「草本系原料からの糖液製造技術「CaCCO プロセス」の概要と展望」 食品素材科学研究領域 糖質素材ユニット長 徳安 健 セルロース系バイオマス原料を糖化し、燃料用エタノール(バイオエタノール)に変換するための 技術開発や、化学合成原料を体系的に製造するためのバイオリファイナリー技術開発が、国内 外で活発に行われている。これらは、温室効果ガスの発生を抑制し、石油資源の供給リスクを克 服するための環境技術として位置づけられており、バイオエタノールについては、年間数十万ト ンの原料を処理する大規模プラントの商用化が目標となっている。このため、我が国では、海外 大規模プランテーションによる低コスト生産をめざしている。 それに対して、国内でのバイオエタノール製造を考えた場合、この製造規模に見合う量の原料 供給は極めて困難となる。農山漁村地域の活性化をめざす農林水産省では、原料規模 6 万トン 程度、またはそれ以下での小規模バイオエタノール製造プラントを想定している。このような小規 模製造では、スケールメリットが発揮されず製造コストが大きくなる一方で、地産地消によるエネ ルギー安全保障などの総合的効果を考慮し、地域に貢献できるシナリオを創り出すことが期待さ れている。 国内地域での有望なセルロース系原料としては、林地残材のほか、稲わら、麦わら等の農産 廃棄物、サトウキビバガスや廃菌床などの食品製造廃棄物、そして、エリアンサスやススキなど の資源作物が挙げられる。この中で、稲わらについては、木質系原料と比較してリグニン沈着度 が低く、酵素糖化に先立つ前処理条件が穏和で済むことや、原料の乾燥・収集や貯蔵に関する 基盤技術が整備されていることから、実用性が高いと考えられる。また、資源作物であるエリア ンサスやススキについては、土地当たりの乾物収量が稲わらの数倍となり、原料コスト上の大き いメリットをもつことが期待されている。 当所では、稲わら、エリアンサス等の草本系原料を用い、発酵性糖質およびバイオエタノール を小規模製造できる技術の開発を進め、水酸化カルシウム前処理を軸とした簡素な工程 「CaCCO(Calcium Capturing by Carbonation、炭酸ガス吹き付けによるカルシウム捕捉)プ ロセス」を提案するとともに、要素工程の高度化を進めてきた。その結果、今回、kg 規模の試験 により 15%(w/v)を超える高濃度の糖液を得ることができたので報告する。また、本技術により、 グルコースとキシロースが地域から湧き続けるシステムが完成した場合には、バイオエタノール 製造のみならず、多様な地域バイオ産業の創出に繋げられるものと期待される。本発表では、こ のような、小規模糖質プラットホームの展望について解説する。 図 CaCCO プロセスの概要
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