財団法人ダム水源地環境整備センター

■ 提言
(独)農業工学研究所 水文水資源研究室長 増本 隆夫
■ 座談会 ダムの洪水調節と課題
■ 事例紹介 異常洪水対応
大野ダム/野村ダム/宮崎県 祝子ダム・岩瀬ダム
■ 行政の動き 平成 17 年渇水・洪水速報
■ 高柴ダム・四時ダムの統合管理
■ 発電容量の大きいダムを訪ねて 手取川ダム・九頭竜ダム
財団法人 ダム水源地環境整備センター
リザバー 2005.12
2
目
次
2005.12
提言
ダムの弾力的管理・運用に求められるもの ……………………………………………………… 1
独立行政法人 農業工学研究所
水文水資源研究室 室長
増本 隆夫
特別企画/座談会
ダムの洪水調節と課題 …………………………………………………………………………………………… 3
―リザバー専門員―
司 会
出席者
今村
水野
小笠原
中島
西村
富田
瑞穂
秀行
智宏
彬
洋人
政雄
お知らせ
リザバー専門員について
……………………………………………………………………………………… 7
貯水池管理情報
平成17 年洪水調節………………………………………………………………………………………………… 7
事例紹介
平成16 年度 ダム・堰危機管理業務顕彰 優秀賞 …………………………………………………………………… 8
1.平成16 年台風23 号における大野ダムの洪水調節
―バス水没時の人命救出にも一役―
京都府 大野ダム管理事務所長
2.台風14 号における野村ダムの事前放流の対応
粕谷 淳一
…………………………………………………… 10
国土交通省四国地方整備局 野村ダム管理所長
則
勢
平成17 年異常洪水対応事例 ………………………………………………………………………………………… 12
3.台風14 号における過去最多のただし書き操作ダム
―宮崎県―
宮崎県 土木部河川課ダム管理担当 主査
小野 一彦
行政の動き
平成17 年 渇水・洪水速報 …………………………………………………………………………………………… 15
平成17 年 早明浦ダムの渇水対応
国土交通省四国地方整備局 河川部河川管理課
平成17 年 ダムの洪水調節実績(速報)
国土交通省河川局河川環境課 流水管理室
こちらダム管理所
高柴ダム・四時ダムの統合管理 …………………………………………………………………………… 17
福島県 鮫川水系ダム管理事務所長
斉藤 敏美
管理所訪問
発電容量の大きい多目的ダムを訪ねて
―手取川ダム・九頭竜ダム―
………………………………………………………………… 19
取材・文
神澤 志摩
編集後記 ………………… 22
執筆要領 ………………… 22
提言
ダムの弾力的管理・運用に
求められるもの
独立行政法人 農業工学研究所
水文水資源研究室 室長
1. 渇水は忘れた頃にやってくる
増本 隆夫
の供給があり、問題にならなかった。
21 世紀の水問題は、総合科学技術会議が指摘するよ
しかし、地球温暖化に伴って水蒸気の対流性が増し降
うに、都市と農村との共生と地球規模の視点からの検討
水がより集中的になり、その結果、強雨が増える一方で
が必要である。しかし、流域圏全体として対応が求めら
弱い降水は減り、干ばつの頻度も高まって両極端の気象
れている中で、これまでの主要な検討は、都市の再生の
状態が現れやすくなると指摘されている。そこで渇水に
ために何を行えば良いかという視点を主として検討され、
対する備えを怠っていると、大変なしっぺ返しを受ける
農業・農村の果たす主体的あるいは受動的な役割につい
ことになりかねない。
ての検討は決して多くはない。また、広域規模の視点と
して近年頻繁に取り上げられる「地球温暖化」の影響予
2. 異常渇水時の対応
測に関しては科学的な側面のみが強調され、灌漑や水管
渇水が発生すると、主要な河川流域では渇水対策協議
理といった人間活動に関わる視点からの検討、すなわち
会が開催され、農業用水、工業用水、水道用水のそれぞ
水循環変動と人間活動の間の相互影響評価がなされてい
れの節水率が決められ、それらの中の節水率は各用水と
ない状況である。
も一律の値を課す場合や、水道用水を優先して農業用水
その中で、灌漑や農業用水管理と渇水ならびに洪水は
の節水率を高めに設定するなどしている。そのような渇
相互に関連し、しかもそれらは人間活動に最も影響を与
水が話題となる状況では、何度も人工降雨装置の話題が
えている。特に、ダムの管理はさらに人の手を通して行
取り上げられ、マスコミも大いに騒ぎ立て首都圏の水瓶
われる点やその結果として出てくる流域住民への影響を
であるダムの貯水状況を毎日のように報道したりする。
考えると、まさしくここで論点としたい人間活動に最も
平成13 年の大渇水時には、決して正しくない論点であ
関連した活動であるといえる。
るが、ある雑誌に“渇水は「ダム官僚」が引き起こし
過去の渇水を例に見ると、程度の差はあるが、災害は
忘れたころにやってくるとの話のとおり、毎年発生する
ものでもない。1 都5 県の水瓶を擁する利根川流域にお
た「人災」だ”などとセンセーショナルな記事が出たり
した。
一方、大渇水に見舞われると、大学や政府系試験研究
いて過去35 年程度で取水制限を行ったのは、昭和47、
機関にも要請が来て、研究サイドとしての異常渇水調査
48、53、54、55、57、62 の各年、平成に入ると2、6、
や渇水対策についての検討が始まる。われわれの機関で
8、9、13 年となっている。ここしばらくは取水制限を行
も、平成6 年や8 年の渇水に対するソフト的な対応はな
うほどの渇水に見舞われていないことが分かる。
いかとの要請に答えるために、ファジィ化ニューロ法を
その中でも、平成6 年には日本全国で大渇水の様相を
使った渇水流量の予測法の検討などを行ったが、施策や
呈し、渇水に対する備えや対策技術に対する検討が行わ
社会のニーズに対応したフォローは必ずしも十分にはなっ
れた。一方、平成13 年の利根川流域あるいは今年(平
ていない。
成17 年)の早明浦ダムでの貯水率は、平成6 年の被害に
また、今年は、早明浦ダムの貯水率が下がり、四国で
匹敵する状況になると心配されたが、実際には十分な雨
重大な渇水が発生するであろうとの予測の下、小泉首相
リザバー 2005.12
1
提言
自らが総合科学技術会議に大学から出向中の担当官から
平成18 年からは大幅に改良された予測システム(4 次元
渇水対策技術について話を聞き、さらには各省庁に各部
変分法など)の導入により、高頻度、長時間、高密度の
局で持っている対策案についての情報収集に対する指示
情報提供が可能となり、将来的には局地的被害が発生す
があった。しかし、一時期、貯水率0%という危機的状
る集中豪雨の予測も可能になるという。
況に近づいた貯水池は、台風14 号の襲来により貯水率
ダムにおける流入量予測の向上とともに、ダムの実時
が一気に回復したことは記憶に新しいが、その後は渇水
間操作についても、人間工学的な技術発展がなされた今
に対する関心や新たな対応に関する論議が希薄化してい
の時代にあっては、制限水位を時代とともに変更するな
る感がある。
ど、一層弾力的に運用してもいい時代にきているのでは
ないか。さらに運用曲線を前述のように変更する方式の
3. ダムの弾力的管理
(1)弾力的運用の試み
国土交通省が平成9 年から開始しているダムの弾力的
管理は、平成13 年には全国16 カ所、同14 年には全国20
検討を行い、農業だけでなく、水道や工業用水なども含
めた利水者の利益がどの程度のものなのか、の評価が行
われることを期待したい。
上記のようなダムの弾力的な運用は渇水には好都合で
カ所で試行され、今後の展開が期待できる。そこでは、
も、洪水に対する対策は万全かとの疑問に対しては、そ
夏期に通常では制限水位まで下げる管理水位を高めに設
れらを一体としてとらえることがますます重要となって
定し、渇水対応や河川環境改善を行おうとしている。
くる。雨水を集めて流す方式にダム貯水池を利用して洪
(2)運用曲線の変更
農業用水の必要時期は、地域によって違いがあるが、
水安全度を高めているこれまでの洪水管理の方式から、
さらに総合的な流域管理、すなわち洪水対策の一環とし
5 ∼9 月というまさに制限水位としてダムの水位を下げる
て、場合によっては低平水田地帯が持つ洪水緩和機能や
時期に重なっている。同様に、水道用水にしても夏期の
遊水地機能を活用するなど、新しい流れもあるのかもし
気温の上昇により需要量も増大する。しかし、制限水位
れない。
を設けた運用を行っているダムについては、運用曲線は
その中では、流域を上流域と下流域に分けた場合の上
建設当時に決められたものであり、これまで連続した渇
流域の洪水の処理に対する安全度が低下し下流側に影響
水や大きな取水制限を行ったとしても、それらの変更は
を及ぼす場合は、下流側の安全を高める方式として、水
行われてこなかった。
田の洪水防止機能を活用する、あるいは超過洪水に対し
上述の弾力的管理にしても、運用曲線の変更までには
ては積極的に水田を遊水地として活用する等の総合対策
至っていない。さらに、試行的な管理に関しても、7 月
についても近い将来検討対象の1 つに挙げられることに
の洪水期に一気に制限水位を下げている中で、段階的に
なるかもしれない。
(例えば1 カ月程度)制限水位まで水位を下げる方式では
さらに、さまざまな水循環変動に対応した水資源施
水利用確保にどの程度効果的か、あるいは制限曲線の水
設群の高度一括管理手法の開発が求められる今日、農業
位を従来のものから一律高めに設定する場合、どの程度
用水の利水安全度を向上させることも望みながら、当面
の上昇が許容できるか等のさらなる検討が必要であろう。
はダムの弾力的管理をとりあえず行って、将来的には運
用曲線の変更など、管理の基礎となっている規則もさ
4. 洪水予測精度の向上がもたらすもの
らに水管理にとって効果的なものに変えていくことが望
降雨予測、正確な流入量予測も可能な時代、気象庁で
まれる。
は、気象レーダーや大気予測モデルを活用することで、
2
