通信の秘密について

通信の秘密について
宍戸常寿*
⑴ インターネットの普及の経済的・社会
1 はじめに─「憲法と経済秩序」とイ
ンターネット
Facebook の株式上場(2012年5月)に象徴
今回の報告テーマとして「通信の秘密」を選
ニュースとして報じられない日はもはやない。
んだのには,2つの理由がある。第1は,自分
また日本に限ってみても,しばしば「失われた
が耳学問で勉強している範囲で,この研究会の
10年(ないし20年)」という嘆きを耳にするが,
課題である「憲法と経済秩序」に関わりのあり
その間にあって情報通信産業が最もダイナミッ
そうなものがこれしかないという消極的な理由
クな分野として急成長を遂げたことは,疑いを
である。第2はもう少し積極的な理由で,
「通信
得ないであろう。スマートフォンの急速な普及
の秘密」は憲法21条2項後段で保護されており,
は私たちの生活を大きく変えつつあり,また,
的・国際政治的側面
されるように,情報通信分野の世界的動向が
主要な教科書類でも一通りの言及はあるものの,
「ライフログ」や「ビッグデータ」の経済的・社
1
情報通信分野が進展する中で通信の秘密が実際
会的な利活用のあり方も注目されている 。
にどのような機能を果たしているのか,それに
他方,インターネットは国境を越えるという
どのような問題点があると指摘されているのか
性格を有するが故にまさしく「グローバル・ガ
について,憲法学が必ずしも十分な考慮を払っ
バナンス」が求められる領域であり,同時に国
ていないのではないか,
という関心である。
もっ
際的なハイポリティクスのホットイシューとも
ともこの報告では,何か比較法的な検討を行う
なっている。例えば米国はクリントン国務長官
とか具体的な解釈論を提示するとかいうのでは
の演説(2011年2月)においてインターネット
なく,憲法学における通信の秘密について確認
の自由の価値を称揚したが,それはアメリカ的
的に整理した上で,憲法学外部における動きや
な価値観・自由観を推進し,同国が権威的・抑
議論について管見の限りを紹介して,今後の課
圧的体制と捉える中国やロシア等への対抗策と
題を提示してみるにとどまる。
して,新たな「国際的公序」の原理を提示した
まずは「憲法と経済秩序」とインターネット
ものという側面を無視すべきではない。これに
の関わりについて,2012年5月の時点からみて
対して中国やロシアが国連を舞台に,インター
直近の動向の中から,いくつか思いつくままに
ネットの自由や表現の自由はあくまで各国の主
概観してみよう。
権という条件付きの下で尊重されるという枠組
みを提示して国々の支持を集めようとする等,
二国間ないし多国間でインターネット・ガバナ
* 東京大学大学院法学政治学研究科准教授
14
3
ンスを巡る駆け引きが活発化している,といわ
る 。とりわけ米国・EU では,急拡大してきた
れている。
Google が各種サービス毎にばらばらだったプ
ライバシーポリシーを統一したことに対して,
⑵ 東日本大震災とインターネット
強い懸念が示された(2012年3月)。我が国でも,
再び日本国内に視線を転ずると,東日本大震
総務省・経済産業省による「グーグル株式会社
災(2011年3月)は,災害としての悲惨さと同
に対する通知」(2012年2月)が,個人情報保護
時に,被災者の安否確認や原子力発電所事故を
法の規定及び電気通信事業法上の通信の秘密の
めぐる情報発信等,インターネットの存在感を
遵守,利用者に対してわかりやすい説明を求め
強く印象づけた事件としても,記憶されること
ている。相手が巨大なグローバル企業であるこ
になるだろう。とりわけ Twitter に代表される
とに加えて,直ちに法令違反が確認できず法令
ソ ー シ ャ ル・ ネ ッ ト ワ ー キ ン グ・ サ ー ビ ス
上の権限を発動し得る状態にないという前提か
(SNS)を通じて,情報が急速かつ広汎に伝播す
ら,狭義の行政指導ではなく通知及び公表とい
るという事態は,個人が「放送局」を保有する
う「ソフト」な手法が採用されたものと思われ
のにも匹敵する現象として注目された。こうし
るが,国民の個人情報・プライバシーを保護す
た事態に対して,政府関係省庁による「被災地
べき責務を負う政府が,利用者及び他事業者に
等における安全・安心の確保対策ワーキング
対して説明責任を履行する方法の一つとしても,
チーム」の決定「被災地等における安全・安心
興味深い事例といえる 。
4
の確保対策」
(2011年4月)は,
「地震や原子力
2 憲法上の「通信の秘密」
発電所事故に関する不確かな情報等,国民の不
安をいたずらにあおる流言飛語が,口伝えや電
子メール,電子掲示板への書き込み等により流
このような情報通信分野に憲法学がアプロー
布されており,被災地等における混乱を助長し
チする際の出発点は,憲法21条2項後段の保護
ている」という認識の下,サイト管理者等に情
する通信の秘密である。ここでは,⑴保護の内
報の「自主的」削除を求める方針を打ち出した。
容と制限,⑵保護の趣旨,⑶憲法21条2項と通
これはいかにも未曾有の災害に便乗してイン
信法制の関係に関する憲法学の理解を確認して
ターネットを規制するものとして批判され,現
おくことにしたい。
実に情報通信を所管する総務省もまた従来の立
場を維持して「表現の自由にも配慮しつつ,
『イ
⑴ 保護の内容と制限5
ンターネット上の違法な情報への対応に関する
① 通信の秘密の保護内容
ガイドライン』や約款に基づき,適切な対応を
まず同条項にいう「通信」とは,
「特定の差出
2
おとりいただく」ことを求めるにとどまった 。
人・発信人と特定の受取人・受信人との間で行
この一件は,緊急事態における表現の自由の確
われるコミュニケーション行為」をいう。そし
保というより一般的な観点からも,興味深い経
て保護の対象は,
「通信の内容」のみならず「通
緯といえる。
信に関わるすべての事実」,つまり「信書の差出
人・受取人の氏名・住所・差出個数・年月日等,
⑶ インターネットと個人情報・プライバ
電報の発信人もしくは受信人または市外通話の
シーの保護
通話申入者もしくは相手方の氏名・住所,発信
通信の秘密を含むプライバシーの保護の要請
もしくは配達または通話の日時,あるいは電話
を,新しいインターネット・サービスとどのよ
の発信場所等」の「通信の存在それ自体に関す
うに調和させるかは,専門家の間での議論を超
る事柄」を広く包含するものである。
えて,広く一般の関心を集めるようになってい
次に通信の秘密が保護されるとは,第1に,公
15
権力が通信の内容及び通信の存在自体に関する
かつ,当該電話により被疑事実に関連する通話
事実を知得することの禁止を指す(積極的知得
の行われる蓋然性があるとともに,電話傍受以
行為の禁止)
。この点,
同条項前段にいう検閲禁
外の方法によってはその罪に関する重要かつ必
止とは異なり,事後の知得行為も許されない点
要な証拠を得ることが著しく困難であるなどの
に注意が必要である。通信の秘密の保護の第2
事情が存する場合において,電話傍受により侵
の内容は,郵便物を運ぶ場合に宛先を知る場合
害される利益の内容,程度を慎重に考慮した上
のように,通信業務従事者が通信の秘密に属す
で,なお電話傍受を行うことが犯罪の捜査上真
る事項を取得する局面が当然にあることを前提
にやむを得ないと認められる」場合の検証令状
にして,それらの者が職務上知り得た通信に関
による通信傍受の合憲性を認めている(最決平
する情報を私人または他の公権力に漏洩するこ
成11・12・16刑集53巻9号1327頁)。これに対し
6
との禁止である(漏洩行為の禁止) 。
て「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」
(通信傍受法,平成11年法律137号)は,刑事訴
② 通信の秘密の制限
ただし,通信の秘密は検閲禁止とは異なり絶
