第2章 一般編(PDF 77KB)

Ⅰ
採用・昇進
1
新規採用職員を迎えるにあたって
新規採用職員は、未知の仕事への期待や不安を持って配属されてくる。集合研
修によって公務員としての最低限の知識を学んだとはいえ、まだ、実務上の知識
は皆無に等しい。特に新任職員は、学校とは全く異なる人間関係の存在する「職
場」に大きな不安を持っている。上司は、まずこの不安を取り除いてあげること
が大切である。そして、できるだけ早く職場に適応させ、本人のもてる能力を十
分に発揮できるように指導していかなければならない。
ここでは、新規採用職員を受け入れるにあたっての事前準備、指導上の注意や
心構えについて、新任職員のアンケートなども参考にしながら考えてみよう。
(1) 新任職員を受け入れる前に
期待と不安の入り混じった気持ちでいる新任職員を安心させ、やる気をおこさ
せるには、受け入れる職場の体制と事前の準備が重要である。新任職員を受け入
れるにあたって特に必要なことは、以下のとおりである。
①本人に関してできるだけ予備知識を得ておく(住まい、特技、趣味等)。
②担当職務を決めておく(アンケートでも、「担当する仕事がなくてつらかっ
た」というものが多い。最初の仕事だけでなく、半年後、一年後の仕事につ
いても考えておくようにしたい)。
③机や事務用品、さらには当面、目を通す必要のある資料などを整えておく
(アンケートでも多くの職員が、「なんといっても自分用の机や椅子が与え
られたことがうれしかった」「事務用品が整理されておらず、仕事をするに
あたって足りないものがあり困った」と答えている)。
④新任職員に何を担当させるか等について、他の部下職員にも説明するととも
に、温かく迎えるよう話しておく。
⑤指導担当者を選び、指導内容や当面の予定について打ち合わせをしておく。
(2) 新任職員着任のとき
新任職員が初めて職場に着任するときは、期待と不安で一杯である。このよう
に緊張しがちな新任職員に対して、課長や係長がうちとけた態度で、固くなりが
ちな気分をほぐし、当面必要な事項を説明するなど、不安を取り除き、働く意欲
と希望に満ちたスタートを切れるようにすることが大切である。
①面接……静かな落ち着いた場所を選ぶなど、親しみやすい雰囲気の中で十分
な時間をとって行う。
ア 本人が職場から期待されていることを強調し、仕事について自信を持た
せるように努める。
イ 服務心得、職場慣行等について話す。
ウ 課、係の仕事の概要と、担当させる仕事の意義とあらましを説明する。
エ 執務上の留意事項と心構えについて話す。
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オ
カ
キ
指導担当者を立ち合わせ紹介する。
当面の仕事の予定を説明する。
質問しやすい雰囲気をつくり、わからないまま終わってしまうことのな
いよう配慮する。
ク 何か困ることがあったら、いつでも喜んで相談にのることを必ずつけ加
える。
②できるだけ早く、上司、課内、関係部署等、仕事上の関係者に紹介する(形
式的にならないようにする)。
(3) 新任職員の指導にあたって
新任職員は、職場で見るもの聞くもの行うもの全てが初めての経験である。そ
れだけに最初の職場環境や指導がその後の公務員生活に与える影響が大きい。こ
のため、指導に際しては思いつきや場あたり的なものでなく、何を、いつまでに、
どのレベルまで高めるかを、目標をもって計画的に進める必要がある。
①指導項目の設定
仕事を進めるうえで必要な知識能力や執務態度について、何を、いつまで
に、どのように指導するかを、考えて設定する。
②指導目標の設定
項目ごとに、いつまでにどの程度まで達成させるか、到達すべき目標を明
確に決める。
③指導計画の設定
目標を達成するためには、いつまでに、どのような指導をすべきかなど具
体的な育成計画を立てる。
④指導の実施
本人に十分説明し、納得させたうえで、計画に沿って指導する。
⑤結果の検討・評価
一定期間実施後、計画通りに進んでいるか、問題点は何か、今後の指導ポ
イトは何か、など本人と上司が相互に評価を行う。
2
昇格直後の係長への指導
係長になって、最も大きな変化は部下を持つということである。これは、人に
仕事をまかせるということであり、集団を管理することである。初めて部下を持
った係長は、この未知の体験に緊張するとともに、とまどいと不安を感じる。受
け入れる課長としては、次のような点に留意し指導することが大切である。
(1)仕事に関すること
