分子シャペロン研究の今をお届けする最新情報紙 2001 No. 特定領域研究「分子シャペロンによる細胞機能制御」領域ニュース 発行日 :2001年9月 9 CHAPERONE NEWSLETTER CONTENTS あらたな一歩へ向けて 領域代表 永田 和宏 (京都大学再生医科学研究所) あらたな一歩へ向けて 永田和宏 …………………………………………………………………… 1 …………………………………………………………………… 2 「国際 AAA 会議」 小椋 光/木村洋子/吉久 徹 MDC Symposium 「Protein Transport and Stability」 千葉志信/中戸川 仁 「細胞生物学会シンポジウム」 秋田 充 「蛋白質科学会シンポジウム」 河田康志 「Symposium in Honor of the 65th Birthday of Gu nter Blobel」 三原勝芳 「EMBO Workshop/FEBS Meeting」 永田和宏 後の代表挨拶をと,遠藤さんより求められたまま,ぐずぐ 最 ずと締め切りを過ぎているうちに,うれしいニュースが飛 び込んできました。重点領域研究「ストレス応答の分子機構」 (平成5−7年度,矢原一郎代表) ,特定領域研究「分子シャペ ロンによる細胞機能制御」 (平成9−12年度,永田和宏代表)に 続いて,今回新たに「タンパク質の一生−細胞における成熟, 移動,品質管理」という特定領域研究 A(吉田賢右代表)が採 択されたというものです。平成1 4年度から1 8年度まで継続する ことになります。下呂で行われた最後の班会議において,吉田 賢右さんが言われた「ま幸くあらば,また帰り来む」が,はか らずも実現したことになり,ほっとするとともに,わが国にお ける,この分野の今後の研究の発展にとって,はかりしれない 力になるものと期待しております。 特定領域研究は,言うまでもなく研究費の配分を主眼とした …………………………………………………………………… 3 研究グループですから,研究費の問題が大きいのは言うまでも ありませんが,わが国における特定領域研究の重要性はそれだ …………………………………………………………………… 22 けに終わるものではありません。特に特定領域研究 A の果たす 役割は,わが国においてきわめて大きなものがあると考えてお …………………………………………………………………… 24 ります。 …………………………………………………………………… 25 個人研究は言うまでもなく,特定領域研究においても,公募 をしないタイプの特定領域研究 B では, 研究者個人間の情報交換 という点において,はなはだ心もとないものがあります。一年 に一度か二度,同じ分野の研究者が集まって,十分時間をかけ てフリーに討論できる,そのような場の重要性は,決して学会 外国の研究者が日本のこの分野でうらやましがるのは,日本 や研究会だけで代替されるものではありません。特定領域研究 B には二つの研究グループが平行して走っていることです。一つ では,研究分野がコンパクトに限定されることによって,その は,特定領域研究班を中心とした基礎研究,もう一つは「臨床 ことの良さはあるものの,どうしてもせまくまとまってしまい ストレス蛋白質研究会」が中心となり,ストレス蛋白/分子シャ がちで,専門性としかも広い分野への目配りも利いたグループ ペロンの臨床的側面を中心とした研究です。神経変性疾患をは というと,特定領域研究 A に勝るものは,いまの日本の研究体 じめとして,将来的にこの分野においても,臨床研究が重要な 制にはないだろうと思います。その意味からも, 今回の再スター 焦点になることは誰も異論のないところであります。 「臨床スト トは,今後の「タンパク質の一生」の研究にとって意義深いも レス蛋白質研究会」はまだ会員もさほど多くなく,ささやかな のだと言わざるを得ません。 集まりですが,せっかく芽生えたこのようなグループは,みん 先の特定領域研究「分子シャペロン」が,蛋白質の構造形成 なが育てていく必要があるだろうと考えています。 を助けるシャペロン側からのアプローチであったのに対し,今 今年の年会は,札幌医大の佐藤昇志先生のお世話で1 1月2− 回は基質側の蛋白質の側から細胞における諸現象をみようとす 3日に小樽で開かれることになっていますが,多くの方々の参 る点に特徴があるかと考えています。詳細は,代表の吉田さん 加をお願いします。 からいずれ説明があることと思いますが,いずれにせよ,先の 「分子シャペロン」から一歩踏み出した形での再スタートを喜び たいと思います。 また,国際組織として, 「Cell Stress Society International(CSSI)」 が発足しているのは,すでにご承知と思います。前会長は由良 隆京都大学名誉教授でしたし,現会長は Richard I. Morimoto ノー 「分子シャペロン」班は,今年最後のまとめの年であり,これ スウエスタン大学教授です。2 00 3年にはカナダのケベックで第 まで班員であった方々にご協力をお願いして,報告書などを作 1回の CSSI 主催のカンファランスが開かれることもすでに決定 ることになると思いますが,どうかよろしくお願いいたします。 しています。こちらの方へも,応援をお願いしたいと思います。 新規特定領域研究Aのお知らせ 「タンパク質の一生―細胞における 成熟,移動,品質管理」 領域代表者:吉田賢右 (東京工業大学・資源化学研究所・教授) 研究期間:平成13年度∼18年度 「タンパク質の一生を演出する細胞の仕組み」 近 年,細胞の中のタンパク質の運命に関する私たちのイメ− ジは,大きく変わりつつある。以前は,タンパク質は合成 されれば放っておいてもうまく自分自身を折りたたんで(フォ −ルディングして)機能的な立体構造(ネイティヴ構造)を形 成し,細胞の中に適当に散らばり,役目を果たして,確率的に 壊れていくという,言わば手間のかからない一生を過ごすもの と考えられていた。しかし実際に明らかになってきたのは,細 胞の中のタンパク質の一生はもっと波乱に満ちたものであり, 細胞はこれを監視し,制御し,管理する仕組みを備えていると いうものである。 タンパク質は細胞内のリボソ−ムで合成され,裸のポリペプ チドとして誕生する。これらの多くは分子シャペロンの助けを 借りてネイティヴ構造を獲得し,成熟する。多くのタンパク質 は立体構造がほどかれて,生体膜を通過し,働くべき細胞内の 目的区画へと移動する。ここではシャペロンと膜透過装置トラ ンスロケ−タの助けが必要となる。 ネイティヴ構造の形成に失敗したり,傷つくと,タンパク質 2 図 タンパク質の一生 は部分的あるいは全体的に立体構造がほどけた状態に陥る。そ のあるものは再びシャペロンの助けを借りて修復,再生され, あるものは ATP 依存性プロテア−ゼによって分解される。これ 《移転のお知らせ》 Susan Lindquist からのメッセージです。 タンパク質は凝集し,封入体をつくり,ときにはアミロイド線 維というたちの悪い凝集体を生じ,細胞は死に至る。最近では, 私は10月15日より,Whitehead Institute こうした細胞病態が,遺伝性のハンチントン病や伝染性のプリ of Biomedical Research の director と な り オン病などの,いわゆるフォ−ルディング異常病の原因ではな ます。もちろん新しいラボでも,シャペ いか,と考えられるようになった。 ロンの研究を続ける予定です。日本の研 このようにタンパク質は,細胞の中でネイティヴ以外の構造 究者の皆さんにおかれましては,今後と 状態を経由して,様々な運命をたどる。本研究では,細胞に備 も従来どおりのおつきあいをよろしくお わった,こうしたタンパク質の一生を監視し,制御し変換する 願いします。 システムの全体像を明らかにする。特に,凝集状態を含むタン 0月15日以降新しい住所等は以下の通りです。 パク質のネイティヴ以外の構造状態,すなわちノン・ネイティ 1 ヴな構造に注目し,このシステムがそれを認識し,取り扱う仕 組みを解明する。またこのシステムの主役であるシャペロン, The Whitehead Institute Nine Cambridge Center 21 4 2 トランスロケ−タ,ATP 依存性プロテア−ゼが働くメカニズムを Cambridge, Massachusetts 0 7−25 8−51 84,Fax:6 17−25 8−5 737 明らかにし,それらに共通する機能と作動原理の解明をめざす。 Phone:61 さらに,このシステムの機能が破綻する条件と,その結果引き E-mail:[email protected] 起こされる細胞病態も明らかにする。 はちょうど,不良品を市場に出さないという,工場の品質管理 の仕組みにあたる。不良品の蓄積に適切に対応できなくなると, 国際 AAA 会議報告 (Part 1) 構造に関する話題を中心に む余地の無い金科玉条のごとく見えてしまうところがある。し かし,実際には結晶を成長させる条件たるや生理的条件とは大 きくかけ離れている場合がしばしばである。また,解像度によ って,構造の信頼度が違ってくる(側鎖まで信用してよいのか 小椋 光 (熊本大学・発生医学研究センター) 主鎖だけかなど)のだが,素人はあまり気にかけない。かくい う私も素人に毛の生えた程度である。 今回は,狭義の AAA ATPase としては初めて p97の D1ドメイ 去 る3月13∼16日の4日間,京都ガーデンパレスにおいて国 ンの構造が Freemont によって発表された記念すべき会議であっ 際 AAA 会議(International Meeting「Cellular Functions of A- たが,これによってこれまでの疑問・謎が氷解したかといえば, AA Proteins in Search of Common Molecular Basis」 ) が開催された。 必ずしもそうではない。むしろ,疑問が増えたとも言える。p97 これは隔年に開催される国際会議で,今回が4回目となる。日 の構造はすでに Mol. Cell に発表されている。AAA 特異的配列 本では初めてで2 1世紀最初の会議でもあった。会議のレポート SRH 中には保存された Arg 残基が2つあり,NSF-D2の構造に基 は吉久さんと木村さんにもお願いしたので,私は構造に関する づいて私たちは後ろの Arg がオリゴマーを形成する隣のサブユ 話題に絞って関連する話題の争点が分かるように編集して報告 ニットに結合した ATP の リン酸基と相互作用する Arg フィン する。なお,英文の meeting report が Mike Maurizi と Chou-Chi Li ガーであろうと推定していたが,p9 7の構造(ADP 結合型:この によって書かれ,EMBO Rep. に掲載されることになっている。 点もあとで問題になる)では,この Arg は ATP の加水分解のた このことが会議の冒頭でアナウンスされると,どよめきが起 め水分子を活性化する Glu (これは Walker B モチーフのいわゆる こった。そして,会議で発表された多くの未発表データを meet- DEAD ボックスの E である)と相互作用し,その Arg より3残 ing report に掲載しないようにという希望が殺到することとなっ 基前に位置するやはり保存されたもう一つの Arg が Arg フィン た。したがって,このレポートでもこれらの大部分は報告を差 ガーとして働くことを示唆している (この Arg 残基も重要である し控えることをお断りしておく。 ことを私たちは実験的に示している) 。これで二つの保存された そもそも AAA ファミリーはアミノ酸の一次配列の共通性に基 残基の機能が推定されるので,これが正しいのかもしれない。 づいて定義されたファミリーであり,それに二次構造・三次構 しかし,問題はそう単純ではなく,この構造では SRH で保存さ 造の情報を加味してより広く定義したのが AAA+という歴史的 れた機能的に重要なほかの残基の機能がまったく推定できない な事実からして,このファミリーの共通分子基盤を論じるには 上に, そもそも結晶が決められた N-D1ドメインは ATPase 活性を まず構造を知る必要がある。そういう観点から,今回の会議で ほとんど示さない(質問して確認しました)という重大な問題 はセッション1に構造,セッション2に進化的関係を置いた。 点が指摘される。どうやら,N-D1は細胞内で ADP をくわえ込ん しかし,果たしてどれだけの聴衆がこれらの話題についてこれ だままの形で精製され,結晶化の時に ATP やそのアナログで置 たかというとかなり疑問がある。そもそも結晶構造を見せられ き換えようとしても置き換わらないらしい(これは論文にも書 ると,構造生物学以外の分野の人は,その構造は疑問を差し挟 かれています) 。つまり,ADP 型でロックした状態にあると考え 3 られる。さらに,同じグループからのポスター発表で,Walker に注目し(これについては,私の『細胞工学』の総説でも指摘 A, B モチーフの変異体の構造が発表されていたので,期待して している) ,この動きが基質タンパク質の unfolding とそれに共役 見にいったが,期待は外れた。Walker A の変異体は予想通り, した translocation を引き起こすというモデルを提唱した。 この Tyr ヌクレオチドが結合していなかった。 Walker B の問題の Glu の変 (ま た は Phe)残 基 は,プ ロ テ ア ー ゼ 関 連 の AAA/AAA+ と 異体では,ATP が加水分解されないので,ATP 結合型の構造が ClpB/Hsp104ではよく保存されており,機能的重要性を示唆して 明らかになっているかと思ったが,不思議なことにこれもやは いる。実際,Bochtler らは,この Tyr 残基の変異体を作製し,生 り ADP が結合していた。したがって,残念ながら ATP 型の構造 理的基質である SulA の分解が抑制されることを観察している。 はいまだ解かれていない。 T7 gp4ヘリカーゼの6量体構造では,ヌクレオチドの結合状態に 二つの Arg 残基のうちどちらが Arg フィンガーかという問題 よってサブユニットのリング平面に対する角度が変化し,中央 はまだ完全には答えられていないが, いずれの場合も Arg フィン の孔を形成するループが動く。これにより, 一本鎖 DNA が trans- ガーという概念は共通している。しかし,それにも疑問を挟む locate されるというモデルが提唱されている。詳細な機構は異な データが Weiss によって発表された。Weiss のグループはこれま るが,基本的な仕組みは共通する。 で NSF の D2と N ドメインの構造を解いたが,ATPase 活性のあ Freemont は p9 7と相互作用するアダプタータンパク質 p47の構 る D1の構造を解くに至っていない。 Whiteheart のグループとの共 造も決定していた。驚いたことに, p4 7の C 末端ドメインは UBX 同研究で,問題の Arg 残基の変異体の生化学的解析を行い,二 ドメインとそっくりであった。p9 7は p47とは異なるアダプター つの Arg 残基は ATP の加水分解には必ずしも必要でなく,加水 タンパク質と結合して様々な細胞機能に関わることが知られて 分解に伴う構造変化の伝達に働くという可能性を示唆するデー いるが,その一つ Ufd1は,ユビキチン経路で機能するタンパク タを紹介した。おなじ典型的な AAA でも異なる結果が得られて 質で,p9 7のユビキチン経路への関与が指摘されているが,膜融 おり,まだまだ謎が解けるまでには紆余曲折がありそうな気が 合で機能する p97-p4 7複合体の p4 7に UBX ドメインがあるという する。小椋は,AAA の Arg フィンガーの位置が,DnaB 様ヘリ のは一体何を意味するのか?今後の展開から目が離せない。ち カーゼの一つ RSF101 0プラスミドの RepA ヘリカーゼの Arg フィ なみに,Ufd1はダブル 構造を持つタンパク質で,p97(NSF ンガーの位置と一致するが,同じ DnaB 様ヘリカーゼである T7 なども)の N 末端ドメインのサブドメインとよく似ている。 gp4では,一次配列上異なる位置にあることを指摘し,Arg フィ 今回初めて紹介された構造としてはほかに,大腸菌の ClpA と ンガーは,系統的・進化的類縁関係とは必ずしも一致せず,機 クランプローダーの話があった。 ClpA の構造は Maurizi のグルー 構上の必要性から生じたという考えを提唱した。これは,AAA プが発表した。ClpA は AAA+ドメインを二つタンデムにもつと 以外の AAA+では,この機能を果たす Arg 残基が sensor 2にあっ いう点で p9 7や NSF とも似ている。決定された ClpA は全長で, て,AAA で Arg フィンガーと想定されている位置の Arg 残基の どちらのドメインも ADP 型であった。残念ながら,詳細につい 機能が確定していないこととも関連する。 てはレポートできないが,ADP 型にしろ ClpA の結晶構造が解け Bochtler らは,HslU についてヌクレオチドの結合状態が異なる たことは,ClpX や ClpB/Hsp1 04の構造を推定するのに役立つ。 いくつかの構造を解いている。そのうちの一つは4つのサブユ Jeruzalmi(O' Donnell,Kuriyan グループ)のクランプローダーの ニットにヌクレオチドが結合していた。この状態によく似た T7 結晶構造も圧巻だった。同じグループは以前クランプローダー gp4の構造が Wigley のグループにより解かれていて,ATP の加水 のサブユニット ' の構造を解いていた。それが最初に結晶構造 分解が sequential に起こるというモデルが提唱されている。