1.胆管穿刺の実際

2006 日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」
:森田荘二郎
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臓器穿刺の技術
1.胆管穿刺の実際
高知医療センター 放射線療法科
森田荘二郎
今回,経皮経肝的胆道ドレナージ(PTBD)に際して
の胆管穿刺を中心に,著者が実際に指導している事項,
およびガイドワイヤー挿入にいたるまでの留意点につ
いて Q & A 形式で述べてみたい。PTBD 全般に関して
は,以前の教育セミナーで解説しているので,そちら
1)
も参照されたい 。
穿刺の前の心がけ
1.患者への声かけ:
「無言は患者の不安を増強させる」
閉塞性黄疸患者が来院し,PTBD の適応ありと診断
2)
されたら,可及的速やかに減黄処置を行う 。人的,時
間的な余裕があれば術前ラウンドを行い,PTBD の十
分な説明を家族も交えて行い,インフォームドコンセ
3)
ントを得ておきたい 。しかし,実際には IVR 医が直
接説明できる場合は少なく,血管造影室で初めて患者
に接することが多いのが現状であろう。
担当医からは,
「胆汁を体の外に出す管を肝臓を通し
て胆管に入れます。ちょっと痛いですがすぐ終わり
ますから心配しないでください」程度のことしか聞か
されていないこともある。そこで,患者がベッドに寝
て,実際の穿刺経路を超音波で観察をする時には,画
面にのみ集中することなく,手技の手順,息止めの仕
方,痛みが強いこともあるが絶対動かないこと,穿刺
部位によっては頸の付け根や肩に痛みを感じることが
あるかもしれないが,黄疸を改善するためには絶対必
要な手技であるから頑張ってくださいなど,患者にい
ろいろ話しかけ,リラックスしてもらうことが重要で
ある。患者はどんなことをされるのか不安で一杯であ
るから,手技を行っている最中も何をしようとしてい
るのか,今何をしているのか,頻繁に声かけを行うこ
とを心がける。無言は患者の不安を増強させることを
肝に銘じておくべきである。
2.穿刺目標胆管の決定:
「このへんでいいか」はダメ!
ただ「胆管に管を入れる」のではなく,穿刺目標胆
管は造影等で確実な診断を行うことができ,次の手技
にも繋がるよう,
「このへんでいいか」というような決
め方は厳に慎むべきである。左側穿刺,右側穿刺,両
側穿刺の必要性も考慮しながら,慎重に「この胆管!」
と決める。時間がかかってもいいから確実に,穿刺目
標胆管が「一番長く,太く」描出される穿刺部位と経
路をさがす。穿刺目標胆管が決まれば PTBD はほとん
62(208)
ど終わったも同然である。
胆管の観察と同時に,呼吸状態の確認および呼吸停
止の練習も行っておく。心窩部穿刺の場合,深吸気停
止で穿刺を行うと,ドレナージチューブ留置後,腹壁
と肝臓刺入部との間に距離ができ,チューブのたるみ
が生じ,ひいては逸脱の原因ともなる。
肝門部狭窄症例では,胆管へのチューブ挿入部位が
病変部に近いと,炎症性変化や瘢痕組織により術中門
脈との剥離操作が困難になったり,切離断端での迅速
標本像が修飾され,腫瘍進展との鑑別が困難になるこ
4)
とがあるので注意が必要である 。
3.前投薬
前投薬としては,胆管穿刺時の迷走神経反射を防止
する目的と,鎮痛効果を得る目的で,穿刺直前に硫酸
アトロピン 0.5 ㎎とペンタゾシン15 ㎎を投与している。
穿刺の実際
1.麻酔
麻酔は,皮切部位からの出血を予防する目的で,エ
ピネプリン入り 1%キシロカイン(キシロカイン注射液
「1%」エピレナミン:アストラゼネカ)を用いている。
10 ㎖程度は全部使い切るよう穿刺経路に充分麻酔を施
すが,最高使用量は 1%液で 20 ㎖程度(塩酸リドカイン
量で 200 ㎎,4 ㎎ / ㎏)としている。また,局所麻酔剤
入りの注射器は造影剤等と間違わないよう色つきの注
射器を用いている。
「麻酔が一番痛かった」と言われないように,まず
皮内に少量注入して皮膚に膨隆を作り,その後穿刺経
路に沿って皮下,筋層,筋膜,腹膜前組織まで薬液を
ゆっくり注入していく(図 1)
。その際,黙って針を刺
すなどは言語道断であり,穿刺直前には必ず声かけし,
麻酔中も患者の不安を取り除くよう,ゆっくりとした
5)
調子で話しかけるようにする 。
麻酔時,穿刺経路に空気が注入されると超音波の障
害となるので,注射器の脱気は厳重に行う。肝表面に
針先を刺入して麻酔する場合もあるが,深部を麻酔す
る際には呼吸停止下に超音波で観察しながら行う。
2.穿刺時の注意点
穿刺部位の皮膚に小切開を行い,その孔から直のモ
スキート鉗子を挿入し,閉じて押し・開いて広げる操
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作を繰り返し,腹膜前脂肪組織まで皮下組織の拡張を
充分行う。この皮下組織の拡張操作は,ドレナージ
1)
チューブをスムースに挿入する上で重要である 。
超音波で再度穿刺目標胆管の観察を行うが,把持す
る手の一部が必ず患者の身体に固定されるようにす
る。身体から浮かしていると,穿刺中プローブが動い
て穿刺針の針先エコーを見失う一因となる。
誘導針をアタッチメントに装着し,小切開孔に差し
込む。誘導針の針先エコーが画面上の穿刺ラインに一
致していることを確認する。また,誘導針を刺入する
時,小切開孔に確実に刺入されていることを確認する。
小切開孔に誘導針が刺入されていない状態でその後の
操作を行い,ドレナージチューブ挿入に難渋した症例
を経験している
(図 2)
。
穿刺針を誘導針内に挿入して腹膜直下でとどめ,針
先エコーが穿刺ラインに沿っていることを再度確認す
る。次に患者に穿刺前に練習してもらったように呼吸
を停止してもらい,穿刺針を進める。肝表面に刺入さ
れたら,穿刺ラインとのズレを確認し,一度針を止め
るような気持ちを持ちつつ,一気に目標胆管まで穿刺
a b
図 1 麻酔
a : まず皮内に注入し,
b : 皮膚に膨隆を作る
(矢印)
。
a b
図 2 誘導針(穿刺針)は切開孔に入ってる?
a : 穿刺に際して誘導針(穿刺針)が切開孔に
入っていることを確認する。
b : 切開孔に入っていないと,穿刺はできる
が,ドレナージチューブ挿入に難渋する。
a b c
図 3 胆管壁のたわみ
a : 目標胆管に穿刺針が到達すると,
b : 胆管壁を貫くときには壁がたわむのが観察
される
(矢印)。
c : 胆管内に穿刺針が刺入されると,胆管壁
のたわみが元に戻る。
(209)63
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する。穿刺針が胆管壁を貫く時には,一瞬胆管がたわ
み,内腔にはいるとたわんだ壁が元に戻るのが観察さ
れる(図 3)。また胆管壁を貫通する時の感触も,経験
を積むと感じ取れるようになる。しかし,超音波の画
面上では胆管内に穿刺針の先端が位置しているように
みえても,胆汁が吸引できないことがある。超音波の
厚みにより,実際には胆管内に刺入できていないの
に,画面上は胆管内にあるかのようにみえる artifact
であるので注意が必要である(対応については Q & A で
解説)
(図 4)。
胆管穿刺の実際に関する Q & A
本項では,PTBD に際して胆管穿刺からガイドワイ
アー挿入までの一連の手技について,注意しておくべ
き点を Q & A 形式で述べる。
Q1:右肋間穿刺での注意点は?