①係内の仕事の配分は適切になされているか。
②係内の仕事のポイントを十分把握しているか。
③上司への報告・連絡・相談は適時適切になされているか。
④仕事の進捗状況をつかみ、調整しているか。
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⑤指示は自信を持って明確に与えているか。
⑥係長が仕事をかかえこんでいないか。
⑦係内のミーティングなどを定期的にもっているか。
⑧他の係や関係職場との連絡調整はうまくなされているか。
(2) 人間関係に関すること
①職員の意見を聞いたり、相談にのるなど、個人的な接触がなされているか。
②職員にことさら迎合しているようなことはないか。
③係長を補佐すべき職員との連携はうまくいっているか。
④OJTの意義を理解し職員の育成に努力を払っているか。
以上の点は、どの係長にもあてはまることである。すべて満点ということは難
しいが、問題のある点をとらえ、その係長の性格も考えながらアドバイスをして
いくことが必要である。
Ⅱ
仕事の進め方
1
仕事の企画
新しい仕事を始めようとするとき、職員に企画・立案させることは、職員を育
成・指導する絶好の機会である。すなわち、仕事への高度な問題意識を醸成し、
視野を広げ政策形成能力を向上するための、自己啓発への動機づけとなる。
職員は自分が主体的に立案し、または立案に参画した仕事については、強い関
心と実行意欲を持つものである。職員を参画させるにあたっては、形式的な参画
ではなく、引き続き企画事項の実施を実際に担当させることも考慮する必要があ
る。
また、仕事を企画・立案するにあたっては、問題の本質の把握、原因の分析、
解決方法の検討、解決策の選択、他への影響などのすべてについて考察すること
が必要である。その際、問題解決技法や創造性開発技法等を活用し、職員に体系
的な政策形成過程を身をもって体験させることによって、どのような手順を踏ん
で仕事の企画に取り組めばよいかを学ばせることができる。
職員に仕事を企画させることは、様々な育成効果があるが、その際は次の点に留
意する必要がある。
①組織や上司の基本方針を確実に理解させておくとともに、制約条件など上司
が持っている情報も十分に伝えておくこと。
②企画の細部について指示することは避け、助言や示唆を与えるに留め、でき
るだけ裁量の余地を残しておくこと。
③企画の過程で悩んだり、判断などに困った場合には、気軽に相談できるよう
な雰囲気を日ごろから作っておくこと。
④問題意識を持たせ主体的に考えさせる。ア 政策形成のプロセスを理解させ
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る、イ 合意形成手法を身につけさせる、ウ
をもって指導にあたること。
課題に精通させる、などの視点
2
仕事の打ち合わせ
仕事を誤りなく、能率的に進めるには、仕事の方法や手順について職員と意思
の疎通を図り、情報を交換するための打ち合わせ、いわゆるミーティングを行う
ことが必要である。
打ち合わせが必要になるのは、新しい仕事を企画する時はもちろんのこと、特
定の仕事の進捗状況の確認、状況変化への対応、関連部門との調整などいろいろ
な場合がある。
仕事の打ち合わせは、職員から積極的に求めてくることもあるが、日ごろから
職員の仕事ぶりをよく観察して、必要かどうかを適宜判断しなければならない。
例えば次のような場合は、打ち合わせを積極的に持つべきである。
①仕事の目的や主旨がよく理解できていないと思われるとき。
②職員が、知識・能力の面など、仕事の遂行に不安を抱えているとき。
③仕事をめぐる情勢に変化があったとき。
④何らかの方針変更が必要なとき。
打ち合わせを行うときに留意すべきことは、上司からの一方的な指示・伝達に
終わらせないことである。職員は、自分の仕事に愛着を持っていろいろな工夫を
したり、あるいは、上司の指導に対し異なった意見を持っていたりすることもあ
る。職員育成の観点からは、自ら主体的に仕事をしているという気持ちを起こさ
せる必要がある。職員の意見には積極的に耳を傾け、適切に評価し、誉めたり注
意や助言を与えることが大切である。
3
職場会議の開催と進行
職場では、仕事に関係した様々な会議が開催される。その目的は、情報を伝達
するためのもの、情報や事実、意見を収集するためのものなど様々である。
職場における会議は、仕事を円滑に進めるうえで必要不可欠なものであり、適切
に運営することにより職場のコミュニケーションを活発にし、チームワークの向
