His-tagタンパク質精製の適用範囲と質の拡充(PDF)

● Innovations Forum: Purification of His-tagged proteins
Extended scope and quality of His-tagged
recombinant protein purifications
His-tagタンパク質精製の適用範囲と質の拡充
L. Andersson, A. Bergh, H. Lindgren, J. Lundqvist, K. Torstenson, and K. Öberg
Amersham Biosciences, Uppsala, Sweden
IMAC法(Immobilized Metal-ion Affinity Chromatography;固定化金属イオンアフィニテ
ィークロマトグラフィー)によるHis-tagタンパク質精製は、非常に効果的な精製方法で、
広く利用されています。細胞/無細胞システムから目的タンパク質の機能と抗原性を保持
したままワンステップで回収することができます。His-tagとの結合に利用される金属イ
オンは、ニッケル(Ni2+)が最適であるといわれています。このたび新しく開発されたNi
Sepharose High PerformanceはNi2+をプレチャージしたIMAC担体で、His-tagタンパク質精
製の応用範囲を広げるとともに精製産物の質の向上を実現しています。
Ni Sepharose High Performanceについては、本誌15ページの記事もあわせてご覧ください。
はじめに
非常にわずかなNi2+の漏れ
IMAC法は、His-tagタンパク質(または、ヒスチジンが表面
に露出しているタンパク質*1)が遷移金属イオン(Ni2+、Co2+、
Cu2+、Zn2+、Fe3+など)に親和性を持つ性質を利用する精製方
法です。His-tagタンパク質はこの親和性を利用して細胞/無細
胞システムから以下の3ステップで精製されます。
Ni2+漏れについては、担体にチャージした後に過酷な酸性条
件下(pH 4.0)で評価を行っています。チャージ直後と、酸性
処理後のニッケル量をそれぞれ測定してNi2+の漏出量を算出しま
した。チャージするニッケルの量を変えて同様の検討を行った結
果、Ni2+漏出量は5%未満であることが確認されました。
Ni2+漏出量は、5 mM DTT、5 mM TCEPや20 mM β-メル
カプトエタノールなどの還元剤存在下でも非常にわずかであるこ
とがわかりました。このようにNi2+漏出が低く抑えられているの
で、目的タンパク質の沈殿が減少し、活性を保持したままロス
を抑えた高純度精製が可能になります。
ステップ1:キレート担体(Chelating separation media)
に金属イオンをチャージ
ステップ2:目的タンパク質を固定化金属イオンに結合
ステップ3:不純物をカラムから洗い流した後、目的タンパク
質を溶出
キレート担体に異なる金属イオンをチャージして精製を行い、
比較検討した結果、多くの場合Ni2+イオンが最も効果的である
という結果が得られました。Ni Sepharose High Performanceは
この結果をふまえて開発されたHis-tagタンパク質精製用担体で
す。この担体はNi2+イオンがあらかじめチャージされているた
め、精製を始めるにあたり金属イオンを担体にチャージする、上
記のステップ1を省くことができます。また、HiTrapプレパック
カラムフォーマットでHisTrap HP 1 ml、HisTrap HP 5 ml、
HisTrap HP Kitの各製品を提供しています。
*1 表面にシステインやトリプトファンが露出しているタンパク質も結合が可能です。
しかし、ヒスチジンと比較するとこれらのアミノ酸の結合への寄与は低くなっています。
操作上の特性
Ni Sepharose High Performanceは、平均粒子径34 µmの高
度架橋アガロースビーズ上にキレーティンググループが固定化さ
れたクロマトグラフィー担体です。キレーティンググループに
Ni2+がチャージされ強く結合しているので、His-tagタンパク質
の精製を繰り返し行うことができます。
アガロースビーズを構成するSepharose High Performanceは
化学的、物理的に非常に安定であることが証明されています。
そのため高流速での送液が可能で、鋭いピークを得ることができ
ます。また、キレーティンググループの固定化に関しては、タン
パク質結合容量が高く保たれるよう工夫されています(1 mlの
担体あたり40 mg以上のタンパク質を結合)
。本担体は低いpH
条件や、高濃度の変性剤/還元剤/界面活性剤存在下の過酷な
条件に対しても適合性があります。
