岡本真理子他編著

2002年11月26日(火)
安全保障・秩序班
早田・橘・門屋
『マイクロファイナンス読本―途上国の貧困緩和と小規模金融―』
明石書店
第1章
定義
岡本真理子/粟野晴子/吉田秀美編著
マイクロファイナンスとは何か?
貧困層や低所得層を対象に貧困緩和を目的として行われる 小 規 模 金 融のこと。
*本書では、「途上国の零細農、小作農、農業労働者、都市および農村の零細事業主、職人等を
対象に行われる小口融資や、貯蓄などの金融サービス」をマイクロファイナンスとして 扱う。
目的
大まかに分類すると4つある。
表1−1
目的別に分類したマイクロファイナンス
設立時・開始時点の主たる目的
特徴
(1)貧困緩和
自営を助けることで所得向上と貧困緩和を実現する
(2)農業生産の促進
広範な農民へ、短期耕作資金を無担保で提供
(3)零細企業育成
零細企業に不可欠な営業資金を融資
(4)女性のエンパワーメント
自営業や起業家の女性を支援。女性の経済的自立を目指す
注目される理由
第2章
①貧困層への高い到達度
②高い返済率
③組織としての持続性
開発援助の歴史とマイクロファイナンス
・開発援助における2つの大きな変化の時期
1. 経済成長主義から、インフォーマル・セクター及び農村開発重視へ。
2. 貧困問題へのアプローチが無償の慈善事業型から自立支援型へ。
⇒このような変化の時期に、マイクロファイナンスは開発援助団体によって積極的にとりくまれ
るようになった。
第3章
マイクロファイナンスをめぐる議論
三つの立場
①国家主導の立場 ②市場の力を重視する立場
③市民社会の力を重視する立場
⇒それぞれが別個に機能するのではなく、相互補完的な役割が期待されている。
貧困の罠
1.物質的貧困 2.身体的弱さ 3.孤立した状態 4.不測の事態への抵抗力が弱い状態
マイクロファイナンスが果たす役割
(1) 所得の拡大 (2)消費の平準化・拡大/リスク対応力の強化 (3)住居の改善
(4)資産形成
(5)政治的効果
1
第4章
マイクロファイナンス実施のための制度作り
1.マイクロファイナンスに取り組む前に
マイクロファイナンスは①特定プロジェクトを推進する一手段②恒常的な金融制度を確立す
るのか、によって形態・実施スタイルが異なる
⇒マイクロファイナンスとの関わる位置づけによって、作り出すべき制度・採用すべき手段が
異なる
2.どのようなマイクロファイナンス制度が必要か
望ましい金融市場:利用者が条件に応じて金融機関を選択できる
(フォーマル性・取引規模・サービスの種類)
途上国の金融市場:近代的銀行・信用組合が未発達
①社会・経済基盤の未整備②金融取引における情報の非対称性③返済強制手段の不備
⇒法的地位を持たないインフォーマルな金融が根強く存在する(貧困層に不利)
⇒貧困層が適正な価格で適正なサービスを受けられる金融制度が整備される必要性
3.機関の性質と戦略の選択
関係しうる代表的な機関
①銀行②協同組合銀行③信用組合④講など(P94)
途上国の金融市場への対応力
①在地性②貸し手と借り手の双方向関係
機関の持続性 機関の営利性と貧困層志向の矛盾(利殖目的の株主が存在し収益性の低い小
口取引が困難になる)⇒貧困層志向政策を堅持する組織(P99)
⇔NGO 等の非営利機関は経済的インセンティブではなく道徳的充実感に支えられる
4.制度作りの枠組み→市場メカニズムだけでは制度を生むことは難しい→政府・ NGO の介入
(1)貧困層志向の高い機関を新たに設立する
①
NGO・ 個人のイニシアティブ(グラミン銀行)②政府主導(ネパール)
③労働者・同業者組合を基盤(SEWA 銀行…インド)
(2)既存の機関を活用
①
NGO がフォーマルな金融機関と貧困層を仲介する ②政府が環境を整備し、政府系銀
行の改革や商業銀行の参入を促進
(3)インフォーマルな金融の強化
①
NGO を通じ、その組織する貧困層・貯蓄グループへの融資
③インフォーマルな組織をフォーマル化する
②自助組織と銀行を提携
④インフォーマル金融業者の強化・商業銀
行との連携
★
スキームの選択
(1) 貧困層への到達
①ターゲッティング
②富裕層が参入するメリットを減らす
③貧
困層の特性にあった方法の採用
(2) 返済率の確保
①融資調査
(3) 制度の持続性確保
②モニタリング ③返済強制の適用
①リスクの分散
②預金の動員
能力強化
2
③補助金依存度の削減
④経営
5.実現形態を選択するために(関わる目的・地域・対象の決定)
実現形態と地理的条件(P115):マイクロファイナンス実施において地理的要因は大きな影響を
