平成4年横審第32号 プレジャーボートマリンジェット1爆発事件 言渡年月

平成4年横審第32号
プレジャーボートマリンジェット1爆発事件
言渡年月日
平成4年12月15日
審
判
庁 横浜地方海難審判庁(根岸秀幸、釜谷奨一、金城隆支)
理
事
官 弓田邦雄
損
害
機関室を焼損。船長と同乗者1名は夫々右大腿骨々折と右腕肘骨折などの重傷
原
因
燃料油系の点検整備不十分
主
文
本件爆発は、燃料油管系の点検整備が不十分であったことに因って発生したものである。
受審人Aを戒告する。
理
由
(事実)
船種船名
長
プレジャーボートマリンジェット1
さ 2.39メートル
機関の種類
出
受
職
電気点火機関
力 23キロワット
審
人 A
名 船長
海技免状
四級小型船舶操縦士免状
事件発生の年月日時刻及び場所
平成3年6月8日午後4時ごろ
静岡県浜名湖
マリンジェット1(以下「本艇」という。)は、昭和62年4月B社が229番艇として製造したO
EUO型でMJ-500Tと呼称するFRP製2人乗りの水上オートバイで、全長2.77メートル幅
0.90メートル深さ0.27メートル及び全高0.87メートルの艇体前部に機関室を設け、中央部
には同室ハッチ後面に取り付けた操縦ハンドルがあり、その左側グリップに主機始動、停止両スイッチ
が、同右側グリップにスロットルレバーがそれぞれ付設されていて、同ハンドルの動きはケーブルによ
って艇体下方後部のステアリングノズルに伝えられ、同ノズルを左右に動かすことによって進行方向を
変えるようになっており、操縦ハンドルの後方には長さ0.6メートルばかりの騎乗式座席があって、
2人が前後して座れるようになっていた。
主機は、同社が製造した6K8型と称する定格回転数毎分5,500の2サイクルニシリンダ・電気
点火機関で、燃料油として無鉛ガソリンにB純正船外機潤滑油を50対1の割合で混合したガソリンを
使用するようになっていて、12ボルトの蓄電池を電源としたスタータモータにより始動するようにな
っていた。
主機の燃料油タンクは、容量23リットルのポリエチレン製容器で、機関室のほぼ中央底部に取り付
けられ、ガソリンを船首右舷甲板上の給油口から、L字型をしたゴム製の補給ホースを経由して給油す
るようになっており、給油口及び同タンク取入口に接続された補給ホースの両端はステンレス製のホー
スバンドで締め付けられていて、機関室ハッチを開放すればホースバンドの締め付け状況などは容易に
点検整備できるようになっていた。
ところで燃料油タンク後方の機関室右舷側壁にはCDIと称する制御回路ユニット、スタータリレー、
イグニションコイルなどを組み込んだ電装ボックスが、3本のボルトで取り付けられていたが、運転を
重ねるうちいつしか同ボルト2本が緩んで脱落し、運転中に同ボックスが動き回り、電装ボックスに接
続されたキャプタイヤコードが無理な力を受けたことから、同コードの被覆がずれるなどして損傷し、
キャプタイヤコード内に納められた主機始動回路のアース線が断線し、同部で接触不良を起こす状況と
なっていた。
受審人Aは、平成2年10月知人が本艇を船舶検査証書上の現船主Cから中古艇として購入したとき、
海技免状のない知人に代わって30分ばかり試乗し、静岡県湖西市利木町松見ケ浦に回航してレストラ
ンの地下倉庫に保管し、翌3年5月から土、日曜日などに乗艇して機関の運転管理にも従事していたも
ので、本艇を使用する前の点検として、機関室ハッチを開放して同室内の換気を行っていたが、燃料油
補給ホースのホースバンドの締め付け状況を、触手などして十分に点検していなかったので、燃料油タ
ンク取入口のホースバンドが緩み、運転中の振動や動揺などの影響を受けて同部からガソリンが漏れる
おそれがあることに気付かないまま、友人と浜名湖での遊走を楽しんでいた。
同年6月8日午後3時ごろ友人4人を誘ったA受審人は、本艇が保管されているレストランの倉庫内
で、機関室ハッチを開放して同室内の換気を行うとともにバッテリー端子を接続し、燃料油を10リッ
トルばかり補給して満タンとしたのち浜名湖に浮かべ、友人2人を順次同乗させ、1回5分程度の遊走
を行って小休憩し、3回目の遊走を行うこととし、友人D八千代を前の座席に乗せ、主機の始動スイッ
チを押したが回転しなかったので、30秒ほどして再度始動したが依然として回転せず、同じ操作を数
回繰り返すうち、主機始動回路のアース線断線箇所の接触不良部で発生した電気火花が、燃料油タンク
取入口の補給ホース接続部から漏れていたガソリンの気化ガスに引火し、同日午後4時ごろ静岡県浜名
湖洲ノ鼻突端から真方位296度900メートルばかりの地点において、大音響を発して機関室が爆発
した。
当時、天候は晴で風力3の南南東風が吹いていた。
爆発の結果、本艇は、機関室ハッチなど艇体の各部が破損したうえ機関室を焼損し、のち廃艇とされ、
A受審人及びD同乗者の両人は吹き飛ばされて湖面に落下し、A受審人は右大腿骨骨折など全治3箇月
の及びD同乗者は右腕肘骨折など全治10箇月の重傷をそれぞれ負った。
(原因)
本件爆発は、水上オートバイを運転するにあたり、燃料油管系の点検整備が不十分で、燃料油タンク
取入口の補給ホース接続部から漏れたガソリンの気化ガスに、主機始動回路のアース線断線箇所で発生
した電気火花が引火したことに因って発生したものである。
(受審人の所為)
受審人Aが、水上オートバイを運転する場合、艇体の振動及び動揺などで燃料油が漏れることのない
よう、同油タンク取入口に接続された補給ホースのホースバンドの締め付け状態を、触手などして十分
に点検整備すべき注意義務があったのに、これを怠り、ホースバンドの締め付け状態を十分に点検整備
しなかったことは職務上の過失である。A受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定に
より、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。