シンポジウム議事録 - 沖縄県人口増加計画ホームページ

沖縄21世紀ビジョンゆがふしまづくり
沖縄県人口増加計画シンポジウム
議事録
日時:平成26年10月19日(日)
14:30~17:00
場所:沖縄コンベンションセンター会議棟A
司会:西向
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幸三氏(エフエム沖縄アナウンサー)
開会のあいさつ
沖縄県企画部長
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謝花
喜一郎
基調講演
猪口邦子氏(参議院議員
演題
「少子化が及ぼす影響、少子化を防ぐためにはどうすればよいか」
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講師
元内閣府特命担当大臣(少子化・男女共同参画))
パネルディスカッション
テーマ
「沖縄らしい優しい社会の実現に向けた多面的な取り組みについて」
【コーディネーター】
富川
盛武氏(沖縄国際大学教授)
【コメンテーター】
猪口
邦子氏(参議院議員
元内閣府特命担当大臣(少子化・男女共同参画))
【パネリスト】
大浜
悦子氏(医療法人あけぼの会理事長)
田中
桂子氏(社会医療法人仁愛会浦添総合病院職員サポートセンター長)
宮里
哲氏(座間味村長)
與座
初美氏(特定非営利活動法人こども家庭リソースセンター沖縄理事長)
西向
幸三氏(エフエム沖縄アナウンサー)
1
司会(西向氏)
ご来場の皆様こんにちは。本日は、ゆがふしまづくり沖縄県人口増加計画シンポジウム
へお越しいただきまして誠にありがとうございます。
私、本日司会を務めさせていただきます、エフエム沖縄ラジオの中のラジオ局、
「ゴール
デンラヂオ放送」がお送りするゴールデンアワー局長の西向幸三です。どうぞ今日はよろ
しくお願いいたします。
さあ、本当にさわやかな青空が広がり、すばらしい秋晴れとなりました。本日県内では、
先日の台風11号で延期となりました那覇まつり、那覇大綱挽まつりをはじめ、さまざまな
秋祭り、そしてまた県内の小中学校では運動会など秋らしい行事が数多く催されておりま
す。かくいう私も、本日午前中は息子の運動会に参加してきました。子どもたちの笑い声
が広がる社会というのは本当にいいものです。
本日のシンポジウムは、少子化対策やワーク・ライフ・バランス、移住や地域振興など
人口増加に関するさまざまな観点から議論を通して、沖縄らしい優しい社会の実現に向け
た県民の機運、気分を盛り上げていこうというそういう趣旨となっております。最後のア
トラクションまで含め、終了は5時頃を予定しております。最後までよろしくお願いいた
します。
なお、入り口受付にて配布いたしましたアンケートのご記入にご協力お願いいたします。
退室の際に受付にて回収いたしますので、どうぞ受付にてスタッフにお渡しくださいませ。
また本日は、RBC琉球放送「沖縄BON!!」のテレビの取材カメラが入っております
ので、どうぞそちらもご了承くださいませ。
それでは初めに主催者を代表いたしまして、沖縄県企画部長謝花喜一郎よりご挨拶申し
上げます。
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1
開会の挨拶
皆さんこんにちは。ただいまご紹介いただきました沖縄県企画部長の謝花でございます。
主催者を代表いたしまして開会のご挨拶をさせていただきます。
本日は多くの皆様にご来場いただきまして、誠にありがとうございます。基調講演を行
っていただきます猪口邦子様、
パネルディスカッションにご参加いただきます富川盛武様、
田中桂子様、宮里哲様、大浜悦子様、與座初美様、そして西向幸三様には、お忙しい中、
本日のご出席をご快諾いただきまして誠にありがとうございます。
さて今年5月には、増田寛也元総務大臣を座長とする日本創生会議から、日本が直面し
ている深刻な人口減少をストップさせ、地方を元気にしていくための提言がなされ、現在
国会においても人口減少克服、地方創生に関する議論がなされているところであります。
人口減少社会を迎えている中、沖縄県の人口は全国で唯一増加を続けておりますが、平
成37年前後をピークに減少に転ずることが見込まれております。人口の減少は経済成長に
与えるマイナスの影響や、防犯、伝統文化の継承など、地域社会を支える担い手の減少な
ど、さまざまな問題が生じることが懸念されます。
沖縄県では、人口増加基調にある現時点から対策を始めておくのが必要であるとの問題
意識から、昨年度市町村との意見交換、有識者会議での検討、住民へのアンケート調査の
結果も踏まえ、沖縄県人口増加計画を取りまとめました。計画では、安心して結婚し、出
産、子育てができる社会、世界に開かれた活力ある社会、バランスのとれた持続的な人口
増加社会を沖縄が目指すべき社会の姿として、その実現に向け自然増の拡大、社会増の拡
大、離島・過疎地域の振興の3つを柱に取組を進めているところであります。
目指すべき社会を実現するためには、家庭や地域社会、事業者の理解と協力が不可欠で
あります。本日のシンポジウムは、さまざまな観点からの議論を通して、沖縄らしい優し
い社会の実現に向け、県民機運を盛り上げていくことを目的に開催させていただいており
ます。
猪口先生の基調講演を初め、パネリストの皆様からは医療、子育て、離島振興などにつ
いて日ごろの活動を通して感じていること、今後の取り組みに向けての提言など貴重なご
意見がいただけるものと期待しております。シンポジウムの最後には、今年人口増加計画
の広報活動をお手伝いいただいておりますミキトニーラブさんに応援ソングを披露してい
ただく予定となっております。
本シンポジウムを通しまして、沖縄らしい優しい社会の実現に向けた方向性が共有でき
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ますことを祈念いたしまして、主催者を代表しての開会の挨拶とさせていただきます。
本日はどうぞよろしくお願いいたします。
司会(西向氏)
謝花部長からのご挨拶でした。ありがとうございました。
それでは、これより小泉内閣で少子化・男女共同参画担当大臣を務められました猪口邦
子様によります基調講演を始めたいと思います。
猪口様は平成17年から18年にかけて初代の少子化担当大臣として活躍され、昨年は自民
党の人口減少社会対策特別委員長として、子ども・子育て関連3法の円滑な実施にもかか
わっておられます。また、自民党の沖縄振興調査会の会長も務められ、沖縄とのかかわり
も深いものがございます。
本日のテーマは、
「少子化が及ぼす影響、少子化を防ぐにはどうすればよいか」です。猪
口様、よろしくお願いいたします。
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2
基調講演
本日はお招きいただきましてありがとうございます。ただいまご紹介賜りました私は参
議院議員猪口邦子で、初代の専任の少子化・男女共同参画大臣を務めました。当時の政権
は小泉政権で、2005年でございました。
そのとき、過去30年にわたって合計特殊出生率が下落の傾向を回復することができない
ままでした。そして小泉政権で、その他の規制改革なども推進したのでしょうけれども、
我が国にとっての一番大きな問題は、この少子化という問題であると総理は考えて、専任
の大臣を任命するということを考えたということです。ですから小泉政権というと、別の
ことと関係づけて覚えている方もたくさんいらっしゃるのですけれども、実際には、男女
共同参画の欠落から、我が国においては女性が仕事と家庭、どちらかを選ばなければなら
ず、多くの苦労がその中であって、そういう諸々のことから長年後回しにされた社会福祉
や教育費の問題、総じて少子化対策の遅れ、こういうことを今こそきちっとやらなければ
という思いが、その時代、政権の中にあったようでございます。
私は少子化大臣に任命されまして、この長年続いた人口減少といいますか、合計特殊出
生率の下落傾向、これを反転させよという使命を帯びて大臣職をやってまいりました。
(資料1 P1)
ここにご覧いただいてますこの赤い折れ線グラフが合計特殊出生率というもので、これ
は全ての統計量が誤解をされないように理解されることがとても大事なんですけど、特に
この統計量はそうでありまして、まずこれは総合指標であるということと、マクロ指標で
あるということと、平均値であるということで、決してどの女性が生涯何人子どもを産む
かということにつなげて議論してはいけないということをまず先に申し上げておきますけ
れども、これは平均してマクロ的に見て、1人の女性が生涯に産む子どもの数ということ
でございますので、その特定の個人をどうのということは非常に適切でない表現となりま
すので、このご議論にかかわる全ての人たちがこれを認識する必要があり、少子化対策と
は決して「産めよ、ふやせよ」の復古調のことではないということです。
この長期低迷現象を見せています赤い折れ線グラフでございますけれども、合計特殊出
生率で今申し上げたようなトータル・ファティリティー・レート(Total Fertility Rate)
というものであって、ずっと減少しています。よく見ると、最近のところまでグラフを延
長することが時間の制約でできなかったんですけれども、2005年のところが実際に日本史
で最低のポイントになっていますから、2005年以降少しずつですけれども回復基調にはな
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ってる。
つまり新しい少子化対策という、私が大臣時代に打ち出しました総合的なパッケージで
すね。この新しい少子化対策というものですけれども、この中で、少子化対策というのは
さまざまな困難性を多くの人が多様に抱えているので、1つの答えではなく総合的に推進
する必要があるという観点から、総合性を持った対策ということをやってまいりました。
もし、この計画の推進がなければ、きっと下落傾向が続いていますので、去年の段階で
合計特殊出生率は1.26から1.43まで回復しておりますけれども、これは1.26、1.21、1.19
というふうにいっていた可能性もあり、その開きはやはり大きいものになったであろうと
普通に想定することができます。
(資料1 表紙)
少子化大臣になった時の私の思いは、私の専門は国際政治学で長年上智大学の教授を務
めておりましたので、教授時代の写真を一番下のところにちょっと置いておりますけれど
も、専門が男女共同参画や少子化ということではないんですね。しかし私は国際政治学の
教授を務める中で多くの女子学生を教え、そのすぐれた女子学生の全てが、その後一旦は
就職したけれども3、
4年のうちには全員退職して、残ってる人はゼロであったという日々
を思い出します。自分は国際政治学の専門だけれども、いつかこの国の根本的に間違って
いるところを正さなければならないと、そういう思いが自分の教え子を見て思いました。
それが私の現場での経験であります。
それで少子化大臣に任命されました時、この下の小泉総理が真ん中にいる写真で私が青
いドレスを着ているのが任命の日の写真でございますけれども、よくブルードレスと、こ
れはブルーシートでつくったのかとみんなに冷やかされたドレスでございますけれども、
どういう意味があってそのドレスを着たのかと後に学生たちに聞かれた時に、私はこう答
えました。女性の頭上にも青空だと、そしてそれは本当の青空でなければだめだと。そう
いういろんな思いを込めて少子化大臣を務めることになりました。
なかなかそういう本当の専門家ではない人にとって、厚生労働省の少子化対策の制度と
いうのは非常にわかりにくく、実際に子どもを育てているときに、自分も子育てをしてい
た日々がありますが、どれほど疲れていたかということを思い出します。
もう親が本当に疲れ切っていて、どういうサービスがこの年齢の子どもに社会は用意し
てくれるのか、それを自分からわかったり探したりするその余力というのがもうないんだ
と。その上、複雑な制度であると。こういう場合においては、制度というのはもう少し簡
6
素に説明できなければ、本当に必要としているところに伝わらないでしょうということを
思いました。
(資料1 P1)
そこで初めてこういう整理をやったのですけど、この表の向こう側を見てもらいますと、
1つのことに気づくのであろうと思いますけれども、年齢進行順に子どもへの支援策が書
