食品の微量ミネラル元素 - 日本食品分析センター

食品の微量ミネラル元素について
No.61
Feb.
1/3
2007
食品の微量ミネラル元素について
はじめに
2004 年 12 月 に 厚 生 労 働 省 か ら「 日 本 人 の 食 事 摂 取 基 準 (2005 年 版 )」が 公 表 さ れ ま し た 。
今回の改定は「第 6 次改定日本人の栄養所要量−食事摂取基準−」以来であり,微量必須
ミ ネ ラ ル 元 素 で あ る ク ロ ム ,セ レ ン ,モ リ ブ デ ン ,ヨ ウ 素 に つ い て も 見 直 し が さ れ ま し た 。
こ れ を 受 け て 2005 年 7 月 ,「 栄 養 表 示 基 準 」 も 改 訂 さ れ ま し た 。 栄 養 表 示 基 準 で は ナ ト リ
ウムは必須表示項目であり,亜鉛,カルシウム,鉄,銅,マグネシウムは強調表示項目と
して挙げられています。その他の栄養表示することができる元素のうち,生体にとって微
量ではあるが,必要なミネラル元素として,クロム,セレン,マンガン,ヨウ素がありま
す 。 今 回 は こ れ ら の 微 量 ミ ネ ラ ル に 加 え て , 日 本 人 の 食 事 摂 取 基 準 (2005 年 版 ) [以 下 , 食
事 摂 取 基 準 ]に 設 定 が あ る モ リ ブ デ ン を 対 象 に し て ,そ の 機 能 と 含 有 す る 食 品 に つ い て ご 紹
介します。
クロム
微 量 ミ ネ ラ ル と し て の ク ロ ム は 3 価 の ク ロ ム を 指 し ま す 。ク ロ ム に は 2 価 ,3 価 ,6 価 の
クロムが存在しますが,毒性を持つ 6 価のクロムは一般的には人為的に産生されるもので
あ り ,自 然 界 に は 3 価 以 外 の ク ロ ム は ほ と ん ど 存 在 し ま せ ん 。ク ロ ム は グ ル コ ー ス 耐 性( 耐
糖能)に関与すると考えられています。クロムの補給でインスリンの活性が上がり,クロ
ムの欠乏でインスリンの糖感受性が低下したという報告があります。3 価のクロムの吸収
率 は 0.1∼ 0.5%と 非 常 に 低 い た め に , 過 剰 摂 取 の 影 響 を 調 べ た 研 究 は ま だ 不 十 分 で す 。 そ
のため,食事摂取基準でも上限量が設定されませんでした。なお,食事摂取基準では,性
及 び 年 齢 階 級 ご と の 人 口 に 基 づ い て 加 重 平 均 し た 値 (栄 養 素 等 表 示 基 準 値 )と し て 30μ g/
日が示されてされています。この値は栄養表示基準における基準値算定の根拠になってい
ます。
ク ロ ム は ,肉 類 (例 : 鶏 肉 26μ g/ 100g ,豚 肉 10μ g/ 100g ,牛 肉 9μ g/ 100g ),穀 類
(例 : こ む ぎ 8μ g/ 100g , こ め 4μ g/ 100g ), 野 菜 類 (例 : キ ャ ベ ツ 4μ g/ 100g , ほ う
れ ん そ う 3μ g/ 100g )と 広 い 範 囲 の 食 品 に 含 有 さ れ て い て ,醸 造 用 酵 母 や 動 物 の 内 臓 に は
比 較 的 多 く 含 有 さ れ て い ま す 。 ま た , 「こ し ょ う 」に 370μ g/ 100g , 「と う も ろ こ し 油 」に
47μ g/ 100g , 「は ま ぐ り 」に 44μ g/ 100g 含 ま れ て い る と い う 報 告 も あ り ま す 。
セレン
セレンは過酸化水素などを分解する酵素であるグルタチオンパーオキシダーゼの構成成
分であり,還元作用に関係しています。欠乏症として,中国のセレン欠乏土壌地域で発生
した「克山病」という心筋障害がよく知られています。克山病は亜セレン酸塩の投与で発
症を予防できます。この病気は体内のコレステロールが酸化されることで起こり,セレン
はその酸化を防いでいると考えられています。
栄 養 素 等 表 示 基 準 値 は 23μ g/ 日 と さ れ て い ま す 。
一方,セレンは過剰摂取するとセレン中毒を起こし,毛髪と爪の脆弱化をはじめ,胃腸
