第42(平成24年5月)「もうひとつの道」

第42号
平成24年
5月
HP に
山田整骨院
もう一つの道
熊本市中央区出水4-25-1
情報は、うのみにせず、注意深く
http://yamadasu.com/
徐々に試してください。
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創刊号から
連載中
096-364-7611
コレラ菌の話
―西
勝造先生のユーモラスな一面―
昭和 27 年
9月号
月刊西医学
たとえば、コレラ菌一匹の目方は0.00000000000033gでありま
す。ところが、この目にも見えない小さくて軽い一匹のコレラ菌も、20分間ごと
に一匹が二匹になり、二匹が四匹になり、四匹が八匹になり、八匹が十六匹になり、
十六匹が三十二匹になりというように、一昼夜二十四時間、分裂いたしますと(一
昼夜で七十二回の分裂)その数は実に四十七(丸が二十)00000000000
000000000匹、すなわち四十七億万兆匹であり、その目方は千五百五十一
トンとなるのであります。‥略‥そうしてみると、コレラ病といわれるものは、実
はコレラ菌で死ぬのではなくて、コレラ菌の食いすぎにより、吐瀉甚しく水分欠乏
の結果、死ぬるということになるのであります。つまり腹中で培養増殖の結果、コ
レラ菌の過食は、生体を護らんために排泄する。その上に恐怖と云う精神作用の結
果、更に血中に毒素を増殖するのであります。こう申しても、今の医者は、‥略‥
おそらく承知しないでしょう。しかし、たとえばさしみにしても、普通これを幾ら
分析をしても毒はありません。この毒のないさしみも、これは私が今の都の交通局、
元の電気局に奉職中、そこの職員に食わして実験したのですが普通の人は八人前、
最高は十六人前平らげたものもいましたが、これだけ食べると皆んな吐瀉をいたし
ます。近頃のさしみの一人前の目方は、どのくらいあるかは判りませんが、昔は平
均が二十三匁(一匁…3.75g)位でありました。私が計ったので、一番軽かったの
は、柳沢伯爵が芝で、料理屋をやっていたところのさしみで十七匁、最高は上野の
まるまんの三十四匁でありました。私はこの数字を出すためには、料理屋に行くた
びに、はかりを鞄から出し、隣の部屋に行き、パッと皿にあるのをあけて計ったも
のです。大正十一年ころのことです。浅草のいまあさで、例によってはかりを出し
て計っておりますと、遂に見つけられ、大兵肥満のおやじが出てきて、大変な目に
会ったことがあります。‥略‥かりに、さしみの平均を二十三匁とすれば、これの
八人前も食べれば、たいていの人は吐瀉してしまいます。けれども、分析上は一つ
も黴菌はおりません。だから、コレラにしても、決してコレラ菌そのものが、害を
なすのではなくてコレラ菌の過食なのであります。コレラ菌の食べ過ぎの結果、吐
瀉や下痢が始まるのであります。しかし体内に這入ったコレラ菌は、決して計算通
りに増えないのでありまして、増えては殺され、増えては殺されてとうとう耐え切
れなくなったとき、初めて吐瀉や下痢が始まる。それまでに大体一日とか三日くら
いかかる。これを、潜伏期と言っております。病人製造期と言ったほうが当たって
います。コレラで死ぬるのは、吐瀉や下痢による不正脱水の結果、グアニジン中毒
すなわち尿毒症によって死ぬるのであります。従って、水さえこれに適応して水を
飲む工夫さえすれば何でもないのであります。けれども、コレラとなると下痢や嘔
吐が烈しいので寒くて、とても水が飲めませんので、初めは摂氏四十三度くらいか
ら‥略‥激しいのになると摂氏四十八度から‥略‥(風呂)に入れて治した経験が
あります。未だ医師がコレラと診断がつかなかった時でした。治ってから、コレラ
と云って騒いでおりました。‥略‥こうして風呂の中に入れ、体を温めながら、水
をどんどん飲ませます。嘔吐も下痢も、全て風呂の中で、そのままさせます。コレ
ラ菌は、四十五度の温度で完全に死んでしまいますから、コレラ菌を殺すことは問
題ありません。
以下略
コレラ・パン
私は戦争中、コレラ菌でパンを作る機械の特許願を出したことがあります。ただ、
原料であるコレラ菌を扱うことが禁止されており、原料を明らかにすることが出来
ないので、そのままになっておりますが、何しろ原料は、一匹が一昼夜に千五百五
十一トンにもなるものですから、無尽蔵だと言ってよろしい。コレラ菌を、培養液
で培養したものを固めて、乾燥して粉末にし、それに二十五%くらいのウドン粉を
入れると、実に上等のパンが出来ます。かつて五人くらいで、試食会をやったこと
がありますが、
「中々粘りけがあって、うまいではないですか、一体、これは何です
か」
「コラパンというのです」
(笑)何さま、蛋白質は三十七%から四十%、それに脂
肪分、灰分などがあるのですから、栄養には申し分ありません。
解
以下略
説
西医学では食物に当たったら、即ち食中毒になったら、なにはともあれ水を沢山
飲んで毒を薄めて、吐くのが療法だと教わります。ただ、毒によっては例外的に水
を飲んではいけない場合もありますが、原則は水をいっぱい飲め、です。寒くて水
が飲めない時は風呂で体を温めて、水を飲ませることは初耳でした。料理屋で刺身
を計るというのは、正確なデータを集める科学者のやり方ですが、西先生らしいで
すね。コラパンのことは本当のような気がします。食物生態学者の西丸震哉氏が、
戦後食料難の時、鯨の遺がいに蠅がたかったので、幼虫をふりかけにして食糧事務
所の同僚に試食させた話がありますが、それを思い出しました。