これらのことに対応していくことが、人間活動に関
降水ナウキャスト情報を提供したり、平成17 年からは降
わる諸問題を解決して健全な流域圏を達成するために技
水域の移動状況をもとに、全国内を1km メッシュで10
術や研究サイドに求められている一番のものであると考
分ごと、1 時間先までの予測結果を提供したり、さらに、
える。
リザバー 2005.12
ダムの洪水調節と課題 ――リザバー専門員――
リザバー誌を支援等をいただくために「リザバー専門員」を創設し、
平成 17 年 9 月にまず、12 名の方々に委嘱しました。今回の座談会は、
リザバー専門員のうち 6 名の方にダムの洪水調節についての経験を踏
司 会 今村 瑞穂
まえて、現状と今後の課題について語っていただきました。
出席者 水野 秀行 (−リザバー専門員−、本誌 7 ページ参照)
中島 彬
小笠原智宏 西村 洋人
富田 政雄
――今村(座長)本日の座談会の司会を務めさせていただ
きます今村です。この座談会は、リザバー専門員のうち5
困惑しました。
一方、下流側では内水氾濫が発生して、下流の自治体の
名の方に、昨年、今年と相次いだ大
首長からダムの放流量を小さくできないかと再三要請があ
洪水をふまえて、ダムの洪水調節の
りましたが、サーチャージ水位を超える洪水でしたから、
現状と課題などについて話し合って
これには対応できませんでした。
さらに、私も驚きましたが、停電が断続的に発生し、無
いただく事としました。
ダム管理においては、正確な流入
停電電源装置が、短時間に充電と放電を繰り返し劣化し
量の把握、洪水調節開始時期、ただ
て、出力電圧が低下し、ダムコンがダウンしました。この
し書き操作に入るかどうかの判断、
洪水後水位降下方法の問題など管理
今村 瑞穂 氏
所長の悩みは多いわけです。今日は、洪水の始めから終わ
時、すべての電源を予備発電から供給するという機電係長
の好判断で何とか対応することが出来ました。
下流の自治体からは、
「ただし書き操作とは何ですか」
りまで、それぞれの体験をふまえて、どのように対応して
という問い合わせと、
「ダムを守るために下流の安全流量
きたか、今後どうするべきか、反省点等も含めて、それぞ
を上回る放流をした」と言い出す方もおりました。ただし
れの立場から課題を披露していただきたいと思います。
書き操作は一般の方々にはわかりづらい表現ですから、常
水野 私は、
「リザバー」では北海道を担当することにな
日頃から説明しておく必要があります。
っています水野です。
小笠原
ダム管理の経験は、豊平峡ダムと
定山渓ダムの統合管理と沙流川の二
風谷ダムです。
二風谷ダムは、平成15 年台風10
号の大雨で、ただし書き操作に至っ
水野 秀行 氏
私は、関東地区担当の小笠原です。
私のダム管理の経験は、利根川ダム統合管理事務所、鬼
怒川ダム統合管理事務所が主なものです。
若干、古くなりますが、昭和 56
年8 月の台風15 号での体験を紹介し
ます。
た洪水調節を経験しました。その内
これは、利根川上流の各ダムの洪
容は「リザバー」創刊号にも紹介さ
水調節でピークを過ぎ、統管の注意
れています。
体制が準備体制へと移ったあと、下
ただし書き操作は、水位の変化に応じてクレストゲート
流支川、小貝川の高須地点で破堤
の開度が決められていますが、立ち上がりのシャープな洪
し、約3,000 戸が浸水するという事
水であったため操作の間隔が短くなり、操作員が非常に緊
態に対応したものです。本局の洪水対策本部長から被害軽
張を強いられました。また、貯水位が大きく変動し、ただ
減のために、各ダムの状況に十分配慮の上、緊急措置とし
し書き操作において正確な貯水位がなかなか把握できず、
て、洪水に達しない流水の調節の指示があり、各ダムとも
小笠原 智宏 氏
リザバー 2005.12
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できる限りダムの貯留を行っていました。このようなダム
さく、ゲートからの放流が頻繁になり、洪水後の水位降下
の緊急時のダム操作記録、操作までの検討内容、当時の水
時も延々とゲート放流が続き、少ない職員で体制を維持す
資源開発公団・電気事業者等の各機関との調整等の細部記
るのが大変でした。現在、小規模放流管を70m 3/s ぐらい
録をまとめて印刷したのですが、次の年も同じようなこと
に増設工事中で随分楽になるのではと期待しています。
があり、このような記録を引き継いでおくことが大切だ
と感じました。
は、おおむね良い評価ですが、ダムが出来たらもう下流に
中島 北陸地区担当の中島です。
は洪水が来ないという感覚を地元の人は持っておられて、
ダム管理の経験は、大町ダムです
内水の被害でもダムの放流が悪いという方もいます。我々
が、建設時代にもそこにおりました。
としては心外ですが、PR 不足も反省しなければならない
私のいた4 年間には、北陸特有の
でしょうね。
融雪、梅雨前線と台風出水が4 回ほ
富田 水資源機構を担当する富田です。ダム管理は、一庫
どありました。例えば、融雪や梅雨
ダムと草木ダムを経験しました。
前線のダラダラした長い中小洪水
で、ゲート操作する担当者は、10
中島 彬 氏
草木ダムは、ゲートからの放流頻
度の多いダムで、夏場を中心に年間
分ごとに流入量の確認と、ゲート開度を決めてのゲートを
50 ∼60 日ゲート放流があり、職員
操作するといった作業の繰り返しが続き非常に苦痛だと思
がずっと詰めっ放しの状況が続きま
いました。実際に職員の健康管理が問題になったこともあ
す。
また、
上流に足尾銅山の裸地の山
りました。4 年間を振り返ると、ゲート操作が伴う出水時
があり、洪水の到達が非常に速いこ
には管理所の職員が不足していると思います。
とや、赤城山から抜ける雷雨の道が
また、下流の巡視では河川敷の植生繁茂で人の立ち入り
富田 政雄 氏
あり、雷雨による洪水というケース
がわからないとか、河川の近傍に人家が多くなり警報への
があります。気象予測が進んでいてもダム流域の降雨予測
苦情が多くなっていることもあります。
は依然難しいですね。特に、下流の安全確認の巡視区間が
次にゲート操作の問題で、ダムコンを更新する場合は、
20 ㎞と長く、操作が遅れないようにするのが大変でした。
運用の結果を反映させながら適宜修正していくことが必要
河川が渓谷状で車が近づきにくく、足場が悪いのですが、
だと思います。また、日頃から大洪水に対するシミュレー
夏場は下流河川に釣り人や川遊びの利用者が多くて、河川
ションをして心の準備をしておく事も必要です。
の外への退去をしていただくのに予定以上に巡視時間を要
西村 中国地区を担当します西村です。
しました。
ダム管理の経験は、江の川の土師
今後の洪水の管理のあり方としては、立ち上がりの速い
ダムです。平成11 年6 月にダム完成
洪水に操作の遅れが生じないようにするためには、下流の
後最大の洪水に見舞われましたが、
巡視をいかに早くするか、また、巡視が終了しなくても、
弾力的管理でピーク放流後の一定量
早めにわずか水位を上げることができないか。
放流を530m /s から300m /s に下げ
――今村 ありがとうございました。
3
3
て放流し、下流の被害軽減に寄与し
一通りお話を伺いまして、5 人の方の共通的課題を整理
ました。これはレーダー等を見なが
してみますと、①まず、初動体制の問題で、市町村等への
ら、これ以上大雨は降らないという
西村 洋人 氏
状況がつかめたので、可能となったものです。
連絡調整や警報時の河川利用者への対策の問題、②洪水操
作中の問題では、正確な貯水位把握、長時間操作時におけ
警報の話では、下流域からの苦情が多く、夜中にならな
る職員の健康管理などの問題、③ただし書き操作の問題で
いように早めに鳴らすとか、早めにゲート操作するという
は、より高い効果を目指したただし書き操作、ただし書き
ような工夫をできる範囲でやってきました。
操作に入るための予測や判断、関係機関や下流住民への周
特に土師ダムは、利水放流管の能力が10m 3/s 程度と小
4
それから、ダムの洪水調節に対する下流住民の反応等
リザバー 2005.12
知の仕方などの問題、④ダムの効果やダムの操作について
の住民とのコミュニケーション、マスコミ等への対応方法
必要があると思います。
など様々な話題が出ましたが、このうちいくつかに絞って
――今村 次に2 番目の洪水操作中の経験や課題などにつ
議論していきたいと思います。
いてお話しください。
まず、初動体制における課題と対策について皆さんのお
富田 完成直後の一庫ダムの経験ですが、操作ルール通り
考えをお聞かせください。
にやっていたのですが、洪水調節を始める頃には、下流で
水野 洪水初期の体制ですが、北海道は融雪洪水が毎年長
床下浸水しており、
「洪水調節とは何だ」といった苦情が
期間に亘ります。輪番制にしても10 日ぐらい連続して管
出ました。その後、一庫ダムでは下流の改修状況に合わせ
理所に詰めることになります。こういう場合の放流警戒体
た洪水調節ルールに変更したわけです。
制は別に考える必要があると思います。
草木ダムの場合は、ゲート操作が頻繁になるので、職員
今村 自動化も大分進んでいますし、遠隔監視が可能かど
が対応に慣れていてスムーズにいっていたと私は思います。
うか検証してみる必要があるでしょうね。
経験がないと不安ですね。
小笠原
警報に関して、平成11 年8 月の玄倉川の水難事故
今村 ダムはできたけど下流の改修が進んでいないという
があった出水で、鬼怒川の川俣ダムで下流のキャンプ場の
ケースがありますね。暫定操作的なものを、その都度、所
水難事故を回避したことがあります。これは、ベテランの
長さんの判断の範疇でやるということになれば、所長さん
巡視員が、普段気のつかないキャンプ場で、酒を飲んでい
にとっては責任が重いと思いますね。
るキャンパーを見つけ、地元の警察と連携して何とか対応
水野 二風谷ダムの経験で、局地的な大雨で立ち上がりの
した事例があります。河川利用者には自己防衛、自己責任
非常にシャープな流入の場合、貯水位の把握が問題でし