かれているということです。つまり本当に疲れた親にとって、ただ1つの真実は自分の子
どもに年齢があるということです。そしてその年齢の子どもに、社会は、この国はどうい
う支援策を提供してくれてるのか。こういうことを把握して、そしてまた不思議なもので
その年齢を過ぎてしまいますと、そのときの苦労というのがまたどこかへ行ってしまって、
次には保育園に入れない、次には小学校に上がったら放課後の子どものことが心配である。
次には今度は進学するときの教育費が高過ぎる。そしてついに子どもが学校を出て就職し
た時には、その子のワーク・ライフ・バランスはゼロであり、このままではせっかく育て
てきた子どもが、就職したはいいけれども到底持続可能な労働環境になってない。こうい
うことがずっとめぐっていくんですね。
ですから、やはり年齢進行順に総合的にさまざまな施策をきちっと展開していくことが
必要である。これが私の基本的な考え方であります。
(資料1 表紙)
そこで、レジュメのように、もし時間がなかったとき、またはプリンターで全部印刷を
することが難しかったときのために、この最初のページだけはと思ってまとめて書いてき
ましたけれども、先ほど見たように合計特殊出生率というのが30年間低迷しているわけで
すから、反転させると言ってもどうやってそれをやるかということですね。今言ったよう
に、わかりやすい施策の準備、総合性を持って1つのことに解を求めず、人はさまざまな
ことで困っているから1つの答えで対応できる社会政策の分野はない。もし1つの答えを
聞きたいという質問を記者の皆さんからたくさん受けた場合には、その1つ答えを返して
あげるといいと思います。それは、あなたが経済学をやり過ぎていて、常に1つの最適の
解があると考えているのは、経済学にとってはそうかもしれないけど、社会政策について
はそうではないと。困り方が多様である以上、セットでいろいろ考えなければならないと。
でもその中で、やはり全体で見ますと2番目のポツに書いてありますとおり、我が国の男
女共同参画の著しい遅れ、これが根本的な中にある原因の1つではないかと思うに至りま
した。
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(資料1 P2)
そして、男女共同参画基本法というのは1999年に全会一致で国会で採択されていますけ
れども、それに基づいて5年ごとの男女共同参画基本計画というのをつくる流れとなりま
す。遅きに失したんですけれども、こうして女性の社会的な立場というものを強くしてい
く、そういう努力をしてきたところです。
見識のない方が、そういうことをするから少子化が進むんだという批判もたくさん浴び
ました。つまり女性が外で働くようになるから少子化になるんだと。そういう方たちはま
ず全世界のデータを見てみるとよろしいということです。今日は用意ができずパワーポイ
ントに入れませんでしたけど、出生率と女性の労働力率といいまして、100人いたら何人が
働いているかということですね。この女性の労働力率が高ければ高いほど合計特殊出生率
は高いんです。逆じゃないということですね。働いているから合計特殊出生率が下がるの
ではなくて、女性労働力率が高ければ高いほど合計特殊出生率が高いということは、つま
り働いている女性が多いということは、むしろ多くの子どもが生まれやすい環境にあると
いうことです。
それはどうしてであると思いますか、皆様。
(資料1 P17)
まず自分が働いてみたら、非常に苦労するということがわかりますよ。あまりにも苦労
するので、何とかしなきゃと怒りが込み上げてくるんです。そして、
「何とかせよ」という
その声を上げる運動、レイズ・ザ・ボイス(Raise the voice)という4つ目のポイントが
ありますけれども、何とかしてくださいという、こういう強い政策要求になる。つまり働
いてる人が苦労を経験してます。そして、政策要求がうんと出てきます。それが無数の人、
かなり多数の女性がそういう思いをしていますという社会では、これに向き合わなければ
ならない政府となります。
ですから、結果的には働いてる女性だけでなく、専業で子どもを育てたり、家庭を守っ
てる女性たちも等しく女性政策、社会政策が進歩するので、その恩恵を受けることにもな
ります。つまりこういうときに求められる政策は働いている女性だけの政策じゃないです
から。
ですから、やはり人間の社会というのは非常に残念なんですけれども、苦労する人がい
て、それはアフェックテッド・パートナーズ(Affected
ド・ピープル(Affected
partners)とかアフェックテッ
people)というんですね。つまり、政策の不在から影響を受け
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る人たちです。ある状況に影響を受ける人たちが声を上げるんですよ。レイズ・ザ・ボイ
ス(Raise the voice)
。そして政策は進展するんです。
自分の教え子たちを見てても、高い教育水準を得てますので、やがて彼女たちは地域で、
やっぱりこれを次世代に引き継ぐわけにはいかないというような声も上げてきて、そして
その地域ごとによくなっていくという流れも今では見ることができます。
これは最後のパワーポイントのページなんですけれども、私が伝えたいことは、問題は
解決されなければならないと。政治とは、また政策とは問題を解決するためにあると。よ
って、問題が解決できない政治も政策も無意味であるということです。また、人間社会に
問題がなければ、政治も政策も要らないということです。
そういう観点から、
今の社会の問題とは何かということを鋭く把握しなければならない。
把握するのは、それは議会人や首長だけの仕事では全くない。役人の仕事でもない。問題
を発見するのは、全てのアフェックテッド・パートナーズ(Affected partners)であり、
それからそれを見ている周りの友達たちです。本当に大変な思いをしている人は訴える力
もない。子育ての真っただ中の人は、子ども・子育て支援新制度の要求には来ません。そ
ういうことだと思います。
ですから、みんなで問題を発見して、そしてそれぞれが解決を努力すると。国が全部解
決できるわけではない。でも、家族も解決できず、周りの近所も解決してくれず、町内会
もこの場面では役に立ってくれず、そして自治体も十分な施策を打ってくれない。企業が
やってくれるわけでもない。NPOも助けてくれない。その全てが失敗したときに、必ず
国が解決を出すということです。これができなければ、やはり本当に残念なこととなりま
す。ですから、今そういう段階で、私たちは国を挙げて少子化対策の解決につながること
をやらなければならないということです。
私はこれを、SOSって助けてという意味でセーブ・アワー・シップ(Save our ship)
ということですけれども、ちょっと別のSOSをつくってみました。それはソリューショ
ン・オリエンテッド・シナジー(Solution-Oriented Synergy)というもので、つまり解決
に向かう、解決志向型の、しかし自分だけではできないんですよ。SOSであって、SO
A、ソリューション・オリエンテッド・アクション(Solution-Oriented Action)ではな
いんです。自分だけのアクションでできると思うのではなくて、シナジーでみんなと何か
やらなければならないというのが問題であり、難しさでありますから、そんなふうに理解
していただければと思います。
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下から2つ目のポツで、ここが案外と大事だったと思います。じゃ日本の社会は、先ほ
ど沖縄県らしく優しくというそういうこととの関係で、優しさを欠いた社会だったのかと
いうと必ずしもそうではないと。
要するに日本というのはすさまじい制約を運命的に持っている国で、この国は地面を掘
って何も出てこないと、要するに資源のない国だということです。資源がない国でありな
がら、自由世界2位の経済規模となるプロセスにおいて、やむを得ず後回しにしたことが
たくさんあるということです。
それは福祉であり、教育であり、環境対策であり、いろんなことが後回しになりました。
主として社会政策と呼ばれる分が後回しになっているんです。だから今こそ回復運転しな
ければならないんです。
例えば冷戦期のドイツも少子化対策が著しく遅れて、合計特殊出生率は1.21までいった
んですけれども、ドイツの優れたところは、冷戦が終結したら一気に予算配分を変えて、
それで社会政策を重点化して、保育園をつくり、いろいろなことをやったので、今では1.5
を超えるような合計特殊出生率に回復してる。
我が国は、ようやく資源小国ながらも世界2位の経済まで発展しているにもかかわらず、
社会政策に十分な予算を組んでないということです。ここをもっと劇的に強化しなければ
ならないというのが私の意見です。
(資料1 P9)
それで自分の大臣時代というのは1年ぐらいで終わったのですけれども、皆様もいろん
な地位に社会的についていると思います。これからもつくと思います。特定の地位につく
と必ず任期というのがあります。任期は関係ないということですよ。どの立場にいても、
一旦その地位についたらずっとやり続けることが大事です。
私も大臣が終わっても関係ないですよ。ずっとこのテーマを追って、いつしか抜本的な
税制改革と言っているんですけれども、要は消費税が上がらなければ恒久財源をどこかか
らつくることができなかったんです。それで8%に上がった時に、これがチャンスだとい
うことです。10%に上がるかどうかわかりませんけれども、この抜本的な税制改革である
消費増税の時に、これは3党合意で社会福祉と少子化対策に充ててもらうということにで
きたんです。それもすごくうるさく言わなければならなかったと思います。
自分は大臣でもなく、何の社会的な地位がこのテーマについてあるわけではないけれど
も、一旦大臣はずっとその責任を負うと考えたんですね。自分の時に児童手当の乳幼児加
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算ということはやりましたけれども、予算の制約からそれ以上のことができなかったので、
必ずややろうと思っていて、それで0.7兆円の範囲で少子化対策に消費増税分を充当しても
らうことができるという流れをつくりましたので、ここに書いてありますとおり量的拡充
が約4,000億で、質的改善を3,000億という両輪をもって、来年度からこれが実施されるこ
ととなりました。
ですから、財源をどう手当てするかというのはすごく重要な課題であったんですけれど
も、ずっと追求し続けるということです。先ほどのドイツとの比較を言えば、経済大国に
なってもう20年にもなるのに、なぜ20年目にこれをやらなければならなかったか。なぜ20
年前にこの転換ができなかったのか。それが国として生涯悔やまれることです。
沖縄県は今から発見してやろうとしてるんだったら、日本全体では20年の遅れをとった
けれども、
沖縄県の場合はその遅れが少しでも少なくて済むんだろうなというふうに思い、
本当に立派なことと思っております。
(資料1 P4)
ですから総合的にこれだけのことを2006年の時点で考えたんですけれども、このほとん
どが実施できるようになるのがその後のことです。
(資料1 P3)
一部実現することはできました。そのとき一応できましたのが、例えば児童手当の乳
幼児加算の創設というようなことです。余りにも給付が少なかったんです。高齢者のと
ころは山と給付がいきますけど、子どもを産んで絶対弱者を抱えているそこへの給付と
いうのが非常に少なかったので、乳幼児に対しては、3歳未満のお子さんを抱えている
ところに給付額を一気に増やしたということはできましたけれども、あと乳幼児の全戸
訪問制度なども大体できるようになりましたし、あと専業主婦の人も使える地域の子育
て拠点の拡充などです。その前は保育に欠けるといって、お母さんが100%、8時間働
いてないと無理だった子育て支援の利用を、もうちょっと幅をもたせてやる、そういう
こともできました。
(資料1 P4)
しかし、いくつかのことはできず、その1つが放課後子どもプランの推進というもの
で、小学校のところの課題なんですけれども、保育園の時代はよかったと。ところが小
学校になると、一気に早く子どもが帰ってきてしまって、非常に治安も悪く、また交通
事故の不安もあるので、また塾の送り迎えもしなければならないとかいろんな事情があ