与える
都市部…短期運転資金 (気軽なアクセスが必要)
近郊農村…農外事業融資
辺境農村…生産目
的融資
可能な組織形態:都市部…活発な預金・資金需要に答える事から運営コストも低く営利機関の設
立も可能
辺境農村…外部機関による運営はコスト面から無理⇒自生的な講、信用組合
6.支援者としての役割
援助機関の外部からの支援方法
制度確立・持続の為の技術支援
①融資資金の提供
②制度確立のイニシャルコスト支援
③
④制度確立のコーディネーション
間接的支援 ①借り手のプロジェクトやマネージメントの支援 ②その環境整備
第5章
グラミン銀行と貧困緩和
(伊東早苗)
1.グラミン銀行の介入とそれをめぐる様々な貧困層との相互作用
P128 表 5−1 にあるような分類で調査を実施⇒グラミン銀行から融資を得る事により何らか
の経済的利益を実感できる
1.誰が、なぜ、どのようにグラミン銀行を利用しているのか
一般的には会員となり新たに事業を起こし、企業家として成長する事による収入拡大を考える
がこれは稀な例⇒生活的投資の促進機能よりは、貧困世帯内の資金の流れを潤滑にし、彼らの世
帯運営の安定化に役立つ社会的・経済的資産の増強機能(「貯蓄の前借り」としてのローン)
1.結論
○グラミン銀行の融資は、一定の貯蓄能力を持つ貧困世帯には貧困緩和の手助けとなるがそれ
以下の世帯は排除されてしまう傾向にある
○グラミン銀行のローンが企業に利用されない(三つの問題点)
○今より更に多くの貧困世帯の参加を可能とさせる小口の融資の増加案
第6章
グラミン銀行をめぐる一考察
(藤田幸一)
グラミン銀行の進出が農村のインフォーマル金融の資金循環機能に与えた影響について(二つ
の調査村を例に考察)
(1)インフォーマル金融は想像以上に発達している(P139)
(2)グラミン銀行進出後シェアは減少したものの、インフォーマル金融の比率は圧倒的に高い
(3)グラミン銀行のターゲット層以下の貧困世帯に対しインフォーマル金融が「逆流」した 。
⇒かつては没落の契機であったインフォーマル金融が今や向上の契機に
1・グラミン銀行は「緑の革命」以降、活性化した農村経済の貯蓄余力を実際の貯蓄として実現
2.ラミン銀行は最貧困層を救済することはできない
3. インフォーマル金融の赤字主体(上層)は社会的投資・生産的投資を行っている
3
第7章
マ イ ク ロ フ ァ イ ナ ン ス と N G O 活動
(長畑誠)
NGO の最終目的「貧困層の社会経済的向上」にマイクロファイナンスがどれだけ有効か
⇒シャプラニール・バングラデシュの活動を通して検討
※バングラデシュではショミティを通してマイクロファイナンスが行われる
問題点①ローリスクローリターンの収入向上活動②収入向上には学歴ある良きリーダーが必要
③個人の経済的向上への強い意識
*マイクロファイナンス導入にあたっての教訓
①マイクロファイナンスにはプラスαが必要
②貧農の組織作り vs 個人へのマイクロファイナンス
③NGO 自身の収入源としてのマイクロファイナンス
第8章
ボリヴィアのソリダリオ銀行(バンコ・ソル)
−零細企業グループへ無担保で融資する商業銀行−
低所得層へ門戸を開きながらも、援助機関に依存せず組織の持続可能性を保ちながら成長。
ソリダリオ銀行の金融サービス・・・零細企業への小口融資。金利は一般の銀行の2倍。融資額
→新規 100∼150 ドル→グループの全員が期限内に返済→次回の融資額の増加可能、というシス
テム。強みは銀行として貯蓄サービスを提供できること。自由口座、資本口座、定期預金口座の
3 種類が設けられている。低所得層への貯蓄の機会の提供。融資の 25%が貯蓄を財源とする。
小口融資NGOから銀行へ・・・金融自由化が行われてもボリヴィアの金融機関は零細企業への
融資に見向きもしなかった。→1986 年PRODEMの設立、NGOによる小口融資開始。発展
と成功を収める。→金融自由化だけで小口融資を発展させることができるとした新自由主義へ、
小口融資NGOの有効性を証明した
借り手グループへの無担保融資は有効か?・・・PRODEMからソリダリオ銀行に引き継がれ
た「連帯グループ貸し付け」
。→物質的担保がないなら社会的担保、の発想。
情報のギャップによる逆選択やモラル・ハザードの解決費用を、貸し手から借り手グループへと
シフトする事ができる。債務不履行もほとんどない。
結論⇒ 有効だと言える。
金融システム・アプローチは最貧困層へ届くか?・・・金融システム・アプローチとは?