A1:頭側から穿刺すると transpleural になりやすいの
で注意が必要(図 5)
。経路拡張に際し,胸壁を貫
いた時,空気が「シュッ」と入っていくことがあ
るが,すぐに指で切開部を塞ぐようにしないと局
所的な気胸を併発し,
超音波の障害となる。プロー
ブで少し胸壁を圧迫すると消失するので,このよ
うな場合には観察しながらしばらく待つとよい。
それと,肋間動脈損傷の危険性があるので,局所
麻酔時に肋間動静脈を穿刺していない経路である
ことを充分確認する。側胸部では肋骨上縁を穿刺
する。
Q2:患者が呼吸停止できない時はどうやって穿刺する
の?
A2:重症例,意識混濁例など呼吸停止が不能な場合に
は,まず,呼吸の状態にあわせて超音波で慎重に
観察し,呼気時にどれくらい呼吸が一旦停止する
かを把握しておく。
そして,
呼吸に合わせてプロー
ブをゆっくり動かしながら,目標胆管を穿刺ライ
ンにできるだけ固定し,息を吐ききった状態で一
気に穿刺を行うとよい。
a b
図 4 超音波の厚みのトリック
a : 超音波の画面では,穿刺針が胆管内に位
置しているようにみえても,
b : 超音波の幅の中に入っていれば,実際に
は胆管内に入っていなくても画面では胆
管内に入っているようにみえる。
a b
図 5 横隔膜の位置
a : 横隔膜脚は L2 レベルまで
のびているので
b : 呼気で穿刺しても,肺組
織は貫通していなくても
胸腔内を通過している場
合もある。
64(210)
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Q3:胆汁の逆流がみられない時はどうしたらいい?
A3:胆汁の逆流がみられない場合は,2 ㎖注射器で軽
い陰圧をかけながら,ゆっくり穿刺針を引いてく
る。胆汁の逆流があれば以後の操作に進む。
肝表面近くまで穿刺針を抜去しても胆汁逆流が
みられない場合は,穿刺針を完全に抜去せず,内
筒を挿入し誘導針とともにプローブに装着し,針
先エコーを確認のうえ再穿刺する。
針先エコーが確認できない場合は,穿刺針を少
し前後させながらプローブをいろいろな方向に少
しずつ傾け,針先エコーを確認してみる。それで
も針先エコーが見えない場合は,しかたないので
陰圧をかけ血液の逆流がないことを確認しながら
息止め下に抜去して再穿刺する。
Q4:胆管を穿刺した後は造影剤を使ってもいいの?
A4:胆汁が逆流した時点で造影剤を注入すると,胆管
内圧が高まり cholangio-venous reflux をきたす危
険性がある。針先エコーがきちんと胆管内に確認
されていれば造影剤を用いる必要はない。どうし
ても確認が必要であれば,抜いた胆汁量以下の造
影剤(2 倍希釈)を投与する。ただし,胆管である
ことの確認,肝門部方向の胆管の走行を確認する
にとどめる。
Q5:胆管を穿刺したと思ったのに,吸引したら血液が
逆流してきたらどうする?
A5:血液の逆流は肝静脈枝を穿刺したことによること
が多い。血液の逆流がみられた場合には,2 ㎖の
注射器に血液を吸引し,空気と混ぜて放置し凝固
させておく。その後,少しずつ穿刺針を抜去し,
逆流がみられなくなったところで把持し,しばら
く(出血時間を参考にして)そのままにしておき,
逆流のないことを確認して,穿刺針を抜去せず再
穿刺の操作に戻る。
肝表面近くになっても血液の逆流がある場合
は,
前述の方法で作成した凝固血液を注入するか,
「こより状」にしたスポンゼルを外筒に入れ,外
筒を少しずつ引きながらスポンゼルを内筒で押し
出すようにして経路に留置し止血する。
動脈血が逆流した場合は,造影剤(2 倍希釈)を
注入し,動脈系が描出されたら偽動脈瘤を形成す
ることがあるので,ドレナージを成功させた後,
塞栓を考慮する。
Q6:ガイドワイヤーが進まない時はどうするの?
A6:胆管が屈曲・蛇行している症例では,J 型ワイアー
の先端が壁に当たり深く挿入できないことがある。
先端がストレートのベンソン型ワイアー(COOK)
を使用し,場合によっては U ターンさせて押し込
んでみるとよい。
肝門部狭窄例など,胆管刺入部位から狭窄部位
までの距離が短い場合は,ガイドワイヤーを Uター
ンさせて硬い部分が胆管内に位置するようにして
チューブを挿入する。
ガイドワイヤーが深く挿入できなかったり,イ
メージした走行をとらないときには,ガイドワイ
ヤーが胆管外
(グリソン鞘)
に挿入されていること
がある。穿刺針が胆管内にあるようにみえても,
切れ込みの一部が胆管内・一部が胆管外に位置す
る場合でも,ガイドワイヤーがグリソン鞘に挿入
され胆管内と間違うことがあるので,少量の造影
剤を注入し胆管が描出されること,および肝門部
までの胆管の走行を確認する
(図 6)
。
Q7:造影剤を注入して何を確認するの?
A7:少量の造影剤を注入し,造影剤が肝門部方向に
ゆっくり流れる場合は胆管。肝門部から離れても
樹枝状に停滞したら胆管。肝門および右心房方向
に数本の細い線状にみえる場合はリンパ管。造
影剤が肝門部から離れて流れ,枝分かれしながら
すっと消えたら門脈。枝分かれせず心臓方向に
流れたら肝静脈。肝静脈が描出されたら,穿刺ラ
インが胆管とははずれているので,再穿刺を考慮
する。
図 6 ガイドワイヤーが進まない
a : Hüber 針型の穿刺針では,先端が胆管内
にあるように見えても,切れ込みの一部
が胆管内・一部が胆管外(グリソン鞘)に
位置する場合でも,ガイドワイヤーがグ
リソン鞘に挿入されていても胆管内と間
違うことがある。
b : 正確に胆管内に先端が位置していれば,
肝門部方向にスムーズにガイドワイヤーを
進めることができる。
(211)65
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Q8:ラジフォーカスワイヤーは使ってもいいの?
A8:狭窄部付近を穿刺した場合など,ガイドワイヤー
がどうしても先に進まないときは,0.035 インチ・
アングル型ラジフォーカスワイヤー(テルモ)で胆
管内腔を探るように操作することもある。しかし,
Hüber 針型の穿刺針を用いる場合には,穿刺針先
端部にコーティングが引っかかり,ワイヤーが動
かなくなったり,また滑脱しやすいので,血管造
影での使用経験が浅い術者には禁忌としている。
コーティング部が針に引っかかって押し込みも抜
去もできない場合は,穿刺針と一緒に抜去しなけ
ればならない。ただし,エラスター針や Chiba 針
を用いた場合にはこのような事例は経験されない。
Q9:ガイドワイヤーが末梢にしか行かない時はどうし
たらいい?