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るようで、それで結局、黙って母親が仕事をやめる、それは小学校に上がった時と言われ
てるんです。そのときに塾に連れていくからやめるというのはいかにも言いにくい理由で、
この職場はワーク・ライフ・バランスもないからとかそう言ってやめるんでしょうけど、
本当の理由はそういうスカスカ放課後時間といいますか、子どもがあまりアテンド
(attend)されてない、そういうことを不安に思ってやめることが多いので、放課後子ど
もプランというのは、ようやく今回設計ができたんですけれども。
(資料1 P11)
最後のほうのページなんですけれども、これはどういうものかというと、放課後、小学
校の施設区域の中で子どもが残ることができるということです。
それで、そこで才能教育など、また補習教育など、スポーツ指導などきちっと与えても
らって、ヨーロッパだったら親が迎えに来るまでそこで預かるという、こういう制度です。
また地域のいろんな才能のある人が放課後のクラスに教えに行くので、家庭側はメニュー
方式で、例えば水曜日はバレエだ、木曜日は音楽だ、金曜日は数学だと要求を出すことが
できまして、それで村に生まれた子どもは村の大人たちが相次いで才能がある人がきちっ
と教えに行くというやり方で、多くのコンクール、多くの科学者を輩出するような成果を
出しているんです。
我が国は、午前中の学習指導要領に基づきます教育の水準は世界一高いんですけれども、
放課後スカスカ時間というのが問題なんですね。そこでこの放課後子どもプランで、学童
保育もありますけれども、学童クラブは福祉だけではちょっと持たないので、教育的コン
テンツを含めて、また昭和の時代につくられた施設は非常に老朽化が激しいので、この際
小学校施設区域の中に統合して、教育的コンテンツも重点化するというような総合プラン
を当時、2006年の時点で推進しているんですけれども、予算が十分ではないから何十校か
の学校で実現していますが、日本には2万校の小学校がありますから、ほとんどの小学校
ではなかなかうまくいってないということで、このたびついにそのうち1万校で実施する
ことが可能となります。
こういうふうに1つの政策を推進するには、年月がかかることがあります。それを本当
に情熱を持って、ずっと誰かが維持していくことができるかです。本来は官僚機構がそう
するはずなんですね。官僚機構は持続性がその役割でありますけれども、やはり政治主導
の時代でもある。また世論がそういうことを強く求める必要もある。運動がないところに
政策は進まないというのが、政策の中で感じることですから、誰かが情熱を持ってずっと
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年月のバリアーにもかかわらず追求すると、必ず道がこうやって開けることになるから。
大体10年単位と私は思っていますけれども、子どもたちにはちょっと間に合わなかった部
分もあるのではないかと、そういうふうに不安に思います。
(資料1 P1)
それでは、最初の男女共同参画のところに戻って、最初のパワーポイントはこれですが、
全体像を先にお話ししましたけれども、こうして合計特殊出生率は少しずつ上がり始めて
るというのが現状です。
それから今申し上げたように、すごい情熱を持って、年月の壁にもかかわらず追求する
ということも大事だけれども、同時にその地位にある時何ができるかということをお伝え
すると、そのテーマを主流化するというのが大事なんです。何とか主流化するんです。ど
ういう理屈をつけても何をやっても、さまざまな努力をして主流化する。
私はあるとき全国行脚というのをやりまして、知事と大臣の対等な政策対話というのを
ブロックごとに開催して、全国を全部回りました。そうすると、知事と大臣の対話ですか
ら、ローカル紙に全部載りまして、それがその地域で「少子化をまじめに考えなければい
けないかな」というきっかけにもなったとも聞いておりますし、またさっき見たように、
こういう根本原因を追求して、男女共同参画をセットで進めるということも非常に大事で
す。
(資料1 P2)
そのときに、やっぱり主流化するのには総理の力を借りるということで、小泉総理が真
ん中ですね。で安倍総理もいらっしゃいますけど、この時代は官房長官でした。ですから
総理の隣ですね。総理の反対の隣は私で、担当大臣なんですね。こういうセットで、いつ
も官邸で、この少子化対策とか男女共同参画会議もそうですがやっておりますので、やっ
ぱりメディアのカバレッジも大きくなりますし、私が感動したのは2005年に就任して、
2006年の全紙の元旦の特集号が少子化対策だったです。このときに本当にこのテーマが主
流化できたと、でき始めた最初の元旦なんだなというふうに思いました。
やっぱり多くの人がそういう影響を受けます。そうか、そういうことが大事なのかと。
それでしばらくしたら、結婚率がわっと上がり始めたんですね。それで1年後からは子ど
もがかなり生まれるようになりまして、合計特殊出生率がかなり劇的に改善してくるんで
す。その後また平準的な回復基調にしかなりませんでしたけれども、一旦そういう時期が
ありました。
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それからこの男女共同参画基本法、この考えのもとで育児休業の取得、これもやりやす
い社会がつくられるようになりました。法制度そのものはあったんですけれども、なかな
かそれを請求するそういう社会環境が整ってないということで、多くの女性は育児休業を
請求する書類ではなく、退職届を出して職場を去っていくという感じだったんです。とこ
ろが、男女共同参画の勢いをつくると、さまざまな施策も利用しやすくなるということだ
ったと思います。
ここでちょっと注目していただきたいのは一番最後のところ、こちら側の右側の最後の
ところに書いてあることなんですけれども、これは8条、9条、10条で、男女共同参画の
遅れは誰のせいかと、そして誰にこれを克服する責任があるかということを基本法は明記
しておりまして、1つは国、国は必ず施策を総合的に策定し実施する義務が発生したんで
す。
ですから私が大臣の時に、2005年第2次男女共同参画基本計画を閣議決定しておりまし
て、この中に今ようやく日の目を見るようになった「202030」、2020年までに指導的地位の
30%は女性が占めるようにというのは、実は2005年の閣議決定の第2次男女共同参画基本
計画に入れ込むことができているんです。そのときは相当な苦労があったし、反対の意見
もありましたけれども、やっぱり数値なき決定は推進にならないと考えまして入れたんで
すね。10年かかってようやく主流化してきたテーマで、5年ごとの基本計画ですから2010
年にも第3次がつくられていますけれども、同じ数値が入っています。国は8条で責務が
あるということです。
ところが、地方公共団体もそうなんです。9条これはどういうことかと言うと、地方公
共団体は地域の特性を生かした施策を展開ということです。この地域の特性を生かしたと
いうのはどういう行政的な意味かと言うと、一律に男女共同参画といってもうちのほうで
は無理なんだと言われる地域もあります。著しくそういう考えでは、なかなかみんながな
れてきてないという社会、そこを一気に全部やるというのが現実的に不可能だというとき
に、この一言を入れると、必ずしも国のレベルでなくても、地域の特性を生かしたという
ことで、少しは弾力的に考えてもらっても全部基本法違反とはならないということです。
ただし、沖縄県のほうはむしろ進んでいるわけですから、あるいは進んでいたわけです
から、むしろ地域の特性を生かしたというのは、そのプラスの面を生かして国に手本とな
るような施策を推進する。これもまさにプラスの地域の特性を生かした9条の運用となる
と思いますので、ぜひそういうふうにお願いしたい。
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そして10条は何が書いてあるかと言うと、我々全員が責任者であると書いてあるんです。
国民は男女共同参画社会づくりに協力しなければいけないということです。もうこれは国
是だということで、いや、うちの風習は違うからとか、そういうのはだめだと、そういう
差別は許されないということで、基本法はこの3つの責任主体を書いていますから、これ
に基づいて個別法がつくられますということです。いろいろ努力はするけれども、なかな
か後回しになっていたテーマというのは難しいということです。
(資料1 P4)
こういうふうに、先ほど説明した新しい少子化対策というのが、私が取りまとめたもの
です。次を見てもらいますと、さっきの総合的なものが書いてありますが、この中には10
年前どういうことが問題だったかと言うと、まず一番上の出産育児一時金の問題と、今で
はほとんど聞かなくなった問題です。
これは子どもを産むときに40万円かかるんです。このお金がないわけですよ。親に出し
てもらえないカップルだってたくさんいるということで、ここが最大のボトルネックなん
です。
ですから、少子化対策が問題だというのにフリー・バース(Free birth)がなくてどう
するんだということを談判しまして、この四十何万円が機関払いで、昔から立てかえとい
うのはあったんですけど、3、4カ月後にご主人の口座に30万ぐらい振り込まれるという
ものなんですが、産むときの30万のお金はどうするんだということですよね。そういう問
題を構造的にも、また金額も増大して解決したので、今日ではこの問題はほとんど語られ
ることはなくなったということです。10年前に解決する部分もある。だけど今出産のとき
にお金がなくて右往左往するということは、ほとんどないと思います。もしあったら言っ
てほしいです。一部の病院で、まだそういうことに合意できてないところもあるかもしれ
ませんけども。
あと健診、妊娠したら14回の検診が必要なんですけれども、5回ぐらいまでしか無料
券が出てなくて、3人目とかいう場合にはこれをそのままにしておいて重大事故に至っ
たりするので、これは全部14回分まで全部ただにしております。
あと不妊治療、今では不妊治療は大きな助成対象ですけれども、当時はこの言葉を使う
こと自体がよくないんじゃないかと、私は大臣として言われました。病気でもないのにど
うしてそういうことを言うかということだけども、ものすごい要望があったので公的助成
の拡大、保険適用はできなかったです。今もできないです。なぜかというと保険というの
15
は、病気に対するもので不妊は病気ではないという考え、それはいろんな当事者たちの意
見でもあったんです。
ただ一部分については保険適用してもいいのではないかという合意形成もできつつある
ので、これは数年の後の課題になってくると思います。
あとは妊娠初期に休む必要がある場合もあるので、休暇をとりやすくするとか、乳幼児
加算を児童手当にするとか、こういうのが当時の新生児の段階での大きな課題で、半分ぐ
らいできて半分ぐらいは後の時代の残りとなりました。
それから、学校に入る前の未就学児のところでは、保育園に入れないので、待機児童ゼ
ロというのは私の命名ですけれども、10年かかって来年からゼロになります。それは沖縄
は一番待機児童が多いから、これは各自治体があるいは県庁が上乗せして、何とか頑張っ
てもらって3、4年のうちにゼロになる計画ですけれど、ほかの地域では東京の一部を除
いて、来年度の消費増税分8%の分の一部を量的拡大に使って解決することになるので、
10年越しのことです。
だから、今後は待機児童ゼロというのではなくて、保育士の質の改善なんですよ。加配
とか処遇改善とか、あと特別支援の必要なお子さんの枠の拡大とか、こういう保育の大幅
な質的重点化ということをやっていくということです。
例えば3番にある「病児・病後児保育、障がい児保育等の拡充」というのが当時から入
れていたことだけど、8%に消費税が増税されない時代は、恒久財源はどこを掘っても何
も、一時金は出てきますよ、よく宝探しと言って一時金はどこか特会(特別会計)の一部
とか切り崩してやってもらうとかになりますが、これは恒久財源で毎年続く政策ですから、
恒久財源はやっぱり消費税を待って、ようやく今回本格的な重点化ができた。
まだできてないものに、例えば小学校期のスクールバスの導入です。賛否ありますけれ
ども、当時「いや、猪口さん、そんなこと言ったって子どもは仲良く手をつないで、近所