訟法222条の2に基づき,武器・麻薬の密輸等の
対的な保障ではなく,必要最小限度の制約に服
一定の組織的犯罪の捜査に限定して,裁判官が
するものと解されている。実際にも刑事訴訟法
検証よりも厳格な要件の下で発する傍受令状に
が郵便物等の押収(100・222条)
,
接見交通にか
よる電気通信の傍受を認めている。多くの憲法
かる通信物の検閲・授受の禁止・押収(81条)
学説も,傍受対象たる犯罪・人物・通話の特定
を定めるほか,税関職員の郵便物等の差押(関
性等の厳格な要件の下であれば通信傍受の合憲
税122条)
,日本郵便株式会社による郵便物の開
性を認めているものの,通信傍受法については
示要求(郵便31・32条)
,
刑事施設被収容者に対
無関係な通信の傍受の排除や事後的救済手続が
する検査・発受禁止(刑事施設127条以下)
,破
不充分であるとして,違憲の疑いを指摘する見
産管財人による郵便物等の開披(破産82条)等
解も有力である7。
の例がある。しかし特に「被告人から発し,又
④ 逆探知
は被告人に対して発した」郵便物等や「被告事
その他,直接的には旧公衆電気通信法上の通
件に関係があると認めるに足りる状況のある」
信の秘密の問題であるが,憲法上の問題として
郵便物等であれば差押を認める刑事訴訟法100
も議論されてきたのが,誘拐犯人からの脅迫電
条に関しては,一般の差押の対象である「証拠
話の逆探知や自殺予告等の捜査活動に対して,
物又は没収すべき物と思料するもの」
(同99条)
電電公社の職員が協力することの可否であった。
と比してあまりにも広汎であり,必要最小限度
この点は吉展ちゃん事件(1963年)を機に,内
の制約とはいえないとする見解が有力であり,
閣法制局見解(昭和38年12月9日)により,発
少なくとも適用・運用に際して LRA の原則な
信者が現行犯人であり,受信者の要請・承諾が
いし比例原則の遵守が求められてきたところで
ある限り,通信の秘密の違反の問題は生じない
ある。
とされている。換言すれば,通信の一方当事者
の同意だけで直ちに通信の秘密の侵害が正当化
③ 通信傍受の合憲性
最高裁は犯罪捜査目的での通信傍受について,
されるというわけではないことに,注意が必要
「電話傍受は,通信の秘密を侵害し,ひいては,
である。また,この例に顕著なように,電気通
個人のプライバシーを侵害する強制処分である
信事業・郵便事業の民営化以前の状態を念頭に
が,一定の要件の下では,捜査の手段として憲
置いて,通信の秘密に関する憲法学説が組み立
法上全く許されないものではない」とした上で,
てられていることを,確認できよう。
「重大な犯罪に係る被疑事件について,
被疑者が
罪を犯したと疑うに足りる十分な理由があり,
16
⑵ 保護の趣旨
秘密を特に明示的に保障したもの」であって,そ
次に,そもそも通信の秘密がなぜ憲法上保護
こから「通信業務従事者を一種のコモン・キャ
されるのかについては,通信の秘密が表現の自
リアとして法定するよう憲法21条が要請してい
由と同じ憲法21条の中に規定されているという
る」と説く。公権力による積極的知得行為・漏
比較憲法上まれなスタイルとの関係で,議論が
洩行為が禁止されるのは,
「一種のコモン・キャ
ある。この議論の背後には,先述した通信の秘
リアとして法定された通信業務従事者を国民が
密の範囲が広く通信それ自体の存在に関する事
利用する際の各種の自由」である通信の自由の
柄にまで及ぶことを説明するためには,通信の
確保のためであって,通信の秘密は通信の自由
秘密の趣旨を表現の自由に限るのは妥当でない
を論理的前提とする,というのである 。この
という関心があったものと推測される。仮に通
説は,論者のプライバシー権(とりわけ自己情
信の秘密の趣旨がもっぱら表現の自由に存する
報コントロール権)批判との関連で理解する必
のであれば,表現内容すなわち通信内容が本来
要があるが,コモンキャリアとしての通信事業
的な保護対象であり,発信者名等の「通信内容
のあり方それ自体が憲法上の権利の保護内容を
が推知されるような事項」はあくまで手段的に,
画するという地点まで踏み込んだ点で,憲法21
表現活動を萎縮させないためという限度で保護
条2項後段の規範内容を明確化する試みとして
が及ぶにとどまるという説明になるが,それで
興味深いものといえる。
13
は公権力に対する通信の秘密の保護を弱めるこ
⑶ 憲法21条2項と通信法制の関係
とが懸念される8。
そこで「公権力による干渉を受けることなし
というのは,先の公権力に対する積極的知得
に,自由に意思や情報を相互に伝達」するとい
行為・漏洩行為の禁止が憲法21条2項の規範内
う表現の自由に力点を置きながらプライバシー
容だとして,同条項がそれ以上の要請を含むの
9
との連関を指摘する見解もみられるが ,むしろ
かについて,多数説の立場は必ずしも明確では
多数説は表現の自由との密接な関わり合いを認
ないからである。とりわけそれが法律上の通信
めながらも,「『私生活の秘密(自由)
』ないし
の秘密の保護規定(刑133条,旧公衆電気通信4
『プライバシーの権利』の保護の一環」として捉
条・5条・111条・112条,郵便7条・8条・77
えることが,比較法的にも適切だと解してい
条・80条,電気通信事業3条・4条・179条,電
る10。さらに近時では,不特定多数に対する開
波59条・109条・109条 の 2, 有 線 電 気 通 信 9
かれた表現活動と特定の者への内部的・個人
条・14条)は,憲法の趣旨を「踏まえた」「従っ
的・私的ないし親密なコミュニケーションであ
た」ないし「具体化」するものだと言われるこ
る通信との区別を強調する立場から,もっぱら
とが多いものの,それが実際に意味するところ
11
12
私生活の保護 ないしプライバシーの保護 に
はやや不明瞭である。一般論としては,憲法21
通信の秘密保護の趣旨を求める立場が有力化し
条2項の直接適用と電気通信事業法等や私法の
ている。
一般条項を通じた間接適用との双方が成り立ち
こうしたプライバシーを根拠とする,ないし
うるところだが14,例えば「日本電信電話株式
重視する大勢とは異なる立場として注目される
会社や国際電信電話株式会社のように,かつて
のが,コモンキャリアとしての通信事業者の存
国営企業であったが今日民営化されて通信業務
在と結びついた「通信の自由」を前提として,憲
を営む私企業の社員」も憲法上の通信の秘密の
法上の通信の秘密を理解する立場である。この
名宛人であるとする見解があり15,さらには
立場は,通信が郵便役務または電気通信役務に
サービスの「公共性,利用の強制,プライバシー
よる表現の一種であり,憲法21条2項後段は同
保護の必要性など」から民営化後の日本電信電
役務の介在を前提として「通信の一側面である
話株式会社に対する憲法の直接適用を説き,進
17
んで「通信業務に従事する者以外の私人に対し,
の電気的設備」が「電気通信設備」である(同
通信の秘密を侵す行為を規制することも憲法の
2号)。そしてこの「電気通信設備を用いて他人
16
要求するところ」と述べるものも見られる 。
の通信を媒介し,その他電気通信設備を他人の
この点,先述した通信の自由を前提にそこか
通信の用に供すること」が「電気通信役務」で
ら通信の秘密の保護を導く見解に従えば,公権
あり(同3号),その「電気通信役務を他人の需
力に対する積極的知得行為の禁止・漏洩行為の
要に応ずるために提供する事業」が「電気通信
禁止とともに,通信事業者に対する現行法上の
事業」である(同4号)。同法の規律の対象とな
通信の秘密もまた公平な利用の提供等と並んで
る「電気通信事業者」とは,かかる電気通信事
憲法上の帰結である,ということになる。もっ
業を営むことについて,登録を受けた者ないし
ともこのように考えるならば,後述する電気通
届出をした者をいう(同5号)。
信サービス及び事業者の多様化に伴い,法律上
このことをもう少しわかりやすく具体例で見