上等にも役立てることができる。また、職員を指導し、相互に啓発し合う絶好の
機会にもなる。
しかし、会議のもち方によっては時間がかかりすぎたり、仕事が一時中断した
り、能率低下の原因になることもある。また、形式化した会議は職員から敬遠さ
れることもある。
会議を開くにあたっては次のような点に留意し、事前に参加者に周知しておく
など、効果的な進め方を工夫する必要がある。
①何(問題、情報)をどのように(解決、伝達、集約)したいのか。
②会議のほかに有効な方法はないか。
③出席メンバーをどの範囲にするか。
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④いつ開くか、どのくらい時間をかけるか。
⑤どこでやるか。
会議中に問題を提起したり、質問・発問*)するなど、できる限り職員に考え
させることも有効な手法である。また職員に司会・説明・発表などの役割を与え、
主体的に運営させることも効果がある。
*)答えがわかっているが、教育的効果を目的として聞くこと。
4
仕事の分担
新しい仕事に着手するときや、配置換え等でメンバーに変更が生じたときなど
は、仕事の分担や協力体制を決め直すことになる。
仕事の割り振りにあたっては、できる限り職員の意向も聞き、メンバー間の合
意の下に分担することが望ましい。このような場合の職員との話し合いは、仕事
の目的、内容、方針、他の仕事との関連、重要性、緊急性、心構えなどについて
指導するよい機会ともなる。
仕事の割り振りには次のような点に注意する必要がある。
①仕事の内容を正確に把握する。
ア すべての仕事についてもれなく把握する。
イ 種類別、困難度別等に分類整理する。
ウ それぞれの仕事を果たすために必要な技術や資格を確認する。
②職員の知識能力、執務態度、業績を正しくつかむ(職務知識、企画力、折衝
応対力、理解判断力、指導力、規律性、責任感、協調性、積極性を、行動をと
おして確認する)。
③目的に応じ、具体的に分担させる。
ア 職員育成の観点から、現在の能力よりも若干高度な仕事に挑戦させてみ
る。
イ 視野を拡げさせることを考え、今までの担当職務とは異なる仕事を与え
てみる。
ウ 職員相互の仕事への理解を深めるため、仕事の全部または一部を交替し
てみる。
エ 専門性の向上や弱点の克服を目的に、得意分野や不得意分野を意識的に
担当させる。
オ 全体的にバランスのとれた合理的な配分かどうかを検討する。
5
職員が仕事の相談にきたとき
職員が仕事の相談にくるのは、次のような場合が考えられる。
①仕事の進め方、内容等にわからない点がある。
②上司の指示、内容等にわからない点がある。
③自分がゆだねられている仕事の企画、実施にあたって判断できないことがあ
る。
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④複数の仕事の処理手順、優先順位等を決めるにあたって判断できないことが
ある。
⑤職場内外のコミュニケーションや人間関係で行き詰まっている。
⑥仕事に関する自己啓発目標の設定や方法で悩んでいる。
このような場合には、上司としてまず、職員の相談をよく聴いたうえで、的確
な指示や助言等を行うことが大事である。また、必要があれば相談の内容につい
て忌憚のない意見交換をし、その上で、励ましたり、動機づけをすることも必要
である。
さらに職員は、家族や一身上の悩み、自分の人生設計など、私事にわたる事柄
についても相談にくることがある。こうした場合にも、上司はできるだけ相談に
のり、職員の身体的・心理的状態を把握したうえで、心身とも健康に職場生活が
送れるように援助していくことが必要である。
いずれにしても、職員がいつでも気軽にいろいろな相談に来られるような雰囲
気を日ごろから作っておくことが、上司として大切なことである。
6
命令と報告
管理・監督者の仕事は、組織に与えられた仕事を職員を通じて迅速に正しく処
理することである。それには、正確に命令し、絶えず仕事の進捗状況に気を配り、
情勢の変化にも適切に対応しなければならない。また、必要に応じ職員から仕事
の報告を受ける必要がある。
どんなによい計画を立てても、職員が的確に仕事を遂行しなければ目標が達成
できない。そこで、上司は、職員が行動するのに必要な命令をすることになる。
この命令が確実に実行されるには、次のような要件を備えていることが必要であ
る。
①内容が正確で、理解できるものであること。つまり、命令の背景なども説明