の人に守られて声をかけられながら登下校するので社会性が育つんだよ」と。でも、どれ
ほどそういうふうにやって、どれほどの子どもが交通事故にあったか、あるいはどれほど
犯罪に巻き込まれたか、そういうことを考えると、今はやっぱりスクールバスの導入が全
国的に必要だと思います。
私が許されたのは豪雪地帯、そういうところのスクールバスの規模をうんと拡大するこ
とができましたけど、10年待って多くの犠牲の上に、私は今これからこのスクールバスの
全国導入を説得する日がきっと来るんだろうなと思って、もうそれまでは絶対自分の職業
16
をやめられないと思っているぐらいです。
それから中学高校になると教育費の問題というのもあるじゃないですか。大体2人目を
諦めるというときに、教育費が難しいということです。そこで給付型の奨学金の公的制度
の樹立ということを目指しています。
高校まではできたんですよ、1年前の立法で。あまり大きく取り上げられてないけど。
この国には貸与の奨学金しか公的な制度としてはないんですよ。だけど、貸与だったら借
金できないですよ、学生さんたちは。ましてや高校の生徒さんたち、学校を出てすぐどう
いう就職がちゃんとあるんですか、今の時代。そこで膨大な借金を背負って高校とか大学
とかやるわけにいかないんです。ですから、給付型の奨学金の公的制度をつくらなければ、
結局は学業を経済的理由で断念する子どもをゼロにすることができないと。
私の次の理想は、とにかく待機児童がゼロになったら、今度は学業を経済的理由で断念
する子を、この国でゼロにするということです。そういう制度がない国というのは、これ
は皆さんも驚くと思うけれども、OECD(経済協力開発機構)加盟国、つまり先進国の
中で日本だけです。給付型の公的な奨学金の制度がない国ということです。
こういうことが私がさっき言ったように、無資源国が自由世界2位の経済になる中で、
やむを得ず後回しにしたことがあるでしょということなんですよ。こういうことなんです。
だけどそもそも、これだけの経済規模にならなければ、この福祉の水準だってもともと維
持できないんだからやむを得なかったとは言え、ちょっと遅きに失しての回復運転となっ
ているので一気にやりたいと思います。もうあと1、2年のうちに大学進学の時の給付型
の奨学金の公的制度の樹立もやりたいと思います。
沖縄の場合は離島もあり、また高校に行くだけでもう親と離れなければならないところ
があり、そういうところにとってはものすごい重点給付が必要なんです。それは一括交付
金と言いまして、ソフトの交付金で去年で800億、今年で900億ぐらいの予算要求をしてま
して、そういうところからぜひ学業を経済的理由で断念する子どもはゼロにしていただき
たいというのが私の願いです。
それは大学教授の出身として、多くの学生がそうやって退学届を届けに来たことを見て
いますから。どういうふうに自分の給与を返上しようと、救えるのは1人、2人の生徒で
あって、何万という生徒を救うことは公的な制度をつくらなければできず、そのために国
の仕事をするところに自分はいると思っていますので、国の制度をやって全ての子どもを
救済していきたいと思っています。
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(資料1 P5)
ここを見ると新しい少子化対策というのがありまして、そこからいろんなものがステム
(stem)しているんです。だから初代の大臣をやったときに、もうあらゆる集中砲火も浴
びながら、しかしこれだけをセットで認めない限りはこの国の少子化を食いとめることは
できないと言って、いろいろと総合的なものを示して、あとはちょっと部分的にしかなさ
れなかった時代もありますけれども、最後のところで子ども・子育て支援新制度というも
のの施行ですね。これは途中に3党合意というのがあって、自民党、公明党、民主党での、
これを施行するかつ消費増税分をこの費用に充てるということに合意できたので、こうい
う流れをつくることができました。
(資料1 P6)
それでは、その子ども・子育て支援新制度のポイントですけれども、平成24年8月に3
党合意ができていまして、その中で総合的に子育てを推進ということです。この総合性と
いうのが初めて入ったんです。2005年から言っていたんだけど、何となく単発の政策を次々
やるというやり方です。
それで消費税の引き上げによる7,000億円を確保すると。さらに追加の恒久財源も確保す
ると。つまり本当にこれを全部やろうとすると1兆円ぐらい必要なので、ということです。
それでそこの文章にあるように、質、量、両方の拡充を図るということです。それで2015
年、平成27年の4月から施行しまして、平成29年ですから完成年度が2年後でございます
けれども、その過渡期があります。その過渡期においてはいろいろな工夫が、細工がされ
ますけれども、基本的には2、3年のうちに制度としては完成して、巡航速度に入ってい
くということです。
小さな備考ですけれども、消費増税が今8%で、さらに予定した増収分をさらに上回っ
た場合、それも全部少子化に使うという、この合意を取りつけつつあるということです。
保育緊急確保事業というのは、今実施している過渡期の保育のまず待機児童ゼロなどに充
てる予算のことであります。
(資料1 P7)
そして、この子ども・子育て関連3法の構造なんですけれども、これはまず1つの大き
な改革がありまして、今までは幼稚園は文科省、それから厚労省のほうは保育園という予
算の流れが2系統があったのですけれども、それを内閣府に一元化することができまして、
今この子ども・子育て関連の予算は全部内閣府から来ます。
18
それで同時に施設型給付が一本化されて、あちこち行く必要のない給付となっていて、
いろんなパターンがあり得るというメニュー方式になっています。1つはその幼稚園のま
ま、ちょっとでっぱりがありますのは普通の幼稚園のままで、この支援制度に入らず私学
助成金を私立の場合は受けながらやるという、そういう幼稚園のパターンというのを許容
できる制度になっています。この新制度の中に入って幼稚園をそのまま運営する場合には、
放課後の預かり、これが国庫から給付されます。幼稚園が今も午後の預かり保育をやって
いるのは自治体の給付によるものであって、その自治体がそれをやめたと言ったときには
非常に不安定になりますが、これは国の恒久制度となりますので、この制度に移行して幼
稚園も放課後の保育の部分、それについては国庫からの給付を受けられる構造になります。
今度は保育園のほうは、午前中に幼児教育の部分を組み込まなければなりませんけれど
も、これについての国庫の給付が出ます。それも今既に幼児教育もうちはやっているとい
う保育園もありますけれども、それについての助成金は恐らく市町村か県が出していると
いう構造になっていると思いますが、国が保障すると。ただ既に上乗せして出している市
町村については、その上乗せ分を続けるようにというのが私の願いであります。
なぜかというと、この機会に例えば首長がその約束はしたけれども、やたら金がかかる
プロジェクトだなということで、じゃあ国がやるんだったら手を引いてしまおうとなると、
実際に国としては、上乗せしている先見性のある市町村の金額よりは低くなる場合があり
ますので、そうすると事業者としては、かえって国が動いてくれたために自分の取り分が
少なくなったという批判を国に寄せることになってしまうんですね。でも先んじてやった
ところは、その矜持を持って、国がナショナル・ミニマム(national minimum)で推進す
るときに、その勢いの陰で手を引かないでほしいというのが願いです。
いずれにしても、国は幼稚園の放課後の預かり、保育園の幼児教育部分、そういうこと
について全ての子どもはその両方の恩恵を受ける必要があるということで、補助していく
ことになります。
認定こども園の場合は、もともとの制度設計がそうですから、全部国から出るというこ
とになります。
それから地域型の保育給付というのは、地域の19人以下の保育園とか、そういうのはな
かなか認可も出ず、それでガイドラインも国はお金を出さなければ強い規制をかけられな
いんです。そうすると、そういうところで事故なんかも多かったりしますので、今後はそ
こを助成するかわりに、ガイドラインを非常に厳しく適用するというやり方になってきま
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すので、その小規模保育も国の管轄の中に入る。
それから家庭的保育といって、保育ママ、自分の家の一室をきちんと管理しながら保育
園と連携して、そこで2、3人預かる。こういうのも給付が出ることになり、かつその監
督権を国は自治体を通じて持つという形になってきます。こういう制度的な見直しがあり
ます。
ただ、今いくつか自分の幼稚園がこの制度に入ると減額になるので、そういう認定を受
けたくないという動きがあると報道で出ているんですけれども、これについては3つのタ
イプの誤解があります。まず1つは計算違いということで、これが9割ですから。この制
度がいろいろ複雑ですので、やはり給付ですから、お金にかかることでいろんな加算がつ
いたりもしますので、ちゃんと計算すると増額になっているという場合がほとんどです。
それから、いやどうしても減額になるというときは、今説明したように自治体がこれを
機にひっそりと手を引いちゃうということで、そうするといつの間にか国から出ているの
は非常に増額になっているんだけど、自治体の上乗せ部分の手を引いているから事業者に
とってはかえって給付部分が少なくなっていると。お金に色がついていないので、これは
国からです。これは自治体からです。自治体のがゼロになっているんですよという説明と
いうのはあんまり、その事業者にとっては意味がないことになるので、こういうことがな
いように自治体に手を引かないでくださいというお願いです。
それから3番目としては、これは何かの問題があったかもしれないということで、それ
は小さな制度設計の見直しもやっています。ただ、要求としては、例えば認定こども園に
なりますと、今までは例えばある事業者が幼稚園を経営している、保育園も経営している
という場合に園長が2人います。認定こども園にそこを統合しますというときに園長が1
人になるから、国から出る園長の給与分というのが1人分になってしまうので減額になる
と。こういうクレームを受けて、まあ、それはしょうがないじゃないかと思うんだけど、
まあしょうがないので本当に、でもそのクレームについてはいろいろ考えて、過渡期でそ
こにも苦労がおありだったんだろうと思って、
一定程度妥協していく方策を今考え中です。
ですから、国で制度をやるというのはすごい大変で、いろんなことが起きます。で、ま
た修正もしていきます。
(資料1 P8)
人口減少の中で大都市の問題、またそうでもないところの問題、新制度でどういうふう
に小規模保育とか地域に応じたいろんな対策ができるか、まとめてここに書いてあります。
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皆さんにコピーを渡しています。
(資料1 P9)
先ほど見たこの表です。まず量的なもの、この待機児童をゼロにするという、これは10
年前からの大公約ですから貫徹しなければならず、4,000億が毎年終わるまで投入されます。
質的な改善としては、そこに列挙されているようなもので、
例えば保育園では配置改善、
加配ということ、これによって保育士はどれほどよりよい保育ができるようになるかとい
うことなんですね。例えば今1歳児、1歳の子というのはもう大変ですよ。そこら中ちょ
ろちょろ、
ちょろちょろですね。それでいろんな初期の指導をしなければならないからね。
これは6人で1人の保育士が面倒を見ているんだけど、これを5人にすると。もうこれだ
けでも相当な改善だと現場は言いました。それから、3歳児になると20人を見ているわけ
ですから、これを15人。もう4、5歳児になると、普通の小学校と一緒で30人学級をやっ
ていたんだけど、さすがにないだろうということで25人対1にすると。
それから、初めて抜本的な給与のレベルアップをやりまして、8%の消費税だと3%上
げられます。10%までいくと5%上げられますというような、その水準を示しています。
あと下にいきますと、放課後児童クラブや一時預かり事業、そのようなことの充実とい
うのは、先ほどの放課後子どもプランの総合性の中に入ってくる内容です。