A9:Seeking catheter を用いて,胆管内に挿入できてい
たらラジフォーカスワイヤーで総胆管方向を探っ
てみる。
どうしても肝門側に挿入できない場合は,とり
あえずは末梢にドレナージカテーテルを留置して
もよい。後日造影の上,位置変更もしくは内外瘻
かステント留置を行うようにする。
PTBD での穿刺を成功させる心構え
PTBD は,IVR の中でも最高に痛い部類の手技であ
66(212)
るため,以下の点を念頭に置き,穿刺からドレナージ
チューブ留置まで,出来るだけ短時間に,かつ腹腔内
に胆汁をできるだけ漏らさないように終了することが
重要である。
「PTBD この世で 一番痛い手技」
「確実に 選択しよう 目標胆管」
「穿刺部位 次の治療も考慮して」
「絶対に 成功させるぞ という気持ち しかし,無
理はしない」
【文献】
1)森田荘二郎:胆道系の IVR−PTC,PTCD からステ
ントまで 経皮経肝的胆道ドレナージ.日本 IVR
会誌 19:415 - 421, 2004.
2)野田能宏,森田荘二郎:胆道系の IVR−PTBD,メ
タリックステントを中心に.画像診断 25:1412 1424, 2005.
3)森田荘二郎:合併症をなくすための IVR 基本手技−
プレラウンドの意義.臨床画像 21:56 - 61, 2005.
4)神谷順一,二村雄次,早川直知:PTCD 造影および
PTCS による肝門部胆管癌の進展度診断.腹部画
像診断 9:545 - 551,1989.
5)Peter R. : Local Anesthesia. PocketRadiologist
Interventional Top 100 Procedures. W.B. Saunders,
Utah, 2003, p3 - 5.
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2.胸部領域 −肺生検−
慶應義塾大学医学部 放射線診断科
中塚誠之
はじめに
IVR を行う際には手技の成功と同時に合併症の低減
に留意するべきである。胸部領域の穿刺で最も恐れる
べき致死的な合併症は空気塞栓である
(図 1)
。
1,2)
空気塞栓の発生率は 0.06%程度とされる 。肺穿刺
による実質損傷が肺静脈と気道,肺胞あるいは大気と
の交通を形成し,同時に肺静脈圧が気道,肺胞内圧あ
るいは大気圧より低くなる環境が生じた場合に発生す
るとの仮説がある。多くの文献では穿刺中あるいは直
後の咳嗽が原因としているが,咳嗽がないのに出現し
3)
た報告があり ,過長な呼吸停止やそれに引き続く荒
い呼吸が原因である可能性も指摘されている。
穿刺による肺実質の損傷や咳嗽をなくすことはでき
ないが,長い息止めを排除し安静呼吸下での肺穿刺を
行うことは可能であり,多断面 CT 透視を用いると穿
刺がコントロール良く実行可能である。本稿では一般
的な肺生検の考え方と多断面 CT 透視を用いた安静呼
吸下肺生検の方法を解説する。
適応
肺生検の適応は,肺に異常影があって治療のために
病理的診断を必要とする場合である。肺門部は気管支
鏡的アプローチが推奨され,逆に胸膜直下の肺野病変
は CT ガイド下生検の良い適応とされる。手技中の出
血により同定困難となる 1.5 ∼ 2 ㎝以下のすりガラス
影は対象としない。
われわれは,手術可能例の肺生検が依頼された場合,
病変の良悪性を過去画像をも参照して Class 1∼5 に分
類する。画像診断上の Class 2∼4 は肺生検の適応と考
えている。誰が診断しても良性と考えられる Class 1
は経過観察とする。誰が診断しても悪性と診断される
Class 5 症例では,たとえ生検結果が良性でも,偽陰
性を考慮すると悪性の可能性が否定できず手術が避け
られないことがある。この場合肺生検は治療方針を左
右しないので不必要な検査となる。
一方,手術不能例では組織型により治療方針が異なっ
てくるので肺生検を要することが多い。小細胞癌と非
小細胞癌の鑑別がそれに該当し,そのほか原発巣切除
前後に発見された肺腫瘤が転移か原発癌か,それとも
単なる良性結節かの鑑別の際も肺生検の適応となる。
禁忌は,出血傾向,抗凝固治療が中断できない患者,
著しい低肺機能,検査に協力できない患者,安全かつ
適当な穿刺経路がない場合と肺動静脈瘻が疑われる場
合である。肺気腫,ブラの存在は気胸のリスクを高め
るが,肺生検の禁忌とはならない。
図 1 肺生検後の空気塞栓
生検が終了し,吸気呼吸停止下に全肺 CT 撮影後,意識消失,一過性の共同偏視と心原性ショックが見
られた。CT 上,胸部大動脈と右冠動脈にガス像が確認され空気塞栓と診断された。本症例は対症療法
のみで経過観察し,発症 20 分後に意識回復し,心電図も正常化し,胸部 CT 上のガスも消失した。
(213)67
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方法
1.生検方法の選択
肺 生 検 は Chiba 針 や Wiscott 針 を 用 い た 吸 引 生 検
(FNAB)と,コアニードル生検針を用いた組織生検
(FNB)
に大別される。一般的には18∼20Gのコアニー
ドル生検針を用いた FNB が行われることが多い。悪
性リンパ腫が疑われる場合は,単なる組織診断でなく
治療戦略を左右する組織型の診断を要しさらに太い径
の針での生検を考慮する。複数回の穿刺ではコアキ
シャル法が有利であるが,われわれの施設ではコアキ
シャル法は用いていない。
コアニードル生検針は全自動型と半自動型がある。
CT 透視で内針が腫瘍を貫通したことを確認して組織
採取できるので半自動型が優れている(図 2)
。全自動
型では柔軟な肺組織内で腫瘍を内針で押してしまい組
織採取できないことがある
(図 3)
。
2.穿刺ガイドの選択
CT 下に肺穿刺を行う場合,CT 透視を使用する場合
としない場合がある。また,どちらの方法も一般的に
は呼吸停止下に行い,吸気,呼気いずれかを状況に合
わせて使い分ける。われわれは CT 透視を用いて安静
呼吸下穿刺を行っている。患者の胸郭を観察しながら
呼気で撮影し方向を確認し,また患者の胸郭を観察し
ながら呼気で針を進める。多断面で観察ができるタイ
プの CT 透視装置を用いており,安全性,診断能とも
に向上している。
3.CT 透視下肺生検での被ばく低減
従来から CT 透視装置では術者の被ばくが少なくな
いことが指摘されていたが,さまざまな工夫を重ねる
a
b
c
図 2 半自動型生検針の優位性
半自動型生検針を使用した場合,CT 透
視下に内針が腫瘍を貫通しサンプリング
ノッチが腫瘍組織にあたっていることを
確認することができる(b)。そののち外
筒をファイヤーして(c)腫瘤の組織を採
取する。
a
b
c
d
68(214)
図 3 全自動型生検針のピットフォール
柔軟な肺組織内の硬い腫瘤は,全自動型
生検針の内針をファイヤーしたとき瞬間
的に遠位に押され(b),外筒がサンプリ
ングノッチを覆った(c)後に戻ってくる
ことがある(d)。この場合,腫瘤の組織
は採取できていない。b ∼ d の過程が瞬
時に起こっているので,この過程は観察
されない。
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と驚くほど被ばくの低減が可能である。基本は穿刺針
把持器を用い CT 断面に手指を入れないことである。
間歇的 CT 透視を用い透視時間を短くし,可能な限り
CT 透視の撮影条件は下げる。また,散乱線低減のた
め患者の体表と術者の手の間に鉛板を置くことが勧め
られるが,穿刺針把持器自体にプロテクターの装着が
可能なものもあり併用すると良い。1 症例あたりの術
者の被ばくは穿刺針把持器により 0.2 ∼ 2mSv. 程度と