の認識を持ってもらうよう、記者クラブに記事を提供して
た。これについては先輩が開発した平滑化計算でなだらか
翌日の地元紙で取り上げられましたが、日頃のPR も大切
な変化の水位が得られたのですが、シャープな流入に対し
ですね。一方、巡視する側も河川の状況を日頃から熟知し
ても適切な水位、流入量が把握できるよう日常から訓練し
ておく必要があると思います。
ておく必要があると思います。
中島 警戒体制の初期に洪水に至らない段階での貯水位の
――今村 いろいろな幅広い話題が出てきました。
維持がありますが、ダムコンによる自動操作を試みたので
次に、ただし書き操作に向けた課題について御意見をお
すが、結果的にうまくいかずに手動で対処しました。洪水
願いします。
に至らない長期の水位維持は、職員の負担が大きいで
水野 「ただし書き操作とは何だ」ということを、ダムの
すね。
操作規則をつくる時点で、よく関係者に説明しておくべき
警報の話で、サイレン等に苦情が多いのですが、新しい
技術で対応するよう検討する必要があると思います。
ダム管理所長は、流入量などダムの上流を見て管理せざ
だと思います。
一般の方々は、ダムは洪水流入量を全部貯留して下流に
は流さないなどと、ダムの操作を誤解しているところがあ
るを得ないのですが、ダムは下流の洪水を軽減するための
るような気がします。ただし書き操作はもちろんですが、
ものですから、下流を見た管理も必要だと思います。その
通常の洪水調節などダムの機能について一般住民の方々に
ためには操作規則等の改訂も必要ですが、ダム管理所の体
理解していただくように努力すべきだと思います。
制についても考える必要があると思います。
小笠原 異常洪水時のただし書き操作への移行等について
西村 土師ダムの経験で言いますと、職員の人数が限られ
は、今村座長の方式の提唱もありますが、現場で簡単に適
ている中で、全体を見て操作をしなければならないという
用できるように操作ルールを作っていく必要があると思い
ことはわかっているのですが、流入量がどうなって、水位
ます。
をどう維持するか、それだけで精一杯というのが現実で
すね。
これからも人数が少なくなるでしょうが、下流の事務所
の応援を仰ぐとか、ダム管理技士を活用するとか議論する
もう一つは、河川ではハザードマップを提供しています
が、ダムの下流河川でも異常洪水のダムで放流をしたとき
にどうなるのかを確認して、出来ればこれも事前に説明し
ておいてはどうかと思います。
リザバー 2005.12
5
――今村 去年と今年の洪水について、住民から「ただし
れませんね。今、全国的にそういうダムは多いと思うので
書き操作に入ったけど水位が満杯まで上がらなかった。た
すが、ダムが完成するまでに地元の方々にダムの役割をよ
だし書き操作が早過ぎたのではないか」というような意見
く周知しておくことが大事だと思います。
があるようです。ただし書き操作に入ったとしてもある程
――今村 いろいろな角度からたくさんの貴重な意見をい
度の洪水調節効果を期待するということですが、降雨予測
ただきましたが、最後に管理所長の経験者として全般的な
や貯水池の余裕の問題もあり、ルール作りをしない限り管
ことで、特に注文等ありましたら発言してください。
理所長の責任が重くなるばかりですね。
水野 最近の出水を見ていると、非洪水期の洪水が多いで
次は住民とのコミュニケーションの問題で、すでに話が
すね。融雪期も多いのですが、北海道では非洪水期に洪水
出ていますが、追加することがありましたら発言してくだ
調節容量を持っていないダムも多いので、ただし書き操作
さい。
をしているダムもあり、管理所は大変です。今後、洪水の
富田 ダムによっては警報を伝達する関係組織等でつくる
発生状況を分析して、同じ流域の既存のダムと連携を図り
放流連絡協議会を毎年開いて、ダムの勉強をしており、か
ながら、計画を見直すことも必要かと思います。
なり浸透してきているとは思いますが、河川の周辺の一般
今村 ただし書き操作が恒常化すれば、ただし書き操作で
へのPR が今後の課題ですね。
はなくなりますので、計画論的に見直す議論が必要なのか
西村 土師ダムの場合は、完成後30 数年になり、下流の
もしれないですね。
人々には相当、理解はしていただいていると思いますが、
小笠原 ダムの管理水準を向上させていくためには、操作
「洪水時のダムの放流は貯めた水も一緒に出すのだ」とい
しやすいダムへのルールの改訂やその操作に合わせたゲー
うような誤った認識はなかなか払拭できていないですね。
トの改造なども進める必要があると思います。
今村 具体的にどうしたらよろしいのでしょうか。開かれ
中島 洪水調節が主目的のダムは夏期に水位を下げていま
た住民参加の行政、メディアの時代ですから、いろいろ試
すが、最近の異常気象や予測技術を考慮して、既設ダムの
みをしてみる必要がありますね。
容量の再配分や操作ルールの見直しを資源の有効活用とし
西村 ひとつの例ですが、警報を鳴らさずダムから放流し
て検討していく必要があると思います。
たと報道されました。規則では放流で急激に下流の水位が
西村 私も既設ダムの有効活用として、ダム管理の体制の
上昇し、危険を及ぼす場合にサイレンを鳴らすことになっ
充実と適切な管理運用は、今後検討すべき課題だと思い
ていますが、下流もすでに大きな出水となっており、規則
ます。
にてらして警報しなかったと聞いています。ダムが放流す
――今村 今後、新しいダムの建設は難しくなってきてお
る時は必ずサイレンを鳴らすものだと認識されているよう
り、既設ダムの適切な管理への社会的要請はますます強ま
です。地域住民はもとより、メディアの方も含め、施設の
ってくるものと考えます。莫大な資金と水没者の犠牲によ
目的や役割について正しい理解をしていただくような努力
り建設されたダムは効果的に操作・運用され、これが正し
がまだまだ不足している気がします。
く社会に理解される必要があります。そのためにはまず説
中島 大町ダムは大きな出水がないのですが、ダム建設後
明する側が正しくダムの機能を理解し、これを一般の人々
20 年を経て、下流の人は「洪水が減ったよ」と言うので
と共有していくという姿勢が必要です。本日頂いた体験に
す。
「それは大雨が少ないのだよ」と言うのですが、やっ
基づく貴重なご意見を読者の皆様と共有しながら効果的か
ぱり理解されてないですね。
つ理解されるダム操作を目指していってほしいと思います。
その後、
「ダムの風だより」というチラシを四半期に1
回、洪水調節と降雨とか大町ダムの機能などを書いたチラ
シを新聞折り込みにして、今も継続しています。
水野 二風谷ダムは、建設当初からその必要性について疑
義を持たれ裁判にまでなったのですが、そういうダムは、
大きな洪水の時に、メディアを含めて良い方向に向いてく
6
リザバー 2005.12
今村 瑞穂
水野 秀行
小笠原智宏
中島 彬
西村 洋人
富田 政雄
元 建設省河川局開発課 開発調整官
元 北海道開発局 豊平川ダム統合管理事務所長
元 関東地方建設局 鬼怒川ダム統合管理事務所長
元 北陸地方整備局 大町ダム管理所長
元 中国地方整備局 土師ダム管理所長
元 水資源開発公団 草木ダム管理所長
リザバー専門員について
当センターでは、平成17年10月にリザバー誌への情報提供をいただくため「リザバー専門員」を委嘱することとしました。専門員
の方々から、
ダム管理に関する情報等を「リザバー」誌に提供していただくこととしております。今回委嘱したリザバー専門員は、
ダ
ム管理に精通したダム管理所長等の経験者で下記に掲げる13名です。なお、今後も順次、
リザバー専門員の追加委嘱をする予
定です。
〔リザバー専門員〕
荒川 詔(元九州地方建設局 山国川ダム・堰統合管理事務所長)、今村瑞穂(元河川局開発課 開発調整官)、
裏戸 勉(元河川局開発課 水資源対策室長)、栄木正治(元近畿地方建設局 紀伊丹生川ダム調査事務所長)、
小笠原智宏(元関東地方建設局 鬼怒川ダム統合管理事務所長)、佐藤久則(元中部地方整備局 矢作ダム管理所長)、
田村嘉範(元四国地方建設局 吉野川ダム統合管理事務所長)、富田政雄(元水資源開発公団 草木ダム管理所長)、
中島 彬(元北陸地方整備局 大町ダム管理所長)、西村洋人(元中国地方整備局 土師ダム管理所長)、
水野秀行(元北海道開発局 豊平川ダム統合管理事務所長)、水摩嘉孝(元山口県土木建築部 次長)、
八巻基次(元東北地方整備局 浅瀬石川ダム管理所長)
(※五十音順、敬称略)
平 成17年 洪 水 調 節
50
※( )
は平成16年の数字
●平成17年は、3個(10個)の台風が上陸
●洪水調節ダム471(463)ダムで、延べ527回(933回)の洪水調節
〈台風上陸経路〉
(回数別)
10∼14回
5∼ 9回
2∼ 4回
(地方別)
北陸地方 165回
東北地方 91回
九州地方 62回
3ダム
23ダム
86ダム
●ただし書き操作実施は延べ13回(25回)
九州地方 7回
四国地方 4回
中国地方 2回 ※すべて台風14号による出水
台風11号
(回)120
114
100
台風14号
80
台風7号
60
凡例:
43
上陸した台風
40
上記以外の台風、豪雨等
24
1921
20
20
16
18
16
13
0
10 1
1
風
11
号
台
風
14
号
9
台
雨
豪
線
前
低
気
低 圧
気
圧
風7
号
線
前
豪
豪
雨
雨
豪
線
前
8
雨
7
台
6
線
5
前
4
水
3
出
1
雪
月
融
実
施
回
数
図 出水別洪水調節実施回数
リザバー 2005.12
7
事 例 紹 介1
平成16 年台風23 号における
大野ダムの洪水調節
― バス水没時の人命救出にも一役 ―
粕谷 淳一 *
1. はじめに
サーチャージ水位 175.0
175.0
標 173.0
高
(m)
台風23 号は、京都府北部を流れる由良川において昭和
28 年台風 13 号以来
28,550
常時満水位 173.0
24,970
夏期制限水位
157.0
の洪水を引き起こ
最低水位 155.0
155.0
し、沿川の国道175
