第 5章 電磁エネルギー

環境基礎物理学演習 2009
第 5 章 電磁エネルギー
第 5 章 電磁エネルギー
§ 5.1 静電気と電位
1. 電荷
原子の構成
物質を構成する基本要素である原子 (atom) は、中心にある原
子核と、その周囲の軌道上の 電子 (electron) 群から構成される。
原子核は陽子 (proton) と中性子 (neutron) などの素粒子の結合体
であり、陽子と中性子を合わせて 核子 (nucleon) という。Fig. 6.1
は、通常の気体状態のヘリウム原子の概念図である。
通常の陽子は、1.60 × 10−19 [C] の一定の電荷を持つ。この電荷
量は電気素量 といわれる 、また通常の電子も同じ電気素量だけの
電荷を持つが、その符号は陽子とは逆である。∗1 慣用的に陽子の
持つ電荷の符号を正、電子の持つ電荷を負と定義している。
図 5.1
電荷の移動と保存
イオン化していない原子では陽子と電子の数は同じであるため、正の電荷と負の電荷が釣り合って、原
子は全体として電気的に中性である。しかし、外殻の電子は原子核との結合が弱く、異種の物質をこすり
合わせるだけで容易に他の物質の方へと移動する。これは湿度の低い冬などに、金属に触れると「感電」
したようになることで、実感できる。なお、この現象の発見は古く、ギリシャ時代の文献にも見られる。
理科の実験では、毛皮とエボナイト棒を使うのが一般的である。この場合、毛皮の電子が負の電荷とと
もにエボナイト棒に移動する。これによりエボナイト棒は正の電荷より負の電荷の方が多くなり、これを
「エボナイト棒が負に 帯電 した」という。 一方毛皮は電子の負電荷の移動により相対的に正の電荷が負
の電荷よりも多くなり、正に帯電する。したがって、エボナイト棒の負の帯電量と、毛皮の正の帯電量の
大きさは等しく、全体として電荷の総和は変わらず、中性である。
2. 静電誘導
金属結晶などでは、電子が特定の原子核とは結合せず、自由に
動き回ることができる。このような電子を 自由電子 といい、自由
電子を多く持つ物体を 導体 という。
-- --
導体に正に帯電した物体を近づけると、導体中の自由電子はそ
の物体に引きつけられ、その物体の側に負の電荷が集まって負に
帯電する。一方その物体の反対側は電子が移動してしまい、正に
帯電する。
逆に導体に負に帯電した物体を近づけると、導体中の自由電子
+
-
++++
+
- + +-
----
はその物体に反発し、その物体の反対側に負の電荷が集まって負
に帯電する。一方その物体の側は正に帯電する (Fig. 5.2)。この現
図 5.2
象を 静電誘導 (electrostatic induction) という。
∗1
なぜ「通常の」という限定をつけたかというと、負の電気素量の電荷を持つ反陽子 (antiproton)、正の電気素量の電荷を持つ
陽電子 (positron)、というものが存在するからである。
− 87 −
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3. 静電気力
クーロンの法則
静電誘導から、異なった符号の電荷どうしは引き合い、同じ符号の電荷どうしは反発することがわか
る。したがって、2 つの帯電した物体の間には、お互いに引きつけ合う力 (引力) や、反発し合ったりする
せきりょく
力( 斥 力 ) が働く。この力のことを、静電気力あるいはクーロン力 という。物体 1 および物体 2 の電荷
を符号を含めてそれぞれ q1 [C]、q2 [C] とすると、クーロン力は次の式で表される。
法則 5.1 クーロン (Coulomb) の法則
電荷 q1 をもつ物体は、~r だけ離れた電荷 q2 を持つ物体に、次式で表されるクーロン力を及ぼす。
~f =
1 q1 q2 ³~r ´
4 π ε0 r2
r
(5.1)
力の向きは電荷の符号が異なれば引力。符号が同じならば斥力となる。 また作用反作用の法則により、
逆に電荷 q1 はこの符号を反転した力を、電荷 q2 の物体から受けることになる。
3 個以上の帯電した物体が互いに静電気力を及ぼし合うときには、ある物体に対して他の物体が及ぼす