4)
なり ,さらに鉛板使用により 0.05 ∼ 0.1mSv. 程度と
なる。穿刺針把持器への専用プロテクター装着により
術者被ばくはさらに低減される。
4.解剖に関する事項と体位・穿刺経路の選択
次に術前の CT を検討して体位,穿刺経路をプラニ
ングする。骨格をかわして穿刺できる経路を探し,心
大血管や比較的太い肺動静脈,胸壁の脈管の穿刺を避
ける。内胸動脈の穿刺は血胸の原因となるので避けな
ければならない。葉間胸膜を通る経路では複数の胸膜
を貫通することになるので気胸や播種のリスクが増加
する。また,縦隔の近傍に腫瘤がある場合,心臓,大
動脈,上大静脈,食道に向かっていく経路は避けるの
が賢明である。
必要に応じてガントリー傾斜をかけるが,呼吸によ
り腫瘍と骨格の位置関係が変わることも利用する。体
位変換により縦隔を動かしたり,上腕,肩甲骨の位置
を変えたりして穿刺のルートが開くことがある。また,
局所麻酔,生食の注入により安全な穿刺ルートを作成,
拡大できることがある。呼吸停止下で穿刺する場合は
一般的には最短距離の穿刺経路が選択されるが,CT
透視下で穿刺する場合はむしろ胸膜から少し離れるよ
うな経路のほうが穿刺は容易となる。
5.インフォームド・コンセント
(IC)
と前処置
IC は方法,効果,合併症を含めて行う。患者には偽
陰性が少なくないこともお話しし,結果が良性となっ
ても悪性は完全には否定できないことを伝える必要が
ある。
出血傾向,抗凝固剤使用の有無をチェックし,禁飲
食と血管確保を指示する。止血剤の事前投与は必須で
はない。前投薬として鎮静剤,鎮痛剤を使用すること
があるが必ずしも必須ではない。
6.われわれの施設での CT 透視下生検の実際
体位を決定しCT 寝台に寝かせたのち体表に穿刺マー
カーを置く。われわれはカテーテルを切ってすだれ状
にしたものを使っている。CT を撮影し,穿刺点を決定。
CT ガントリーのレーザーと穿刺マーカーの交差点を
黒マジックでマークし,数㎝尾側に鉛板を置く。
次に術野を消毒し,清潔野を作成。局所麻酔は皮膚,
筋膜,壁側胸膜を十分に麻酔する。あらかじめ胸膜ま
での距離を測っておき,胸膜の手前で麻酔針を止めて,
CT 透視で適切な位置であることを確認した後,胸膜
は貫かずに手前から浸潤麻酔をする。
半自動型生検針の内針を引いてロックし,穿刺針把
持器に装着する。半自動型生検針の内針を引いた距離
(外筒を打ち込む距離)が長いほど外筒速度が上がり組
織量と採取率が向上する。
われわれの施設では,CT 透視の撮影と,針の先進
は安静呼気のタイミングで行っている。安静呼気のタ
イミングを見計らって CT 透視を撮影し,胸壁内で針
の方向を調整する。再び安静呼気のタイミングで胸膜
を貫き,次の安静呼気で CT 透視を観察。微調整後,
再び安静呼気時に針を進める。組織採取前に気胸が生
じると組織採取が困難となるので,基本的には一度胸
膜を貫通したら針は抜かない。万が一組織採取前に気
胸になってしまった場合には,気胸をサーフローなど
で穿刺し脱気しながら行う。
内針を押して,内針が腫瘍を貫通しかつサンプリン
グノッチに腫瘍があることを確認する。多断面 CT 透視
では瞬時に確認ができる(図 4)
。外筒がファイヤーする
際には胸壁の摩擦により生検針重心の後退が起こりが
ちである(図 5)。組織採取不成功の最大の原因であり,
生検針の把持部分をしっかり押さえる必要がある。
組織採取後,採取した組織を肉眼的にチェックする。
また,常に「空気塞栓」を念頭に入れて患者を観察す
る。患者には安静呼吸を保ち,意識的な咳は控えても
らっている。終了後の合併症チェックのための CT は必
ず,心臓,大動脈を含め安静呼吸で全肺を撮影する。
空気塞栓が起こっていないことを確認した後,スト
レッチャーに移動する。当院では 3 時間のベッド上安
静ののち胸部単純写真を撮影することとしている。
有用性
(診断能)
5 ∼ 7)
肺生検の感度は一般的に77∼97%で,特異度は 71∼
100%,正確度は 62 ∼ 93%である。生検結果が悪性で
あった場合 100%悪性と判断してよいが,生検結果が
良性であっても悪性腫瘍辺縁の変化を採取してきた場
合があり,実は偽陰性である可能性は否定できない。
合併症とその対策
1,
5∼8)
肺生検による合併症で最も頻度の高いものは気胸で
あり,18∼54%の発生頻度が報告されている。そのう
ち胸腔ドレーンの挿入が必要となるものは 2 ∼ 15%で
ある。喀血・血痰は 11∼25%で,血圧低下を起こすよ
うな大量喀血の報告もある。血胸や緊張性気胸の報告
1,
2)
もあり,空気塞栓の合併は 0.06%程度とされる 。悪
性細胞播種も 0.1%以下の頻度で認められる。
気胸発生の危険因子として肺気腫,ブラ,複数回穿
刺,斜め方向の穿刺が考えられている。組織採取前に
気胸が発生した場合にはサーフロー等で脱気しながら
肺生検を続行することが可能である。穿刺終了時や数
時間後に発見された気胸は,軽度であれば経過観察と
する。少量でなければまずサーフロー等で穿刺,用手
脱気し,その後も気胸が増大する場合は chest tube 挿
入を考慮する。用手脱気により胸腔ドレーンの挿入率
(215)69
2006 日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」
:中塚誠之
技術教育セミナー / 臓器穿刺の技術
が下げられたという報告があり ,われわれも胸腔ド
レーンは安易に挿入しない方針である。
大量喀血に対しては,出血部位が下になるように体
位変換して出血が局所にとどまるようにする。この方
法で止血が得られる場合が多い。
血胸に対しては慎重な経過観察で十分である。それ
でも出血が続くようであれば内胸,肋間動脈の塞栓を
行う。むしろ避けられる胸壁の動脈を刺さないように
9)
注意を払うことが重要である。
空気塞栓の原因は特定されていないが,まず可視の
肺静脈を刺さないように注意する。患者の咳き込みは
抑えてもらい,荒い呼吸を減らすことも重要である。
空気塞栓が発生した場合,頭低位を保ち,現在ある空
気の移動を起こさないよう体位変換は行わない。その
ほかヘパリン投与による二次血栓予防などの対症療法
10)
を行う。高圧酸素療法により救命できた報告もある 。
図 4 3 断面 CT 透視
半自動型生検針の内針にて腫瘤を貫通した際の CT 透視像。上下のスライスにも腫瘤の辺縁が存在して
おり,内針が腫瘤のほぼ中央を貫通していることが瞬時に確認できる。生検針のサンプリングノッチが
腫瘍に確実にはまっていることも確認できる。
a
b
c
図 5 初心者の組織採取不成功の理由
胸壁の摩擦が強い(黒矢印)ので外筒を
ファイヤーする際に外筒が先進せず内
針が後退してしまうことがある
(b)
。ファ
イヤーの際に生検針の把持部(c:白矢
印)
をしっかり押さえる必要がある。
70(216)
2006 日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」
:中塚誠之
技術教育セミナー / 臓器穿刺の技術
まとめ
肺生検は診療に直結した重要な IVR 技術である。胸
部穿刺における合併症とその対策,被ばく防御など,
いくつかの重要項目を十分に理解し,それぞれの施設
での診療に役立てることを願っている。
【文献】
1)Tomiyama N, Yasuhara Y, Nakajima Y, et al : CTguided needle biopsy of lung lesions : a sur vey
of severe complication based on 9783 biopsies in
Japan. Eur J Radiol 59 : 60 -64, 2006.
