エンジン運転領域を走行させているからである。それに比べてディーゼル

33
エンジン運転領域を走行させているからである。それに比べてディーゼルエン
ジンは軽負荷領域の燃費が良いため、ディーゼルエンジン運転領域を走行させ
ても燃費効果はガソリンエンジンより少なく、ディーゼルエンジンのハイブリ
ッド車の燃費効果は今のところせいぜい 1.3 倍程度である。
2
車載用バッテリシステムの要求性能
2.1
HEV バスの充放電電力量
図 28 にハイブリッドバスの走行時におけるバッテリの充放電電力量を示す。
横軸に時間を、縦軸にはバッテリ電力量あるいは車速、バッテリ電圧及びバッ
テリ SOC(State Of Charge)を表している。図の下が実車における車速で、そ
の時のバッテリ電圧が上段、中段がバッテリ電力、下段がバッテリ SOC である。
バッテリ電力は上向きが放電側、下向きが充電側である。車両が発進加速時、
バッテリ電力は上向き側に、車両減速時、所謂エネルギ回生時、バッテリ電力
は下向き側に作用する。
この図で分かるように、加速時あるいは減速時は 10 秒以下である。エネルギ
回生時、短期間の間にバッテリに充電しなければならないので、バッテリは内
部抵抗の低い方が有利である。この様なことから、ハイブリッド車両用のバッ
テリは内部抵抗の低い高出力密度型が適している。
出典:日野自動車㈱
200
400
350
バッテリ電圧
バッテリ電力(KW)
100
放
電
充
電
300
バッテリ電力
50
250
0
200
-50
150
-100
100
バッテリS.O.C.
-150
50
車速
-200
0
50
100
図 28
車速(km/h)・バッテリ電圧(V)・バッテリS.O.C.(%)
150
150
200
250
HEV バスの充放電電力量の挙動
300
0
350
出典:日野自動車㈱
向いている。炭素系は稼働電圧が高いが容量不足なので、高容量の負極材料の
51
開発が望まれる。
グラファイト系大型電池
・稼動電圧が高く、放電カーブが平坦。
⇒高エネルギ密度、定電力放電に向いている
⇒大型高容量 Li イオン電池の主流品
ハードカーボン系大型高容量電池
・放電カーブが右下がりで、残存容量が把握しやすい。容量が下がるが、
大電流放電が可能。
⇒大型高出力 Li イオン電池の主流品
2.3
Li イオンバッテリ正極材料の技術動向
Li イオンバッテリの正極材料は Co、Ni 系の層状構造、Mn 系のスピネル構造
及び鉄リン系のオリビン構造が実用化されている(表 11)。ノート PC、携帯電
話は Co 系の層状構造が多く採用されている。電気自動車等の高容量 Li イオン
バッテリの正極は安全性及び低価格を重要視されるので、スピネル構造の Mn
系あるいはオリビン構造の鉄リン系が多く採用されている。今注目を浴びてい
表 11
構造
正極材料の構造、電圧及び容量
正極材料
電圧分類
容量(mAh/g)
層状構造
LiCoO2
LiNiO2
LiNi1-xCoxO2
LiNi1-x-yCoxMnyO2
LiNi0.5Mn0.5O2
Li1.2Cr0.4Mn0.4O2
4V
4V
4V
4V
4V
4~5V
層状ジグザグ構造
LiMnO2
3~4V
~200
スピネル構造
LiMn2O4
LiCoMnO4
LiNi0.5Mn1.5O4
4V
5V
5V
130~140
130~140
135~140
オリビン構造
LiFePO4
3V
~150
120~140
~200
180~200
160~180
160~200
150~200
小容量の主流正極材料 : LiCoO2
【特徴】
電極電位も高く、容量も比較的高い
【問題点】 大型高容量電池での安全性の確保
資源問題とコスト
58
3.3
次世代高容量正極材料
○ LiMn2O4 : 稼動電圧が高く、過充電での安全性が高い。
○ Ni 系
: 容量が高く、4.3~4.4V 高電圧使用可能。
Li イオンバッテリの放電特性
図 57 に示すグラフは大容量 Li イオンバッテリセル Model Number ENL-LM20
の放電特性である。充電方法は充電電流 0.5C を CC-CV で行い、4.2Vmax で充
電終了し、30 分後放電試験を実施した。放電終了電圧は 3.0V で Cut Off してい
る。放電電流は 0.2C、0.5C、1C、2C、3C 及び 5C で行い、その結果はグラフ
に示す通りであって、0.2C が最も放電容量を多く取れ、放電電流が多くなるに
つれ放電容量は少なくなり、5C ともなると 0.2C に比べ相当放電容量は悪くな
る。
4.4
Charge :CC-CV, 4.2Vmax, 0.5C, 3h, R.T., Rest 30min
Discharge:CC, 3.0V Cut Off, R.T.
