第2章 1 EDI実態調査 国内外のEDI実態調査 1.1 国内EDIの実態調査 1.1.1 調査概要 産業情報化推進センター(CII)とEDI推進協議会(JEDIC)の活動の一環と しての調査で、今回は平成 8 年に引き続いて、4回目の調査である。 調査時期:1999年12月 調査方法:アンケート郵送方式 調査対象:3,149社(昨年は 2,719 社):JEDIC 会員企業 回答数 : 665社(昨年は 704 社) 回答率 : 21.1%(昨年は 25.9%) (1) 調査の目的 日本における電子データ交換は、米国に較べ標準化の面などで大きく立ち後れいる。こ の状況で我が国の電子データ交換の実態を把握し、一般に公表することで電子データ交換 の一層の普及のため役立てたいと考え実施した。 EDI の実施状況をより広範に把握するため、CII、UN/EDIFACT 等の標準的な規約を使 用していない、業界等の独自規約による電子データ交換も調査の対象としている。 (2) 調査の範囲 本調査では、広範囲にわたり情報を集めるために、電子的に行われているデータ交換全 般を調査対象としている。便宜的に“電子データ交換”を次のように定義して調査範囲と している。 <本調査における電子データ交換の定義> ・取引に必要なデータを他の企業や組織と交換する際、コンピュータ間の通 信を利用すること。ただし、電子メールによる事務連絡などは除く。 ・国籍、資本にかかわらず日本国内にある相手との取引が対象 (3) 調査票の概要 ①回答企業の概要(資本金、売上高など) ②電子データ交換の実施の有無と、課題・要望 ③利用する通信の接続形態 ④取引先との電子データ交換の仕方 1.1.2 調査結果 (1) 回答企業の概要 a.回答企業の概要(資本金、売上高、従業員数、業種、取引状況)は平成 8 年以降ほ ぼ同様 b.資本金 100億円以上 : 25.4% 10億円以上100億円未満: 21.8% 1億円以上 10億円未満: 28.8% 1億円未満: 21.2% 資 本 金 100億 円 以 上 2 5 .4 100億 円 未 満 2 1 .8 10億 円 未 満 2 8 .8 1億 円 未 満 2 1 .2 0 5 10 15 20 25 30 35 (% ) c.国内売上高 5000億円以上 :10.8% 500億円以上5000億円未満:27.4% 100億円以上 500億円未満:23.9% 10億円以上 100億円未満:24.5% 10億円未満: 7.6% 国 内 売 上 高 5000億 円 以 上 1 0 .8 2 7 .4 5000億 円 未 満 2 3 .9 500億 円 未 満 2 4 .5 100億 円 未 満 7 .6 10億 円 未 満 0 5 10 d.従業員数 5000人以上 1000人以上5000人未満 500人以上1000人未満 100人以上 500人未満 100人未満 (% ) 15 20 25 30 :11.0% :24.2% :12.9% :30.5% :19.7% 国 内 従 業 員 数 11 5000人 以 上 2 4 .2 5000人 未 満 1000人 未 満 1 2 .9 3 0 .5 500人 未 満 1 9 .7 100人 未 満 0 5 10 15 20 (% ) 25 30 35 e.業種 電気機器 卸売業 小売業 商社 繊維製品 :13.8% :13.5% : 7.7% : 7.1% : 6.9% の順で構成比率が多い。建設業は3.2%(21社)を占めている。 回答企業の業種 4.5 4.4 3.8 3.2 2.7 0 5 5.9 13.8 13.5 7.7 7.1 6.9 10 15 電気機器 卸売業 小売業 商社 繊維製品 ガス 銀行 食料品 運輸・倉庫 建設 鉄鋼 (% ) (2) 電子データ交換の状況 a.業種別「電子データ交換」の実施状況 (a)全体では500社(75.2%)が実施している。(前回は 74.9%) (b)実施企業数の多い業種は、 電気機器(75)、卸売業(73)、小売業(45)、商社(41)、繊維製品(34)の順 (c)実施企業数が 40 社以上の業種の実施率は 小売業 88.2%、 商 社 87.2% 電気機器 81.5%、 卸売業 81.1% (d)EDI実施率の高い業種は 食料品 100.0%、 非鉄金属 94.1% 化学 92.3%、 運輸倉庫 92.0% 電力 90.9%、 輸送用機器90.9% (e)建設業は11社(52.4%)が実施している。(昨年は 37.5%) b.回答企業の特徴別「電子データ交換」の実施の有無 (a)資本金が高くなるに従い、電子データ交換の実施率も高くなる。 (b)資本金が50億円以上になると実施率が90%となる。 (c)資本金10億円未満の企業全体(332 社)では66.0%の実施率に対し、10億 円以上(314 社)では86.0%になり差が顕著である。 (d)売上高でも資本金と同様、売上高の向上に従い実施率が高くなる。 (e)売上高50億円未満の企業全体(158 社)では49.5%、50億円以上(468 社) では86.1%が実施しており、その差が顕著である。 (f)従業員数も同様で従業員数の多い企業ほどEDIの実施率は高い。 (g)従業員数500人以上での実施率は89.7%と高い。 (h)資本金10億円、売上高50億円、従業員数500人が電子データ交換実施の指標 になっている c.「電子データ交換」推進上の課題と導入上の問題 (a)電子データ交換を行っている企業の更なる推進のための課題としては、 ア.「ハード、ソフトなどの環境整備不足」(46.8%) (昨年は 52.1%) イ.「コストがかかりすぎる」 (43.2%) (昨年は 52.7%) ウ.「取引先の理解を得られない」 (31.7%) (昨年は 33.7%) ア.イを選択する企業割合は減少している。 (b)電子データ交換を実施していない企業の導入上の問題点としては、 ア.「ハード、ソフトなどの環境整備不足」(49.1%) (昨年は 58.0%) イ.「必要性がない」 (36.5%) (昨年は 33.5%) ウ.「社内の情報化が進んでいない」 (35.2%) (昨年は 47.2%) ア、ウは昨年度に比べ10ポイント前後も減少しており社内インフラ整備の進展が伺 える。 一方、「必要性がない」がポイントアップしている。 d.「電子データ交換」を実施する際の要望 要望事項の上位3項目(全企業) ア.「国内の標準を統一して欲しい」 (63.2%) (昨年は 66.2%) イ.「業界内の方式を統一して欲しい」 (47.8%) (昨年は 49.3%) ウ.「安価なトランスレータがほしい」 (38.8%) (昨年は 42.7%) 電子データ交換を行っていない企業では「EDIの重要性を一般に知らしめてほ しい」が第3位に入っている。 e.「電子データ交換」の導入計画 現在電子データ交換を実施していない企業(162社)に対する調査結果である。 ①調査年度内に実施予定 4社 2.5% ②3年以内に実施予定 26社 16.0% ③必要性を調査中 45社 27.8% ④計画はない 87社 53.7% 過去3回の調査結果は以下の通りである。 1998 1999 2000 導入計画 企業数 企業数 企業数 調査年度内に実施予定 4 2.5% 3 2.1% 3 1.7% 3年以内に実施予定 27 18.8% 27 15.6% 26 16.0% 必要性を調査中 40 27.8% 54 31.2% 45 27.8% 計画はない 74 51.4% 89 51.4% 87 53.7% 合計 144 100.0% 173 100.0% 162 100.0% また、今後電子データ交換を希望する業種では商社(54 社 14.8%)、卸売業(40 社 10.9%)、 電気機器(47 社 12.8%)の順であり、建設業は 19 社 5.2%(1998 年 12 社 4.3%、1999 年 24 社 4.9%)であった。 f.「電子データ交換」の実施によるメリット 電子データ交換を実施している企業に対するアンケートである。 「省力化が進んだ」、「事務処理コストが低減した」という回答が多い。続いて「重 点顧客とのパートナーシップが強化された」、「社内の情報化・標準化が進んだ。また は、進むきっかけになった」となっており、前回調査と順序、割合とも大きな変化は 見られない。 実施によるメリット メリット ①重点顧客とのパートナーシップが強化された ②顧客満足度が向上した ③社内の情報化・標準化が進んだ。または進むきっかけになった ④在庫量の削減及び在庫の回転率が向上した ⑤納期の短縮が進んだ ⑥省力化が進んだ ⑦事務処理コストが低減した ⑧多端末現象の解消につながった ⑨変換地獄の解消につながった ⑩その他 延べ回答企業数(3つまでの複数回答) 回答企業数 回答数 187 111 164 38 108 272 252 15 18 16 1171 489 2000 構成比 16.0% 9.5% 14.0% 3.2% 9.2% 23.2% 21.5% 1.3% 0.7% 1.4% 対企業数 38.2% 22.7% 33.5% 7.8% 22.1% 55.6% 51.5% 3.1% 1.6% 3.3% 100.0% 100.0% g.「電子データ交換」の実施業務と利用している通信接続形態 企業が実際に「電子データ交換」をしている業務区分についての調査である。 ①商流 EDI(受発注、見積もり、納期問合せ等) 421 社 84.2% ②金融 EDI(支払い請求、ファームバンキング等) 228 社 45.6% ③物流 EDI(運送指示、倉庫管理、貨物追跡等) 303 社 60.6% ④その他 61 社 12.2% となっている。 通信接続形態では、VAN74.0%、公衆回線 71.2%、インターネット 38.0%、自社の専用回 線 26.4%、パソコン通信 22.6%、の順となっている。 実施業務と利用している通信接続形態 専用線 その他 イ ン タ ー パ ソ コ ン 公衆回線 VAN ネット 通信 2000 年 370 190 113 353 132 54 回答企業数 74.0% 28.0% 22.6% 70.6% 26.4% 10.8% 1999 年 回答企業数 1998 年 回答企業数 410 119 127 375 142 63 77.8% 22.6% 24.1% 71.2% 26.9% 12.0% 326 74 72 343 145 44 72.6% 16.5% 16.0% 76.4% 32.3% 9.8% インターネットやパソコン通信など、より簡易で安価な通信回線の利用率が上昇して いる。 h.取引先との電子データ交換の仕方 (a)件数で見た電子データ交換の実施率 販売側と購買側での電子データ交換の実施率は、販売側 76.1%、購買側 54.2%となっ ている。 販売業務における電子データ交換の実施率 1998 1999 2000 電子データ交換の実施率 企業数 企業数 企業数 販売側の業務では行っていない 93 22.9% 114 23.1% 111 23.9% 受注データ件数の 10%未満 139 34.2% 131 26.5% 108 23.2% 受注データ件数の 10%∼30% 93 18.8% 89 19.1% 76 18.7% 受注データ件数の 30%∼50% 56 11.3% 58 12.5% 受注データ件数の 50%∼70% 34 6.9% 40 8.6% 受注データ件数の 70%∼90% 84 20.7% 38 7.7% 35 7.5% 受注データ件数の 90%以上 28 5.7% 24 5.2% (別のデータについて実施) − − − − 14 3.4% 合 計 406 100% 494 100% 465 100% 購買業務における電子データ交換の実施率 1998 1999 2000 電子データ交換の実施率 企業数 企業数 企業数 購買側の業務では行っていない 179 48.1% 218 47.8% 200 45.8% 注文データ件数の 10%未満 58 15.6% 74 16.2% 65 14.9% 注文データ件数の 10%∼30% 43 9.4% 46 10.5% 43 11.6% 注文データ件数の 30%∼50% 26 5.7% 37 8.5% 注文データ件数の 50%∼70% 43 9.4% 38 8.7% 注文データ件数の 70%∼90% 79 21.2% 30 6.6% 31 7.1% 注文データ件数の 90%以上 22 4.8% 20 4.6% (別のデータについて実施) − − − − 13 3.5% 合 計 372 100% 456 100% 437 100% (b)電子データ交換方式 販売業務及び購買業務で使用される「電子データ交換」の状況を調査したものであ る。電子データ交換方式では、販売業務については取引先あるいは取引先業界の標準 が多く使用されている。購買業務については CII または CII 準拠の採用が多くなった。 販売業務における電子データ交換方式 1998 1999 2000 電子データ交換方式 企業数 企業数 企業数 CII または CII 準拠 109 22.1% 129 23.9% 134 25.9% EDIFACT または EDIFACT 準拠 11 2.2% 22 4.1% 21 4.1% 自社側業界標準 75 15.2% 48 8.9% 45 8.7% 取引先側業界標準 96 19.4% 121 22.4% 109 21.0% 自社独自 63 12.8% 75 13.9% 61 11.8% 取引先独自 140 28.3% 145 26.9% 148 28.6% 合計 494 100% 540 100% 518 100% 購買業務における電子データ交換方式 1998 電子データ交換方式 CII または CII 準拠 EDIFACT または EDIFACT 準拠 自社側業界標準 取引先側業界標準 自社独自 取引先独自 合計 企業数 48 5 91 45 76 61 326 14.7% 1.5% 27.9% 13.8% 23.3% 18.7% 100% 1999 企業数 71 10 49 44 67 45 286 24.8% 3.5% 17.1% 15.4% 23.4% 15.7% 100% 2000 企業数 74 10 54 35 75 46 294 25.2% 3.4% 18.4% 11.9% 25.5% 15.6% 100% なお、使用している業界標準が“CII 準拠”か“EDIFACT”準拠かわからない場合には、 “自社側の業界標準”か“取引先側の業界標準”に記入している。このため、実際の CII 標準の採用はこの値よりも大きいと思われる。 1.2 国際EDIの実態調査 1.2.1 調査概要 国際取引(日本と海外企業(日本の現地法人は除く)との間における商品やサービスの 取引)に伴う電子データ交換については、具体的かつ継続的に調査したデータはほとんど 無い。このためJEDICでは、1997年より調査を行っているが今後とも継続的に調 査を行う。 (1)調査の目的 海外の電子データ交換の状況を日本から見ると、 「北米企業との取引は ANSIX12、欧州や アジア企業とは UN/EDIFACT」と捉えられている。 ただし一言に UN/EDIFACT と言っても、地域、業界毎にメッセージ・サブセットが開発利用 されているため、たとえばある企業への発注を伝えたメッセージが必ずしも他の企業への 発注に使えるとは限らないというのが実情である。 また両標準制定以前から各企業の独自規約によるデータ交換が行われていたり、さらに近 年のインターネットの普及により、比較的手軽にデータ交換ができる下地が整いつつある。 したがって世界の各地域、国、業界ではどういった方式が使用されているかを目的とし て調査した。 なお、このような目的から、本調査では国連 EDI 標準である UN/EDIFACT に重点を置きつ つも、それだけに限らず、電子的に行われているデータ交換全般を対象とした。 (2)調査の方法 調査は、1999 年 12 月、郵送によるアンケート方式により実施した。アンケート対象は JEDIC 会員の各業界団体に所属する企業等 3,149 社(前回+430 社)である。これらの企業 に対し、「国際 EDI の実体調査」の調査票を郵送した。 その結果、574 社(前回-55 社)からの回答が得られた。 (回収率は 18.2%) (前回-4.9%) ・ 国際電子データ交換の導入状況に関する設問 ・ UN/EDIFACT に関する設問 ・ 国際電子データ交換の方式に関する設問 1.2.2 アンケート調査結果 (1)「国際電子データ交換」の導入状況 a.「国際電子データ交換」の導入状況 2000年 0.2 11.1 4.9 83.8 1)導入済である 1 1999年 12.1 2)導入作業中である 81.6 5.4 3)導入の予定である 1.4 1998年 8.3 0% 6.5 20% 4)導入の予定がない 83.8 40% 60% 80% 100% b.「国際電子データ交換」の推進状の課題/未導入の理由 2.5 2000年 40.4 1999年 11.7 6.6 7.8 11.7 8.7 0.3 1.7 2.9 10.8 6 9 40.2 6)社内情報化が進でいない 7)ハード、ソフトなどの環境整備不足 8)効果がわからない 4.1 9.6 4.9 9.7 13.2 9.4 20% 5)人手が足りない 3.1 2.9 0% 4)コストがかかりすぎる 0.8 2.2 1998年 3)ペーパーレス以外法律の問題 5.9 13.7 9.1 2.6 2)法制度上ペーパーレスにできない 4.8 2.7 37.4 1)必要性がない 2.7 9)トップの理解を得られない 0.7 40% 60% 80% 10)得意先理解が得られない 11)その他 100% (2)UN/EDIFACT について a.UN/EDIFACT の認知度 28 2000年 2 29 1999年 9 8 20 8 24 22 1)自社での取引に利用している 10 30 2)2年以内に利用を開始する計 画 3)利用する方向で検討している 15 4)内容を知っている 23 1998年 11 3 16 21 6 5)名前を知っている 6)知らない 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% b.UN/EDIFACT の取引地域(国内・国際) 1997年% 24.6 1998年% 5.4 1999年% 6.5 2000年% 15.8 56.1 62.2 19.3 32.4 65.2 60.5 0 0 28.3 0 21.1 2.6 1)国内取引のみ 2)国際とりひきのみ 3)国内/国際の両方 4)その他 c.UN/EDIFACT の取引地域(国内・国際)件数 2 1)国内取引のみ 14 3 6 32 23 23 2)国際とりひきのみ 3)国内/国際の両方 11 1213 8 4)その他 1997年企業数 1998年企業数 1999年企業数 2000年企業数 30 1 0 5 10 15 20 25 30 35 d.取引地域別・UN/EDIFACT の使用状況 23 1.使用中 27 2.2年以内 9 2 3 1998年 1999年 2000年 11 8 8 3.検討中 0 29 5 10 15 20 25 30 35 e.UN/EDIFACT の導入理由 2000年 15.8 42.1 15.8 18.4 2.65.3 1)自社の自発的な判断 2)発注元(顧客)からの要請 1999年 10.9 8.7 8.72.2 47.8 21.7 3)発注先企業からの要請 1998年 27 1997年 32.8 10.82.75.4 8.1 45.9 4)所属する業界団体からの要 請 5)所轄行政機関からの要請 6.9 8.6 6.9 5.2 39.7 6)その他 0% 20% 40% 60% 80% 100% f.UN/EDIFACT の導入理由 件数 19 10 10 1)自社の自発的な判断 6 23 22 17 16 2)発注元(顧客)からの要請 4 4 3)発注先企業からの要請 4 1 1 6)その他 7 4 4 2 5)所轄行政機関からの要請 6 5 1 4)所属する業界団体からの要請 5 1997年 1998年 1999年 2000年 3 3 2 0 5 10 15 20 25 g.業界別・UN/EDIFACT の導入理由 2 軽金属 機械工具 1 製紙 1 電機 1 建設 1 3 物流 チェーンストア 1 自動車 1 2 2 1)自発的 2)購買側 3)販売側 4)業界団体 5)行政機関 6)その他 1 2 商社 3 電子機械 3 0 8 2 4 6 3 8 10 2 12 14 1 16 18 h.導入理由別 3 1)自発的 1 1 8 2)購買側 3 3)販売側 5)行政機関 1 6)その他 1 3 1 2 4)業界団体 0 1 3 電子機械 商社 自動車 チェーンストア 物流 建設 電機 製紙 機械工具 軽金属 2 2 2 1 2 1 2 4 6 8 10 12 14 16 (3)「国際電子データ交換」の方法について a.業界別・「国際データ交換」の実施状況 国際電子データの交換を実施している国内の業界としては、前回同様、電子機械 (45.3%)物流(12.5%)関係の企業が多く、今回の特徴としては、軽金属業界での 伸びが見受けられる。 業界別・「国際電子データ交換」の実施状況 物流 電子機械 軽金属 2000 調 1999 査 1998 年 1997 0% 20% 40% 60% 80% 100% 実施割合 電子機械 商社 鉄鋼 自動車 石油化学 チェーンストア 物流 旅行関連 建設 電線 電気 電気卸 製紙 機械工具 化学繊維 軽金属 繊維産業 銀行 その他 b.