課題名 境界プラズマと材料相互作用

課題名 境界プラズマと材料相互作用
研究代表者
研究協力者
1.
大野哲靖・名古屋大学大学院工学研究科・教授
海外
Kyu-Sun Chung・漢陽大学 ・韓国
P. Budaev・クルチャトフ研究所・ロシア
S. Savin・宇宙研究所・ロシア
J. Dewhurst・ワーウィック大学・英国
B. Hnat・ワーウィック大学・英国
R. Dendy・カラム研究所・イギリス
U. Wenzel・マックスプランク研究所グライスバルド・ドイツ
M. Y. Ye・マックスプランク研究所グライスバルド・ドイツ
F. B. Rosmej・パリ大学・フランス
M. Koubiti・プロバンス大学・フランス
S. Krasheninnikov・カリフォルニア州立大学サンディエゴ校・米国
A. Pigarov・カリフォルニア州立大学サンディエゴ校・米国
R. Doerner・カリフォルニア州立大学サンディエゴ校・米国
西島大輔・カリフォルニア州立大学サンディエゴ校・米国
S. Barengolts・ロシア科学アカデミー・ロシア
M. Tsventoukh・ロシア科学アカデミー・ロシア
国内
辻 義之・名古屋大学大学院工学研究科
田中宏彦・名古屋大学大学院工学研究科
梶田 信・名古屋大学エコトピア科学研究所
増崎 貴・核融合科学研究所
小林政弘・核融合科学研究所
朝倉伸幸・日本原子力研究開発機構
高村秀一・愛知工業大学工学部
江角直道・長野工業高等専門学校
岡本征晃・石川工業高等専門学校
吉田直亮・九州大学応用力学研究所
目的と期待される効果
定常核融合発電炉開発に貢献する境界プラズマ制御およびプラズマ-材料相互作用現
象の解明を目指して研究を遂行する。具体的には,高速度カメラによる2次元プラズマ
発光データに経験的直交関数を用いた統計的解析手法などを適用し,磁力線を横切って
小プラズマ塊が飛行するプラズマブロブ輸送現象の物理を解明する。また,先進的プラ
ズマ-壁相互作用研究を新たに構築するために,量子ビーム技術を駆使した材料損傷過程
のその場イメージング手法を開発し,水素リサイクリングや堆積層の時間発展,さらに
金属溶融層の動的挙動を明らかにする。さらに,ナノ繊維構造を有するタングステンを
用いて単極アークの模擬研究を行い,50年以上にわたり論争が続いているアークスポ
ットのダイナミックスを解明する。
2.
成果
(1)アーキングPWI研究国際拠点
核融合炉内でのアーキングは,1970 年,1980 年代に盛んに研究がなされたが,1990
年代以降,ダイバータ配位が主流になり,スパッタリングが支配的な不純物源と考えら
れるようになって以来,問題視されなくな
った。しかし,近年,ELMなどの間欠的
現象に伴い,世界各国の装置でアーキング
現象の発生が報告され始めた。
境界プラズマ領域を模擬する直線型装置
NAGDIS-II において,ヘリウム損傷を受
けたタングステンに対して,パルスレーザ
ーを用いて間歇的な熱負荷を加えたところ,
世界的に初めて,定常プラズマ中での単極
アークの観測に成功し,図 1 に示すように
アーク痕が表面に記録された。時期を同じ
図1:NAGDIS-II において観測された単極
くして,世界の各装置でアーク痕が観測さ
アークの痕跡
れ,核融合炉におけるアーキングやホットスポットの重要性が世界的に再認識され始め
ている。
実際に 2010 年度には EPS2010(37th European Physical Society Conference on
Plasma Physics )のサテライトミーティングとして,核融合炉におけるアークとホッ
トスポットに関するワークショップが行われ,各国からの状況報告をもとに,S.