この が解かれた AAA+ タンパク質の例であった。' は AAA+に属す ことは,HslU においても ATP の加水分解が sequential に起こる るものの Walker モチーフで保存されるべき重要な残基がほかの ことを示唆する。ただし,katanin などではおそらく加水分解は アミノ酸で置換されているため ATP 結合能もないということで 一斉に起こると考えられるので,同じ AAA 型でも異なる様式を さほど関心を払われていなかったが, 今回 サブユニットとδサ 使うことが出来るのであろう。これも機能の多様性の分子基盤 ブユニットを含む複合体の構造が決まり,いくつかの興味深い と考えられる。HslU と T7 gp4ヘリカーゼの構造の類似性は,さ ポイントが明らかになった。まず驚いたのは,の構造。と ' らに基質の translocation においても類似の機構を想起させる。 は名前が似ているせいもあり,誤解されやすいが,この二つは Wang は,HslU リングの中央の孔を形成するループの保存された まったく別物で,遺伝子も異なる。しかも,一次配列上のホモ Tyr 残基の側鎖がヌクレオチドの結合状態により変化すること ロジーも無い。したがって,これまで は AAA+には入ってい なかった。それが,構造を解いてみると AAA+と驚くべき共通 性をもっていた。は一次配列から明らかに AAA+の特徴をも ち,かつ,ATPase 活性をもつことが推定されていた。解かれた 構造は,両端に と ' が位置し,間に三つの を挟むヘテロペ ンタマーで,サブユニットの数は真核細胞のクランプローダー RFC と一致した (RFC 複合体は Rfc1−5からなるヘテロペンタマ ー。真核細胞の RFC の5つのサブユニットの中にも配列から ATP 結合能がないことが推定されているものがある。 )。 これまで 複合体(複合体は ,,' のほか と を含む複合体で, 今回構造が決まったのはその一部というのが正確だが, と は クランプローダーとしての活性には必要ない) 中の サブユニッ 京都見学。蛤御門(御所)の内側、向こうに見えているのが会場のガーデン パレス 4 トの数は2∼4と確定していなかったが,原核細胞と真核細胞 もご一緒できることを期待しています。 AAA ミーティング報告 (Part 2) 木村 洋子 (東京都臨床医学総合研究所) 3月1 3日から16日の間,京都大の伊藤維昭先生,熊本大の 参加者全員で記念撮影 3 小椋光先生のオーガナイズで第4回 国際 AAA 会議が京 での構造的共通性がさらに明確になった。面白いことに三つの 都で開かれた。これはさまざまな AAA family タンパク質の構造 サブユニットの構造はそれぞれ微妙に異なっていた(特に や機能の解析を発表しあうことによって,AAA family の普遍的 AAA+に特徴的な ヘリックスに富む C 末端ドメインの部分)。 な働きを見い出していこうという趣旨のミーティングである。 さらに,サブユニットの C 末端の ヘリックスが クランプ 私は,初めて参加したが,とても素晴らしいミーティングだっ に結合し,クランプ(三つの相同なドメインからなる 2量体 たので,その内容を少し紹介したい。 で疑似6量体を形成する:真核細胞では PCNA で,こちらは二 まず,ミーティング前半の口頭発表の中では,A. Matouschek つの相同なドメインからなる3量体で,やはり疑似6量体を形 による ATP 依存性プロテアーゼによって分解される基質の解析 成する)を開く反応にかかわるというモデルを提唱した。釣本 の発表は,非常に興味深かった。彼等の結果はその後 Molecular は,真核細胞の RFC5量体の電顕および原子間力顕微鏡による観 Cell に掲載されたが,ここで詳しく解説したい。ATP 依存性プロ 察から ATP 結合および加水分解による構造変化を示した。それ テアーゼによって,基質が分解されるときは,その ATP 依存性 によると,RFC はクランプを内側に挟むようにして stepwise 加水 プロテアーゼによって,基質がまず unfold(解きほぐし)される 分解の過程でクランプを開くというモデルを提唱した。 ことは既に示されている。今回彼等は,DHFR と barnase という 岩崎は,DNA 組換え中間体 Holliday ジャンクション-RuvABC モデルタンパク質に,分解のタグをつけた。これらのタグをつ 複合体の構造と機能について発表し,RuvB リングの中を二本鎖 けると,タグを認識するプロテアーゼ(プロテアソーム,ClpAP, DNA が移動することにより分岐点移動が起こるというモデルを ClpXP)によって分解されるようになる。また,DHFR と barnase 説明した。RuvB リングが RuvA を挟むという構造とプロテアソ は,それぞれ MTX(メトトレキセート) ,barstar というリガンド ームの制御ユニット(この中に6個の AAA タンパク質が含まれ との結合によって,unfolding が阻害される。ところが,DHFR る)が触媒ユニットを挟むという構造的アナロジーについて質 は MTX 処理によって分解が阻害されるが,barnase は barstar 処 問があったが,プロテアソームの場合は,基質タンパク質は外 理しても分解されてしまう(図1 A a,b) 。丸ごとのタンパク質 側から内側へ translocate されるのに対し,RuvB の場合は,基質 の安定性を比べれば,barnase の方が DHFR より安定であるのに DNA は内側から外側へ translocate されるという違いがある。 これ もかかわらず,分解されてしまうので,分解は,蛋白質自体の は,それぞれのリングが結合している向きによるもので,基質 不安定性によるものではないことがわかる。そこで彼等は,un- の移動方向とリングの向きの関係は一致している。 folding,及び分解を受けるには,分解のタグがつく付近の構造 ほかにもいくつか構造関係の話題はあったが,特に興味を引 (local structure)が重要ではないかと考え,図1 A c,d のような いた話題に絞って紹介した。結晶構造を含む詳細な構造がこれ DHFR と barnase をつなげた蛋白質を作った。まず,DHFR が分 ほど議論されたのは,今回の AAA 会議が初めてあり,しかも 解のタグに近接しているときは,MTX 処理によって,融合蛋白 + AAA をも正式に含めた最初の会議であったので,前回までとは 質の分解は起きない。しかし,タグと DHFR の間に barnase があ 解析のレベルにおいても範囲においても大きく様変わりした。 るとき,MTX 処理すると barnase の部分は分解されるが,DHFR まさに進化しつつある会議であり,今後も参加メンバーはどん の部分の分解は抑えられる「限定分解」が起きることを示した。 どん変わっていくだろう。招待演者の過半数が初参加者であっ つまりプロテアーゼは,分解のタグがついた所から局部的に, + た。AAA/AAA に関連したヒト疾患の例もここ2,3年で相次い そして次々と逐次的な unfolding を引き起こし,そこから分解し で判明し,今回の会議でもいくつか取り上げられたので,ほか ていくようだ。しかし unfolding できない部位にくると,プロテ の二人が書いて下さると思います。核酸を基質とするものも含 アーゼの分解はそこまでになるようである。 まれるという点で,少し変わったタイプではありますが,シャ さらに彼等は,この考えを転写因子 NF-kB の不活性型 p105が ペロンとしての地位を確固たるものにしつつある AAA/AAA+タ プロテアソームによって限定分解を受け,活性型の p50を産生す ンパク質にこれからもご注目下さい。2年後は,Mike Maurizi の る機構にあてはめた(図1 B)。そして,p50の内部に p50の構造 オーガナイズで,アメリカでの開催と決まった。次回またどん を不安定化させる変異を導入すると,p1 05の分解は起きるが, な新しい進展があるか今からワクワクする。今回は,日本での p5 0が現れなくなることを示した。つまり,今回の彼等のモデル 開催ということで沢山の日本人に参加していただけましたが, によると,いったん full length の p10 5が生成され,その後にユビ この分野での研究者の数,貢献度からして海外での会議でも日 キチン化を発端として C 末ドメインの局部的な unfolding 及び分 本から十人程度の参加者があって当然の様な気がします。次回 解が起きるが,N 末側の p5 0のドメインはしっかりと折り畳まれ 5 Meyer は,p9 7がユビキチン化タンパク質の分解に関与する酵母 Ufd1のヒトホモログと,核―細胞質間輸送に関与する Npl4のヒ トホモログからなる Ufd1/Nlp4複合体とも結合することを報告し た。Jentsch は,Cdc48による Spt2 3の切断実験でも Ufd1と Npl4が Cdc48と複合体を形成してこれに関与すると指摘しており,新規 の Cdc4 8複合体がユビキチン化されたタンパク質のプロテアソ ーム提示に関与するという新しい概念が提出された。 さてこの meeting では,3日めにポスター発表も行なわれた。 ポスター発表では,自分のところに立っていなくてはいけなか ったので,他のポスターの presenter に直接聞くことがあまりでき なかったのが,ちょっと残念。さすがに Jentsch のラボのポスタ ーには多くの人が群がっていた。Li らは酵母の cdc4 8変異株及び VCP の解析の発表をしていた。このラボは,以前にリン酸化さ れた IkB に結合する分子として VCP/CDC4 8を同定しており,さ らに VCP がプロテアソームと copurify されることを示している。 今回は,出芽酵母 cdc4 8の低温感受性株では,低温下ではサイク リン B などユビキチン化された蛋白が蓄積することを示してい た。また,VCP は基質と ATP 依存的に結合することを示した。 さらに,VCP の N 末部分が基質と結合する部分であることを明 らかにしたが,この N 末部分のみだと結合が ATP 非依存的にな ることを示していた。 ポスタ−では私も発表したが,たまたま直前の昼食で隣りだ 図1 Matouschek らの実験 った Bukau に自己紹介し, ついでに私のポスターにも来てくれと ているためプロテアソームによる unfolding が起こせなく分解を 頼んだら,本当に来てくれて,熱心にメモをとって聞いてくれ 免れ,部分分解になる。しかし変異体では,p5 0の部分も(おそ たのには感激した。 この Bukau は, ClpB, DnaK, DnaJ による refold- らく)unfold され,完全分解になる,という事になる。この知見 ing の研究を行なっているが,今回は ClpS という分子が ClpA に は大変興味深かった。というのは,数年前,Cell に,p50の産生 よる基質の再活性化を促進することを発表していた。 は cotranslational に生じるという論文が,他のグループから発表 最 終 日,Frohlich は, 「CDC48 - a jack of many trades links pro- されていたからである。私は当時,この斬新な機構に感動した。 grammed cell death of yeast to mammalian apoptosis.」という題の話 しかし,この cotranslational モデルによると,p5 0の方が p1 05よ をした。この題は,辞書をひくと, 「Jack of all trades, and master り先にできることになる。しかし, 実際の実験では, p5 0より p1 05 of none.」がもとで, 「何でも屋のくせになんでも中途半端」とい の産生の方が先に現れるようにみえるので,この事実をどう説 う意味だそうだ。 たしかに Cdc4 8は,分解,分泌,細胞周期の 明できるのかと思っていた。したがって,今回の Matouscheck の 進行,酸化ストレスなどいろいろな場面でちょこちょこと登場 考えの方が,しっくりくる。現在彼等が行なっていることは, してくるが,実際どれだけ直接に重要なのかよくわからないと p1 0 5のカルボキシル末端に DHFR をつけてみる実験を行なって ころがある。Frohlich は Cdc4 8研究のパイオニアであるが,その おり,分解がカルボキシル末から削られて起きていくか,それ 8の変異体にアポトーシス様の表 研究の過程で,出芽酵母の cdc4 ともドメインの間にある分解のシグナル部分が unfolding によっ 現型を示すものがあることを発見し,酵母にもアポトーシスが てループアウトして飛び出し,そこから分解されているのかを あることを示したパイオニアでもある。今回彼等は,その cdc48 みているそうだ。ちなみに,cotranslational による機構について の変異と Yan1という nuclease との二重変異株では,cdc48変異の どう考えるかと聞いてみたら, 「incompatible ではないが…」と 表現型が抑えられ,生存率が回復するという結果を示していた。 言葉を濁していた。また p1 0 5の限定分解に重要と考えられてい また Kakizuka は,ポリグルタミンと結合する蛋白質として, る領域 glycine rich region(GRR)については,酵母中で GRR を 除いた p105を発現させても限定分解が起きるので,直接には関 係ないのではないのかというコメントだった。 また, Jentsch による発表も大変興味をひかれた。彼等は, RSP5 という E3の研究から,不飽和脂肪酸の合成誘導に関する経路を 明らかにしている。この経路で,Spt2 3というアンキリンリピー トを持つ転写因子は,不活性な状態では ER 膜にあるが,プロテ アソームによって切られ,核の中に入り,転写を促進すること を示している。今回,Spt2 3が膜から出る時に,Cdc4 8が働いてい る事を示していた。この時 apyrase 処理すると阻害されるので, これは ATP が必要な反応であるようだ。mammalian p9 7は p47と 共同して膜融合に関与することは以前から言われていたが, 6 仁和寺の前のうどん屋にて(右奥は Matouschek) AAA family に属する蛋白質を同定した。さらに Shirogane は,ア ポトーシスに関わる分子として VCP を同定した。 個人的な感想だが,AAA family の分子たちは単独で働きうる のか,それとも常に何か他の分子と一緒でないと機能発揮はな いのであろうか?単独だと unfolding の機能しかなく,他の分子 と一緒に働くことによって,分解,folding,複製などの違いがで てくるのであろうか。 実に実に,実りの多いミーティングだった。 「Very good meeting!」と,多くの人が言っていました。伊藤,小椋両先生,本当 に御苦労様でございました。AAA superfamily は,間違いなくこ れからもさらに発展する分野であることを確信した。私は,分 子の構造をみると幾何の授業を思い出してしまい,反射的に避 竜安寺で(Bukau ほか) けてしまう。それで構造の部分のレポートは小椋先生に書いて が外側に開き3つが内側を向いていること,そして,これが ATP いただくことになった。 (これで,気持ちがぐっと楽になりまし の結合・加水分解とカップルして入れ替わることを主張した。 た。)しかし AAA に関しては,構造をきちんと理解してこそ, NSF は, 3量体の -SNAP を通じて,4へリックスバンドルから 機能も理解できる部分が多いようなので,これからは是非勉強 なる cis-SNARE 複合体を解離すると考えられているが,この N しよう!と京都では決意した。 ドメインのダイナミックな動きが SNAP を通じて,SNARE の へリックスバンドルを引きはがす「pull-apartase(引きはがし酵 素) 」として機能するというのが彼の主張である。もちろん,彼 AAA ミーティング報告 (Part 3) オルガネラにおける何でも屋 の主張は,Freemont の p9 7の構造とは必ずしも一致しない。しか し,AAA ATPase タイプのシャペロンが膜融合に関わる時の分子 メカニズムを考えるための,一つの作業仮説としては意味があ るものだと思われる。p9 7にしても,NSF にしても co-factor を含 吉久 徹 (名古屋大学物質科学国際研究センター) めた全体構造の決定が待たれるところである。 オルガネラに局在する AAA ATPase の中には, ミトコンドリア や葉緑体内のタンパク質分解に関わる FtsH ホモログがある。ミ の名の通り,細胞内の多種多様なプロセスが AAA/AAA+ ト コ ン ド リ ア に は,膜 間 部 側 に AAA ド メ イ ン を 持 つ i-AAA そ ATPase によって司られている。従って,話題たるや蛋白質 (Yme1p)と,マ ト リ ッ ク ス 側 に ド メ イ ン を 持 つ m-AAA の分解から始まって,DNA 複製,細胞周期,オルガネラバイオ (Yta10p/Afg3p,Yta12p/Rca1p)の2種類の FtsH ホモログが知ら ジェネシス,シグナルトランスダクション,はては遺伝病と, れている。Langer 研の K. Leonhard は,酵母 S. cerevisiae ミトコ 極めて多岐に渡ったのが,3月1 3日から1 6日まで京都で開かれた ンドリアの内膜タンパク質 Yme2p の分解を in vitro でアッセイす AAA ミ ー テ ィ ン グ で あ る。今 回 の ミ ー テ ィ ン グ で は,特 に る方法を確立し,i-AAA,m-AAA いずれもが Yme2p の分解に関 AAA/AAA+タンパク質の構造解析の話題が多数紹介され,やは 与することを示した。