業種別・「国際電子データ交換」の実施状況 業界の電子・物流に対応し、電気機器・商社、倉庫、輸送機器等の実施状況が昨年同 様、多くみうけられる。 業種別・「国際電子データ交換」の実施状況 2000 実施企業数 1999 実施企業数 30 20 企 業 数 10 そ の他 情 報 サー ビ ス 倉 庫 ・運 輸 空軍 海軍 陸軍 そ の他 金 融 実施している国内の業種 銀行 卸売業 商社 そ の他 製 造 精密機器 輸送用機器 電気機器 機械 金属製品 非鉄金属 鉄鋼 化学 繊維製品 0 c.取引相手先告別・「国際電子データ交換」の実施状況 アメリカの実施状況が特に目立ちますが、続いてシンガポール・ドイツ・香港等が 挙げられ、タイ・スウェーデン・台湾・イギリス等も実施の多い国として挙げられる。昨 年同様アジア・オセアニア地域全体の広がりも以前つづいているといえる。 取引相手先国別・「国際電子データ交換」の実施状況 2000年 アメリカ 11 4 5 9 10 0141 3 6 48 4 339 0 9 8 6 7 47 0 54 5 35 13 14 9 0 23 17 0 21 1997年 2825 12 20 02 24 14 15 5 1311 7 13 8 10 6 0 4 5 10 15 9 0 13 3211504 3 0 16 13 11 9 330119 411 5 5 3 3 7 0 5 12 401 北米 アメリカ カナダ その他南米 イギリス ドイツ フランス イタリア オランダ スペイン スウェーデン ノルウェー デンマーク その他欧州 中国 韓国 台湾 香港 シンガポール マレーシア インドネシア フィリピン タイ その他アジア その他アジアオセアニア ニュージーランド オーストラリア その他 d.相手先業者別・「国際電子データ交換」の実施状況 国際電子データ交換を行う取引相手先の業種による実施状況を見ると、調達資材が 多岐にわたる業種にあたる電気機器、輸送用機器、が上位で、以下に化学、海運、精 密機械、倉庫・運輸、の順で前回とほぼ同じ傾向にある。 取引相手先業種別・「国際電子データ交換」の実施状況 2000 繊維製品 海運 空軍 輸送用機器 電気機器 1999 実 施 年 1998 精密機器 倉庫・運輸 その他 化学 1997 0% 水産・農林 医薬品 鉄鋼 電気機器 商社 海軍 情報サービス 20% 40% 鉱業 石油・石炭 非鉄金属 輸送用機器 卸売業 空軍 その他サービス 実施率 60% 繊維製品 ゴム製品 金属製品 精密機器 小売業 倉庫・運輸 行政 80% 100% 化学 ガラス・土石製品 機械 その他製造 陸軍 旅行関連サービス その他 「国 際電子データ交換」の主な 形態 貴社 海外取 引先 日本 (1)直接交 換型 海外 A社 B社 A社 の現地法人 (2)現地法 人型 A社 B社 B社の 在日法人 (3)在日法 人型 A社 B社 商社 (4)商 社 型 A社 B社 1)直 接交換型:海外の取 引先企業のコンピュータとの間で直接 電子データ交換が行わ れる。 2)現 地法人型:海外取引 先企業との 電子データ交換に、自社の海外 現地法人が介 在する。 3)在 日法人型:海外取引 先企業の在日 法人との 間で電子データ交換が 行われる。 4)商 社 型 :日本 国内の商社との間で電 子データ交 換が行われ る。 e.形態別・「国際電子データ交換」の実施状況 最も多いの電子データ交換の形態としては、直接交換型が挙げられ、ついで多いのは、 現地法人型で残り在日法人型・商社型は、10%に満たない状況で、特に大きな変化 は、見られない。 形 態 別 ・「国 際 電 子 デ ー タ 交 換 」の 実 施 状 況 (延 べ 回 答 数 ) 1997 調 査 年 1998 1999 2000 0% 20% 40% 実施割合 60% 80% 100% 形 態 別 ・「国 際 電 子 デ ー タ 交 換 」の 実 施 状 況 (企 業 数 ) 1997 調 査 年 1998 1999 2000 0% 20% 1 .直 接 交 換 型 40% 実施割合 2 .現 地 法 人 型 60% 80% 100% 3 .在 日 法 人 型 4 .商 社 型 f. シンタックスルール別・形態別・「国際電子データ交換」の実施 形態別に区分けすると、商社型では、CIIと固定長自社方式の使用が占め、在日法人型 では、調査上はじめて固定長自社方式の使用見られる、全体の使用量の多い直接交換 型・現地法人型のおいて、EDIFACT・固定長自社方式が旧年同様多く使われていること が確認でいる。 その他 シンタックスルール別・形態別・「国際電子データ交換」の実施状況 業界方式 100% 80% 固定長取 引先方式 固定長自 社方式 CII 60% 40% 20% 1997 商社型 在日法人型 1998 現地法人型 直接交換型 商社型 在日法人型 1999 現地法人型 直接交換型 商社型 2000 在日法人型 現地法人型 直接交換型 商社型 在日法人型 現地法人型 直接交換型 0% HL7 ANSI X12 EDIFACT g.シンタックスルールに関する回答状況 電子データの交換で使われているシンタックスルールについて結果をまとめると、 固定長自社方式の使用が企業としては、変動が少ないが、回答数からすると大幅な減 少が見られる。又いわゆる標準EDIにおいては、EDIFACT・ANIS X12・ CIIの順で使用されているが、確実にCIIの使用状況の伸びが確認できる。 シ ン タ ッ ク ス ル ー ル に 関 す る 回 答 状 況 (回 答 数 ) シ ン タ 1997 ッ 1998 種 ク 類 ス ル 1999 ー 2000 ル に 0% 20% 使用割合 40% 60% 80% 100% 80% 100% シ ン タッ ク ス ル ー ル に 関 す る 回 答 状 況 (企 業 数 ) 1997 ー ル シ ン ル タ に 種 ク 類 ス 1998 ッ 1999 2000 0% 20% 使用割合 40% 60% E D IF A C T A N S I X 1 2 HL7 C II 固定長自社方式 固定長取引先方式 業界方式 その他 h.「国際電子データ交換」で使用している通信プロトコル 通信プロトコルの使用状況については、TCP/IP・自社方式の近年増加が見られ、 SDLC.HDLCは減少傾向が見られるものの、前者に次いでの使用状況を見せて いる。 「 国 際 電 子 デ ー タ 交 換 」 で 使 用 し て い る 通 信 プ ロ ト コ ル (回 答 数 ) 1997 調 査 年 1998 1999 2000 0% 10% 20% 30% 40% 50% 使 用割合 60% 70% 80% 90% 100% 「 国 際 電 子 デ ー タ 交 換 」 で 使 用 し て い る 通 信 プ ロ ト コ ル (企 業 数 ) 調 査 年 1997 1998 1999 2000 0% 20% 40% 1 .X .4 0 0 ,4 3 5 4 . T C P / IP 7 .業 界 方 式 使用 割合 60% 2 .X .2 5 5 .自 社 方 式 8 .そ の 他 80% 100% 3 .S D L C ,H D L C 6 .取 引 先 企 業 の 方 式 i. 国際電子データ交換に使用している主なVAN事業者 国際電子データ交換で使用している主なVAN事業者についての調査結果として、前回ま でと同様に、GEIS・IBMが高い利用状況を示す。また、インターネットを使った国際電子デー タ交換の進展等により新たに名前が上がってきたVAN事業者も増えてきている。また、昨年 の調査と比較して、小数の使用回答のあったVAN事業者入れ替わりが見られる。 国 際 電 子 デ ー タ 交 換 に 使 用 し て い る 主 な VAN 事 業 者 ( 企 業 数 ) 1997 調 1998 査 年 1999 2000 0 10 20 主 な 使 用 VAN事 業 者 件 数 30 40 50 60 70 国 際 電 子 デ ー タ 交 換 に 使 用 し て い る 主 な VAN事 業 者 (回 答 数 ) 1997 調 査 年 1998 1999 2000 0 20 40 G E IS / G E / M K / M K Ⅲ / 電 通 国 際 情 報 NEC 松下電器 MCI セコム ネット S IT A Tym net K L-N E T 主 な 使 用 VAN事 業 者 件 数 60 80 100 IB M A T&T A D V A N T IS S T E R L IN G C o m m e r c e M IN D SSK SN S IN F O W E B 120 140 160 BT 日 立 情 報 ネットワー ク AMO KDD IG H E XPR ESS N T T コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ズ ( 旧 N T T - I) IIJ 1.3 米国企業の情報技術(IT)戦略 1.3.1 米国企業における ERP 導入 (1) ERP の起源と台頭 a.米国製造業と国際競争 米国の製造業にグローバル・コンペンションの波が押し寄せてきたのは、1980 年初 頭のことであった。当時、産業競争力に関する大統領諮問委員会やマサチューセッツ 工科大学産業生産性委員会により発表されたレポートでは、米国が競争力を完全に失 う可能性があることが強調され、米国の製造業の危機が叫ばれていた。1990 年代に入 り、見事に競争力を取り戻した米国製造業であるが、その裏には、完璧な効率化を目 指すビジネス・リエンジニアリングを推し進めるために、大手製造業者が実践した新 たな情報技術の導入という努力があった。 1980 年代に米国大手製造業者は、低品質、長すぎる製品開発のサイクル、そして不 十分な顧客サービスという諸問題の解決に着手した。その結果、総合的品質管理(Total Quality Management)、統計に基づく製品管理(Statistical Product Control)、「ジ ャスト・イン・タイム」生産方式(Just-in-time Manufacturing)、顧客に対する迅速 な対応(Rapid Responsiveness)などの解決策が導入された。経営陣は、これらの方 法を実現させるためには、情報管理が必要不可欠であることに早くから気付いていた。 米国大手製造業者は、IT(情報技術)を駆使することで、アグレッシブに業務の改善 を行い、海外からの競争に立ち向かう戦略に出た。 b.初期の生産統合アプリケーション (1960 年代) ・製造業において資材所要量計画(MRP、Materials Reguirements Planning)が 開発される。 ・MRP システムの主な欠点。 ①在庫レベルや生産量など、正確な情報を入力しなければならないこと。 ②企業内の他のシステムと統合されていないこと。 ③そのため、MRP で算出された必要部品数量と、実際の企業の財務上のデー タがかみ合わないというケースが生じる。 (1980 年初頭) ・大手企業は自らの業務システムと生産システムを連携させた、新しい生産資材 計画ソフトウェア(MRP-Ⅱ、Manufacturing Resource Planning software)を創 り出す。 ・MRP-Ⅱの欠点。 ①在庫データなどで誤ったデータが入力されると、正確な情報が得られない。 ②生産に必要な全てのデータを統合するというレベルには達していない。 c.ERP の台頭:SAP 物語 ・1972 年、イギリスの化学製造企業である ICI 社は、IBM の複数のプログラマに 対し個人的に、統合生産計画システムの開発を依頼する。 ・現在の IBM 社長であるディートマ・ホップ氏を始めとする IBM のプログラマは、 これを受諾し、SAP 社を創設。最初の製品である SAP R/1 が開発される。 ・1980 年代後半、SAP は R/2 パッケージをクライアント・サーバ型に改良した、 R/3 の開発を検討。IBM AS/400 システム用のソフトウェア開発に関する IBM の アドバイスに従い、R/3 の開発を C 言語で行った。結果、R/3 は Unix ベースの システムへの対応が可能となった。Unix の対応及び、ビジネスプロセスに基づ く、唯一の分散型アーキテクチャー対応の R/3 への人気が高まることとなった。 ・R/3 アプリケーションは多様なコンポーネントを緊密に統合させる必要がある ため、大幅な業務プロセスの分析、再構築、複雑なカスタム化が必要であった。 そのため、大企業しかこのような大掛かりな作業に財力、人的資源の面で耐え られず、R/3 導入はもっぱら大企業を中心に行われた。フォーチュン 500 級の 最大手企業が次々に SAP の R/3 を導入し、SAP の売上は 1991 年の 3,000 万ドル から、1996 年には 13 億ドルと爆発的に伸びた。現在 SAP は、非米国系企業と しては世界最大の独立系ソフトウェア開発企業となっている。 ・SAP に代表される ERP 人気の最大の理由は、取引に関する情報が、会社の業務 を横断し一貫して管理されることにある。R/3 などの ERP パッケージは、注文 受領書に始まり、在庫管理、生産スケジュール、製品配送、インボイスと支払 い領収書まで、販売に関する企業の全情報を管理することができる。ERP を利 用することで、顧客サービス担当者は顧客の問い合わせに対し、顧客の注文し た製品の生産、配送情報を、迅速で的確に提供することができ、また、トップ の経営陣は、各製品の売上変化を見極め、スピーディな経営判断を下すことが できる。 ・「 ビ ル ト ・ ツ ー ・ オ ー ダ ー 」( build-to-order )、「 マ ス ・ カ ス タ ム 化 」( mass customization)といった生産方法に移行しようとしている企業にとって、ERP 導入は必須である。 ・ERP ソフトウェアの導入により、多くの企業は多大な効果を上げている。ERP パ ッケージに 2,000 万から 2,500 万ドルの投資を行ったことで、業務が効率化さ れ、5年間に 1 億 5,000 万ドルものコストを削減できたというケースはいくつ も報道されている。 (2)“業務 IT インフラ”としての ERP の確立 a.ERP 導入の問題点 ERP 導入によるサクセスストーリーばかりが強調されたため、企業の間では、ERP を導入さえすれば、簡単に効果が現れるもの、という認識が広まってしまった。しか し実際に ERP を導入するには、従来の業務プロセスを大幅に変更しなくてはならず、 業務の混乱、高額な導入コストなど、企業は大きな苦しみを味わわなければならない。 多くの企業が ERP を導入するようになったが、コストに見合わない結果になってしま った企業もある。 ERP アプリケーションを導入しようとする際に二つの問題が生じる。 ・第一に、大規模な ERP アプリケーションの導入は非常に複雑であるということ である。ほとんどの企業では、導入を成功裏に行うための、コンピユータや技 術スタッフを十分に持ち合わせていないのが現状である。 ・第二の問題は、導入技術、時間の問題と関連して、ERP 導入はコンサルタント の助けを得て初めて、現実的なタイムフレームの中での導入が可能になるとい うことである。ERP 導入は今や主なシステム統合事業者にとって主要ビジネス となっており、アンダーセン・コンサルティング、EDS、アーンスト・アンド・ ヤング、KMPG ピート・マーウィックなどの大手 IT コンサルタントが導入業務 を手がけている。現在行われているモトローラの半導体製品事業部門での R/3 導入プロジェクトは、5 万 5,000 人の従業員が参加し、概算で 2 億ドルの予算 を費やし、導入には 5 年かかると見こまれている。 b.ERP 導入の失敗例 (a)医薬品販売企業フォックスメイヤー社(1993 年当時全米第 4 位)の事例 ・1993 年中旬に SAP の R/3 ソフトウェア導入を決定。 ・アンダーセン・コンサルティングを導入パートナとして、18 ヶ月以内に導入を 行う契約を結ぶ。 ・1994 年 7 月、全米でも最大規模の医療機関であるユニバーシティ・ヘルスシス テム・コンソーシアムに医薬品を提供する契約を結ぶ。この契約は同社の業務 処理をさらに増加させることとなり、メインフレームベースでの対応が限界と なる。また、SAP のアプリケーションに、マクヒュー・インターナショナル社 製の倉庫管理ソフトウェアを統合しようとしたため、導入がより複雑なものと なってしまった。 ・1995 年には失敗の兆しが見え始め、倉庫従業員が勤労意欲を無くし大量に辞め る事態になる。 ・1996 年 7 月、ERP 導入によりコスト削減を実現するどころか、3,400 万ドルの 支出を余儀なくされる。 ・1996 年 8 月、破産法第 11 章による会社更正を申請。医療品取り扱い業務を他 社に売却。 ・1997 年 5 月、破産法第 7 章に基づく破産手続きを行う。 ・1998 年、同社の破産管理委員会がアンダーセン・コンサルティングと SAP の両 社に対し、ERP ソフトウェアの処理能力や、導入に必要な技術などに関し、訴 訟を起こす。現在民事裁判所で係争中。 ・アンダーセン・コンサルティングと SAP の両社は、導入の失敗はフォックスメ イヤー社の戦略的なあやまりによるもので、ソフトウェアや、導入方法による ものではないとしている。 (b)その他の失敗例 ・1999 年、防水性の高い生地「ゴアテックス」で有名な W.L ゴア社は、自社の ERP ベンダであったピープルソフトと導入パートナのデロイト・アンド・トーシュ・ コンサルティングを提訴。 c.第一次 ERP ブーム終焉の背景 ERP をめぐる問題点が浮上してきたことで、近年、主要 ERP 企業は収益低下を余儀 なくされていた。1999 年、主要 ERP ベンダである SAP、バーン、ピープルソフトの収 益は減少し、株価も急激に下降した。産業アナリストは IT 市場の中で ERP に対する需 要が落ち込んだ状況として、以下のことを挙げている。 ・第一に、2000 年を控え、多くの企業が、新たなソフトウェア導入プロジェクト よりも、Y2K 問題解決を優先したことが挙げられる。 ・第二に、ほとんどの ERP ベンダが、企業におけるイントラネット、エクストラ ネットといった Web 利用の急激な伸びを予測できなかった。ERP システムは、 独自ソフトウェアのコンポーネントやツールに頼っているため、Web ベースの システムと簡単に接続ができなくなってしまっている。そのため、ERP は新た なシステム導入を図ろうとする企業にとっては、魅力的なツールではなくなっ てしまった。 ・第三に、ERP システムが企業の全てのアプリケーションに取って代わる、とい う ERP ベンダの主張にもかかわらず、多くの顧客はいまだに自社の古いシステ ムを ERP と平行して使っていることが挙げられる。ERP 導入にかかるコスト、 時間の問題から、ERP は中小企業にとって、あまり魅力的な存在ではない。ERP パッケージを導入しないこれらの企業は、さらに自社システム開発に投資を続 けるため、簡単に既存のシステムを捨て、ERP に移行することができなくなる という、堂々巡りの状態に陥っている。 d.“業務 IT インフラ”としての新 ERP これらの問題に直面した ERP ベンダは、ユーザに適応した新しい ERP づくりを目指 した。 ・まず、従来の大規模で画一的な ERP アプリケーションを、コンポーネント別の 小回りのきく ERP に変更した。また、今までの大規模 ERP は、厳格なスケジュ ールに基づいた導入が必要とされたが、コンポーネント・ベースの小型 ERP は、 短期間で柔軟な導入が可能となった。 ・第二に、Web 対応 ERP システムを開発した。これにより、Web ブラウザを利用し ているユーザも情報にアクセスしたり、ERP システム上のアプリケーションを 操作できるようにした。Web を利用した ERP であれば、ほとんど全員の社員が 何らかの形で ERP のメリットを得ることができる。 ・第三の対策として、型となる「テンプレート」を利用することで、各企業の仕 様に合わせて、ERP システムを容易にカスタマイズ化できるようにしたことで ある。これにより、企業独自の業務プロセスを残すことが可能となり、ERP 導 入のために、企業がビジネスプロセスを変更しなければならないケースを、極 力避けることができる。 従来の ERP にこのような変更を施した結果、新 ERP は、業務全ての機能を支配する ような大規模なメカニズムから、基本的な機能を備え、追加機能を必要に応じて付け 加えていけるような“業務 IT インフラ”に生まれ変わった。今後、ERP を基本に、サ プライチェーン、顧客管理、EC機能と次々と機能を拡張し、高度な企業システムと して発展を遂げていくこととなる。 1.3.2 米国企業におけるサプライチェーン・マネジメントの導入・統合 (1) サプライチェーン・マネジメント(SCM)の起源と発展 a.ゼロ在庫システムの普及 ・1990 年代初頭から、ジャストインタイム生産方式や在庫ゼロ流通システムを取 り入れた「リーン・プロダクション」システムが米国製造業にも広がっていっ た。 ・米国企業も、リーン・プロダクションシステムの導入を図ったが、組み立て業 者、サプライヤとも、ジャストインタイムで部品を供給するために必要な、生 産、在庫、配送情報を管理できるような統合情報システムを持っていなかった ため、業務は混乱を極めることとなった。 ・この状況は、後にサプライチェーン・マネジメント・ソフトウェア(SCM)とし て確立されていく。SCM は、いままでばらばらに存在していた、流通計画、在 庫レベル、引渡しスケジュールを管理するシステムを統合することで発達して いった。 ・SCM は、オペレーション管理を専門に手がけるプログラマによって、「限定の理 論(theory of constraints)」を基に開発された。SCM を利用することで、当 初の計画に変更があった場合、企業はサプライチェーン全体を通じて、その変 更が及ぼす生産過程や流通プロセスへの影響を正しく予測できるようになった。 ・主に業務データをリアルタイムで管理するための ERP とは違い、SCM ソフトウ ェアは、意志決定支援のための予測ツールとして捉えられる。システムの多く は、 「需要計画」モジュールが基礎になっている。この根本的な SCM を通じ、生 産プロセスの中の様々な段階で必要となり、多数の部品の供給量などを計算す る。部品ごとに、それぞれのサプライヤが需要計画にあわせた供給が行われる ように、生産、引渡しスケジュールなどが算出される。さらに、重要なのは、 あるサプライヤが部品や資材不足などの問題を起こした場合、サプライチェー ンの中で、他のサプライヤの生産や引渡しスケジュールにどのように影響があ るかを予測し、そのような問題がおきても、生産レベルを維持できるような代 替ソリューションを提供できることである。 ・SCM に対する初期の需要は、小売産業における大きな改革により高まっていっ た。 ・「ベンダによる在庫管理(VMI、Vendor-managed Inventory)」プログラムを導入 することにより、小売業者は自らは在庫管理を抱えず、製造業者側に在庫調整 をなるべく任せるような体制をとった。 ・その一方、製造業者は、小売店舗に日ごと、または週ごとに、製品ストックを 補充する必要がでてきたため、十分な在庫を自社内で確保しておかなければな らないようになった。 ・VMI プログラムを通じて、小売業者は在庫維持のコストを製造業者に移したこ とになる。 ・製造業者は、自社の在庫レベルを上げることなく、顧客である小売業者の VMI プログラムに対応する手段として、SCM ソフトを次々に導入していった。 b.i2 テクノロジー社の SCM ソフト TIPS 1989 年、テキサス州に設立されたi2 テクノロジー社は、SCM のリーディング・カ ンパニーとして、急成長を遂げる。同社は当初、生産、流通計画決定支援ツールに特 化した企業であったが、1995 年、TIPS(Truly Integrated Planning System)と呼ば れるソフトウェアを発表した。TIPS は、人工知能技術サプライチェーン・マネージメ ントに応用した、最初の SCM である。 TIPS パッケージ初版は以下のモジュールを含んでいる。 ・工場計画 ・高度スケジューリング ・流通計画 ・輸送計画 ・戦略的計画 ・製品入手の保証 ・マルチ・エンタープライズ計画 i2 社は TIPS をより進化させ、リズム(Rhythms)と呼ばれる新しい SCM システム を開発した。リズムは、以下の3つの「業務サブプロセス」から構成され、それぞれ の機能は連携している。 ・需要達成 ・需要計画 ・供給計画 サプライチェーン・マネージメントはもともと、サプライヤと小売店との製品輸送 のスケジューリング調整機能を主目的としていた。それがサプライヤの全製造工程に 関する一連の企業を取り込み、全ての企業がひとつの目標を達成するため、歩調を合 わせての行程を効率的にこなすことを包括的に調整する、極めて複雑なシステムへと 進化を遂げた。SCM パッケージを採用するには、サプライチェーン内で、取引企業同 士が相互提携を行えるよう、ビジネスプロセスの再構築や、組織の再編成が必要とな る。 (2) SCM 導入サクセス・ストーリー a.SCM 導入のメリット SCM の採用により、企業が得るメリットは大きい。在庫レベルの低下により、企業 の運転資金が削減され、コストの大幅な削減が実現できる。1997 年に、225 の企業に ついて行った調査結果は以下のとおりである。 ・サプライチェーン・マネージメントを改善することで、6 億ドル規模の企業は 年間 4,200 万ドルのコストを削減できる。 ・サプライチェーン機能が整備された企業は、在庫日数が 60%少なく、企業のキ ャシュフローが向上し、さらなる運転資金をもたらす。 ・サプライチェーン・マネージメントにおいてベストプラクティスを誇る優良企 業が、サプライチェーンにかけたコストは、他の平均的な企業が売上の 11.6% だったのに対し、6.3%であった。 しかし経営陣は、SCM 導入により得られるコスト削減よりも、目には見えない戦略 的優位性をより重要視している。SCM を積極的に導入する企業は、市場の変化により 柔軟に対応することができ、より高い顧客満足度、価値を生みだすことができるとい うことである。 市場リサーチ企業の AMR リサーチと共に、 「サプライチェーン・カウンスル」を設立 した PRTM(Pittiglio,Rabin,Todd&McGrath)社によると、典型的な SCM 計画によ る効果は以下の通りである。 ・製品引渡 16%−28%改善 ・在庫削減 25%−60%改善 ・履行サイクルタイム 30%−50%改善 ・予測の正しさ 25%−80%改善 ・全体の生産性 10%−16%改善 ・サプライチェーンコスト削減 25%−50%改善 ・需要対応度 20%−30%改善 ・生産能力改善の実現 10%−20%改善 (3) SCM の問題点と SRM の台頭 a.SCM の問題点 SCM の導入は注意深く、戦略的に行われなくてはならない。導入を急ぐと、システ ム統合の段階で問題が生じ、業務に大きな支障を引き起こすことになる。 “ハーシー・キス”チョコレートで有名な大手菓子メーカ、ハーシー・フーズ社が この例である。ハーシー社、ベンダーとも、導入スケジュールを早めたことで、導入 に必要な人的リソースを十分確保できなかった。導入を受注の一番忙しい時期に、他 業務と平行して行ったことで、同社は注文管理システムの欠陥を見つけることができ なかった。 ・1996 年、商品在庫の管理を行うため、内部生産プロセスとサプライチェーンマ ネジメントの改善を行う。SAP R/3 を最終的なシステム形成のために選択し、 導入を4年間で行うことを計画。 ・1998 年、ハーシー社の流通システムは、小さな故障をたびたび起こす。エンタ ープライズシステムの導入を前倒しで行うことにし、48 ヶ月の段階的なシステ ム導入から、全てを同時に行う 30 ヶ月の導入に変更。 ・4 月導入を計画したが、技術的問題の発生により 7 月導入に伸びる。 ・キャンディー注文最盛期に対応できなくなる。 ・1999 第三 4 半期の利益は前年比で 19%落ちる。 ・1999 年 9 月中旬には、システムは修理されたと発表されたが、大量の在庫によ る財務への影響は、1999 年の最終四半期と 2000 年の始めまで後を引くことと なった。 b.サプライヤ・リレーションシップ・マネジメント(SRM)の台頭 ハーシー社の例は、SCM を基幹システムに統合しようとする際、大きなリスクが生 じ、リスク管理の計画をしっかりたてなかった場合の代償は大きいことを示している。 別の意味でのリスクの例として、1997 年、ダナ・コーポレーションの車両部品の例 が挙げられる。ケンタッキー州エリザベスタウンにある同社の製造プラントは、主に フォード社の主要製品である軽トラックのシャシーの組立てを行っていた。 ・1997 年夏、米国中西部を大規模な洪水が襲う。 ・ミシガン州フォード社の 5 つの生産施設への輸送ルートである主要鉄道ライン が寸断される。 ・フォード社工場閉鎖の危機。 ・フォード社のエンジニアと部品調達マネージャ、ダナ社の工場に飛ぶ。ダナ社 の社員とともに、代替の輸送方法を探す。 ・鉄道業者と協力し、ダナ社、フォード社は在庫が無くなる前に供給を再開。工 場閉鎖の危機を脱する。 フォード社は、この対応が成功したのは、新 SCM を通じてダナ社と培ったパートナ シップのおかげだとしている。 この事例は、サプライチェーン・マネジメントを行う上での重要な課題を示してい る。企業がサプライヤの間に、電子リンクを張ることで、良い関係がすぐに生まれる わけではない。サプライヤ同士に主要部品の取引価格をめぐって競争させていくより も、あらかじめ選ばれた少数のサプライヤと緊密な関係を深めていくことがより重要 である。 サプライヤとより戦略的な関係を結ぶという新しい動きは、サプライヤ・リレーシ ョンシップ・マネジメント(SRM、Supplier Relationship Management)という新しい タイプの SCM ソリューションを促進することになった。 この SRM は、 ・注文、配送などの処理データを企業とサプライヤの間でやり取りするだけでは なく、過去の処理データを分析し、それぞれのサプライヤと企業が、どのよう なタイプの関係を持っているかを分析するものである。 ・とりわけ、SRM ソフトウェアは、調達する製品・サービスを“戦略的資材”と “コスモディティ資材”に分けて、それぞれのサプライヤとのリレーションシ ップを管理するという概念を取り入れている。 ・SRM はまた、サプライヤが部品をデリバリできなかったときに備え、主要部品 のフローを確保するために、複数サプライヤを確保すべきかどうかなども提示 してくれる。 ・SRM アプリケーションはまた、部品調達モデルをつくり、様々な状況を想定し て、生産に最適な部品供給量、購入スケジュールを確立する、意志決定支援ツ ールにもなる。この分野での主要ベンダは、データウェアハウジングとビジネ スインテリジェンス・アプリケーションの開発を手がける、SAS インスティチ ュート(SAS Institute)である。 c.SCM 導入における問題点 SCM は普及しつつあるものの、多くの企業は、SCM 導入のために、業務プロセスや ビジネス慣行を変更しなければいけないことに抵抗を示している。 ・ 1998 年、AMR リサーチの調査によれば、サプライチェーン統合のために、ベン ダとパートナシップを結ぶことには強い興味をもつ企業が多いが、コラボレー ティブ予測や自動補充など、複雑な機能に関しては、導入意欲は低い。 ・SCM を導入しようとする企業にとって、企業文化や組織的バリアの存在は深刻 である。 SCM を導入する以前に、企業は、ビジネス・ツー・ビジネスのコミュニケーション の質、確実性にも注目し、コミュニケーションに必要なインフラも整備しなくてはい けない。 ・需要予測や、主要な情報が企業に正しく行き渡らなければ、SCM の効果は出な い。 ・このため、多くの企業は、エクストラネットなど、Web ベースのデータ交換シ ステムへの移行を急いでいる。 サプライチェーン・マネジメントのコンセプトをさらに拡張し、総合的なソリュー ションを提示するため、主要 SCM ベンダは、専門ソフトウェアベンダと提携して、 「サ プライチェーン・スイート(Supply Chain Suites)」とよばれる機能の充実につとめ ている。 ・以前、企業はソフトウェアの間のデータやメッセージを交換するミドルウェア を利用し、異なるベンダのソフトを自社で統合しなくてはいけなかった。 ・企業が SCM ソフトをベースに他の機能も簡単に追加できるよう、SCM ベンダは、 自らの SCM ソフト機能の付加に努めている。 SCM パッケージを導入するために必要な技術を持つ社員が不足している企業のため に、SCM アウトソーシングが注目されている。 ・ユニシス社などのサービスプロバイダが、SCM ソフトウェアを、自社のリモー トサーバーに搭載することで、ユーザ企業が自らにあった SCM をコンフィギュ レーション(設計)するというサービスを始めている。 ・ユーザである企業の生産、処理データはバーチャルプライベートネットワーク を通じて、SCM アウトソーシング・センターに送信される。そこで SCM ソフト ウェアが処理を行い、結果はユーザである企業とベンダに返信される。 ・ この方法は、企業が自社のコアコンピタンスは、ソフトの導入やメンテナンス ではなく、取引先との戦略的リレーションシップ作りにあるという認識が高ま る中、さらに急速に広まりつつある。 1.3.3 米国企業における顧客管理システム(CRM)の導入・統合 (1)CRM の起源 顧客関係管理(CRM:Customer Relationship Management)は、顧客情報の一部分を統 合するERPの機能を超え、既存顧客、見込み顧客に関する戦略的情報分析を行え、ビ ジネスを効率化し、顧客によりよいサービスを提供するシステムである。 CRM は 、 初 期 の エ ン タ ー プ ラ イ ズ ソ フ ト ウ ェ ア で あ る 、 販 売 戦 力 オ ー ト メ ー シ ョ ン ( SFA: Sales Force Automation) と 顧 客 対 話 シ ス テ ム ( CIS: Customer Interaction System)が融合して発展していったものである。 SFA:営業担当の業務調整、業務に関する共通した問題を処理するために開発された。 CIS:顧客や製品に関して「知識ベース」を構築し、顧客との対話内容、製品やサービ スに関して顧客から寄せられた問題点など顧客相談サービスを管理する。 SFA や CIS のソフトウェアベンダは、フィールド販売オートメーション(FSA:Field Sales Automation)とよばれる、修理スタッフとフィールドテクニシャンの業務調整も 含み、これらのソフトが全て企業と顧客のリレーションシップをどのように管理するか という同じ目的を、別の観点から対処しているということに注目し、SFA と CIS の統合 を行い、CRM ソフトウェア産業が生まれた。 (2)CRM の市場の現状とトレンド CRM 市場は、急速に伸びると見られており、企業ITシステムの振興機関である AMR リサーチによると、CRM ソフトウェアの販売は 1999 年の 37 億ドルから 2003 年には 168 億ドルまで伸びるであろうと予測されている。 CRMソフトウェアの伸び 億 $180 $168 $160 $140 $115 $120 $100 $79 $80 $54 $60 $37 $40 $23 $20 $0 1998 1999 2000 2001 2002 2003 出典:AMR Research その CRM 市場の動向について、CRM 業界のトップベンダであるシーベル・システムズ (Siebel Systems)社を中心に述べていく。 シーベル社が提供する製品のモジュールとその機能は以下の通りである。 Siebel eSales :オンライン製品カタログ、注文管理システムと顧客データシステ ムを提供し、オンライン、オフラインの販売に対処する。 Siebel eMarketing :顧客セグメンテーションとターゲットマーケティングを利用して、 Web ベースのマーケティングキャンペーンの支援、実施を行う。 Siebel eService :全てのサービスリクエストと履行プロセスを管理、顧客が共通し あった問題やその問題解決策をまとめた「ナレッジベース (knowledge base)」を構築してWeb、電子メールでの顧客サービ ス行う。 Siebel eChannel :第3者によって行われる販売、マーケティング活動の調整、管理 を支援する。 シーベル社と他のエンタープライズ・ソフトウェアベンダの間で、CRM 市場を席巻し ようという競争は激しく、主要 ERP ベンダである PeopleSoft 社による CRM ベンダ3位 の Vantive 社の買収をはじめ、SAP、オラクル、バーン社といったトップ ERP ベンダに よる自社の ERP システムを補完する独自の CRM モジュールの開発等が行われている。 このように、ERP の多機能化が進む一方、CRM 側からの拡張も進行している。 シーベル社は、自社ソフトウェアの名称に「エンタープライズ・リレーションシップ・ マネジメント(ERM:Enterprise Relationship Management)」を採用し、CRM の拡張化 を推し進めるために SCM ソフト最大手の i2 テクノロジー社とパートナーシップを結ん だ。同時に、自社の CRM ソフトと SAP、オラクルなどの ERP ソフトウェアを統合する新 たなソフトウェアの開発を行っている。これにより、シーベル社の顧客は、シーベル社 の CRM ソフトウェアをどの ERP パッケージとも簡単に統合させることが出来るようにな り、ユーザーは ERP ベンダによる独自 CRM ソリューションを追加するよりも、シーベル 社の CRM ソフトをERPに統合するほうが簡便になる。 社内業務の統合から始まったERPを基本に、サプライヤを取り込むバックエンド・サ ポートの SCM、そして顧客とのリレーションシップを管理するフロントエンドの CRM が 統合され、ますます洗練化されていくであろう。 1.3.4 米国企業における EC システムの導入・結合 (1)企業間電子商取引(B2BEC)の台頭 消費者向けのEコマース(B2C)は、アマゾン・ドット・コム、EToys の大きな成 功で、ここ数年大きな注目を浴びているが、さらに大きな可能性を持つ企業間におけ るEコマース(B2B:Business-to-Business)は、最近になってようやく一般にも注 目されるようになった。B2BEC の規模についての見通しは、調査会社によって異な る数字が出ているが、いずれも今後Web上での取引量が爆発的に増大すると見込ん でいる。ガートナーグループによる予測とフォレスター・リサーチ社による予測を図 に示す。 世界におけるB2B EC市場規模 億 $80,000 $72,900 $70,000 $60,000 $50,000 $39,500 $40,000 $30,000 $21,800 $20,000 $9,530 $10,000 $1,450 $0 1999 $4,030 2000 2001 2002 2003 2004 出典:Gartner Group 米国におけるB2B EC市場規模 億 $13,310 $14,000 $12,000 $10,000 $8,430 $8,000 $6,000 $4,990 $4,000 $2,000 $0 $2,510 $1,090 1999 2000 2001 2002 2003 出典:Forrester Research 企業間の取引方法をオフラインから WWW(World Wide Web)による EC に移行するこ とで、コストの大幅な削減、生産性の増加が実現される。このため、B2B によるインパ クトは、これら予想された数字よりもさらに大きくなると見られている。さらに、B2BEC 市場の確立により、新たなビジネスモデルが構築され、産業によっては、B2BEC の導 入で産業構造がすべて変革される可能性もある。 現在の B2BEC の主なトレンドを以下に挙げる。 分割化の促進(Increasing segmentation) サプライチェーン構築の目的が多岐に渡るため、B2BEC 市場は多数の種類の市場か ら成り立ち、現在、企業にとって多大な商機を与える可能性を秘めている。 企業関係の再構築(Restructuring Relationship) 企業は、B2BEC を通じ、自社の顧客やサプライヤとの関係を再構築することが出来 る。 デルコンピュータの事例では、“プレミア・ページ”と呼ばれる主要顧客専用の Web ページを開設し、顧客にサプライヤとしての優位性をアピールしている。また、グロー バルなサプライチェーンを展開することによって、様々な地域の需要に迅速に応えるこ とが出来る。 オンライン仲介業者の台頭(Reintermediation) EC は卸業者、ブローカーといった仲介業者を駆逐すると考えられていたが、オンラ イン上に何百万とある企業の中から、目的の企業を見つける必要があるため、企業同士 を仲介する仲介業者"インフォオメディアリ"が台頭している。オンライン仲介業者につ いては、次節で詳細に述べる 業務のグローバル化(Globalization) Web を利用することで、企業は地理的な制約や時差などを気にせずに、簡単に他の地 域の企業とコミュニケーションをとり、取引をすることが可能となった。 コンソーシアム(共同体)の設立と標準化(Consortia and Standardization) B2BEC の成長により、企業がオンライン・コンソーシアム(一例を下記参照)に参 加するようになった。 ・購買クラブ(buying club): 企業が注文をプールし、ベンダに割引を求める ・サプライヤ協会(supplier association): サプライヤが情報を共有し、それぞれの顧客との交渉に役立てる ・トレーディング・エクスチェンジ(trading exchange): ある特定の産業の買い手、売り手が共同体を作り、Web上で交流する ECでの業務処理、システム、プロセスを通じ、オープン・スタンダードを使って完 全自由形市場(オープン・マーケット)を促進するために、EC の標準化を進めようと いう動きがある。これらコンソーシアムで設定された標準が、B2BEC 発展のインフラ となる可能性もある。 