それから、社会的養護の必要性。それは乳児院であり、児童養護施設であり、あるいは
一般学級の中の特別支援の枠であり、いろいろなパターンがありますけれども、初めて抜
本的に大幅の手当ができることになります。その場合は職員、保育士、あるいは教諭の加
配が鍵となりますけれども、その給与もみんな国からの給付が可能となるというのが、今
回の抜本的税制改革で可能となっていることでありますので、これをやり遂げたいと思っ
ております。
(資料1 P10)
これは今のようなことに至るまでの根拠文書をまとめてあります。国は文書主義ですか
ら、やはりこういう文言で書いた内容を政府決定、閣議決定して効力が発生し、そして予
算配分がされるということで、いつどこで気を抜いてもうまくいかなくなるので、文書は
目を皿にして少子化対策充当が入っているかというのは、ことごとく見るということです。
みんなが気がつかなくても、私は必ず見ると、自分の地位がどうであれ見るということ
ですね。3党合意のときも、最初は社会保障費に充てると、そう書いてあったんですね。
社会保障費に充てるといって、少子化を入れてくださいと言ったんですよ。そうしたら「猪
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口さん何言ってんの。少子化対策というのは社会保障費に入るでしょ」と言われたんです
よ。だけどね、そんなこと言われたって本当にそうかどうかわからないじゃないですか。
入ると思う人もいるし、いやいやそれは社会保障といったら年金、医療、介護だけだと思
う人もいるかもしれないし、社会保障と少子化対策に充てると書いてくださいよと、もう
何度もやり取りをしました。
だけど、私は政策というのは一種のジャングルにおけるヒョウの敏捷さを持たなければ
だめなんですよ。だだーっと見て、この文言が入っていない。この文言が入っていないと
いうことは、今後の全ての予算の根拠を失う文書であると。この文言を入れければだめだ
と。そういう戦いを、誰かが常にその敏捷さを持って、いつもはどっとしているんですけ
ど、そういうときだけばっと行くというのが政策のジャングルの中の仕事です。それでこ
とごとくこういうふうに文書を入れ込んで、これが根拠規定となって予算付け、増収があ
ったときには税をそれに充てるという議論が可能になると。
(資料1 P11)
それで先ほどから私が説明している、この国をよくする究極の方法、それは3世代同居
でおじいちゃん、おばあちゃんから知恵の伝承がきちっとあればいいですけれども、それ
もままならない時代、放課後子どもプランだろうと思っています。
小学校に行って、自分の子どもじゃなくても教えてあげてくださいよということですよ。
才能のある親はたくさんいます。ソプラノ歌手になりたかったお母さんは歌を教えに行っ
てくれたらいいと思います。バレエができたお姉さんもバレエを習いたいという子に教え
に行って、私はもし機会があったら英語を教えに行ってあげたいと思います。英語がすご
く上手なんですね。
そういう人がどんどん自分の身近な小学校に教えに行って、それで地域に生まれた子は、
もう自分の子どもかどうかよりも、世界に63億も人間がいる中生まれたんだから、その地
域の大人が必ず君は大丈夫にしてやるというふうに、初期の大きな知的な刺激、才能を開
花させるといいと思います。
(資料1 P12)
こういうことを考える一番いいのは本当に沖縄であって、沖縄県は全国に先駆けてすぐ
れた制度、傾向を持っていたんですけれども、最近人口減少だと聞きまして、それはどう
するのかなと。
今回、非常に立派な人口増加のための計画というのをつくられまして、その抜粋が皆さ
22
んのキットの中にも入っています。
ここに人口減少につながる要因として、こちら側に書いてあります。やっぱり合計特殊
出生率の低下で未婚化、晩婚化ということがありますけれども、なかなか「産めよ、ふや
せよ」のことになったらいけないと、冒頭に言ったとおりなので、そうならないでどうい
う数値を考えるかというと、許されるのはたった1つの数値です。それは希望と現実の乖
離、その人が3人子どもがほしいといって、1人しか持てなかったときに乖離は2です。
これをゼロにするというのが、国がその人を最大多数の最大幸福のためにやるべきことで、
人口を維持するためには、結婚した夫婦は3人は産まなければ困るんだみたいなことは、
軽々に発信すべきじゃないというのは私の個人的な意見です。やはり乖離、希望と現実の
乖離、そこは埋めていくのが政策というものでしょということです。
沖縄の場合は、2025年オリンピックが終わってしばらくするとピークで、その後減少に
転じると想定されるんだからすごいんですよ。国はもう減少がだあっと始まってからよう
やくこうやって動いたんですね。沖縄は想定されたらもう今動いていて、8年間用の人口
増加計画というのもつくって、さらに展望を練っていると。
(資料1 P13)
これはご覧のとおり、赤いところが増加傾向があり、青いところが減少傾向があると
いうことで、やっぱり北部振興など遅れていると、やっぱりそこの人口減少というのは
進んでいると。地域ごとの特性を十分に生かした少子化対策を、さらなる過疎地につい
ても、あるいは離島をご覧いただければ赤いところがほとんどゼロですから、こういう
問題が特性としてあります。
(資料1 P14)
先ほど謝花さんの話にあったように、沖縄が目指す、安心して、結婚、出産。希望どお
りのことがかなうようにということです。やっぱり夢をみんなでかなえる。これが共同体
の使命ですから、そういうことを願っているので、何とか日本人口がこうだとかというよ
りも、夢のかなう社会というのを、最も人間の根本である安心した結婚とか、出産とか、
子育てという部分で実現していくということで、あと世界に開かれた活力、海外からもイ
ンバウンドの観光客を含め、いろいろなサービスを提供する人を含め、多様性との出会い
の中でさらなるイノベーションも起きるだろうと。
で、バランスのとれた離島、過疎、特別の配慮、そういうところで生まれる子どもです。
子どもは弱者ですから、離島で子どもかつ女児であれば、弱者の弱者の弱者というふうに
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なってしまうので、そういうところに最も重点的なヘルプを展開したらよろしいという指
摘です。
(資料1P15)
そして、ここにはたくさんのことが書いてありますけれども、沖縄の施策の表明です。
例えばワーク・ライフ・バランス、女性の活躍推進。これは今の内閣で一生懸命言ってい
るのを先取りしています。
それから健康長寿なので、その維持を男性人口も含めてできることが重要で、実際には
どんどん減ってきている、健康長寿が少なくなっているというふうな統計もあります。
それから、Uターン、Jターン、Iターン、これは雇用を生み出さなければ定住できな
いという大きな問題です。
(資料1P16)
こういう問題を解決すると理想的な展開として、人口がこういうふうに200万人のところ
まで、むしろ人口減少を食いとめるというのではなくて、このすばらしく、暮らしやすい、
すてきな沖縄県、ここに多くの人がまた幸せに暮らす。そういうことを展望して、この21
世紀初頭の政策を展開する。こういうことを考えていらっしゃいます。
(資料1P17)
では最後ですね。こうして今カバーした内容をまとめると、一体知識とは何かでローカ
ル・ノレッジ(Local knowledge)、現場の苦労ですね。そこから生まれる知識、これに対
応して問題解決できる政策をやる。それから苦労している人、アフェックテッド・パーソ
ンズ(Affected persons)、あるいはパートナーズ(partners)、その人たちの声を大事に
して政策をつくる。その人たちには声を上げてほしいということですけれども、直接上げ
られないときには隣の人が上げてあげるというやり方も有効というということです。
さらに、日本女性はもっと前に一歩出なければだめだと。私はよく3つの「ひ」という
のを言って、大体私の話を聞くと最後この3つの「ひ」だけを覚えていたという人がたく
さんいるんですけれども、まず、ひるんではだめです。隣の人が抜擢されたときにひがん
ではいけません。それから後ろの人の足を引っ張ってはいけません。やっぱりこの3つの
「ひ」ということで、みんなで社会的な進出をしていくんだけれども、そこがまた厳しい
競争の場であると、そこであんまり場数を踏んでない人は、こういうことから、そのグル
ープ全体がうまくいかなくなるということです。だから女性を起用しようとすると、女性
全員でこういうことをやっていると、だから女性はだめなんだということを言われてしま
24
うということですね。あるいは、いろんなグループでそういうことが起こり得るので、日
本女性の場合は特に気をつけたらいいと思います。
一番最後に書いたのはどういうことかというと、ジェリアトリック・ピース(Geriatric
Peace)というんですけれども、これは理論として国際政治学にあるんですけれど、高齢化
すると、今少子化の話をしましたが、その裏表が高齢化社会です。高齢化社会になります
と、ものすごく平和な社会になる可能性があるという話なんですよ。これはどういうこと
かというと、民主主義で高齢化すると社会保障費が相当程度伸びることになるので、昔だ
と民需か軍需かの理論でバター・オア・ガン(butter or gun)と言われたんですね。民需
を抑制して軍需をつくるという、そういうことの正当性を主張する場合もあり得たという
ことです。
ところが、民主主義社会で高齢化すると、もうバター・オア・ガン(butter or gun)で
はなくて、メディスン・オア・ガン(medicine or gun)になるわけです。高齢者の医療を
犠牲にして軍拡をしますかということになるわけです。そうすると多くの社会が民主主義
であれば高齢者を切り捨てにしないということです。つまりメディカル(medical)、メデ
ィスン(medicine)、グローバル・ヘルス(Global health)とか、そういうことを重視し
ながら、やはり軍需費、国防費、安全保障費については一定の抑制がかかると。
民主主義国同士で戦争を実はしたことがないので、近代になって。今度はそのジェリア
トリック・ピース(Geriatric Peace)というのが民主主義国間での高齢化の中では、高齢
化自体が非常に大きな社会的な課題をもたらしますけれども、他方で国際政治はそういう
社会的な課題を抱えるこれからの人間社会、そこで戦いはあり得ないという流れをつくら
なければならない。これがジェリアトリック・ピース(Geriatric Peace)で、高齢社会不
戦構造というもので、いまだ仮説の理論ですけれども、こういう会話を締めくくるのにひ
とつ展望する考えであるということをお伝えして、いろいろとお話しましたけれども、私
の話はここまでといたしまして、またパネルの中で深めてまいりたいと思います。
いずれにしても沖縄の先駆的な取り組み、また真摯な努力ですね。非常にすばらしいも
のですから、全国に先駆けてやっていますので、また国としても3,000億の沖縄振興のため
の予算を毎年組んで重点化して、沖縄の発展を願っていますので、やはり沖縄の振興発展
は日本全体の希望であって、また国益であって、ぜひ推進し、その中核に少子化対策があ
ったらいいなというのが私の希望でございますので、いつでもまたご連絡ください。最初
のパワーポイントのページに私の連絡先も書いてありますので、よろしくお願いします。
25
以上です。
(拍
手)
司会(西向氏)
猪口様、少子化に関しての素晴らしい講演、ありがとうございました。今一度大きな拍
手をお願いいたします。ありがとうございました。
この後はパネルディスカッションになりますが、ステージの準備がありますので、今し
ばらくお待ちください。
26
3
パネルディスカッション
司会(西向氏)
お待たせいたしました。これよりパネルディスカッションを始めたいと思います。
パネリスト、コーディネーターをご紹介いたしましょう。皆様、拍手でお迎えください
ませ。
まずは、社会医療法人仁愛会浦添総合病院職員サポートセンター長、田中桂子様です。
続きまして、座間味村長、宮里哲様です。
医療法人あけぼの会理事長、大浜悦子様です。
特定非営利活動法人こども家庭リソースセンター沖縄理事長、與座初美様です。
そして先ほど基調講演をしていただきました元少子化・男女共同参画担当大臣、猪口邦
子様にはコメンテーターとしてご参加いただきます。
