寒冷期での水性塗料塗装のカギ

Pialex Technologies Engineering Report
寒冷期での水性塗料塗装のカギ
気温 0℃になる可能性のある寒冷期には一般的に水性塗料の施工は不可能である
とされていますが、具体的には「乾燥が遅くなり、しかも水分が凍りつくとエマルジョン
が破壊されて造膜しなくなる」という現象が危惧されるためです。乾燥を速めるために
は速乾性の有機溶剤を適量混合すればいいようにも思われますが
① 有機溶剤だけ先に揮発して、結局しばらく経つと溶剤は水だけになり元の木阿弥
② 有機溶剤にエマルジョンが溶解してゲル化する
という問題点が残っているためであり、一般的にエマルジョン系塗料にはグリコール
系やセロソルブ系等の沸点の高い造膜助剤を微量添加する以外は実用化されてい
ません。
当社では「共沸混合物」の概念を応用してこの①、
②の一挙解決をご提案します。
ふつう、(揮発性の高い)有機溶剤と水を混合すると
有機溶剤が先に蒸発するのですがある種の有機溶
剤は水と同時に蒸発しようとします。これはその有
機溶剤と水とが一定の比率のときに出現する現象
で「共沸混合物」といいます。
混合ガス
混ぜると沸
点降下
沸
点
混合液体
水の比率
溶剤の比率
共沸混合物の例 (出典:化学便覧 2003)
有機溶剤
比率 水:有機溶剤
沸点 /℃
エタノール
4:96
78.2
酢酸エチル
8:92
70.5
酢酸メチル
70:30
56.0
1-プロパノール
72:28
87.7
99:1
18.4
アクロレイン
一般的なエタノールや酢酸エチルのような溶剤は共沸混合物で水の比率が低すぎま
すからエマルジョンが溶けてゲル化してしまいます。エマルジョン安定化には水の比
率は最低限70%必要ですから選択肢は下列の 3 種類に絞られます。
アクロレインはわずか1%添加するだけで混合物の沸点が(理想的には)18.4℃に
まで低下しますが、これはあくまで①の問題が解決しただけで②は解決していません。
そもそもアクロレインは残念ながらアルデヒドの一種で人体に有害でもあります。
冬になるとクルマのラジエータに不凍液を添加しますが、これはモル凝固点降下を応
用したものです。水のモル凝固点降下はほぼ1.9K・kg/mol ですから、たとえば水を
含む溶剤 1kg の30%つまり300gの有機溶剤を混合して共沸混合物状態になった場
合の凝固点計算値を以下に示します。
酢酸メチルや1-プロパノールは不凍液並みに凝固点が下がり、凍りにくくなります。
実際に酢酸メチルを水性塗料の希釈剤に使って実験してみましょう・・・
水:有機溶剤混合物
モル質量
降下した凝固点/℃
沸点 /℃
0
0
100
エチレングリコール(不凍液)
62.07
-9.2
197.3(共沸混合物作らず)
酢酸メチル
74.08
-7.7
56.0
60.1
-8.8
87.7
56.06
-0.3
18.4
なし(水だけ)
1-プロパノール
アクロレイン
酢酸メチルはよくセメダインの溶剤で有名な酢酸エチル
と混同されますが芳香はそれに比べるとかなりマイルド
です。毒性も比較的低く価格は酢酸エチルの2割増し程
度ですので十分、塗料用溶剤として使用できます。
水性塗料(「水性コンポシリコン」:エスケー化研製品)の
溶剤成分中に30%添加して吹きつけてみました。実験
当日は室温 3℃の厳冬期で室内のため直射日光による
昇温も全くない状態です。
酢酸メチル添加
酢酸メチル添加品は乾燥が速いためダレも
生じにくく秀麗に仕上がります。水性塗料は
当初白色のエマルジョンが無色透明になっ
て乾きますから、「色が濃くなる」ことが乾燥
の速い証拠になります。
水のみ
上記の赤色試験板を使って基本的な物性・外観試験を実施してみました。
試験項目
水性塗料酢酸メチル希釈
水性塗料水希釈
1 時間
16 時間<
ダレのない均一で秀麗な塗面
ダレや流動ムラの生じた汚い塗面
100<
20∼25
F
2B>
指触乾燥(3℃日光照射なし)
仕上がり表面
72 時間後キシロールラビング
72 時間後鉛筆硬度
同じ水性塗料でありながら酢酸メチルを希釈剤に採用した場合は寒冷条件下での塗
膜性能や外観に顕著な向上効果が認められますので、関東地方以北での冬場の塗
装・吹きつけ工事に応用していただけます。
ただ、酢酸メチルはフルーツ臭とはいえ溶剤臭がしますので、臭気が問題になる可能
性のある場合には 1-プロパノールをご採用いただくほうが安全です。
我が国では「プロパノール」というと「イソプロピルアルコール(IPA)」のことですが米
国やヨーロッパでは一般的に「1-プロパノール」のことを指し化粧品成分等に多用され
ています。
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