平成 22 年度アワビ養殖用種苗の育成試験報告書

平成 22 年度アワビ養殖用種苗の育成試験報告書
三重県尾鷲栽培漁業センター
目的
アワビは長年に渡り県内各地で種苗放流が行われてきたが,海の環境変化等の影響もあ
って現状は資源量の増加に結びついておらず漁獲量は依然として減少傾向にある。このた
め人工生産種苗を用いて養殖アワビを生産しようとする取り組みが始まった。養殖用アワ
ビ種苗は放流用よりも大型の種苗が望まれるため,成長が停滞する夏∼秋季の高水温時に
効率よく大型化する飼育技術が必要となる。そこで,低水温で清浄性の高い海洋深層水(以
下深層水)のアワビ飼育への利用を図るめ,高水温時に,低水温の深層水と常温の濾過海
水を用いて放流サイズに達した 35mm サイズのアワビ種苗を飼育し,成長,生残を比較
することによって深層水のアワビ育成に対する有効性を把握する。
方法
飼育期間は平成 22 年 7 月 1 日から 11 月 30 日までとし、平均殻長 34.3mm(N = 100)
のメガイアワビ飼育群を用いて実施した。試験水槽として有効水量 2 トンの FRP 製巡流
型水槽を 2 水槽使用し,深層水を用いた水槽を試験区,濾過海水を用いた水槽を対照区と
した。各水槽に供試稚貝を 2,500 個体づつ収容した。試験区では試験開始後 15 日間は馴
致期間として濾過海水を使用し,その後深層水を注水して徐々に深層水の混合割合を増や
し 8 月中旬に全量を深層水に切り替えた。使用海水の他は両区とも同じ飼育条件とした。
餌料は市販配合飼料を用いて週 3 回給餌し,残餌量を見て給餌量を決定した。アワビの排
泄物,残餌,死亡個体等の除去作業を適時行った。死亡個体の集計は週 1 ∼ 2 回行った。1
時間あたり 1.5 トンの注水を行い,水槽内水温を毎日午前中に測定して飼育水温とした。
試験の開始から中間点にあたる 9 月中旬および試験終了時に各区 100 個体について殻長測
定を行った。
結果
試験期間中の飼育水温と給餌量を図 1 に,成長と死亡数を図 2 に,試験結果の概要を表 1
にそれぞれ示した。平均飼育水温は試験区 17.6 ℃,対照区 22.9 ℃であり両者で約 5 ℃の
差が生じた。供試貝の摂餌状況は試験区より対照区で良好であり,総給餌量は対照区が上
回った(表 1)。しかし最終的に成長は試験区が優れ約 2mm の差が生じた。これは試験区
の餌料効率が優れていたことを示唆しており,飼育水温の違いが影響したと考えられる。
生残率は表 1 に示すように,試験区の 87 %に対して対照区は 64 %と試験区より低い結果
となり,成長よりも明確な差が見られた。図 2 に示すように対照区の水温が 25 ℃前後に
達した時期に両者の死亡数に明確な差が生じており,成長と同様に飼育水温差が関連して
いると考えられた。
一般的に飼育下におけるアワビは夏∼秋の高水温期に成長が停滞し,減耗率も高いと言
われている。今回,その該当時期に低温で安定している深層水を用いて飼育したところ成
長,生残ともに従来の飼育方法よりも優れた結果が得られた。海洋深層水の低温生および
清浄性はアワビ稚貝の成長促進および生残率の向上に寄与し,今後,海洋深層水は養殖用
の大型アワビ種苗を供給する上で有効に活用できると言える。
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