号では、冠水により
115.0
1/1
バスの水没など、人
6/16
命に関わる重大な被
図− 2
貯
水
池
容
量
(ã)
7,230
0
12/31
(月)
10/15
貯水池使用計画
害が発生しました。
大野ダムではこのよ
りで、発電は最大使用量25 ã/s、最大出力11,000kw/h で
うな状況を考慮し、
京都府企業局が管理しています。
ただし書き操作を始
であったが、これを
2. 出水と洪水調節
写真− 1 新聞記事
台風23 号による降雨は、平成16 年10 月19 日3 時頃から
超えて洪水調節を行い、下流の洪水被害の軽減を図りました。
これにより、平成16 年度ダム・堰危機管理業務顕彰で
優秀賞を受賞しましたので、その概要を紹介します。
21 日4 時までに流域平均雨量279.7 Ùを観測しました。
サーチャージ水位 175.0m
1100
61.4m、総貯水容量2,855 万ãの洪水調節および発電を目
1000
京都府に管理を移管されて現在に至っています。
174
ただし書き操作開始水位 172.6
173
172
貯水位
900
169
168
800
167
700
洪水調節計画および貯水池使用計画は、図−1、2 の通
171
170
流入量
流入量(ã/s)
設省の施工により昭和36 年3 月に完成し、同37 年度から
175
1200
大野ダムは、流域面積 354 à(由良川の 18.8%)堤高
的とする多目的ダムで、特定多目的ダム法に基づき、元建
176
1300
166
165
放流量
600
164
500
(ã/s)
2,500
洪水流量 500ã/s 163
162
400
流入量2,400ã/s
161
160
300
2,000
ダムへの
貯 留 量
1,500
調 節 量
1,000ã/s
159
200
158
放流量1,400ã/s
157
100
156
1,000
0
500
流
量
洪水量500ã/s
12:00
18:00
10月20日
8
リザバー 2005.12
計画洪水調節図
6:00
10月21日
時間
時間
図− 1
0:00
図− 3
大野ダム洪水調節(台風 23 号)
155
12:00
貯水位(m)
める必要のある水位
ダムへの流入は大雨洪水暴風警報が発令された20 日8 時
綾部地点(計画高水位:8.12m)では約440 ã/s の洪水
では38.4 ã/s でしたが、16 時頃より貯水位が急激に上昇
がカットされたため、観測最高水位は6.87m となり0.57m
し、17 時30 分には洪水調節開始となる500 ã/s、20 時12
の低減が推定されました。また、福知山地点でも300 ã/s
分に1 回目のピーク1,065.5 ã/s を迎え一旦、減少に転じて
の洪水がカットされました。このため、前述のバス水没時
いたのですが、21 日0 時45 分に毎秒1,185.8 ãのピークに
の人命救出にも役立っています。
達しました。
ダムからの放流は、流入量が35 ã/s を超えるまでは発
(2)ダムの効用について、インタープリター(通訳者)
の役割を果たしたこと。
電放流で対応し、流入量35 ã/s から500 ã/s までは流入
多くのメディアから取材され、ダム操作等に関する報道
イコールでゲート放流し、これ以降流入量の42%を貯留す
により、国民のダムの洪水調節機能等に関して理解の向上
る洪水調節に入りました。1 次ピークに達した20 時頃、由
につながったのではないかと考えています。
良川河口から10 Ü付近の国道で冠水により乗客を乗せた観
一方、洪水後、下流住民からダム放流について疑問や質
光バスが立ち往生してしまいました。このため、23 時過ぎ
問があり、管理所職員が詳細に説明して理解を得られた
に舞鶴市長から京都府災害対策本部長(副知事)にダム放
ケースもあります。
流の減量の要請があり、対策本部の「貯水位が限界に達す
るまで放流調整をする」という方針のもと、ほぼ一定の放
5. おわりに
流を続けました。21 日1 時頃、サーチャージ水位を超える
取材や報道の対応の中で、また、下流住民等との対話を
ことが予測されたので、ただし書き操作移行の協議をしま
通じ、ダムの役割や操作について誤解されていることが分
したが、下流洪水の状況や雨量減少の度合を勘案した対策
かりました。代表的な3 つの誤解を紹介します。
本部の指示により、状況を見ることとして、そのまま流量
を調節しての放流を続けました。
その後、流入量の減少と大きな降雨が見込まれないこと
から、4 時から放流量を流入量より70 ∼180 ã/s 少なくし
た絞り込み操作を11 時まで続けました。その結果、水位
はサーチャージまであと約1.5m に迫る173.5m に達しま
した。
(1)ダムは、洪水時には流入する水をすべて貯留するも
のである。
(2)洪水時のダムの放流は、上流からの流入量に既にダ
ムで貯留している水を加えて放流している。
(3)ダムの放流時期と放流量は、管理事務所の勝手な裁
量で行われている。
ダム管理関係者は、あらゆる機会をとらえ分かり易く丁
寧な説明に努め、ダムに対して正しい理解を持ってもらう
3. 洪水調節がスムーズに行えた要因
ことが、ダム悪者論に対する答えとなるのではないかと考
今回、洪水調節をスムーズに行うことができたのは、以
えます。
下のことが要因と思われます。
(1)台風23 号来襲時は、洪水期(6/16 ∼10/15)を過
ぎ夏期制限水位から常時満水位に貯め込む時期でしたが、
大型台風の予報もあり、これに備え発電事業者に洪水期並
みの水位維持を要請し、協力していただいたこと。
(2)平成16 年8 月頃、同年7 月の福井豪雨の降雨をもと
に、当ダムでの出水予測とダム操作のシミュレーションを
管理所職員全員で実施していたこと。
4. 今回の洪水調節により得られた効果
写真− 2
憩いの場でもある大野ダム
今回の洪水調節では以下のような効果が得られました。
(1)下流域での洪水被害の軽減に寄与したこと。
* 京都府大野ダム管理事務所長
リザバー 2005.12
9
2
台風14号における野村ダムの事前放流の対応
すなはち
せい
則 勢*
1. ダムの概要
雨、同16 年の台風16 号、23 号と大きな被害を受けた。ま
愛媛県西予市にある野村ダムは、県下で最大の河川「肱
た、今年の台風14 号でも家屋の床上浸水や田畑の冠水等
川」の河口から約60 ㎞に位置し、肱川の治水及び南予地
の被害を受けている。
方への水道用水、かんがい用水の供給(分水)を目的とし
て、昭和57 年に完成した多目的ダムである。
ダムは堤高60m、堤頂長300m、総貯水容量16,000 千
3. 操作規則の変更
野村ダムは、鹿野川ダムとともに平成7 年の洪水を契機
ã、集水面積168 àで、管理開始後24 年が経過している。
として、中小洪水に対して効果が出るよう、同8 年6 月に
当ダムの約17 ㎞下流にある愛媛県管理の鹿野川ダムとと
洪水調節開始流量を500 ã/s から300 ã/s に、また、調節
もに肱川の洪水調節を行っている。
方式を一定率一定量方式から一定量後一定開度方式に操作
規則の変更を行っている。
4. 事前放流の実施の背景
今年の台風14 号は、9 月6 日午後2 時ごろ、長崎県諫早
市付近に上陸し、強い勢力を保ったまま毎時30 ㎞で北上
し、福岡市付近を通過、日本海を北東に進んだ。
肱川流域では、昨年の台風16 号、23 号と相次いで大き
な被害を受けており、今回の台風14 号についても大型の
台風でその規模、予想進路から当流域にも相当量の降雨が
写真− 1 洪水調節直後の野村ダム(台風 14 号)
予想され、昨年同様の被害も想定されたことから、
利水者の
了解を得て洪水調節容量をさらに確保すべく、洪水の発生
前に利水容量の一部を安全に放流する事前放流を行った。
2. 下流域の状況
大洲市を中心とする肱川下流域は、これまで度々氾濫に
よる水害を受けてきた。近年では平成 7 年の梅雨前線豪
5. 事前放流
事前放流は、台風14 号が九州の南海上にあった9 月5 日
午前11 時から開始し、同日21 時までの10 時間にわたり流
入量に平均で約8 ã/s を上乗せして、約28 万ãを放流し、
37 Úの貯水池水位低下を図った。
事前放流については、実施方法等検討中であったため、
下流警報の必要のない平常時の利水放流や水位調整に使用
している管理用発電とジェットホローバルブを使用して行
った。
6. 洪水調節の状況
・9 月5 日21 時20 分ごろには、流入量がバルブ等の放流能
写真− 2 洪水下流大洲市の浸水状況(台風 14 号)
10
リザバー 2005.12
力を上回ったため、事前放流を終了し、コンジットゲート
に切り替え、流入量=放流量として水位維持を図った。
・その後、徐々に流入量が増加し、翌6 日14 時20 分ごろ
に洪水調節開始流量の300 ã/s に達したので、洪水調節を
貯水位(m)
171
流量(ã/s)
洪水時満水位(EL 170.2m)
170
600
ただし書き操作開始水位(EL 169.4m)
・今回の洪水においても「ただし書き操作」が必要となる
400
168
放流量
流入量
167
制限水位(EL 166.2m)
ことが予測され、ただし書き操作の承認を得たのち、下流
の警報を実施して放流(ただし書き操作)に備えた。
169
ダムへの最大流入時の
洪水調節効果220ã/s
開始した。
166
200
165
貯水位
・流入量が増加中の6 日17 時10 分ごろには、貯水池水位
9月5日
の時の放流量は368 ã/s であり、最大流入時の洪水調節効
3:00
2:00
1:00
0:00
23:00
22:00
21:00
20:00
19:00
18:00
17:00
16:00
15:00
14:00
13:00
12:00
9:00
11:00
163
9月6日
9月6日
14時20分頃
洪水調節開始
の後一定開度を保つ操作を行った。
・17 時40 分ごろには最大流入量588 ã/s を記録した。こ
10:00
8:00
7:00
6:00
5:00
4:00
3:00
2:00
1:00