いずれか一方が欠失しても,in vitro での り見ることは理解するための,もしくは理解する方針を立てる Yme2p の分解活性は完全には失われないが,両方が欠失すると, ためのもっとも早道であることを痛感するミーティングであっ Yme2p が安定化する。基質タンパク質の分解され易さは,膜間 た。構造解析の話題に関しては,AAA の専門家でいらっしゃる 部およびマトリックスに露出したドメインの安定性に依存す 小椋先生の稿にすでに詳しく述べられている。また,タンパク る。しかし, マトリックス側の m-AAA がなく, 膜間部側の i-AAA 質分解などにおける AAA ATPase のトピック的な話題に関して しか存在しないミトコンドリアでも,マトリックス側に露出し は,やはりシャペロンの専門家の木村先生の稿に述べられてい た基質ドメインの安定性が分解速度に大きく影響する。これは る。では非専門家である筆者としては,自分の興味に近いとこ m-AAA の場合もそうである。その際,i-AAA は膜間部側に,m- + ろ,すなわち,AAA/AAA の話題をオルガネラと言うくくりで, AAA はマトリックス側にある程度の長さのペプチドが露出して まとめてみたいと思う。 オルガネラに関わる AAA ATPase と言うと, まず筆者が思い浮 かべるのは NSF/Sec18p と p9 7/Cdc4 8p である。 これらの AAA ATPase は,N 末端に非 AAA ドメイン(N ドメイン)があり,その 後に二つの AAA ドメイン(D1および D2ドメイン)が続くとい う共通な特徴を持つ。今回のミーティングでは,p9 7について, N,D1両ドメインを含む N 末端部分の結晶構造が明らかになると いう画期的な報告があった。P. Freemont による p97の結晶構造解 析の詳細については,小椋先生の稿で述べられているのでそち らを参考にされたい。しかし,アイディアとしておもしろいと 思ったのは,W. Weis の NSF の構造解析に関する報告であった。 彼は,ホモ6量体からなる NSF の N ドメインは,交互に, 3つ 左から Irene Cheng,松尾英一, Amos Opphenheim,Zach Adam, Chou-Chi Li, Frank McNally 7 いないと,反対側にある大きなドメインのある基質を効果的に されることが紹介された。彼らは,この経路が,ミトコンドリ 分解できない。これらの結果は,京大・伊藤維昭のグループが ア起源の抗原ペプチドの MHC Class Ⅰによる提示に関与するの 大腸菌の FtsH で明らかにした「引きずり出し」モデルとよく一 ではと述べた。これも,高等生物におけるミトコンドリア内タ 致する。大腸菌の話になるが,伊藤研の Y. Akiyama は,今回, ンパク質分解の,高次機能への関与の可能性を示した点,興味 再構成小胞を用いて FtsH による膜タンパク質の分解を検出でき 深い報告であった。 たことを報告していた。このような,よりピュアな系での解析 一方,植物の葉緑体にも多数の FtsH ホモログが存在する。Z. が進めば,一群の FtsH プロテアーゼがどのようにして基質膜タ Adam は,光合成における光障害によって機能を失った蛋白質の ンパク質を膜から「引きずり出し」て,分解するかが明らかに 分解に,チラコイドに結合している FtsH ホモログが関与するこ なってゆくものと思われる。なお,ClpAP タイプのプロテアー とを示した。かれらは,モデルタンパク質として光化学系の反 ゼに関しては,ポリペプチド鎖を片方の末端 (ここでは C 末端側) 応中心 D1サブユニットの分解を in vitro で解析し,それが,GTP から順番に,活性中心のある複合体の中央部へ引きずり込んで と DegP ホモログに依存した1ヶ所での切断と,それに引き続く 分解することが,蛍光アニソトロピーや蛍光エネルギー転移の 各断片の分解との2段階で進むことを明らかにした。そして, 測定から明らかとなったと B. Reid が報告した。ミトコンドリア この2段階目が葉緑体 FtsH によることを,FtsH 抗体や弱いトリ の i-AAA や m-AAA,大腸菌の FtsH も,同じような機構で基質 プシン処理によるチラコイド上の FtsH の除去により分解が抑え を N または C 末端から吸い込んで分解するのであろう。 られること,また,可溶性にした FtsH 組換え体がその分解の欠 上述のミトコンドリア FtsH ホモログは,直接か間接かは別と 損を元に戻せるといった結果より明らかにした。シロイヌナズ して,ミトコンドリアにおける呼吸鎖複合体の複合体形成・維 ナには,明らかな FtsH ホモログとして FtsH1∼ H8の8種類が存 持に必要である。ミトコンドリアの m-AAA,i-AAA は,高等生 在するが,この内,H1,H2,H5∼ H8は葉緑体に局在すると考 物に至るまで保存されており,近年,ヒトの遺伝性痙性対麻痺 え ら れ て い る。他 方,ミ ト コ ン ド リ ア に 局 在 す る の は,H3 (hereditary spastic paraplegia,HSP)の原因遺伝子の一つ paraplegin (Yta10p・Yta1 2p ホモログ)と,H4(Yme1p ホモログ)のみだ が,Yta10p・Yta12p のホモログであることがわかった。G.Casari と考えられている。ミトコンドリアに比べても多数存在する葉 は,ヒトの HSP 患者より採取した繊維芽細胞を解析し,この細 緑体中の FtsH が,どのように機能を分担しているかが,今後解 胞では呼吸能の低下が見られ,特に,酸化ストレス下で呼吸能, かれるべき問題点であろう。 ATP 合成能が低下することを報告した。呼吸能の低下に関して 今回のミーティングでは,ペルオキシソームに関する報告も は,筋細胞でも同じ形質が見られるとのことである。また,para- 多数あった。ペルオキシソームへのタンパク質輸送,および, plegin が,も う 一 つ の Yta1 0p・Yta1 2p の ホ モ ロ グ で あ る ヒ ト ペルオキシソーム動態に関係する AAA ATPase としては,Pex1p Afg3L2と相互作用しており,酵母の場合同様,9 0 0 kDa 前後の大 と Pex6p がある。複数の生物種で,これらは複合体として機能 きな複合体を形成していることを明らかにした。変異 paraplegin することが報告されている。しかし,その機能に関しては,生 の中には,この複合体形成に欠損をきたすものがあるようであ 物種によって,また,研究しているグループによって,異なっ る。一方,E. Rugarli は,paraplegin ノックアウトマウスが, (1) た見解が示されている。Gould 研の C. S. Collins は, (1)P. pastoris 正常に生まれ,生後2ヶ月ほどは野生型と全く違いが見られず, と human における pex1と pex6の変異では,マトリックスタンパ かつ,生殖能力を持つこと, (2)生後4ヶ月以降,徐々に運動 ク質の輸送のみがおかしくなっており,ペルオキシソーム膜タ 調整能力に問題が生じてくることを報告した。この症状は,脊 ンパク質(PMP)の膜組み込みや,分泌系などには影響がない 髄神経系での軸索の肥大と,その肥大した軸索中に巨大化した 2を除いた全ての pex 変異 こと, (2)pex1,pex6は,pex4と pex2 りクリステに異常を生じたミトコンドリアが蓄積することと平 に対して epistatic であり,膜透過装置の因子を含んだほとんどの 行しているとも述べた。Casari, Rugarli いずれの報告においても, 因子の下流で機能すること, 等から, この二つの AAA ATPase が, 細胞レベルでの形質はミトコンドリアの機能・形態異常であり, ペルオキシソームマトリックスタンパク質の取り込み以降のス 2変異の示す形質に類似点が多い。いず 酵母における yta10, yta1 テップに関与すると主張した。R. Rachubinski は,Y. lipolytica を れの生物でも,この FtsH ホモログが,タンパク質分解あるいは 用いたペルオキシソームのサブフォームの動態について話し シャペロン活性を通じて,ミトコンドリア呼吸系の複合体の機 た。この中で,Rachubinski は,先の Collins と異なり,Pex1p と 能維持に関与していると考えて良さそうである。しかし,酵母 Pex6p は,ペルオキシソームサブフォーム間の膜融合に関与する の欠失変異の形質を考えると,paraplegin の欠失マウスが思った ことを主張した。彼らは,Y. lipolytica には P1∼ P6のペルオキシ より軽度の,しかも,特定の神経細胞特異的な形質を示したこ ソームサブフォームがあり,このうち P1と P2が融合して P3にな とは,組織・発生段階特異的な複数の FtsH ホモログの存在でも ることを in vivo と in vitro の実験から示している。 P1には Pex1p の 仮定しないと,簡単には理解しがたい。現在,ヒトの Yme1p も みが,P2には Pex1p,Pex6p 両方が存在するが,融合反応の過程 単離されているが,K. -U. Fl rlich のゲノム解析の結果では,ヒ で,P1からは Pex1p が,P2からは Pex6p が,ATP とサイトゾル トには m-AAA は2個だけだということである。ひょっとする 依存にはずれることを示した。Rachubinski によれば,P1,P2の と,酵母にとってミトコンドリアはヒトよりひ弱なのかもしれ 前駆体はいずれも ER 起源であり,一部の PMP は ER に挿入さ ない。高等生物におけるミトコンドリア FtsH がどのように細胞 れた後,P1,P2を経由して,ほかのサブフォームに運ばれると 特異的な機能を発揮しているかについて,今後の解析に期待が のことである。少なくとも,Y. lipolytica では pex1,pex6で ER かかる。先に紹介した Leonhard の発表では,もう一点,m-AAA の増殖が見られるようだ。 で分解されたペプチドがミトコンドリア内膜の ABC transporter これに比較的類似した視点を持っていたのは,W. Kunau であ の一つ Mdl1p によって膜間部へ,最終的には,細胞質側へ輸送 る。彼の話は,Pex1p と Pex6p の相互作用における,各 Pex タン 8 パク質の AAA ドメインの寄与がメインの話であったが,もう一 カのミーティングではこうした構造解析と各生命現象に基づい 点,Pex6p と Pex15p の相互作用に関して興味深い解釈を示した。 た機能解析の上に,AAA や AAA+の分子メカニズムの本質にせ Pex6p は,D1,D2の二つの AAA ドメインとその N 末端側に非 まるホットな議論が展開されるだろうという期待を抱かせつ AAA ドメインを持つが,Pex6− Pex15相互作用には,Pex6p の つ,京都での非常に密度の高い4日間は終わったのであった。 N ド メ イ ン が 必 要 で あ る。D1ド メ イ ン は N ド メ イ ン に よ る Pex15p の結合を増強するが,D1の Walker A モチーフに変異が入 ると,この増強効果は失われる。面白いことに,Pex6p の D2変 異は,Pex6p の膜結合性の低下を引き起こすが,これによるペル オキシソーム形成不全は Pex15p の過剰生産で抑圧される。従っ て, Pex6p が Pex1 5p の何らかの機能を厳密に制御しており, 特に, The 3rd MDC symposium 「Protein Transport and Stability」に参加して (Part1) フリーの Pex15p が機能を持っている可能性がある。Kunau は, この結果を NSF による cis-SNARE 複合体の解離反応と類似して 千葉 志信 いるのではと指摘した。彼は,Pex1 5p がペルオキシソーム膜上 (京都大学ウイルス研究所) で何らかのタンパク質と不活性な複合体を形成しており,Pex6p がいったんこれに結合し,ATP 水解依存にこの複合体を解離さ せ,活性型の Pex1 5p を遊離する,というモデルを考えている。 回で3回目となる MDC symposium は, ベルリン郊外の湖畔 今 にたたずむリゾートホテルで行われた。「Protein Transport Pex1p や Pex6p が,ペルオキシソーム動態に関わっているという and Stability」というテーマで,この分野の最先端で活躍するビッ 解釈は,姫工大・大隅隆研の T. Tsukamoto からも報告された。 グネームから,大学院生まで100名以上が参加し,3月21−26日 彼らの CHO 細胞から単離した pex6変異株では,ER の近傍に二 まで,実質的には2 2−2 5日までの4日間にわたり,最新データ 重膜構造体の中央部がカップ状にへこんでできたような複雑な を発表しあい,大変活発な議論を展開した。今回,伊藤維昭研 構造をもったペルオキシソームゴースト(マトリックスタンパ 究室から,我々二人(中戸川仁,千葉志信)が参加した。二人 ク質は含まないが PMP を含む膜構造)が蓄積する。さらに,こ とも,海外での国際学会参加は初めてであり,胸躍らせて関空 の中央に,PMP を含んだ膜には囲まれていない球状の GFP-SKL を発った。 を含んだ構造体が取り込まれる場合があることを報告した。Ku- 時は3月下旬。実に卒業旅行のシーズンである。そのためか, nau も同様の構造が酵母で見られることをコメントした。Tsuka- ドイツ直行便に空席はなく,我々は,オランダ・アムステルダ moto はさらに,pex1変異でも異常なペルオキシソームゴースト ム経由でベルリンに向かった。約1 4時間のフライトを経て,到 が蓄積する場合があることを述べており,Rachubinski の報告ほ 着したアムステルダムは,我々にとって初めてのヨーロッパで ど単純ではないにしても,ペルオキシソームの AAA ATPase は, あった。使い慣れない紙幣でアムステルダム中央駅までの切符 NSF や p97/Cdc48p 同様,膜の動態に何らかの機能を果たす可能 を買い,必要以上の緊張感とともに(なぜなら,日本人観光客 性は高いと思われる。しかし,本ミーティングでも p9 7/Cdc4 8p はもっとも狙われやすいと吹き込まれているからである。) ,中 に関して,膜融合以外に,アポトーシスやシグナルトランスダ 央駅へ到着した。そこは美しい石造りの建造物であり,我々が クションにも関与するなど,マルチファンクションであること 日本でイメージする「駅」ではなかった。駅そのものが観光名 が報告されている。Pex1p や Pex6p もそのシャペロン的な機能ゆ 所だけのことはある。アムステルダムは大変面白い街である。 えに,ペルオキシソームのタンパク質・膜動態に関して,複数 ヨーロッパ的な美しさと,人間臭い喧噪が入れ混じっている。 の作用点を持つ可能性は否定できないと思われる。 「鏡窓」や公認麻薬で有名であるが,街の雰囲気そのものが,本 この他にも,本ミーティングでは,プロテアソームの19S regu- 能に忠実であることを許容しているようだ。様々な人種の人た lator に含まれる AAA ATPase の基質タンパク質選別に関する寄 ちが,派手なファッションで街を歩き,その様は,この町独特 与,DNA の複製に関わる DNA helicase である Mcm タンパク質 の許容範囲の広さを物語っている。我々が一般的にイメージす や組換え中間体である Holliday ジャンクションの移動に関与す るヨーロッパらしさに加え,新しい世代の文化が融合し,独自 る RuvB,原核及び真核生物のクランプローダーなど,DNA を巡 の雰囲気を形成している。この雰囲気こそが,多くの若者がこ + る AAA ATPase など,細胞内でおこる多様な話題が提供された。 の街に憧れるゆえんであろう。 従って,これを全て網羅するのは,他2名の執筆者の方との協 翌日,空港へ向かう鉄道の車内で,いかにもアムステルダム 力の下でもちょっと不可能である(この点,私の力不足の分は らしい出来事に遭遇した。中央駅で出発待ちの車内で,一人の お詫びします)。しかし,一つの構造的な特性を持ったタンパク 黒人が話しかけてきた。彼は, 「オレの写真を撮ってくれ」と頼 質を題材とした話題で,これだけ様々な生体反応を勉強できた んできた。よくわからぬまま,写真を撮ってやると,今度は, 点,非常に面白いミーティングであったと思う。その一方で, 「金をくれ」とせがんできた。「No」と言い続けたら,あきらめ 個々の生命現象に分子レベルではどのように AAA や AAA+が関 て去っていったが,このような危険な輩の存在も,いかにもア わるのか,その中に,何らかの共通メカニズムがあるのか,が ムステルダムらしく感じられた。せっかくなので,彼の写真を これから明らかになって欲しい点でもある。文頭に述べたよう 掲載する(遠藤先生に却下されなければ) 。 + に,AAA や AAA に関しては,その分子サイズにもかかわらず, 非常な勢いで構造解析が進められている。そして,本ミーティ 3月下旬のベルリンは,完全な真冬であった。学会最終日に は,ホテルの周りが一面銀世界になっていたほどである。 ングでも,構造をもとに AAA の基本的な分子機能に関して,い 会場に向かう S バーンの路線を乗り間違え, 辺りの風景はすっ くつか重要なコンセプトが提示されていたと思う。次回アメリ かり田舎町の終着駅に着いた。それでも電車を降りようとしな 9 以前 Wolf らが報告した論文では,Hrd1p/Der3p の RING H2モチ ーフは ER の lumen 側に存在することが protease protection assay の結果から示唆されていたが,Hrd1p/Der3p が E3として機能する ためには,RING H2モチーフは細胞質側に存在するべきである。 