4.2
Voltage / V
4.0
3.8
3.6
3.4
0.2C
0.5C
1C
2C
3C
5C
3.2
3.0
2.8
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
Capacity / Ah
図 57
基本放電特性
図 58 に示すグラフは図 57 に続き、0.2C の放電電流で放電した時の放電温度
特性を示している。充電及び放電要領は図 57 と同じである。温度は-20℃、0℃、
25℃、40℃で試験を行い、その結果はグラフに示す通りであり、25℃及び 40℃
は同じ結果を得られているが、-20℃の放電特性は非常に悪い結果となっている。
図 59 に示すグラフは図 58 に続き、1C の放電電流で放電した時の放電温度特
性を示している。充電及び放電要領は図 58 と同じである。温度は-20℃、0℃、
25℃、40℃と 0.2C 放電と同じ温度で試験を行い、その結果はグラフに示す通り
であり、-20℃の温度特性は非常に悪く、常温における放電特性の半分以下とな
っている。Li イオンバッテリの放電特性は取り出す放電電流が多くなると放電
量は少なくなる。また、低温時における放電量は非常に悪く、-10℃以下になる
と極端に放電量が少なくなる。運用時にはこれらを配慮する必要がある。
60
6000
◆
出力パワー密度[W/kg]
5000
4000
▲
3000
◇
▲
▲
▲
2000
●
○
▲
▲ 他社 リチウムイオン電池
▲
○ ENAX EV用電池
◇ ENAX HEV用電池
1000
● EV用 目標
◆ HEV用 目標
0
0
50
100
150
200
エネルギー密度[Wh/kg]
図 60
6000
▲ 他社 リチウムイオン電池
○ ENAX EV用電池
5000
入力パワー密度[W/kg]
出力密度とエネルギ密度の相関図
◆
◇ ENAX HEV用電池
● EV用 目標
4000
◇
◆ HEV用 目標
●
▲
3000
▲
▲
2000
○
▲
1000
0
0
20
40
60
80
100
120
140
160
180
エネルギー密度[Wh/kg]
図 61
入力密度とエネルギ密度の相関図
図 61 のグラフはエナックス社が商品化している EV 用ならびに HEV 用の Li
イオンバッテリの入力密度とエネルギ密度の関係を表している。近々目指す EB
用及び HEV 用の目標を◆と●で示している。
3.5
Li イオンバッテリの劣化
Li イオンバッテリの電位モデルと劣化機構について説明されたグラフが図
62 である。横軸にバッテリ電圧、縦軸に Li に対する電位で表記している。で
あり、正極電位と負極電位が交差する点がバッテリ電圧 0V である。
正常電圧範囲と記載されている破線上において正極電位と負極電位との差が
それぞれ充電終止電圧、放電終止電圧であり、充電終止電圧は 4.2V、放電終止
70
の電源からパワーFET を駆動させるためのスイッチングドライブ用電源を作り、
それをスイッチングドライブ回路にてパワーFET を ON-OFF させて疑似矩形波
をトランスヘ印加する。トランスは 1 次コイルと 2 次コイルから構成されてお
り、2 次コイルはバッテリパックに収納されている Li イオンバッテリセル 14
個分あり、そのコイル巻数は 1 次コイル巻数の 1/14 である。トランスの 1 次コ
イルに疑似矩形波が印加されると 2 次コイル側には 1/14 に分割された平均電圧
が生成される。平均電圧がそれぞれのセルに印加され、セル電圧が平均電圧よ
り低ければセル側へ電流が流れ、容量のバランスを是正させる。逆にセル電圧
が平均電圧より高ければトランスの方へ流れようとするがダイオードがその流