2)Sinner WN : Complications of percutaneous
transthoracic needle aspiration biopsy. Acta Radiol
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3)Mansour A, AbdelRaouf S, Qandeel M, et al : Acute
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Lung Biopsy. Cardiovasc Intervent Radiol 28 : 131 134, 2005.
4)Irie T, Kajitani M, Matsueda K, et al : Biopsy of Lung
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6)Li H, Boiselle PM, Shepard J-AO, et al : Diagnostic
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7)Laurent F, Latrabe V, Vergier B, et al : Percutaneous
CT-guided biopsy of the lung : comparison between
aspiration and automated cutting needles using a
coaxial technique. Cardiovasc Intervent Radiol 23 :
266 -272, 2000.
8)Richardson CM, Pointon KS, Manhire AR, et al :
Percutaneous lung biopsies : a survey of UK practice
based on 5444 biopsies. Br J Radiol 75 : 731 - 735,
2002.
9)Yamagami T, Kato T, Iida S, et al : Percutaneous
manual aspiration of biopsy-induced pneumothorax
may prevent progressive pneumothorax and
eliminate the need for chest tube placement. J Vasc
Interv Radiol 16 : 477- 483, 2005.
10)Ashizawa K, Watanabe H, Morooka H, et al :
Hyperbaric Oxygen Therapy for Air Embolism
Complicating CT-Guided Needle Biopsy of the
Lung. AJR Am J Roentgenol 182 : 1606 - 1607, 2004.
(217)71
2006 日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」
:川口 洋,他
連載❷ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 2006 日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
臓器穿刺の技術
3.脊椎領域
−主に「経皮的 L−P シャント術」について−
太田総合病院 放射線科,順天堂大学 脳神経外科 ,藤沢市民病院 画像診断科
1)
川口 洋,中島 円 ,蘆田浩一 ,蘆田 浩
1)
はじめに
技術教育セミナーでは,経皮的椎体形成術,脊椎硬
膜外膿瘍,椎間板炎に続発した脊椎周囲膿瘍,経皮的
L−P シャント術について症例呈示や手技について解説
した。
経皮的椎体形成術は,本誌の特集:経皮的椎体形成
1 ∼ 5)
術 (IVR 会誌 19:350−382, 2004)で詳細かつ分かり
やすく解説されている。
6 ∼ 8)
また,脊椎穿刺は,画像支援脊椎骨生検 (IVR 会
誌 20:290−300, 2005)で様々な穿刺部位・方法につい
て解説されている。
したがって今回はこれらの脊椎 IVR を割愛し,まだ
あまり知られていない経皮的 L−P(lumbo-peritoneal)
シャント術(腰部くも膜下腔・腹腔短絡術)について紹
介,解説する。
正常圧水頭症に対する経皮的 L−P シャント術
正常圧水頭症は高齢者に多く,重症合併症を有する
症例も多い。そのため全身麻酔がハイリスクな場合は,
水頭症と診断されても手術困難で,寝たきりの生活を
余儀なくされている患者も少なくない。
藤沢市民病院では倫理委員会の承認の下,局所麻酔
下に経皮的 L−P シャント術を行い,一般的に全身麻酔
がハイリスクとされる患者の正常圧水頭症に対して良
好な結果を得ている。
適応
交通性水頭症:とくに特発性正常圧水頭症,および続
発性正常圧水頭症
(頭部外傷後,くも膜下出血後)
禁忌
1)非交通性水頭症
2)
頭蓋内や脊柱管内占拠性病変
3)
穿刺部付近の褥瘡や化膿性疾患
4)
くも膜下腔や腹腔内の炎症性疾患
5)
後頭蓋や脊椎の奇形:術前にチェックする必要が
ある。
6)
脊柱管狭窄症や脊椎の変性:禁忌ではないが,症
状の原因が水頭症よりも脊椎のことがあるので
注意が必要。
対象
2004 年 6 月から 2006 年 1 月までの 38 名,年齢:33∼
86 歳(平均 72.5 歳)
,男性 21 名,女性 17 名。
72(218)
2)
2)
2)
結果
手技的成功率は 100%。
平均手技時間は 53 分,入室から退室までの平均は
86 分。
7 例(18.4%)に合併症を認めた。内訳は,シャントバ
ルブ感染 2 例,術後の下肢痛 1 例,腹側シャント閉塞(デ
ブリスや出血による)2 例,腰椎側シャント閉塞 2 例。
経皮的 L−P シャント術の実際
9)
術前指示,ペインコントロール
・1 食のみ食止め,当日朝グリセリン浣腸 60 ㎖を施行
する。
・静脈ルートを確保する。
・前投薬は,Hydroxyzine(AtaraxP)25 ㎎,硫酸アトロ
ピン 0.5 ㎎を術前 30 分に筋注する。
・術中,Fentanyl(フェンタネスト)を適宜用いる。また,
感染予防のために抗生剤を点滴投与する。
マーキング
仰臥位で臍を中心に左右 2 ㎝外側に 10 ㎝程度の 2 本
のマーカー(カテーテル等)を平行に置き CT 撮影を行
う。穿刺断面は皮下脂肪が厚く,腹壁直下になるべく
腹側(仰臥位)
皮切
背側(側臥位)
皮切
シャントバルブ
皮切
図 1 経皮的 L−P シャントのイメージ:腹側と背側
2006 日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」
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技術教育セミナー / 臓器穿刺の技術
腸管が描出されていないスライスを選択する。安全な
スペースを穿刺目標とし,目標と皮膚穿刺部位との距
離,穿刺角度を設定する。腸管穿刺のリスクを減らす