力の合力は、それぞれの物体から受ける静電気力のベクトル和になる。
面電荷によるクーロン力
電荷の数が非常に大きい場合には、電荷は空間に連続的に分布しているとみなすことができる。電荷が
平面上に単位面積当たり σ の割合の割合で分布するとき、これを 面密度 σ で分布するという。
いま無限大の面密度 σ の電荷を持つ、無限大の広さの平面を考え、その面から距離 L だけ離れた点 P
に単位電荷を置いたときに、その電荷に働く力を計算する。
簡単のため、P から電荷の分布する平面に垂線をおろし、交差した点を原点とし、点 P の方向に z 軸を
とり、それと直角に面上に (右手系で)x, y 軸をとる。点 P の座標は、(0, 0, L) と表される。
点 P に働く力は、面上のすべての電荷 q1(i) についての和であり、次の積分に置き換えることができる。
∞
∑
i
Z ∞Z ∞
1 q1(i) ~
σ
r=
~r dx dy
3
3
4 π ε0 r
−∞ −∞ 4 π ε0 r
(5.2)
ここで、~r は q1 から q に向かうベクトルであるから、~r = (−x, −y, L)、r =
(5.2) 式の形では計算しにくいので、R =
p
p
x2 + y2 + L2 である。
x2 + y2 、θ = arctan(y/x) という極座標に変換する。このよ
うに変数変換することにより、半径 R から半径 R + dR までのリング状の面電荷による力の和は、z 軸に
垂直な成分はお互いにうち消され、平行な成分のみ残ることになる。したがって (5.2) 式の右辺の積分の
x 成分、y 成分は 0 になる。z 成分については、積分変数変換の公式、
¯
¯
¯ ∂x ∂y ∂y ∂x ¯
¯ dR d θ
dx dy = ¯¯
−
∂R ∂θ ∂R ∂θ ¯
(5.3)
に、x = R cos θ 、y = R sin θ を代入して計算すると、dx dy = R dR d θ であるから、次の形で表される。
Z ∞
0
2π σ RL
σ
√
dR =
2 ε0
4 π ε0 ( R2 + L2 )3
Z ∞
0
すなわち単位電荷に働く力は、(0, 0,
σ ¯¯ −L ¯¯∞
σ
2R
√
√
=
dR =
¯
¯
2 ε0
2 ε0
2 ( R2 + L2 )3
R2 + L2 0
σ
) であり、電荷と平面との距離にはよらない。
2 ε0
− 88 −
(5.4)
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4. 電場
電場と静電気力
クーロン力の問題を考えるには、重力の問題と同様に、場の概念が有効である。すなわち、電荷をある
場所に配置すると、その電荷により空間に「何か」が変化する。その空間の離れた場所に他の電荷を置く
と、その電荷は離れた場所にある元の電荷から影響されるのではなく、その場にある「何か」によって影
響を受ける、と考えるのである。その「何か」のことを、(静) 電場 または 電界 という。
電場の強さは、電場中に正の単位電荷をおいたとき、その電荷に働く力によって表され、力ベクトルの
向きを電場の向き、その大きさを電場の強さ、という。すなわち、電場は座標のベクトル関数 ~E(x, y, z) と
して表される。
一般に、電場 ~E(x, y, z) の中に電荷 q を置いたときに、電荷の受ける力 ~F(x, y, z) は、
~F(x, y, z) = q~E(x, y, z)
(5.5)
で表される。
点電荷による電場
大きさが無視できるくらい小さく、有限の電荷量を持つ物体を考え
る。これを 点電荷 という。
いま、電荷量 q1 の点電荷を座標原点においたとき、それによって生
じる電場 ~E(~r) を求める。仮に電荷量 q2 の電荷を電場中に置いたとき、
q2 の電荷の受ける力は、(5.5) 式より、
~F(~r) = q2 ~E(~r)
(5.6)
である。この力は静電気力の式 (5.1) と一致しなければならないから、
図 5.3
1 q1 ³~r ´
~E(~r) =
4 π ε0 r 2 r
(5.7)