そしてコーディネーターを務めていただくのは、沖縄国際大学教授、富川盛武様です。
そして私、西向幸三もパネリストとして参加させていただきます。
テーマは、「沖縄らしい優しい社会の実現に向けた多面的な取り組みについて」です。
それでは、ここからは富川様にバトンタッチしたいと思います。よろしくお願いいたし
ます。
コーディネーター(富川氏)
コーディネーターを仰せつかっております富川と申します。よろしくお願いいたしま
す。
きょうのテーマは、もともとは沖縄の人口増加計画ということでありまして、それをも
うちょっと柔らかく書いてあるのが「沖縄らしい優しい社会の実現に向けた多面的な取り
組みについて」というテーマになっております。基本的には先ほど猪口先生に、政府が今、
人口増加に対してどういう政策をとっているか。とりわけ少子化対策・男女共同参画計画
等々、非常につぶさにご説明を賜りました。非常に高尚な話もあったのですが、このシン
ポジウムのテーマを確認しながら次のパネルディスカッションに移っていきたいと思いま
す。その前段としまして、いま一度、このシンポジウムのテーマを簡単にご紹介してから
ディスカッションに移っていきたいと思います。絵を見ながらということでよろしくお願
いします。
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(資料2 P1)
まず、全国的には人口は減っているわけですが、沖縄県は今、増えております。しかし、
国立社会保障・人口問題研究所のシミュレーションによると、当初は2025年に概ね140万人
ぐらいになって、あとは減少という予測があったのですが、これのLTES(長期経済統計)の
バージョンによると、2020年に沖縄の人口はピークに達するというリポートが出ておりま
す。ただし、これは5年刻みですので、1年刻みに直すと多分に2020年から2022~2023年
ごろにピークに達するということが予測されているわけでございます。これが沖縄の大前
提です。
(資料2 P2)
他方、言うまでもないことですが、世界の人口はどうなっているかといいますと、これ
は将来の予測も含めていくと、
もう将来的には1,000億人ぐらいになるというふうに言われ
ておりまして、どんどん増大をしております。その中で、この世界の人口を押し上げてい
るのがアジアの人口増加、そしてそれをもう少し下支えしていくのがアフリカの人口増加
です。先進国はおしなべて全部伸び悩み、横ばい、もしくは低下です。とりわけ日本はも
う既に人口減少の局面に達しているということでございます。
(資料2 P3)
これが日本の人口増加で、2007年、もしくは2008年ごろにピークに達して、どんどん減
少の一途をたどっております。それに対して政府が踏ん張ってやっていることが、先ほど
猪口先生がご説明なさった政策になるわけでございます。人口が減少するということの意
味は、実は厳しい現実があるわけですが、それについてちょっとご説明したいと思います。
いろんな分け方がありますが、簡単にいいますと、マーケットが縮小する。日本の国内
でマーケットが将来縮小するということは、国内に依存してはなかなかやっていけないの
で、外に向けて対応するしかない。多くの企業がアジアとかにどんどん打って出ておりま
す。それから供給の面ですね。つまり労働人口が減少していく。これはいずれ労働力の輸
入、つまり移民とかそういうことも含めて検討しなければいけない。あるいは労働力が減
少するということは、潜在成長力、成長力が減退していくという、とても厳しい局面を持
っております。
それから、特に今日のテーマであります地方への影響がどうなるかということは、最近、
メディアでもいろんなところで取り上げられておりますが、特に沖縄県は言うまでもなく
島嶼社会、つまり島の社会ですが、特に島々でコミュニティが消えるかもしれない。ある
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いは伝統文化が継承できないかもしれないという危機に瀕しております。それからもちろ
ん地方公共団体の税収が減っていく、財政の悪化とか、それから高齢化と、特に若い人が、
離島は言うまでもなく、宮里座間味村長によると「15の春」と言うらしいのですが、高校
のない離島が多いですから、高校の進学をきっかけに出ていって戻らない。戻りたくても
戻れないという現状があります。これは結局、地方の消滅ということで、最近、メディア
では極点社会とか、地方消滅とか、いろんな言葉で、前の増田元総務大臣等々が日本創生
会議で非常に警鐘を鳴らしておりますが、そういうことが今、起こってきているわけでご
ざいます。社会インフラ、学校の統廃合、医療施設、公民館の空洞化、最近はスマートシ
ティといいまして、こういうふうに空洞化するのであれば、都市にいろんな機能を集中し
てやっていこうというという考えもあるわけですが、これは逆に人口減少の二極分解、格
差を生み出すというジレンマもあるように思います。
それから、よく言われる鉄軌道の縮小、廃止、バス路線の廃止等々、非常に社会に大き
な影響を及ぼしていきます。あとはいろんな文献によると、こういう人口が減っていくと
イノベーションも減退していくという指摘もされております。
(資料2 P4)
これは簡単にさっき言ったことを大きくまとめた国の研究機関であるNIRA(総合研
究開発機構)のほうで従前に、2008年に既にそういうリポートが出ておりますが、そこに図
が書いてありますが、細かい説明は抜きにして、いずれにしても人口減少というのは社会
経済、文化にまでも非常に大きな影響を及ぼしていくんだということをご理解していただ
ければ結構かと思います。
(資料2 P5)
具体的に沖縄県はどうなるかというと、さっき申し上げたように、2022~2023年ごろに
ピークにいくわけですが、もう既に沖縄全体が均等的に減るのではなくて、既にもう減っ
ている地域と離島、それから北部とか、そういうところは減少がどんどん始まっておりま
す。マクロ的に言いますと、沖縄県の主要産業はほとんど域内依存型の産業です。具体的
に言いますと、銀行、金融機関、それから電力、流通産業、そういうものはほとんどが域
内の産業に依存しております。ですから、多くのメディアの企業売上番付とか、そういう
ものに載るベストテンの企業あたりはほとんど域内に依存しています。ということは、全
国も大変ですが、沖縄にとって人口減少が始まるということは非常に厳しい状況になって
いきます。
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それから、さっきも申し上げたのですが、文化とか防犯とか消防とかインフラとか、そ
ういうところも極めて厳しくなる。ただ、沖縄でひとつ光があるのは観光です。統計上は
移出・輸出の項目にされていますので、観光が増えていくと外からお金が入ってきますの
で、そういう観光産業の振興によって雇用機会が増えるとか、ひとつのこれから検討すべ
き少子化の中で産業としてとらえて展開すべき項目かと思っております。ことほどさよう
に人口減少の対策が必要であると、先ほど猪口先生が日本政府の取組について詳しくご説
明なさいました。
それから、沖縄県の人口増加計画、これは猪口先生もおっしゃったんですが、私も人口
が減る前に、事前にそういう対策をとったということは非常に英断だと思っております。
それからさっき言ったようにいろんなシンクタンクとかそういう議論がどんどん広がって
いるというのが現状でございます。
これがきょうの議論する前提でございまして、そこから先ほど猪口先生の政策と、それ
から特にきょうの話は、現場のほうでどういうことが起こっているのかということについ
て、それぞれお話をいただきたいと思います。
まず最初に、田中さんのほうからお願いしたいのですが、医療関係で仕事をなさってお
りますが、この少子化や、まだ先のことになるかもしれないのですが、現場のほうで危機
感とか、あるいは実態についてお話ししていただければと思います。
パネリスト(田中氏)
皆さんこんにちは。私は、社会医療法人仁愛会浦添総合病院職員サポートセンターの田
中桂子と申します。本日は、企業の雇用の視点から、その現状と課題について報告したい
と思います。
まずは、私が所属しております職員サポートセンターの開設のきっかけについて説明し
ます。当法人は、地域医療支援病院、救命救急センター、へき地医療拠点病院等の法人の
役割を担い、365日24時間体制の労働環境です。急性期病院という役割上、毎日が緊張と慌
ただしい日々という状況で、職員が仕事と生活のバランス、いわゆるワーク・ライフ・バ
ランスをどう図るかというのが常に大きな課題でした。職員一人一人が専門性と個性を発
揮し、自分らしい働き方ができるような職場環境にしていくこと、そうすることが企業と
しては雇用の安定化につながり、結果として病院を利用している皆さんに安心で安全な医
療が提供できるのではないかなと常々考えております。
そういう状況の中で、病院利用者を支える職員を企業としてどう支えるか。職員が働き
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やすい職場環境をどう整えるかという課題に対する1つの方法として、職員サポートセン
ターを設立しました。スタッフは、保健師、看護師、県内ではまだ少ないのですがヘルス
キーパーとしてあん摩マッサージ師を採用しております。職員サポートセンターの取組は、
まず職員から寄せられるさまざまな相談への対応、メンタル面でのサポート、求職者の職
場復帰の支援、職員の健康管理、ヘルスキーパーは職員に対してあん摩マッサージの施術
を無料で行っています。そういう多面的な職員のサポートを行っています。1日に平均して
相談者3~4人、あん摩マッサージは5~6人の利用者がおります。
次に、当法人の特徴について説明します。今、全職員で1,200名を超えました。そのうち
男性が約30%、女性が約70%弱ということになります。その女性の中で、20代、30代の職
員が約60%を占めており、若い女性が多く働く職場ということになります。その多くは看
護職です。当然、結婚、妊娠という職員のイベントも多く、5年前までは妊娠・出産に伴
う離職も多い状況でした。職員が安心して働けるために、20代、30代の子育て世代への支
援が重要という企業としての課題が浮かび上がり、そのことが院内保育所の設置につなが
りました。また、地域の中での役割として、小児デイケアの開設の必要性も高まり設置に
至っています。その結果については、また後ほど報告したいと思います。以上です。
コーディネーター(富川氏)
ありがとうございました。
引き続きまして、離島の村であります座間味村の宮里村長から同じように離島における
現状とか厳しいことがあるかと思いますが、ご説明をお願いいたします。
パネリスト(宮里氏)
座間味村長の宮里でございます。きょうは離島という立場、あるいは行政の長という
立場でいろいろと話ができればと思っておりますのでよろしくお願いいたします。
私たちの座間味村は、ご存じの方も多いと思いますが、沖縄本島、県都那覇市から西に
40km離れた離島の島でございまして、1島1村ではなくて、3つの有人島からなる1つの
行政区ということで、行政運営等々に関してもなかなか、あるいは財政面も含めて厳しい
ものがございますし、人口を増やすというのは非常に大きな課題と考えております。
35年ほど前の国勢調査の人口でいきますと、私たちの村は761名という人口がありました
が、これからどんどん上がってきます。これは一次産業のカツオ業から観光業に転換して
くるわけですが、それに伴って若者がどんどん入ってくるようになり、交流人口も増えて
ということだったと思いますが、前々回の国勢調査では、平成17年は1,077人というふうな
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形で相当人口は増えてきた状況がございました。
しかしながら、景気の低迷等で観光客がだんだん減りまして、平成22年には868名まで人
口が減ってきている状況がございます。これは、産業の衰退とよく関連しているのがわか
る数値もあるんですけど、今日はデータを持ってこなかったのですが。私たちの村は、平
成20年ぐらいまでは年間8万人から8万5,000人ぐらいの観光客が来る村だったんですね。
それが直近の一昨年で言いますと、6万9,000人まで観光客が落ちてくるということで、そ
れと本当に合っている状況がございます。