の「電気通信事業者」の中から憲法上の「通信
てみよう。①放送はそもそも電気通信に当たら
事業者」を定める困難に直面することになろう。
ないと考えられ,放送法の規律を受ける。②イ
また多数説の中でも,通信の自由を憲法21条2
ンターネット上で Web サイトを開設して自ら
項後段が前提としているとの解釈を受け容れて,
の情報を発信することやネット通販・ネットバ
同条項の保護内容に「通信業務提供者による不
ンキングサービスを提供することは電気通信役
当・差別的取扱いの禁止」が含まれるとする見
務に当たるが,それは自己の需要に応ずるため
17
解も説かれる一方で ,
「事業者には法律上通信
のものだから電気通信事業には当たらず,その
の秘密の保障の義務が課されているにとどま
結果としてこれらのサービスを行うだけの者は
18
る」との批判も見られるところである 。こう
電気通信事業者としての規律は受けない。③
してみると,
憲法上の通信の秘密については,
そ
Web サイトのオンライン検索(狭義のポータル
の内容・趣旨・適用範囲の核心については一致
サイト)の提供や電子掲示板(BBS)の開設は,
が見られるものの,その外延についてはなお解
他人の需要に応ずるためのものであるから電気
決されるべき論点が残されている,といえる。
通信事業に当たる。もっとも,これらのサービ
スは「電気通信設備を用いて他人の通信を媒介
3 電気通信事業法における「通信の秘
密」
する電気通信役務以外の電気通信役務を電気通
信回線設備を設置することなく提供する電気通
信事業」であるため,原則として同法の適用を
そこで以下では,いったん憲法そのものから
受けず,従って登録・届出も不要ではあるが
離れて,電気通信事業法における通信の秘密と
(164条1項3号),検閲禁止及び通信の秘密保護
そこでの問題点を概観してみることにしたい。
の規定に限っては,
「電気通信事業を営む者の取
扱中に係る通信について」適用されることが定
⑴ 電気通信事業法の規定
められている(同2項)。つまり同法にいう「電
電気通信事業法(昭和59年法律86号)は「電
気通信事業者」であるか否かにかかわらず,こ
気通信」「電気通信役務」そして「電気通信事
れらのサービスには通信の秘密の保護規定が適
業」の定義を通じて,最終的には「電気通信事
用されることに注意が必要である。④その他の
業者」に対する規律を行う法律である。
まず「電
電気通信事業,具体的には電話,インターネッ
気通信」とは「有線,無線その他の電磁的方式
ト・サービス・プロバイダー(ISP),CATV,
により,符号,音響又は影像を送り,伝え,又
電子メール等を営む者は,登録または届出が必
は受けること」であり(2条1号)
,
そのような
要な電気通信事業者として,同法の規律を受け
「電気通信を行うための機械,器具,線路その他
る。なお広義のポータルサイトや SNS は BBS
18
や電子メール等を包含するため,個々のサービ
欠なコミュニケーションの手段であることから,
ス毎に登録または届出の要否が判断されること
憲法第21条第2項の規定を受けて思想表現の自
になるが,いずれにしてもその事業者が通信の
由の保障を実効あらしめる」とともに,
「個人の
秘密保護の規定の対象となることには変わりが
私生活の自由を保護し,個人生活の安寧を保障
19
ない 。
する(プライバシーの保護)ことにある」とし
このような電気通信事業者(先述のとおり他
た上で,「通信の内容が探知される可能性があ
人の通信を媒介せず,かつ電気通信回線設備を
る」及び「通信の存在の事実を通じて個人の私
設置しない電気通信事業を営む者を含む)に課
生活の秘密(プライバシー)が探知される可能
される規律の中で最も重要なのが,以下の検閲
性がある」ことを理由に,
「通信の秘密の範囲は,
の禁止及び通信の秘密の保護である。
通信内容はもちろんであるが,通信の日時,場
所,通信当事者の氏名,住所・居所,電話番号
3条 電気通信事業者の取扱中に係る通信は,
検閲してはならない。
などの当事者の識別符号,通信回数等これらの
事項を知られることによって通信の意味内容が
4条 電気通信事業者の取扱中に係る通信の
推知されるような事項全てを含む」としてい
る21。従って,例えばメールのヘッダーに含ま
秘密は,侵してはならない。
2 電気通信事業に従事する者は,在職中
れる情報,プロバイダのサーバーに保存された
22
電気通信事業者の取扱中に係る通信に関
発信者の情報等も,通信の秘密の対象となる 。
して知り得た他人の秘密を守らなければ
ところで,従来「通信」といえば特定者と特
ならない。その職を退いた後においても,
定者の間の情報伝達・コミュニケーションで
同様とする。
あったが,電気通信サービスの高度化によりダ
2
イヤル Q 等をはじめ不特定の者が利用できる
また,通信の秘密を侵した者は刑罰の対象と
ものも登場するようになった。インターネット
なり,電気通信事業従事者がした場合には刑が
では,BBS やブログ等,不特定ないし多数の者
加重される(179条)
。
への情報発信を可能とする電気通信サービスが
さらに,通信の秘密保護に関する実務におい
既に多様に展開されている。この種の「公然性
て重要なのが,総務省の「電気通信事業におけ
を有する通信」については,通信の秘密の保護
る個人情報保護に関するガイドライン」
(平成16
が厳格に及ぶとは解されず,現在ではむしろ保
年総務省告示695号,
以下個人情報保護ガイドラ
護の範囲外である23,あるいは情報の送受信行
インという)である。電気通信事業においては
為には通信の秘密が保護されるが,BBS やサイ
往々にして通信の秘密と個人情報の保護が重畳
ト等の部分には通信の秘密ではなく表現の自由
する場合が多いため,同ガイドラインでは通信
の保護が及ぶ24,と考えられている。
の秘密との関係で情報の取り扱いに関し注意す
② 通信の秘密の侵害
べき点が定められている。
電気通信事業法にいう通信の秘密の侵害につ
いては,ア通信当事者以外の第三者が積極的意
⑵ 通信の秘密の解釈論
思で通信の秘密を知り得る状態に置くこと(知
① 通信の秘密の範囲
得),イ発信者・受信者の意思に反して通信を利
一般には,先述した憲法21条2項後段と同様
用すること(窃用),ウ他人が知り得る状態に置
に,電気通信事業法4条1項の通信の秘密も広
くこと(漏洩)の3つに分類するのが通例であ
20
く保護されるべきものと解されている 。例え
る25。例えばいわゆる日本共産党幹部宅盗聴事
ば同法の逐条解説は,
「通信の秘密を保護する趣
件国家賠償訴訟における,警察官の電話傍受は,
旨は,通信が人間の社会生活にとって必要不可
通信の秘密の侵害のうち知得に当たる(東京高
19
判平成9・6・26判時1617号35頁)
。
憲法で問題と
ア正当行為には,法令に基づく行為及び正当
されてきた積極的知得行為・漏洩行為に加えて
業務行為がある。このうち法令に基づく行為に
「窃用」も問題とされるのは,
通信事業者が通信
は,既に触れた公権力による押収や通信傍受の
の秘密を業務上正当に知る場合があるが,その
ほか,法律上の照会権限を有する者からの照会
本来秘密であった事項を正当な業務範囲を超え
(刑訴197条2項,弁護士23条の2)等が考えら
て使用してはならないという問題が,事業法の
れるが,個人情報保護ガイドライン15条の解説
運用において様々な形でクローズアップされる
は,通信の秘密に属する事項について照会に応
からではないか,と推測される。
じることは原則として適当ではないとしてい
もっとも,知得・窃用・漏洩に見える行為で
る 。
あっても,
通信当事者の同意がある場合には,
通
これに対して正当業務行為として実務上認め
信の秘密の侵害には当たらない。その代表例は
られてきたのは,⒜通信事業者による課金・料
電話における発信者情報通知サービスであるが,
金請求目的での顧客の通信履歴の利用,⒝ ISP