である。q1 が負の場合の電場の様子を、図 5.3 に示す。このように点電荷による電場は放射状に広がり、
原点に近いほど強い。
一様な面密度で分布する電荷による電場
前述した、無限大の広さの平面に面密度 σ で分布する電荷による電界を求
める。
電荷の分布する平面を z = 0 とすると、電場中におかれた電荷 q に働く力は
対称性により z 軸に平行となる。その大きさは、(5.4) 式および (5.5) 式より、
|~E | =
σ
2 ε0
+
+
+
+
(5.8)
となる。電場の向きは、z > 0 では上向き、z < 0 では下向きであり、その大
きさは場所によらず一定である。
図 5.4
図 5.4 に、この電場の様子を示す。
− 89 −
+
+
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5. 電位
電気力線
静電場の中に置かれた正電荷を、静電気力の受ける方向にしたがって動かしていくとき、その軌跡を電
気力線という。すなわち図 5.3 あるいは図 5.4 の電場のベクトルを連ねた線が、電気力線となる。
電気力線は以下のような特徴を持つ。
· 正電荷から出て負電荷に入る。あるいは無限遠に発散する。
· 電気力線の接線の方向は、その点の電界の方向に一致する。
· 全ての場所で電気力線は方向が 1 つ決まる。すなわち電気力線は交わったり、枝分かれしたりしない。
電荷から出る電気力線の密度を、電界の強さに比例して引くことにより、離れた場所での電界の変化の
様子を知ることができる。図 5.3 の点電荷の場合、原点を離れるにつれて次第に電気力線の密度が小さく
なり、電場が弱まることがわかる。一方図 5.4 の面上の電荷による電界の場合、電気力線の密度は変わら
ないので、電場の強さは一様である。
電位差と電位
電気力線に沿って電荷を動かすと、力の方向に移動するので、電場は電荷に対して仕事をする。一般に
2 つの座標点 A、B を移動する間に、電場が単位電荷に対してする仕事を、電位差 または 電圧 という。ま
た適当なところ ∗2 を基準電位にとるとき、その基準点からの電位差を、電位 という。これらの SI 系での
単位は、[V](ボルト) である。
一方、電気力線に垂直に電荷を動かすと、力と垂直な方向に移動することになるので、電場が電荷に対
して行う仕事はゼロである。したがって、電気力線群に垂直な (曲) 面上の点同士の電位差はゼロであり、
電位は等しい。この面を等電位面 、二次元の場合ならば 等電位線 という。
点電荷のまわりの電位
電荷量 q1 の電荷を原点においたとき、(5.7) 式で表された電場から導かれる周囲の点の電位 φ は、対称
性から原点からの距離 r だけの関数であり、
φ (r) =
1 q1
+ φ0
4 π ε0 r
(5.9)
と表される。無限遠点を基準 (ゼロ) とすれば、φ0 の項は消去できる。∗3 これはすべての点で正の値を取る。
一方、原点に負の電荷をおいたときには、すべての点で負の値を取る。複数の電荷を別々の点においた
ときに、特定の点の電位を求めるには、それぞれの電荷 qi までの距離 ri を求めて、電荷量と距離を (5.9)
式にそれぞれ代入して、その符号も含めた和を取ればよい。
一様な面密度で分布する電荷による電場
無限大の広さの平面に面密度 σ で分布する電荷による電位は、(5.8) 式より電位を求める点と電荷の分
布する面との距離を z とすると、
φ =
σ
z + φ0
2 ε0
(5.10)
と表される。この場合等電位面は平面に平行になり、電位差は電荷の分布する面からの距離に比例し、電
荷が正の場合負、電荷が負の場合正の値を取る。
∗2
大地 (アース) あるいは無限遠点がよく使われる
∗3
ベクトル表記すれば、~E = −grad φ である。
− 90 −
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§ 5.2 電気回路
1. 電流
電子やイオンなどの荷電粒子の流れを電流 といい、正の電荷の流れる向きを正とする (電荷の本体は多
くの場合電子であるから、これは電子の流れとは逆の方向に流れることになる)。電流の大きさは、1 秒間