れを阻止する。このエネルギ平均配分型セル容量バランサはある設定値の容量
バラツキが生じたタイミングでいつでも作動させることが出来る。
図 70 のグラフは、エネルギ平均配分型セル容量バランサの基礎実験を実施し
た時の結果データである。Li イオンバッテリセルは 14 セルあり、その内の No4
セルを故意的に他のセルより容量を落としてエネルギ平均配分型セル容量バラ
ンサの試験を実施したところ、約 10 時間後に他のセルの電圧と同等のレベルに
なったのである。
パック内セル容量バランサの動作
(No4セル電圧を下げた状態でスタート)
No.1
No.2
No.3
4.00
No.4
3.95
No.5
3.90
No.6
No.7
セル電圧(V)
3.85
No.8
3.80
No.9
3.75
No.10
3.70
No.11
3.65
No.12
3.60
No.13
3.55
No.14
3.50
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
経過時間(H)
パック内に構成されているセルの一部を他のセルより故
意的に容量を低下させてセルバランサの機能を確認する。
図 70
試験結果(その 1)
76
○
電池の高性能化とコストダウンを目指し、次世代自動車用電池の開発目標を明確化した
技術開発戦略を策定し、NEDO において 2007 年度から技術開発プロジェクトを開始。
○
具体的には、2015 年を目途にリチウムイオン電池の高度化を目指す要素技術開発、2030
年を目途にリチウムイオン電池とは概念の異なる新電池系の開発を目指す次世代技術
開発を実施。
○
電池技術開発の効率化、国内外における電気自動車等の普及に向け、それに必要な制度
整備を実施。
<次世代自動車用電池の性能・コスト目標>
現状
電力会社用
コンパクト EV
性能
コスト
開発体制
技術開発プロジェク
トの概要(NEDO)
改良型電池
(2010 年)
先進型電池
(2015 年)
(2020 年?)
用途限定
コンパクト EV
高性能 HV
家庭用コンパクト EV
燃料電池自動車
Plug-in HV 自動車
高性能
Plug-in HV 自動車
革新的電池
(2030 年)
本格的 EV
1
1
1.5 倍
3倍
7倍
1
20 万円/
kWh
1/2 倍
10 万円/kWh
1/7 倍
3 万円/kWh
1/10 倍
2 万円/kWh
1/40 倍
0.5 万円/kWh
民主導
民主導
産学官連携
大学・研究機関
要素技術開発
次世代技術開発
2007 年度予算:約 17 億円
2008 年度予算:約 29 億円
(2007~2011 年度までの 5 年間実施)
<電池試験法の国際標準化と国際輸送規制の見直し>
電池の性能、寿命、安全性評価試験法の確立と国際標準化
自動車用リチウムイオン電池の国際輸送規制の見直し
出展:経済産業省資料
図 78
技術開発戦略・制度整備戦略
及びコスト目標は、2010 年に改良型電池で現状に対して性能は変わらず、コス
トが 1/2 の 10 万円/kWh に、2015 年には先進型電池で性能 1.5 倍、コスト 1/7
の 3 万円/kWh に、2020 年頃には高性能な電池で性能 3 倍、コスト 1/10 の 2 万
円/kWh に、2030 年には革新的電池で性能 7 倍、コスト 1/40 の 0.5 万円/kWh を
目指している。これが実現できれば電気自動車は確実に普及する。
(3) 今後の展望
①
HEV、PHEV を含め電動車両の普及シナリオが整った。
②
Li イオンバッテリの需要増が見込めるので参入するメーカが多く、研
究開発に拍車がかかる。今後は欧米との競争になる。
③
それに伴って安全性の高い高性能な Li イオンバッテリの商品化が進
む。