し、職員が納得できるように、6W2H(When、Where、Who、Whom、What、Why、
How to、How much)を踏まえて、要点をはっきりと分かりやすく示すこと。
②職員の知識能力や執務態度を的確に把握し、これらの特性に応じた命令であ
ること。
③職員にやる気をおこさせる命令であること。それには、できるだけ計画段階
から参画させ、仕事の意義・目的を理解したうえで、当事者意識や意欲の喚起
を図るものであること。
「報告」は、内容を聞いて職員の能力や仕事の進行状況を把握し、今後の事務
処理に必要な内容を教えたり、助言したりするために活用できるなど、OJTの
効果的な材料ともなる。進行状況に応じ、誉めたり、助言することで、自己啓発
への動機づけを行うことが必要である。
7
指示・指導の仕方
上司が組織の目標に沿って仕事を実現するため、職員に指示・命令することは、
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業務の遂行に不可欠なものである。しかし、職員育成の観点からは、上から一方
的に命令をしたり、細部にわたって指示するのではなく、包括的な範囲にとどめ、
具体的な点は職員の創意・工夫といった自主性にまかせる方がより効果的である。
この場合、細部は職員にゆだねることになるため、職員の仕事を観察したり、
中間報告を求めたりして、必要に応じて指導を行うなど、仕事が的確に遂行され
るような配慮が必要である。
しかし、緊急を要するときや職員の納得がどうしても得られない時など、やむ
を得ない場合には、毅然とした態度で指示・命令しなければならないこともある。
この場合には、組織目標を迅速かつ的確に遂行することの大切さを認識させると
ともに、上司の役割と責務を理解させる機会にすることが必要である。
このような場合には、上司自らが相当程度仕事に介入したり、進行管理に気を
配る必要が出てくるので、特に相手が年配職員であったり、職務経験が長い職員
などの場合には、十分な気づかいが必要である。
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決裁を求めにきたとき
決裁文書は職員が自ら行った仕事の集大成である。決裁文書にも、定期的な業
務に対するルーチン的な決定、問題解決に関する決定、調整に関する決定、新し
い企画に関する決定など多くの種類、内容がある。
決裁文書の内容等について不備や誤りがあれば、職員に助言、あるいは意見交
換を行い、正しい方向に誘導するとともに、その過程を通じて教育・指導するこ
とが必要である。
また、内容的に優れている場合には、誉めたり、さらに高度な問題意識を持た
せ、仕事や自己啓発への一層の動機づけを行うことが大切である。
さらに、職員が決定を求めにきたときは、決裁文書の内容や説明の仕方等を観
察し、次のような職員の知識能力・執務態度等を把握し、今後の指導に役立てて
いくことが求められる。
①仕事を遂行するにあたっての職務知識、問題の発見、処理能力、分析力、創
造力、視野の広さ、説得力、状況把握能力等
②業務遂行意欲、勤勉さ、自己啓発意欲
③仕事の達成度
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仕事の評価
仕事の進め方におけるマネジメント・サイクル(PLAN−DO−CHECK−ACTION)の
うち CHECK(評価)については、職員の指導・育成の観点から重要な意味を持っ
ている。
仕事の企画・遂行過程・結果を評価し、次の仕事にどう生かすかは、職員の意
欲に様々な影響を与える。そのため、職員が仕事を的確に遂行したり、努力が認
められる場合には、時機を逸することなく誉めることが必要である。また、十分
な成果が上がらなかった場合でも、職務知識や能力を高めるよい機会と捉え、励
まして動機づけを行う。
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いずれの場合でも、それぞれの仕事の成果をきちんと分析・把握することが前
提となる。また、仕事の遂行過程や結果について、職員と話し合いながら評価を
加えていくと、職員自身にとっても反省するよい機会となり、上司としても今後
の指導や動機づけがより効果的に行えることとなる。
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係長が職員を掌握するには