それを受け,今回,Wolf 氏は,genetic approach で RING H2モチ ーフが以前の報告とは逆の,細胞質側に存在することを示した。 また,ER 膜に存在する E2である Ubc7p とこのドメインが相互 作用することなどを示し,Hrd1p/Der3p が E3であることを提唱し 6, た。この一連の仕事は,のちに JBC の4月号(J. Biol Chem. 27 10 6 63-10 6 69 (200 1) )で publish されることになるが, 実は Hampton 4-29 (2001) ) らは, Nature Cell Biol. の1月号 (Nature Cell Biol. 3, 2 アムステルダムの車内にて。この顔で 「Give me some money」 である。 で,Hrd1p/Der3p が E3であることをすでに証明していた。問題に い我々を見つけた駅員が,ドイツ語で何か言ってきた。もちろ なっていた Hrd1p/Der3p の topology に関しても,去年の JCB の んドイツ語など理解できるわけもないのだが,その駅員が明ら 51, 69-82(2001)) で RING H2ド メ イ ン 1 0月 号(J. Cell. Biol. 1 かに, 「お客さん,終点ですよ。」といったに違いないことを我々 が細胞質側にあることを示しており,この一連の研究に関して は今でも確信している。その町に観光客など滅多に来ないため は,Hampton グループがややリードしているように思える。両 か,駅でさまよっている間我々は,地元の人たちの好奇の目に グループの一連の論文の投稿日や出版日などを比較すると,こ さらされた。おかげで危うく遅刻しそうになった我々であった の非常にシビアな競争がどのように展開してきたかがよくわか が,無事学会会場に到着し,受付を済ませた。初日はオープニ り,大変面白いので,興味ある方にはおすすめしたい。Hampton ング・ディナーパーティーで,優雅にドイツ料理を満喫して終 氏は Nature Cell Biol での仕事に加え, ERAD における基質認識に 了。ドイツビール,シャンパンのアルコールも手伝って,すぐ 関する仕事を発表した。後者は,のちに MCB で publish された さま眠りに落ちた(コラム『ベッドは GroE 型のシャペロンであ 1, 4276-4291(2001))。本来のトップバッター, (Mol. Cell. Biol. 2 る』の項・参照)。我々は,翌日からのシンポジウムに向けて, Peter Walter 氏が都合で参加できず,演者が一人少ない状況スタ 十分休養しておく必要があったのだ。 ートした本セクションであったが,Hampton 氏は,Powerpoint に さて,シンポジウムであるが,私(千葉)は主に「Stability」 様々な仕掛けを施し,その派手なパフォーマンスは(本来3 0分 に相当する部分を担当する。本シンポジウムでは多くの演者が 間の発表時間にもかかわらず)1時間にも及んだ。そのため, 多岐にわたって講演を行ったため,すべてについて触れること 結局我々は,定刻通りに Dinner にありつくことになったのであ はせず,かいつまんで紹介する。 る。 Stability の セ ッ シ ョ ン は,ERAD(ER-associated degradation) シンポジウムの合間に,ミニシンポジウムがもうけられてお に関する発表が主であった。22日の午後から始まったこのセッ り,その中から,いくつかかいつまんで報告する。若手研究者 ションのトップバッターは,Dieter Wolf 氏。次いで Randorph A. Schmitz 氏は,このシンポジウムで最も注目を浴びた一人であ Hampton 氏。彼らは以前,それぞれ独立に,ERAD に関与する因 る。彼は,in vitro 再構成系の実験から,コレラ毒素の retrograde 子を genetic screening により複数単離していたが,Wolf のグルー translocation には,唯一 Bip のみが必要であると結論した。とこ プが発見した Der3p が,Hampton グループの見いだした Hrd1p ろが,よりによって,この業界の超大物 Tom Rapoport らが,コ と同一のものであり,Hrd1p/Der3p の解析に関して,両者は競争 レラ毒素の逆輸送に PDI が関与することを同じ日の午前中に発 関係にある。ごく最近,一部の ubiquitin ligase(E3)に RING H2 表していたため,彼の言動に注目が集まってしまったのである。 モチーフが触媒活性部位として保存されていることが示唆され しかし彼は,冗談交じりに表題を変更し,Rapoport の結果を絡 た。大変興味深いことに,このモチーフが Hrd1p/Der3p にも存在 めたジョークやアドリブを交えながら発表を行い,この危機 しており,このことから,この因子が ERAD において,E3とし て機能している可能性が浮上した。今回の両氏の発表も,Hrd1p /Der3p が E3であることを証明することに主眼が置かれていた。 (?)をうまく凌いだ。 オーガナイザーの一人, Thomas Sommer のラボの E. Jaresch は, ER 膜結合型の E2である ubc6p の分解が,Sec61p や HRD 複合体 Hrd1p/Der3p が E3であるためには,一つの大きな問題があった。 『ベッドは GroE 型のシャペロンである』 最近,小椋らにより, 「神社はシャペロンである」ことが 提唱された(Chaperone News Lett. 8, 5-8 (2 0 0 1) )が, 今回我々 は,シャペロン様活性を有する新規の因子として,ベッド を同定した。MDC symposium で一日中英語で講演を聴き, 言語中枢を超音波破砕されたかのごとくふらふらのヘロヘ ロになって部屋に戻ると,そこにはベッドがあった。我々 は,シンポジウムの間毎晩,ベッドにはいると文字通り一 瞬で気を失った。枕が変わると眠れないと言う人がいるが, そのような方は,一度我々のようにミスフォールドしてみ ることをお勧めする。ベッドのシャペロン能に気づくはず である。 10 筆者(千葉志信) 。ポスター会場にて に依存しない経路を経て,ユビキチン・プロテアソームシステ ム で 分 解 さ れ る こ と を 報 告 し た。Tail-anchored protein で あ る Ubc6p は Sec61p 非依存的に ER 膜に組み込まれるが,その分解 における逆輸送も,Sec61p 非依存的であるという点が面白い。 翌日には,Aaron Ciechanover 氏が NFkB のプロテアソーム依存 的限定分解について,最近の知見を報告した。 次いで, Linda Hicke という女性研究者が エンドサイトーシスにおけるユビキチン化 の役割,internalization に必要な因子の解析について報告した。 彼女は以前,mono-ubiquitination が internalization のシグナルであ ることを提唱しており,個人的に興味を持っていたが,最も大 きな問いである,「何が mono-ubiquitin シグナルを認識し,基質 を internalize させるのか」については,まだ明らかにできていな Eisbein。 巨大な豚肉の足の薫製。ベルリンの代表的な郷土料理 いとのこと。今後の進展に期待したい。このセクション最後の ぽけな壁すらも越えさせない強い圧力が存在していたことがリ 演者 Ulrich Hartl 氏については,中戸川氏の項を参照されたい。 アルに想像できてしまうからである。こんな小さな壁を,彼ら 日本人の参加者は,我々を含めて全部で6人。遠藤斗志也先 は命がけで乗り越えようとしていたのだ。 生はミニシンポジウムで,Tom2 0の NMR から得た構造と,Tom2 0 ベルリン大聖堂は別格であった。その迫力と荘厳な空気に への結合に重要な プレシークエンス の性質について発表され 我々は圧倒された。地下には王家の棺が並んでいたが,思いの ていた。廣川信隆先生は,キネシンモータータンパク質がどの ほか多く並んでいた小さな棺が痛々しかった。このような場所 ようにして運搬されるべき基質を認識しているかについてシン に,彼らの悲しみとは無関係な我々が立ち入るべきではないの ポジウムで最近の知見を発表されていた。Neupert 研の岡本浩二 ではないかと感じた。不意にパイプオルガンが奏でられ,大聖 氏は,ミトコンドリアへの基質のインポートにおけるマトリク 堂がその音色に包まれた。そのあいだ,我々は,その精神世界 ス側の HSP7 0である Ssc1p の役割について発表し,Ssc1p による にどっぷりと浸かった。 「ブラウニアンラチェット」モデルを示唆するデータを示して反 もちろん我々は,ドイツビールにもどっぷり浸かった。ドイ 響を呼んでいた。森正敬先生はポスター発表で 酸化ストレス が ツでは, 「おばちゃん,生ビールちょうだい!」と言っても,出 ミトコンドリアへのタンパク質輸送を阻害し,分解を促進する てこない。「Eins Bier, bitte !」と言うのだ。その一言が天国への ことを発表されていた。 パスポートである(『ビールは Clp 型 のシャペロンである』の 2 3日の午後はフリータイムであり,我々は大はしゃぎでベル 項・参照) 。かくして我々は,Eisbein という馬鹿みたいに大きな リン観光にくり出した。ただし,途中から吹雪になり,凍死寸 豚料理をほおばり,これ以上ないという最高に美味いビールを 前になりながらの観光ではあったが,それでも我々はベルリン 口にしながら,ヨーロッパを甘く見ていたことを五感をもって を存分に満喫した。ベルリンといえば,ベルリンの壁である。 思い知るのである。 その,かつての東西分断の象徴はほとんどが崩壊したが,一部 私のポスター発表は初日にあった。もちろん英語であったた 残された壁は,今では世界中のアーティストが描いた壁画のギ め, 3人くらい連続して説明すると,相当疲労する。だが,隙を ャラリーに姿を変えている。確かに島国に住む我々にとって, 見せると,発表者を差し置いて,見に来てくれた人同士で活発 国境という概念は な議論が展開してしまう。あくまで自分を議論の中心に置き, 親しみが薄い。だ 彼らの議論をリードするためには,彼らの言葉を捕まえ,素早 が,十年ほど前ま くレスポンスすることが大事であると感じた。英語に自信がな でドイツの人々を くても,自分のポスターの前ではイニシアチブをとらなくては 分断していた壁を いけない。そうでないと,誰の発表だかわからなくなってしま 見て,その薄さに う。当たり前なことだが,こちらが英語をあまりうまく理解で 驚くのは,我々日 きないことがばれてしまうと,向こうもそれほど積極的には話 本人だけではない しかけてこない。同年代と思われる研究者も多数参加しており, だろう。監獄の壁 また,超大物研究者も含め,非常にアットホームな雰囲気の中 のようなものを想 で行われたシンポジウムであっただけに,英語力不足により, 像していた我々 彼らとコミュニケーションをとるチャンスを多く逸したこと は,EAST SIDE は,まことにもったいないことであった。そんな中でも,すで GALLERY と い う に論文で発表済みのデータを見て,論文を読んだと声をかけて 文字が書かれてい なければ,危うく その存在に気づか ず通り過ぎるとこ ろであった。それ がかえって悲しい ベルリン大聖堂内のの巨大なパイプオルガン のは,こんなちっ 『ビールは Clp 型のシャペロンである』 ドイツはビールがおいしい国であるということで,我々 はおおいに期待していたのだが,実際のドイツビールは本 当に本当に美味かった。移動の疲れもこの一杯で消し飛ん でしまう。ただし,過剰量のビールは脳と体を積極的にア ンフォールディングする活性も有しているようである(unpublished data) 。 11 くれた人がいたのには,感激した。世界を飛び回っているボス パク質の組み込みに関わる Oxa1p の大腸菌ホモログ YidC に関し と違い,研究室にこもって実験ばかりしている我々のような立 て報告した。これまで,大腸菌において,Sec 膜透過装置に依存 場の人間にとって,自分の仕事が海外の研究者にも認知されて しない膜タンパク質(M1 3 procoat タンパク質等)の膜への組み いることを知ることは,大変重要なことであり,大きな喜びで 込みは,proton motive force 依存的に起こると考えられていた。 ある。この文章を読まれている同年代の人たちには,是非,こ だが,実はそうではなく,これら膜タンパク質の膜への組み込 のようなチャンスを手に入れられるよう,がんばってほしい。 みには YidC が必要であることを示した。YidC を deplete すると また,この文章を読まれているボスクラスの人には,是非,若 Sec 依存的な OmpA の分泌にはほとんど変化はないが,Sec 非依 い年代に,このようなエキサイティングな経験をさせるチャン 存的な M13procoat タンパク質等の膜への組み込みには顕著な欠 スを与えてほしい。このような経験が,若い年代に自覚と責任, 損が現れる。YidC は Sec 非依存的な基質に対しては,単独で働 そして,研究者人生の広がりと,研究者として生きていく喜び いて膜組み込みを促進し,Sec 依存的な基質に対しては,SecYEG を教えることになると信じている。このように書くのは,僕自 チャネルと共に働いて,基質の膜貫通領域のチャネルから脂質 身が,またどこか海外に行かせていただきたいためである。 二重層へのリリースを媒介するのではないかといったモデルを 提唱していた。おそらく, 後者の Sec 依存的な基質に対する YidC の関与は,Luirink のグループからの報告に基づくものと思われ 3rd Cell Biology Symposium of the MDC on Protein Transport and Stability (Part 2) る。彼らのグループから参加していた学生が,Sec 依存的に膜に 組み込まれる基質である FtsQ の nascent chain が,リボソームか ら伸びていくに従い(mRNA の truncation を利用した in vitro の 系) ,SecY → YidC → lipid という順でクロスリンクされるという 報告をしていた。 中戸川 仁 (京都大学ウイルス研究所) Andreas Mayer は,細胞内での膜融合に関する驚くべき発見を 報告した。これまで,膜融合は膜小胞上の v-SNARE と標的膜上 の t-SNARE のペアリングで引き起こされると考えられていた 0 1年3月26日∼2 9日,ドイツ・ベルリンで開催された MDC が,彼らは,これら SNARE タンパク質のペアリングに続いて起 2 0シンポジウムに,同研究室の千葉志信君と参加した。会場 こる,脂質の「ミキシング」に V-ATPase の c subunit が関与する はベルリン中心部から東へ電車とバスを乗り継いで1時間程の ことを示した。c subunit は,V-ATPase における Vo sector の構成 ところにあるミューゲルジー湖畔のホテル。夏には多くの人で 因子であり, 2回膜貫通型の単量体が, 6量体としてチャネルの 賑わうベルリン有数のリゾート地であるようだが,3月下旬にも ような構造をとると言われている。融合する二つの膜上に存在 かかわらず雪が降るほど寒く,閑散としていた。しかしながら する c subunit のチャネルが, 二つの膜間で頭を付き合わせるよう 今回の学会では,3日目の free time でのベルリン市内を含め,な な形で trans-complex を形成し, そのサブユニットの間を縫って脂 ぜかアムステルダムまで余裕を持って観光でき,ヨーロッパな 質が流れ込み,二つの膜の融合が促進されるという非常に大胆 らではの町並み,風情,食べ物を十二分に満喫できた。これら なモデルを提唱した。c subunit は,他のサブユニットと共に V- 観光報告記に関しては,千葉君が読み応えある文章を書いてく ATPase を構成する場合には,液胞の膜間ポテンシャルを維持す れていると思う。 るために働く。専門家に言わせればまだまだ穴があるようでは 学会のプログラムは,Secretory pathway, Proteolysis and Folding, あるが,素人の僕としては単純に,一つの小さなタンパク質が, Import into cellular organelles,Nuclear Transport,Motor Proteins, 全く異なる,しかもそれぞれ非常に重要な二つの場面で巧みに Organellar inheritance,Cell cycle control といった7つのセッショ 使い分けられていることに感銘をうけた。 ンに分けられていた。どのセッションも演者は超大物揃いで, Tom A. Rapoport はいつの間にか ER から細胞質への逆輸送に 彼らを目の当たりにしただけで興奮してしまった。以下では, 手を出していた。基質はコレラトキシンの A1サブユニットとい 自分にとって馴染み深く,面白いと感じたもの(≒理解できた う耳慣れないもの。コレラトキシンは複合体状態で,エンドサ もの)を千葉君と分担して紹介させていただこうと思う。 イトーシスによって細胞に取り込まれ,ER で A1サブユニット 最初の演者,Ross E. Dalbey は,ミトコンドリア内膜へのタン が,ジスルフィド結合の切断を伴い,遊離,unfolding された後, 細胞質へと逆輸送されるらしい。この unfolding に必要な因子を ER extract 中より同定した結果,PDI であることが明らかとなっ た。