ため刺入角度を 45 度(以下)に設定し,穿刺ルートに腹
壁動脈等の目立つ血管がないことを確認する。
腰椎側穿刺
基本的にシャントチュ−ブを左側通しで行うため左
側臥位にする。患者は枕を抱きかかえるようにし,下
肢の間に枕を入れる。患者ができるだけリラックスし
た状態になることが重要である
(図 2)
。
無理のない体位をとることで使用する麻薬量を減量
することができる。背中からわき腹までイソジンで術野
を消毒し,清潔布を掛けイソジンドレープを行う。
穿刺部の局所麻酔を行い,透視下に L3 − 4 の棘間か
ら通常の腰椎穿刺と同様に 14G 腰椎穿刺針で穿刺し,
カテーテルを挿入する。
しかし,高齢者で腰椎変性が強い症例にはガイドワ
イヤーとシースを使用した挿入方法も適宜用いてい
る。IVR 医はこちらの方が慣れた手技で安全かと思わ
れる。方法は,まず 18G 腰椎穿刺針を穿刺し,穿刺針
の周囲にあらかじめシャントバルブが挿入可能な程度
に皮膚を左方に 2 ㎝程度切開する。髄液の流出を確認
し,0.035 inchガイドワイヤー(テルモ ラジフォーカス)
を頭側に向かって挿入し,5Fr ブライトチップシース
(Cordis)を挿入する。ガイドワイヤーに沿わせてシラ
スコン腰椎カテーテル(カネカ)を約 2 椎体頭側(皮下
から約 13 ㎝挿入)
へ挿入する
(図 3)
。
腰椎カテーテルが抜けないようにしながらシース抜
去後にガイドワイヤーを抜去する。これらの手技は透
視下で行う。
ペアンで穿刺部位周囲の皮下を剥離し,シャントバ
ルブの挿入に充分なスペースを確保する。側腹部にも
5 ㎜程度の横切開を置く。パッサーで皮下にシャント
システムを通した後,固定翼(カネカ)をあらかじめ付
けておいた腰椎カテーテルと接続し,皮下に固定翼と
®
ともに 4.0 ニューロロン にて 2 針固定,バルブを背部
®
皮下に埋没させる。皮下を 3.0 vicryl 糸にて縫合する。
外縫いは行わず創部は創傷被覆材などで保護するの
みとする。
側腹部へ通したシャントチューブはガーゼに包み不
潔にならないようにイソジンドレープで覆い,体位を
仰臥位に戻す。再度消毒して清潔な術野を確保する。
腹腔穿刺
体位を仰臥位に戻し,21G 生検針で穿刺を行う。局
所麻酔後,CT で設定した方向と角度で針を進める
(CT
ガイド下ではなく盲目的)。腹膜を超えると穿刺針に
抵抗がなくなる。腹膜を貫通させたら確認のために造
®
影剤(オムニパーク )を 3 ㏄程度注入し,腹腔内に針が
挿入されているか確認する。腹腔内に針先がないと造
影剤がその場に貯留し,腹腔内にあると造影剤は自由
に拡散していくため明らかである
(図 4)
。
腹腔内であることを確認したら,0.018 inchナイチノー
図 2 患者の体位:腰椎穿刺時の左側臥位
図 3 腰椎カテーテル挿入:腰椎硬膜嚢内へシース挿入後,
ガイドワイヤーに沿わせて腰椎カテーテルを挿入
図4
腹腔内シースからの造影:腹腔内に造影剤が拡散
している
(219)73
2006 日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」
:川口 洋,他
技術教育セミナー / 臓器穿刺の技術
図 5 腹腔穿刺
ルガイドワイヤー(シーマン)を挿入し(図 5)
,ガイド
ワイヤーに沿って 8Fr sprit sheath/dilator(シーマン)を
挿入する。その後,再度造影してシース先端が腹腔内
であることを確認する。
パッサーを用いて側腹部から腹側シース刺入部まで
チューブを通し,腹側チューブを腹腔内に 15 ㎝程度挿
入できるようにチューブ先を切断する。これをシース
から透視下に位置を確認しながら挿入し,すべてが腹
腔内に入るのを確認してシースを peel off する。
創部は中縫いのみとする。
皮膚切開は,腰部
(約 2 ㎝)
と側腹部と腹側
(約 0.5 ㎝)
の 3 ヵ所のみで,外層縫合がないため抜糸の必要がな
い(図 6)。
術後指示
帰室後,安静度や食事の制限はない。術日以後の抗
生物質投与は基本的に必要ない。術前,歩行障害が強
かった患者には術翌日からリハビリテーションを開始
する。
経皮的 L−P シャント術のメリットとデメリット
メリット
・傷が小さく,抜糸の必要がない。
・バイポーラーなど大げさな手術器具が必要ない。
・局所麻酔で行うため全身麻酔に必要な麻酔器や麻酔
科医が必要ない。
・周術期合併症発生率は,一般的なシャント手術と同
等で遜色ない。
・入院日数が短期間。日帰り手術も可能であり,老人
保健施設などに入居している方でも施設に入居した
まま手術を受けることが可能である。
デメリット
・保険適応の無い器具(ガイドワイヤー,シースなど)
を用いること。
・腹腔穿刺は盲目的操作のため「確実さ」が疑問だが,
経皮的腹膜透析カテーテル留置が安全に行えるとい
10)
う報告がある 。
また,経験上,腸管穿刺の危険性は低いと考えている。
74(220)
図 6 L−P シャント術直後の背部
おわりに
局所麻酔下で低侵襲に行える本法は,高齢者や内科
疾患の合併症を有する水頭症患者に対しても全身麻酔
のリスクを負うことなく安全に行うことができる。
水頭症症状改善による患者の quality of life(QOL)の
向上は患者自身だけでなく,介護者や医療経済的にも
有益と思われる。
【文献】
1)佐藤公昭,永田見生:骨粗鬆症性椎体圧迫骨折の
臨床.IVR 会誌 19 : 351 - 355, 2004.
2)上村昭博,沼口雄治,松迫正樹,他:椎体形成術
における画像診断.IVR 会誌 19 : 356 - 360, 2004.
3)小林 健,高仲 強,松井 修:CT を用いた椎体
形成術.IVR 会誌 19 : 361 - 364, 2004.
4)田中法瑞,安陪等思,内山雄介,他:DSA・透視
を用いた経皮的椎体形成術.IVR 会誌 19 : 365 - 370,
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5)谷川 昇,小島博之,米虫 敦,他:椎体腫瘍に
対する IVR.IVR 会誌 19 : 371 - 376, 2004.
6)左野 明:CT ガイド下脊椎骨生検 −穿刺経路の
バリエーション−.IVR 会誌 20 : 290 - 292, 2005.
7)田頭周一,金澤 右,安井光太郎:CT ガイド下
脊椎骨生検 −手技の実際と要点−.IVR 会誌 20 :
293 - 296, 2005.
8)広藤栄一:透視下経皮・経椎弓根的生検 −手技の
要点−.IVR 会誌 20 : 297 - 300, 2005.
9)中島 円,板東邦秋:覚醒下での L−P シャント
fluoroscope を用いた低侵襲法,エキスパートに学
ぶ L−P シャント入門,桑名信匡編.メディカルレ
ビュー社,東京,2006,p41 - 48.
10)
Savader SJ, Geschwind JF, Lund GB, et al :
Percutaneous radiologic placement of peritoneal
dialysis catheters : Long-term results. JVIR 11 :
965 - 970, 2000.
