尾陰由美子のちょっとひとこと 「インストラクターの表現力アップⅡ~ボディイメージ~」 今月もインストラクターの表現力について書かせていただきます。前月号は、 「緊張とリラックス」 「自己開 示」について書きましたが、今月は「自分の身体に出会う=ボディアウェアネス(気づき) 」についてです。 皆さんは、自分の身体を全て触れたことはありますか?毎日の洗顔やメイクで顔は触れますね。コンディショ ニングに熱心方は、ストレッチをしながら自分の身体に触れることでしょう。また手足のお手入れやマニキュア などで指先、つま先も触るかもしれません。でも、背中や肩甲骨の間、肋骨や鎖骨の間、指の間や耳の穴なんて 場所はなかなか触れることもなければ、身体が硬いと触れることは難しかったりもします。私たちの身体という のは、感覚を通して入った情報が脳に刺激を与え、身体に何らかの変化をもたらします。可愛い子犬を見て思わ ず笑顔が出たり(視覚) 、素敵な音楽を聴いて表情が和らいだり(聴覚) 、心地よい匂いを嗅いで身体がリラック スしたり(嗅覚) 、香ばしい匂いに食欲がわいてウキウキしてきたり(味覚)します。当然、身体に触れる(触角) という刺激は、ダイレクトに身体に変化をもたらしてくれます。やさしくそっと手を添えてくれると気持ちが落 ちついたり、リズミカルに手拍子をすると身体が動きやすくなったり、強く触れると身体が緊張したりとさまざ まです。このように感覚を受け取って、それが身体にどのように影響をもたらすのか、変化するのか客観的に知 ることで表現力を磨くことができるのです。 私は、ここ数年パーソナル指導をする機会が増えたことから、クライアントの身体に触れる機会も増えてきま した。そんな中で感じるのが、ボディへのタッチングによる効果とタッチングの受け取り方は人さまざまという ことです。たまたま、いつもレッスンを受けてくださる方で、表情の乏しい比較的体の硬い方がいらっしゃいま した。彼女のパーソナルをする中で、ボディアウェアネスが乏しく、自分の身体に対するボディイメージが希薄 なことに気づきました。運動前後の身体の変化が、自分で感じられない。私が投げかけるキューに対して身体を 上手く操ることができないのです。その結果、頭(理屈)では運動の効果は理解しているものの、身体として感 じられないために表情にも変化が現れません。私もまだパーソナル経験が浅かったために、必死で「○○はこう して!」 「△△を意識して!」 「もっと××して!」なんて言葉をかけながら指導をしていたのです。言っても言 ってもなかなかいい反応が得られず、今度はクライアントの方の身体をサポートしたり、触れてみたり、マッサ ージをしたり必死になってみましたが、クライアントの方も一生懸命取り組んでくださるもののやはり目的の反 応が出ず・・・ということがありました。今にして思えば、クライアントの方にプレッシャーをかけるばかりで、 緊張を強いてしまい、クライアントの目的がいつのまにか自分の思い通りにしようとする自分勝手なアプローチ になっていたことを恥ずかしく思います。パーソナルトレーナーとして萎えそうになる気持ちでしたが、あると き「とりあえず効果が出なくてもいいや!私との時間を楽しいって言ってくださるのでおしゃべりだけでも・・・」 なんて半ばあきらめモードでパーソナル指導をしていたとき、いつもよりボディタッチも少なく、動きも完璧で はありませんでしたが、 「そうそう、自分のリズムで・・・」 「楽しいこと考えながら・・・」 「ダンサーになった つもりで・・・」なんてあいまいな言葉をかけながら進めていくと、いつになく身体がどんどんリラックスして できなかった動きができていたのです。 「いやぁ~~!すご~~い!できたぁ~~!」なんて叫んでいると、その クライアントの方の顔がきょとんとした顔から嬉しそうな顔に変わり「何も考えてないけど、股関節が動いてい るのが感じられる!」という初のボディアウェアネスの言葉が出ていました。心と身体が一致した瞬間ともいえ ます。それ以降、現在も彼女は私のパーソナルをずっと続けてくださっていますが、今では見違えるような動き、 表情、言葉を発してくれています。彼女の思いがいつも表現豊かに身体に現れてきます。 このことから、インストラクターとして表現力が乏しい方の比較的共通点として、自分のボディイメージに対 してネガティブだったり、ボディアウェアネスを持てていなかったりすることに気づきました。表現力豊かなイ ンストラクターになるためには、素敵なボディラインや運動能力がないといけないと思っている人も多いことに 気づきました。私からすると、どんなにスタイルがよくても柔軟性や筋力があっても、それと表現力はまったく 別のものと思っています。スタイルや運動能力は素材(材料)にしか過ぎません。それをどのように使う(調理) するかということです。 少々傷がついていても形がいびつでも調理するとすごくおいしいお料理ができるように、 素材の旨みや特徴をどのように活かせばいいのか知らなければ、おいしいお料理ができないのと一緒です。 インストラクターの皆さんもまずは素材としての自分を知ることが必要です。そのために自分の身体を知るこ とです。さまざまな感覚(五感)を通して自分の身体が、どのように感じ、変化するのか客観的に知ることです。 自分の身体をいつも鏡を通してしか感じていない人は、目を閉じて自分の身体がどのように動き、どのように見 えているのかイメージをすることです。さらに、目を閉じて人の身体に触れてみて、手がどのようになっている のか、足がどこにあるのかまさぐって、イメージを組み立てていくトレーニングなどもしてみましょう。日本人 の感覚では、他人の身体を触れることは「タブー」な感じもありますが、外国人は初対面でも握手、ハグ、キス といったように身体に触れていきます。そうしてあの豊かな表現力が生まれてきたのかもしれません。少し話は それますが、大阪のおばちゃんたちは、やたら他人の身体を触ります。そのせいか表現力豊かな気がするのです が・・・ということで、インストラクター同士お互いの身体に触れて、身体を学び、感じ、イメージしていくこ とをオススメします。 次に、身体に触れることに対してネガティブな方もいらっしゃいます。パーソナル指導の中では、 「セクハラ」 と言われないような気遣いが生まれますが、もともと人は、 「手当て」という行為があるくらいですから手を身体 に当ててもらうと安心して心と身体が落ち着いてくると私は思っています。ただ、自分の身体に対してネガティ ブなイメージを持っている方やコンプレックスを抱いている方は、身体を触れることに関して緊張感が生まれま す。そんなときに用いるといいのが、バーバルを通してのイメージです。身体は、ポジティブなイメージを与え ていくと余計な緊張感が取れて、身体がスムースに動けるようになります。柔軟性や筋力、バランス感覚もよく なります。逆にネガティブなイメージを与えると強い緊張が生まれ、身体が思うようにコントロールできなくな ります。自分の感情が身体に与える影響は、非常に大きいのです。インストラクターの精神状態、心のありよう がすべて身体に現れると言っていいでしょう。リラックスした表現力豊かなインストラクターのレッスンを受け ているお客様は、表情豊かにのびのびとレッスンを受けています。一生懸命レッスンを務めて頑張りすぎている インストラクターのレッスンを受けているお客様の表情は、真剣そのものかもしれません。 時代は確実に心の健康、心と身体の解放による健康づくりにシフトしようとしています。お客様の真の健康づ くりのお手伝いを考える今、インストラクター自身が、心と身体を解放して、表現力豊かに生きていくこと、現 場に立つことを考えてみませんか? * 鴻上尚志著「表現力のレッスン」講談社 とても参考になる一冊です。
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