アメリカ大 都 市 の迷 走 ジェイン・ジェイコブズは一 介 の主 婦 である、と言 われているらしいが、そんな訳 がない。権 力 を持 たざる 人 物 であることは間 違 いないが、彼 女 ほど行 動 力 があって、問 題 の根 本 を追 求 しその解 決 ための立 案 や 調 査 を惜 しまず、時 には狡 猾 ともいえる方 法 で突 き進 む人 物 はそういないだろう。一 般 人 であるところの彼 女 が時 の権 力 者 に勝 利 した要 因 は果 たしてどのようなものだったのだろうか。 1950 年 代 のニューヨークには、ロバート・モーゼスという、市 の都 市 計 画 の大 部 分 (橋 や交 通 網 、インフ ラなど)を手 がけ「マスター・ビルダー」とも称 された男 がいた。巧 みな政 略 と鋭 い専 門 知 識 によって、反 論 の隙 を与 えないほどの早 さで数 々のプロジェクトを実 現 していった。それは荒 廃 し手 のつけられなくなった都 市 をまっさらにし、整 然 としたより良 い生 活 を新 たに生 み出 すものと考 えられていた。一 方 で建 築 や都 市 を 専 門 とするジャーナリストであったジェイコブズは近 代 都 市 化 が急 激 に進 むニューヨークにあって、既 にその 鋭 い観 察 眼 から良 い都 市 には混 合 用 途 や雑 多 な界 隈 などの、一 見 無 秩 序 に見 える多 様 性 が必 要 である ことを感 じ取 っていた。都 市 には人 々の伝 統 的 な生 活 が織 り成 す豊 かさと再 生 能 力 があると。共 にニューヨ ークを良 くしようとする二 人 の登 場 人 物 は、既 に最 初 の段 階 で全 く異 なるベクトルを持 っていた。 二 人 の最 初 の衝 突 はワシントンスクエアパークであった。モーゼスはこの公 園 を半 分 に割 って中 央 に車 道 を通 し、大 通 りを延 伸 することによって、近 代 的 な道 路 網 と巨 大 住 宅 再 開 発 事 業 の組 み合 わせる構 想 をしていた。言 うまでもなくこの構 想 はジェイコブズが考 える多 様 性 を潰 してしまうものであったが、同 志 の 募 集 、計 画 の欠 点 の調 査 、嘆 願 書 の作 成 と配 布 、地 域 メディアの動 員 など、決 して派 手 ではなくそれで いて緻 密 な作 戦 の元 に粘 り強 く行 動 した。そして時 の州 務 長 官 をも動 かし、モーゼスは計 画 を凍 結 せざる を得 なくなった。 彼 女 の功 績 は、モーゼスの構 想 した自 動 車 による単 調 な都 市 化 を阻 止 したこともさることながら、一 般 市 民 の団 結 がトップダウン式 の決 定 に屈 しないという構 図 を実 現 したことにあるといえる。「ダウンタウンは 人 びとのものである」という彼 女 のスローガンが、上 からの政 策 に対 する住 民 のしこりを顕 在 化 させた結 果 と いえるだろう。その既 存 の常 識 に囚 われない観 察 眼 と権 力 に立 ち向 かう精 神 力 には感 服 するほかない。こ の経 験 がきっかけとなり、ジェイコブズは「アメリカ大 都 市 の死 と生 」を執 筆 することになる。新 たに近 代 的 な 整 備 をし直 すだけでは得 られない、都 市 の多 様 性 の必 要 を知 らしめた1冊 として世 界 的 に有 名 となった。 その後 も 2 大 プロジェクトについてジェイコブズがモーゼスを退 ける様 子 が描 かれている。本 書 はタイトル のような勧 善 懲 悪 の物 語 に仕 上 がっている感 はあるが、現 在 では訳 者 あとがきにもあるように長 期 的 視 点 に立 った社 会 インフラの必 要 性 からモーゼスの働 きを再 評 価 する動 きもあるという。モーゼスが現 在 のニュ ーヨークの骨 格 を築 き生 活 の基 盤 を引 き上 げたことは事 実 であり、ジェイコブズ的 な手 法 だけでは都 市 イ ンフラそのものの寿 命 に対 応 できないことも予 想 されるのである。この新 たな整 備 や開 発 を求 めざるを得 な いことがアメリカという国 家 の限 界 を示 しているようにも思 える。しかし、もしも第 2 のモーゼスとジェイコブズ が奇 しくも同 時 に出 現 することがあるとすれば、今 度 は手 を取 り合 って開 発 だけでも保 全 だけでもない新 た なパラダイムで世 界 を率 いる日 が来 るのかもしれない。
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