に 1 クーロンの電荷が流れるときを 1 アンペア (A) として、これを単位にして表す。
一定の大きさと向きで流れる電流を直流 といい、一定の起電力を持つ電源を直流電源、直流電源よりな
る回路を直流回路という。一方、時間的に正弦曲線 (sine) で変化する電流を 交流 、そのような起電力を
持つ電源を交流電源といい、家庭用電源に使われている。これ以外に、電圧は変化するが符号は変わらな
い脈流、あるいはサーボモータなどの制御に使われる矩形波などがある。
2. 抵抗
電気抵抗
一般に物体の 2 点間に電圧をかけるとその間に電流が流れる。このと
きその電流値は 2 点間の電圧差 (電位差) に比例する。この比例定数 R を
オーム
電気抵抗、あるいは単に抵抗 (reactance) という。抵抗の単位は Ω で 1
[Ω] = 1 [V/A] である。これらの間には、次の関係がある。
R
I
V
図 5.5
法則 5.2 オームの法則
2 点間の電位差を V 、2 点間を流れる電流を I 、抵抗を R とすると、次の関係が成り立つ。
V = I R
(5.11)
ミクロに見た抵抗の実体
電流とは、抵抗体の自由電子が電圧と逆方向に力を受けて (電子の電荷は負) 加速されて抵抗体の中を移
動する現象である。このとき抵抗体の熱振動する分子 (自由電子が抜けたため正に帯電している) に定期
的に衝突し、移動のエネルギーが熱エネルギーに変わる。抵抗体の単位断面積、単位電流あたりの抵抗値
は物質によって決まり、一般に銅などの金属では小さく、非金属で大きい。
ジュール熱
このとき発生した熱を、ジュール熱 という。ジュール熱の単位は、一般に発生した熱量 Q[J] を、費や
した時間 T [sec] で割った、仕事率 W [W] で表す。
抵抗値を R[Ω]、電流を i [A]、抵抗の両端の電圧を V [V] とすると、単位時間あたり発生する熱エネル
ギー W [W] は、次の式で表される。
W =V I = I2R =
V2
R
(5.12)
抵抗の性質
いま、ある抵抗の断面積をそのままに、長さがその 2 倍であるような別の抵抗を考えると、電流のエネ
ルギーが熱エネルギーへと変換する長さも 2 倍となるので、その抵抗の抵抗値は元の 2 倍となる。このよ
うに抵抗値は導線の長さに比例する。
今度は逆に抵抗の長さはそのままに、断面積を 2 倍にした抵抗を考えると、これは元の抵抗を 2 つ並列
につなぐことに相当し、それぞれに元の抵抗と同じ電流が流れるから、この抵抗を流れる電流は 2 倍にな
る。したがって、(5.11) 式より、抵抗値は元の抵抗の 1/2 になる。このように、抵抗値は導体の断面積に
反比例する。
− 91 −
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合成抵抗 1-直列接続
導線の長さによる抵抗変化を一般化して、2 つの抵抗 R1 と R2
R1
R2
を直列につなぎ、これらを一つの抵抗 (合成抵抗 ) とみたときの抵
図 5.6
抗値を考察する。ここでそれぞれの抵抗の両端の電圧を V1 、V2 、
抵抗を流れる電流を I1 、I2 とする。
まず、抵抗 R1 で流れた電流は、電荷が不滅であることから、そのまま抵抗 R2 を流れる電流でなければ
ならない。すなわち、I1 = I2 であり、これが合成抵抗を流れる電流 I になる。
一方、合成抵抗の両端の電圧 V は、それぞれの抵抗の電圧の和になる。すなわち、V = V1 +V2
これより合成抵抗 R は、オームの法則より、以下の式で表される。
R=
V
V1 +V2 V1 V2 V1 V2
=
=
+
=
+
= R1 + R2
I
I
I
I
I1
I2
(5.13)
合成抵抗 2-並列接続
次に、導線の太さによる抵抗変化を一般化して、2 つの抵抗 R1 と R2 を並
R1
列につないだときの合成抵抗値を考察する。やはりそれぞれの抵抗の両端の
電圧を V1 、V2 、抵抗を流れる電流を I1 、I2 とする。
R2
まず電荷の不滅の法則から、合成抵抗を流れる電流は、2 つの抵抗を流れ