さらに,PDI は還元状態でのみ A1サブユニットに結合でき ることがわかった。ATP/ADP 結合型で基質との親和性を変化さ せる Hsp70と対比させ,PDI は酸化/還元型で基質との親和性を スイッチするシャペロンである,とまとめていた。PDI は,還元 型で A1サブユニットに結合して膜まで運び, 膜に局在する Ero1p により酸化されると,A1を離して Sec61チャネルに引き渡すので ないかというモデルを提唱していた。 Reid Gilmore は,ER へのタンパク質輸送に関わる,三つの GTPase,SRP と SR,との相互作用に関して報告した。この ベルリンの壁(を越えようとしている筆者(東側) ) 12 分野に身を置くものとしてはとても恥ずかしいことだが,いつ もこの辺りの話はゴチャゴチャしていて何が新しいのか把握し かねる。彼らの結論は以下のようなものであった。ER 膜を透過 するタンパク質の Sec6 1チャネルへのターゲティングにおいて, まず,Ribosome-Nascent chain-SRP 複合体が SRと結合し,その 後 GTP がそれぞれに結合する。GTP を加水分解すると,複合体 の解離が起こる。SRは SRP と SRとの複合体を安定化するの に必要であり,SRへの GTP の結合が,膜透過反応の促進に必 須である。 Bruno Antony は,ER から Golgi への輸送に関わる COP Ⅱ coated vesicle の形成過程について報告した。リポソームの COP Ⅱによるコーティングを,光散乱の上昇として評価できる 系を構築し,リポソームに Sar1→ Sec2 3/24→ Sec13/31の順序で結 合していくことを示していた。また,GMP-PNP や,BeFx など ポスターの前で(筆者) を加えると,団子のようなユニークな形をした vesicle 形成中間 国際学会と言うことで,いささか緊張したが,僕のポスターの 体とも言えるような膜構造ができることを電顕で見ていた。 前に足を止めようものなら片っ端からすぐさま近づき, 「説明し といった感じで一日目は終了。今回は初めての国際学会とい ましょうか?」と言い寄った。大体の場合は, 「ああ,じゃあお うこともあり,疲れがどっと出た。やはり疲れをとるにはおい 願い。 (英語の下手そうな日本人に捕まったなあ。 ) 」といった感 しいものをたらふく食べるに限る。その点有り難いことに,食 じであったが,説明が進むにつれて,徐々にのめり込んできて 事は毎食ホテルの食堂で豪華なドイツ料理をバイキング形式で くれる様がわかり, 「これはおもろい」 ,とのお褒めの言葉も多 いただけた(おかげで大分太って帰国した) 。食事時には外国の 数頂け,幸せこの上なかった。もちろん,今後の研究を進める 研究者と接する機会も当然あった。とある時,ドイツ人と同席 にあたっての有益な助言,提言もいただくことができた。今回 した際,挨拶代わりのつもりであったと思われるが,いきなり, の学会参加は,海外の研究者と接し多くの刺激を受け,とても 「What' s your organelle ?」と話し掛けられた。大腸菌一筋の私は 有意義なものとなった。また同時に自分の語学力不足も痛感し, 痛く傷ついた。 「高等な大腸菌には細胞内小器官なんてものは必 英語学習にも力を入れていく必要性を強く感じた。が,三ヶ月 要ないのだ。」と心中穏やかではなかったが,それでも苦笑しな 半が過ぎた現在,未だほとんど手つかずの情けない状態である がら「E. coli.」となんとか答えた。二人の間に気まずい空気が流 …。 れ,会話はそこで途切れた。食事時の会話に良い思い出はあま りない。 Ulrich Hartl は大きく二つのトピックについて話した。一つ目 は以前からの話で,リボソームにより新規に合成されたタンパ ク質は,trigger factor → DnaK → GroEL という順に受け渡されな 第5 4回日本細胞生物学会大会 報告記 がらフォールディングしていくというもの。二つ目は,古細菌 の prefoldin,GimC の結晶構造について報告した。 GimC は nascent 秋田 充 chain に結合してそれらの misfolding を防ぎ, シャペロニンに引き (愛媛大学農学部) 渡す役目をしているらしい。その形は非常に奇妙なものであっ た。6本足のゲジゲジのような不気味な格好をしており(彼ら る5月2 9日より6月1日にかけて,岐阜・長良川沿い長良 はクラゲのようだと言っているが) ,今にもワサワサと歩き出し 去 そうだった。触手の先には疎水的なパッチがあり,そこで基質 れたので,報告をさせて頂く。本文は,シャペロンニュースレ と結合するという。こんなものにくっつかれるとは nascent chain ターへの寄稿であるが,直積的に分子シャペロンに関与せずと もたまったものではないなと余計なイメージを膨らませて寒気 も間接的に関わっていそうなトピックについて,書き綴って行 を覚えた。 きたい。また筆者は,本3月末に,アメリカでの博士研究員生 J rgen Soll は,クロロプラストから単離した Toc 複合体の電子 顕微鏡で観察し,3D reconstitution した画像を示した。三種類の 川国際会議場にて第5 4回日本細胞生物学会大会が開催さ 活を終え,日本に帰国したばかりであるので,筆者の感じた新 しい日本での生活に関する感想を記述して行こうと思う。 チャネル様構造が見えており,それぞれ,一重,二重,三重に まずは,本題の大会の報告記から。 リングが取り巻いた形をしていた(class 1∼3) 。中央の穴(6 初日は,特別講演2題に当てられ,そのうちの一題において くらい?)の中にタンパク質が突き出しているようなリング は,廣川(東大)がキネシンについての発表を行なった。筆者 もあったような。また,Tic の方も,voltage sensitive な pore を形 は,大学院に入りたての頃研究室でのセミナーか何かで,キネ 成しているらしい。ここで, 僕にとって興味深かったのが, Tic1 10 シンについて紹介した憶えがあるが,その頃は,ダイニンの研 が Toc 複合体と copurify されてくるということ。ミトコンドリア 究のほうが盛んで,キネシンはダイニンと逆の方向性を持つモ における Tim2 3が外膜をも貫通しており,Tom 複合体と Tim 複 ーター蛋白質であるぐらいの認識しかなかったような気がす 合体の近接に一役かっているのではないかという Neupert らの る。筆者の不勉強がためにしばらくモーター蛋白質と触れる機 話を彷彿させた。実際に彼らもそのようなスライドを出してい 会のなかった。したがって,キネシンの種類の多様性はいうま たと記憶している。 でもなく,運動性,輸送特異性,エネルギー依存性,速度,構 最後に私事になるが,僕自身はポスター発表した。初めての 造等が各キネシンにおいて全く異なる等のキネシン研究の概要 13 筋収縮に関わるタイチンにプレ配列を接続した前駆体蛋白質で も,膜透過が正常に起こりうることから,ブラウニアンラチェ ットモデルを支持する結論を導き出した。 さて, 「細胞内膜動態研究の進展」と題したシンポジウムにお いては,Riesman(Basel 大)が,GPI 蛋白質の移動を ER-Golgi 間のベシクル輸送を中心に非常に明確な発表を行なった。その 発表の中で,中島ら ( 東大 ) に折って発見された Uso1について も詳細な解説を加えていた。ここで,再び昔話を蒸し返すよう であるが,Uso1が発表された当時,筆者は,大学院に在籍して おり,Uso1の Uso がどういう経緯で命名されたかということを 聞かされたりしており,非常に興味深かった。 筆者近影(某大渓谷の谷底まで,7.5時間で往復してきた直後の姿。下りを飛ばしすぎると 登りがこんなに苦痛になろうとは知る由もなかった。 ) 本大会を概要すると,私自身,日本での学会に参加すること は,過去8年間に一度しかなかったので,これまでに持ってい を系統的に学ぶことができ非常に有意義であった。 さて,筆者は, 「タンパク質の一生−細胞を舞台としたタンパ た印象から比べると,若い人たち,特に女性の参加が多かった ように思う(筆者注,アメリカのほうが,まだ割合としては, ク質の移動と構造変換」ワークショップで講演をさせていただ 女性の参加者の比率が大きいとは思うが,日本の学会は, 「学会 く機会を得たのであるが,そこでの講演のいくつかを紹介した スタイル」なる服装に身を包む参加者が男女を問わず,非常に い。伊藤(京大)は,大腸菌において secA 遺伝子上流に存在し, 多いので,女性であることが余計に際立っていたのだと思う)。 かつオペロンを形成している遺伝子 geneX の産物である SecM の また,ポスター発表会場において,自分のポスターに関しての 機能に関する発表を行なった。 非常に興味深いことには, SecM の 解説をすることができるようなシステムなっていたのは,非常 存在状態に依存して,secM 自身,ならびに secA の発現が制御さ に好ましく思われた。とりとめもないことを強いてあげるなら れていた。すなわち,SecM は,ペリプラズム空間に局在すべき ば,アメリカの細胞生物学会と比較した際,筆者の興味のある, 蛋白質であるが,SecM が細胞質にとどまるようになると,mRNA シャペロン,蛋白質の局在というテーマが必ずしも多くなかっ の構造の変化が生じ結果として,自身の翻訳が停止し,それと たので(筆者注,アメリカの大会は,比較にならないほど大規 同時に,SecA の翻訳が促進されるようになる。geneX は,私が, 模なので,発表件数の数は少なくても,割合は同じくらいであ 大学院生活を始めた頃に初めて遭遇したが,干支が一巡する間 ったのかも知れない) ,時間をもてあますことが少なからずあっ に,まったく思いもよらない姿で再会することとなったので, たこと位なものであろうか。 感慨深いものがあった。南(大分医科大学)は,プロテアソー 最後に,日本で研究生活を再開する上で感じたことを述べた ム活性化因子 PA28についての発表を行なった。PA2 8は,Hsp9 0 い。これまでに多くの方々が経験してきたことであろうと思う と結合した基質を Hsc70/Hsp4 0あるいは,2 0S プロテアソームに が,一点だけ述べさせてもらいたい。それは,新任,特にこれ 引き渡す際に仲介する機能を持つ。新しい知見として,Hsp9 0の まで何の足場のなかった研究者に対しての場所,研究費等のサ 基質結合部位の機能と,PA2 8との関係,PA2 8のサブファミリー ポートがあまり得られないのは,問題があるように思う。日本 についての発表があった。岡本(ミュンヘン大)は,ミトコン では,どうしても既存の研究室を中心にすべてのことが動いて ドリアへの蛋白質輸送に関与している Ssc1についての発表を行 おり(かく言う筆者自身も一教授のいる研究室に在籍している なった。ご存知の方も多いと思われるが,前駆体蛋白質が,ミ わけであるが) ,仕方がない一面もあるのも事実だが,世界に負 トコンドリアマトリクス内取り込まれる際に,膜透過のメカニ けないように,と標榜する一方で,このような状態が続いてい ズムとして,ブラウニアンラチェットモデルとトランスロケー るようでは掛け声だけに終わってしまうし,積極的に人を呼ん ションモーターモデルの二種のモデルが提唱されて,長年議論 でくることなど不可能な気がしてならず,これから大いに改善 されている。岡本は,前駆体蛋白質プレ配列上の DnaK と親和性 されねばならのではなかろうか。私の場合は,4月いっぱいは, の低い部位が,グリシン残基やグルタミン酸残基に富んでいる 住むところ(官舎)すらないというおまけもついたが。蛇足で ことに着目して,polyG,polyE を挿入した,前駆体蛋白質や, はあるが,ミシガンで長らくお世話になった,Keegstra 博士は, この点にいたく不満であった。また,赴任以降,文部大臣のほ うから,トップ3 0とかいう話が出て,詳細な情報に乏しいのも あいまって,大学内では大騒ぎになった,と同時に,筆者自身, 足元を切り落とすようなことをして,これで本当に世界に伍し た研究が日本において将来可能であろうか,と非常に危機感を 持った。幸いにして,近日の新聞に,分野別で3 0にという旨の 記事が出ていたので,3 0大学に重点的に研究費を配分する,す なわちそこからあぶれた大学は,研究もままならなくなる,と いう事態に直面するわけではないことを知りひとまずは胸をな でおろしているしだいである。独立行政法人化も含め,大学の あり方が問われている時期に日本で生活を始めることとなり, 筆者が長らく在籍したミシガン州立大学エネルギー省植物研究所 14 とまどうと同時に大変さを実感している。 を得ながら開催されるようになった。このように, 最近では様々 第一回 日本蛋白質科学会に出席して な学会や討論会などの研究集会が開催されていたが,研究手法 や研究題材は異なるものの,いずれもタンパク質・酵素の構造 と機能・物性に関する研究集会であり,それらの集会に参加す る人も多くはオーバーラップしていた。 河田 康志 時代の流れとともに何事にも「はやり」と「すたれ」がある (鳥取大学工学部生物応用工学科) ように,真理を追究する我々の学術研究領域でも例外ではなく, 様々な問題を抱えていたことも事実である。また,同時期に何 0 1年6月1日から3日にかけて,大阪大学吹田地区におい 2 0て第一回日本蛋白質科学会が開催された。本学会は「蛋白 度も同様な研究集会に参加せざるを得ない状況も,21世紀に向 けて日本の蛋白質科学関連の研究会を考え直す必要があるので 質構造討論会」 ,「日本蛋白工学会」 , 「蛋白質立体構造構築原理 はないかという気運が高まってきた。そこでその第一の試みと 研究会」, 「構造生物学シンポジウム」 , 「プロテオーム研究会」 して,1 99 8年に長岡技大の三井幸雄先生が第4 9回蛋白質構造討 の融合による,新しい学会組織である。2 1世紀のタンパク質研 論会と第1 0回日本蛋白工学会の合同年会を長岡で,1 9 99年には 究に向けたタイムリーな時期に本学会が立ち上がったことは大 横浜国大の阿久津秀雄先生が同様に横浜で開催した。2 00 0年に 変意義深いと思われる。学会の雰囲気を紹介する前に,この日 は,蛋白質立体構造の構築原理研究会も加わり,学習院大の三 本蛋白質科学会の創立の経緯について簡単に触れることにす 浦謹一郎先生が蛋白合同年会(第5 1回蛋白質構造討論会,第1 2 る。 回日本蛋白工学会,第7回蛋白質立体構造の構築原理ワークシ アメリカでは Protein Society という国際学会がすでに1 98 7年に ョップ)を東京で開催し,これをもってこれらの研究集会は発 設立されていたが,日本ではタンパク質の構造から物性・機能 展的解消することになった。この三つの大きな研究集会を母体 を主体にした学会はこれまでなかった。ただし,様々な大変特 にして,さらにそこに冒頭で述べた構造生物学シンポジウムと 徴のあるミーティング(討論会)等は古くから存在していた。 プロテオーム研究会が加わり,新規な学会組織として日本蛋白 私のなじみの深いものとしては「蛋白質構造討論会」がある。 質科学会が設立されたのである。 この討論会はおよそ5 0年前から主にタンパク質の構造と機能に 記念すべき第一回の蛋白質科学会は,阪大蛋白研の月原冨武 関する研究討論会として昨年の第5 1回まで続けられてきた。私 先生を実行委員長に阪大の先生方が中心になって世話をされ, も大学院生の頃から2 0年ほど毎回かかさず出席してきて,発表 開催場所の利便性の良さもあってか,事前登録者約5 00名,当日 も5,6度経験した。大学院生当時は,自分の行った研究成果を 登録者約5 00名,合計10 00名の人々が参加した。また,学会会員 蛋白質構造討論会に発表できることは大変光栄で,事実ドクタ 数は5月末時点で8 2 3名を擁するということである。プレナリー ー論文の研究成果を発表して,やっとその道の一人前の研究者 レクチャーの9演題をはじめ, 3つのシンポジウムと8つのワ の仲間入りができたような感じに思っていた。それだけのプレ ークショップ,36 5題のポスター発表が行われ,特にワークショ ステージがあったように思われる。その後,1 9 7 4年頃に「生体 ップ会場には夜遅くまで熱気につつまれ,大変な盛況さであっ 分子の構造に関する討論会」が開かれるようになり,後にこの た。これも,ポストゲノムとしてのタンパク質研究がいかに重 討論会は「生体分子の構造と機能に関する討論会」と名前を変 要で,多くの研究者が興味を持っているかということを端的に え,その流れから「構造生物学シンポジウム」が誕生している。 示していると思われる。ヒトのゲノムが解読された現在,その また,1989年頃には「日本蛋白工学会」が新たに設立され年会 遺伝子がコードするタンパク質の働きを知るために,まず構造 が開かれるようになり,さらに1 9 9 4年頃からは「タンパク質立 を明らかにする必要があることは言うまでもない。すべてのタ 体構造の構築原理ワークショップ」が多くの若い研究者の参加 ンパク質の基本構造のパターンはおよそ10 0 0種類あると予想さ 図 第一回日本蛋白質科学会年会に至る各種学会,討論会の流れ 15 シンポジウム,ワークショップが数多く企画された(写真は三浦謹一郎会長) タンパク質構造討論会の「顔」であった田宮信雄東北大学名誉教授の音頭で乾杯 (祝賀会にて) れているが,それを明らかにするためには一万個のタンパク質 の構造を決定すればよいのではないかと考えられている。ゲノ 大)と江崎雅俊さん(名大)はそれぞれミトコンドリア内への ムから予想される未知のタンパク質の構造決定を手当たり次第 タンパク質の膜透過のメカニズムについて最新の研究結果を報 行うという世界的なプロジェクトの中で,日本はその内3 0 00個 告した。これまではミトコンドリア内から Hsp7 0が透過するポリ を担当するという。