2006 日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」
:加地辰美
連載❷ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 2006 日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
臓器穿刺の技術
4.鎖骨下静脈穿刺
防衛医科大学校 放射線部
加地辰美
はじめに
適応
鎖骨下静脈穿刺はなぜか安易にベッドサイドでラン
ドマークテクニークにて行われてきた。いわゆる盲目
的穿刺である。その結果重篤な合併症を引き起こし,
患者を死に至らしめる事故が過去に頻発した事は周知
の事実である。それだけでなくベッドサイドでは清潔
をしっかり保つ事ができずカテーテルを留置した後,
感染を引き起こし抜去を余儀なくされた症例も数えき
れないほど存在する。
今回,できるだけ合併症を起こさずしかも清潔に挿
入するため,特に新しい方法ではないが普段,私たち
IVRist がおこなっている方法を解説する。
様々な理由で鎖骨下静脈を穿刺する事が予想され
る。しかし鎖骨下の場合,合併症の重篤さから必要
最小限度にとどめるべきである。表 1 に鎖骨下静脈穿
刺の適応となる状態を掲げた。異物除去は手技が終
了すればすぐ抜去するが,その他の手技は長期間留
置する事が予想されるので感染にも留意しなくてはな
らない。
安全な鎖骨下静脈穿刺をするためには以下の項目が
必須である。
1.適応を厳密にする。
2.鎖骨下動静脈の解剖を知る。
3.Landmark technique をできるだけやめ,穿刺時
には超音波,透視を使用する。
4.ガイドワイヤー挿入,カテーテル留置時には透
視を使用する。
5.重篤な合併症の機序を理解する。
鎖骨下の解剖と landmark technique(LT)
鎖骨下静脈は鎖骨と第 1 肋骨の間を通って第 1 肋骨
表 1 鎖骨下静脈穿刺の適応
Central vein catheterization
経口摂取や経腸摂取ができない,あるいはそれだ
けでは不十分な場合
末梢静脈確保が困難な場合
中心静脈圧測定、透析用カテーテル留置
末梢静脈投与が適さない重症患者治療薬・化学療
法剤等投与経路
Denver shunt
異物除去
ペースメーカー留置
その他(temporary filter 留置など)
胸骨
胸鎖乳突筋
総頸動脈
外頸静脈
鎖骨
総頸動脈
内頸静脈
鎖骨下静脈
胸鎖乳突筋
鎖骨下静脈
胸鎖乳突筋鎖骨頭
鎖骨
内頸静脈
胸管
肺尖部のライン
胸骨
胸鎖乳突筋胸骨頭
図 1 内頸,鎖骨下静脈の解剖
(221)75
2006 日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」
:加地辰美
技術教育セミナー / 臓器穿刺の技術
をまたぐように胸郭内に入る(図 1)
。鎖骨下静脈の背
部頭側に並行して鎖骨下動脈が走行する。鎖骨下動
静脈を隔てるように前斜角筋が第 1 肋骨上面に付着
している。従来行われてきた LT 法は胸管損傷をさけ
るために右鎖骨下静脈を第一選択としたが,透視下,
超音波下でも同じである。LT 法では鎖骨中央部やや
外側で鎖骨下縁 2 ∼ 3 ㎝を刺入点として胸骨内側縁を
landmark として穿刺する方法である。しかしこの方
法は体格に個人差があり,そのうえ図 1 に示すように
鎖骨下動静脈は近接し,少し深く刺入すると直ぐ肺に
到達するため,血液が陰圧の胸腔内に大量に出血する
危険性をはらんでいる部位である(図 2)
。こういう危
険な部位では盲目的な穿刺は避けるべきである。超
音波も透視も使用できない状況下でやむを得ず LT 法
で穿刺を行うときは 21G のカテラン針で試験穿刺を行
い,深さ角度は確認しておく必要がある。LT 法にお
いては,夜間の実施は合併症の確率が 2 倍高いので夜
間の実施はできるだけ避ける,手技経験が 50 回以下
の医師は 50 回以上の医師に比べ 2 倍合併症を起こしや
すいので経験 50 回以下の医師のみで行わない,3 回以
上穿刺すると 1 回に比べ物理的合併症が 6 倍起きやす
い(鎖骨下)ので 3 回以上穿刺しない,などエビデンス
をもとに安全に行う方法を模索してきたが,画像ガイ
1)
ド下に穿刺する事に勝るものではない 。
内頸静脈穿刺では穿刺部位で 75%以上静脈が動脈
2)
の上に位置している 。過去の報告例をみても,内頸
静脈穿刺で動脈を誤穿刺して死亡している症例が多い
ので,内頸静脈も超音波下穿刺を実行すべきである。
用意する器材
各施設で穿刺時に必要なセットを用意しておくと便
利である。特に夜間,休日など看護師がいないときな
どに便利である。CV キットも各メーカーから種々の
ものが販売されているので,使いやすいものを使用す
るとよい。穿刺する医師は必ず手術する外科医のよう
に滅菌ガウン,手袋,マスク,キャップ,大きな滅菌
ドレープを用意する(マキシマル バリヤープリコー
ション)。
穿刺する場所
穿刺する場所は病室(ベッド上)では行わない事。清
潔状態が保てない事や出血などの重篤な合併症が起
こったときに対処できない事が大きな理由である。施
設によっては病棟の処置室で行うところもあるが,こ
ういった血管内にカテーテルを挿入する手技は,血管
撮影室あるいは透視室 , 透視のできる手術室で行うべ
きと考えている。これはワイヤーやカテーテルを挿入
時に透視下で確認しながら進めていく事が,安全な挿
入の基本だと考えるからである。
体位
従来,仰臥位で10∼20度頭を低くした trendelenburg
体位が勧められていたが,水平位でも問題ない。厚さ
数㎝程度の肩枕を両肩甲骨の間に入れ,顔を穿刺側の
反対に軽く向ける。肘関節を伸展させて肩関節は内転
させ,肩をいからせるように頭側に挙上させる。こう
することで鎖骨と第 1 肋骨との間隙が広くなり,穿刺
しやすくなる
(図 3)
。
*1
うっ血性心不全,頭蓋内圧亢進,重症呼吸不全の症
状がある場合は,他のアプロ−チを選択する。
前処置
右肘静脈に血管確保。モニタリングをつけるので右
胸につけるモニターは右肩後ろにつける
(図 3)。
穿刺部中心に下顎から頸部,対側鎖骨起始部,穿刺
側乳頭付近まで皮膚消毒を行い,不織布を掛けて,十
分な広さの清潔エリアを確保する。
透視下,超音波下穿刺
穿刺時には超音波を使用したり,透視下で造影剤を
肘静脈から造影しながら穿刺してもよいが,その後は
透視下でワイヤーの進行方向を確認しながら行うので
a b
図 2 鎖骨下動静脈と胸腔
白矢印は鎖骨下静脈,それより上のスライスの黒矢印は鎖骨下動脈。図 4b では腋窩付近では動静脈は左右方向に並
走しているが,鎖骨中央部では穿刺方向
(前後)
に動静脈が併走しており,しかも胸腔に接している事がわかる。
76(222)
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透視室あるいは血管撮影室で行う事が望ましい。
超音波下の穿刺は熟練が必要である。穿刺部位は超
音波の届く鎖骨外側端か腋窩静脈で,プローベは小型,
高周波探触子(7.5MHz)
を推奨する。
穿刺には短軸と長軸アプローチがある。短軸アプ
ローチの方が動脈も一緒に描出できるので短軸アプ
ローチを勧める。その際,腕を真横に伸ばして静脈が
一直線になるようにする。そうしてプローベを swing
し 静 脈 の 長 軸 を と ら え る。 体 位 は trendelenburg,
valsalva 法で静脈径を拡大した状態にする。針先を確