電気通信事業者が管理するサーバー上で迷惑
によるヘッダ情報を用いた経路制御,⒞ネット
メールをフィルタリングするサービスも,受信
ワークの安定的運用のための OP25B・IP25B
者の同意という法律構成により認められている。
及び帯域制御29等がある。これらの事例を通じ
ただし,通信の秘密という重大な法益に関する
て,正当業務行為に当たるかどうかの判断に際
同意であるため,その同意は「真意」と評価で
しては,
「国民全体が共有する社会インフラとし
きるだけのものであることが求められる。例え
ての通信サービスの特質を踏まえ,誰もが自由
ば,利用者の申込みを受けてサービスを開始す
に通信を支障なく利用できる環境を確保する観
る(フィルタリングオフ)のであれば問題ない
点から,そうした通信役務の提供にとっての正
が,初期設定をフィルタリングオンの状態で提
当性の有無」が重視されていると考えられる。
供する場合には,
「約款等による事前の包括的合
イ正当防衛としては,通信網あるいは通信事
意は,同意の対象となる事項が将来の事実に及
業者のサーバに対する攻撃があった場合やワー
ぶため予測に基づく不確実な同意になるなど,
ムの伝染,迷惑メールや壊れたパケット等の大
同意の対象・範囲等が不明確になりやすく,同
量送信に対する遮断措置が,形式的には通信の
意主体が正確に同意の対象・範囲を理解した上
秘密の侵害に当たるものの,その違法性が阻却
で同意していない場合が想定される」
。
従ってそ
される事例として挙げられる。
の同意が有効であるためには,利用者が随時・
ウまた,先ほど電話に関して取り上げた自殺
任意に設定を変更できること,フィルタリング
予告事案について,たまたま通信事業者が情報
に関する同意の有無にかかわらずその他の提供
を探知した場合にそれを警察に通報することも,
条件が同一であること,サービスの内容が明確
緊急避難として正当化されると考えられてい
に限定されていること等の要件を満たすことが
る30。
必要であるとされている26。
このように,同じ通信の秘密の侵害であって
③ 正当化
28
27
も,それが通信サービスの提供ひいては国民の
次に,形式的に通信の秘密の侵害に該当する
通信の自由の確保に資する性格のものは正当化
場合であっても,それが正当化されれば違法で
されるのに対して,通信サービスにとって外在
はない。これは,通信の秘密が罰則により担保
的な理由による侵害には違法性が阻却されにく
されていることから,伝統的に刑法におけるア
い結果となっている。この点で参考になるのは,
正当行為(35条)
,イ正当防衛(36条)
,ウ緊急
東西 NTT が脅迫的内容の電報の受付・配達を
避難(37条)といった違法性阻却の枠組みで議
差し止めする条理上の作為義務を負うか否かが
論されてきた。
争われた事件である。裁判所は,そのような電
20
報の受付・配達の差止めが「被告らの取り扱う
のボトルネックをピンポイントで規律しさえす
電報全てにつき,事前にその内容を個別的に審
れば通信の秘密を守ることができるという時代
査せざるを得ないことになる」点を指摘した上
は,既に過去のものといえる。この点でも,通
で,
「電気通信事業者は,
利用者間で通信が行わ
信の秘密をめぐる状況は,過渡期を迎えつつあ
れるに際し,あくまでも物理的な通信伝達の媒
るように思われる。以下でも,やはり最近の通
体ないし手段として,発信者から発信された通
信の秘密をめぐる事例をいくつか思いつくまま
信内容をそのまま受信者に伝達することが,そ
に取り上げて紹介することにしたい。
の提供する役務の内容として予定されて」いる
と述べる。そして,このような作為義務を認め
⑴ プロバイダ責任制限法と通信履歴の保存
ることは「通信による情報伝達の萎縮効果をも
BBS 等における権利侵害的表現の増加を受
たらし,自由な表現活動ないし情報の流通が阻
けて制定されたプロバイダ責任制限法(平成13
害される」等,
「社会的に有用な通信手段の存立
年法律137号)については,既に憲法の標準的な
を危うくする」として,電報の受付・配達の差
テキストでも言及されるようになっており,ご
止めは「公共的通信事業者としての職務の性質
く簡単に触れるにとどめる 。ここでの背景は,
からして許されない違法な行為」であって,そ
匿名表現に対して責任追及が困難であるが故に
のような条理上の義務は認められない,と判断
権利侵害が安易に行われるという連関であるが,
している(大阪地判平成16・7・7判時1882号87
電気通信事業者が発信者情報を現に知っている
頁)。
か知りうるにもかかわらず匿名の表現が可能で
32
あるのは,それが通信の秘密として守られてい
4 「通信の秘密」をめぐる最近の動き
ることに由来していた33。これに対して同法は,
第1にプロバイダが権利侵害情報の公表を妨げ
こうした電気通信事業法上の通信の秘密は,
なかったという不作為ないし権利侵害情報の送
最近,インターネット上の諸問題との関連で,
信を防止する措置を採ったことに対して,その
様々な角度から再検討されるようになってきて
損害賠償責任を制限するしくみを導入したが
いる31。とりわけ,早くから問題とされてきた
(3条),これは「公然性を有する通信」の内容
インターネット上の違法有害情報の流通対策に
についてはプロバイダがコモンキャリアの地位
関していえば,巨視的に見れば電気通信事業者
にとどまるものではなく,一定の範囲で編集権
及び通信業界による自主規制が推進されてきた
と,それにより生ずる法的責任の主体であるこ
が,その最大の理由は電気通信事業法が通信の
とを前提としたわけである。第2に同法は,一
秘密を保護しておりそれが憲法に由来するもの
定の手続の下で権利侵害の被害者に対して発信
であると,世間ないし業界が(漠然と)信じて
者情報を開示することができるというしくみを
きたことによるところが大きいように思われる。
設けた(4条)。伝統的な考え方によれば発信者
もう一点指摘しておくべきは,電気通信の自
情報の開示は当然に通信の秘密の侵害に当たる
由化,
インターネットの急速な普及によって,
多
ところ,この規定は「情報の発信者のプライバ
様な電気通信サービスが展開し,しかも利用者
シー,表現の自由,通信の秘密にも配慮した」
から見れば一つの通信の過程に複数の主体(ア
上で(最判平成22・4・8民集64巻3号676頁),そ
クセスプロバイダ,コンテンツ事業者,経由プ
の守秘義務を解除するものである34。
ロバイダ,さらには広告事業者等)が関わるよ
ところで,同法の運用に限らず,およそ違法
うになっているという事情である。かつてのよ
有害情報の流通対策に関する大きな論点の一つ
うに,利用者との関係では郵便官署,NTT 等の
は,通信事業者に通信履歴(ログ)保存の義務
単一の通信事業者が立ち現われ,その情報流通
を課すべきか否かというものである。通信事業
21
者は課金・料金請求,苦情対応等のための正当
の場合において,当該電磁的記録について
業務行為として通信履歴を保存することがある
差押え又は記録命令付差押えをする必要が
が,これは通信の構成要素として通信の秘密の
ないと認めるに至つたときは,当該求めを
保護を受ける事項であるので,一定期間の経過
取り消さなければならない。
と共に消去するのが通例である(個人情報保護
ガイドライン10条及び23条の解説)
。
これに対し
そもそも概括的な同条2項に基づく警察等か
て,情報発信者の責任を追及する側からすれば,
らの照会に対して通信事業者が通信の秘密に該
通信履歴の消去によって,それ以上の追跡が不
当する情報を報告することは,憲法21条に違反
可能となり,発信者がいわば闇から闇へ消えて
するとの批判もあったところであるが ,この
しまうことにもなる。そこで通信履歴の保存を
3項は警察等が通信履歴の消去を求めることが
通信事業者に義務づけるという方策がしばしば
できるというもので,通信の秘密との関係でよ