文部科学省のお役人もこの数値目標だけは ペプチド鎖を引っ張っていると考えられてきたが,必ずしもそ 強く公言している以上,いわゆる国家プロジェクトとしてのタ うではない場合もあるようである。サイトゾル側に残っている ンパク質科学研究に今後多額の研究費が充当されることは間違 部分のタンパク質ポリペプチドが不安定で変性しやすいと,ブ いない。まさに2 1世紀はタンパク質の時代と言える。この意味 ラウン運動によってミトコンドリア内に入り込むことが示され では,20世紀の始まりの年に日本蛋白質科学会が設立されたこ てきている。膜透過にエネルギーは果たして必要なのか否か, とはまさにタイムリーであると言えよう。しかしながら,2 0年 今後の研究が待たれる。北田栄さん(九大)はミトコンドリア 来,蛋白質構造討論会に出席してきた私としては,タンパク質 内に膜透過した後でポリペプチド鎖の N 末端についているシグ の何を研究するかという哲学・信念をどう持つかということが ナル配列を除去するミトコンドリアプロセッシングペプチダー タンパク質科学研究者にとって今後益々大事になってくるので ゼの X 線構造解析を行い,その立体構造を報告した。この酵素 はなかろうかと思われる。 は ,鎖からなる二量体で二価金属を必要とするプロテアーゼ さて,分子シャペロンに関するワークショップも当然この蛋 であった。分子内の活性部位には塩基性に富むシグナルペプチ 白質科学会では開催された。 「細胞内における蛋白質の成熟,移 ドを捕捉するために負電荷に富んだ領域があることが分かっ 動,品質管理」と題して,名大の遠藤斗志也さんと奈良先端大 た。本ワークショップの最後には,河野憲二さん(奈良先端大) の河野憲二さんがオーガナイズされた。ポスター発表演題から の小胞体におけるタンパク質の品質管理に関して詳細な報告が の二つの講演を含めて合計7演題であった。はじめに吉田賢右 あった。例えば,Ire1p の C 末端は細胞質側に出ていて,そこに さん(東工大)がシャペロニン GroEL/ES の一分子観察によって, はキナーゼドメインと RNase ドメインが存在し,小胞体内での 機能サイクルの中にある,基質と GroES タンパク質が同時に結 undolded protein response がかかると Ire1p から Bip が外れ二量体 合している pre-cis ATP complex が重要であることを強調された。 化し,RNase 活性が誘導され一連のシグナルが伝達されることを 伊藤維昭さん(京大)は,大腸菌のペリプラズム空間と細胞膜 示した。 内に存在している DsbA/B/C/D タンパク質の,基質タンパク質へ このワークショップの発表にも見られるように,細胞内での の正しいジスルフィド結合導入のメカニズムを報告し,その機 タンパク質の「誕生から死」までのイベントでは,これまでほ 能サイクルに呼吸系が関与していることを明らかにした。阪口 とんどわかってきているように思われることが実はまったく解 雅郎さん(九大)は膜に組み込まれるタンパク質のトポロジー っていないということに気づくことがよくあるように思われ 形成の機構について報告し,疎水性のセグメントの膜内でのタ る。今後,ますます細胞内でのタンパク質のダイナミックな過 ーン構造形成の重要性を強調した。岡本浩二さん(ミュンヘン 程が明らかされていく必要があると思われる。折しも, 「タンパ ク質の一生」の特定領域研究 A が首尾よく来年から立ち上がる というニュースを聞いて,私としても大変喜んでいる。新たな タンパク質研究の時代に期待したい。 ポスター発表も大盛況 16 「Principles of Protein Targeting and Sorting in the Cell」 in honor of the 65th birthday of Gu nter Blobel 三原 勝芳 (九州大学大学院医学研究院) 月2 3日から2 6日まで Max 5 Planck Institute for Molecu lar Cell Biolgy and Genetics in Blobel とオーガナイザー達。女性は最も活躍した Dobberstein の秘書。 Dresden(MPI-CBG Dresden)に パの中心として生命科学のセンター( 「Biopolis Dresden」 )に発 おいて,ロックフェラー大学の 展させる計画が進行中であると聞く。 G nter Blobel の6 5歳の誕生日を さて,研究集会であるが,旧交を暖める同窓会の「あい間」 記念して関係者による研究集会 の3日間に4 9名が,ER と大腸菌の膜透過(1 2名) ,オルガネラ が催された。オーガナイザーは 生合成(4名) ,蛋白の仕分け(7名)と分化(2名) ,分子医 Kai Simons(MPI-CBG) ,Bern- 学(7名) ,核の構造と機能(1 7名)の順に発表を行った。時間 hard Dobberstein(ZMBH)そ れ の関係で現在の研究室のメンバーは発表をしなかったが,全員 に Peter Walter(UCSF)の 3 人 が核の構造と機能の研究に関わっているとのことであった。 で,運営の実務はハイデルベル 異なる分野の人たちが議論に参加出来るように,specific な内 グ の Dobberstein と 彼 の 秘 書 Gaik Wee が担当した。 容は避けてほしいとの Dobberstein からのお達しがあり,新しい シンポジウムのポスター データがない筆者にとっては有り難かったが,10分という短い 報告を何が新しいかを判断しながら聞くは大変で,終わってみ ドレスデンは1 6世紀ザクセン王国の首都であり,戦前までは ると殆ど何も残っていない状態であった。我々の関連する蛋白 貴族の城館が立ち並び1 0 0塔の都といわれる美しい都市であっ 質の膜透過の分野でもさほど目新しい話は出なかったが,その たが,連合軍の爆撃によって一夜にして壊滅した。Blobel は9歳 うちのいくつかを紹介しておきたい。 の少年時代に近郊の Freiberg でドレスデンが炎上するのを目に Reid Gilmore(マサチュセッツ大学)はプロテアーゼで限定分 したという。復旧が進んだとはいえ,現在でも中心部の建物の 解した小胞体膜を用いて,Sec61(1 0回膜貫通/ Nout-Cout)の細 周辺には至る所に破壊された彫刻,柱,破風などが並べられた 胞質側のループ8と C- 末端部分がシグナルペプチドからの SRP 状態で,瓦礫をいちいち鑑定してはそれをジグソーパズルのよ の解離に重要であること,細胞質側のループ6がシグナルの挿 うに組み合わせ建物を再構築する努力が続けられている。この 入に関与していることなどを報告した。彼は現在,種間でよく 街を愛する Blobel は,彼のノーベル賞の賞金をその復興 (ことに, 保存されている内腔側のループ5に興味をもって解析を進めて ドイツ最大のプロテスタント教会であるフラウエン教会とユダ いるとのことであった。Matthias M ller(フライブルグ大学)は ヤ教会の再建)に寄付した。開催地をドレスデンにしたのはこ 大腸菌の内膜への膜蛋白質の挿入について話し,シグナルアン のようないきさつがあってのことである。 カー蛋白と OmpA のキメラを用いた解析で,シグナルアンカー の標的化は SRP と SR に依存し co-translational なモードで起こる 会 場 と な っ た MPI-CBG Dresden はほぼ1年の工期を かけて20 0 0年暮れに完成し 参加者がそれぞれの研究テーマにサインして Blobel に送った が,それに続く大きな親水性領域のトランス側への輸送は SecA に依存することを示した。 小胞体膜透過においては,前駆体蛋白質のシグナルペプチド たばかりであり,5名の Di- が リ ボ ソ ー ム か ら 現 れ る と Ribosome-Nascent Chain Complex rector と2 0名のグループリー (RNC)は SRP-SRP 受容体を介して小胞体膜に結合し,次にシグ ダー,それにポストドクと ナルペプチドが Sec6 1//よりなるトランスロコンに入り込み 大学院生から構成される。 膜透過が開始する。このときトランスロコンはリボソームによ 大学院はドレスデン工科大 ってタイトにシールされ(内腔側は予め Bip によってシールされ 学との共同で PhD プログラ ている) ,トランスロコンの内部は細胞質からも内腔からも隔絶 ムを走らせている。この研 された状態になる。さらにペプチドの伸長がつづき,約7 0アミ 究 所 の Executive Director で ノ酸まで伸長した段階で内腔側の Bip がはずれ,内腔と通ずるチ あ り,European Life Science ャネルが開かれる。このようにして蛋白質が通過中の小胞体膜 Organization(ELSO)の会長 のバリアー機能が維持される。Arthur Johnson が蛍光プローブの でもある Kai Simons の構想 消光を利用して行った見事な実験である。しかし, Vishu Lingappa で,近い将来さらに構造研 (UCSF)は前駆体蛋白質によってはこのシナリオが必ずしも当 究の部門を加え,ヨーロッ てはまらないことを示した。彼はプロラクチン(prePL),- ラ 17 クタマーゼ(preL),preIgG の膜透過の過程でのトランスロコ ル蛋白質の mRNA を翻訳するが,翻訳が進行するにつれてリボ ンのシール状態を外から加えた Proteinase K による耐性の有無で ソームが膜から解離してゆくこと,プロテアーゼ処理によって 検討したところ,シルナルペプチドの種類によって透過初期に SRP 受容体を除去した rough ミクロソームを用いて分泌蛋白質 直ちにシールが形成されるもの(prePL)と,かなり伸長するま の mRNA を翻訳すると効率よい膜透過がおこること,などを見 でシールが形成されないもの(preL,preIgG)とがあることを 出し,小胞体における定常的な膜透過においてはリボソームの 示した。後者の場合はシグナルペプチドではなく mature 領域の large subunit はトランスロコンに結合したままであり,mRNA と 働きによってリボソームとトランスロコンとの間の タイトなシ リボソーム small subunit 複合体がそこに結合することで蛋白合 ールが出来上がることになる。シグナルの強弱を認識し,かつ 成が開始し,従って分泌蛋白質は SRP-SR 系による膜へのターゲ mature 領域をも認識する調節機構があることになり, トランスロ ティングをスキップしてダイレクトにトランスロコン内に運ば コンにおける透過性の調節は今まで考えられていた以上に複雑 れるという説を展開した。小胞体膜透過のセッションの最後に になっているようである。 Peter Walter(UCSF)が Unfolded protein response についてまとめ Roland Beckmann(フンボルト大学)は精製した酵母のトラン たが,昨年暮れに神戸の細胞生物学会で話した内容(シャペロ スロコン(Sec61//)とリボソームとの複合体を Cryo- 電顕で ンニユースレター No. 8参照)と殆ど変わらなかった。動物細 初めて観察したポスドドクである(Science, 1 9 9 7) 。論文が出て 胞で responsive elements を検索しているとのことであった。 間もない頃,永田さんが主催した京都でのシャペロンの国際シ オルガネラのセッションでは Flex Kessler(スイス連邦工学研 ンポジウムに Tom Rapoport が招待されていて,彼が「Blobel に 究所)がアラビドプシスのクロロプラストの蛋白質輸送システ スクープされた」とボヤイていたのを思い出す。Rapoport はそ ム(TOC)について話した。外包膜の輸送系には Toc33(他の種 れから3年後に cryo- 電顕による構造解析(解像度は Beckmann では Toc3 4),Toc1 59(以前は Toc86と呼ばれた) ,及び Toc75が と同じ25Å)を Molecular Cell に発表する。先を越された仕事を 知られている。この内 Toc33と Toc1 59は GTPase として前駆体の 論文にするのがいかに大変なことかを示す良い例であろう。 受容体の機能をもち,Toc7 5は - バレル構造をとりチャネルとし Beckmann はその後もこの仕事を継続しており, 今回は1 20アミノ て機能することが知られている。Kessler は Toc1 59が可溶性の形 酸の前駆体を保持する RNC とトランスロコンとの複合体の構造 で細胞質にも存在し,その膜への挿入が GTP と Tom33に依存し を15. 4Å の解像力で解析した結果を話した。リボソームは5ヶ て起こることを見出し,小胞体の SRP-SRP receptor による前駆体 所でトランスロコンと結合していた(これは Rapoport の結果と 蛋白質のターゲティングと類似した前駆体ターゲティング機構 同じ) 。トランスロコンは閉じたドーナツ構造(外径9 5Å,内径 が存在する可能性を示した。Kessler と共同研究している Danny 1 5-35Å,厚さ40Å)で,すでに Beckmann らも Rapoport らも報 Schnell(マサチュセッツ大)はストロマへの前駆体蛋白質のイ 告しているように,リボソームとの間に1 0Å のギャップが存在 ンポートの経路について概説した。 する(以前の報告では15−2 0Å のギャップ) 。重要なのはリボソ −ムがシグナルペプチドを持つ前駆体を合成中であってもなく 今回, サイエンス以外の計画は Blobel 自身が張り切って立てた ても,トランスロコンの外形にもリボソームとのギャップの幅 らしい。研究集会の前日の5月2 3日はマイセンへのバス旅行の にも変化が見られなかった点である。彼らはこのことから,co- あと,ちょうど開催中であったドレスデン音楽フェスティバル translatinonal な膜透過の際にイオンの透過障壁を形成するのは でのコンサート,2 4日午後は Freiberg へのバスツアー,2 5日は近 今まで考えられていたようなトランスロコンとリボソームとの 郊の城で州の科学芸術相とドレスデン市長を招いての夕食会, 接点ではなく,トランスロコンそのものではないかとの考えを 2 6日はゼンパーオペラ(ワーグナーのタンホイザーとさまよえ 示した。 るオランダ人の初演で有名とのこと;筆者でも知っているのは, Chirstopher Nicchita(デューク大学)は培養細胞系を用いた分 最近指揮者のシノーポリが指揮のさなかに心臓発作で死亡した 泌蛋白質の膜透過の解析から,小胞体膜結合型リボソーム上で こと)でモーツアルトのフィガロを観賞,と盛りだくさんの内 分泌蛋白質の合成が終了するとリボソームの small subunit だけ 容が準備されていた。27日はエルベの船くだりを楽しんでから が解離し,large subunit は膜に結合した状態で残っていることを 散会とのことであったが,少し食傷ぎみであった筆者は辞退し 見出した。さらにイヌ膵臓より調製した rough ミクロソームはリ パリでの骨休めを楽しみにドレスデンを後にした。 ボソームを除去した網状赤血球ライセートに依存してサイトゾ 今回の参加予定者は約7 0名,参加予定に入っていなかったメ ンバーまで加えると在籍した研究者は恐らく1 00名近くになろ うか。学部の学生を抱える研究室で在籍者が1 00名を越すのは珍 しくはないが,これだけの人数が研究者として現役で活躍して いるのは壮観であるといわざるを得ない。在籍者の半数以上は 核に関係したテーマであり,約3分の1が膜透過と分泌系での 仕分けに関わっている。Blobel が「シグナル仮説」よりも核に執 着をもって研究してきたことが分かる。 実は Blobel の60歳の誕生日を記念してイタリアで会を開く計 画があったがオーガナイザーが決まらずに実現しなかった。実 のところ関係者はやれやれと思っていたらしいのだが,ノーベ ル賞受賞を機にこの会が催されることになったようである。運 Blobel と Simons。MPI-CBG の玄関脇にて。 18 営に携わった Dobberstein は大変な苦労であったろう。彼がロッ クフェラーを去る時 Blobel との関係は必ずしも良くなかったよ うに聞いていたが,彼の誠実な人柄がそのままにじみ出たよう な大変きめ細かい会であり心をうたれた。 この会に満足した Blobel は,またぜひ同様の会を持ちたいというのだが …。先生が偉 い(?)と周りが苦労する構図は国が違っても同じである。 EMBO workshop と FEBS meeting 永田 和宏 (京大・再生研) EMBO Workshop の会場となったホテル いないことに気がついた。これまでなんども国際会議に出たが, ストレス応答,分子シャペロンのカンファランスで,招待演者 S ant Feliu de Guixols ずいぶん前に,このシャペロンニュースレターで, 「学 会はしごの記」というような文章を書いた記憶がある。今回は, はしごではないが,スペインとポルトガルであった二つの学会 に出たので,一緒に書いてしまうことにする。 スペインで行われたシンポジウムは,「Euro Conference and だけでなく,一般参加者にも日本人がいないというのはまった く初めての経験である。こんないい場所にどうして来ないのだ ろう。報告を誰にも頼めないのが残念である。 遠藤さんとの約束で,発表の内容にはあまり触れなくてもい いということなので,内容は省略するが,Lindquist の他にも, A. Horwich,U. Hartl,E. Craig,H. Saibil,R. Morimoto,A. Helenius, EMBO workshop:Mechanisms and Cellular Functions of Molecular T. Rapoport,W. Neupert などといった常連はみんな来ていて,に Chaperones」と い う も の で,オ ー ガ ナ イ ザ ー は Bernd Bukau ぎやかなことだ。