つい最近までの Web 上の B2BEC は、不定期に、その都度違う Web サイトを利用し て行われるものが多く、ある概算では、企業による 95%以上のオンラインによる購入が、 企業のクレジットカードを利用した小規模なものであった。 B2BEC のためにシステム構築をさらに進めた企業は、一企業、関連企業、或いは業 界全体を網羅した Web ポータルを利用し、さらにビジネスへのインパクトを最大限にす るため、EC システム、ERP のような内部システム、SCM のような外部向けシステムを リンクさせている。 (2)ECにおけるオンライン仲介業者の台頭と役割 a.オンライン仲介業者の役割 B2BEC で利用される Web サイトは、一般に開放されず、エクストラネット等セキ ュリティで保護され、サプライヤや顧客等、自社と取引のある特定企業だけがアクセ スできるシステムになっている。 一方、自社のECサイトを、自社と取引のある特定企業に限らず、関連産業内の様々 な企業に開放している企業もある。これらのサイトは、特定の産業に関連する企業が 集まった、「業界エコシステム(industrial ecosystems)」と呼ばれ、このエコシステ ムを運営し、中心となる企業を「オンライン仲介業者(on-line intermediary)」又は マーケットメーカと呼ぶ。 オンライン仲介業者の役割を挙げる。 ・売り手、買い手を探す企業がお互いに出会えるよう、非公開で信頼の置ける環 境を構築する。 ・全ての参加企業がEC業務処理に必要なシステム構築を行い、取引が行えるよ う、それぞれのエコシステムの特徴に合わせてカスタマイズされた、共通のE Cシステムを提供する。 ・それぞれの業種に特化したコンテンツの提供や、サービスを提供する。 信頼のおける環境構築がオンライン仲介業者にとって最も重要な役割となっている。 産業エコシステムの構築は、 「バタフライ・マーケット(butterfly markets)」と呼ばれ る構造を持つ産業にとって効果的である。つまり、蝶の「羽根」部分にあたる複数の 売り手、買い手が存在し、取引パートナを探している。そしてオンライン仲介業者が 売り手、買い手が出会う接点、 「体」部分となり、マッチメーカの役割を果たす。それ ぞれの売り手、買い手が試験的な取引を行う前に、仲介業者が企業同士の情報を交換 する場を提供し、双方の合意があれば、その後、取引企業は独自にオンラインでの取 引を行い、徐々に信頼を構築していくことができる。 オンライン仲介者の役割を果たす企業の特徴は、以下の通りである。 ・オンラインマーケットを構築することで、市場の効率化を図ろうという目的の もと、業界のビジネス慣行に詳しい企業家による「ベンチャ系」 ・自社のソフトウェアをサイトエンジンとして提供することで、顧客の二一ズに あったソフトウェアの改善、サービスの提供を行おうという、ウェブ EC や関 連ソフトを扱う企業による「ソフト会社系」 ・業界全体が参加する形で、中立する立場にある母体が立ち上げた「業界系」 ・買い手独占市場(売り手は多いが買い手が少ない)において、自社企業の必要性 からエコシステムを設立させた大企業による「大手系」 b.各オンライン仲介業者の活動内容 (a)ベンチャ系 ベンチャ系仲介業者は、オンライン仲介業市場の中では最も一般的なタイプである。 その理由は、 ・ベンチャ企業であるため、ある特定の企業の便宜を図るための運営を行ってい ないことから、企業が安心して参加できる ・ B2BEC サイトを支援する豊富なベンチャキャピタルを最大限に利用して大々 的な運営を行い、大企業幹部をひきつけられる ・ これらのベンチャ企業は、既存の企業よりも、急速な発展を遂げるウェブ EC の世界への適応が早い ほとんどのベンチャ系オンライン仲介業者は一つの産業、または一つのセクターに 特化した市場を構築している。主なオンライン B2B 仲介企業を次表に挙げた。 ベンチャ系オンライン仲介業者一覧 Market Name URL Industry Location WorldParts www.worldparts.com Automotive Norwich,UK ResearchTria11gle SciQuest.com www.sciquest.com Chemicals and Park,NC plastics BidCom www.bidcom.com Construction SanFrancisco,CA FastParts www.fastparts.com Electronic comonents SanJose,CA VirtualChip virtualchipexchange. Electronic Montreal,Quebec Exchane com components AltraEnergy www.altranet.com Energy Houston,TX Technoloes IMXExchange www.imx.com InstillCorporati www.instill.com on e-STEEL.com www.e-STEEL.com RateXchange www.ratexchange.co m National www.nte.net Transportation Exchage Mortage bankin Foodandbeverae SanRamon,CA PaloAlto,CA Metals NewYork,NY Telecommunications SanFrancisco,CA Transportation DownersGrove,IL 出典:文献、データをもとにワシントンコアにて作成 オンライン仲介業者は、産業内でも小規模だが、高い専門性を持つニッチ市場(す き間市場)にターゲットを絞っている。例えば、 ・ サイクエスト(SciQuest)は研究所で利用される化学製品市場のみに注目し、他 の化学産業仲介業者と競合している。 ・ IMX エクスチェンジ(IMX Exchange)は家屋購入希望者と取引を行う抵当ロー ンブローカと、家屋購入希望者に対して資金を提供する抵当権業者とをつなげ る市場である。 オンラインベンチャ企業は、他の仲介企業同様、それぞれの産業にあった業務処理 を、サイト上で行っている。売り手が取り扱う商品の詳細を掲示し、それを見た買い 手が個別に交渉を行うというものもあるが、ほとんどのサイトはよりフォーマルなシ ステムを導入している。 ・ファストパーツ・ドット・コム(FastParts.com)やサイクエストなどのサイトで は、売り手が製品の情報を掲示し、買い手となる企業は、最終的に落札が行わ れるまで、継続的に入札を行うという標準的オークションが行われている。 ・ ビッド・ドット・コム(Bid.com)では、建設業者が逆オークションを行うことで 建設プロジェクトを探すことができる。建設プロジェクトマネージャ(買い手) が希望 価格を 提示 した プロジ ェクト を掲 示し 、建設 サービ スを 行う 業者(売り 手)がプロジェクトを落札するというシステムである。 ・ レート・エクスチェンジ(RateXchange)のサイトでは、エクスチェンジとよば れる二重オークションシステムを採用している。買い手は希望価格などの条件 を掲示し、売り手は自社が提供できる製品や希望価格を掲示する。コンピュー タがこれらの条件からマッチする売り手、買い手を自動的に選択するというも のである。レート・エクスチェンジはテレコミュニケーションの余剰周波数の 売買に特化した市場を提供している。 それぞれの市場で最も効果的な方法が、それぞれのサイトで行われている。例えば、 ・標準的オークション方式は、各企業が提供する製品に対する需要量は少ないが、 購買力の強い多くの買い手が存在する、産業内でも小規模な市場に向いている。 ・逆オークションは買い手が少なく、売り手が多い、買い手市場の産業でうまく 機能する。 ・エクスチェンジシステムは主に売り手が商品を最適の価格で、短期間で販売で きるため、過剰在庫を抱える必要性がない。 これらのベンチャ企業は、B2BEC においての仲介業において大きな成功を収めてい るが、さらに大規模で資金も豊富な競合企業の参入により、競争は激しいものとなっ ている。このため、多くの企業が独自のコンテンツやサービスを提供して、市場の優 位性を保つ努力を行っている。例えば、ビッド・ドット・コム(Bid.com)は建設業者と プロジェクトをマッチさせるだけでなく、プロジェクトマネージャがプロポーザル(提 案書)や入札のための書類作成ツールなど、プロジェクトの詳細を業者とよりよい方 法で交渉できるようなツールを提供している。 (b)ソフト会社系 多くの EC ソフトウェア企業は、自社製品パッケージを特定の製品購入、販売を目的 とした Web サイトの構築を行う企業に個別に販売している。複数のソフトウェア企業 が自社の EC パッケージをコア・エンジンとした、独自のオンラインマーケットを構築 しようとしている。 ・コマース・エックス(Commercx)社は工業製品製造企業に対し、オンライン調達 を行うためのシステムを提供している。同社は 1995 年にプラスティックス・ネ ット(PlasticsNet)を設立した。このサイトを通じて、工業用プラスチックの売 買が行えるようになっている。 ・ i2 テクノロジー社は 1999 年初頭、オンライン SCM サイトであるトレード・マ トリックス(TradeMatrix)を立ち上げた。トレード・マトリックスに登録する企 業は、取引企業と共に同社の Web サイトを利用することで、自社の全てのサプ ライチェーンをトレード・マトリックスを通じて管理できるようになる。これ に 対 抗 し て 、 マ ニ ュ ジ ス テ ィ ッ ク 社 も 1999 年 終 わ り に 、 ウ ェ ブ ワ ー ク ス (WebWorks)という同様のサイトを立ち上げた。 ・ オンライン調達システムの開発を行うクララス(Clarus Corporation)社は、ト レード・ユニバース(TradeUniverse)と呼ばれるシステムを立ち上げた。このサ イトは XML(eXtensible Markup Language)技術を利用し、売り手、買い手のプ ロフィールをマッチさせ、買い手の間接的サプライチェーン管理を支援する。 ソフトウェアベンダがオンラインマーケットサイトを立ち上げるのは、以下の理由 が挙げられる。 ・これらのサイトは、そのまま自社製晶のショーケースとなり、自社製品の特徴 や利益などをアピールする機会となる。 ・これらのサイト運営により、ベンダは、自社の利益を、ライセンス販売による ものから、手数料を通じて利益を得る、サービスを中心としたものに移行して いくことができる。 ・ ベンダは、特定の産業にターゲットを置いたサイトの運営を通じて、顧客とよ り緊密な提携を行うことができる。例えば、オラクルはフォードと提携してフ ォ ー ド の SCM シ ス テ ム を 管 理 す る こ と に な る オ ー ト ・ エ ク ス チ ェ ン ジ (AutoXchange)を開発した。 (c)業界系 業界系の仲介業者の形態には次の3つがある。 ア.特定の業種においては、信頼性のある、中立的な立場を持つ第三者により、オ ンライン仲介業者の機能がすでに果たされているケース。 最も有名な団体として、自動車産業内での EDI 規準を設定した自動車産業アク ショングループ(Automotive Industry Action Group)により設立された、オート モ ー テ ィ ブ ・ ネ ッ ト ワ ー ク ・ エ ク ス チ ェ ン ジ (ANX : Automotive Network Exchange)がある。ANX は、ビッグスリー自動車メーカと自動車サプライ産業全 体の業務調整をより効率的に行うものである。 イ.クライアントの必要性に応じて IT ベースのインフラ提供を行ってきた、シス テム統合、IT コンサルティング企業によるもの。 EDS 社は 1999 年、同社のクライアントなら誰もが利用できるオンライン調達 管理システムサイトを立ち上げた。また EDS 社は、傘下のマネジメントコンサ ルティング会社の A.T.カー二一社(A.T.Kearney)と共に、コネクスト(CoNext)と いう、フォーチュン 500 企業に対する電子調達のための Web サイトを開いてい る。 ウ.多くの企業の間で信頼と実績を築いている金融サービス企業による仲介業。 アメリカン・エキスプレスやメリルリンチにより、顧客に対して総合的な EC マーケットプレースが提供されている。 第三者による仲介業は、仲介業を行う企業がすでに産業とのコネクションや、B2B 取 引に必要な、信頼の置ける中立性をすでに打ち建てているため、マーケットメーカとし て大変将来性のあるものである。しかし以下に述べる問題を持っている。 ・これらの仲介業者は、サイトを運営していくためのソフトウェア製品を持って いない ⇒EC サイト立ち上げの際、ソフトウェアベンダと提携していかなければならな い ・システム統合や金融サービス企業などは、本業で取り扱う産業が広いため、あ る産業に特化したマーケットプレイスを提供することが難しい ⇒B2BEC を通じて特定市場にアクセスしたいと願う企業に対して、有効なツー ルを提供することができない (d)大手系 いくつかの産業では、大規模な市場リーダが企業内の調達オペレーションのネット ワークを、顧客、サプライヤ、そして時には競合企業にも広げ、活気あるオンライン マーケットプレイスを作る試みがなされている。最近登場したマーケットプレイスの 例を以下に挙げる。 ・ボーイング社は、航空会社が自社の航空機のスペア部品を調達できるよう、同 社とサプライヤ、部品卸売り業者をつなぐサイトを構築している。 ・自動車産業においては、フォードがオラクルと提携しオート・エクスチェンジ (AutoXchange)を構築した。一方ゼネラルモーターズはトレード・エクスチェン ジ (TradeXchange)と 呼 ば れ る サ イ ト を ア リ バ ・ ソ フ ト ウ ェ ア (AribaSoftware) 社・i2 テクノロジー社とともに構築している。 ・ 電気部品産業では、電気卸売り 3 大業者アロー・エレクトロニクス(Arrow Electronics) 、 ア ヴ ネ ッ ト (Avnet) 、 マ ー シ ャ ル ・ イ ン ダ ス ト リ ー ズ (Marshall Industries)と産業メディアである CMP メディアによりチッ プ・センター(ChipCenter)が開設された。 産業内の有力企業によるオンライン仲介業は、産業全体の利益よりも、自社の利益 の為に運営しているのでは、という危倶を他企業に与えてしまうため、伴うリスクも 大きいものになる。しかし、このような企業が既に自社専用の購買グループを持って いる場合、その市場の大きさから多くのサプライヤを引き付け、それがバイヤも引き 付ける要因ともなりうる。 既存のマーケットリーダが、 「サイレント・パートナー」としてスタートアップ企業 と提携してオンライン仲介業を行う傾向が、近年顕著になっている。特にこの傾向は 化学産業界で顕著であり、以下のような例が挙げられる。 ・CHE マッチ・ドット・コム(CheMatch.com、オンライン仲介業者) ←デュポン・コーポレーション(Dupont Corporation)+ミレニアム・ケミカル ズ(Millennium Chemicals) ・ケミコネクト(ChemConnect) ←ダウ・ケミカルカンパニー(Dow Chemica Company)+イーストマン・コダッ ク ケ ミ カ ル ズ (Eastman Kodak Chemicals) + ロ ー ム ・ ア ン ド ・ ハ ー ス (Rohm&Haas)社 c.オンライン仲介業者の将来の展望 E コマースアナリストの間では、オンライン仲介業が、今後 5 年から 10 年の B2BEC 市場の発展に、重要な役割を果たすとの見解で一致している。B2BEC の取引のほとん どは直接企業間で行われるが、仲介業者により、売り手と買い手が効率的に出会える機 会が提供されることになる。特に迅速な対応と柔軟性が必要とされる市場においては、 仲介業者の存在が成功への重要な鍵となる。ガートナーグループによると、オンライン 仲介業者を通じて 2004 年には 2 兆 7,100 億ドルの取引が行われると予測されている。 これは B2B 取引の 37%を占め、全世界の市場全体の 2.6%を占めるものである。フォレ スター・リサーチ社は 45-75%の B2BEC が今後 2、3 年の間にオンライン仲介業者によ って扱われるであろうとしている。化学産業だけでも、2003 年には仲介業者が 1280 億 ドルの取引を扱うと予測されている。 オンライン仲介業者は、特に大企業の SCM ネットワークの代替になりうるものであ る。SCM は企業と、企業のサプライチェーンとの間での調整、取引を効率的に行うため にデザインされたものであるが、この SCM を導入する多くの企業は、オンラインマー ケットプレイスを、SCM を通じて取引を行う新たなサプライヤを探すツールと見なして いる。例えば、大企業はオンライン仲介業者を使って、現在取引を行っている取引先よ り条件の良いサプライヤを探し、既存の取引先に対して、新たなサプライヤの存在を示 すことができる。これにより、取引先と価格交渉を行いコストの削減を図ったり、新た なサプライチェーンと入れかえたりすることができる。 1.3.5 「ネットワーク・エンタープライズ」を目指して (1)「ネットワーク・エンタープライズ」のビジョン 米国企業は、部品供給者、委託製造事業者、顧客まで、企業を取り巻く関係者を全て 取り囲む、きわめて洗練された統一性のある情報システムの構築を目指している。 ここで、下記の全てを統合したシステムを、「ネットワーク・エンタープライズ」と 呼んでいる。 ERP SCM CRM B2B EC :すべてのシステムのベースとなる業務 IT インフラ。 :取引先との連携を図るシステム。 :顧客とのリレーションシップ管理を行うシステム。 :実際の取引業務を遂行するシステム。 「ネットワーク・エンタープライズ」についてはリーハイ大学アイアコッカ研究所で 議論がさかんに行われ、その原型は、トヨタ自動車が採用した、「リーン・プロダクシ ョン (Lean Production)」 (ジャストインタイム生産方式と在庫ゼロ操業を基本とするシ ステムで、自社の顧客も巻き込んだ、広範囲で正確なサプライチェーンの調整が必要。) であるといわれている。 ERP をバックボーンとして付加価値機能が搭載された「ネットワーク・エンタープラ イズ」の効用は、単なる ERP 導入による効果を大きくしのぎ、そのメリットは全方位 に広がっている。例えば、エンジニアリング部門で用いる CAD システムから製品デー タ管理(PDM、Product Data Management)ファイルを取り出し、その情報を、直接 製造工場フロアの生産システムに送信し、生産をモニターし、結果得られた生産情報を、 サプライヤには部品の需要予測として、顧客には製品の引渡し予定日として提供するこ とが可能となる。 「ネットワーク・エンタープライズ」の特徴は以下の通りである。 ・ERP をネットワークアプリケーションのハブとして、企業システムを一貫統合 させる。 ・従業員は、必要なデータにアクセスでき、イントラネットで検索可能。 ・エクストラネットを通じ、他企業やサプライヤ、顧客、投資家、規制当局など 関係者は、それぞれが必要とする様々な情報にアクセスすることができる。 ・共通のエクストラネットを通じ、取引先企業が持つアプリケーション内の情報 に、直接アクセスすることができる。 (2)「ネットワーク・エンタープライズ」のメリット 「ネットワーク・エンタープライズ」を構築するためには、取引企業との間で、必 要なデータをやり取りできるよう、企業間での一環したビジネスプロセスを構築する ことが重要になる。すなわち、 「業務の電子化」だけではなく、企業内、企業間での業 務処理の流れを統一させるため、企業内外での業務プロセス改革が必要となる。 また、既存の縦割り組織から「ネットワーク・エンタープライズ」モデルへの移行 によるメリットは以下の通りである。 ・製品開発と生産のサイクルタイムの短縮化 技術革新に迅速に対応することで、競合企業及び市場に対し柔軟性のある戦略 をとることができる。 ・在庫の削減 需要予測と供給計画をうまく統合することにより、高レベルの在庫を削減し、 運営コストを結果的に削減することができる。 ・生産性をアップさせる 企業が需要の変化に迅速に対応する柔軟さを保ちながら、生産能力を 100%に より近い形で操業することにより、生産性を高め、コストを削減することがで きる。 (3)「ネットワーク・エンタープライズ」への移行の際のハードル 「ネットワーク・エンタープライズ」への移行は、その手順によっては企業に大き なリスクをもたらすことがある。 実際にフォード社は 1997 に、サプライチェーンシステムを導入した際に、従業員 のストライキに直面し、販売、賃金、生産の面で、推定 100 万ドルの損失を出す結果 となってしまった。 ボーイング社は 1997 年に、サプライチェーン統合のまずさから、航空会社からの 注文の増加に対処できなくなり、その結果、16 億ドルの特別損失を計上し、翌 1998 年にも 10 億ドルの損失を出してしまった。 「ネットワーク・エンタープライズ」モデルへ移行するには、いくつかの問題点の解 決をはかる必要がある。 ・企業経営者と従業員は、ネットワーク・エンタープライズを通じ、顧客、サプ ライヤとの緊密な業務協力を進んで行うことが出来る様、再研修を受ける必要 がある。さらに、システム導入に際し、企業文化の変革も要求される。 ・企業は、企業間活動を統一化するために、ビジネスプロセスと業務内容を、拡 張していかなければならない。これは組織的な観点からの変化を求めるもので あり、企業はネットワーク・エンタープライズのビジョンに基づき企業内の再 構築を行わなければならない。 ・企業は、ビジネスプロセスに沿った情報のオンライン処理を可能にするため、 レガシーシステムから新分散型情報システムに移行しなければならない。この 技術移行を通じて、ERP、サプライチェーンマネジメント(SCM)、顧客関係マ ネジメント(CRM)、E コマースなどを機能させる、エンタープライズ・ソフト ウェアパッケージの導入が行われる。 (4)「ネットワーク・エンタープライズ」先進事例 「ネットワーク・エンタープライズ」は、業務 IT インフラとしての ERP をベース に、SCM、CRM、EC を全て統合するものである。多くの企業は、原材料調達から製 造、顧客への発送まで、全てのバリューチェーンをネットワーク化することを目指し てはいるが、未だどの企業も完璧な「ネットワーク・エンタープライズ」を構築して いるところは無い。その中でも、以下の2つのケースは、より高度で洗練された、 「ネ ットワーク・エンタープライズ」に近いものを構築している例である。 a.エアタッチ・コミュニケーション社 エアタッチ・コミュニケーション社(AirTouch Communications)はページング、 携帯、パーソナルコミュニケーションサービスなどの地上モバイルテレフォニー、ベ ンチャ子会社であるグローバルスターを通じた衛星通信サービスなどの、ワイヤレス 通信サービスを提供する大手プロバイダである。 同社は、10 のサービスエリアに分けた地域グループオフィスを全米に展開している。 従来これらの地域グループは、購買、顧客関係、財務管理など、それぞれ独立した運 営管理を行っていたが、購買、ビジネスプロセスを統一化し、サプライヤに対する購 買力を高めるため、オラクルの ERP パッケージを利用して全オフィスにまたがるエ ンタープライズシステムが導入された。このシステムはその後、顧客とも電子取引が 行えるシステムへと拡大されていった。同社はこれらの活動全体を「eCommerce シ ステム」と呼んでいる。 このシステムは、以下の 4 つの機能を持つ。 ①携帯電話用タワー、交換機など、インフラ関連構築のための機器、資材の購入 を行う。 ②ハンドセットなど、顧客用サービス機材の在庫管理を行う。 ③間接材の購入を行う。 ④www.airtouch.com を通じ、Web ベースの EC とカスタマーサービスを行う。 (a)インフラ資材購入 インフラ資材購入のため、エアタッチ・コミュニケーション社は、オラクルの ERP アプリケーションを利用し、需要管理を行い、戦略的パートナシップを結ぶサプライ ヤへ注文を送信する。大手サプライヤは EDI での業務処理を行っているため、EDI システムを利用して取引を行うことで、大手サプライヤとの業務処理が ERP システ ムで一貫して行うことができる。これにより、取引企業との取引業務が全て統一化さ れ、EDI を使用しない競合企業と比べ、柔軟性、生産性において、競争力を増すこと ができる。 エアタッチ・コミュニケーション社の EDI システムでは、購入注文・購入注文確認・ 購入に伴う配送確認・領収書のような取引のための書類がサプライヤ側に EDI を通じ て送信され、サプライヤからの返信はオラクルの ERP システムに送られる。この方 法を利用して、同社はどの注文もリアルタイムで管理できるようになっている。 (b)顧客用機器の在庫管理 端末など、顧客用機器の在庫管理も、このシステムを通じて同じように行われてい るが、それに加え、同社はメーカの在庫システムに直接アクセスできるようになって いる。エアタッチ・コミュニケーション社の顧客が端末を注文した場合、この注文は 直接製造業者の倉庫に送られ、エアタッチ・コミュニケーション社の販売店に配達さ れるシステムになっている。 (c)間接材購入 間接材の調達に関しては、 「 指定のベンダから頻繁に使う製品を購入する際のシステ ム」と「指定ベンダ以外から製品を購入する場合のシステム」が用意されている。購 買担当者は社内のイントラネットを通じオンラインカタログを利用して、エアタッ チ・コミュニケーション社と販売契約を結ぶ指定ベンダへ注文を送信することができ る。この注文は、注文を入力した Web ページから直接オラクルの ERP システムに転 送され、ERP システムがそれを指定ベンダに送信する。このソリューションを通じて、 エアタッチ・コミュニケーション社は指定ベンダへの全注文を統括管理することが可 能となっている。 指定ベンダ以外から製品を購入する際は、企業間 EC ソフトウェア企業であるクラ ラス(Clarus)社が運営するウェブサイトを利用して注文を行う。全ての注文、支払 い処理はクララス社を通じて行われるが、オラクル ERP を通じて、これらの情報全 てがエアタッチ・コミュニケーション社に報告される。このように、他企業が提供す るソリューションを利用することにより、同社自らがカタログを作り、調達のための Web サイトを運営管理する必要がなくなっている。 (d)Web ベース EC とカスタマーサービス 同社はオンライン顧客サービスサイトとして http://www.airtouch.com を運営管理 している。このサイトを通じ、顧客は注文管理、顧客サービスシステムに直接アクセ スし、製品注文情報、レートプランやサービス情報、アカウント情報や特別割引情報 などを閲覧できる。この Web を通じて行われた全ての注文は、顧客サービスシステム を通じてオラクル ERP システムに送信される。ERP システムはその後、顧客のアカ ウントを開設するなどのサービスを開始したり、注文された機材調達のため、ベンダ に EDI を通じて注文を送る。 エアタッチ・コミュニケーション社は、この「ネットワーク・エンタープライズ」 (eCommerce システム)から、3 つのメリットを得ている。 ・全ての業務処理情報を、一つに統合されたシステムで管理することができる。 ・顧客の購入パターン、ワイヤレス市場の情報、ベンダとの情報交換なども一貫 して行うことができる。 ・eCommerce システム内の EC 機能により、同社の戦略的パートナーのオンライ ン広告を掲載することができ、広告料という新たな収入を得ることができる。 b.リズ・クレイボーン社 リズ・クレイボーン社(Liz Claibone)は創業 20 年の婦人服製造販売を行う企業で ある。 1997 年、同社は事業拡大を目指し、年間売上を 20 億ドルから 5 年間で 50 億ドルに伸ばすという目標を立て、アグレッシブな買収戦略を通して事業拡大を狙う 戦略を立てた。 ところが、同社では、社内全体において業務システムが一貫性を伴わず、全くばら ばらに行われており目標達成の大きな障害となっていることが判明した。そこで、同 社は、「変革 2000 年(Transformation 2000)」と呼ばれる大規模な BPR に取り組ん だ。 リズ社は、 「変革 2000 年」の中で、中核的な役割を担う IT プロジェクトを「リズ・ ファースト(Liz First)」と名づけ、商品企画及び商品が市場にでるまでのサイクル の縮小を実現し、さらに買収・合併によって次々に傘下に入れた新規事業をスムーズ に既存オペレーションに包含できるための、極めてフレキシブルなシステムを目指し た。 新しいエンタープライズシステムを構築するにために、リズ・クレイボーン社は様々 なベンダから、よりよいソフトウェアを選んで組み合わせる「ベスト・オブ・ブリー ド(best-of-breed)」の方法をとった。中心となるシステムには、ERP 機能のほとん どを包含するオラクルのデータベース・ソリューションを利用した。同社が選んだソ フトウェアは以下の通りである。 ・J. D.エドワーズ社(J. D. Edwards)の財務管理ソフトウェア ・リヒター・システムズ社(Richter Systems)の卸売調整ソフトウェア ・マクヒュー・ソフトウェア社(McHugh Software)の倉庫管理システムソフト ウェア ・ロックポート社(Rockport)の運輸、流通管理ソフトウェア ・インターピッド(Interpid)の意思決定支援ソフトウェア 1997 年に上記ソフトウェア群の選択と、新たに構築されたシステムを小規模な形に してデモンストレーションする「会議室用パイロット版(conference room pilots)」 が作成された。 1998 年に主要モジュールのパイロット導入が完了し、アプリケーションを初公開さ れた。1999 年に、新たなプロセスに対応するようなシステムの改訂、カスタム化が行 われた。 「リズ・ファースト」の発展に伴い、同社は、インターネットを使ったビジネス戦 略にも着目し、大口、小口小売店及び製造メーカなど、リズ社の取引先を全て取り込 んだ、企業間電子商取引業務ネットワークの構築を目指すようになった。この取引先 をリンクしたエクストラネットは、現在、 「リズリンク」と呼ばれ、同社の「ネットワ ーク・エンタープライズ」の中核をなしている。 「リズリンク」は、まず、注文管理システム、次に商品情報システム、最後に製造 元への製造発注システムの 3 つの段階を経て、発展を遂げていった。 第 1 フェーズとして、小売店とのネットワーク化に取り組んだ。比較的安価な投資 で大きなメリットが得られるシステムとして、インターネットを使ったオンライン注 文管理から着手した。同社は EDI トランスレータを導入し、同社の ERP システムに、 小売業者から送付される注文などの EDI データを取り込めるようにした。ERP シス テム内の情報は、ウェブサイトに掲示され、閲覧することができるようにした。 リズ社は、このインターネット購買システムにより、今まで大規模小売店としか活 用できなかった EDI を、小規模な小売店へも拡張することで、注文処理業務の効率が 大きく向上した。 第 2 フェーズとして、小売店のバイヤを対象とした商品情報システム「@Market」 を立ち上げた。このシステムは、バイヤに、同社の新しいアパレルラインに関する情 報や、プロモーションに必要な情報を提供する。このシステムにより、リズ商品の売 り手である小売店とのリレーションシップが大きく改善されただけでなく、 「LizLink」サイトにおける高度なイメージ管理システムが開発されるなど、多大な 効果が出ている。 第 3 フェーズとして、製造業者とのネットワーク化を図るサプライチェーン・マネ ージメントのためのネットワーク「Supply.Link」を立ち上げた。この「Supply.Link」 を利用して、同社はアパレルの製造過程を管理したり、委託製造業者に対し、継続的 に製品の需要、デリバリースケジュールの情報を確認することができるようになった。 委託製造業者は、リズ社から供給されたデスクトップ PC を使って、「Supply.Link」 にアクセスすることができ、これを利用して製品のアップデート情報を交換したり、 オンラインでリズ社からの注文に関する問い合わせに対応することが可能である。 これらの一連の活動により、同社は、1998 年運営コストを 1 億ドル削減することが できた。また、顧客である小売店や、供給元である委託製造業者とのリレーションシ ップの改善など、目に見えない利益も大きかった。 このような取引先を取り囲んだネットワーク化のみならず、リズ・クレイボーン社 は、社内及びエンドユーザである消費者に対しても、同様のネットワーク化を図って いる。例えば、消費者に向けた Web サイト www.LizClaiborne.com を開設し、新商品の ショーケースを行い、同社製品を扱う小売店の紹介を行ったり、従業員に向けたイン トラネット www.Liz.com を開設、従業員が人事、購買などの機能をセルフサービスで 利用できるようにした。 (5) ネットワーク・エンタープライズ」の展望 米国企業において、 「ネットワーク・エンタープライズ」への取り組みは早いピッチで 進んでいる。「ネットワーク・エンタープライズ」の構築により、企業を取り巻く全て のプレイヤたちとのリレーションシップを組みなおし、新しいネットワークが形成され つつある。 「ネットワーク・エンタープライズ」により、将来生まれると予測される様々 なビジネスモデルが、アーンスト・アンド・ヤング社のビジネス・イノベーションセン ターが発表したレポートの中で示されている。 「要塞(Walled fortress)」モデル 企業はリンクを通じて、サプライチェーンや顧客とより強固な結びつきを持つ。 その結果、企業によってそれぞれ独立したシステムが連立し、そのシステム間で 顧客獲得に向けての競争が行われようになる。 「ケイレツ」モデル 企業はより柔軟なネットワークで結ばれ、業態システム間での取引も行われる ようになる。日本の系列システムのように、企業は特定産業「グループ」に所属 するが、グループを超えた協力も行われる。 「ローカル」モデル 企業は地域別に分かれた地元サプライヤ集団と取引を行い、企業間で緩やかな リレーションシップを保っていく。 「シリコンバレー」モデル 企業は多数の取引パートナと関わるようになる。顧客のその時々の需要により、 パートナシップが様々な企業の間で一時的に結ばれる。顧客の需要が変化すれば、 企業とそのサプライチェーンは新たな市場の状態に合わせてその形態を変化させ る。B2B EC のオープンスタンダードの開発や企業間システム統合により、このモ デルはより現実的なものとなっていくと予想されている。 「ネットワーク・エンタープライズ」は、実際には上記 4 つのモデルの様々な特徴 を組み合わせたものになると思われる。また、業種により、その業種の特徴、グロー バル化の度合いなどによって異なるモデルが形成されると予想されている。 現在、米国企業は ERP を通じ内部業務の統合化を目指し、SCM を通じてサプライ ヤと緊密な統合を行い、CRM を通じてより顧客との関係を強化し、EC を通じて迅速 に新しいパートナシップの可能性を探索しようとしている。この動きにより、米国企 業は更なる効率性と、国際競争力の優位性を実現することが予想されている。 ※“1 国内外の EDI 実態調査”の内容は、 「国内外の EDI 実態調査報告書−2000 年版−」 財団法人日本情報処理開発会議・産業情報化推進センター発行 のデータ及び資料をもとに研究用にまとめたものである。 2.建設マーケットプレイスの動向 2.1 マーケットプレイスの概要 建設業界にも、“e−マーケットプレイス”と呼 ばれる新しいビジネスモデルが登場してきた。e −マーケットプレイスは、既に 2000 年だけでも、 米国で 700 を超えるe−マーケットプレイスが創 設され、2002 年までには世界で 1 万以上になる ことが予想されている。これらe−マーケットプ レイスで取引される金額は、今後急激にその比率 をのばし、2004 年には世界の電子商市場 720 兆 円のうち、実に 37%を占める 280 兆円に達する とされている。 こ こ では 、 e− マ ー ケッ ト プレ イ スに つ い て、 誕生の背景、メリットなどについて解説する。 出典:2.「e−マーケットプレイス入門」 2.1.1 B to B Eコマース e−マーケットプレイスが登場する前には、“B to B E コマース”と呼ばれるものがあ ったが、従来の B to B E コマースには、大きく分けて、2 つの種類が存在する。 ①バイサイド( Buy Side ) B to B ②セルサイド( Sell Side ) B to B (1)バイサイド( Buy Side ) B to B バイサイド B to B は、「インターネット調達」と呼ばれる形で、企業の調達業務をイン ターネットで行うためのシステムである。 この考え方自体は目新しいものではなく、古くは 1980 年代に、専用線を使った取引先 との受発注データの電子化があり、また、それを継承する形で、特定の業界ごとにデータ 形式や伝送方式の標準化が行われ、企業間のデータ交換は EDI(電子データ交換)と呼ばれ るものとして確立し、現在でも広く活用されている。 しかし、バイサイド B to B は、EDI と多くの点で異なる。もっとも大きな違いは、オ ープンであることだ。EDI は業界ごとにデータの形式やネットワークの接続形式が異なり、 基本的に、他業界とデータ交換を行うことは難しい。しかし、これに対して、バイサイド B to B は、インターネットテクノロジーを用いており、データ伝送形式、接続機器、そし て、接続方法が標準化されている。これによって、EDI があらかじめ決められた相手だけ とデータ交換が可能なのに対して、バイサイド B to B では参加している多数の企業と情報 交換できる。 (2)セルサイド( Sell Side ) B to B 一般的に、B to C が取り上げられることの多い「インターネット販売」だが、B to B で は、まったく異なる意味で「インターネット販売」が行われている。それが、セルサイド( Sell Side )B to B である。セルサイド B to B では、購入する企業が商品を大量に、高い頻度で 購入することが多い。購入手続きは、商品情報検索、見積り依頼、社内手続き、そして発 注、支払条件設定などと購買のプロセスには、社内外の多くの人が関わって初めて成立す る。 セルサイド B to B で一般的になっているのは、PC や文房具などのオフィス用品の分野 である。米国では、シスコシステムズやデルコンピュータ、日本ではオフィス用品のアス クルなどがある。これらの例では、販売をしている側にも、注文をしている多数の企業に も、事務効率化のメリットがあり、ひいては、コストを抑えた購買が可能なサービスとな っている。 2.1.2 e−マーケットプレイス バイサイド B to B、セルサイド B to B のどちらも、基本的には、主導する 1 つの企業 の存在があり、その企業を中心にして、調達、販売が起こる。 しかし、インターネット本来の成り立ちは、多くの参加者がオープンな条件で、結びつ き、さまざまな取引が行われていくというものである。したがって、バイサイド B to B、 セルサイド B to B も必然的に、オープン化の道を辿っている。バイサイド B to B では、1 社が構築したシステムを同業他社にも解放することで、複数の購買企業に対して、数多く のサプライヤーが参加する場合がある。また、セルサイド B to B も、主体となる企業が取 り扱わない商品について、他の企業がサプライヤーとして参加することで、すでに確保さ れた顧客企業を共有するような活動が目立ってきている。 こうして、1 社の主体企業が存在したバイサイド B to B、セルサイド B to B は、1:n の関係から、m:n の関係に変容を遂げつつある。 そして、この考え方をさらに進めたのが、e−マーケットプレイスである。主体は、マ ーケットプレイスとなり、「企業の購買活動そのものが市場化」するのである。 日本での現状でいえば、バイサイド B to B は、いわゆる「系列」企業との関係強化に役 立つ。セルサイド B to B は、顧客企業の新たな囲い込みのために機能していた。どちらも、 既存の企業関係を強化し、取引コストを抑え、利便性を向上させていくことに大きな意味 があった。 しかし、e−マーケットプレイスは、そうしたグループ企業や系列企業との連携や既存 の顧客の囲い込みとして機能するのでなく、業界全体の最適な取引関係の構築に対して、 機能するものである。 すでに米国では、業界ごとに標準化されている商品を取り扱い、調達業務を効率化して い く こ と に 主 眼 を 置 い た e − マ ー ケ ッ ト プ レ イ ス が 存 在 し て お り 、 こ れ ら は 、 鉄 鋼 業界 (MetalSite、e−STEEL など)、自動車業界、電機業界、印刷製紙業界などという大き な単位で立ち上がっている。これらは、バーティカル・マーケットプレイス(垂直型)と 呼ばれている。また、一般的な調達を受け持つe−マーケットプレイスもあり、 MRO(Maintenance, Repair and Operation)と呼ばれるオフィス用品やホテルや工場など で必要とされる経費で購入可能な消耗品などを扱うホリゾンタル・マーケットプレイス(水 平型)も登場している。 さらには、スーパー・バーティカルと呼ばれる、Ariba ネットワーク、i2 Technologies の提供する TradeMatrix、VerticalNet、mySAP.com などが存在する。これらはe−マー ケットプレイスに必要なソフトウェアやハードウェアを提供する企業が主導する B to B ポータルサイトモデルがある。 日本でも、すでに日本独自の企業形態と言われる総合商社、そしてワールドワイドカン パニーの多い家電メーカーなどで、e−マーケットプレイスを主導する動きが活発化して いる。しかし、従来の日本企業の強みと言われた、「系列」に基づいたグループ企業との連 携とは、まったく異なるe−マーケットプレイスに関しての取り組みは、これから顕在化 するものと思われる。 2.1.3 e−マーケットプレイスの構成要素 e−マーケットプレイスには、数多くの構成要素がある。