主張される次第だが,これはインターネット上
り大きな問題を孕みうる。この点法務省は,同
の匿名表現の可能性や領域を著しく狭めること
法の下になった法案の説明として,
「保全要請の
37
35
につながる 。この点,総務省の研究会でのプ
対象となるのは,要請があった時点において通
ロバイダ責任制限法の検証作業においても,
「プ
信プロバイダ等が業務上記録しているものに限
ロバイダ等に通信履歴の保存義務を課すことは,
られます」,「保全要請は,通信プロバイダ等が
現時点では,法律上も事実上も困難であり,プ
その業務上記録している通信履歴を消去しない
ロバイダ等に対する通信履歴の保存義務につい
ように求めるにすぎず,その内容を捜査機関に
ては,これを肯定するだけの根拠に乏しい」と
開示させるものではないことから,令状を要す
36
整理された点が注目される 。
ることとする必要はなく,通信の秘密を不当に
38
制約するものではない」と説明している 。
⑵ 刑事訴訟法改正と通信履歴不消去の要求
⑶ 青少年インターネット環境整備法と閲覧
この点に関連して注意すべきは,いわゆるサ
防止措置
イバー犯罪対策条約への対応で成立した「情報
処理の高度化等に対処するための刑法等の一部
次に,有害情報対策に関係する通信の秘密の
を改正する法律」
(平成23年法律74号)により,
論点を紹介することにしたい。
刑事訴訟法197条に次の規定が加えられたこと
青少年へ携帯電話が急速に普及し,それを通
である。
じた有害情報の流通に対する安心・安全な環境
を整備するという関心から,一時期にはサイト
3 検察官,
検察事務官又は司法警察員は,
差
管理者や ISP に有害情報の削除を法的に義務づ
押え又は記録命令付差押えをするため必要
けることも検討されたものの批判が強く,また
があるときは,電気通信を行うための設備
何が青少年にとって有害な情報かを行政が直接
を他人の通信の用に供する事業を営む者又
判断することには検閲禁止ないし表現の自由と
は自己の業務のために不特定若しくは多数
の関係で問題があるため,見送られた経緯があ
の者の通信を媒介することのできる電気通
る。代わって成立した青少年インターネット環
信を行うための設備を設置している者に対
境整備法(平成20年法律79号)は,民間による
し,その業務上記録している電気通信の送
自主的な携帯電話フィルタリングの導入促進を
信元,送信先,通信日時その他の通信履歴
求めるという穏当な結論に落ち着いたものであ
の電磁的記録のうち必要なものを特定し,
る。
30日を超えない期間を定めて,これを消去
通信の秘密との関係でとりわけ問題になるの
しないよう,
書面で求めることができる。
こ
は,同法21条の次の規定である。
22
⑷ 児童ポルノのブロッキング
特定サーバー管理者は,その管理する特
定サーバーを利用して他人により青少年有
こうしたフィルタリングとは別に,現在,電
害情報の発信が行われたことを知ったとき
気通信事業者の側の自主的取組として,イン
又は自ら青少年有害情報の発信を行おうと
ターネット上の児童ポルノコンテンツへの利用
するときは,当該青少年有害情報について,
者のアクセスを IPS 等が遮断するという措置が
インターネットを利用して青少年による閲
広がっている。実際には,いわゆる「二次元」
覧ができないようにするための措置(以下
ではなく現に被害児童がいる児童ポルノの,そ
「青少年閲覧防止措置」という。
)をとるよ
れも児童ポルノ処罰法(平成11年法律52号)に
う努めなければならない。
いう「児童ポルノ」
(2条3項)のすべてではな
く,児童の権利侵害等が甚だしいものを掲載す
この規定は,ISP 等の電気通信事業者に限ら
るサイト(海外にサーバーがある,児童ポルノ
ず,
広く「特定サーバー管理者」
(インターネッ
DVD の販売サイトが多いものと思われる)のア
トを利用した公衆による情報の閲覧の用に供さ
ドレスリストを民間団体である一般社団法人イ
れるサーバーを用いて,他人の求めに応じ情報
ンターネットコンテンツセーフティ協会
をインターネットを利用して公衆による閲覧が
(ICSA)が作成し,その提供を受けた ISP 等が,
できる状態に置き,これに閲覧をさせる役務を
利用者のアクセスをドメイン名で判定した上で,
提供する者。同法2条11号)
,
つまりホームペー
利用者に明らかにした形でアクセスを遮断する
ジやブログ等を管理している者に対して,青少
しくみ(いわゆる DNS ブロッキング方式)が
年が有害情報を閲覧できないようにする努力義
広く用いられている。
務を課すものである。完全な法的義務ではなく
日本におけるインターネットを通じた児童ポ
あくまで努力義務にとどめた点,またプロバイ
ルノの流通は国際的にも批判が強く,児童や女
ダ責任制限法3条と同様に他人の発信を「知っ
性の権利を擁護する団体からもブロッキングを
たとき」に限定されている点に,立法者の苦心
求める声があり,政府も児童ポルノ流通排除対
の跡が見られる。もし知不知にかかわらず防止
策の切り札として強い関心を有していた。この
措置を採る法的義務がサイト管理者に生じると
ブロッキングが,通信事業者がアクセス先を知
すれば,管理者は自らのサーバーから青少年に
得しアクセス遮断という窃用を行う点で,通信
有害な情報が流れていないかどうか常時監視す
の秘密を侵害するものであることは明らかであ
る義務を負うことになり,ひいてはかかる情報
る。そこで,その違法性が阻却されるか否か,
仮
発信に伴う法的責任一般をも甘受せざるを得な
に阻却されるとすればどのような要件の下で許
39
いことになるからである 。このような発信者
されるかが,ブロッキングの許否を考える上で
規制は,インターネット上の通信の秘密及び表
死活的な論点となった。一部にはブロッキング
現の自由を大幅に縮減させることになろう。同
は正当行為として緩やかに認められるべきだと
法の施行3年後の見直し作業においても,特定
の見解も説かれたものの,事業者・利用者・教
サーバー管理者の青少年閲覧防止措置を法的義
育関係者の団体である「安心ネットづくり促進
務に引き上げる,あるいは常時監視を義務づけ
協議会」は,先述のとおり正当業務行為の要件
ることは不適切であり,努力義務の徹底は特定
を厳格に解することを前提に,緊急避難として
サーバー管理者間の自主規制によるべき,イン
ア現在の危難(被写体となった児童の著しい権
ターネット上の青少年保護は受信者側へのアプ
利侵害の拡大危険の防止),イ補充性(警察等に
ローチを原則とすべきとの方向性が打ち出され
よる削除要請をしてもなお発信者で削除がなさ
ている40。
れない等),ウ法益権衡(当該児童ポルノ画像に
よる権利侵害が著しく通信の秘密を上回るとい
23
える状況であること)の要件がいずれも満たさ
そもそも通信の秘密を侵害しないといえる形で
れる場合にのみ,ブロッキングが許容されると
実施されることが必要であると考えられている。
41
の立場を取っている 。総務省の研究会ではこ
より具体的には,CGM 運営者自身が通信の当
の提言を受けて,
「①児童の権利等を侵害する児
事者として加わることについて利用者の明確な
童ポルノ画像がアップロードされた状況におい
同意を得るか,CGM 運営者が通信の秘密を侵
て,②削除や検挙など他の方法では児童の権利
害することについて利用者からの有効な同意を
等を十分保護することができず,③その手法及
得ることが必要である。既に迷惑メールのフィ
び運用が正当な表現行為を不当に侵害するもの
ルタリングについて述べたところからもわかる
でなく,④当該児童ポルノ画像の児童の権利等
ように,通信の秘密の侵害に対する同意は,原
への侵害が著しい場合には,その違法性は阻却
則として同意を推定しない初期設定(デフォル
される」とのほぼ同旨の法的整理をとりまとめ,
トオフ)が望ましく,かつ同意は明確かつ個別
