島根県立隠岐島前高等学校の存続対策について 報告者 西和賀町議会議員 淀 川 豊 島根県の北東、日本海中の4つの主島と 180 余の小島からなる隠岐の島。そ のうちの中の島を「海士町(あまちょう)」といい今回の研修視察の目的の地 である。 奈良時代から遠流の地として後鳥羽上皇の配流の地としても有名であるが、 今、この海士町でこれまでの価値観を覆すような町おこしが行われている。 全国に吹き荒れた平成の大合併という風に巻き込まれることなく、地理的な 条件もあるが町単独町政を選択し、「守り」と「攻め」の両面作戦を地域が生 き残る戦略と考えた。「自分たちの島は自分たちで守る」ために住人代表と議 会・行政が一緒になり島の生き残りを賭けた「自立促進プラン」を平成19年 に策定しました。その内容は「守り」の戦略として職員給与カットなどの行財 政改革の断行と「攻め」の戦略としての一点突破型産業振興策として攻めの実 行部隊である産業3課(交流促進課・地産地商課・産業創出課)の設置による 島に雇用の場を増やすことである。 ↑高校魅力化プロジェクトの取組みについて、町営塾「隠岐國学習センター」 センター長の豊田庄吾氏からお話を伺う。 また、持続可能なまちづくりの原点は未来を支える人づくりが重要と考え、 -1- 人間力溢れる海士人の育成を進めるために教育委員会、健康福祉課、生活環境 課で連携し「人間力推進プロジェクト」を立ち上げました。このプロジェクト は町の目指す人づくりの指針を「人間力」として6つの要素と16の定義に分 類し、交流を通じて島内と島外相互の人間力の向上を狙うものでした。具体的 には海外との交流ということでは新宿日本学校との連携で外国人向けサマース クールの開催等、都市との交流ということで海士中学校の修学旅行での一橋大 学での講義や若手一流講師や大学生による出前講座・「AMA ワゴン」などを 実施している。これらの取り組みの結果、子供達の愛郷心の向上と地元若者の 活性化が図られた。これらの取り組みは 2009 年、今後 10 年間の町運営の指針 となる第四次総合振興計画「島の幸福論-海士ならではの笑顔の追求-」を策 定することにつながっています。 一般的な総合振興計画は、行政施策が一覧になっている難しい冊子しかあり ません。そこで海士町では、住民一人ひとりが主体的にまちづくりに関わるた めに「第四次海士町総合振興計画(別冊) 海士町をつくる 24 の提案」という 絵本のような冊子を制作。生活者の視点からの課題を抽出し、24 の「まちづく り具体案」が掲載されています。各具体案は、1 人でできることから 10 人、 100 人、1000 人の力を合わせてできることに分けて示しています。まちづくり の手順を紹介し、新たな提案を募るための提案シートも付属しています。 ↑隠岐島前高校を訪問し生徒確保の実務について、小山峰明教頭先生か取組み についてお話を伺う。 -2- 住民参画によって策定された「島の幸福論」の中で現在は5のプロジェクト が立ち上がりました。その一つに島内唯一の高校のブランディングを図る「島 前高校の魅力化プロジェクト」などの取り組みがあります。 島根県立島前高校は島前住民の高校教育にかける熱意により、昭和 33 年に地 元負担で校舎を建て独立した地域の学校でしたが、近年は少子化の影響を受け 入学者は激減、各学年 1 クラスとなっていました。 今後も生徒の減少が予想される島前高校はその存続すら不安視され県教委の 高校統廃合の基準である入学者21人を切る可能性も出てきた状況でした。離 島では高校がなくなれば本土の高校に通わざるをえない状況になります。片道 2~3 時間の通学が現実的でない状況を考えと、高校生がいる家庭は本土に移住 しなければなりません。高校生を抱える家庭はその弟や妹もおり、また、その 両親は島では働き盛りの世代・これからの地域の中心となっていく世代となり ます。この家庭が一家で移住した場合、地域の年代別構成で見ると、特に 15 歳から 18 歳までの年代がいなくなる。その下の年代と 30 代の年代もいなくな るという、これからの地域の存続にとっては重大な問題が起こることが予想さ れていた。 そこで、地域住民・議会・行政が共通の危機意識のもとで島前高校の存続に 動き出した。それが「島前高校の魅力化プロジェクト」などの取組の始まりで もある。このプロジェクトは島前高校を存続させるために島前内をはじめ全国 からも生徒があつまる魅力と活力ある高校づくりを目指したものであり、中高 生や保護者・教員からのアンケートやヒアリング、住民や議会との意見交換な どを重ね魅力化構想を完成させた。プロジェクトの目指すものは生徒一人一人 の夢の実現と言うことで夢に向けた進路実現が出来るように、町が物理教員の 加配や 2 コース制の開始・学校―地域連携型の公営塾の創設により魅力ある学 習環境の整備をはかった。 また、地域の未来をつくる人材の育成では島の文化を継承し、地域の未来を 創り出していける人材を育てることは、島前地域唯一の高校としての任務とと らえ「ヒトツナギ」「地域学」など島の豊富な地域資源を活用した教育の推進 や、グローバルな視点で地域を捉える人材を育てるための留学や国際交流をお こなった。 持続可能な魅力ある学校づくりの推進というテーマでは学校と地域が一緒に なって魅力化を進めていける協働体制づくりを行い「子育て・教育の島」とし ての教育ブランドを構築し子連れの若い家族の UI ターンを呼び込んでいくも のである。 今後の課題も挙げられているものの 2012 年の入試では 80 人の定員に対し志 願者が 50 名。そのうち県外からの受験者が昨年の2.6倍の21人に上がり、 その効果は顕著に表れていることは、「島前高校の魅力化プロジェクト」が大 きな原動力となったといえるだろう。 中山間地域で少子化により生徒数が激減している高校にとって先進的な取り 組みであり、我が西和賀高校の存続問題対策にも手本となる取り組みではない -3- かと思う。 今回の研修視察を終え感じるところは、離島という特殊性があるのかもしれ ないが地域の存続や高校の存続に対する危機意識の強さである。また、その危 機意識を島民すべてが共有していることが様々なプロジェクト立ち上げには欠 かせない土台となるものであると強く感じました。その思いがヒトを動かし地 域を動かし、都会をも巻き込み地域全体の活性化につながっていくのだと痛感 させられましたし、その意識に戦略を描ける人が動く。ビジネスではよく言わ れているがまちづくりにおいても WIN-WIN の関係・敗者がいない関係作りが 大切であることを改めて確認できた研修でありました。 ↑小山峰明教頭先生を囲んで記念写真(隠岐島前高校玄関で) -4-
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