多数のバイヤーと多数のサプ ライヤーが「出会い」、取引を行うための「場」であるため、要素が多い。まず、同業界や 同じ調達項目を持つ企業が集い、情報交換を行う場である必要がある。これはe−マーケ ットプレイスがコミュニティーであることを示す。この前提に加え、必要とされるのが下 記の各機能となる。 ①電子カタログ ②e−調達 ③ダイナミック・トレーディング ④コラボレーション・サービス ⑤会員・事務サービス ⑥物流手配・受注履行・配送 ⑦金融サービス 出典:2.「e−マーケットプレイス入門」 (1)電子カタログ 電子カタログとは、企業間で取引される商品の詳細が蓄積され、データとして公開され ることを示す。特別な仕様を持つものや業務向けだけに開発された商品は、詳細な付帯情 報なしには、購入することができない。例えば、家電製品やパソコンの一つひとつの部品 などは、バリエーションが多く、詳細なデータなしには購入できない。こうしたデータが 提供されることで、取引が迅速に確実に行えるようになる。電子カタログは、検索エンジ ンとともに提供され、e−マーケットプレイスのトレーディング・イネーブラー(取引実 現要因)として、機能する。 (2)e−調達 e−調達とは、バイサイド B to B で説明した調達のために最適化されたネット上の取引 システムである。 (3)ダイナミック・トレーディング ダイナミック・トレーディングとは、インターネットならではの取引形態を実現するた めのシステムである。その種類は下記のように分けられる。 ①エクスチェンジ 同種類の商品が、大規模な数量で取引されるため、「相場」が存在するタイプ。 ②オークション セルサイド B to B に近い形態で、商品が存在し、それに対して、購入者が価格を つけ、競っていくことで、購入価格が決定されるタイプ。 ③リバース・オークション バイサイド B to B に近い形態で、特定商品と特定価格で、納入できるサプライヤ ーを募るタイプ。 (4)コラボレーション・サービス コラボレーション・サービスとは、企業間活動の結合を目指すもので、本質的には、サ プライチェーン・マネジメントにつながるサービスである。クローズアップされるのはe −マーケットプレイス上の取引で、需要予測の基本データが収集されることである。生産 計画に情報がフィードバックされ、それがロジスティックス/フルフィルメントにも影響を 与える。商品そのものにフォーカスすれば、デザインや開発にも影響を与えるようになる。 こうした要素を取り入れて、最適なサプライヤーとの関係を築くことを目的とする。また、 ビジネスインテリジェンスなどの適用により、購買予測などのデータの提供も実現できる だろう。 (5)会員・事務サービス 会員・事務サービスとは、パーソナライゼーションされたサービスの提供、コミュニテ ィー活動支援、販促・マーケティング機能、マーケット・インテリジェンスの提供などに なる。 (6)物流手配・受注履行・配送 物流手配・受注履行・配送は、B to B の厳しい納品条件の最終的な要となる部分である。 (7)金融サービス 金融サービスは、与信管理、保険、決済を受け持つ部分として、重要なサービスである。 どちらも、構成要素として欠かせない存在だが、単独で提供されている既存サービスと連 携させる場合も多く、内部に存在しない場合もある。しかし、e−マーケットプレイスと しては、これらの機能を提供するネット企業との密な連携は非常に重要である。 2.1.4 e−マーケットプレイスのメリット 以上のような、多岐にわたる機能が提供されるのが、e−マーケットプレイ スで ある 。 e−マーケットプレイスに参加するメリットには、その参加立場毎に、以下のメリット がある。 (バイヤーとして参加している企業) ・新しいサプライヤーの開拓 ・業務の電子化等による調達コストの削減 ・部品在庫の削減 ・物流コストの削減 ・スポット的な調達手段等として活用できる (サプライヤーとして参加している企業) ・新規取引先の開拓 ・販売機会の拡大による営業効率の改善 ・営業コストの削減 ・在庫調整等の実現 e−マーケットプレイスは、サプライチェーン・マネジメントとして、取り組まれてい る各企業の活動を、業界全体に波及させ、業務プロセスの最適化を行うものとして捉える ことができる。その結果、マーケットの透明性が増し、商習慣の変革が促進されるのであ る。 2.2 建設e−マーケットプレイスの動向 2.2.1 建設e−マーケットプレイスの現状 建設業関連のe−マーケットプレイスには以下のものがある。 【建設業関連のe−マーケットプレイス一覧】 建築・建設 マーケットプレイス名 木建市場 国 内 企業名 木建市場 鹿児島建築市場 ベンシステム KENZAI-NET カーサナビ ケンセツ21 三井物産 カーサナビ ケンセツ21 取扱商品 建材などの住宅建築に関 する商材 住宅建築に関連する建材 や施工サービス 住宅建材 建材や住宅設備機器など 建設業界のためのコミュニ ティ 建設資機材 URL http://www.mokken.com/ http://www.ben.co.jp/ichiba/ http://www.kenzainet.ne.jp/ http://www.casanavi.co.jp/ http://www.kensetsu21.com/ コンストラクション・イーシー・ドッ コンストラクション トコム イーマテリアルス イーマテリアルス http://www.constructionec.com/ 建設資材の逆オークション http://www.e-materials.org/ CMnet クレーンナビ シーエムネット アイ・ナビ など 発注・受注など建設全般 中古クレーン ビッドコム社 建材や建築機械 企業名 三菱商事 鋼材ドットコム 日本メタルサイト スマートオンライン バーティカルネット ジャパン テクノリンク 阪和興業 三菱商事 取扱商品 ポリエステルチップ 鉄鋼材および鉄鋼製品 鉄鋼材および鉄鋼製品 鉄鋼材および鉄鋼製 金属素材 海外 Bidcom http://www.cmnetcorp.com/ http://www.cranenavi.com/indexj.htm http://www.bidcom.com/ 素 材 国 内 マーケットプレイス名 ポリエステルチップ・ドット・コム 鋼材ドットコム メタルサイト スマートオンライン 金属加工オンライン URL https://www.polyesterchip.com/ http://www.kouzai.com/ http://www.msjc.com/ http://www.smol.co.jp/ http://www.metalworkjapan com/ e-STEEL 特殊鋼・金型材 http://www.e-steel.co.jp/ ハンワスチール・ドットコム 鋼材 http://www.hanwa-steel.com/ 特殊形状の鉄鋼材および http://metalcyber.mitsubishi.co.jp 特殊鋼サイバーマーケット 鉄鋼製品 / ベイツボ・ドットコム イービストレード 紙、板紙 http://www.beitsubo.com/ ペーパー・イー・サイト ペーパー・イー・サイト 紙 http://www.paper-e-site.com/ いといとドットコム 伊藤忠商事 綿糸 http://www.ito-ito.com/ サイバー・ジャパンクリエーション 大阪繊維リソースセン 維素材、生地、衣料品 http://www.cjc.gr.jp/ MaterialNet.com e-Steel 海 MetalSite Steelsales.com PlasticsNet.com 外 Omnexus RubberNetwork.com TradeTexitile.com ター マテリアルネット・ドッ トコム e-スチール社 メタルサイト社 スチールセールス・ ドットコム コマークス社 Omnexus ラバーネットワーク トレードテキスタイル・ ドットコム 工業原料、素材 鋼材 鋼材 http://www.materialnet.com/ http://www.e-steel.com/ http://www.metalsite.com/ 鉄鋼材および鉄鋼製品 プラスチック原料と部品 熱プラスチック産業 ゴム&タイヤなど 繊維、織物、生地、衣料品 http://www.steelsales.com/ http://www.commerx.com/ http://www.omnexus.com/ http://www.rubbernetwork.com/ http://www.tradetextile.com/ 現在運用が開始、或いは発表されている建設業に関連したe−マーケットプレイスで提 供されているサービスの一例として、コンストラクション・イーシー・ドットコムが提供 しているものについて挙げる。 出典:3.「コンストラクション・イーシー・ドットコム」 ①電子カタログ <カテゴリ検索>、<キーワード検索>、<50 音順検索(メーカー/製品名/ サプライヤ名)>の 3 パターンでカタログ検索が出来、検索結果より、希望の製 品を選択し、情報を照会出来る。また、カタログ検索後、見積を取りたい製品が 見つかった場合は、工事現場のエリア(県単位)を選択し、選択されたエリアを 営業エリアとするサプライヤ(営業所単位)の一覧を照会することができる。 ②e−調達、③ダイナミック・トレーディング 立ち上げ当初は仮設資機材・建設機械の調達、レンタルリース業務に関する見積 書の作成・送付・回答比較、注文書の作成・送付、出来高の作成・送付ができる。 来年4月以降には鉄筋などの鋼材調達や工事の内外装資材および設備の分野に展 開される予定である。 ④コラボレーション・サービス 提供の予定なし。 ⑤会員・事務サービス 求人・求職の情報提供や汎用ソフトなどを紹介するASPサービス ⑥物流手配・受注履行・配送 最適物流業者を選定することにより、物流コストの明確化・削減を図ります。 ⑦金融サービス 都市銀行や信託銀行、商社と提携して下記に示す与信・決済サービスを予定して いる。 ◆ネットバンキング∼請求金額を電子送金する。 ◆立 替 払 い ∼バイヤ与信枠内で支払債務の流動化を図る。 ◆ファクタリング ∼売掛債権の流動化を図る。 2.2 建設e−マーケットプレイスの今後の展開 e−マーケットプレイスには、構成要素が多い。したがって、すべてが一度に実現する わけでない。通常、e−マーケットプレイスには、次に挙げる三つの成長段階がある。 最初期には、1.業界コミュニティーの確立(会員化)、2.商品カタログの提供、3.活発な 取引という順序で、e−マーケットプレイスの基本的な要素が確立していく。 第二段階で、多数の会員を抱え、活発化したマーケットを各企業のサプライチェーン・ マネジメントに組み込み、最適化する状況になる。この段階では、バイヤーが、サプライ ヤーの製品企画や設計段階から、商品についてアクセスするような、デザイン・コラボレ ーションやストラテジック・ソーシングと呼ばれる、高度なサプライヤーとの連携が実現 される。 そして、第三段階として、e−マーケットプレイスに参加している企業のすべてが最適 化され、コラボレーションできる環境が創出され、製品デザインから、物流までをエンド・ トゥ・エンドで結びつけたサプライチェーンが確立される。 建設e−マーケットプレイスは、一般市場が確立されている資材調達・機材リースから 始まり、徐々に設備工事等に拡大されようとしている。しかし、建設e−マーケットプレ イスが建設業界に広く受け入れられるためには、現在提供されようとしている調達関連の 機能だけでなく、第三段階で実現される、ゼネコンと様々なサプライヤとの間にコラボレ ーションできる環境の創出が鍵となる。 つまり、建設e−マーケットプレイスが、バーティカル、ホリゾンタルを問わず、高度 な業務プロセス効率化のための機能を提供することによって、企業の“ぜい肉”をそぎ落 とし、“筋肉質”な経営を実現することが可能となるからである。 〈参考文献〉 1.日経ネットビジネス(October 2000 №63) 2.「e−マーケットプレイス入門」 http://nikkei.hi-ho.ne.jp/b2b/index.html 3.「コンストラクション・イーシー・ドットコム」 http://www.construction-ec.com 3 CI−NET(ConstructionIndustryNETwork)の取り組み状況 3.1 CI−NETとは CI−NETとは、日本の建設業界において受け渡しをするデータ形式を定めたものであ る。各建設業者間で受け渡すデータ形式を、CI−NET標準とすることにより、電子デ ータの受け渡しをスムーズに行うことを目的としている。CI−NETの標準データ形式 として、「CI−NET標準プロトコル(規約)」が定められている。 3.2 CI−NETの推進について CI−NETは、1992年に設立された(財)建設業振興基金 建設産業情報推進セン ターが推進役となり、データ交換標準の策定と普及を進めてきた。また、建設省、学識経 験者、関係団体、推進センター会員企業(建設業者、ソフトウェアメーカー等)が協力し てその普及活動を行っている。その位置づけ及びCI−NET推進体制を以下の表に示す。 建 設 業 界 建設省 建設CALS/EC 建設CALS/EC研究会 CALS/EC研究会 (財)建設業振興基金 建設産業情報化推進センター 業際/ 業際/国際 UN/CEFACT 土木研究所 建築研究所 情報化評議会 (CI-NET) 総合技術開発 (財)日本貿易関係 手続簡易化協会 (JASTPRO) EDIFACT 日本委員会 (財)日本建設情報総合 センター ((JACIC JACIC) JACIC) (財)日本情報処理 開発協会 CALS/EC 公共調達 コンソーシアム C−CADEC (CAD) 企業間電子商取引 推進機構 (JECALS) 産業情報化推進 センター (CII) 建築学会 EDI推進協議会 (JEDIC) 出典;建設産業情報化推進センター資料 CI−NETの位置付け 情報化評議会 政策委員会 実用化推進委員会 標準化委員会 簡易ツール開発委員会 調査技術委員会 広報委員会 団体連絡会 CI−NET推進体制 3.3 CI−NET標準プロトコルについて CI−NET標準ビジネスプロトコルとは、授受するデータの伝送方法や標準形式などを 規 定 し た も の で あ る 。 こ れ は 、 ( 財 )日 本 情 報 処 理 開 発 協 会 産業情報化推進センター (JIPDEC CII)が策定したわが国のEDI標準規約である「CII シンタックスルール」に 準拠しており、EDI実施に必要な次の4つの規約から成り立っている。現在の最新バー ジョンは 1.3 ある。 情報表現規約の抜粋 業務単位 情報種類 見積 見積依頼情報 見積回答情報 注文 確定注文情報 注文請け情報 納入 出荷情報 定義 発注者が工事内容・物品の仕様などの見積条件を提示し、 受注希望者に価格の見積を依頼する情報。 見積依頼情報に対して、受注希望者が回答する見積情報。 見積価格や他の見積条件を含む。 発注者が受注希望者に対し、発注を行い契約を申し込む情 報。件名や品名、納期、価格、納地などの注文要件が含ま れる。受注者希望者の承諾により契約が成立する。 確定注文情報による発注申し込みに対し、受注希望者が受 諾する旨を通知する情報。発注条件と異なる条件での受諾 意思の提示の場合、新たな個別契約の手続きを行う。契約 の成立により受注希望者は受注者となる。 受注者が発注者に対し、受注した物品の一部または全部を 出荷したことを示す情報。 入荷情報 出来高 出来高報告情報 出来高確認情報 支払 請求情報 請求確認情報 支払通知情報 総括請求情報 技術 技術データ CADデータ情報 メッセージデータ 発注者が受注者に対し、納入された物品の一部または全部 の受領を確認したことを示す情報 受注者が発注者に対し、一つの取引の特定期間における工 事の出来高、物品の納入量を報告する情報。 発注者が受注者に対し、一つの取引の特定期間における工 事の出来高、物品の納入量を査定した結果を通知する情報 受注者が発注者に対し、一つの取引の特定期間における工 事の出来高、または売掛金に関する金額を示し、その支払 いを請求する情報。 請求情報に対し、発注者が査定し支払いを認めた金額を受 注者に通知する情報 発注者が受注者に対する買掛金残高のうち当月支払分に ついて支払金額とその方法を通知する情報 受注者が発注者に対し、複数の取引の売掛金に関する金額 を示し、その支払いを請求する情報 技術データおよび、技術データの内容を説明する封筒情 報。ただし、CADデータについてはCADデータ情報と 区分する CADデータおよび、CADデータの内容を説明する封筒 情報。 。 情報※1 メッセージを伴わない技術データ(CADデ ータを含む)。 ※ 1:「メッセージなしデータ情報」は標準メッセージが制定されていないテキストまた はバイナリーデータをCIIシンタックスルール1.51を利用して伝送する際に使用する。 CADデータを封筒情報なしに伝送するためにも使用することができる。 3.4 CI−NET導入のメリット CI−NET導入することにより、日常業務の生産性を向上させ、さらに情報化投資の効 率化を図ることができるとして、建設産業情報推進センターは以下のメリットを示してい る。 (1)日常業務の生産性向上 入力作業の削減 情報を受け取る場合、自社システムにデータを直接取り込むため、入 力作業が削減できる。 転記・照合作業の削減 情報を渡す場合、取引先システムに直接データを送るため、転記 作業や照合作業が削減できる。 発送・連絡作業の削減 知の作業が削減できる。 情報を渡す場合、オンラインでデータを送るため、発送や電話通 人為ミスによるムダの削減 入力・転記作業が減るので、誤入力にともなう手戻り等のム ダが削減できる。 連絡時間の短縮 オンラインデータ交換により、郵送等と比べ、日時、場所を問わず、連 絡時間を短縮できる。 (2)情報化投資の効率化 情報化対象業務の明確化 CI−NETでは、EDIを実施する業務単位及び交換情報の 種類を規定しているので、業務上要求される情報化の機能要件が明確になり、情報化の投 資効率を高めることができる。 多端末現象の解消 オンラインデータ交換を実施する場合、取引先毎のシステム開発が必 要となる(これを「多端末現象」または「多ソフト化現象」という)が、これは、開発費 用の増大を招くばかりか投資効果の縮減をもたらす。この点、CI−NETを導入すれば 取引先によらず、標準的なデータと自社データの変換ソフトウェアを一度開発するだけで すべての取引先企業とオンラインデータ交換を行うことができる。 既存システムの費用対効果の向上 取引先の情報化が停滞し、EDIを実施できる企業が 少ない場合、既存のシステムを十分に活用できない場合がある。CI−NETが普及する と、EDIによる取引先が増加し、既存システムの稼働率とともに情報化投資の費用対効 果が向上する。 3.5 CI−NET簡易版の開発について CI−NET標準の導入は現在大手企業およびその取引先約200社にとどまっており、 その要因として ・EDI規約の理解、実装が困難 ・初期投資やネットワーク運用費が高い ・導入、運用に携わる専任要員がいない などがあげられている。 そこで、これらの問題を解決しEDIを広く普及させるため、平成10年12月に「簡易 ツール開発委員会」が発足し、「簡易なEDIツール」の開発を進めている。 開発にあたっては、どの企業でも利用可能なパッケージを目指し、 ○インターネットの利用 ○簡単な操作 安価、簡便なネットワーク利用、データ電送は電子メール方式 接続や暗号化などの操作を自動化 ○高機能化 図面などの付属データも添付可能 ○低価格化 ツールを低価格なパッケージとして提供 等を開発方針としている。また、メッセージは「CI−NET標準メッセージ」をベース として、やりとりするデータを絞り込み、最小限のデータ項目にしてメッセージサブセッ トを策定している。 この「簡易なEDIツール」がサポートしているのは、実用化のニーズが高い ○設備見積 ○出来高報告 ○購買見積依頼 ○購買見積回答 ○確定注文 ○注文請け ○請求 の7分野である。 購買見積回答受信 購買見積回答受信 確定注文送信 確定注文送信 注文請け受信 注文請け受信 下見積送信 下見積送信 購買見積依頼受信 購買見積依頼受信 購買見積回答送信 購買見積回答送信 確定注文受信 確定注文受信 注文請け送信 注文請け送信 出来高報告受信 出来高報告受信 出来高報告送信 出来高報告送信 請求受信 請求受信 請求送信 請求送信 受注側(サブコン) 購買見積依頼送信 購買見積依頼送信 インターネット 発注側(ゼネコン) 下見積受信 下見積受信 出典;建設産業情報化推進センター資料 簡易ツール対象業務 また、利用者の情報化レベルに応じて以下の3つのツールを用意している。 ○「簡易なEDI専用システム」 企業内システムを持たず、市販の業務パッケージを利用していない中堅・中小企業等の ためのシステム ○「業務パッケージ連動方式」 市販の業務パッケージを使用している企業等のための連動システム ○「自社業務連動方式」 す で に CI − N E T を 実 施 し てい る 企 業 の た め の イ ンタ ー フ ェ ー ス の 役 割 を果 た す シ ステム 簡易なEDI 専用システム (パソコン1 パソコン1台) 見積書作成等の業務処理 業務パッケージ 連動方式 自社業務 連動方式 市販、社内開発の業務 ソフト(CI-NET非対応) 既存のCI-NET対応 業務パッケージ トランスレータ トランスレータ 運用管理 運用管理 運用管理 暗号化・復号、圧縮・解凍 暗号化・復号、圧縮・解凍 暗号化・復号、圧縮・解凍 メール送信・受信処理 メール送信・受信処理 メール送信・受信処理 インターネット インターネット 出典;建設産業情報化推進センター資料 簡易ツールパターン これらのツールの有用性について、平成11年9月から11月にかけてゼネコン18社及 びその取引先56社が参加して、見積依頼、見積回答、注文請け、出来高報告、請求の実 証実験を行った。 