珍しいところで G. Lorimer, 初めて会ったのが, (Freiburg 大学),co-chair が Ineke Braakman(Utrecht 大学)であ R. Sitia や M. Maurizi などであろうか。 3 0分の持ち時間の招待演者 った(写真)。 は2 9人,その他に1 5分の short talk が3 0人ほど。これで正味4日, なかなかハードである。 初日,Bukau の挨拶は,アブストラクトの表紙に使われている サルバドール・ダリの絵の説明から。目玉焼き(サニーサイド アップ)が2個並んだ皿の上に,今にも崩れそうな目玉焼きの 首つりの絵。いかにもダリだが,これを蛋白質の folding につな げて,スペインで開くミーティングの挨拶とするところが,Bukau のセンスである。裏表紙には,例の髭を立てたダリの写真が 載っている。Bukau はちょっと見ると如何にも堅物ドイツ人とい った雰囲気だが,実際に話してみると,この絵の使い方のごと く,センスとユーモアにあふれた教養人である。 さすがに Lindquist の進化の話や,Horwich,Saibil,Hartl らの EMBO Workshop のオーガナイザーの二人。Braakman(左)と Bukau(右) フランクフルトで乗り換えて,バルセロナ空港へ。そこには カンファランスのチャーターバスが待っていて,都合1 0人ほど GroE の話は,すごいとは思いつつ,何度も聞いてインパクトが 少なくなったが,今回特に印象に残った話題を2,3紹介してお こう。 を乗せて出発した。行き先は,ほとんどフランス国境に近い Sant B. Bukau は Clp 系について話した。酵母における Hsp104と Feliu de Guixols。今もってこれを正確に発音できないが,よく知 Hsp7 0の bi-chaperone システムと同じように,バクテリアにおい られた保養地であるらしい。途中,雛罌栗(ポピー)が麦畑の ては ClpB と DnaK が協力しながら,凝集した蛋白質の unfolding なかに点々と咲き,えにしだ金雀児が道路脇に咲き乱れて,い と refolding を行っていることは,すでに詳しく解析されている。 かにも地中海岸を走っているという雰囲気だ。金雀児の濃く鮮 一方,ClpAP あるいは ClpXP は,プロテアーゼとしても作用す やかな黄色は,いつからか私のなかでは地中海と強く結びつい るが,ClpAP だけが,in vitro で熱変性させた基質の分解活性が たイメージになっている。 低かった。今回 Bukau らは,ClpAP の co-factor として新たに(だ 海岸の崖っぷちをバスが登り,Sant Feliu 村のホテル・エデン と思うが)ClpS を発見した。ClpS は ClpA の上流にあるオペロ に着くと,大勢の参加者が登録をしているところ。今夜キーノ ンで,106アミノ酸をコードしているが,ATP 存在下に ClpA と ートレクチャーをする S. Lindquist にも早速ここで出合った。と 複合体を作り,複合体を作ることで,ClpA の auto-digestion が抑 りあえず部屋に入ると,ベランダからはこのホテルの所有する えられる。大事なことは,ClpS が ClpAP システムの分子スイッ 入り江(湾?)が真下に見え,その入り江を取り囲むようにし チとして働いていることである。即ち,ClpS は ClpAP による凝 て,ホテルの別棟が続いている(写真) 。質素な部屋だが,なに 集蛋白質の分解を促進するが,逆に,ClpAP による SsrA-tag の より海からの風の心地よさが贅沢である。すぐに食事というこ つけられた基質の分解を抑制する。バクテリアにおいてはこの とになったが,このあたりでようやく参加者に日本人が一人も ように,ClpB/DnaK による凝集蛋白質の unfolding/refolding の系 19 と,ClpAP/ClpS による凝集蛋白質の分解の二つの品質管理のシ って,いつも誰かが一緒である。なかなか一緒に食事をという ステムを持っていることになる。 機会がない。まったく知らない人たちと自己紹介をしながら食 最終日,最後の演者として登場した T. Rapoport は,ちょうど Cell に publish されたばかりの PDI に関するものが中心だった。 事をするのは,まあ面白いと言えば言えようが,それが一週間 近く続くと,結構大変なものである,というのが実感。 コレラ毒素は Vibrio cholerae のペリプラズムで2個のサブユニッ 近くの(と言っても,船で約一時間)古い町への遠足や,フ トが会合し,標的細胞の小胞体で,解離して,そのうちの A 1 ラメンコなど,ハードな割には,すぐに時間の経ってしまった 鎖がサイトゾルにレトロトランスポートされる。ペリプラズム 楽しいミーティングであった。参加者のほとんどが,最初から も小胞体も,それぞれ相同のオルガネラと考えられるのに,な ほぼ最後まで減らなかったのも印象に残った。バルセロナから ぜ一方では folding/assembly に,一方では unfolding/disassembly に かなり離れたところにあることも一因だろうし,昼は3時間ほ 基質をシフトさせるのか,これまでは説明がつかなかった。彼 どフリーの時間があって,プールか海かで泳ぐという,バケー らはコレラ毒素を基質として用いて,小胞体中の PDI が,レド ションとしての要素もあったことによるだろうが,なによりプ ックスによってドライブされる新しいタイプの分子シャペロン ログラムが最後まで充実していたのがその理由だろう。 であることを示した。PDI は, 還元条件下では基質に強く結合し, 酸化条件下ではそれから解離する。細胞は,ATP によって結合 Barcelona 解離を制御される HSP70タイプのシャペロンと, レドックスによ 最後の日は,朝飯のあ って制御される PDI タイプのシャペロンの二つを持つことにな と,Rick Morimoto と, る。PDI は,小胞体における蛋白質の unfolding に関与し,小胞 Betty Craig,Michael Maur- 体からサイトゾルへの逆行輸送の最初のステップを司る重要な izi らと一緒にタクシーで 因子である可能性が示唆された。 バルセロナまで出て, 一日 私自身は,細川暢子助教授が発見した EDEM について,はじ 観光である。 ホテルに荷物 めて国際学会で話した。初めて EDEM について話をする場が, を置き, ピカソ美術館やカ Hotel EDEN。もちろん最初のジョークは,EDEM と EDEN に決 テドラル, サグラダファミ まっている。 リアなどを歩いてまわっ 私は HSP4 7についてはまったく触れなかったが, 初めて英国の た。バルセロナはとにかく グループが HSP47について発表をしたのが面白かった。 マンチェ アントニオ・ガウディの町 スターの N. Bulleid のグループの発表であり,プロコラーゲンが という印象が強いが, 先に 翻訳されて小胞体に入ってくると,まずプロリン水酸化酵素(P 帰った Maurizi を除いて, 4H)が結合し,さらに PDI が結合したあと,3本鎖になったコラ Rick の案内で,3人でガウ ーゲンに HSP47が結合することを, 半透過性にした細胞を用いて ディの建築を見て歩いた。 きれいに示したものである。内容はすでに EMBO J. に発表され 陽射しの強い日だったが, たものを出ていなかったが,コラーゲンの小胞体における fold- 湿度が低く, 歩いていても 未完成のサグラダファミリア ing/assembly のあとの方,すなわち3本鎖を形成してから,HSP47 汗はあまりかかない。やはりサグラダファミリアが圧巻であり, が結合する点は,我々の結論と同じであった。 1 0 0年経っても,まだ未完成というその壮絶な教会は,永遠に未 この前国際学会に出てから,まだ一年も経たないが,この会 完であることにおいて,貴重であるという風でもあった。 ではスライドで発表をする人間の少ないのに驚いた。国内では バルセロナの中心街は,ランブラス通り。その通りで,Rick まだ power point で発表するのはそんなに多くなく,カッコいい らと2時間ほども時間を潰していたときに見た面白い風景があ power point による発表はもう少し先に延ばそうと思っていたの った。地元の新聞に書いたエッセイを転載させていただく。 だが,この会では,スライドでの発表は多分1 0人は越えなかっ ただろう。液晶プロジェクターが主に使われるので,室内はス ストリートパフォーマーたち ライドの時ほど暗くしていない。海からの風を入れるため,カ ヨーロッパ分子生物学連合主催のワークショップがあり,ス ーテンが始終あおられている。こういう状況で,スライドで映 ペインのバルセロナに近い,地中海岸のリゾートに一週間ほど された画面は,くすんで暗く,貧弱に見えることこの上もない。 滞在した。1 80人ほどが集り,期間中ずっとホテルにカンヅメで これは是非 power point に変えなくてはと,止むなく決心した次 ある。珍しく日本からは私ひとりだけだった。 第(事実,約二週間後の,ポルトガルの FEBS meeting では見事 に power point 派に変身した) 。 その帰り,バルセロナで一泊,半日だけ市内観光をした。ア メリカ人の友人ふたりと一緒に,型通りガウディの残した建物 毎日,朝飯を食ってから会場まで,ホテルの庭を通って歩い など,市内を二ヶ所ほど歩いてまわったが,もともとあまり名 ていく。途中に,ヨガをやっているグループがいて,1 0人ほど 所旧跡に興味のない連中ばかりだから,あとはカフェでのんび が円になって,一人の指導者を真似ながらヨガのレッスンを受 りと話をするばかりである。 けている(らしい)のも面白かった。日本人が一人というのは, バルセロナのメーンストリートとして有名なランブラス通。 なかなかにハードなものである。特に朝昼晩の食事が億劫であ その舗道に張りだしたカフェでビールを飲んでいた。私たちの る。食事の時くらいは,日本語で話しながら食べたいと思うの 前の舗道には,ツタンカーメンの胸像が大理石の台座の上に飾 だが,それができない。それと私が知っている連中は,いつも ってあった。 国際学会に招待されている人たちが多いので,みんな人気があ 20 と思ったのは実は間違いで,よく見るとそれは,顔じゅうを 確かにサクラというのは必要なのであった。 棺桶の中で眠る死者とか,下半身が魚の人魚とか,ゼンマイ 仕掛けで踊る人形とか,とにかくランブラス通はストリートパ フォーマーの花ざかり。そんな楽しい風景が,遠からず日本で も普通のことになるのだろうか。 (京都新聞「現代のことば」平成1 3年7月) 翌日,バルセロナ空港から帰国したが,広いバルセロナ空港 のロビーは,ずうーと向こうまで,一面に新聞紙の切れ端がば らまかれているのには驚いた。どのビルの床にも同じようにゴ ミが散乱している。いったい何事かと思って尋ねると,それは バルセロナのカフェにて。左から Craig,Morimoto,永田 空港職員のなかでも,空港の掃除などを担当する職員のストな 金色に塗り,赤白縞の頭巾(というのだろうか)をつけて,ツ のだと言う。自分たちが掃除をしなければ,空港はこうなるぞ, タンカーメンらしきエジプト古代の王に扮した人間なのであっ というデモンストレーションなのだろうか。なんという過激な た。まさに金の胸像といった風で,瞬きもしない。ただただじ ストであることか。面白がっているのは私だけで,一般の乗客 っと前を見つめ,視線を動かすこともしないのである。観光客 は,なんの違和感もなくごく普通にその新聞ゴミのなかを歩い が多いのをあてこんだ,ストリートパフォーマー(大道芸人) ている。まことに,ところ変われば不思議な風景にであうもの なのであった。 である。 まゆ毛も金,唇も金,見れば見るほどよくできていると,私 たちは大喜びで観察を続けた。しかし,ほどなく彼の不幸に気 Lisbon づいた。あまりにも見事にできているので,目の前を歩いてい などと,ゆっくり書いてきたら,そのあと立ち寄ったマック く人々がほとんど気がついてくれないのである。ちらっと視線 スプランク研究所の U. Hartl 研のこと,Ulrich が新しく作った素 を滑らせる人はあっても,ほとんど無視して通り過ぎてしまう。 晴らしい家のこと,また3週間ほどをあけて,再び参加した 彼ら銅像を演ずる人たちは,銅像と見分けがつかないほどに FEBS ミーティングの模様などを書くスペースがなくなってし よくできていなければ「金がとれない」わけだが,それが本物 まった。以下,簡単に。 の銅像だと思ってしまわれては,これまた金にならない道理で 第2 7回の FEBS meeting は,ポルトガルのリスボンで,6月3 0日 ある。業を煮やして,ときどき前を通り過ぎる女性などに, 「わ か ら 7 月 5 日 ま で 開 か れ た。Pan-American Association for Bio- っ」とかなんとか吠えたりして注意を引こうとするが,驚いた chemical and Molecular Biology と の 共 催 で, 大 会 長 は C. 通行人は通り過ぎてから苦笑するばかりで,これもなかなか金 Rodrigues-Pousada。Plenary Lecture が8つ,シンポジウムが3 0セ を置いて見入ってはくれない。完璧でなければならないが,完 ッション,ワークショップが1 4セッション,その他にポスター 璧すぎると,そのイタズラに誰も気づいてくれない。本質的な セッションという大きな学会である。参加者が何人なのか,聞 自己矛盾を抱え込んだ存在なのであった。 いていないが,日本の分子生物学会のもう少し小振りという感 私たちはにやにやしながら,銅像男と通行人との関係を,一 時間以上もビールを飲みながら観察し続けただろうか。 おもしろかったのは,時々彼が休憩のため煙草を吸う時であ る。われわれの店のボーイも,一緒に煙草をくわえて彼と無駄 じであろうか。 もちろんシャペロンやストレス応答だけというのではなく, ほぼすべての分野をカバーするものである。大きくは, 「Bioinformatics, Functional Genomics and Proteomics」 , 「Cell Dynamics」, 話をしていたりする。煙を吐き出しながら,ああ疲れたとか何 「Signal Transduction Pathways」 , 「Molecular Basis of Diseases」 , とか言って銅像であることをやめてしまった時,ようやくそれ 「Structural Biology」, 「Developmental Biology」 , 「Cellular Stress Re- がパフォーマンスであることに気づいた人たちで,たちまちそ sponses」の7つの大セッションにわかれていた。 「Cellular Stress のまわりに人垣ができるのである。そうしてだれかが前に立っ Responses」が大セッションとして設けられ,その中に「Genome てくれると,その後人々がなんだなんだと続いて集ってくる。 Regulation and Stress」, 「Oxidative Stress and Ageing」, 「Stress Signaling Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ」の5つのシンポジウムがあったほか, 「Structural Biology」という大セッションの中にも,「Protein Misfolding and Diseases」, 「Molecular Chaperones and Folding」などのシンポジウ ムがあるなど,ストレス応答,分子シャペロン,folding 異常病 の占める比重がきわめて大きいというのがまず大きな印象であ った。 私は, 2日目, 「Structural Biology」のなかの「Molecular Chaperones and Folding」に呼ばれたが,そのシンポジウムでは,B. Bukau(Freiburg) がまずトリガーファクターの話をし,次が N. J. Cowan(New York)の CCT の話,H. H. Kampinga(Groningen) の Hsp7 0の核移行,E. Vierling(London)の small Hsps の話と続 完璧なストリートパフォーマー いて,最後に私が Hsp47と EDEM の話をした(もちろん power 21 point で)。 この学会は,とにかくマンモス学会であり,早々に(旅費な 私たちのセッションより, 「Protein Misfolding and Diseases」の どの reimbursement をもらうのを忘れるほど大急ぎで) 退散して, セッションの方が,聴衆は断然多く,folding 異常病に対する関 念願のブルゴーニュに寄って帰った。葡萄畑を楽しみ,ワイン 心の深さが浮き彫りになっている感があった。全体のプログラ を楽しんだのだが,それを書き出すと,みんなを羨ましがらせ ムは Eur. J. Biochem. の2 6 8巻,1-2 9 8pp で見られるので,詳細は るだけだろうから,これはこの辺で終わりとしておきたい。 そちらをご覧いただきたい。 「分子シャペロンによる細胞機能制御」 永田 和宏・森 正敬・吉田 賢右 篇 シュプリンガーフェアラーク東京(2 001) 定領域研究の総括と言ってもいい,解説書である。出版元のシ ュプリンガー・フェアラークの飯田さんは,よくシャペロン関 係のシンポジウムの会場でお見かけするが,彼の関心と理解が あってこの本が実現したものと推察する。 