政府としても自主的な取り組みを促進するにと
のものである必要があるとされている45。
どめ,直接ブロッキングに関与しない,という
⑹ DPI 技術を活用した行動ターゲティン
42
姿勢が取られている 。
グ広告
表現の自由の観点からも,被写体である児童
の著しい権利侵害をもたらす画像以外のものが
現在のインターネットでは,Cookie ないし端
遮断される(オーバーブロッキング)を可及的
末固有 ID によって利用者のサイト閲覧等の行
に避けることが必要不可欠であり,さらに携帯
動を把握し,それにより利用者を分類してその
電話フィルタリングの対象外となるコミュニ
関心に適合する広告を表示する行動ターゲティ
ティサイトの認定を行う第三者機関(一般社団
ング広告が広く用いられている。このうち,ISP
法人モバイルコンテンツ審査・運用監視機構
等が,従来帯域制御等のために用いられてきた
43
(EMA)等)と同じく ,
遮断対象リスト作成団
ディープ・パケット・インスペクション(DPI)
体が,削除要請を行うインターネットホットラ
技術により,ネットワークを通過するパケット
インセンター(IHC)等からの情報提供を受け
の中身を分析し,行動ターゲティング広告を提
つつも政府(とりわけ捜査機関)からの有形・
供することの許否が問題となった。これも,通
無形の圧力を受けずに自主的・自律的に判断で
信の秘密の侵害であり,かつ正当業務行為等の
きることが必要と考えられる44。
違法性阻却事由に該当するとは考えられないた
め,やはり利用者の明確かつ個別の同意が必要
⑸ CGM におけるミニメール内容確認
であるとされている46。
青少年保護と通信の秘密の関係でもう一つ問
5 結びに代えて─いくつかの検討
題となったのは,それ自体としては出会い系サ
イト規制法(平成15年法律83号)の対象ではな
⑴ 広すぎる「通信の秘密」?
い SNS 等の消費者生成メディア(CGM)に関
係した福祉犯被害対策である。
被害の多くが,
悪
以上の最近の動きの概観からは,電気通信事
意のある成人による SNS 上でのメッセージ機
業法において憲法と同じ通信の秘密が保護され
能(いわゆるミニメール)の悪用に起因するた
ており,しかもそれが非常に広くかつ強力な保
め,ミニメールを監視し削除する運用を実施し
護であると理解されている結果,一般的な個人
ている大手サイト運営者も登場している。この
情報・プライバシー保護を遙かに超える義務が,
問題については,事業者によるミニメールの監
電気通信事業者に課せられていることを,看取
視が原則として正当業務行為等の違法性阻却事
できよう。このように,匿名表現の自由が現実
由に該当しないため,それが許されるためには
に広く行使され,違法有害情報対策について政
24
府による直接的な法執行は原則として差し控え
ならば,その指摘には耳を傾けるべきものが多
られ,電気通信事業者の自主的取組に委ねられ
分に含まれているようにも思われる。
ており,かつその自主的取組や事業者のサービ
この点でさらに注目に値するのは,従来の通
ス展開も正当業務行為に該当するか,利用者の
信の秘密が音声電話サービスを対象としている
有効な同意を要するという我が国独特のイン
ため,想定されていなかった形態の通信の秘密
ターネット文化を形作る枠として,通信の秘密
の保護についてはメディアの特徴に即した検討
の保護は機能しているものと評価できる。こう
が必要であり,とりわけネットワーク上のコン
した展開は,おそらくは従来の憲法学の想定を
テンツ・サービス提供者の保有する通信履歴は,
上回る事態であるが,それはそれとしてイン
提供者が通信の一方当事者である以上,その者
ターネットの自由のあり方といえよう。
が電気通信事業法上の電気通信事業者であるか
翻って,このようなインターネットのあり方
否かにかかわらず,通信の秘密の対象と考える
に対する批判は,自ずと電気通信事業法上の通
べきではない,との指摘であろう49。実際にも,
信の秘密,さらには憲法上の通信の秘密の理解
先述したように海外の企業による強力な Web
に対する批判へと結びついていくことになる。
サービスであるにもかかわらず法律上は電気通
例えば情報法の専門家からは,通信の秘密の保
信事業に該当しないため通信の秘密の保護が及
護範囲は通信の内容に限られるべきであり,ど
ばないものがある反面で,電気通信設備を備え
のサイトへアクセスしたいか,誰が誰と通信を
る等して電気通信事業者としての法適用を受け
行っているかといった通信の存在それ自体に関
る国内事業者には強い手枷足枷が嵌められてい
する事項は,憲法・電気通信事業法上の通信の
るとすれば,本研究会のテーマである「憲法と
秘密の範囲外と考えるべきではないか,という
経済秩序」の観点からも,見直すべき課題とみ
疑問が提起されている。中でも,憲法制定過程
ることも可能ではないか。
における通信の秘密保護を規定する GHQ の意
⑵ 通信の秘密保護の趣旨・再考
図が(一般的なプライバシーではなく)ウォー
レン=ブランダイスのいう「意思伝達のプライ
このような現実のインターネット上の状況を
バシー」の導入にあったと解すべきであり,結
憲法学が自らの問題として捉え直そうというの
果として通信の秘密保護の趣旨をもっぱら表現
であれば,従来から想定していた通信のあり方
の自由に求める場合と同じく,通信内容に保護
が根底的に変化しているという当然の事態はも
範囲を限定すべきだとする主張は,憲法学に
ちろん,従来の解釈を維持するとすればそれに
47
とっても無視し得ないものであろう 。もちろ
新たな基礎づけが必要でないか,また変えると
ん憲法制定過程における「原意」とは何か,そ
すればそれがどのような現実的影響をもたらす
れが憲法解釈においてどのような機能を果たす
かをも視野に収めながら,通信の秘密について
べきかという方法論上の一般的問題点に加えて,
改めて検討する必要があるのではないだろうか。
当時米国において生成・展開の過程にあったコ
憲法21条に関する現在の学説は,周知のとお
モンロー・制定法上のプライバシーについて,
り通信と表現の区別を前提にしている。この立
「原意」
として扱いうるほどの明確な共通理解が
場から見て有力なのは,インターネット上の自
あったといえるのか,
「意思伝達のプライバ
由の最適化という観点から,
「通信と表現の峻別
シー」の理解自体が適切か等々の問題点を指摘
を維持しつつ,コミュニケーションの性格に応
することはいかにも容易いことであろう48。し
じて,通信と表現のそれぞれ異なった憲法法理
かし,憲法上の通信の秘密の範囲を広く理解す
を適用する」50というプラグマティックなアプ
ることが現在のインターネット環境との関係で
ローチである。そこでの問題は,これまで見た
適切かどうかという問題提起として受け止める
ような制度的・技術的環境を含め,「コミュニ
25
ケーションの性格」をどのように理解するのか
員として分類し,趣味・嗜好を構成して提示し
に,係ってくるであろう。これに対して,表現
てくるといった形で,既に機能していないから
と通信の区別の廃棄を求める立場は理論的に明
である。我々はもはや「とらわれの聴衆」を超
51
快であるが ,その場合には通信の秘密保護の
えて,むしろ「先回りされる個人」として捕捉
趣旨をどのように再構成するかという課題に直
されており,しかもこうした状況に対して憲法
面することになると考えられる。
上の通信の秘密は現段階では無力というほかな
この点で,現在の学説は通信の秘密保護の趣
い。こうした課題に対応するようにプライバ
旨をもっぱらないし主としてプライバシーに求
シー権が再構成されるならば,それは通信の秘
めているが,当のプライバシーと表現の自由の
密にも新たな基礎づけを与えると同時に,その
境界それ自体が,ほかならぬインターネットに
保護内容にも変化をもたらすことになるだろう。
よって流動化しつつあることにも注意する必要
⑶ 憲法学の憂鬱?