Krasheninnikov(アメリカ) や M. Laux(ドイツ)らの研究者を中心に活発な議論行
われた。ドイツの ASDEX-U 第一壁や,米国の DIII-D においてアークの痕跡が観測さ
れ,アークが主要な不純物源になる可能性があることが示唆される報告もあった。
図2:エクトン機構の説明図。(a), (b)レーザーによる溶融,タングステンプラズマ形成,(c), (d)
爆発的な放出中心の形成。(e)電子放出するナノファイバー,(f)電流とプラズマと材料の
電位差。(S. Barengolts et al. Nucl. Fusion. 2010)
更に,共同研究者である S. Barengolts(ロシア), M. Tsventukh(ロシア)らにより,
ナノ構造上でのアーク発生と再点孤現象をエクトン機構という観点から理論的に説明で
きることを明らかにされた(図2参照)。両者と今後の共同研究のスケジュールと単極
アークに関する発生機構に関する議論を行った。
(2)直線型ダイバータ模擬試験装置を用いた周辺プラズマ物理研究国際拠点
(a) 非接触プラズマ中でのプラズマ流計測
非接触プラズマ中でのプラズマ流の変化の理解は核融合実験において重要なテーマの
一つである。しかしながら,通常プラズマ流計測に用いられる多芯プローブ計測は原子
分子との衝突(Collisionality)等の点で曖昧さを有している。
昨年度,Kyu-Sun Chung(韓国)らにより,名古屋大学の直線型装置 NAGDIS-II の
非接触-接触の移行フェイズにおいて多芯プローブ計測が実施された。その結果をもとに,
プラズマフロー計測に与える原子過程の効果の影響が明らかにされた。また,周辺部に
おいて,ガス圧上昇に伴い,流れの方向が変化していることが明らかにされた。
(b) Plasma Blob輸送諸特性の統計的解析
周辺プラズマ領域の径方向輸送過程は、Plasma Blob輸送などに起因する対流的な
輸送と乱雑過程による拡散輸送が混在した複雑な輸送過程となっていると考えられ
る。前年度までの研究により、周辺プラズマ領域を模擬する直線型装置NAGDIS-II
においてもPlasma Blob様の輸送の発生が示されている。NAGDIS-IIで生成されるプ
ラズマが有する定常性と、柔軟な実験計測系を配置できる利点を生かして取得した計
測信号に対し、統計的な解析手法を適用することで、実機では明らかとされていない
Plasma Blob輸送に関する諸特性を調査した。
NAGDIS-IIで発生するPlasma Blob様の構造は、装置断面(磁場と直交する面)
において渦上の形状を持ってExBドリフト方向に回転していることが分かっている。
この構造は、中心のプラズマ柱周りの不安定性から放出されたプラズマが、方位角方
向・径方向に輸送されることによって形成されているものと考えられ、放出と停止を
繰り返しつつ回転する(図3(a)参照)
。高速カメラにより計測された動画データに
経験的固有直交展開法を適用することにより、主に低次のモード構造が得られており、
モード数m = 1の成分が特に大きいことが示されている。今回、このモード数m = 1
の成分の発生位置と時間間隔の統計性を評価するため、Plasma Blob研究では適用例
の無い新規手法を適用した。
まず初めに、プラズマ放出位置を検出するため、図3(b)に示すようにプラズマ柱
周りの発光の揺動成分を切り出した。方位角方向位置について、平均的なプラズマ回
転の影響を相殺するような座標変換を行ったときの揺動成分の時間発展を図4(a)に
示す。これより、閾値による検出などを通して抽出されたプラズマ放出位置の軌跡を
図4(b)に示す。放出位置の軌跡に対して構造関数解析を行うことによりハースト指
数を求めると約0.5となり、したがって、プラズマ放出位置は巨視的にはExBドリフト
方向にほぼ等速で回転しているが、より細かなところではブラウン運動的に移動して
いることが評価された。
図3:
(a)高速カメラ計測された発光信号のスナップショット,
(b)標準偏差の等高線プロットと
信号切り出し位置(図中□)
図4:
(a)方位角方向位置を座標変換して表示した発光揺動の時間発展,
(b)再構成されたプラズ
マ放出位置の軌跡
3.