0:00
23:00
の段階の400 ã/s にすみやかに増加させる操作を行い、そ
0
22:00
がEL169.7m に達したため、操作規則に基づき放流量を次
164
図 野村ダム洪水調節図(台風 14 号)
果は220 ã/s となった。
7. あとがき
今回の台風14 号における事前放流の実施については検
討中の段階であったが、大型の台風で予想進路から見ても
相当の影響があると判断せざるを得ない状況であったこと、
当流域は昨年も大きな被害を受けており座視できない状況
であったことから、利水者の同意を得て事前放流を行った。
今回の放流にあたっては、ジェットフローゲートなど平
常時に使用する放流設備を使って行ったが、台風の速度が
遅く10 時間程度の放流が行えたことから結果的に所定の
治水容量350 万ãに加えて28 万ãの容量を確保するという
写真− 3
野村ダムの放流状況(台風 14 号)
事前放流ができた。
今回の洪水において事前放流を行っていなければ、約
・19 時30 分ごろに「ただし書き操作」開始水位に達した
40 分ほど「ただし書き操作」開始水位に達するのが早く
が、この時点では流入量も減少しており、また事前放流に
なっていたと思われる。また、37 Úの水位低下がなければ
より「ただし書き操作」開始水位に達するのが遅くなって
最終的にサーチャージ水位にほぼ達していたと思われ、
「た
いたため、流入量の減少状況から、このまま放流しても残
だし書き操作」へ移行する判断をしていた可能性が高い。
りの容量でサーチャージ水位内に収まる可能性が高かった。
また、下流の鹿野川ダムが既に「ただし書き操作」に入っ
このような状況から、今回の事前放流が「ただし書き操
作」回避の大きな要因であったと思われる。
て放流を続けており、下流の大洲市においても基準地点の
利水容量を使っての事前放流は、洪水後の回復を前提と
水位が危険水位を突破し、無堤区間で浸水し、暫定堤防の
して行わざるを得ないため、開始時期も台風等の動向(速
越水も予想されていた。これらの状況を総合的に判断し
度)に大きく左右され、今後、放流開始時期、放流方法等
て、この時点での「ただし書き操作」への移行を見送り、
について詳細な検討が必要であると考えている。
一定開度放流を続けた。
・その後貯水位は、21 時ごろに最高水位に達したが、サー
チャージ水位にまで至ることなく約40 Úを残して「ただし
書き操作」を回避したかたちで洪水調節を終了している。
* 国土交通省四国地方整備局 野村ダム管理所長
リザバー 2005.12
11
3
台風14号における
過去最多のただし書き操作ダム
― 宮崎県―
小野 一彦 *
1. はじめに
2. 台風 14 号と洪水調節状況
宮崎県の温暖で雨の多い気候は、県民生活に豊かな自然
大型で非常に強い台風14 号の影響により、県内では9 月
の恵みをもたらす一方、急峻な地形等のため、毎年のよう
3 日夜に雨が降り始め、4 日16 時38 分に大雨・洪水警報が
に大きな河川災害などを発生させてきた。
県南部に、同21 時50 分には県北部にも発令された。
このため、県では河川改修とともに、洪水被害の軽減を
各ダムにおいても4 日17 時の綾北ダムを皮切りに、順次
図るための治水ダムや、水資源の有効活用等のための多目
ゲート放流が始まり、5 日19 時30 分には県管理のゲート
的ダムを建設してきており、現在、治水ダムを5 ダム、多
調節ダム全てでゲート放流を開始した。
目的ダムを8 ダム(ゲート調節 7 ダム、自然調節 1 ダム)管
理している。
その後も、全県的に時間雨量30 ㎜以上の雨が降り続い
たため、早いダムでは4 日18 時01 分に、遅いダムでは6 日
1 時47 分に流入量が洪水流量に到達した。
管理中の全13 ダムが洪水調節を開始してからも、降雨
の勢いは衰えるどころか益々その勢いを増し、流域によっ
ては時間雨量50 ㎜前後の雨量が継続した。そして、5 日22
時26 分には、まず、松尾ダムが「ただし書き操作」に移
行、他のダムも追随し、6 日15 時03 分までには合計6 ダム
で「ただし書き操作」に至った。
本県では、昨年も台風16 号の影響により、4 ダムで「た
だし書き操作」を行っており、2 年続けて大規模異常出水
に襲われたことになる。
そこで今回、
「ただし書き操作」を行った6 ダムのうち、
ほうり
祝子ダムと岩瀬ダムについて、その具体的対応を紹介する。
3. 祝子ダムの状況
祝子ダムは、昭和 47 年に管理を開始し、洪水調節は
220m3/s 一定量放流のダムであり、昨年までに洪水調節を
44 回、
「ただし書き操作」を5 回行っており、今回は昨年
に続いての「ただし書き操作」となった。
まず、9 月4 日12 時に洪水警戒体制に入り、同日22 時に
図− 1 宮崎県土木部管理ダム位置図
ゲート放流を開始した(写真−1)
。
その後も雨は降り続き、5 日15 時06 分に流入量が洪水
流量の220m 3/s に達し、一定量による洪水調節を開始し
12
リザバー 2005.12
た。この時点での気象台予測の24 時間雨量は600 ㎜であ
り、台風の速度も約15 ㎞/h と遅く、降水量はさらに増す
対して厳重な警戒を呼び掛けた。
6 日1 時47 分に、貯水位は8 割水位320.9m に達し、
「た
だし書き操作」を開始した。
(図−2)その後も流入量は増
と判断し、
「ただし書き操作」移行の検討を開始した。
5 日16 時の時点で累計雨量267 ㎜、総雨量は気象台予測
加していたので、放流量を流入量に近づけるべく、ただし
で1,000 ㎜超と出たことから、夜半ごろには「ただし書き
書き操作要領の「貯水位−ゲート開度対応表」に基づいて
操作」に移行せざるを得ないと判断し、早めに延岡土木事
ゲートを開いていった。同日5 時過ぎに漸く「放流量=流
務所を通して本庁河川課に「ただし書き操作」の承認申請
入量」となった。この段階で、貯水位が設計洪水位近くま
を行った。
で上昇するとの予測であったが、結果的には、サーチャー
関係機関への連絡後には、延岡市役所や地元消防団から
ジ水位の14 ㎝超でとどまった。その後、流入量のピーク
問い合わせの電話があったため、現在の放流量と流入量、
が下がったが、再度増加し、同日11 時に今回の最大流入
「ただし書き操作」の内容を説明した。さらに、6 日夕方に
量は計画高水流量520m 3/s を上回る656m 3/s を記録した
かけて台風が接近してくるとの予報から、流入量の増加が
が、同量を放流し貯水位を維持した。その後、台風通過に
予想されたため、通知や警報の際に関係機関や流域住民に
伴い、徐々に流入量の減少が見られ、同日17 時37 分から
貯水位低下のための放流に入った。
700
下流祝子橋地点では、特別警戒水位以上の高い水位が6
330
↓設計洪水位 324.5m
600
日5 時から同日19 時まで14 時間継続したが、破堤等は免
↑サーチャージ水位 324.0m
320
流入量
れた。しかし、内水による家屋浸水等(床下浸水107 戸、
500
床上浸水431 戸)の被害が発生した。
310
400
制限水位 304.2m
300
300
今回、
「ただし書き操作」移行の判断や申請及び関係機
関への通知等は、昨年の経験から早い段階でスムーズに行
うことができたが、ダムの放流能力以上の流量が流入した
洪水量220ã/s
200
貯水位(m)
流量(ã/s)
貯水位
放流量
290
場合の対応等が今後の課題であると考えている。
100
0
0
:
00
12
:
00
0
:
00
12
:
00
0
:
00
12
:
00
0
:
00
280
12
:
00
4. 岩瀬ダムの状況
岩瀬ダムは、昭和42 年に管理を開始し、洪水調節は一
9月4日
図− 2
9月5日
9月6日
祝子ダム洪水調節図
9月7日
定開度放流のダムであり、昨年までに洪水調節を 96 回、
「ただし書き操作」を3 回行っており、今回は、平成5 年以
来の「ただし書き操作」となった。
まず、4 日19 時から洪水警戒体制に入り、5 日9 時から
ゲート放流を開始し、流入量に追随すべく、放流の原則に
従い、ゲート開度を2.9m まで徐々に開けていった。その
後、流入量は漸増しながら、同日17 時23 分に洪水流量で
ある300m3/s に到達した。
翌6 日7 時には、
「ただし書き操作」開始水位(123.40m)
まであと約4m と迫り、また、台風の中心は九州南西部に
あって北上中であり、依然として強い雨の降る状況であっ
たため、
「ただし書き操作」についての検討を行った。そ
写真− 1 祝子ダムの放流状況
の結果今後予想される雨量が 280 ㎜で、計画高水流量
1,050m3/s を大きく上回ることが予想されたので、直ちに
都城土木事務所を経由して本庁河川課へ「ただし書き操
リザバー 2005.12
13
1,400
位がピークに達した5 時間後であり、ピーク流量は大幅に
130
1,200 サーチャージ水位=設計洪水位 125.0m
カットできたので、ダムでの調節効果が大きかったと思わ
125
れる。
1,000
800
115
貯水位
600
貯水位(m)
流量(ã/s)
120
制限水位
109.0m 110
400
洪水量300ã/s
放流量
200
0
12
:
00
105
流入量
9月4日
12
:
00
0
:
00
9月5日
12
:
00
9月6日
0
:
00
河川課では、9 月4 日は4 名、5 日は6 名、6 日は8 名体制
で、県管理ダムと二級水系の利水10 ダム(企業局と電力会
社)を併せた、全23 ダムの対応に当たった。今年度から、
報告様式等の送受信は電子メールで行うことになっていた
100
0
:
00
5. 河川課の対応
12
:
00
9月7日
0
:
00
9月8日
図− 3 岩瀬ダム洪水調節図
ものの、その使用環境にないダムも複数あったので、ファ
クシミリや電話でダムデータを受け、様式入力後に九州地
方整備局に電子メールを送信する担当1 名を専任とし、そ
れ以外の者は効率的な対応ができるよう、管理主体や水系
別でダムを担当する体制で臨んだ。
