【目的】胃・十二指腸疾患を引き起こすHelicobacter pyloriは世界人口の

Helicobacter pylori の環境リザーバーとしての自由生活性アメーバの役割
北海道大学大学院保健科学研究院感染制御検査学教室 教授 山口博之
【背景ならびに目的】 胃・十二指腸疾患を引き起こす Helicobacter pylori は世界人口の
約半分が感染している普遍的な病原細菌である。また H. pylori 感染は胃癌の危険因子と
考えられ除菌方法や病態形成機構については数多くの研究成果が報告されている。H.
pylori の感染経路は糞口感染が有力視されており、自然環境にも本菌が広範囲に分布し
ている可能性が考えられる。しかしながら環境での H. pylori の生存をサポートする要因
は明確ではない。一方、土壌や水系に広く分布する自由生活性アメーバ(Acanthamoeba
spp.)内でさまざまなヒト病原細菌が生存できることが試験管内の実験により明らかな
ってきた。そこで H. pylori の環境リザーバーとしてのアメーバの役割を明らかにする目
的で、土壌・水系環境における H. pylori と Acanthamoeba spp.の遺伝子検出頻度につい
て検討を試みた。
【方法】 検体: 札幌市内の公園 71 カ所ならびに河川 32 カ所より採取した検体を対象と
した。土壌は約 10-20g そして河川水は 1,000 ml 採取した。河川水は水温、pH、濁度、
大腸菌群数の測定ならびに Helicobacter spp.分離培養も同時に行った。DNA の抽出: 0.5g
の土壌検体から UltraClean Soil DNA 抽出キット(MBL)を用いして DNA を抽出した。河
川水 500 ml 中に存在する微粒子はディスポーザブル濾過滅菌器の 0.22μm ポアサイズ
のフィルター上に回収した。そのフィルターを 20 ml のアメーバ生理食塩水の中でボル
テックス処理し、3,000 rpm で 25 分間遠心した。沈渣より QIAamp DNA Mini キット
(Qiagen)を用いて DNA を抽出した。 PCR: フミン酸による増幅阻害を抑制するために
BSA 存在下で実施した。Helicobacter spp.は 16S rRNA 遺伝子、H.pylori は 16S rRNA 遺
伝子 5’末端隣接領域そして Acanthamoeba spp.は 18S rRNA 遺伝子を標的として行った。
また細菌間(クラミジアを除く)で広く保存されている 16S rRNA 遺伝子領域を標的とし
た PCR も行った。一部の PCR 産物はダイレクトシークエンスによりその特異性を確認
した。
【結果ならびに考察】 Helicobacter spp.の土壌ならびに河川水からの遺伝子検出頻度は
0/71(0%)ならびに 26/32(75%)であった。Helicobacter spp.陽性河川水からは H. pylroi 特異
的遺伝子は検出できなかった。一方、Acanthamoeba spp.の土壌ならびに河川水からの遺
伝子検出頻度は 68/71(96%)ならびに 21/32(65%)であった。河川水の性状と Helicobacter
spp.の遺伝子検出頻度には関連が見られなかった。また環境からの Helicobacter spp.と
Acanthamoeba spp.の遺伝子検出頻度にも関係性は見いだせなかった。このように自然環
境において Helicobacter はアメーバ非依存的に存在している可能性が示唆された。この
様に、
Acanthamoeba spp.遺伝子は土壌や水系環境ら幅広く検出されたが、
Helicobacter spp.
遺伝子は水系環境からのみ検出された。Helicobacter spp.と Acanthamoeba spp.の遺伝子
検出頻度には関連性は見いだせなかった。