る電流の和になる。すなわち、I = I1 + I2
図 5.7
一方、合成抵抗の両端の電圧は、それぞれの抵抗の両端の電圧に等しい。
すなわち、V = V1 = V2 。 ここで I1 = V /R1 、I2 = V /R2 だから、これらを電流の式に代入して、
I=
V
V1 V2
V
V
1
1
1
1
1
= I1 + I2 =
+
=
+
= V ( + ) すなわち、 =
+
R
R1 R2
R1 R2
R1 R2
R R1 R2
(5.14)
定理 5.1 合成抵抗の計算式
2 個の抵抗 R1 、R2 を接続したときの合成抵抗 R は、以下の式で求められる。
(1) 直列接続のとき ⇒ R = R1 + R2
1
1
1
+
(2) 並列接続のとき ⇒ =
R R1 R2
JIS の色表示
抵抗の大きさは右図のように、素子上に JIS で規定された色帯として
表示される。C1 ,C2 ,C3 ,CE , の色は JIS の色対応表により、それぞれ数字
C1 C2 C3 CE CA
1 個に対応している。
数字
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
色
黒
茶
赤
橙
黄
緑
青
紫
灰
白
図 5.8
これらにより抵抗値は、 C1 C2 C3 × 10CE [Ω] という式で表される。 たとえば、C1 = 橙、C2 = 黒、
C3 = 黒、CE = 茶 であれば、300 × 101 であるから、3000[Ω] = 3k[Ω] の抵抗であることを表す。
抵抗の精度によっては、C3 が略されるものもある。この場合の抵抗値は C1 C2 × 10CE [Ω] という式
で表される。
他の色帯と少し離れた色帯 CA は抵抗の精度を表す。 この色帯が金色であれば抵抗の精度は 5%、茶色
であれば 1%である。
− 92 −
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超伝導
いくつかの特定の物質では、それぞれの物質によって決まる特定の温度よりも低温であり、かつ流れる
電流が一定値以下のときには、電気抵抗が完全にゼロになる。これを超伝導現象 といい、そのような性質
を持つ物質を超伝導物質 という。現在では常温近くまで超伝導の性質を維持する物質が開発されていて、
リニアモーターなどの大電流を必要とする機器への応用が期待されている。
3. コンデンサー
平板コンデンサーの構造
コンデンサは、向かい合った 2 枚の極板で構成される。極板の大きさ
に比べて間隔がきわめて小さい場合には、極板は実質的に無限平面と見
なしてよい。
コンデンサーの極板間に電圧 V をかけると (右図、コンデンサーの上
は直流電源記号)、電荷が低い側に接続された極板には負の電荷が次第に
たまっていく。この現象をコンデンサーの 充電 という。この充電は、極
板にたまった電荷の面密度が、次節の関係を満たすまでつづき、そこで止まる。
C
+Q +
+ -- -Q
+ + -
V
図 5.9
コンデンサーの容量
コンデンサーの極板の間隔を d とすると、極板の間の電場 E と電位差 V は、V = E d の関係がある。ま
た、コンデンサーの一方の極板に蓄えられた電荷を Q、極板の面積を S とすると、電荷の面密度 σ とは
Q = σ S の関係があるから、これらを (5.4) 式の z 成分に代入すると、
Q
V
=
d
2 ε0 S
の電場が、極板の片側に分布する電荷から得られる。
一方極板の反対側には、静電誘導により同量の、符号が逆の電荷が導かれるので、この電荷による電場
を上の電場に加えると、極板の外では打ち消し合い、極板間では 2 倍になる。すなわち合わせた電位差は、
V
Q
=
d
ε0 S
(5.15)
ここで、電荷 Q と電位差 V の比、
C=
Q ε0 S
=
V
d
(5.16)
は各コンデンサーに固有な量であり、電気容量 (capacitance) という。単位はファラッド [F] である。
誘電体
平板コンデンサーでは極板間隔 d を小さくすることが技術的に困難なので、蓄えられる電荷量はそれほ