5 日からは、各ダムからの「ただし書き操作」申請の対
応に1 名を専任し、判断計算の検討や決裁文書の起案、課
長や次長・部長への説明に当たった。
6 日8 時過ぎ、4 つのダムで「ただし書き操作」を行って
いた時、県庁舎が停電した。一瞬、緊張が走ったものの、
情報通信機器は無停電電源回路に組み込まれており、停電
も2 分程度と短かったことから事なきを得た。
6. おわりに
写真− 2
岩瀬ダムのゲート放流状況
台風14 号は進行速度が遅く、また、九州の西側を北上
したため、本県に長時間激しい雨を降らせたことから、県
作」の申請を行った。
6 日7 時30 分には1 回目の最大流入量に到達して以降、
内のダムの多くが流域総雨量の記録を更新し、県管理ダム
では12 ダムで総雨量の記録を更新した。
どがわ
流入量は減少傾向にあったが、台風の北上に伴い、再び
最も多かったのは、渡川ダム流域の3 日間で1,348 ㎜と
増加を始めた。再度「ただし書き操作」開始時刻の検討を
いう驚くべき量であった。これに伴い、流入量や放流量、
行ったところ、1 時間以上も早い同日15 時の結果が出たの
貯水位などで既往最大を記録した。
で、14 時に関係機関へ操作開始一時間前の連絡を行った。
各ダムとも、全職員の力を結集して洪水調節に当たり、
6 日14 時40 分には、2 回目の最大流入量に到達したた
適切にゲート操作や通知連絡等も行われた。多くの水系
め、貯水位はさらに上昇し、ただし書き操作水位に達した
で、土砂崩れや地滑り、堤防越水や内水氾濫、破堤等の災
ので、同日15 時03 分に「ただし書き操作」を開始した。
害も発生したが、幸いにもダムに関する事故はなかった。
その後17 時50 分には、最高貯水位に達し、流入量は急
県としても機会ある毎に、ダムの機能や適正な管理の状
激に降下して、18 時37 分に計画最大放流量600 m3/s とな
況を説明し、流域住民への理解に努めてきたが、今後もこ
り「ただし書き操作」を終了した。さらに、流入量は減少
れを継続していきたい。また、今後の課題としては、近年
し続け、7 日2 時06 分には洪水調節を終了し、水位低下の
の出水状況の変化により、各ダムの操作規則・細則の見直
ための放流に移行した。
しや、下流域住民へのダム放流情報等の提供も必要になっ
今回のただし書き操作では、開始時刻が下流基準点の水
てくると思われる。
* 宮崎県土木部河川課ダム管理担当 主査
14
リザバー 2005.12
平成17年
渇水・洪水速報
平成17 年 早明浦ダムの渇水対応
限(新規用水75%節水)に強化されました。
国土交通省 四国地方整備局 河川部 河川管理課
今回の渇水は、平成6 年渇水に比べ、早明浦ダム貯水量
の減少スピードが速いこともあり、関係機関との調整を頻
1. 記録的な少雨傾向
繁に行い、取水制限に入る時期を早めるなどの対応を図り
記録的な渇水となった平成17 年の早明浦ダムの渇水対
ました。
応をご紹介します。
今年の早明浦ダム上流域における5 月から8 月までの雨
量は782.7 Ù、特に6 月雨量は73.2 Ùで、平年値(昭和50
3. 早明浦ダムの利水容量がゼロとなる前後の渇水調整
(1)不特定用水節水の提案
年∼平成17 年の30 カ年平均)のそれぞれ47%、19%と観
早明浦ダムの貯水率が約30%に近づいた6 月27 日の吉野
測以来の最低値を記録しました。これは高松市などで5 時
川水系水利用連絡協議会では、従来優先的に確保され、取
間給水が約 1 カ月も続いた平成 6 年渇水時の、それぞれ
水制限の対象外であった吉野川の不特定用水の30%節水に
77%、44%しかなく、鋭意補給を続けた早明浦ダムも8 月
ついて協議がなされました。不特定用水は、この時期に確
に底をつきました。
保すべき流量の約7 割を占め、この節水により早明浦ダム
の貯水率減少の抑制効果が大きいなどの理由から提案され
2.早明浦ダムの利水容量が減少の一途
たものです。しかしながら関係機関の合意には至らず実施
記録的な少雨傾向により、早明浦ダムの利水容量は減少
されませんでした。
を続け、貯水率が約60%になった6 月15 日には第1 次取水
(2)発電専用容量の緊急放流を実施
制限(新規用水20%節水)が開始され、その後貯水率約
8 月19 日と9 月1 日の2 回、早明浦ダムにおいて発電以
30%となった 6 月 28 日には、第 3 次取水制限(新規用水
外の利水容量の貯水率が底をついたため、発電専用容量か
50%節水)に強化されました。
ら上水の供給を目的に、毎秒3.66 ãの緊急放流が実施され
ました。最悪の事態を想定し、利水容量が底をついた後に
写真 早明浦ダム
(9 月1 日 貯水率0%)
は利水として利用できるように、事前に関係機関に協力を
要請し、発電専用容量の温存を図りました。
(3)異常渇水時の保持流量を設定
早明浦ダムが底をついた自然流量状態では、吉野川の維
持流量や既得用水の確保が困難と予測されたため、一時的
(百万ã)
200
180
160
140
120
100
80
図 早明浦ダム 60 貯水率0%の期間
40
渇水時の利水確 20 8/19∼20,9/1∼9/5
保容量との比較
0
5月
6月
利水確保容量
平成6年
緊急避難措置として「異常渇水時の保持流量」を設け、こ
平年値
平成17年
の流量を保持するように既得水利使用を調整する特例的な
運用を行いました。
4. 渇水による影響と今後の対応
7月
8月
9月
今回の渇水では、瀬戸内側で7 月の降水量が平年値を上
回ったことや、平成6 年渇水の教訓が関係機関の円滑な調
7 月初旬の梅雨前線降雨により一時的に貯水率は回復し
整に活かされ、早明浦ダム容量が有効に活用されたことも
たものの、梅雨明けと同時に貯水率は再び減少し始め、貯
あり、住民生活への影響を最小限にとどめることができま
水率が約15%となった8 月11 日からはさらに第4 次取水制
した。
リザバー 2005.12
15
平成 17 年 ダムの洪水調節実績(速報)
国土交通省 河川局 河川環境課 流水管理室
この台風14 号による出水のみで、113 ダムが洪水調節を
実施し、また、洪水調節容量を使い切ると判断し、放流量
を流入量に等しくする操作(ただし書き操作)を、宮崎県
1. はじめに
が管理する6 ダムのほか計13 ダム(平成16 年、延べ25 ダ
国土交通省が所管するダムは、流入してくる水量に比べ
ム)で実施しました。
て少ない量をダム下流へ放流して、下流河川の水位を低下
させ、氾濫被害の軽減を図ることを目的の一つとしていま
3.洪水調節事例
す(以下、平成17 年のデータは、すべて11 月15 日現在の
前項の「渇水」で紹介された水資源機構が管理する早明
浦ダムにおいては、台風14 号によりダム上流域平均総雨
速報値です)
。
平成17 年においては、1 月4 日の融雪出水に始まり、11
量707 Ùを観測しました。一方、ダムの貯水状況は9 月4
月7 日の前線性降雨まで、台風や梅雨、低気圧、雷雨など
日 7 時の降り始め時点では利水容量(発電専用容量を除
いろいろな要因で洪水が発生しました。今年の台風の発生
く)は0 であったことから、管理開始以来2 番目の記録と
個数は23 個、日本への上陸が3 個と平年並みでした。
なる最大流入量5,640 ã/s の出水に対して、利水および治
このような気象状況により、図に示すとおり、国土交通
水容量の約94%に当たる約2 億4,800 万ã(東京ドーム200
省直轄管理ダム、水資源機構管理ダム、道府県管理ダムの
杯分)を貯め込み、下流本山橋(高知県本山町)付近にお
計471 ダムにおいて、延べ527 回(平成16 年、延べ933 回)
ける水位を約5.2m 低下させるなど水害の軽減に多大な効
の洪水調節を実施し、このうちの114 回が台風14 号出水に
果を発揮しました。
集中しています。
4.豪雨災害対策(事前放流)の取り組み
2. 台風 14 号
平成16 年の豪雨災害を受けて取り組んでいる事前放流
台風14 号は、9 月4 日に大東島地方に接近してから6 日
については、個々のダムで実施方法などを検討中であるも
夜に山陰沖に抜けるまで、ゆっくりとした速度で進んだた
のの、台風7 号、11 号、14 号に対して、延べ26 の直轄ダ
め、長時間にわたって大雨が降り続きました。その結果、
ムにおいて、共同事業者のご理解のもとに試行的に事前放
総雨量において、九州、中国、四国地方の各地で9 月の月
流を実施しました。
間平均雨量の 2 倍を超え、宮崎県南郷村神門では 2.9 倍
(1,321 Ù)に達するとともに、日雨量においても全国61 地
ãの 8%)と少なかったものの、実際の洪水調節により
点でこれまでの記録を更新しました。
「ただし書き操作」に移行せずに366 万ãを貯め込むこと
図 台風 14 号経路図
8日09時
ができたことは、この取り組みの有効性を証明するものと
考えています。
7日09時
5.おわりに
6日09時
5日09時
ダムにおける豪雨災害対策のもう一つの柱である放流警
ダム数(延べ数)
1000
報設備などの市町村への開放も、全国で19 のダムなどに
933
900
おいて、30 市町村と協定を締結し、実際に避難情報の伝達
800
707
700
600
584
554
リザバー 2005.12
446 420
401
400 348
に利用された反面、台風14 号の洪水時に活用していただ
けなかった市町村があるなど、平成18 年の洪水期に向け
327
260
222
199
187
て取り組むべき課題がたくさん残されています。
H17
H16
H15
H14
H13
H12
H11
H9
H10
H8
H7
H6
H5
H4
より一層ダム管理に万全を期されますことをお願いして、
H3
図 300
洪水調節
200
実施ダム数
100
(11 月 15 日現在) 0
526
490
500
16
特に台風 14 号時の野村ダム(肱川水系・愛媛)では、
事前放流で確保できた容量は28 万ã(洪水調節容量350 万
平成17 年のダム洪水調節速報といたします。