があろう。より具体的に言えば,匿名表現の自
由は通信の秘密の結果として保護されていると
要するに憲法上の通信の秘密には,なお保護
いう側面がこれまで強かったように思われるが,
に値する核心が厳として存在する一方で(この
むしろ表現の自由には匿名表現の自由がそれ自
ことはとりわけ青少年保護等を規制の名目とし
体として保護されている,あるいは匿名という
て掲げる公権力に対する関係を考えれば明らか
方法での表現活動も憲法21条1項により保護さ
であろう),電気通信事業者に対して必要以上の
れているのだと考えるならば,通信の秘密保護
拘束である「過剰」と,本来対処すべき課題に
の趣旨をもっぱら表現の自由に求めてもなお,
対して少なくとも直接的には機能していないと
発信者情報等を含む保護範囲の広さを説明する
いう「過少」の両側面がある,と考えられる。こ
ことは可能である。他方,現在の多数説が重視
の問題に対処する通信の秘密の再構成の方法の
するプライバシーの概念についても,最近では
一つは,憲法上の通信の秘密と電気通信事業法
自己情報コントロール権説を超える「第3期の
上の通信の秘密をひとまず分離し,立法による
プライバシー」理解が示される等,議論は錯綜
通信の秘密の多様な形成を認めるというやり方
しつつある52。
である。通信の秘密について,ドイツ流の基本
この点で参考になるのは,
「多元的な社会構造
権保護義務論や立法者による内容形成論を結合
の中で個人が自己イメージを使い分け」る権利
する試みは,その一例といえるだろう54。もう
としてプライバシー権を捉える学説が,
「自己情
一つの方法は,憲法・電気通信事業法を問わず,
報がどのような範囲のネットワーク上であれば
従来コモンキャリアを想定した単一の堅い概念
流通してもよいのかという,システム設計の問
であった通信の秘密を,基本的通信セキュリ
題をチェック」する上で,また私的言論の保護
ティの確保,特定人の間の私的な一対一の通話
に加えてチャットにおける匿名表現による公共
に関する狭義の通信の秘密の保護,それ以外の
性の創出に貢献するものとして,早くから通信
個人情報ないしプライバシーの保護等の構成要
の秘密の新たな意義に着目していたことであ
素へと分解して,一つひとつの問題についてど
53
る 。というのは,例えば「このサービスでは
こまでが憲法上の通信の秘密の守備範囲に属す
ハンドルネームで,次のサービスでは専用 ID
るか,その他の憲法・立法上のルールに委ねる
で,あのサービスでは実名で」といった文脈毎
べきかといった洗い直しを行うことであろう55。
の自己イメージの使い分けが,現在ではネット
このように考えを進めて行く場合,従来通信
ワーク上に存在する様々な事業者による先述し
の秘密として論じられてきた問題は,憲法21条
た行動ターゲティング広告等で解析され,個人
2項後段から解き放たれて,事業法,個人情報
を同定しないまでも何十何百のクラスターの一
保護・プライバシー法,さらには競争法,消費
26
者法等の各領域へとますます拡散することにな
るが,それを保護の切り下げないし憲法学に
とっての失地とみるべきかどうか。そしてまた,
冒頭で述べたようにインターネット・ガバナン
スという課題を日本一国の主権で実現すること
が困難であることは,国家主権を前提としてき
た従来の憲法学の手に余る事態であることをも
56
意味するのではなかろうか 。そうだとすれば,
通信の秘密の再検討は,憲法学のあり方そのも
のを問い直す契機ともなりうるのではなかろう
か。
注
1 ⑶で後述する個人情報・プライバシー保護の
要請との調和を含む概観として,安岡寛道・曽
根原登・宍戸常寿編『ライフログ時代のビック
データ』(東洋経済新報社,2012年)参照。ライ
フログに関わる法律問題については総務省の研
究会である「利用者視点を踏まえた ICT サービ
スに係る諸問題に関する研究会」(以下,諸問題
研という)「第2次提言」(2010年5月)のうち
「Ⅱ ライフログ活用サービスに関する検討に
ついて」参照。
2 局長名による「東日本大震災に係るインター
ネット上の流言飛語への適切な対応に関する要
請」(2012年4月)。曽我部真裕「風評被害」別
冊法セミ『3・11で考える日本社会と国家の現
在』(2012年)52頁以下参照。
3 なお本報告と前後して,スマートフォンのア
プリケーションを通じた個人情報の漏洩・流出
事件の数々が,大きく報じられた。この点につ
い て 諸 問 題 研「 ス マ ー ト フ ォ ン・ プ ラ イ バ
シー・イニシアティブ」(2012年8月)は,プラ
イバシーポリシーの改訂を含む自主規制の強化
を業界に対して求めている。
4 なおその後,Yahoo!Japan が電子メール解析
を通じた広告サービスを提供する際にも,総務
省は大臣会見及び「ヤフー株式会社における新
広告サービスについて」の公表により,同サー
ビスが通信の秘密を侵害しないと判断した理由
を対外的に説明している(2012年9月)。
5 以下の記述については,芦部信喜「通信の秘
密」
『憲法学Ⅲ〔増補版〕』
(有斐閣,2000年)540
頁以下,佐藤幸治「通信の秘密」芦部信喜編『憲
法Ⅱ人権⑴』(有斐閣,1978年)635頁以下,鈴
27
木秀美「通信の自由」大石眞=石川健治編『憲
法の争点』
(有斐閣,2008年)136頁以下参照。
6 なおこうした解釈は,大日本帝国憲法26条に
おける「信書の秘密」においても採用されてい
た。
美濃部達吉『憲法撮要〔第5版〕
』
(有斐閣,
1932年)171-172頁。
7 鈴木秀美「通信傍受法」法教232号(2000年)
29頁。なお法務省法制審議会の「新時代の刑事
司法制度特別部会」は2013年1月現在,通信傍
受の対象となる犯罪の拡大や立ち会い手続・該
当性判断のための傍受の合理化等の検討を進め
ている。
8 佐藤・前掲注(5)635-636頁。
9 隅野隆徳「通信の秘密」阿部照哉=池田政章
編『新版憲法⑵』
(有斐閣,1983年)208頁。
10 佐藤・前掲注(5)635頁。
同旨として芦部・
前掲注(5)540-543頁,
伊藤正己『憲法(第3
版)
』
(弘文堂,1995年)326頁,野中俊彦ほか
『憲法Ⅰ(第5版)
』
(有斐閣,
2012年)397頁〔中
村睦男〕,戸波江二『憲法(新版)』(ぎょうせ
い,1998年)273頁等。
11 小嶋和司『憲法概説』
(良書普及会,1987年)
232頁以下,
初宿正典『憲法2(第3版)
』
(成文
堂,2010年)365頁,大石眞『憲法講義Ⅰ(第2
版)
』
(有斐閣,2009年)98頁。
12 濱田純一『情報法』
(有斐閣,
1993年)131頁,
長谷部恭男『憲法(第5版)
』
(新世社,
2011年)
221頁,
松井茂記『日本国憲法(第3版)
』
(有斐
閣,2007年)513頁以下。さらに渋谷秀樹『憲
法』
(有斐閣,2007年)372頁は,情報流通の自
由一般を憲法21条1項が保障するとの立場か
ら,自己情報コントロール権としてのプライバ
シー権が通信の秘密の保障の根拠であると解す
る。
13 阪本昌成「
『通信の自由・通信の秘密』への新
たな視点」
『プライバシー権論』
(日本評論社,
1986年)229頁以下。赤坂正浩『憲法講義(人