「Frontiers in Molecular Biology:Molecular Chaperons in the Cell」ed. Peter Lund, Oxford University Press, Oxford(20 0 1) さて本書の目玉は,何と言っても田口英樹・吉田賢右両氏に よる,52頁におよぶ「分子シャペロンの基礎」であろう。執筆 者の一人でもある小椋(熊本大)さんに取材してみたところ, 「この本の第一章『シャペロンゼミ』は本当に素晴らしいと思い ます。シャペロンに関心があることがまず第一に必要ですが, 本ニュースレターを発行する特定領域研究(A) 『分子シャペ 店頭でこの本を手に取ってぱらぱらとめくったとき,この第一 ロンによる細胞機能制御』のタイトルをズバリ題名とした本が 章を立ち読みしだしたら,絶対この本は買いますね。話に引き 出た。もちろん本特定領域研究の班員の多くが執筆を担当,特 込む魅力があるうえに立ち読みで読み終えるには少々長い。も 最強のジプシー音楽集団が 見せる 「何でもあり」 の世界 もさることながら,右手や左手でパチパチ弦をはじいたり, 遠藤斗志也 ら,何と左手ではパセージを弾いてみせるのである。CD で聴 弓をむちゃくちゃに動かしたり。さらに圧巻なのは,弦に釣 り糸を結びつけて,それを右手の指でギューッとこすりなが いていたときは,弓を強く弦に押し付けてギシギシ音を出し 天下無敵のジプシー楽団タラフ・ド・ハイドゥークス タ ラ フ・ド ゥ・ハ ているものとばかり思っていたが,実物を見てはじめてそう イドゥークスという ではないことが分かった。これはリーダーのおじいさんが発 ルーマニアのジプシ 明した技のようで,ニコニコしながら,何度も何度も得意に ー音楽集団が名古屋 なって披露してくれる。他の人は,おじいさんが現役の間は, に来たので(来日は 真似も許されないんだろうなあと思ってしまう。これを採譜 二度目) ,クラブクア したら,ツィゴイネルワイゼン以上に複雑な記号のオンパレ トロに見に行ってき ードになってしまうだろう。つまりは,何でもありである。 た。タラフ…はルー アコーディオンも,指を使った速弾きだけではなく,腕その マニアの首都ブカレ ものをものすごい速さで震わせて蛇腹を動かし,トレモロの ストの南東,クレジ ような音を出してしまう。聴衆をノせて躍らせるためにはど ャニという寒村のバ んな技も OK。ビリつきや,歪んだ音といった雑音成分がむし ンドで,20代の若者 ろ快感になる。 から∼70代のお年寄 実はこうした雑音成分のもつ豊かなニュアンスを好む傾向 りまで総勢10名以上 は,世界中の民族音楽に見られる。民族音楽の伝統楽器には, か ら な る 大 所 帯 だ。 わざとそういう雑音成分が出るように工夫された楽器も多 ジプシーという言い方は差別用語だそうで,一時はロマ人と い。オーケストラという全体のハーモニーを重視するあまり, 言ったりしていたが,この言葉も不適切という話もある。楽 個々の楽器の個性たる雑音成分を排除してきた西洋のクラシ 器編成は,複数のバイオリン,アコーディオンを中心に,ツ ック音楽の方が, むしろ特殊だと言ってもいい。そしてまた, 電 ィンバロム(米国ではハンマーダルシマーとよばれる打弦楽 気楽器登場以降の,ロック(もう死語?)のエレキギターのフ 器) ,縦笛,コントラバス。これらが緩急自在に,哀愁のある ァズやワウワウのようなエフェクタやディストーションを,こ 民族歌謡から,驚異的な激しさのダンス音楽までを繰り広げる。 うした制約への反動としてのノイズの復権という見方もある。 特にすごいのがバイオリンで,人間業とは思えない速弾き 22 もちろん,タラフ・ドゥ・ハイドゥークスの音楽がまった うちょっと詳しく読んでみた くある経験から,へたに説得されると他の誰でもなく自分がそ い,じゃあ、買うか,と思っ の実験をやるはめになることを知り,説得されまいとする抵抗 てしまいますね。 」との答えが 精神をもった青年となっている(うーん,実に現実にありそう 返ってきた。 なキャラだ) 。今回は,こうした性格が十分に出ているわけでは この「分子シャペロンの基 ないが,それでも各人のやりとりにはいたるところウィットと 礎」は,某大学のゼミで教授, ユーモアがあって,ニヤリとさせられる。また今回は,これも 助手,大学院生,学部学生が また吉田さんらしい「本歌取り引用で,すこし楽しんだ」との シャペロンについて,色々デ ことであり, 「人間は考えるヒモである」 , 「タンパク質はタンパ ィスカッションしている,と ク質に生まれるのではない、タンパク質になるのである」 ,「リ いう設定になっている。吉田 ンゴに芯があるように生は死を内包する」などが出てくる。ち さんに聞いたところ,この設 なみに,これらのフレーズのオリジナルの出典が何かをすべて 定は実は今回がはじめてでは 正答すると,吉田さんが本書にサインをしてくれるそうです。 なく, 『生物物理から見た生命 この後のメインメニューは, 「細胞機能の制御」としてフォー 像1:蛋白質―この絶妙なる設計物―』 (生物物理学会編 吉岡 ルディング,輸送,品質管理,さらに「シグナル伝達と分子シ 書店19 9 4/199 7)が最初だそうである。興味深いことに,そこ ャペロン」 , 「分子シャペロンと病態」が続く。それでも拾いき では各登場人物の性格付けもきっちりなされており,教授は物 れなかった話題は,18におよぶ囲み記事で採り上げられている。 知りであるが教科書的であり,有名雑誌に載った他人の論文を そして,森正敬さんの「分子シャペロン研究の今後」と大塚さ わがことのように興奮して語る素直な人,助手はこれと対照的 んの「分子シャペロン総覧」で締めくくって終り。これだけ盛 に,他人の論文についても自分の実験結果についても,批判的 りだくさんの内容でありながら,全体をスッキリと見渡せる編 に捉える人で,若手のホープというよりはちょっと衒学的,院 集のうまさにも頭が下がる。そこそこの値段でありながら (48 00 生は博士課程にはいったところだが,先生のいうとおりにして 円),売れ行きは好調,書評が各誌に出る前にもう増刷が決まっ いたら結局研究がうまくいかなかったという,苦い,しかしよ たそうだ。 く制約なしに何でもありなのではない。むしろそこには,ロ き残ったのか理解に苦しむものが,しばしばある(エネルギ マ人の嗜好や美学という,民族的コンテクストが強力な制約 ーの浪費である) 。ある種のニワシドリ(庭師鳥)の雄は,1m として存在する。その制約のもとで,はじめて何でもありの 以上の大きな円すい形の東屋を作り,そのなかを木の実や花 技術的自由が素晴らしい表現を産むのである。 (もっとも,当 で飾りたて,雌がやってくるとそこでダンスを踊る。あるい のルーマニアのマジョリティの間では長い間ジプシーの音楽 はハタモグラネズミはサバンナ地帯の地中に大きな巣を作っ なんてバカにされてきたそうで,タラフの音楽も欧米で人気 て生息するが,生殖する個体は雌が1匹,雄が数匹,残りの が出てやっと注目され,昨年暮に初めて地元で大きな公演を 大多数はヘルパーとして巣作り,餌採り,ときには防衛に従 行うことができたということである。 ) 事する(シロアリによく似ている)という。いったいこんな ちょっと唐突かもしれぬが(実は,ここにはシャペロン・ 複雑な行動パターンや社会性が,どうやって遺伝情報として ニュースレターという制約があるので,神社だろうと音楽だ プログラムされているというのだろう。個々の変異の表現型 ろうと「何でもあり」には限界があるということ) ,ある制約 が隠されることにより,ミクロの自然選択を回避してマクロ のもとで「結果がよければ何でもあり」 ,というのは生物の進 のプログラムが自然選択の対象と成りうることを示したのは 化でも同じである。われわれにとってメカニズムを理解しや Susan だが,選択なしでマクロのプログラムがどうやって組み すいかどうか,システムとして見たときに美しいかどうかと 上がるかについては,依然謎のままである。ランダムにプロ いったことは,おそらく進化の過程で生き残りを決める主た グラムを組んでいたら,あんな複雑な行動を規定するプログ る要因とはならなかった。宇宙をつくった神様は数学的に美 ラムなんて Levinthal のパラドックス以上に成功する確率が低 しいものを好まれたようだが,生物をつくった創造主は結果 いように思う。いやそもそも,複雑な行動パターンのプログ オーライの楽観主義者で,数学的センスがなかったのかもし ラムの情報量は,遺伝情報のキャパシティを軽くオーバーし れぬ。しかしだからこそ,こんなに複雑な生き物がわずか数万 てしまうのではないだろうか。鳥のさえずりとかセミの鳴き 種類の部品からできあがるという奇跡がおこったとも言える。 方の研究があったような気がするが,あれはどのような形で しかしタラフの音楽なら,ロマ人じゃないわれわれの身体 も自然に動いてしまうから,結果よければ,というのが分か 遺伝情報に組込まれているのだろうか? さて,それでは人間は?われわれが誰かを好きになって, るが,生物の場合には,本当に結果がよかったから生き残っ あの手この手で相手を手中に収め,次の世代をつくるという たのかどうか,理解しかねるケースも少なくない(裏を返せ 行動様式は,どのようにプログラムされているのだろうか? ば,生き残ったのだから結果が良かったと考えるしかないケ ってどこかの宇宙人(この頃は UFO の目撃がめっきり減少し ースが多い)。たとえば性選択や繁殖に伴う動物の行動パター てしまったので,地球の調査はほぼ完了したのではないかと ンには,なぜそんな複雑なものが進化の過程で,生まれ,生 いう噂だ)が悩んでるかもしれないなあ。うーん…。 23 もう一冊の『Molecular Chaperones in the Cell』は,オックスフ の機能を見渡すうえでは,逆に分かりにくくなるという面もあ ォード大学出版からの「分子生物学の最前線」シリーズの最新 る。というわけで,生物種を越えたシャペロン機能の俯瞰的総 刊。網羅的解説書というよりは,その時点での最新の話題を, 説を Morimoto が担当,主に Hsp7 0/DnaJ を中心に解説している。 大学院生当たりをターゲットにしているのか,分かりやすさを この後は,最新の書ならではの章立てで,Hsp90を中心にシグナ 主眼にまとめたもの。まず,Bukau らが大腸菌のサイトゾルのシ ル伝達とシャペロン,ER 内シャペロンと品質管理,シャペロン ャペロン全般を解説。バルクのタンパク質フラックスという視 の発現制御(これはちょっと最新という感じがしないかもしれ 点で,フォールディング,分泌,品質管理,対熱ストレス戦略 ないが) ,シャペロンと ATP 依存性プロテアーゼ,アミロイド形 などをわかりやすく説明している。次の章は,大腸菌の分泌と 成といった話題が続く。 ペリプラズムでのフォールディング。続いて Pfanner らがミトコ こうして眺めてみると,横断的解説と個別解説を組み合わせ ンドリアと葉緑体における膜透過とフォールディングにおける るなど編集に工夫はあるが,カバーする領域の広さ,話題の豊 シャペロンの役割を解説。そして真核生物のサイトゾルシャペ 富さなどから見ると, 『分子シャペロンによる細胞機能制御』の ロンに話題が移って,Willison による CCT の話と Craig らによる 方がはるかに魅力的。わが国のシャペロン研究者の層の厚さを Hsp70システムの話が続く。ただしこうした原核生物,真核生物 あらためて実感した次第である。 (TE) のオルガネラとサイトゾル,という分類は,普遍的シャペロン 2 001.10.10−13 3rd. International Workshop:Molecular Biology of Stress Responses 不可逆的なシグナル伝達は時期特異的なタンパク質産生と分解 によって精巧に制御されている。分子シャペロンは細胞内での タンパク質のフォルディングに関わる一群の分子であるが、近 年シグナル伝達関連分子の機能には分子シャペロンとの相互作 場 所:Mendoza, Argentina 用が必須であることが明らかにされつつある。本シンポジウム オーガナイザー:Daniel R. Ciocca ではシグナル伝達に関わるキナーゼ・フォスファターゼと分子 予定講演者:Andrei Laszlo, Clayton Hunt, F. Dario Cuello-Carrio' n:, シャペロンとの関わりを中心に、シグナル伝達分子のフォルデ Aura Chavez Zobel, Silvina Nadin, Daniel R. Ciocca, Rich- ィング・生理活性・分解の制御に HSP9 0などの分子シャペロン ard Morimoto, Larry Hightower, Stuart Calderwood, Michel がどのように関わっているかについて明確なイメージを結ぶこ Morang, William Currie, Wolfgang Schumann, Suely とを目的としたい。また、ER におけるシグナル伝達とタンパク Lopes, Lawrence Hightower, Andrei Laszlo, Subhash 質分解に関する最近のトピックも取り上げる。 Lakhotia, Luiz Nunes, Regina Costa, Andre' -Patrick Arrigo, Masataka Mori, Ana C. Schenberg, Ian Brown, Jeong-Sun 場 所:国立京都国際会館 Seo, Marja Jaattela, Robert Tanguay, Armando Parodi, Tan- オーガナイザー:宮田愛彦,今井 純 chung Wu, Kazuhiro Nagata, Anil Grover, Antonio De 予定講演者:藤田直也,長田裕之,今井 純,河野憲二,細川 Maio, Daniel Ciocca, Juan J. Cabrera Galva' n, Laura 暢子,宮田愛彦 Vargas-Roig, Kerstin Bellmann, Ingela Kindas-Mugge, Pramod Srivastava, Elfriede Noessner, Alexzander Asea, Gabriele Multhoff, Zihai Li, Chiara Castelli 2001.11.2−3 第6回 臨床ストレス蛋白質研究会 www サイト: http//www.sp.uconn.edu/%7Ehightowe/cssi/mendoza1.html 日 時:平成1 3年1 1月2日(金) 14時∼1 8時 1 1月3日(土) 9時∼1 2時 2 001.10.28 9:00−1 1:30 第7 4回日本生化学会シンポジウム 「シグナル伝達分子と分子シャペロン」 場 所:ヒルトン小樽(北海道小樽市築港1 1−3) Tel:0 13 4−21−31 1 1 会 頭:佐藤 昇志(札幌医科大学医学部病理第一講座) 特別講演:小川 智(金沢大学医学部解剖学第三・教授) 本年1 0月2 5日(木) から2 8日(日) までの4日間、京都で第7 4回 日本生化学会が開催されます。同大会において、 「シグナル伝達 分子と分子シャペロン」の総合タイトルでのシンポジウムが開 催されます。内容は以下の通り。 懇親会:平成1 3年1 1月2日(金) ヒルトン小樽1 8時より 年会費(参加費含む) :30 00円(事前に振り込みされていない場 合当日受付にて) 懇親会参加費:3 0 0 0円 問い合わせ先:〒0 60-85 56札幌市中央区南一条西1 7丁目 札幌医 細胞外からの刺激に応じて細胞核内へと情報を伝達するいわ ゆるシグナル伝達経路において、レセプター Tyr キナーゼに始ま り、MAPK や PI3K-Akt などの Ser/Thr キナーゼカスケードを介 するタンパク質のリン酸化が重要な役割を果たしている。また 24 科大学医学部病理第一講座 鳥越俊彦 (Tel:01 1−61 1−21 11 ex2 69 1,Fax:011−5 43−2310) 今回は,はじめての試みとして,特別編集の別冊を作ってみ ました。この企画の editor を務めてくださった小椋さんは,執筆 者との交渉から始まり,読者の理解を助けるための徹底的な Q & A の作製まで,とことんお世話になりました。ありがとう ございました。 前号の「シャペロンの裏街道」 。冗談と分かっていない読者が 多いのではないかという指摘を受けました。執筆者としては 「え えっ」という感じですが,確かにシャペロンこそ「何でもあ り」なので,ごく自然に信じてしまった人も多かったのかもし れません。 「4月1日号」, 「頭寒足熱」など,ヒントを色々入れ ておいたのですが,誤解された方にはお詫び申し上げます。 「あ れはジョークですので,よろしく」 。 冒頭の永田代表のアナウンスにあるように,本特定領域研究 を発展させた新規特定領域研究(A) (吉田さん代表)が,採択 されました。本紙発行後まもなく,科研費の申請がありますが, 興味のある方はふるって申請してください。この分野を大いに 盛り上げていきたいと思っております。 25 (シャペロン・ニュースレター) 編 集 人 遠藤斗志也 第 9 号(2001 年 9 月発行) 発 行 人 永田 和宏 「分子シャペロンによる細胞機能制御」研究連絡調整係 発 行 所 特定領域研究 〒 464 − 8602 名古屋市千種区不老町 名古屋大学大学院理学研究科物質理学専攻,遠藤斗志也 Tel:052 − 789 − 2490 Fax:052 − 789 − 2947 ホームページ:http://biochem. chem. nagoya-u. ac. jp/chaperone/index. html e-mail:endo@biochem. chem. nagoya-u. ac. jp 印刷 ㈱荒川印刷
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