ちなみに、私たちの第三次産業への従事者が93%ぐらいですので、観光に特化した村で
あります。そういうことからしても、観光客が減るということは、産業が衰退していくと
いうことは人口が減ってくるということがよくわかるかなと思っておりますが、最近では
国立公園になったとか、景気もよくなってきた、円安の問題とかいろいろありまして観光
客が増加傾向にございますので、あわせていろいろな問題もあるのですが、そういうとこ
ろで人口が増えつつあるというのが現状です。
ただ、人口が減ってきたのは、実は観光だけではなくて、私たち離島にはいろいろな事
情があります。特にその次に大きいのが、先ほど話がありました「15の春」です。高校が
ない離島でございますので、高校に行くときにはお母さんがついていくんですね。私の若
いころは、30年ぐらい前ですが、子ども1人で行ってこいというような感じだったのです
が、最近では、一番上の子どもが中学を卒業するときにお母さんが一緒に出ていきます。
これはなぜかというと、子どもたちの生活が心配だということだけではなくて、沖縄本島
で高校に出すためにはアパートを借りないといけない。そういうことでお金がかかるもの
ですから、家計の足しにするために、お母さんは子どもの面倒を見ながら沖縄本島に出て
パートタイムの仕事をして家計を助けることになります。
ちなみに一般論ですが、子ども1人が高校に出ますと、アパート代を含めて月額8万円
から10万円かかるというふうに言われておりまして、そのときに下の子どもまで連れてい
くんです。ですから3人兄弟ですとお母さんを含めて4人いなくなるということで、900
名とか1,000名の人口からしますと、これが4名、5名というと大きな数になりますし、こ
れがひと家族だけではないというのが非常に大きな問題となっております。
それ以外にも人口減少の原因としてはちゃんとした福祉施設がないとか、そういうこと
も諸々ございますし、また学校の先生方も昔は家族で来ていただいたのが単身で来るとか
いろんな問題があるのですが、その問題を1つずつ克服していかないとなかなか人口が増
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加に転じないのではないかというふうに考えております。その中でまた新たな施策の中で、
各離島が、座間味村だけではないのですが、人口増加に向けて一生懸命頑張っているとこ
ろでございます。
コーディネーター(富川氏)
ありがとうございました。
引き続きまして、医療の現場からもお医者さんでもいらっしゃる大浜さんに少子化との
関連で、結婚もなかなかしない晩婚化もありますが、そういう等々についてお願いいたし
ます。
パネリスト(大浜氏)
大浜と申します。よろしくお願いいたします。
それでは、健康面からということですので、健康面からの現状と課題についてですが、
1つ目は、平均寿命の伸び悩み、2つ目に晩婚化と不妊治療の現状についてふれたいと思
います。
沖縄は昔から健康長寿の島と言われ続けてきました。子どもがたくさん生まれ、お年寄
りが元気でみんなで子育てをする。ところが最近、その健康長寿のブランドが崩れつつあ
ります。国や地域の保健福祉の水準を総合的に示す指標としてよく使われるものに平均寿
命がありますが、この平均寿命がかつては沖縄は男女ともに全国一であったものが、男性
では平成7年に4位、12年に6位、22年には30位と順位を落としてきています。女性は平
成17年までは1位をキープしていたのですが、平成22年に3位と、これもまた順位を落と
してきているわけです。
その要因は、壮年期での肝疾患、脳血管疾患、心疾患など生活習慣の影響が大きい疾病
による死亡率が高いことによると言われています。生活習慣病は、今や日本全体の課題で
もありますけれども、この沖縄は、戦後、米軍統治下にあったことなどから、いち早く食
生活の欧米化が進んできました。高カロリー、高脂肪といった極端な欧米化と、あまり野
菜をとらない、あまり運動しない県民性、それから夜型社会などが相まって、まさに生活
習慣病では日本の先端を走っているという状況にあります。高カロリー、高脂肪食、運動
不足、夜型、そういう生活を続けていると、当然、肥満となり生活習慣病となってしまう
わけです。壮年期の人々の死亡が増え、そして壮年期に死亡せずとも生活習慣病の方が年
をとると透析とか寝たきりになるわけですから、元気なお年寄りが少なくなり、子育ての
協力もできなくなるし、また現役世代の負担が増えてますます悪循環に陥るといった状況
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になるわけです。
晩婚化については、ここ沖縄県でも全国同様に晩婚化が進行しています。沖縄県では平
均初婚年齢が、男性が29.9歳、女性が28.5歳となっております。また晩婚化により子ども
を持ちたいと思いつつ、なかなか妊娠しないカップルの割合も上昇していると考えられま
す。日本生殖医学会によりますと、不妊症の人は約9%と想定されています。もちろん不
妊の原因はいろいろありますけれども、妊娠しやすさは女性の年齢により大きく変化し、
20歳前後が最も妊娠しやすいという事実があります。晩婚化が進むということは、妊娠し
がたくなるということにもつながります。
一般的に誤解されているのは、現代の医学を持ってすればさまざまな不妊治療によりい
つでも妊娠することができると安易に考えられている傾向があります。しかし、不妊治療
の治療成績を見ますと、37歳までは30%から40%の妊娠率がありますが、その後、年齢と
ともに成功率が下降して、43歳では10%程度、45歳以降ではなんと一ケタとなってしまい
ます。今、晩婚化、晩産化に対し、医学的な側面からの啓発と社会全体での社会基盤の整
備が課題であると思います。
コーディネーター(富川氏)
ありがとうございました。
引き続き、先ほどの猪口先生のお話の中に、とりわけ子育て支援というのが大きなテー
マだったかと思いますが、沖縄の現場でNPOを通じて、子育て支援にかかわっておられ
る與座さんに現状報告をお願いします。
パネリスト(與座氏)
皆さんこんにちは。丸い顔で丸い心でいつも張り切って子育て支援をしております與座
と申します。よろしくお願いいたします。
子育て支援の立場で、先ほど猪口先生のほうから、基本的なことはたくさんあって、量
的な拡充だけではなくて質の改善もというふうな報告をいただきましたので、すごく力強
く思っております。私の実際にやっている現場のことですけれども、沖縄県として見たと
きは、合計特殊出生率は全国一ですけれども、子育て支援に関しては全国で下位の状況で
はないかと考えています。
それはなぜかといいますと、待機児童の問題がよく取り上げられていますけれども、待
機児童の問題で最近相談に来た方の例としては、9カ月で職場復帰してくださいという保
育士さんがいたんですけれども、自分の子どもを預けるところがないという悩みをお話に
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なった方がいますね。自分の子どもを預けるところがないのに、保育士不足だから早めに
保育所に戻ってくださいと言われているんですが、どうしましょうという相談を受けまし
た。
それから、もう1つの例としましては、本土の方ですが、アメリカのほうで結婚して生
活していて、4歳と6歳と8歳のお子さんを連れて帰ってきたということよりも、沖縄と
いう地がすごくハートフルで、それから子育てにも大変環境もよさそうだ、それから外国
で住んだ経験があるので、本人もその経験を生かして国際的な活躍ができたり、子どもた
ちにもそういう教育を受けることができるのではないかと思って沖縄に引っ越しをしてき
ましたけれども、現実は5歳の子を入れる保育園がまだ見つからない、それから6歳の子
を小学校に入れることは入れるんですが、午後の一時預かり問題がなかなか解決できない。
学童に入れようと思ったんですが、とても高いですねというふうにおっしゃいました。
それは例えば1万5,000円とか学童の費用がかかるので、3人の子どもを育てるのにすご
く大変な状況ですねということがありました。この2つの例からするとおり、学童のほう
にもかなり問題がありまして、先ほど猪口先生の話で出てこなかった問題としましては、
5歳児問題と、沖縄県の方だったらよく聞き覚えがあると思うんですけれども、小学校に
附設している幼稚園という形が戦後すぐから始まっていますので、そのへんの問題で5歳
児が待機児童になってしまって、一時預かりという形で最近は対処するところも増えては
いますけれども、国から言われている学童というのは小学1年生からの話をしていますけ
れども、沖縄県としては幼稚園のときに逆にお仕事を辞める方が多いという現実がありま
す。
そして待機児童の問題と学童の問題と、もう1つは、仕事と育児の両立の問題の中に、
非正規の方が多いのでなかなか育児休業もなかったりという形で働いているとか、それか
ら仕事自体が見つからないということで、その問題に関しては、私のほうでやっている事
業がありますので後ほどお伝えします。
もう1つ、皆さんにお伝えしたいことの3つ目が、子どもの貧困という問題で、この貧
困はなぜ出てくるのかといいますと、母子家庭率、若年出産率がとても高いということと、
経済的な基盤がとても貧弱な状況がありますので、失業や低賃金、お母さんたちの7割、
8割が非正規労働、パート労働という形でしか働けないという現実があるので、そのへん
に少し問題があるので、子どもの貧困の中に、母子家庭が多い、未婚で出産する方も多い
とか、若年出産にも含まれていますが、そういういろんなことがありますので、そこにた
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くさんの問題を含んでいるということで、問題を3点、待機児童の問題と学童を一緒にし
まして、それから仕事と育児の両立の問題、子どもの貧困の問題という3つの視点をお話
ししました。
コーディネーター(富川氏)
ありがとうございました。大変シビアなお話ですが、後でまとめたいと思います。
引き続きまして、ご自身が子どもを育てる、最近の言葉でいいますとイクメンというん
ですか、その真っ最中におられる西向さんに実体験も含めてご説明をお願いします。
パネリスト(西向氏)
先ほど晩婚化という話がありましたが、私自身も結婚したのが33歳で、初めて子どもを
持ったのが35歳でした。私の妻はまだ若いということもあって子どもに恵まれたというこ
とがあるのですが、それまでは本当に毎日の仕事が忙しくて、自分は結婚しないんだろう
なというのはなんとなく思っていました。たまたま本当に出会いがあって伴侶を得て、そ
して子どもが生まれたと、本当に恵まれたとは思っていますけれども、今そうやって親に
なってみて子育てを楽しんでいる状況ですが、さあ親になってみるといろいろ問題はあり
ますよね。一番多いのは待機児童の問題で、特に宜野湾市は非常に待機児童の問題があっ
て、この前も2017年までに待機児童ゼロを目指すといったものが宜野湾市では実現不可能
ではないかというような報道がありました。
先ほど宮里村長からありましたが、地域によって子どもが生まれているところ、また少
ないところというのがかなり分かれてきているのかなというのは本当に思います。特に宜
野湾市などでは、子どもが生まれたら保育園、どこに預けようかというところから始まる。
これがすごく大きな問題ですよね。その中で、また認可と認可外という問題があって、や
はりできたら認可がいいよねと、でもなかなかねというのが現状で、市役所に行っていろ
いろ相談したりということをまず始めなければいけないという現状になっています。
今、ラジオ番組を通して、この沖縄県人口増加計画についていろいろとリスナーから意
見も寄せてもらっているんですけれども、その中で皆さんにたくさん寄せられるものが、
やはり何よりも子どもを育てたい、子どもをたくさん持ちたいけれども、やはりいかんせ
ん収入がねという、お給料ももらえないのに、なかなかないのに子どもって育てられない
よねと、子どもを産みたいけれども、待機児童の問題とか園の問題とかいろんなことを考
えると、なかなか先に進まないというのが非常にリスナーからのたくさんの意見です。
男女共同参画とは言っていても、現実、やはりウチナーンチュの男ってだらしないんで
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すかね。あまり子育てに参加しないという奥様方からの苦情も非常に多くて、もう少しな