権)
』
(信山社,2011年)80頁も同旨。
14 長谷部恭男「通信制度」宇賀克也=長谷部恭
男編『情報法』
(有斐閣,2012年)67-68頁。
15 芦部・前掲注(5)545頁。
16 平松毅「判批」芦部信喜編『憲法判例百選Ⅰ
(第2版)
』
(有斐閣,1988年)103頁。
17 佐藤幸治『日本国憲法論』
(成文堂,2011年)
322頁。初宿・前掲注(11)367頁も同旨。
18 松井・前掲注(12)516頁,
渋谷・前掲注(12)
372頁も同旨。この点,
長谷部恭男は電気通信事
業法の趣旨を「通信の秘密を一般的な公益とし
ても保障しよう」とすることにあると解しつつ
(前掲注(14)68頁),法律上の規定の解釈適用
において「憲法21条の趣旨を十分に考慮すべき」
(前掲注(12)221-222頁)との立場を取るよう
である。
19 総務省「電気通信事業参入マニュアル[追補
版]」(2005年)。
20 なお同2項にいう「通信に関して知り得た他
人の秘密」は,後述の通信の秘密の対象事項を
超えて,契約者の個人情報等,通信の構成要素
ではないがそれを推知させる可能性のあるもの
を広く含むと解される(多賀谷編・後掲注(21)
40頁)。
21 多賀谷一照編『電気通信事業法逐条解説』
(情
報通信振興会,2008年)37-38頁。郵便法におけ
る通信の秘密を同様に解した裁判例として大阪
高判昭和41・2・26判タ191号155頁参照。
22 小向太郎『情報法講義(第2版)』(NTT 出
版,2011年)120頁。
23 多賀谷編・前掲注(21)38頁。
24 松井・前掲注(12)516頁。
25 多賀谷編・前掲注(21)38-40頁。
26 総務省「電気通信事業分野におけるプライバ
シー情報に関する懇談会」の「電気通信事業者
が行う電子メールのフィルタリングと電気通信
事業法第4条(通信の秘密の保護)の関係につ
いて」(2006年1月)。
27 以下の記述については,諸問題研「第2次提
言」のうち「Ⅰ CGM に関する検討について」
を参照。
28 同ガイドラインの記述に対する批判として,
京野垂日「通信にかかわる弁護士会照会につい
て」自由と正義2010年6月号133頁以下参照。な
お郵便法上の通信の秘密に関する事案である
が,東京高判平成22・9・29判タ1356号227頁は,
転居届それ自体は通信の秘密の対象ではないと
して,郵便事業会社が弁護士会からの照会を拒
んだことを違法としている。
29 小向・前掲注(22)78-79頁,121頁。
30 電気通信事業者協会等「インターネット上の
自殺予告事案への対応に関するガイドライン」
(2005年5月)。
31 近時の総務省による行政指導の例だけでも,
Google に対するもの(Google Street View に関
して無線 LAN 経由の通信を受信し一部を記録
したことが通信の秘密の侵害につながるおそれ
があるとしたもの。2011年11月),コネクトフ
リーに対するもの(無線 LAN サービス提供に
伴い特定の SNS に係る ID 等を無断で記録・保
存したことが通信の秘密の侵害にあたるとした
もの。
2012年4月)
,
NTT ブロードバンドプラッ
トフォーラムに対するもの(大手コンビニエン
スストア等における公衆無線 LAN サービスの
提供に伴い特定のサイトに接続する通信を正当
な理由なく無断で遮断・他のサイトへ接続した
ことが通信の秘密の侵害に当たるとしたもの。
2012年4月)がある。
32 野中ほか・前掲注(10)402頁〔中村〕等。憲
法学からの分析として詳しくは高橋和之「イン
ターネット上の名誉毀損と表現の自由」高橋和
之ほか編『インターネットと法(第4版)
』
(有
斐閣,2010年)53頁以下参照。
33 この点は長谷部・前掲注(12)222頁の指摘も
参照。
34 総務省総合通信基盤局消費者行政課『改訂版
プロバイダ責任制限法』
(第一法規,
2011年)47
頁。
35 松井・前掲注(12)516頁。
36 諸問題研「プロバイダ責任制限法検証に関す
る提言」
(2011年7月)
。
37 佐藤・前掲注(5)645頁。
38 法務省「通信履歴の電磁的記録の保全要請に
関する Q&A」
。
39 鈴木秀美「インターネット上の有害情報と青
少年保護」高橋ほか編・前掲注(32)146頁。
40 諸問題研「青少年が安全に安心してインター
ネットを利用できる環境の整備に関する提言」
(2011年10月)
,内閣府青少年インターネット環
境の整備等に関する検討会「青少年が安全に安
心してインターネットを利用できる環境の整備
に関する提言」
(2011年8月)
。
41 「安心ネットづくり促進協議会児童ポルノ対
策作業部会最終報告書」のうち「法的問題検討
サブワーキング報告書」
(2010年3月)
。
42 諸問題研における「座長とりまとめ」
(2010年
5月)
,
犯罪対策閣僚会議「児童ポルノ排除総合
対策」
(2010年7月)
。
43 この点は諸問題研「青少年が安全に安心して
インターネットを利用できる環境の整備に関す
る提言」参照。
44 この問題の詳細については,森亮二「ブロッ
キングに関する法律問題」ジュリ1411号(2010
年)7頁以下参照。
45 諸問題研「第2次提言」のうち「Ⅰ CGM に
関する検討について」
,同「青少年が安全に安心
してインターネットを利用できる環境の整備に
28
関する提言」。
46 諸問題研「第2次提言」のうち「Ⅱ ライフ
ログ活用サービスに関する検討について」。
47 高橋郁夫・吉田一雄「『通信の秘密』の数奇な
運命(憲法)」情報ネットワーク・ローレビュー
5巻(2006年)44頁以下。なお高橋郁夫ほか
「『通信の秘密』の数奇な運命(制定法)」情報
ネットワーク・ローレビュー8巻(2008年)1
頁以下も参照。
48 なおブランダイスのプライバシー及び表現の
自由論については,さしあたり宮下紘「ルイス・
ブランダイスのプライバシー権」駿法26巻1号
(2012年)71頁以下参照。
49 小向・前掲注(22)79-80頁。
50 松井茂記「インターネット上の表現行為と表
現の自由」高橋ほか編・前掲注(32)31頁。
51 君塚正臣「日本国憲法21条の『表現』と『通
信』の間に」関大法学論集51巻6号(2002年)
1045頁以下。
52 さしあたり山本龍彦=阪本昌成ほか「〔座談
会・日本国憲法研究〕プライバシー」ジュリ1412
号(2010年)80頁以下参照。
53 棟居快行「通信の秘密」法教212号(1998年)
44-45頁。
54 海野敦史・竹村敏彦「『憲法上の通信制度』の
再構成による通信の自由及び通信の秘密不可侵
の射程の変容」公益事業研究62巻2号(2010年)
47頁以下。
55 多賀谷一照「『通信の秘密』の現代的意義」
『行
政とマルチメディアの法理論』(弘文堂,1995
年)197-201頁。なお園部敏・植村栄治『交通
法・通信法〔新版〕』(有斐閣,1984年)212頁も
参照。
56 かかる問題状況を簡潔に描写したものとし
て,曽我部真裕「自由権」法セミ688号(2012
年)12頁以下参照。
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