鮫川は、阿武隈山地の山懐から太平洋に流れ込んで
おり、ダム上流部の鮫川渓谷は春の新緑、秋の紅葉が
美しく、いずれも鮫川の清流に映えています。
四時ダムは、堤高83.5m のロックフィルダムで堤体
の一部からは海(太平洋)が望めるダムとしても有名
で、貯水池湖畔の公園とともに地域住民の憩いの場と
なっています。
*
斉藤 敏美
1. はじめに
高柴ダム・四時ダムは、福島県南東部の鮫川及びそ
の支川の四時川に建設された多目的ダムです。
高柴ダムは、治水・利水(工業用水)を目的として
写真−2 四時ダム
昭和37 年に完成、四時ダムは治水・利水(上水・工業
用水)を目的に昭和59 年に完成しました。
3. 2ダムの統合管理
高柴・四時の両ダムを統合的に管理するため、昭和
59 年に鮫川水系ダム管理事務所(以下「事務所」とい
う)が設置され、両ダムの管理に当たっています。
両ダムのデータや気象情報等は、鮫川水系ダム統合
管理システムにて、両ダムと事務所で共有され、適切
な警報活動や安全な操作に寄与しています。また、貯
水位など一部のデータはリアルタイムで福島市の県庁
に送信され、福島県のホームページでも公開されてい
位置図
ます。
高柴ダムは鮫川本川にあり、四時ダムは支川の四時
2. ダムの特徴
川にありますが、両ダムが直線距離約6 ㎞と近い位置
高柴ダムは、県管理のダムとしては最も古い堤高
にあるため、洪水時等の警戒体制はおおむね同時に取
59.5m の重力式コンクリートダムです。
ることが多くなります。放流等に伴う警報は、最上流
の高柴ダムから鮫川河口まで約10.5 ㎞の区間を両岸に
開けた市街地付近を含めて約1.5 時間、右岸・左岸の順
に警報車による警報活動を行っています。
また、ダム建設の目的の一つである利水については、
工業用水は高柴・四時の両ダムから、上水は四時ダム
のみから供給しています。高柴ダムではダムから直接
取水し、四時ダムは下流の沼部堰から取水しています
写真−1 高柴ダム
が、工業用水は、福島県企業局いわき事業所が管理・
リザバー 2005.12
17
供給しており、1 年中安定した供給を行うため、事務
4. 地域に開かれたダムを目指して
所と企業局はリアルタイムの情報交換に努めています。
四時ダムにおいては、毎年7 月の「森と湖に親しむ
また、上水道は四時堰地点から取水していわき市へ供
旬間」に各種の展示や見学会を催しておりますが、そ
給しています。上水・工水の安定供給のため、ダム流入
の中で最大のイベントが、7 月の最終日曜日に行われ
量と下流取水堰の水位監視を常時行い、取水量が確保
る「四時川流域ダムまつり」です。地元住民の方が実
できるようにダムからの放流量を調整しています。
行委員会を組織し、四時ダム公園を会場に行われます
最近は、IT 化が進み、ダム管理のための諸情報も各
が、まつりの準備会合が5 月頃から始まり、数回の打
観測局のデータの他に、気象情報はインターネットか
合せを経ての開催となります。このような会合を通し
ら最新の情報を入手することができるようになりまし
て地域の交流が深まっています。
た。しかし、最新の情報により適切な判断を下しても、
当日は地元の伝統芸能や子供たちの発表があり、地
ダムのゲート操作等を実際に行うのは、やはり人間と
場産品の販売等の出店も多く、大変な賑わいとなりま
いうことになります。
す。普段静かなダム湖の湖面もこの日ばかりは、ボー
事務所の体制は、所長以下 11 名の職員がおります
トに乗った子供たちの歓声が響き渡ります。
が、2 ダムの24 時間体制維持のため各ダムの管理所当
直があり、梅雨時の前線や台風による出水、警報活動、
さらには地震発生時など昼夜もない対応となるので、少
ない人数でダム管理を行うためには職員間の情報共有
はもちろん、ダム操作のスキルアップのための研修等
を積極的に取り入れています。
高柴ダムは、建設後43 年が経過し貯水池内の堆砂が
問題になりつつあります。堆砂の進行が当初の予定よ
りも早く、その対応を迫られています。種々の対策につ
いて検討した結果、貯水池上流部に貯砂ダムを建設し
流入土砂を貯留、非洪水期に搬出により除去すること
写真−4 四時川流域ダムまつり
夏のダムまつりの他にも地元主催のフリーマーケット、
としました。平成16 年度に貯砂ダムが完成したので同
ダム公園内の花壇の手入れ等があり、ダムの建設目的の他
17 年度から堆砂除去作業を開始することとしています。
に、その地域の活動・交流の場ともなっています。
搬出土砂は、約32,000 ã/年を予定しており、残土
処分の他、土質良好な部分については、土木資材とし
5. おわりに
て有効活用することも検討しています。ダム管理の中
平成16 年は、台風のあたり年で上陸数が年10 回を
でも、堆砂はダムの貯水量に直接影響を与えるものだ
数え、操作規則に基づく警戒体制をとった回数が18 回
けに、積極的に対応していきたいと考えています。
と非常に多い年となりました。また、新潟県の震災は
隣県ということもあり、地震時の点検体制の確認等を
貯砂ダム
行ったところです。
自然災害の他に国際テロへの対応等、いわゆる危機
管理の面からもダム管理を行っていかなければなりま
せん。重要施設であるダムの管理を、その目的を確認
しつつ、下流河川を含む地域の安全・安心の確保に努
写真−3 高柴ダムの貯砂ダム
めているところです。
* 福島県鮫川水系ダム管理事務所長
18
リザバー 2005.12
[ 管理所訪問 ]
手
取
川
発電容量の大きい多目的ダムを訪ねて
手取川ダム・九頭竜ダム
金沢
石川県
富山県
九頭竜川
手
手取川ダム
取川
取川ダム
福井県
福井
真名川ダム
真名川
岐阜県
紅葉の盛りを僅かに過ぎた頃、石川県石川郡にある北陸地方整備局金
九頭竜ダム
沢河川国道事務所手取川ダム管理支所と、福井県大野市の近畿地方整備
局九頭竜川ダム統合管理事務所及び大野郡の九頭竜ダムを訪ねた。共に発電容量が大変大きいダムである。
折り悪く両日とも霧雨の舞う肌寒い悪天候。低く垂れ込めた雲が山々を覆っていたが、時折太陽が雲の切れ
間から顔をのぞかせ、ダム湖畔を彩る紅葉の名残を鮮やかに照らしていた。両ダムとも豊かな自然を求める人々
に親しまれていると聞く。手取川ダムは新緑の時期や夏場、九頭竜ダムは秋の紅葉シーズンが最もにぎわう季節
だという。
手取川ダム管理支所
手取川ダム管理支所を訪問すると、辻内 昭支所長が資料
を広げながらダムの概要や平成16 年の出水について説明し
長、管理係長、管理係員、電気通信係長、運転員の計6 名
が、夜間・休日には委託の情報連絡員が勤務している。
管理支所では天気予報で注意報が出れば準備体制を取
り、ダムへの流入量が180 ã/s を超えると注意体制を取
て下さった。
手取川水系手取川に位置する手取川ダムは、治水、都市
る。職員全員が管理支所に集まり、北陸地方整備局、金沢
用水の供給、発電を目的とした多目的ダム。ダム堤体の管
河川国道事務所、自治体、警察署、電力会社等の関係機関
理は発電を行っている電源開発㈱が、ダム湖の管理は管理
へ体制を通知すると共に、気象情報の収集や出水予測を
支所が行っている。
行う。
手取川ダムの洪水調節容量は、第一期洪水期(6 月15 日
流入量が洪水量350 ã/s に達すると警戒体制を取る。ま
∼10 月15 日)は20,000 千ã、融雪期である第二期洪水期
たゲート操作が予想されるときは、金沢河川国道事務所
(3 月1 日∼6 月14 日)は5,500 千ãである。これに対し、
(以下「事務所」という)から4 名の応援がかけつけ、関係
発電容量は、第一期洪水期は170,000 千ã、第二期洪水期
機関への体制通知等を行いながらゲート操作に備える。
は 184,500 千ã、非洪水期(10 月 16 日∼ 2 月末日)は
190,000 千ãと非常に大きい。洪水期の制限水位以下の貯
水池の運用は、発電側が行っており、特に第一期洪水期は
制限水位より低い水位で維持している。従って、通常の洪
水は発電放流を行うだけで洪水を
飲み込んでしまい、ゲート操作
に及ばないことが多いという。
「今
回の洪水調節は約10 年ぶりでし
た」と辻内支所長は語る。
「洪水
量の350 ã/s に達することはあり
辻内支所長
手取川ダム
ますが、殆どゲート操作のない
ダムなんです。
」
平成 16 年 5 月 17 日の出水
平成16 年5 月15 日夜、手取川ダム流域では、前線の影
人員と洪水時の対応
響による雨が降り始め、17 日までの3 日間で平均累計雨量
手取川ダム管理支所には、辻内支所長の他に、総務係
は177.2 ㎜に達した。この時、手取川ダム管理支所では、
リザバー 2005.12
19
周辺住民への PR
平成5 年以来のゲート操作を行った。
ダムへの流入量は16 日4 時頃から増え始め、いったん勢
手取川ダムには秋の遠足等で小学生が訪れることが多い
いは弱まったものの、17 日3 時頃から再度増加し、3 時30
という。そこで管理支所では、ダムの5 つの役割をなぞら
分頃には180 ã/s を超えた。このため管理支所では注意体
えた「手取湖宣隊ダムズメンV」というかわいらしいキャ
制に入った。
ラクターを職員が考え、独自に制作し、これを利用して説
5 時頃には、洪水量350 ã/s に達したため警戒体制を取
ファイブ
明している。
「子供たちは、
『洪水レッド』
『水道ブルー』
り、関連機関に通知・連絡を行った。事務所からの応援4
『発電イエロー』
『環境グリーン』
『親しみオレンジ』と言
名もかけつけ、気象・水象情報の収集と洪水予測、ゲート
うと、興味を持って聞いてくれます。
『洪水レッド』は水
設備等の機械器具・警報局舎関係等の電気設備・通報機器や
をためて徐々に流して、下流に被害が出ないようにするん
パトロール車の点検等を行い、ゲート放流に備えていた。
だよと説明した後で、ダムの広報ビデオを見てもらうと理
6 時頃には最大流入量504.5 ã/s を記録。9 時頃には、こ
のままいけば操作細則で定められた制限水位以下で洪水調
節ができる水位(洪水調節可能水位)463.3m に達するこ