ど大きくできない。そこでこれを大きくするために、極板間に不導体を挿入することが行われる。不導体
に電圧をかけると分極を起こすが、一般に物質の誘電率 ε は真空の誘電率 ε0 より大きく、これがかかっ
た電圧を押し下げる方に働く。電圧を元のように上げようとすれば、それだけ大きな電荷が必要になり、
全体の電気容量は増加することになる。この意味で不導体のことを 誘電体 という。誘電率 ε の誘電体を
極板間に挿入したときのコンデンサーの電気容量は、次の式で表される。
C=
Q εS
=
V
d
(5.17)
− 93 −
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直流回路中のコンデンサー
直流回路中のコンデンサーに電圧 V を掛けると、コンデンサーには次第に電荷がたまっていく、これを
コンデンサーの充電という。やがて (4.13) 式によって決まる、Q = CV に達するとそれ以上の電荷はたま
らず、Q の電荷を保持し続ける。
ここでコンデンサーの電圧を 0 にすると、コンデンサーは回路に対して電荷を放出する。すなわち電流
が流れる。そしてすべての電荷を放出する。これをコンデンサーの 放電 という。この短い期間には、コ
ンデンサーは電池のように働く。
この間、コンデンサーを通過する直流電流は常に 0 である。すなわちコンデンサーは直流を通さない。
合成電気容量 1-並列接続
C1
抵抗と同様に、2 個のコンデンサーを接続したときの、合成電気容量を考
察する。コンデンサーの電気容量を、それぞれ C1 、C2 、コンデンサーの両
端の電圧を V1 、V2 、満充電時のコンデンサーに蓄えられた電荷量を Q1 、Q2
C2
とする。
まず、並列なのでコンデンサーの両端の電圧は等しい。すなわち、V =
V1 = V2
図 5.10
つぎに、合成コンデンサーの電荷量は、それぞれのコンデンサーの電荷量
の和となる。すなわち Q = Q1 + Q2
ここで Q1 = C1 V1 、Q2 = C2 V2 を上式に代入すれば、
Q = CV = Q1 + Q2 = C1 V1 +C2 V2 = C1 V +C2 V = (C1 +C2 )V
(5.18)
合成電気容量 2-直列接続
今度は、2 個のコンデンサーを直列に接続した場合の、合成電
C1
C2
気容量を計算する。やはり、コンデンサーの電気容量を、それぞ
れ C1 、C2 、コンデンサーの両端の電圧を V1 、V2 、満充電時のコン
デンサーに蓄えられた電荷量を Q1 、Q2 とする。
図 5.11
まず、合成したコンデンサーの両端にかかる電圧は、2 個のコ
ンデンサーにかかる電圧の和になる。すなわち、V = V1 +V2 。
電荷に関して、コンデンサーとコンデンサーの間の部分に注目する。電圧がかかる前は、この間の電荷
総量は 0 であった。したがって、電荷不滅の法則により、電圧がかかった後も、一方の側にある正電荷量
と、他方の負電荷量の和は等しいはずである。すなわち Q1 = Q2 、したがって、
V =
Q
Q1 Q2
Q
Q
1
1
= V1 +V2 =
+
=
+
= Q( + )
C
C1 C2
C1 C2
C1 C2
これらより、以下の定理を得る。
定理 5.2 合成電気容量の計算式
2 個のコンデンサー C1 、C2 を接続したときの合成電気容量 C は、以下の式で求められる。
(1) 並列接続のとき ⇒ C = C1 +C2
1
1
1
+
(2) 直列接続のとき ⇒ =
C C1 C2
− 94 −
(5.19)
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4. 半導体素子 †
半導体の組成
抵抗が少なく電気をよく通す物質を導体、逆に抵抗が大きく電気を通しにくい物質を不導体という。 こ
れ以外に、条件によって電気の通り方が異なる物体があり、これを半導体という。 半導体が使われた歴史
は浅いが、今では電子機器に欠くことのできない素子となっている。
半導体の製作は、まず基礎となるシリコンあるいはゲルマニウムの純粋な結晶円盤 (ウエファー) を作る
ことから始まる。 その純度は 99.999999999% にも達する。 これを必要な大きさに切断し、リン (または
