレスポ
示物はお助けアイテムになるでしょう。