海外からの招聘および海外への派遣
氏名:梶田信・名古屋大学エコトピア科学研究所・講師
派遣先:ダブリン(アイルランド)
期間:平成 22 年 6 月 23 日 〜 平成 22 年 6 月 28 日
内容と成果:
派遣者は,
境界領域プラズマ中での単極アーキングについての研究をおこなってきた。
今回は,派遣者がこれまで実施してきた単極アーキング実験の結果をもとに,核融合研
究者及び応用のアーキングに携わる幅広い分野の研究者とともに核融合炉におけるアー
キング及びホットスポットに関しての議論を行い,異分野間連携を図ると共に,当該課
題への他分野からの寄与の可能性について調査した。
氏名:Kyu-Sun CHUNG・韓国 漢陽大学・教授
期間:平成 22 年 6 月 23 日 〜 平成 22 年 6 月 28 日
内容と成果:
今回の招へいでは,招聘者が新たに開発した多芯プローブを用いて名古屋大学におい
て昨年度実施した実験結果に関する議論を行った。特に,プラズマのフロー(流れ)の
接触プラズマ中,非接触プラズマ中での特性,及び,非接触ダイバータプラズマ中の乱
流特性を明らかにした。
氏名:大野哲靖・名古屋大学工学研究科・教授
派遣先:漢陽大学(韓国)
期間:平成 22 年 10 月 17 日 〜 平成 22 年 10 月 21 日
内容と成果:
派遣者は,漢陽大学の Kyu-Sun CHUNG 教授と,境界領域プラズマ中でのプラズマ
のフロー(流れ)の接触プラズマ中,非接触プラズマ中での特性,及び,非接触ダイバ
ータプラズマ中の乱流特性に関しての議論を行い,さらに,直線型ダイバータ模擬試験
装置を用いた国際研究拠点に関する議論を行った。
氏名:西島大輔・米国 University of California San Diego
期間:平成 22 年 11 月 1 日 〜 平成 22 年 11 月 2 日
内容と成果:
今回の招へいでは,University of California San Diego にある直線型装置 PISCES-A
と兵庫県立大学で実施されたナノ構造タングステンへのプラズマガン照射の実験結果を
もとに,ナノ構造タングステンへの間歇的な熱粒子負荷(ELM を模擬)の影響に関し
て議論を行った。
氏名:西島大輔・米国 University of California San Diego
期間:平成 22 年 12 月 20 日 〜 平成 22 年 12 月 28 日
内容と成果:
今回の招へいでは,University of California San Diego にある直線型装置 PISCES-B
におけるベリリウムへのレーザー照射実験の結果に関する議論を行った。Be の放出メカ
ニズムと放出された Be から生成される BeD の形成機構に関する議論を行った。
4.
課題と今後の予定
今回の活動による日,米,露,韓との関連研究者との共同研究を通じて,金属対向壁で
の損耗過程として重要であるアーキングPWI研究と直線型ダイバータ模擬試験装置を
用いた周辺プラズマ物理研究に関する国際拠点形成の基盤を確立することができた。今後,
本活動をさらに発展させ,アーキングPWI,直線型ダイバータ模擬試験装置を用いた周
辺プラズマ物理研究に関する国際ワークショップの開催企画するとともに,量子ビーム技
術を駆使した材料損傷過程のその場イメージング手法の開発に取り組む予定である。
5.
