Ⅲ章 推 奨 ●推奨の概要● OVERVIEW 症状(呼吸困難)の評価・診断 ・症状の評価 ・身体所見 ・問診 (軽快因子・増悪因子の同定) ・検査所見 -動脈血ガス分析,経皮的酸素飽和度 -血液検査 -画像検査 (胸部単純X線,胸部CT) 原因に応じた対応 ○がんに対する, 外科治療, 化学療法, 放射線治療 ○呼吸器系基礎疾患 (COPDなど) ○呼吸器系合併症 (肺炎など) 関連する特定の病態に対する治療 悪性胸水 咳嗽 ● 死前喘鳴 ● ● 患者に応じた対応注) ● 酸 素 ◎低酸素血症あり ● 投与する ◎低酸素血症なし 投与してもよい ただし, 望ましい効果と望 ましくない効果を定期的 に評価すること 非薬物療法 オピオイド モルヒネ (全身投与) 投与してもよい ● モルヒネ以外 コデイン 投与してもよい ただし, モルヒネとの併用は しない 合併する症状, 病態により 投与するもの ● コルチコステロイド 投与してもよい ただし, がん性リンパ管症, 上大静脈症候群, 気管狭 窄, 気管支攣縮, 化学療 法・放射線治療による肺 障害のある患者 ● ● ベンゾジアゼピン系薬 ◎モルヒネと併用 投与してもよい ただし,モルヒネが無効の 患者は専門家に相談。 眠気,呼吸抑制に注意 ベンゾジアゼピン系薬 投与してもよい ただし, 不安の合併のある 患者。眠気に注意 治療抵抗性 鎮 静 注:それぞれの施設で,リソースに応じて提供可能な非薬物療法を実施する。 44 看護ケア 呼吸リハビリテーション ● 精神療法 ● リラクセーション ● 補完代替医療 ● ● 推奨の概要 1 呼吸困難の評価・診断と原因・病態に応じた対応 1)呼吸困難の評価・診断 呼吸困難の症状を訴える患者には,まず身体所見を確認し,症状の評価を行う。 また問診で,軽快因子,増悪因子を患者,家族に尋ねて同定する。さらに必要に応 じて,動脈血ガス分析や経皮的酸素飽和度,血液検査,画像検査を行い,呼吸困難 Ⅲ章 推 奨 の原因となりうる病態を総合的に診断する。 2)原因・病態に応じた対応 治療はまず,呼吸困難の原因に応じた対応を行う。最初に,がんに対する外科治 療,化学療法,放射線治療の適応を集学的に検討する。また,慢性閉塞性肺疾患 (chronic obstructive pulmonary disease;COPD)などの呼吸器の疾患,肺炎など の呼吸器合併症に対する治療も検討する。基礎疾患,合併症の治療に応じて専門家 に相談し,呼吸困難の原因が悪性胸水,咳嗽,死前喘鳴など特定の病態であれば, その病態に応じた治療を行う(P70,Ⅳ章‒1 特定の病態に対する治療参照)。 2 呼吸困難に対する治療 1)酸素,オピオイドの全身投与 呼吸困難の原因に応じた対応と,関連する特定の病態に応じた対応を行ったうえ で,症状がある場合には,酸素,オピオイドの全身投与を検討する。酸素は,低酸 素血症がある場合には投与する( 「行う」 ,強い推奨) 。低酸素血症がない場合には, 投与してもよい( 「行う」 ,弱い推奨) 。酸素投与を開始後は,望ましい効果と望まし くない効果を定期的に評価することが必要である(P47,臨床疑問 1,2 酸素療法参照)。 オピオイドの全身投与はモルヒネを開始,または痛みに対してモルヒネがすでに 投与されている場合はモルヒネを増量してもよい( 「行う」,弱い推奨)。また,コデ インを投与してもよい( 「行う」 ,弱い推奨) 。しかし,モルヒネとコデインは薬理作 用が類似するため併用しない。痛みに対してオキシコドン,フェンタニルなどモル ヒネ以外のオピオイドがすでに投与されており,かつモルヒネの投与が困難な場合 には,専門家と相談したうえで投与中のオピオイドを増量するか,モルヒネを併用 することを検討する(P52,臨床疑問 3 モルヒネの全身投与,P57,臨床疑問 5~7 モルヒネ以 外のオピオイド参照) 。 急性の呼吸不全を伴う患者,意識障害や認知機能障害がある患者,死期が迫って いると考えられる患者に対してモルヒネが有効かつ安全であるかは,現時点では結 論できない。さらに,どのような病態,病因の患者にモルヒネの全身投与が呼吸困 難を緩和させるのかは,まだ結論が出ていない。したがって,モルヒネ投与開始後 の副作用発現に関して慎重かつ定期的に観察することが必要である。一方,比較的 予後が期待できる患者に対しては,呼吸困難の原因に応じた対応,関連する特定の 病態に対する治療をまず検討する。しかし,それらの治療を行ってもなお呼吸困難 45 Ⅲ章 推 奨 を訴える患者に対しては,モルヒネの全身投与を慎重に開始する。 2)コルチコステロイドの投与 原因・病態が,がん性リンパ管症,上大静脈症候群,気管狭窄,気管支攣縮,化 学療法・放射線治療による肺障害の場合は,コルチコステロイドを投与してもよい ( 「行う」 ,弱い推奨)(P61,臨床疑問 8 コルチコステロイド参照)。 3)ベンゾジアゼピン系薬の投与 不安を合併する,呼吸困難を訴える患者には,ベンゾジアゼピン系薬を単独で投 与してもよい( 「行う」 ,弱い推奨)。しかし,副作用である眠気には注意することが 必要である。さらに,がん患者の呼吸困難に対してモルヒネを投与しても十分に緩 和されていない場合,専門家に相談のうえベンゾジアゼピン系薬をモルヒネに追加 併用してもよい( 「行う」 ,弱い推奨)(P63,臨床疑問 9,10 ベンゾジアゼピン系薬参照)。 4)モルヒネ吸入,フロセミド吸入 モルヒネ吸入やフロセミド吸入は,プラセボに比較して副作用はないが,呼吸困 難を緩和させる明確な根拠はないことから,行わないほうがよいだろう(「行わな い」 ,弱い推奨)(P54,臨床疑問 4 モルヒネ吸入,P67,臨床疑問 11 フロセミド吸入参照)。 5)患者に応じた対応,非薬物療法 酸素療法,薬物療法とあわせて,患者の病態や好みに応じて,非薬物療法を検討 する。患者の症状評価,軽快因子,増悪因子,好み,全身状態,予後の見通しを総 合的に判断し,看護ケア,呼吸リハビリテーション,精神療法,リラクセーション, 補完代替医療から,それぞれの施設のリソースに応じて提供可能な非薬物療法の実 施を検討する(P82,Ⅳ章‒2 非薬物療法参照)。 6)治療抵抗性の呼吸困難への対応 ①すべての治療が無効である,あるいは,②患者の希望と全身状態から考えて, 予測される生命予後までに有効で,かつ,合併症の危険性と侵襲を許容できる治療 手段がないと考えられる場合,苦痛を治療抵抗性と評価する。評価は医療チームで 判断する。医療チームが治療抵抗性の呼吸困難と評価した場合は,苦痛緩和を目的 とした鎮静の適応を検討する。鎮静の開始には,専門家へのコンサルテーション, 患者,家族の希望の確認が必要である。 (新城拓也) 46
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