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Life Science News 2004年 春号(4月発行)Amersham Biosciences
高い安定性と適合性
His-tagの利用が広範囲になり多様化するにつれ、さまざまな
条件下で使用可能なIMAC担体へのニーズが高まっています。
そこで重要になるのが、一般的に使用される添加剤に対する
IMAC担体の適合性です。
Ni Sepharose High Performanceはこの点でも非常に優れて
いることがわかります。例えば、5 mM以下のDTTやDTEのよ
うな還元剤存在下で安定であり、各種の界面活性剤をはじめ他
の添加剤に対しても適合性があります(表1)
。
図1に、バッファー中にDTTを含むサンプルを4回(1・2回目
2 mM DTT、3・4回目5 mM DTT)繰り返して精製後、SDSPAGE解析した結果を示します。連続精製に用いたカラムは1本
で、Ni2+イオンの再チャージは行っていません。Ni Sepharose
High Performanceの還元剤に対する安定性とNi2+イオンの強固
な結合が確認できます。
図2では、他の還元剤存在下でもタンパク質精製が影響を受け
ないことを示しています。還元剤存在下で精製した場合、目的
タンパク質の収量が落ちてSDS-PAGEの結果でバンドが薄くな
ることがありますが、Ni Sepharose High Performanceの場合こ
の現象は見られませんでした。還元剤存在下においてもリファレ
ンスと同等の純度、収量が達成されています。
本担体のもつ高度な安定性と適合性により、さまざまな条件
下でのタンパク質精製が可能になります。つまり、担体のパフォ
ーマンスを低下させることなく、目的タンパク質の生物学的活性
を維持するために各種添加物を使い、かつ収量を最大限に上げ
ることができます。
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表1. さまざまな添加剤との適合性
添加剤の種別
還元剤
変性剤
界面活性剤
その他
A
名称
濃度
DTE
DTT
2-mercaptoethanol
TCEP
5 mM
5 mM
20 mM
5 mM
還元型グルタチオン
10 mM
Urea
8M
塩酸グアニジン
6M
Triton X-100 (non-ionic)
2%
Tween 20 (non-ionic)
2%
NP-40 (non-ionic)
2%
コール酸 (陰イオン)
2%
CHAPS (両性イオン)
1%
イミダゾール
500 mM
エタノール
20%
グリセロール
50%
Na2SO4
100 mM
NaCl
0.5∼1.5 M
EDTA*2
1 mM
EDTA*2 + 10 mM MgCl2*3 1 mM(EDTA )、
10 mM(MgCl2)
クエン酸塩*3
60 mM
60 mM クエン酸塩
60 mM(クエン酸塩)、
+ 80 mM MgCl2*3
80 mM(MgCl2)
A280
(mAU)
16,000
1 mM DTE
14,000
20 mM
β-mercaptoethanol
12,000
10,000
Reference
8,000
5 mM DTE
6,000
4,000
5 mM TCEP
2,000
10 mM reduced
glutathione
0
0.0
10.0
B
20.0
LMW 20 mM 5 mM 10 mM
β-ME
Mr
40.0
30.0
DTE Red. Glut
Ref.
ml
5 mM
TCEP
97,000
66,000
45,000
30,000
20,100
14,400
弊社ラボでの実験の結果、以上の添加剤が記載の条件において使用可能であ
ることが確認されています。
*2 サンプルに1 mM EDTAを添加すると分離が改善される場合もありますが、推奨では
ありません(バッファーへの添加は不可)
。
*3 サンプル添加時の金属イオンのストリッピングを軽減するために、MgCl2を使用する
ことがあります。
Mr
LMW Run 1
Run 2
2 mM DTT
Run 3
Run 4
5 mM DTT
repeated runs
with DTT
図2. 還元剤の影響
(A)さまざまな還元剤存在下で同一のHis-tagタンパク質を精製した際のクロ
マトグラム。
(B)Aのピーク画分をSDS-PAGE解析した結果。
LMW = low molecular weight marker; TCEP = Tris(2-carboxyethyl)-phosphine
hydrochloride; DTE = 1,4-dithioerythritol; β-ME = 2-mercaptoethanol; Red.
Glut =reduced glutathione.