実験の結果、基本機能の有用性は確認されたがインターフェース部分(人、外部システム) の改善が必要であるとして、「実用仕様」を検討中である。 3.6 ゼネコン大手各社の取り込み ゼネコン大手各社は自社のネットワークサービスと、CI−NETを連携したシステム化 構想を打ち出してきている。 鹿島建設株式会社 方針 鹿島の企業間EC構想 CI−NETに準拠したEDI、 調達関連業務システムの構築、CI−NETの 普及・定着を推進 清水建設株式会社 CI−NET対応のための活動 ・見積部での元見積情報の電子化 ・現場における電子データによる実行予算作成と原価 管理システムの普及・展開 ・調達部へ電子データによる調達依頼の発信・決定データの取り込み 情報開示 大成建設株式会社 1 LiteS 2 CI−NETとの連携 基本方針 実装規約に準拠したデータを交換する。 中間ファイルまたはCiiファイルを交換する。 ・全国の調達単価 3 LiteS導入企業とのデータ交換は「Web EDI」ワーキングで議論している「ASP事業者へ の推奨事項(案)」②(LiteS実装規約が定めるメッセージサブセットに準拠したデータを 交換できる)をベースに実現方法を検討する 4 データ交換方式はメール方式ではなくWeb方式にする 5 契約・出来高・請求の実装規約が公開されてから連携PGの開発に入る。 3.7 株式会社コンストラクション・イーシー・ドットコムの取組み (株)コンストラクション・イーシー・ドットコムは、建設産業における電子商取引を目 的として、平成12年8月に発足した。出資会社は、NTTデータ、鹿島建設、清水建設、大 成建設、大林組、竹中工務店、日本オラクルの7社である。主な事業方針として、(1)仮 設資機材の「マーケットプレイス」から「建設ポータルサイト」へ (2)「既存業務の単 純な電子化」ではなく、「合理的・効率的な業務フローの電子化」の提案、 (3)最新の ITを活用した「標準建設インフラ」の提供と各企業の情報化投資の最小化をかかげて、(4) 建設産業のEDI標準であるCI−NETとの整合とCI−NET Web版へ指向すると述べ ている。 このうちCI−NETへの整合については、同社が提供している「建設マーケットプレイ ス」のサービスと、「CI−NET LiteS」を使用した建設各社の調達システムとを 連携して使用できるシステムの開発に着手すると発表した。これは建設産業情報化推進セ ンターのWeb−EDIワーキング(*1)において策定された「ASP事業者へのCI−N ET対応についての指針」に基づいて進められるとのことである。 この連携システムの実現により、「CI−NET LiteS」を未導入のサプライヤ企業 においては、「建設マーケットプレイス」に参加することにより、「CI−NET Lit eS」で流通する取引データを自社に取り込むことができるようになる。また、バイヤ企 業においては、「CI−NET LiteS」のインターフェイスを利用して「建設マーケ ットプレイス」に取引データを流通させることができる。これにより、建設業界における ITインフラが飛躍的に普及、拡大していくことが期待される。 *1: 財団法人 情報化評議会 3.8 建設業振興基金 建設産業情報化推進センター 簡易ツール開発委員会 Web−EDIワーキング 中堅建設業における CI-NET を利用した電子商取引システムの実証実験 日本建設業経営協会(日建経、谷川直武会長)は、電子商取引システムの実証実験を行っ た。この実験は、国土交通省の「中堅・中小建設業者向け電子商取引システム開発研究事 業」に採択されたものである。実験では建設産業のEDI標準であるCI−NETを利用 し、日建経の会員会社がそれぞれ、取引先の専門工事業者との間で見積もりの依頼と回答 をインターネットにより行った。CI−NETの利用効果や課題を検証し、中堅建設業者 が共同で取り組める電子商取引システムを構築する方法を探った 実験に参加したのは会員会社から25社と、その取引先の専門工事業者50社以上である。 日建経の中央技術研究所がホームページを開設して関係情報を提供するなど実験を支援し た。 中 堅 業 者 と 専 門 工 事 業 者 が 多 数 参 加 し て 実 験 が 行 わ れ た こ と で 、 今 後 C I − N E T の普 及・定着を促進する効果が見込める。大手に比べて経営基盤の弱い中堅業者が共同でAS P(アプリケーション・サービス・プロバイダー)を活用した電子商取引システムを構築 することを視野に入れ、実験を通じてその可能性や課題を検証することができた。 3.9 今後の課題 (1)CI−NETに関連したサービス、ビジネスとうまく役割分担をしながら、発展す ることを考えなくてはならない。 (2)中小建設業者を含めて広い参加をすすめていき、デジタルデバイドという問題を避 けながら、標準を確立していく必要がある。 (3)単に調達、受発注の部分だけを電子化するのではなく、電子的に受発注した後に、 それぞれの会社がどうやってプロセスを改善していくが課題である。 (4)建設業界全体として、効率性を高めて利益に貢献するシステムをめざすべきである。 参考文献 (1) CI−NET/C−CADEC 主催 財団法人 シンポジウム 建設業振興基金 講演資料集 2001年2月 建設産業情報化推進センター (2)(株)コンストラクション・イーシー・ドットコム のホームページ http://www.construction-ec.com (3)(財)建設業振興基金 建設産業情報推進センター のホームページ http://www.kensetsu-kikin.or.jp/ci-net/ (4)社団法人 日本建設業経営協会 のホームページ http://www.chugiken.or.jp/ 4. EDI導入に関わる法的問題 4.1 はじめに 近年の情報処理技術の発達、高性能化されたパーソナル・コンピュータの普及及びイン ターネットに代表される近年のコンピュータ・ネットワーク網の整備に伴い、オープンな コンピュータ・ネットワークを通じてのデジタル化されたデータの交換が広く普及しつつ ある。こうした情報通信の高度化は,電子取引を可能にし,申請や届出の電子化を可能に することにより電子政府の実現にも大きく寄与し得るものである。インターネットによる 電子商取引も驚くべきスピードで広まりつつある。しかし、コンピュータについてそれほ ど専門的な知識のないユーザーを含めた不特定多数の人々が、すでにインターネット上で 電子商取引を始めているにもかかわらず、法的、技術的な課題が解決されているとは言え ない。 いままでの商慣習がそのままあてはめられるかどうか曖昧な点も多く、新しいタイプの 消費者被害が広まる恐れもある。 被害を防止し、電子商取引をスムーズに運用するためにも、「プライバシーの保護」「消 費者保護」「取引のルール化」などさまざまな面から EC 環境の整備が求められている。 4.2 電子商取引と法律 企業間商取引は昨今インターネットや新聞紙上でも数多く取り上げられ本格的な運用 を迎えている。 ところが、従来の商取引を前提に作られた現行法体系では、消費者取引の際に書面の交 付が義務付けられていたり、取引契約の成立時期、データの誤入力に対する解決方法や、 取引に関する電子データの裁判所への証拠としての提出方法が不明確であるなど、電子商 取引を可能とするための方策は、もともと講じられていない。もっとも、特定の企業間を 対象としたEDI(Electoronic Data Interchange)の領 域であれば、事前に当事者間で包括的な契約を交わすことにより対処することが可能であ り、契約内容の標準化を進めることも容易である。これに対し、不特定多数の消費者が対 象となるインターネット上の電子消費者取引では、ただちに同様の方法により対処するこ とも困難となる。 4.3 電子署名・認証に係る制度のあり方について (1)電子署名・認証とは 電子署名及びそれをサポートする認証システムは、情報通信ネットワークを介してデー タのやりとりを行う相手が真に相手その人であり、またやりとりをするデータが改変され ていないことを確認するためのものであり、非対面でデータのやりとりをする当事者同士 が安心して電子商取引を行う上で必要不可欠な要素である。 (2)電子署名・認証に係る制度の基本的な考え方について 政府は電子商取引の安全性を高めるために「電子署名及び認証業務に関する法律」を平 成12年5月31日公布し平成13年4月1日施行することを決定した。 その概要は総則にも記載されているが、この法律は、電子署名に関し、電磁的記録の真正 な成立の推定、特定認証業務に関する認定の制度その他必要な事項を定めることにより、 電子署名の円滑な利用の確保による情報の電磁的方式による流通及び情報処理の促進を図 り、もって国民生活の向上及び国民経済の健全な発展に寄与することを目的とするとあり、 章立ては以下の通りである。 第一章 総則(第一条・第二条) 第二章 電磁的記録の真正な成立の推定(第三条) 第三章 特定認証業務の認定等 第一節 特定認証業務の認定(第四条−第十四条) 第二節 外国における特定認証業務の認定(第十五条・第十六条) 第四章 指定調査機関等 第一節 指定調査機関(第十七条−第三十条) 第二節 承認調査機関 認証内容が誤りであった場合における関係当事者の法律関係については、電子署名法で は何も触れられていないので、民法などに委ねられると思われる。 4.4 IT基本法における電子商取引ルールと新たな環境整備 IT基本法案の定める基本方針 ①高度情報通信ネットワークの整備コンテンツ(情報の中身)の充実情報活 力の習得を一体で進める。 ②低料金で世界水準の通信インフラ整備 ③IT教育の振興や専門的人材の育成 ④規制改革や知的財産権保護消費者保護による電子取引の拡大 ⑤教育や自治体の行政手続きを電子化 ⑥ネットワークの安全性確保や個人情報の保護 ⑦創造的な技術開発 ⑧国際的な協調や貢献 (1)基本的考え方 我が国は、21世紀を迎え、すべての国民が情報通信技術(IT)を積極的に活用し、 かつその恩恵を最大限に享受できる知識創発型社会の実現に向けて、既存の制度、慣行、 権益にしばられず、早急に革命的かつ現実的な対応を行わなければならない。超高速イン ターネット網の整備とインターネット常時接続の早期実現、電子商取引ルールの整備、電 子政府の実現、新時代に向けた人材育成等を通じて、市場原理に基づき民間が最大限に活 力を発揮できる環境を整備し、我が国が5年以内に世界最先端のIT国家となることを目 指す。 a.IT革命と知識創発型社会への移行 コンピュータや通信技術の急速な発展とともに世界規模で進行するIT革命は、18世 紀に英国で始まった産業革命に匹敵する歴史的大転換を社会にもたらそうとしている。産 業革命では、蒸気機関の発明を発端とする動力技術の進歩が世界を農業社会から工業社会 に移行させ、個人、企業、国家の社会経済活動のあり方を一変させた。これに対して、イ ンターネットを中心とするITの進歩は、情報流通の費用と時間を劇的に低下させ、密度 の高い情報のやり取りを容易にすることにより、人と人との関係、人と組織との関係、人 と社会との関係を一変させる。この結果、世界は知識の相互連鎖的な進化により高度な付 加価値が生み出される知識創発型社会に急速に移行していくと考えられる。 b.新しい国家基盤の必要性 我が国は、明治維新を機に農業社会から工業社会への移行を始め、第二次世界大戦の終 戦を機に規格大量生産型の工業社会を急速に発展させることに成功した。その結果、維新 以来100年余りの短い期間で、西欧社会に対する経済発展の遅れを取り戻し、米国に次 ぐ経済大国に成長した。この経済発展の恩恵は広く国民に行き渡り、国民生活の豊かさが 飛躍的に向上した。この成功の要因は、我が国が工業社会にふさわしい社会基盤の整備を 素早く的確に実現できたことにあるといえるであろう。 我が国が引き続き経済的に繁栄し、国民全体の更に豊かな生活を実現するためには、情 報と知識が付加価値の源泉となる新しい社会にふさわしい法制度や情報通信インフラなど の国家基盤を早急に確立する必要がある。しかしながら、革命の常として、工業社会から 知識創発型社会への変化は不連続であり、その過程では将来の繁栄を実現するための痛み にも耐えなければならない。我々国民一人一人は、明治維新、終戦といった過去の時代へ の幕引きがない中で、自ら素早く社会構造の大変革を実行することが求められているとい える。 インターネット上での電子商取引は、 ①誰でも参加できる、 ②民間主導で市場が形成される、 ③スピードが速い、 ④国境のない市場が形成される などのサイバー空間の特徴をもち、紙ベースで行われていた取引が電子化されることによ る利点にとどまらず、これまで想像もできなかったような市場が形成され、新たな取引形 態が生まれると考えられる。 そのためには、誰もが安心して参加できる制度基盤と市場ルールを整備し、サイバー空 間を活性化するとともにその活力を維持するための制度を構築し、更には利用者の要求の 変化に柔軟に対応するための制度を実現する必要がある。サイバー空間上での電子商取引 を発展させ、普及させるためには、事前ルールは最小限とし、新たに発生した紛争を解決 するためのメカニズムを構築する、いわゆる事後チェック型ルールへの転換が重要になる。 また、消費者や事業者など、電子商取引の参加者への障壁を取り除くとともに、取引の透 明性の確保や不正への的確な対処など、参加者の信頼を得るための方策も検討する必要が ある。 また、電子商取引は、国境を越えたグローバルな取引をも容易に可能とすることから、 国際間の商取引を円滑に行えるような仕組みを構築するとともに、我が国からの参加者が ハンディキャップを背負うことのないよう国際的に整合性を持ったルール整備を行うこと も重要である。 (2)目標 事業者間(BtoB)及び事業者・消費者間(BtoC)取引の市場規模は、2003年 に1998年の約10倍(事業者間取引の市場規模が1998年の約10倍:70兆円程 度に、また事業者・消費者間の取引が1998年の約50倍:3兆円程度)になるとの予測 があるが、これを大幅に上回ることを目指す。 (3)推進すべき方策 上記目標を達成するために、政府は以下の方策を講ずる。 a.早急に実施すべき分野 ①既存ルールの解釈の明確化(ノーアクションレター の導入:国民から法解 釈の問い合わせを受け付け、違法性の有無などについて見解を公表する制 度。米証券取引委員会が導入している。IT社会の進展に伴い、電子商取 引の拡大が期待されているが、ネット上のニュービジネスが現行の法規制 に触れるかどうかがあいまいなままでは、取引拡大にブレーキがかかる懸 念がある。制度の導入は、あらかじめ法解釈を示すことで、電子商取引に 民間企業が自由に参入、競争することを担保し、取引の飛躍的拡大につな げる狙いがある。)、ADR(裁判外紛争処理メカニズム)の整備、独禁法 ガイドラインの整備(電子商取引、知的財産関連ガイドラインの整備)を 早急に実施する。 ②民間同士の書面交付義務に関しては、2000年の臨時国会において改正 法が成立したが、これ以外の対面行為、事務所の必置等の電子商取引を阻 害する規制についてもこれを改革する。 ③契約成立時期の明確化などの電子契約や情報財契約 のルール、インターネ ットサービスプロバイダー 等の責任ルール等について、2001年の通常 国会に必要な法律案を提出する。 ④個人情報保護基本法案を2001年の通常国会に提出するなど消費者の信 頼の確立のために必要な法的手当てを行う。 ⑤株主総会の招集通知、議決権行使等についてインターネットの利用が 2002 年の株主総会で可能となるよう所要の商法改正法案等を国会に提出する。 b.2002年までに達成すべき分野 株主総会と取締役会の権限配分の見直し、純資産額規制及び出資単位規制の見直しなど を含む商法の抜本改正を行う。 コンピュータを利用した犯罪に対応するための刑事法制の見直しを行う。 コンテンツ取引の適正化を図る観点から、独占禁止法による監視等により我が国の契約 慣行・流通慣行を是正するとともに、コンテンツに対する課金やクリエイターに対する正 当な報酬を確保するルールを整備する。 又国土交通省でもIT化に対応すべく、建設業法施行規則の改定案を公表しパブリックコ メントを募集し、改正作業を平成13年4月1日から施行する。 参考 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部e−Japan戦略 サイバースペースの法律 岡村久道 5. 行政の取り組み状況 5.1 平成11年度における行政情報化の進捗状況 政府は行政情報化推進基本計画の改定について(平成9年 12 月 20 日閣議決定、以下「基 本計画」という)に基づき、行政の情報化を総合的・計画的に推進している。 当報告は、基本計画に基づき、政府全体として、あるいは、各省庁がそれぞれ実施した 行政情報化施策について、平成 11 年度(1999 年度)における実施状況を中心に取りまと めたものである。 (1)行政情報化に関するこの1年の動き 関連する行政施策、計画等について以下に列記する。 a.行政情報化推進計画関連 「行政情報化推進共通実施計画」(平成11年3月31日改定。以下「共通実施計画」と いう。)及び「平成11年度における行政情報化の取組方針」(平成11年3月31日行政 情報システム各省庁連絡会議了承)並びに「各省庁別行政情報化推進計画」に基づき、下 記に掲げる取組みを行った。 ・「平成12年度における行政情報化の取組の考え方」の策定 ・「申請・届出等手続の電子化推進のための基本的枠組み」の策定 ・ 「共通実施計画」の改定及び「平成12年度における行政情報化の取組方針」の策 定 b.行政情報化を取り巻く主な動き 行政の情報化に関連し、次のような決定がなされた。 ・ 「高度情報通信社会推進に向けた基本方針∼アクション・プラン∼」(平成11年 4月16日高度情報通信社会推進本部決定)において、行政の情報化を含む公共 分野の情報化の推進等について、関係省庁の連携により、政府が一体となって強 力に取り組むこととされた。 ・ 「雇用創出・産業競争力強化のための規制改革」(平成11年7月13日産業構造 転換・雇用対策本部決定)において、平成11年度中に各行政機関一体となって 申請・届出等手続の電子化を一層推進するための基本的枠組みを策定、これを受 けて、省庁別にアクション・プランを策定することとされた。 ・ 「経済新生対策 」( 平成 11年11月11 日経 済対策閣僚会議) 及び 「ミレニア ム・ プロジェクト(新しい千年紀プロジェクト)について」(平成11年12月19日 内閣総理大臣決定)において、平成15年度(2003年度)までに、民間から 政府、政府から民間への行政手続をインターネットを利用しペーパーレスで行え る電子政府の基盤を構築することとされた。 ・ バーチャル・エージェンシー(①自動車保有関係手続のワンストップサービス、 ②政府調達(公共事業を除く)手続の電子化、③行政事務のペーパーレス化(電 子化)及び④教育の情報化)の検討結果が11年12月に内閣総理大臣に報告さ れた。 ・ 「ハッカー対策等 の基 盤整備に係る行動 計画 」(平成12年1月 21 日情報セキ ュ リティ関係省庁局長等会議決定)において、信頼性の高い情報システムの構築な ど、政府システムの情報セキュリティ対策について、その取組を強化することと された。また、関係行政機関の緊密な連携の下、官民における情報セキュリティ 対策の推進を図るため、平成12年2月に、高度情報通信社会推進本部に情報セ キュリティ対策推進会議が設置された。 ・ 「規制緩和推進3か年計画(再改定)」(平成12年3月31日閣議決定)におい て、申告・申請手続について、電子化を一層推進するための基本的枠組みを踏ま え、省庁別アクション・プランの策定、ワンストップサービスの実施に向けたイ ンターネットを活用した行政手続の案内・教示、申請書類等様式の提供など行政 情報化を一層推進することが決定された。 (2)行政情報化の進捗状況 a.社会の情報化の進展に対応した行政情報化の推進(官民接点の情報化) (a)行政情報の電子的提供 ア.インターネット・ホームページ等を活用した情報提供 ・平成 11 年 3 月現在、本省庁(26 省庁)を含む874機関が機関別のホームペ ージを開設(本省庁部局78、地方支分部局283、国立大学、試験研究機関 513)。 ・電 子的 ア ク セ ス 手段 を 持 たな い 国 民 へ の利 便 等 を図 る た め 、 最寄 り の 施設 等 への簡易提供端末を整備(北海道開発庁、郵政省)。 ・ 「さいたま広域合同庁舎」に行政情報の展示・閲覧が可能なインフォメーショ ンセンターを設置(建設省)。 ・政 府機 関 の ホ ー ムペ ー ジ 改ざ ん 事 案 に かん が み 、各 省 庁 に お いて 、 不 正ア ク セス行為制御装置等の点検、セキュリティの維持・向上装置等を実施。 イ.基礎的公開情報のデジタル情報化 ウ.