ω-6/ω-3 脂肪酸比率を改善したコロンブス・コンセプト・デザイナーエッグ

Foods Food Ingredients J. Jpn., Vol. 211, No.11, 2006
ω-6/ω-3 脂肪酸比率を改善したコロンブス・コンセプト・デザイナーエッグと乳児用食
品産業への応用
Jeong S. Sim a,b)
a) Professor Emeritus of Nutrition and Product Technology, University of Alberta
b) Columbus Paradigm Institute S.A., Waterloo, Belgium
Summary
食事で摂取する脂質が冠状動脈性心臓病の発生に影響することが一般にも知られるようになってから、
消費者の卵に対して抱く印象が悪くなっていった。即ち、「食事で心臓病対策を」と提唱する人々が、
卵を避けるべき食べ物として特定したために、世界中で卵の消費が大幅に減少するという事態になっ
てしまった。そして、卵に含まれているコレステロール成分を大幅に減らそうとする研究が、遺伝学
的・栄養学的・薬理学的のいずれの研究手法によっても、ことごとく失敗した。そこで研究者は、従
来卵に含まれていなかったり、含まれていてもわずかでしかなかった栄養成分の供給源として卵を利
用するという、即ち、好ましくないものを減らすのでなく好ましいものを増やすという、より積極的
な卵の利用法に注目し姶めた。
一方、食品に含まれるω-3 脂肪酸の健康促進効果が知られるようになってから、アマニ油、キャノー
ラ油、藻類または魚油のようなω-3 脂肪酸含有食品素材の入った畜産加工品が次々に発売されるよう
になった。このような畜産業界の中でも、卵業界は、おいしい・安い・栄養価が高いという卵が従来
から持っていた価値をさらに高める新テクノロジーの開発に非常に積極的であった。その種のテクノ
ロジーのひとつが“デザイナーエッグ”で、これは卵の持つ機能性、高い栄養価、おいしさといった
長所を温存したまま、その脂質成分を大幅に変えている卵である。
乳児用調製粉乳が第一の目標としていることは、母乳で育つ乳児の成長・発育の仕方をまねることで
ある。その方法のひとつは、DHA(ドコサヘキサエン酸)と AA(アラキドン酸)の両方を含んでいる母乳
の成分をまねることである。業界、学界共に DHA と AA の両方、あるいはω-3 とω-6 の両方の長鎖
多価不飽和脂肪酸(LC-PUFA)を含んでいる新たな油脂原料を探している。最近、我々は産卵鶏にα
-LNA(リノレン酸)入り飼料を与えることで、卵に含まれている AA の大部分を維持しながら DHA の
量を増やし、ω-6/ω-3 の脂肪酸比率を約 20 から約 1 に減らすことができた。従って、鶏卵は、母乳
の脂肪酸組成をまねるために必要不可欠な DHA と AA の、有力な供給原料となり得る。
本論文の目的は、①ヒトでの母親/胎児/新生児‐間の栄養研究モデルの参考となるニワトリでの卵/ニワ
トリ胚/雛-間の栄養研究モデルにおける、αリノレン酸から DHA に至る代謝の研究、②産卵鶏の飼
料に手を加えてω-3 脂肪酸を含むエッグオイルをデザインする研究、そして③デザイナーエッグオイ
ルの新生児の栄養補給や乳児用調製粉乳への応用に関する研究、という一連の研究を紹介することで
ある。そして本論文は、
“コロンブス・コンセプト・エッグ”という LC-PUFA を増量した卵、即ち DHA
と AA の両方を含む卵について、①その卵自体の広範囲に及ぶ栄養学的意義と、②その卵の製品化(即
ち、ω-6 脂肪酸よりも必要とされるω-3 脂肪酸を供給するためのエッグオイルの生産)の 2 点に重点を
置く。
コロンブス・コンセプト・エッグは世界各地で“シム博士のデザイナーエッグ”、コロンブスの卵、クリ
ストファー・エッグ、ダイエット・エッグ、ヴィヴィアン・エッグ、あるいはその他の商品名で知られて
いる。本論文に於いては、“デザイナーエッグ”もしくは“DE”と呼ぶことにする。