97,000
66,000
45,000
30,000
20,100
14,400
図1. 5 mM以下のDTT存在下で同一カラムを用いて連続精製したタンパク質の
SDS-PAGE解析
カラムはストリッピングや再チャージせずに連続して使用しました。
のタンパク質動的結合容量を示します。
Ni Sepharose High Performanceでは、漏出が確認されるま
で約70カラム体積の1 mg / mlのMBP-(His)6溶液を結合するこ
とができました(図3)
。動的結合容量は約65 mg / ml 担体にな
ります。室温と4℃の2つの条件下でタンパク質の結合容量を測
定しました。どちらの温度においても、高い結合容量が示されま
した(表2)
。本担体は高い結合容量を示しますが、実験条件や
タンパク質の種類により結合容量が異なってくることに留意して
ください。
スピード、利便性、再現性
高いタンパク質結合容量
担体の動的結合容量(dynamic binding capacity)を以下に
示すようなさまざまな条件下で評価しました。まず、His-tagを
融合させたマルトース結合タンパク質(MBP-(His)6、Mr
43,000)の10%漏出(QB10%)値を評価しました。
QB10%値を決定するために、まず高純度なタンパク質溶液の
280 nmにおける吸光度を測定しました。その後タンパク質溶液
をカラムに送液し、カラムが飽和して漏出されるまで溶出液の吸
光度をモニターしました。一定の漏出(例えば、QB10%)が確認
されるまでのタンパク質溶液量(またはタンパク質量)は、担体
Ni Sepharose High PerformanceはTricornカラムやXKカラ
ムへ充填して使用するのが便利です。また、担体を充填済みの
HisTrap HPカラムの使用により、さらに利便性が向上し、時間
の短縮が可能になります。
1 mlまたは5 mlのHisTrap HPカラムを使用すれば、最低限の
準備と設備で迅速かつ確実な分離精製が可能になります。
HisTrap HPカラムはシリンジや低圧ポンプはもちろん、
ÄKTAdesignのようなクロマトグラフィーシステムでも使用でき
ます。ÄKTAdesignクロマトグラフィーシステムには、His-tag
タンパク質のワンステップ精製メソッドなどがあらかじめプログ
ラムされています。また、HisTrap HPカラムを2本あるいは3本
連結して使用することにより、簡単に精製のスケールアップが行
えます(複数のHisTrap HPカラムを連結すると、精製時に背圧
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が上昇しますのでご注意ください)
。
HisTrap HPカラムはHisTrap HP Kitに含まれていますが、
単品でもご購入いただけます。キットにはHisTrap HP 1 mlカ
ラムが3本、リン酸バッファー(8倍濃縮ストック)
、イミダゾー
ル溶出バッファー濃縮液や、各種コネクターが含まれます。
カラム容量:
担体:
サンプル:
0.25 ml
Ni Sepharose High Performance
1 mg/ml pure His-tagged maltosebinding protein, MBP-(His)6, Mr 43 000
結合バッファー: 20 mM sodium phosphate [pH 7.4],
5 mM imidazole, 0.5 M NaCl
溶出バッファー: 20 mM sodium phosphate [pH 7.4],
0.5 M imidazole, 0.5 M NaCl
流速:
0.25 ml/min
まとめ
mAU
2000
1500
1000
他社製品
QB 10% =14 mg/ml
Ni Sepharose HP
QB 10% =65 mg/ml
500
0.0
20.0
40.0
60.0
80.0
CV
金属キレート結合を利用したHis-tagタンパク質の精製にはさ
まざまな利点があります。ワンステップで精製が可能なので、細
胞/無細胞システムから機能と抗原性を保ったままタンパク質
を回収することができます。新開発の Ni Sepharose High
Performanceは、この目的に至適化しており、Ni2+の漏出が少な
い、高い安定性、タンパク質結合容量が大きいといった優れた
性質をもっています。また、さまざまな添加剤と適合性があるの
で精製ストラテジーを組み立てるうえでの制約が少なくなり、こ
れまで精製が難しかったタンパク質の精製を可能にします。
以上の特徴により、本担体はHis-tagタンパク質の利用範囲を
広げ、自動化クロマトグラフィー*4を可能にします。自動化が実
現することで、ハイスループットプロテオミクス/タンパク質構
造解析など新たな可能性がひらけます。
*4 自動化クロマトグラフィーシステムについては、本誌14ページの記事もあわせてご覧くだ
さい。
図3. タンパク質結合容量の測定
His-tagを融合したマルトース結合タンパク質(Mr 43,000、1 mg/ml)をサン
プルとしてそれぞれのカラムに送液し、溶出液の吸光度(AU280)が10%上昇
した時点の値をQB10%として記録しました。HisTrap HPではQB10%が65 mg/ml
を示したことから、より高い結合容量をもつことがわかりました。
謝辞
MBP-(His) 6はウプサラ(スウェーデン)の Pharmacia
Diagnosticsによりご提供いただきました。GFP-(His)6はストッ
クホルム大学Dept. of Biochemistry and BiophysicsのDavid
Drew博士にご提供いただきました。
表2. タンパク質の種類、精製時の温度の違いによるタンパク質動的結合容量
の変化
Room temperature
4℃
MBP-(His)6
mg/ml medium
68
66
GFP-(His)6
mg/ml medium
86
88
ご注文情報
製品名
HisTrap HP
HisTrap HP
HisTrap HP
HisTrap HP Kit
Ni Sepharose High Performance
Ni Sepharose High Performance
6
Life Science News 2004年 春号(4月発行)Amersham Biosciences
包装
1
5
5
1
25
100
ml×5
ml×1
ml×5
kit
ml
ml
コード番号
17-5247-01
17-5248-01
17-5248-02
17-5249-01
17-5268-01
17-5268-02
価格(円)
17,000
19,000
72,000
24,000
56,000
125,000