解も深まるようです。
」
ダムの機能をいかに理解してもらうか、ここでも職員が
一生懸命取り組んでいる。
とが見込まれたため、11 時からゲート操作に入ることを判
断。事務所長への上申を行った。同時に、関係機関へゲー
ト放流開始1 時間前の通知を行った。
11 時に貯水位463.3m に到達、しかしこの頃にはすでに
流入量は徐々に減り始めていたが、流入量が350m3/s を超
えていること、前線の移動により3 山洪水もあり得ること
から、ゲート放流を実施した。管理支所では、貯水位と流
入量を監視しながら慎重にゲート操作を実施した。
「流入
量は、風等により貯水位が微妙に変動することから、流入
手取湖宣隊ダムズメンⅤ
量がスーっと上がったり、またスーっと下がる。流入量の
見極めは難しいですね。
」
20 時頃には体制を注意体制に戻し、21 時30 分頃にゲー
九頭竜川ダム統合管理事務所と九頭竜ダム管理支所
翌日、九頭竜川ダム統合管理事務所(以下「ダム統管」
ト放流を終了、体制を解除した。
制限水位以下の洪水調節も含め、ピーク時で338 ã/s の
という)に伺うと、宮越秀一管理課長と九頭竜ダム管理支
所の荒木道男支所長が熱心に対応して下さった。
大きな洪水調節をしたことになる。
九頭竜ダムは、九頭竜川水系九頭竜川に位置する治水と
水位(m)
465
流量(ã/s)
600
サーチャージ水位 465.0m
464
電源開発株式会社が、またダム湖を管理支所が管理してい
Qp=504.50ã/s
制限水位 464.0m
発電目的の多目的ダムで、手取川ダムと同様、ダム堤体を
500
流入量
463
洪水調節可能水位
463.30m
462
400
貯水位
洪水流量
350ã/s
300
ゲート放流
461
200
460
100
PS放流
459
16日
2:00
17日
24:00
手取川ダムの洪水調節(平成16 年5 月17 日)
20
リザバー 2005.12
0
18:00
宮越課長(右)・荒木支所長(左)
る。1 年を通して洪水調節容量は33,000 千ãを確保し、発
す。巡視を行うダム統管の職員には、ダム管理演習の前
電容量は190,000 千ãと非常に大きい。
に、巡視の方法と場所を教育しています。
」と宮越課長。
ダム統管では、この九頭竜ダムと支川真名川にある真名
ゲート操作は行わなかったとしても、ダムの効果を記者
川ダムの管理を行っている。
「実は、統合管理をする機会は
クラブへの投げ込みやホームページへの記載でPR してい
ほとんどありません」と宮越課長は語る。
「真名川ダムは洪
るという。宮越課長は言う。
「下流河川でたとえ10 Úしか
水調節容量の大きいダムですが、これとは逆に九頭竜川本
違わなかったとしても、日ごろからダムの効果をPR する
川は、
いわば発電専用ダムの多い川で、河川水は真名川との
ことが大切だと思っています。
」また、ダムがなければ下
合流点付近にある発電所まで導水されていますので、発電
流河川の水位がどの程度になっていたかをビジュアルで見
で河川水のコントロールが成り立っているという川なんです。
せる手作りの「モンタージュ」を作成し、視覚的にダムの
しかし、洪水になるとダムから放流することになります」
効果に訴える工夫も行っている。
ダム管理で最も困っていることは、降雨予測の難しさで
あるという。
「我々がほしいのは3 時間先の予測ですが、購
入しているデータの精度があまりよくないんです。操作に
主観的な根拠を入れないために提供いただいていますが、
写真モンタージュ
実際の雨量の50%の時もあれば200%の時もある。我々が
計画洪水位 EL564.0m
レーダーを見て予測した値の方がむしろ近いんです。
」
常時満水位 EL560.0m
最大流入量約1,679ã/s
560
1,800
1,400
555
流入量
1,200
1,000
550
800
貯水位
流量(ã/s)
貯水位(EL m)
1,600
600
400
放流量
545
200
542
24
:
00
24
:
00
9日
九頭竜ダム
0
15
:
00
24
:
00
10日
11日
九頭竜ダムの洪水調節(平成14 年7 月)
人員と洪水時の対応
おわりに
ダム統管には事務官が5 名、管理課、電気通信課、九頭
発電ダムでは、ダム直下や下流河川が無水・減水にな
竜ダム管理支所、真名川ダム管理支所に技官が15 名、あ
り、環境悪化や臭気が問題になることがある。九頭竜川で
わせて20 名が勤務している。土日・夜間には委託の情報
は電源開発㈱が平成8 年から、手取川ダムでは「ダム水環
連絡員がおり、加えて出水期の勤務時間外には委託のダム
境改善事業」の第一号として平成16 年から維持流量を放
管理技士が勤務する。
流している。手取川ダム管理支所が今年行った住民アン
九頭竜ダム管理支所には荒木支所長の他に、管理係長と
電気通信係長の計3 名と、委託の事務職員1 名が勤務して
いる。洪水時はダム統管から5 名の応援がある。
ケートでは、手取川の臭気を感じなくなったという回答が
7 割に達したという。
両ダムにお話を伺って、発電容量の大きいダムでは通常
しかし昭和51 年にダム放流による洪水調節を行った以
の洪水調節の苦労は比較的少ないというものの、ダムの役
外、九頭竜ダムではダム放流は行っていない。荒木支所長
割を理解して親しんでもらうために、環境改善からダム機
は言う。
「洪水量270 ã/s に達することはあります。去年
能やダム効果のPR まで、たゆまぬ努力を重ねられている
は5 回、今年も2 回ありましたが、発電容量で殆ど飲み込
ことに頭の下がる思いがした。
んでしまいます。
」
「経験がない分、有事になったら大変で
(取材・文 神澤志摩)
リザバー 2005.12
21
◎「リザバー 2005.9 秋季号(第7号)―堆砂対策特集号―」に対するアンケート結果
(アンケート回収数 87件)
今回のアンケートは、より幅広い層の読者の方々か
●仕事上で参考になった又は興味のあったコーナーは?
順位
らご意見・ご感想をいただきました。
今号でもアンケートを実施いたしますので、皆様の
ご感想をお聞かせください。
コーナー
事例紹介(宇奈月ダム)
39
2
行政の動き
37
3
事例紹介(美和ダム)
34
(「リザバー」編集事務局)
貯水池管理の総合的な情報誌「リザバー」第 8 号をお届け
します。
●「提言」は、独立行政法人 農業工学研究所 水文水資源研究
室の増本室長に、降雨予測から、弾力的管理、農業用ダム等
の将来の運用のあり方など広域規模の視点から今後の水管
理についてご示唆をいただきました。全国の多くの貯水池
管理に関係する方々にお役に立つことを期待しています。
●「座談会」として、委嘱したばかりの「リザバー専門員」
のうち管理所長時に洪水調節対応をした 5 名の方の経験を
中心に掲載しました。昨年、今年と大きな洪水が来襲し、
このところ「ただし書き操作」実施ダムが増えており、座
談会においても話題の一つになりました。これらの経験談
やアドバイスを、管理所の皆さんの参考にしていただきた
いと思います。
●平成 16 年、17 年と異常洪水が相次ぎましたので、「事例
回答数
1
※上位3コーナーまでを掲載(複数回答あり)
紹介」として、異常洪水に対応したダムからの報告を掲載
しました。由良川で水没したバスの救助に一役かった京都
府大野ダム、事前放流をして「ただし書き操作」移行を免
れた四国整備局野村ダム、記録的豪雨に見舞われた宮崎県
の祝子ダム、岩瀬ダムについて、その実情と今後の課題を
紹介していただきました。万が一の異常洪水時の対応にお
役に立つことを期待しています。
●国土交通省からは、今年の早明浦ダムを中心とする吉野川
流域の渇水状況、台風 14 号を主とする洪水調節の実績お
よび事前放流等について速報を投稿していただきました。
●今回の「管理所訪問」は、手取川ダムと九頭竜ダムを対象
としました。
両ダムとも多目的ダムとしては、発電容量が非常に大きな
ダムです。ダムの管理や洪水時の対応などを伺って来ま
した。
(「リザバー」編集事務局)
「リザバー」編集委員・
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委員長: 中川 博次(立命館大学 理工学部教授)
委 員: 久保田 勝(国土交通省河川局 河川環境課長)、中島 久宜(農林水産省農村振興局水利整備課 施設管理室長)
雨宮 宏文(元福島県土木部長)、福田 昌史((独)水資源機構 理事)、吉越 洋(東京電力(株)フェロー)
岡野 眞久((財)ダム水源地環境整備センター 理事)
「リザバー」原稿執筆要領
「リザバー」を分かりやすく、読みやすい情報交換誌にするために、原稿執筆について下記のように定めます。
①「リザバー」は、行政などへの依頼記事、投稿、編集事務局の取材記事などから構成しますが、これらの原稿は「リザバー」
編集委員会で審議した基本的構成に照らし合わせて、内容を確認・校正し編集事務局で編集します。
② 原稿は、A4 判縦、横書きで編集したもので、電子媒体(CD-ROM、MO 等)又は紙原稿を、編集事務局までE-mail か
FAX、郵送でお送りください。
③ 原則として、1 ページ1,800 字とします。写真・図などがある場合、それらも含めて指定のページ数に納めてください。
④ 小見出しは、1 ・・・、
(1)
・・・、
(イ)
(ロ)
・・・、a)b)
・・・を原則とします。
⑤ 図や写真は原稿提出時には文中に組み込まず、別紙、データ等を添付してください。縮尺等は誌面構成上、編集事務局に
ご一任ください。その際、図の挿入希望カ所を赤字で記入、返却希望の資料にはその旨明記してください。
季刊誌
発行日
平成 17 年 12 月
発行人
財団法人 ダム水源地環境整備センター
理事長 加 藤
昭
〒 102-0083 東京都千代田区麹町 2−14−2 NK ビル
●編集事務局
Tel : 03−3263−9051 Fax : 03−3263−9085 E − mail : [email protected]
2005.12
NO.8
印刷 株式会社 光 和 定価
500 円