認する方法として Acoustic shadow,多重反射,針先
を細かく動かして隣接する組織が牽引されるのを確認
する。
透視下穿刺は造影剤を注入しながらできるだけ肺に
かからないところを穿刺するので,鎖骨下というより
むしろ鎖骨下外側端あるいは腋窩に近いところを穿刺
する事になる。静脈弁はできるだけ穿刺しないように
する。穿刺の際には透視下で針と静脈が重なるように
穿刺する事である(図 4a)
。実際は慣れていない医師で
は右鎖骨下静脈に対しては左から右へ穿刺する傾向が
あり,いかにも針先が静脈を穿刺したように見えても
これでは血管内には入らない。この利点は静脈と肺を
視野にいれながら穿刺できるので肺を穿刺する事はな
い。図 4b で示すように鎖骨外側端では動静脈は並走
図 3 体位とモニタリング
モニターは右鎖骨外側端付近を穿刺するので右肩後ろ僧帽筋付近に添付する。
体位は厚さ数㎝程度の肩枕を両肩甲骨の間に入れ,顔を穿刺側の反対に軽く向ける
a b
図 4 CT 解剖と透視下穿刺
a : 透視下に造影剤を注入しながら穿刺しているところ。肺を穿刺しないよう腋窩付近で穿刺している。
針は外側から刺入しておりこれでは穿刺できない。静脈と針が透視下で重なるように穿刺する。
b : 矢印は静脈でその頭側に動脈が並走しているので,腹側から穿刺する場合には動脈穿刺の可能性は低い。
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技術教育セミナー / 臓器穿刺の技術
しており,前後に穿刺する際には動脈を誤穿刺する可
能性は低いが,それでも動脈を穿刺する危険性はある。
しかし胸腔内に漏れる事はなく,たとえ動脈を誤穿刺
したとしても圧迫止血が可能である。我々の経験でも
動脈を穿刺した事はない。これは静脈に針があたった
ときは造影剤が圧排され,透視では白くなる事で確認
できるので,それ以上深く穿刺しないようにしている
からと思われる。針が静脈内に入っても刺入角度に
よってはガイドワイヤーが中枢に向かわず末梢に進む
事がある。この場合は針先を皮膚の上から押さえて角
度を変える事により中枢に向きを変える事が可能な時
がある。
カテーテル挿入
カテーテル挿入に関してはダイレーターで拡張する
時もカテーテルを挿入するときも必ず透視下にガイド
ワイヤーに沿って進める事である。経験のない医師で
はスムーズにカテーテル挿入ができない時など,力を
入れるためかガイドワイヤーの方向と違った方向にカ
テーテルが向かう事がある。特にダイレーターのよう
に先端が硬いときは危険である。
カテーテルの留置は右主気管支のレベルといわれて
いるが,透視下に右房に入っていない事を確認する必
要がある。また奇静脈に入っている可能性もあるので,
できたら側面でも確認する事が大切である。カテーテ
ル先端が SVC や右房にあたって穿破し,心タンポナー
デで死亡した症例が過去に多数存在する。
合併症
CVC 挿入に伴う合併症の頻度は表 2 に示した。動脈
の誤穿刺は内頸静脈,大腿静脈穿刺の方が鎖骨下に比
べて高いが,重篤な合併症となりやすい血胸の頻度は
表 2 CVC 挿入に伴う合併症の確率
物理的合併症
内頸静脈
鎖骨下静脈
大腿静脈
動脈穿刺
6.3∼9.4%
3.1∼4.9%
9.0∼15%
血腫形成
0.1∼2.2%
1.2∼2.1%
3.8∼4.4%
血胸
気胸
0.4∼0.6%
0.1∼0.2%
1.5∼3.1%
感染
4.5%
19.8%
敗血症
1.5%
4.4%
血栓形成
1.9%
21.5%
1 Merrer J, De Jonghe B, Golliot F, et al : Complications of
femoral and subclavian venous catheterization in critically
ill patients : a randomized controlled trial. JAMA 286 :
700 - 707, 2001.
2 McGee DC, Gould MK : Preventing complications of central
venous catheterization. N Engl J Med 348 : 1123 - 1133,
2003.
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鎖骨下静脈穿刺がもっとも多い。
気胸
穿刺時に抵抗がなくなり空気を引いたと感じた時
は,気胸になっている可能性が高い。注意深い観察が
必要である。人工呼吸器で陽圧換気を行っている場合
は持続的胸腔ドレナージが必要となる可能性が大き
い。肺気腫で肺が過膨張している患者には,鎖骨下を
選択しない事も考慮する。
気胸は穿刺時だけでなく遅発性気胸の事もある。そ
の確率は鎖骨下穿刺で 0.4 ∼ 0.6%といわれており,発
生時期は 24 時間後,数日後,最長 10 日後という報告
もある。遅発性気胸の死亡例も報告されている。
中心静脈穿刺後はたとえ直後の透視や胸部単純で異
常がなくても,遅発性気胸発生の可能性を考慮に入れ
3 ∼ 6)
。
て経過観察を行う
血胸,血腫
鎖骨下動脈穿刺で発生することが多いが,経験の浅
い医師が何回も穿刺したあげく大量の血胸を引き起こ
す事が多いと思われる。特に図 2 で示したように鎖骨
下動静脈は陰圧の胸腔に隣接しているので,大量出血
となりやすい。内胸動脈など動脈穿刺で出血している
時は,塞栓術や時にはカバードステントによる治療や
一時的にバルーンで閉塞して手術に持ち込む事も考え
なくてはならないので,そういった器具が用意されて
いる血管撮影室で行う方がリスクマネージメントとし
ては優れている。血胸だけでなく縦郭内に出血する事
もある。
血腫が増大して気管の狭窄を来たす場合は気管内挿
管を行う事も予想される。
空気塞栓
内套を抜いて外套に注射器を接続する時やガイドワ
イヤー挿入時に胸腔内圧が急激に下がると,空気が血
管内に入る可能性がある。これらの操作時に外套入口
部を指でふさぐようにする。
水胸
カテーテルが内頸静脈や無名静脈に迷入したまま放
置すると,血管壁を損傷する可能性があるので,透視
下に留置位置を変更する。また,胸腔内にカテーテル
が迷入し,これに気付かず多量の輸液が入ると大変危
険である。血液の逆流は必ず確認すること。
カテーテル留置から水胸発生までの期間は,3 日以
7)
内が 59%,1 週間以内が 85%。石橋の報告例は 21 日 ,
9)
Tayama の報告例は 47 日 。1 年 4 ヵ月の例もある。
発生機序としては,カテーテルの位置異常,輸液内
容の性質(高浸透圧)その他⇒血管壁・心臓壁の穿孔⇒
点滴内容液の胸腔内貯留が考えられる。
カテーテルの位置異常としては山下によると,穿孔
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部位の確認された 27 例中 24 例が上大静脈以外(14 例
8)
は右室,9 例は右房) 。石橋の例も Tayama の例も水
胸発生時のカテーテル先端がコイリングしていた。
高カロリー輸液や脂肪製剤は浸透圧差により血管内
膜を損傷する可能性がある。致死率は 57%と非常に
7 ∼ 9)
。
高率である
その他の合併症として腕神経叢損傷,動静脈瘻,乳
糜胸(左鎖骨下静脈穿刺で起きる)が挙げられるが,非
常にまれである。
【文献】
1)CV カテーテル・デバイス懇話会編集:CV カテー
テル管理に関するスタンダード化を目指したガイ
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