んとかしてくれないかなという正直な意見もたくさん寄せられています。もう少し私たち
にフリーの時間がほしいとか、一緒に子育てに参加してほしいとか、そういった感想など
も非常にたくさん寄せられていますね。私もできる限り、家事・育児には参加しているつ
もりではあるのですが、やはり最後のところは妻に任せてしまっているという、そういう
だらしない部分もあって、今、改めてこういう場を思うんですけれども、やはり男側から
変わらないと、今の男性社会というものをもっと根底から変えていかないと何も変わらな
いのかなというのは改めて思います。
それはリスナーからも非常に多くあるのですが、例えば育児休業にしても、男性が育児
休業は本当に取れるのと、法律ではあっても現実、職場がそういう雰囲気を許してくれな
いというのはあると。そういう中で職場、それもまた男性優位と言われる職場だとまだ思
います。その中で男性側がどういうふうにして子育てとか育児に対して寛容さを持って、
そして積極的にそういう方々をサポートしていくという、それが何よりも大事なのかなと
思うと同時に、
この人口増加計画に携わるまで、
「本当にこれから沖縄の子どもは減るの?」
というのが正直なところでした。ウチナーンチュのイメージは3人以上子どもを産んでど
んどん増えているみたいなイメージがあったのですが、2025年、きょうの富川先生のお話
では、もう2020年にはという話にもなってきて、先ほど大浜先生からありましたけれども、
初めて子どもを持つ年齢もどんどん上がってきているのは、本当に知らなかった事実だな
ということで、やはりそういったことの広報、啓蒙というのも非常にこれから大事になっ
ていくのかな。もちろんこういう場でもそうですけれども、もっと一般のレベルで、そう
いう話が普通にできるような、そういう社会づくりというのは必要なのかなというふうに
は思っております。
コーディネーター(富川氏)
ありがとうございました。
現場で携わっているパネリストの方々に現状、課題についてご意見を賜りましたが、先
ほどの猪口先生が少子化対策に日夜尽力なさって、本当に奮闘なさっていることには敬意
を表するわけですが、ただいまの現場でいろんな課題がたくさん出てまいりましたが、元
大臣として、かかわっている先生として率直なご意見を賜りたいのですが。
コメンテーター(猪口氏)
本当に貴重な、ご意見だったと思います。田中さんのやっているところを、従業員が
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ハッピーでなければ、その子どもにとっても家庭にとっても何も始まらないし、男女共同
参画も何もないわけだから、基礎の基のところをきちっとサポートしていく、またそうい
うことで合意ができるということが非常に先駆的だなと思いました。
それから、宮里村長のところは本当に美しい宝のような村でいらっしゃって、人口増と
景気の影響を受けて、全てを超えてそういう地域が大事に輝くことができる、それが私の
願いだなと思うんだけど、
「15歳の春」の話はちょっと身につまされる思いで、そうやって
子どもとともに母は出て、パートで働きながら学費を稼いで、下の弟も一緒に行って、二
度と村に戻れないということなんですよね。やはり何か間違っていますよね。この国とし
て、
そこに予算が投入できないというのは何かおかしいと思いますので、
ぜひ一括交付金、
県のほうに多額のものがありますので、ぜひ座間味村で取っていただいて、しかもこんな
世界一透明度の高い海、必ず日本の宝になるし、そこに生まれ育つ子どもは、きっと世界
一透明度の高い心を持って育つのに、雑踏の中でまた故郷を離れて、お母さんだって旦那
さんと離れて、やはりディバイデットファミリーの悲しさというのがあるんじゃないかな
と思うんです。
どうしたらいいか。私、スイスで見た解決策なんですけれども、アルプスの山間地域に
子どもたちが普通に暮らすじゃないですか。あの国はとにかく国境離島じゃないですけれ
ども、国境線に住んでいる人たちは国の宝なんですね。なぜかというと、国境を越えてが
んがんと侵略されたナポレオン戦争以来の歴史があるので、そこに人が住んでいる、国際
法上の国境というのはあるんだけど、やはり人の住んでいることで国境を守れるという感
覚があるから、どういうふうにそれを宝と表現するかというと、まずその子たちは、月~
金で町の非常に立派な学校に優先的に入学なんですよ。全部宿舎が整っていて、それでス
クールバスで金曜の午後になると村に送り返されて、また月曜日の朝にピックアップなん
ですね。それで宿舎に住むんです。だから村のお母さんたちは、子どもたちがウィークデ
ーはいないけれども、週末3日は夜を一緒に過ごせるわけですから、3日間夕飯を一緒に
食べることができるということでやっておられるんですね。スイスは一番いい学校に優先
的に入れてもらえるんです。
座間味村の子は、一番いいところに、日本中、どこの学校でも優先的に入れてもらえる。
そんな時代がきっと近く来るように、優先的に考えないといけない。それで宿舎を整えて、
奨学金もあったらお母さんも弟も来なくていいし、弟だってその年齢になったら行って、
親はウィークデーはそっちで少し一緒に見てもいいけれども、子どもたちが週末は帰って
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くるから、故郷を失うことはないということです。つまり、2つの世界を越境できて、子
どもというのはすごく越境して暮らすことができるので、都市も知り、この座間味村のす
ばらしい自然を知る。
私思うに、やはり世界に学んだほうがいいよね。離島ではなくてもアルプスの山間地の
村といったら同じでしょう。500人ぐらいの村はたくさんあるんですよ。とてもおいしいレ
ストランとか民宿とか、すばらしいオーベルジュのようなホテルとかを運営しているんで
す。
ちゃんと共同体を生きているし、私たちもそういうところに楽しみに泊まりに行くし、
何かそういうことを考えましょうよと。
あと、本当に5歳のときから待機児童になってしまうとか、確かにそういう問題はあり
ますよね。それで小学校に上がって、先ほども話したことね。私がこれは本当になんとか
しなきゃならないと思った光景は、まず保育園に行っていて、それでついに卒園して小学
校に上がるじゃないですか。翌日からその子は放課後に行くところない。親は全く家にい
ないのね。その子どうすると思いますか。その子は保育園の門に放課後戻ってきちゃうん
です。そうすると、先生は入れてあげるわけですよ。何々ちゃん帰ってきたねといって。
でももう場所はない、定員もない。おやつ代は払ってないから、きっちりしかつくらない
ので、ない。でも、そこにいていいよということですよ。だからその子はロビーにいる。
ロビーにたくさん小学生がいた。おやつもなく、何もなく。でもそこは彼女たち、彼らた
ちの拠り所なんです。放課後遅くなって自分たちが帰るか親が迎えに来るかです。そのと
きに、何かしなければならないと本当に思いました。それが原動力になるんですよ。放課
後のプランで、小学校の中で普通におやつも出て、さっき言った補習教育なんかもやって
もらえるということなんだけど、今、先生がお話しになったのは、5歳のときに幼稚園に
入れない。小学校の一部の幼稚園として発達していて、そこに入れないという話ね。幼児
教育のところが受けられないという、この話ですか。
パネリスト(與座氏)
幼児教育は午前中だけ、4時間とか午前中は受けられるんですけど、沖縄の方はみん
な知っているんですが、お母さんがお仕事をしていると午後が待機児童になってしまう
という話です。
コメンテーター(猪口氏)
そういうことですね。だから今回の子ども子育て支援制度で、幼稚園が夕方までの預
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かり保育をするときに、国が国庫を投入できるという話なので、この制度に入ってくると、
そうしてくれたらとてもいいなと思います。ぜひやり抜きたいので、一つ一つ解決したい
と。
西向さんのお話はすばらしくて、本当に頑張ってやっていただきたいと思うけれども、
実際には男性の育休なんて何考えているのと言われる時代ですよね。女性の育休はようや
く、みんながやむを得ないなと思うようになって、私の友だちに3人子どもを産んだ人が
いるのですが、
「猪口さん、時代は10年で本当によくなるよ」という証明で言ってくれたん
ですよね。最初の子を妊娠したと言われたときに、ふざけんなと、何を考えているんだと、
学問と両方できると思っているのかと言われたそうです。2人目を妊娠したと言ったら、
本当に全員に迷惑なんだけどと言われたと。だけどとにかく育休は取らせてくれた。3人
目を妊娠しましたと言ったら、全員が拍手してくれたと。だからやはり認識を変えるとい
うことは可能なので、そのぐらいの時間の中で意外と早く変わるのね、日本って。だから
あと10年待てば、きっと男性が育児休業を取ると言ったら、いや、それは君は立派だと言
ってもらえる可能性もあるけれども、まあ多くの世代にとって待てない時間だと思うんで
すね。
大浜先生もすばらしいご意見で、やはり医療、産科とか婦人科とか小児科とかない場合
も多いし、あとはないということは、基本的な知識もあまり伝播しないということもあり
ますよね。どういうふうに女の子は自分の体と向き合うかとか、先生がいなかったらあん
まりそういう話題も出なくなって、そういう問題というのは静かなる深刻な問題かなと思
います。
コーディネーター(富川氏)
1回目のご発言につきましては、もう既に猪口先生にまとめていただいたのですが、た
くさんの現場の課題がここで出てきたのではないかというふうに認識しております。さっ
き申し上げた「15の春」の人口流出構造。それから晩婚化、高齢出産化、それから待機児
童等々、貧困の問題もたくさんあるわけですが、一応、県の計画は非常にすばらしいので
すが、次のステップとして、今、出た現場の声とすり合わせていって、そして国の政策と
も相乗効果を持ちながら、できればPDCAをとれるようなところまで、その政策とのす
り合わせをしていただいて、次の次元にもっていく必要があるかなというふうに思ってお
ります。今の次元では計画ですが、たくさん出た現場の声をぜひぜひ拾っていただいて、
この政策とどうかみ合うか、こぼれないかということをぜひ検討していただければという
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ふうなことを感じました。
それでは引き続きもうちょっと詰めていきたいのですが、現場のいろんな課題について
ご発言があったのですが、2巡目は、具体的に人口増加、少子化対策等々と絡んで、取組
が現場であるのかどうか。あるいはこういうふうな取組があればいいなとか、希望とか多々
あるかと思いますが、それぞれまた同じ順序でいきたいのですがお願いいたします。それ
では、田中さんのほうからお願いいたします。
パネリスト(田中氏)
先ほど若い世代が多い職場ということを話しましたけど、そういうことで法人内に院
内保育所、それから小児デイケアの設立という動きが高まり開設することができました。
約6年になります。現在、保育所は夜間や隔週の日曜日、又、夕方の時間を少し延長し
て対応しています。又、浦添市から委託を受けた小児デイケアも運営しています。
院内保育所は全職員が利用できる施設であり、特に0歳、1歳、2歳児の利用が多く、
現在50人以上が利用しています。
さまざまな理由での職員の離職はありますが、こういう施策が功を奏してか、妊娠・出
産を理由とした離職は、法人全体でほぼゼロになりました。本当にそれはうれしく思って
います。特に、乳児期から保育所に預けられること、夕方の時間に余裕があることではな
いかと考えておりますが、もう1つ、先程猪口先生がおっしゃったように、子育てをサポ
ートする職場の同僚や上司の理解が深まってきたということも大きく影響してきていると
思います。
一部署で常に3人~5人、育児休暇で休んでいる職員が部署もあり、それでもみんなで
乗り切っていこうという気運は高まってきていると感じます。現在、法人全体で55人が産
休・育休を取っています。復職した場合でも、育児短時間制度がありますので、利用して
いる職員も多く、現在23人が育児短時間制度を活用しておりました。
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