⇒
適正な金利を設定することにより借り手の選択を市場メカニズムに任せるシステム。
結論⇒
ソリダリオ銀行は、通常の2倍の金利設定により非低所得層の介入を防いでいるが、事
業開始1年以上の零細企業にその融資先を限定することにより実際は貧困層というよりは低所
得層にしか届いていない。
最小限アプローチは零細企業育成に十分か?・・・最小限アプローチとは?
⇒
金融サービスに焦点をあてたもの。
結論⇒
ソリダリオ銀行では、確かにこれにより費用効率的な零細企業の育成をしているが、金
融サービスだけでは不十分な弱小零細企業にはもっと保管してあげることが必要。
(支援サービ
スとか)
4
第9章
マラウィ農村基金(MMF)−グラミン銀行をモデルとした農村への融資、その
問 題 点−
活動内容分析・・・①活動セクターの集中→商業部門 78%産業、市場構造が発展の初期段階。
②延滞者の多さ→返済率 99%、しかし延滞者率 37%
理由は運営システムの未成熟な点、個人
の事業運営能力の不足、経済基盤の不足。③個人間及びグループ間の返済率の格差→要因は地域
的な市場・交通・地理的環境。④組織→ミーティング出席率が悪い。読み書きもできないメンバ
ーが多数を占める。集団訓練、
組織力の弱さが窺える。
⑤活動収入の使途は消費→主に食糧購入。
事業への再投資や資本蓄積にはほとんど向けられず。⑥排除行動→最低限の能力、資質が求めら
れる。弱小貧困層は排除。
考察・・・基本的に効果的に機能しているが、組織力の弱さ、個人的能力の弱さ、地域的な経済
社会的条件のバランスの面でまだ改善が必要。業種の多様化も必要。しかしその地域の社会経済
環境に適した運営により返済率を向上させることができたのは、グループ制小口金融組織モデル
の成功のための重要な要素として認識された。
第10章
女性専門金融機関の意義と課題
−インドSEWA協同組合銀行の事例から−
女性達の、女性達による、女性達のための協同組合銀行。女性リーダーの存在とその強いニー
ズが基礎となり設立。特徴として、アクセスしやすいこと、女性の金銭管理能力の育成、女性の
貯蓄ニーズの高さに注目したことなどが挙げられる。課題は、女性にとって職業形態からその所
得向上効果に限界があること、持参金問題への取り組みなど
第11章
マイクロクレジット:持続性と自主性
−ネパールにおける農村女性向け生
産プログラムと女性綿花生産者組合の経験から−
PCRW・・・女性の地位向上のための開発。コミュニティ開発と融資の2つのアプローチ。
女性の収入増加だけでなく、質的な変化も促した。革新的なリーダーの存在と有能な人材
がここでも重要になる。しかしプログラムの拡大による、人材流出や援助資金増大による
現地のニーズとイニシアチブの弱体化、グループつくりの根拠の喪失などの変化が。教訓
は・・・?
バーディア女性綿花生産者組合・・・収入へのアクセス不足が、女性に必要な健康を得る
障害となっていると女性達が感じたことによる集団行動。→綿花による収入を自分達で管
理する。
教訓→女性がその抑圧や不利益に気付く事から共同行動に大きな効果をもたらす、
専門家グループや共通意識をもつ組織との連携を気づくことで女性の能力を強化し向上さ
せられる、など。
第12章
米州開発銀行のマイクロファイナンスの活動と戦略
5
中南米では零細企業を「ビジネス業界での重要な顧客」とみて銀行や NGO が持続可能な
金融サービスやその他の事業支援サービスを提供する試みが行われている。米州開発銀行
(IDB)もその中のリーダー的存在のひとつ。その IDB が零細企業開発活動で得た教訓と
は、①零細企業は多種多様なので色々なタイプの援助が必要、②金融以外の事業支援の不
足を補ってあげないといけない、③マイクロファイナンスを行う金融機関の経済性が長期
の持続の鍵となる、など。
問題提起
辺境農村に、マイクロファイナンスを行うための機関を設置するとすれば、
あなたはどのような形態をとりますか?辺境農村の状況を考慮に入れて考えてください。
そしてキーワード A、B からそれぞれ一つずつ、最適と思われるアプローチを必ず文章中に入れてください。
例)統合的アプローチで、金融システムアプローチをとる、など。
・辺境農村の状況(P.115 参照)
人口密度:低い(村落内では集住している場合もあり)
一般的経済状況:
・市場が未発達で農外事業機会が少ない
・自給自足度が高く、現金収入が少ない
・農業中心で、自然リスク(天候不順など)の
分散が困難
・キーワード
A.統合的アプローチ or 最小限アプローチ
B.ターゲティング・アプローチ or 金融システムアプローチ
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