係長の仕事は、係に与えられた仕事を所属の職員を通じて(係長自らが行うの
ではなく、職員のあらゆる力を結集して)、目標に沿って達成することであり、係
のメンバーが自分の仕事に意欲をもって、自発的、積極的に取り組み、かつ期待
する成果が得られるような状況を作っていくことである。一言でいえば効果的な
リーダーシップを発揮することである。
効果的なリーダーシップがとれるか否かは、なによりもリーダーとメンバー間
の信頼関係にある。係長が職員をしっかり掌握するためには、職員との間に信頼
関係を築く必要がある。しかしこのことは、係長として職員にいたずらに迎合し
たり、機嫌をとったりすることではない。係長は、あくまでも係のリーダーとし
て指導的立場にいることを忘れてはならない。
また、係長が職員を掌握するには、人間性や人格の面で職員から尊敬されるこ
と、職員の面倒をよくみること、また職員の意見によく耳を傾けることなどが求
められる。
さらに、①職員を政策形成過程に参加させる、②目標を設定して仕事を進める、
③自己啓発意欲を支援し、能力開発を促す態度や行動をとる、などが求められる。
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出張等で不在となるとき
上司が外部との折衝や出張などで不在になる場合がある。このようなときに、
通常業務をはじめ、突発的仕事が発生した場合でも混乱なく処理がなされなけれ
ばならない。上司が不在中に事務を滞りなく処理できるようにするのも、OJT
の重要な役割の一つである。
上司が不在中の事務処理方法を訓練するには、次の点に留意する。
①不在中に予想される仕事について、その処理方針、考え方、現在の進捗状況
等をあらかじめ十分に説明しておく。
②仕事の内容により、部下に任せてもよいと思えるものは、それにふさわしい
職員、知識能力を備えた職員に任せるようにする。また、仕事が高度で任せる
ことに多少不安があっても、職員の育成のために思い切って任せることも必要
である。
③不在中の仕事の処理をしたことについてその労をねぎらうとともに、処理が
不適切な場合には、OJTのよい機会であるので、十分な指導を行う。
④日ごろから、係長の仕事の現況、処理の仕方などを教えておくことにより、
上司が不在の場合にも代行できる知識・能力を育てておく。
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12
会議に代理出席させるとき
仕事を進めていく上で、会議はつきものといってもよい。会議は本来上司がメ
ンバーであることが多いが、事情により職員を代理出席させる場合もある。この
ようなとき、出席させる職員に対する指導もOJTの機会となる。
この場合には次の点に留意する。
①会議の性質、内容については事前に十分説明し、参考資料を調べさせるなど
必要な準備をさせる。
②組織や上司の方針を正しく認識させ、必要に応じて会議の席上で発言するよ
う促す。
③会議終了後に、会議の経過、結果及び出席者の発言内容等を報告させる。そ
の際、係長の感想を述べるとともに、状況の把握の仕方など職員のよかった点
を具体的に誉め、職員の労をねぎらう。また、さらに高度な仕事を代行できる
ように励ます。
④職員からの報告の方法については、場合により、資料又はメモなどの文書に
まとめさせることで、ポイントの把握の仕方、資料のまとめ方などを指導する。
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OJTのタイミング
これまで述べてきたように、仕事の中でOJTを実施する機会は、様々に存在
する。
それらは、「採用・昇進」のように仕事上での役割が大きく変化するときであ
り、日常の仕事の中での「打ち合わせ」や「相談」「命令と報告」のときである。
これらの機会のほかにも「新しい仕事をさせるとき」
「仕事がうまく進まず、いわ
ば壁にぶつかっているとき」
「自信過剰になっているとき」などである。もちろん
「問題行動を起こしたとき」も、OJTを実施する機会である。
その際注意することは、タイミングを外さずOJTを実施する、ということで
ある。次の機会に指摘しようと考えたとしても、最良の機会に再びめぐり合うと
は限らない。また、時間を空けて指摘した場合、指摘された行動の記憶が薄れ、
OJTの効果も薄れてしまう。さらに職員が「なぜ、すぐに指摘してくれないの
か」といった疑義を持つこともありえる。
OJTの実施にあたっては、適切なタイミングにおいて、タイムリーに行うこ