行政情報のクリアリング(所在案内)システムの整備 (b)申請・届出等手続の電子化の推進 ・ 「電子化に対応した申請・届出等手続の見直し指針」(平成9年 7 月改定)に 基づき、各省庁別の電子化計画を策定。 ・見直し対象総手続数(A) 9,089 件 ・当面実施困難な課題がある手続(B) 3,766 件 ・当面実施可能な手続(A−B) 5,323 件 ・11年度末までに実施 3,323 件 ・12年度末までに実施 3,157 件 ・13年度末までに実施 3,163 件 (注)平成11年11月現在 ・「申請・届出等手続の電子化推進のための基本的枠組み」の策定。 (c)ワンストップサービスの推進 (d)歳入歳出、調達手続の電子化 ア.歳入歳出の電子化 イ.調達情報の提供 b.事務・事業の簡素化・効率化及び行政運営の高度化(行政内部の情報化) 以下の内容の施策が推進されている。 (a)内部事務のシステム化 (b)文書管理・流通のシステム化 (c)省庁間等における情報共有 (d)民間へのアウトソーシング等の推進 c.行政情報化のための基盤整備 以下の内容の施策が推進されている。 (a)通信基盤の整備 ア.一人1台のパソコンの整備 イ.LAN、省庁内・省庁間ネットワークの整備 ・省庁間ネットワークの整備 ・霞が関WANの整備 ・利用機関:平成12年3月現在、全26省庁37機関が利用 (b)安全性・信頼性対策の充実 (c)共通課題の解決 総務庁において、民間有識者等を構成メンバーとする共通課題研究会を開催し、インタ ーネット行政手続を行う場合に検討を要する申請者等の認証、手数料の納付方法、申請・ 届出等の電子文書の原本性の確保等の共通的な課題について、平成12年3月に、これら 課題の解決に向けて報告書(インターネットによる行政手続の実現のために)を取りまと めた。 (3)情報システム関係予算の状況 最近6か年の情報システム関係予算の状況を下図に示す。 情報関連予算の推移 (億円) 補正予算 1,455 当初予算 12000 379 10000 1,087 8000 6000 9,336 9,612 11,023 12,831 11,620 11,489 4000 2000 平成 7 8 9 1 1 図−最近6カ年間の情報システム関係予算の状況 1 年 度 (出典:1) 5.2 平成12年度における行政情報化の取り組み方針 (出典:2 参照) 「行政情報化推進基本計画の改定について」(平成9年 12 月 20 日閣議決定)記の第3 の5の(1)に基づき、平成 12 年度(2000 年度)における行政情報化の取組方針を以下のと おり定められている。 改定後の行政情報化推進基本計画に基づき策定する各省庁別計画は、行政情報化推進共 通実施計画(平成 12 年3月31日改定 行政情報システム各省庁連絡会議了承)及びこ の取組方針との整合性を図るものとしている。 (1)省庁再編に伴う情報システムの対応 「各省庁において、省庁再編に伴い、必要となるアプリケーションの修正、インターネ ット・ドメイン名の見直し等ネットワーク環境の変更に的確に対応するとともに、省庁内 LAN、各種事務処理システムの連携、再構築等必要な見直しを行い、情報システムにつ いて効率的な整備、運用を推進する。」としている。 また、「省庁再編に伴う情報システムの見直しに当たっては、必要に応じ、処理能力の向 上を図り、事務処理の迅速化・効率化を推進する。」としている。 (2)行政情報化の基本方針 a.社会の情報化の進展に対応した行政情報化の推進 (a)行政サービスの質的向上 行政サービスの質的向上を図る方策として次の①∼③の項目をあげている。 ア.行政情報の提供等 イ.申請・届出等手続の電子化 ウ.ワンストップサービスの実施 (b)民間部門との電子データ交換の推進 ア.調達手続の電子化 政府調達(公共事業を除く)に係る手続について、「バーチャル・エージェンシ ーの検討を踏まえた今後の取組み」に基づき、郵政省において、各省庁の協力を 得て、各省庁統一的な調達情報の提供を行う政府調達情報統合データベース、競 争契約参加資格審査・名簿作成を統一的に行うシステムを整備する等必要な取組 を進める。 建設省において、公共事業支援統合情報システム(建設 CALS/EC)の構築に 向け、公共事業の電子調達システムの導入を進めるとともに、電子調達の試行の 拡大を図る。また、公共事業関係省庁において、公共事業のCALS/ECの構 築に向け、必要な取組みを進める。 イ.歳入歳出の電子化 各省庁において、歳入歳出事務について、官庁会計事務データ通信システムの 導入を進める。 b.情報通信技術の活用による事務・事業の簡素化・効率化及び行政運営の高度化 (a)個別業務のシステム化、機能の高度化及びシステム間の連携 ア. 通商産業省において、申請から受理、審査、決裁、保存までの一連の業務を電 子化した電子申請システムの構築を進める。また、その他の省庁においても、省 庁再編を契機として、行政手続のオンライン化、ワンストップサービスの実施を 念頭に、関連するシステムとの連携等に留意しつつ事務処理手順等の見直しを行 い、業務のシステム化及び既存システムの機能の高度化を進める。 イ. 総務庁において、各省庁における人事管理事務のための標準的なシステムの整 備、総合的な幹部職員等の人材情報の管理システムである人材情報データベース の整備、再就職の透明性を確保するための人材バンクのシステム化を図る。 ウ.「バーチャル・エージェンシーの検討結果を踏まえた今後の取組について」を踏 まえ、総務庁において、人事局への報告、統計局への報告等、霞が関WANを活 用したシステム化を進める。 (b)文書管理・流通のシステム化 ア. 各省庁において、電子文書を含む文書のライフサイクルを総合的に管理するシ ステムについて、地方支分局等を含めその整備を推進する。 また、各省庁において、保有する行政文書の体系的な整理、ファイル目録の作 成、及びデータベース化を進めるとともに、上記の総合的な文書管理システムの 整備の一環として、保有する行政文書のファイル目録を電子的に管理する行政書 ファイル管理システムの整備を推進する。 さらに総務庁において、各省庁の行政文書ファイル管理システムと連携する総 合行政文書ファイル管理システムを整備する。 イ. 情報公開法の円滑な運用に資するシステムの整備を進める。また、総務庁にお いて、情報公開総合データベースの運用、蓄積データの拡充を進める。 (c)情報共有の推進 ア. 各省庁において、白書・年次報告書及びこれに類するものの情報についてデー タベース化を進め、インターネットによる国民等への情報提供と合わせ、省庁間 利用を推進する。 お、既に、霞が関WANを利用して他省庁への情報提供を実施している白書等 データベースシステムについては、可能な限り早期に、インターネットの利用へ 移行する。 イ. 各省庁において、「告示、通達等データベースの統一的な仕様」に基づき、告示、 通達についてデータベース化を進め、インターネットによる国民等への情報提供 と合わせ、省庁間利用を推進する。 ウ. 統計調査実施省庁において、統計調査集計結果のデータベース化を進め、省庁 間利用を推進する。 エ. 各省庁において、省庁部内で利用価値の高い情報について、データベース化を 図り、LANによる情報共有を進めるとともに、国民等や他省庁に提供可能な電 子情報について、積極的に提供する。 (d)LAN 等情報通信基盤の活用による業務の効率化・高度化 (e)民間へのアウトソーシング等の推進 c.行政情報化推進のための基盤整備 (a)情報通信基盤の整備 ア.省庁内ネットワーク基盤の高度化 イ.行政部門を通ずるネットワーク基盤の整備 ・ 省庁再編によるLANの統合等に合わせ、霞が関WANにおいて必要な対応 を行う。 ・ 国・地方の行政部門を通ずる行政情報通信ネットワークシステム(ADMIX) について、自治省において、地方公共団体を相互に接続する総合行政ネット ワーク(以下「総合行政ネットワーク」という。)構築の実証実験及び同ネッ トワークと霞が関WANとの接続実証実験等を行う。 ・ 各省庁において、個別事業の広域ネットワークについて、機能の高度化を推 進するとともに、業務形態に応じ、関連する他のネットワークとの接続の必 要性等を検討する。 (c)情報システムの高度化・効率化 ア.オープンシステム化、システムの最適化の推進 イ.安全性・信頼性対策の充実 ウ.個人情報保護対策の充実 エ.システム監査・評価の実施 オ.情報化の進展に対応した執務環境の整備 (d)標準化の推進 ア.ネットワークの標準化 行政機関のネットワークについて、各省庁において、ネットワーク間の相互接 続性・相互運用性を確保するため、国際的な標準の採用を進める。 イ.電子文書等の標準化 電子文書の標準化について、各省庁において、パソコンの更新等に合わせて、 「電子公文書の文書型定義(DTD)の統一的な仕様」(平成 10 年 3 月 31 日各省 庁事務連絡会議及び行政情報システム各省庁連絡会議幹事会了承)に基づく統一 的な文書型定義の利用が簡易に行えるソフトウェアの導入を進める。 ウ.データコード等の標準化 (e)組織的、人的基盤の整備 ア.省庁内情報化推進体制の整備 イ.人的基盤の強化 d.行政情報化の総合的推進 (a)行政情報化に関する各省庁連絡調整体制の見直し 省庁再編を契機に、施設の連絡会議、各省庁事務連絡会議を統合し、「行政情報化推進各 省庁連絡会議」(仮称)を設置する。 また、各省庁の組織再編を踏まえ、幹事会、専門部会等連絡調整体制も見直す。 (b)地方公共団体との連携強化 国、地方公共団体を通ずる総合的な行政情報化を積極的に推進するため、行政情報化国・ 地方公共団体連絡会議において、総合行政ネットワークの霞が関WANとの接続のための 実証実験、申請・届出等手続のオンライン化方策等について検討を進める。 (c)社会の情報化の進展等を踏まえた行政情報化の推進 我が国社会全体の情報化の進展、国際的な情報化の動向を踏まえた行政情報化をより一 層推進するため、連絡会議において、民間団体等との意見交換の場を設け、行政情報化の 各種施設について多角的・広範囲な検討を進める。 5.3 平成13年度における行政情報化の取組の考え方 平成12年度における行政情報化の推進に引き続き、13年度においても、以下の4項 目について行政情報化の取組みの考え方を示している。 (1)社会の情報化の進展に対応した行政情報化の推進 (2)情報通信技術の活用による事務・事業の簡素化・効率化及び行政運営の高度化 (3)行政情報化推進のための基盤整備 (4)行政情報化の総合的推進 5.4 e−Japan 戦略(要旨) (出典:4参照) e−Japan 戦略について「我が国は、すべての国民が情報通信技術(IT)を積極的に 活用し、その恩恵を最大限に享受できる知識創発型社会の実現に向け、早急に革命的かつ 現実的な対応を行わなければならない。市場原理に基づき民間が最大限に活力を発揮でき る環境を整備し、5年以内に世界最先端のIT国家となるを目指す。」としている。 (1)基本理念 a.IT革命の歴史的意義 (a)IT革命と知識創発型社会への移行 IT革命は産業革命に匹敵する歴史的大転換を社会にもたらす。ITの進歩により、知 識の相互連鎖的な進化が高度な付加価値を生み出す知識創発型社会に移行する。 (b)新しい国家基盤の必要性 我が国が繁栄を維持して豊かな生活を実現するには、新しい社会にふさわしい法制度や 情報通信インフラなどの国家基盤を早急に確立する必要がある。 b.各国のIT革命への取り組みと日本の遅れ (a)各国のIT国家戦略への取り組み 知識創発のための環境整備が21世紀の各国の国際競争優位を決定するため、欧米・ア ジア諸国はIT基盤構築を国家戦略として集中的に進めようとしている。 (b)我が国のIT革命への取り組みの遅れ 我が国のインターネット利用の遅れの主要因は、地域通信市場の独占による高い通信料 金、公正・活発な競争を妨げる規制の存在等、制度的な問題にある。 c.基本戦略 (a)国家戦略の必要性 世界最先端のIT環境の実現に向け、必要な制度改革や施策を5年間で緊急・集中的に 実行するには、国家戦略を構築して国民全体で構想を共有することが重要である。 民間は自由で公正な競争を通じて様々な創意工夫を行い、政府は、市場が円滑に機能す るような環境整備を迅速に行う。 (b)目指すべき社会 ア. 全ての国民が情報リテラシーを備え、豊富な知識と情報を交流し得る。 イ. 競争原理に基づき、常に多様で効率的な経済構造に向けた改革が推進される。 ウ. 知識創発型社会の地球規模での発展に向けて積極的な国際貢献を行う。 すべての国民が IT のメリットを享受できる 基本戦略 社会 経済構造の改革の推進と産業の国際競争力 e - Japan 戦略 の強化が実現された社会 5年以内に世界最先端 の IT 国家 ゆとりと豊かさを実感できる国民生活と、個 性豊かで活力に満ちた地域社会が実現され た社会 e - Japan 重点計画 地球規模での高度情報通信ネットワーク社 ○e - Japan 戦略を具体化 会の実現に向けた国際貢献が行われる社会 ○ 政 府が 迅 速か つ重 点 的に実 施 す べ き施策の全容を明示 図−e図−e - Japan 基本的な方針(1) (出典:4) 政府の役割 官民の役割分担 ① 民間活力発揮のための環境整備 (規制の見直し等) 民間が主導的役割 ② 民間主導で実現出来ない部分への対応 (電子政府、デジタル・ディバイド解消等) 政策課題 高度情報通信ネットワークの 安全性と信頼性の確保 行 政・公 共 分 野 の 情 報 化 電子商取引等の促進 教育・学習の振興と人材の育成 世界最高水準の 高度情報通信ネットワークの形成 研究開発の推進 デジタル・ディバイドの是正 雇用問題等への対応 研究開発の推進 図−e図−e - Japan 基本的な方針(2) (出典:4) (2)重点政策分野 a.超高速ネットワークインフラ整備及び競争政策 (a)目標 ア.5年以内に超高速アクセス(目安として30∼100Mbps)が可能な世界最高 水準のインターネット網の整備を促進し、必要とするすべての国民が低廉な料金 で利用できるようにする。(少なくとも3000万世帯が高速インターネット網 に、また1000万世帯が超高速インターネット網に常時接続可能な環境の整備 を目指す。) イ.1年以内に有線・無線の多様なアクセス網により、すべての国民が極めて安価 にインターネットに常時接続することを可能とする。 ウ.IPv6 を備えたインターネット網への移行を推進する。 (b)推進すべき方策 ア.超高速ネットワークインフラの整備及び競争の促進 ・ 非対称規制の導入、各種規制の大幅な見直し、事前規制の事後チェック型行 政への転換、支配的事業者の反競争的行為に対する監視機能の強化、利用者 の苦情及び事業者間紛争等への迅速な対応等ための専門機関の設置、並びに 公正取引委員会の機能強化による競争阻害行為排除 ・光ファイバー等の公正・公平な利用促進のための明確なルール等の設定 ・ 無線周波数資源について、オークション方式なども考慮に入れた公正・透明 な割り当ての検討・実施 イ.情報格差の是正、研究開発の支援・促進、国際インターネット網の整備 b.電子商取引 2002年までに、電子商取引を阻害する規制の改革、既存ルールの解釈の明確化、電 子契約ルールや消費者保護等に関する法制整備等誰もが安心して電子商取引に参加できる 制度基盤と市場ルールを整備し、電子商取引の大幅な普及を促進する。 c.電子政府の実現 2003年までに、行政(国・地方公共団体)内部の電子化、官民接点のオンライン化、 行政情報のインターネット公開・利用促進、地方公共団体の取組み支援等を推進し、電子 情報を紙と同等に扱う行政を実現し、幅広い国民・事業者のIT化を促す。 d.人材育成の強化 インターネット接続環境の整備による国民の情報リテラシーの向上、ITを指導する人 材の育成、IT技術者・研究者の育成(2005年までに米国水準を上回る高度なIT技 術者・研究者を確保)及びコンテンツ・クリエイターの育成に取り組み、人材という基盤 を強固なものとする。 5.5 国土交通省のIT革命推進の重点事項(平成13年度予算について) 平成13年度の国土交通省関係予算における「IT革命の推進」のための予算は、 ・事業費 6,657 億円 ・国 3,642 億円 債 である。 IT革命推進の方針は、「21世紀の繁栄の鍵であるITについて、国民生活や産業社会 におけるIT化とともに、電子政府の実現など行政サイドのIT化を進め、誰もが恩恵を 享受できる「日本型IT社会」の実現に寄与する」としている。 (1)光ファイバー収容空間ネットワークの整備によるFTTHの支援 IT革命の進展に対応して、民間事業者等による家庭やオフィスまでの高速大容量の情 報通信ネットワーク(FTTH)の早期実現を支援するため、道路、河川、下水道、港湾 等の施設管理用光ファイバー収容空間の積極的な整備、解放を推進する。 インターネットの通信速度 現在 : 64Kbps 1万倍 家庭における動画や福祉・医療デー タの受発信、家庭内 LAN や情報家電 の普及等を可能にする。 1 Gbps 道路、河川、下水道、港湾等の光ファイバーの収容空間を利用、 家庭やオフィスを面的に結ぶ収容空間ネットワークを形成す る。 図−FTTHの実現支援フロー (出典:5) (2)国民生活・産業社会のIT化 a.ITSの積極的展開など交通・観光分野のIT化の推進 安全性の向上や都市問題、環境問題等の諸課題に対応した質の高い交通システムの実現 や、国内外の観光客の利便性向上のため、ETCの整備、スマートウェイ技術とスマート カー技術が融合した走行支援システムの実道実験、ナンバープレートの電子化等の ITS(高 速道路交通システム)の推進や、道路情報、公共交通情報、物流情報、観光情報を統合的 に処理しインターネット等を通じて国民に提供するシステムの構築、海の ITS(IT を活用 した海上交通のインテリジェント化)、IT 革命推進のための国際共同プロジェクトなどを 推進する。 b.防災分野のIT化推進 c.電子商取引の進展等経済社会のIT化のための環境整備 民間分野における電子商取引を推進するため、これらの阻害要因となり得る書面主義な どの規制の総点検、見直しを適切に行うほか、建設業、不動産業などの事業者の情報格差 (いわゆる「デジタルディバイド」)の解消のための施策を着実に講じる。 d.IT都市の構築による大都市構造の再編 大都市圏のIT産業、交通基盤の整備状況等について総合的な情報提供を行いながら、 IT関連コンテンツ産業等の立地メカニズムの解明とその集積に向けた具体的な導入推進 方策を検討するとともに、テレワークのためのオフィスの提供、研修・セミナーなど技術 サポートの実施等により、地域における女性・高齢者のSOHO、テレワークを支援する。 また、ITの活用による防災の高い首都機能都市のあり方を検討し、それを提示する。 e.北海道における広域分散型社会を活かす情報通信ネットワークの形成 北海道において「距離」のデメリットを克服し、新産業の創出や情報格差の解消、高次 都市サービスの地域への提供等を実現するため、高度情報通信基盤のネットワークの形成 を図るとともに、医療情報等北海道の特性に対応した情報通信システムの構築を図る。 (3)GISの整備・普及の推進 数値地図、電子海図、国土数値情報など空間データ基盤等を整備し、それらをインター ネットを通じて流通・利用するしくみ(「電子国土」)を構築し、国、地方、民間にわたり 国土管理、環境保全、ハザードマップ作成、福祉・医療、救急活動、マーケティングなど 様々な分野においてGISが活用できる環境を積極的に整備する。 以下の情報をインターネットを通じて提供する。 ・平成13年度までに国土数値情報 ・平成13年度以降全国の都市計画区域内の 1/2,500 地図情報、平成15年度から 全国の 1/25,000 地図情報 ・クリアリングハウスに登録した国土交通省保有の地理情報 (4)国土交通省版「電子政府」の実現 a.申請・届出等のオンライン化、調達・施工・維持管理の電子化 国民負担の軽減、行政の簡素・効率化を推進するため、旅行業の登録、道路占有許可な ど申請・届出等行政手続や調査・統計のオンライン化、自動車保有関係手続・港湾諸手続 のワンストップ化を進める。 また、公共施設に係わる建設コストの縮減や品質の確保・向上等を図るため、CALS /ECの導入など調達・施工・維持管理の電子化を推進する。 b.航空管制や海上保安の情報化 航空交通量の増大に対応した安全で効率的な航空管制業務を行うため、航空衛星システ ム等を活用した次世代航空保安システム等の整備を推進するほか、多発する海上犯罪や海 上事故等の各種事案に対する一層の効果的な対応を可能にするため、海上保安庁情報シス テムの高度化を推進する。 ※本項「5. 行政の取り組み状況」は次の資料を引用し、再構成したものである。 出典:1 http://www.somu.go.jp/gyoukan/kanri/000513a.htm 出典:2 http://www.somu.go.jp/gyoukan/kanri/12hoshin.htm 出典:3 http://www.somu.go.jp/gyoukan/kanri/gyouseizyohoka.htm 出典:4 http://www.kantei.go.jp/jp/it/network/dai1/0122summary.j.html 出典:5 http://www.moc.go.jp/policy/h13sesaku/juten1-2.htm
© Copyright 2024 Paperzz