成果発表
論文
[1] #Shin KAJITA, Noriyasu OHNO, Yoshiyuki TSUJI1, Hirohiko TANAKA, and
Shuichi TAKAMURA, “Self-Affine Fractality of Bifurcating Arc Trail in
Magnetized Plasma”, Journal of the Physical Society of Japan, Vol.79, No.5,
054501(7 pages) (2010)
[2] #H.Tanaka, N.Ohno, Y.Tsuji, S.Kajita, "2D Statistical Analysis of Non-Diffusive
Transport under Attached and Detached Plasma Conditions of the Linear
Divertor Simulator", Contrib. Plasma Physics, Vol.50, No.3-5, pp.265-266 (2010)
[3] #S.Kajita, T.Saeki, N.Yoshida, N.Ohno, A.Iwamae, "Nanostructured Black
Metal: Novel Fabrication Method by Use of Self-Growing
Helium Bubbles",
Applied Physics Express, Vol.3, 085204 (3pages)(2010)
[4] #N.Ohno, K.Miyamoto, K.Kodama, S.Kajita, K.Kitagawa, "2D Measurement of
Edge Plasma Dynamics by Using High-Speed Camera Based on HeI Line
Intensity Ratio Method", Contrib. Plasma Physics ,Vol.50, No.10, pp.962-969,
2010
[5] #W.Sakaguchi, S.Kajita, N.Ohno, et al., "Formation Condition of Fiberform
Nanostructured Tungsten by Helium Plasma Exposure", Plasma Fusion
Research, Vol.5, S1023(5 pages), 2010
[6] #H.Tanaka, N.Ohno, Y.Tsuji, S.Kajita, S.Masuzaki, M.Kobayashi, T.Morisaki,
H.Tsuchiya, A.Komori, and LHD Experimental Group, "Enhancement of
cross-field transport into the private region of detached-divertor in Large Helical
Device" Physics of Plasmas, Vol.17, 102509(8 pages), 2010
[7] #大野哲靖, 「核融合プラズマ対向材料としての高融点金属材料の現状と課題」ケミ
カルエンジニヤリング、Vol.55, No.12, pp.46-51, 2010
[8] #S.I.Krasheninnikov, A.Yu Pigarov, R.D.Smirnov, M.Rosenberg, Y.Tanka,
D.J.Benson, T.K.Soboleva, T.D.Rognlien, D.A.Mendis, B.D.Brav, D.L.Rudakov,
J.H.Yu,
A.Bader,
W.P.West,
A.L.Roquemore,
R.S.Granetz,
C.S.Pitcher,
C.H.Skinner,
N.Ohno,
J.L.Terry,
S.Takamura,
B.Lipscultz,
S.Masuzaki,
N.Ashikawa, M.Shiratani, M.Tokitani, R.Kumazawa, N.Asakura, T.Nakano,
A.J.Litnovsky, R.Maqueda and the LHD Experimental Group, "Recent progress
in understanding the behavior of dust in fusion devices", Plasma Physics and
Controlled Fusion, Vol.50, No.12, 124054 (13pp), 2010
国際会議
[1] #N.Ohno,
S.Kajita,
Y.Hirahata,
M.Yamagiwa,
M.Takagi,"Influence
of
Crystallographic Orientation on Helium Bubble and Fuzz Structure Formation
in Tungsten", 19th Internationa. Conference on Plasma Surface Interactions in
controlled fusion devices (PSI 2010)
[2] #Y.Ueda, K.Miyata, K.Tsukatani, Y.Ohtsuka, S.Brezinsek, J.W.Coenen, A.Kreter,
A.Litnovsky, V.Philipps, B.Schweer, G.Sergienko, T.Hirai, A.Taguchi, Y.Tokitani,
K.Sugiyama, T.Tanabe, S.Kajita, N.Ohno, and the TEXTOR Team, "Exposure of
Tungsten Nano-Structure to TEXTOR Edge Plasma" 19th Internationa.
Conference on Plasma Surface Interactions in controlled fusion devices (PSI
2010)
[3] #S.Kajita, N.Ohno and S.Takamura, "Tungsten Blow-Off in Response to the
Ignition of Arcing: Revival of Arcing Issue in Future Fusion Devices", 19th
Internationa. Conference on Plasma Surface Interactions in controlled fusion
devices (PSI 2010)
[4] #N.Ezumi, K.Todoroki, T.Kobayashi, K.Sawada, N.Ohno, M.Kobayashi,
S.Masuzaki and Y.FENG, "Particle Transport Measurements in the LHD
Stochastic Magnetic Boundary Plasma using Mach Probes and Ion Sensitive
Probe", 19th International Conference on Plasma Surface Interactions in
controlled fusion devices (PSI 2010)