ヒ素) およびホウ素 (またはインジウム) を浸透させる。 シリコンは周期表の IV 族であるから、 V 族のリ
ンが浸透した部分は結晶格子から電子が 1 つ余分にはみ出すことになり、自由電子に富むようになる。 こ
れを N 型半導体という。 また III 族のホウ素が浸透した部分は逆に電子が足りずに、欠落部分 (正孔) に
富むようになる。 これを P 型半導体という。 半導体の素子は、これらの N、P 型半導体の組み合わせに
よって作られる。
ダイオード
図 5.12 の上段のように、N 型と P 型の半導体を組み合わせたものをダ
b
P
N
b
イオードという。
ダイオードは、図の左側、すなわち P 型が正になるように電圧をかけ
b
N
P
b
N
b
b
P
N
b
P
b
たときには (順電圧) 抵抗が小さく、電流が流れる。しかし逆方向に電圧
をかけたとき (逆電圧) には抵抗が非常に大きくなり、電流は流れなく
なる。
この性質を利用にして整流等に使われる。
図 5.12
トランジスタ
図 5.12 の下の 2 段のように 3 つを組み合わせたものをトランジスタ
という。 中段を NPN トランジスタ、下段を PNP トランジスタといい、
3 つの端子を左からエミッタ、ベース、コレクタという。 下図は NPN
トランジスタを使った増幅回路の例である。左のコントロール電流の
変化が増幅されて抵抗に流れる。
LED
特殊なダイオードとして発光ダイオード (LED) がある。これは順電圧をかける
と発光する素子である。 LED は電球に比べて消費電流が少なくてすむという特徴
R
があり、現在では照明などに多く使われている。
LED の明るさは、LED を流れる電流によって決まり、電流が大きいほど明るい。
ただし、ある最大電流 Imax を越える電流を流すと壊れてしまう。また、LED を流
E
LED
れる電流は、LED の両端にかかる電圧 (印加電圧) できまるが、その特性は LED の
種類によって異なり、オームの法則には従わない。
そこで右図のように抵抗 (制限抵抗)R を入れて、E − R Imax が電流 Imax 時の印加電圧となるように調整
する。
その他の素子
これら以外にも、FET、トライアック、サイリスタ、オペアンプなどいろいろな素子があり、現在の電
子機器は半導体素子の組み合わせでできていると言ってもよい。
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環境基礎物理学演習 2009
第 5 章 電磁エネルギー
5. 電気回路に関するキルヒホッフの法則
直流と交流
電源、抵抗、コンデンサなどのそれぞれのユニットを回路素子といい、これらを閉じた経路でつないだ
ものを (電気) 回路 (circuit) という。このとき、回路の任意の点に流れる電流について、以下に述べるキル
ヒホッフの法則が成り立つ。
キルヒホッフの第一法則
回路上の任意の点について、次の法則が成り立つ。
法則 5.3 キルヒホッフの第一法則
回路上の任意の点に、流れ込む電流と、その点から流れ出す電流の和は等しい。
電荷は不滅であるので、定常電流が流れるときは流入する電荷と流出する電荷の量は同じでなければな
らない。ただし、コンデンサーが充電や放電を行っている場合には、第一法則は局所的、一時的に成り立
たなくなる。
これを回路の分岐点について適用すれば、右図のように流れ込んでくる電流
I1 と流れ出す電流 I2 、I3 との間に、
I2
I1 = I2 + I3
I1
の関係があることがわかる。
なお、この電流は向きを含めて符号を決めている。たとえば右図で I2 を逆
I3
向きに定義すれば、 I1 = (−I2 ) + I3 という式になる。
図 5.13
キルヒホッフの第二法則
また、回路中の任意の閉回路について、次の法則が成り立つ。
法則 5.4 キルヒホッフの第二法則
任意の閉回路に沿って、起電力の和と抵抗による電圧降下の和は等しい。
キルヒホッフの法則を使って特定の回路素子に流れる電流を決めるには、以下の手順に従う。