とが重要である。
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コーチングへの取り組み
人材育成手法の一つに「コーチング」がある。この育成手法の特徴は、「指示」
から「支持」への転換を図り、指示待ち人間から自発的思考・行動人間への変化
を期待するというものである。
管理・監督者であるコーチャーは、職員が目標やその達成に向けての道筋・方
法を自らが判断し進めることができるように、指示ではなく質問と対話による促
しや励ましを重ねることで個々人の気づき・発見を導くようサポート(支持)す
る方法をとる。
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組織においては、コーチングにより目標設定・達成・職員の自己実現・自律を
促進することを目的に職場での人材活用と将来への発展可能性を導くことを目指
すというものである。
このようにコーチングは、職員と組織が共にプラスを生み出すことを目指す経
営戦略的なマネジメントの一環であるともいえる。
(1) コーチングの対象者
コーチングの対象は、基本的にはいわゆる一般的な中間レベルの職員で、指示
した仕事を着実にこなし、自己啓発意欲も感じられるごく普通の職員である。ハ
イレベルの能力・意欲を有する職員には、コミュニケーションを通じて方向がぶ
れないよう導くことが重要である。一人(単独)にさせてはならない。
自己啓発意欲も見られないモラールの低い職員には、積極的に対話により原因
を探知して、指示・指導(ティーチング)することでレベルアップすることがま
ず必要となる。能力・意欲にもよるがコーチングはそれからでもよいと思われる。
(2) コーチングのポイント
コーチャーの心構えとして大切なことは、人を育てるという意味では今までと
同じであるが、人に対する見方は大きく転換する必要がある。
つまり、「人はやり方によって変わることができる」という意識をもつことで
ある。 できるかできないか 、 できたかできなかったか ではなく、 どんなこ
とができるのか 、 どんなことが職員も組織にもプラスになるのか をコーチャ
ーが考えることが必要である。
コーチングをする際のポイントは、①指示はがまんすること、②誘導して無理
に イエス と言わせないようにすること、③話し合った内容・結論をお互いに
確認すること、④ こうしなさい ではなく、必要な サゼッション はしなが
ら話し合い、職員が気づき・発見できるように導くこと、⑤職員が自ら考え判断
し、行動するように導くこと、である。
(3) コーチングの実践
管理・監督者(上司)が職員から信頼されるポイントは、
「ビジョンの確立」
「ハ
ートフルな熱意」
「言行一致」の3つといわれている。コーチャーは、この3つの
ポイントを認識し、職員のサポーター(支持者)となることから始めることにな
る。
①コーチングの導入
ア 日頃から職員育成のコミュニケーションを心がけること。
イ 緊急事態など急ぎの時は「指示・命令」を優先させること。
ウ 職員からの話はさえぎらずに最後まで聴くこと。
エ 「教える」よりも「気づかせる」ことに重点をおいた姿勢を持つこと。
オ 職員個人と組織の溝(目標など)を埋めるサポートも有効。
カ 自分の好き嫌いで職員への差別的な対応は厳に慎むこと。
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②コーチングの実践
ア 「否定」ではなく「受け入れる」ことから始めること(共感)。
イ 「良い」と思ったら気持ちを素直に伝えること。
ウ 「褒める」ことも忘れないこと。
エ 反論や否定はそのまま伝えずに「質問」で返すこと。
オ 「どうしたいの?」
「実現するにはどういう方法があるかな?」
「実現にはど
んな障害が考えられる?」など「ど」のつく質問で自発性を促すこと。
カ 話を聴く時は「話の中身を整理」しながら進めること。
キ 「配慮」は必要だが「遠慮」せずに気持ちを伝えること。
ク 年長の職員へは「敬意・相談・配慮」の3つを駆使すること。
あるべき姿と現状のギャップを埋める方策を考えさせ、実現可能な手段を自主
的に提示させること。そして、解決へ向けたタイムスケジュールや実施効果の想
定などを考えて一緒にゴールすることがコーチングの重要な点である。
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