(1) 回路のすべての素子 n を通る電流を、向きも含めて変数 in とおく。
・ただし、コンデンサーは直流電流を通さないので、考えなくてよい。
・回路素子が直列に接続してある場合は、通る電流は同じなので、同じ変数を使ってよい。
(2) これらの電流同士の関係を、キルヒホッフの第一法則により記述する。
(3) いくつかの閉回路に沿って、起電力の和をと電圧降下の和をそれぞれ計算する。
起電力は、回路を回る向きに電池が (負)→(正) とおいてあれば加算し、(正)→(負) であれば減算する。
その回路に電池がなければ 0。
電圧降下は、回路を回る向きに電流 in が定義してあれば、in Rn を加算し、回路を回る向きと逆に電流
in が定義してあれば、in Rn を減算する。
それぞれの閉回路ごとに、これらを加えてその和を 0 とおく。
(4) (2) の式、(3) の式すべてを連立させて解く。
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環境基礎物理学演習 2009
第 5 章 電磁エネルギー
5 章 の 練 習 問 題 A
【 問題 5-1 】
ある物質 1 モルの分子の 0.1%が電離して、それぞれ電子を 1 個放出するとき、放出された負電荷の総
量を求めなさい。(付録の物理定数表を参照)
【 問題 5-2 】
極板の面積 S が 5.0cm2 、間隔 d が 1.0 mm の平行板コンデンサーの極板間に、誘電率 ε の誘電体を挿入
し、5.0V の直流電圧をかけたところ、両極板にそれぞれ 1.5 × 10−10 [C]、−1.5 × 10−10 [C] の電荷 Q が蓄
えられた。
(1) このコンデンサーの電気容量を求めなさい。
(2) 誘電体の誘電率 ε を求めなさい。
【 問題 5-3 】 (コンデンサーの直列、並列)
電気容量 1µ F のコンデンサー C1 と、同じく 2µ F のコンデンサー C2 がある。
(1) 今この 2 個のコンデンサーを並列につなぎ、両端に 12V の直流電圧をかけたとき、それぞれのコンデ
ンサーに蓄えられる電荷を求めなさい。
(2) 次に 2 個のコンデンサーを直列につなぎ、両端に 12V の直流電圧をかけたとき、それぞれのコンデン
サーに蓄えられる電荷を求めなさい。
✍ コンデンサーの両極の電荷は量が等しく符号が反対なので、どちらかを答えればよい。
【 問題 5-4 】
右図のように、起電力 E の電池 (直流) に、r[Ω] の抵抗と可変抵抗を直列
につないだ回路を考える。ただし、電池の内部抵抗、導線の抵抗は考え
b
なくてよい。
(1) 可変抵抗の抵抗が R[Ω] のとき、可変抵抗で消費される電力 P[W] を
求めなさい。
(2) 可変抵抗の抵抗値を変化させたところ、Rm [Ω] のとき、P は最大値を
示した。このときの抵抗 Rm を求めなさい。
(3) そのときの、可変抵抗の消費電力を求めなさい。
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E
b
R
>
r
b
b
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第 5 章 電磁エネルギー
5 章 の 練 習 問 題 B
【 問題 5-5 】
電気容量 C のコンデンサーに直流電圧 V をかけたとき、コンデンサーに蓄えられる電気エネルギーが、
CV 2
であることを示しなさい。
2
(ヒント) 片方の極板の電荷 dq を、電場に逆らって少しずつ反対側の極板に移動させるときの仕事、
v/d × d × dq = v dq を 0 から Q まで積分して総和を求める。
【 問題 5-6 】
右の直流回路で、電源電圧 E は 10V 、抵抗 R1 、R2 、R3 、R4 はすべ
て 1kΩ、コンデンサー C の容量は 1µ F である。
R2
(1) 抵抗 R3 を流れる電流を求めなさい。
C
R3
(2) コンデンサー C の両極に蓄えられる電荷量を求めなさい。
R1
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E
R4