障害,神経障害,腎不全,心筋症などを発症すると報告されています。そのため,食事摂
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取 基 準 で は 必 要 量 だ け で な く 上 限 量 も 設 定 し て お り ,そ の 値 は 成 人 男 性( 18∼ 69 歳 の 区 分 )
で 450μ g/ 日 , 成 人 女 性 ( 18 歳 以 上 の 区 分 ) で 350μ g/ 日 と さ れ て い ま す 。
セ レ ン は 「い わ し 」で 140μ g/ 100g ,「か れ い 」で 82μ g/ 100g,「は ま ぐ り 」で 17μ g/ 100g
含まれるという報告があることからもわかるように魚介類に豊富に含まれているほか,藻
類 (例 : こ ん ぶ 81μ g/ 100g ),卵 類 (例 : 鶏 卵 24μ g/ 100g ),肉 類 (例 : 豚 肉 16μ g/ 100
g ), 乳 類 (例 : 牛 乳 6μ g/ 100g ), に も 比 較 的 多 く 含 ま れ て い ま す 。
マンガン
マンガンはアルギニン分解酵素,乳酸脱炭酸酵素,マンガンスーパーオキシドディスム
タ ー ゼ (MnSOD)の 構 成 成 分 と し て 必 須 の 元 素 で す 。欠 乏 す る と 骨 代 謝 ,糖 脂 質 代 謝 ,皮 膚 代
謝などに影響を及ぼすと考えられています。しかし,一般的な食事でマンガンが欠乏する
可能性は低いと考えられています。むしろ,マンガンは鉄と拮抗作用を示すため,過剰摂
取によって鉄の吸収を阻害することが知られています。
栄 養 素 等 表 示 基 準 値 は 3.5mg/ 日 で あ り , 上 限 量 は 11mg/ 日 で す 。
マ ン ガ ン は 穀 類 (例 : こ む ぎ 2.2mg/ 100g, 玄 米 1.8mg/ 100g, 精 白 米 0.49mg/ 100g),
豆 類 (例 : だ い ず 1.90 mg/ 100g, グ リ ン ピ ー ス 0.48 mg/ 100g), 野 菜 類 (例 : せ り 1.24 mg
/ 100g, ス イ ー ト コ ー ン 0.32 mg/ 100g, ほ う れ ん そ う 0.24 mg/ 100g), 茶 類 (例 : せ ん 茶
の 茶 葉 49.8 mg/ 100g
せ ん 茶 の 浸 出 液 0.40 mg/ 100g)に 多 く 含 ま れ て い ま す 。 ま た , 果
実 類 で は 特 異 的 に 「パ イ ン ア ッ プ ル 」に 多 く 含 ま れ て い る (0.76mg/ 100g)こ と が 知 ら れ て い
ます。
ヨウ素
ヨウ素は甲状腺ホルモンの必須構成元素です。ヨウ素欠乏の代表的な症状は甲状腺腫で
す。世界的には欠乏状態の国が多く,ヨウ素の摂取を増やすよう呼びかけています。
日 本 人 は 海 産 物 に よ り ヨ ウ 素 を 多 量 に 摂 取 す る た め ,ヨ ウ 素 欠 乏 は ほ と ん ど あ り ま せ ん 。
ヨウ素は過剰摂取によっても甲状腺機能低下,甲状腺腫などを引き起こします。しかし,
日本人は恒常的な多量摂取により,過剰摂取の症状が起こりにくいといわれています。
栄 養 素 等 表 示 基 準 値 は 90μ g/ 日 で あ り , 上 限 量 は 3000μ g/ 日 で す 。
ヨ ウ 素 は ,「わ か め 」で 7,800μ g/ 100g,「あ ま の り 」で 6,000μ g/ 100g,「寒 天 」で 1,400
μ g/ 100g 含 ま れ る な ど の 報 告 が あ る よ う に 海 産 藻 類 に 圧 倒 的 に 多 く 含 有 さ れ て い て , 特
に 「こ ん ぶ 」の 含 有 量 が 高 く ,130,000μ g/ 100g 含 有 し て い る と の 報 告 が あ り ま す 。他 に 「マ
ー ガ リ ン 」に 85μ g/ 100g, 「食 パ ン 」に 17μ g/ 100g 含 ま れ て い る と の 報 告 が あ り ま す 。
モリブデン
モリブデンは亜硫酸オキシダーゼ,キサンチンオキシダーゼ,アルデヒドオキシダーゼ
の 構 成 成 分 と し て 存 在 し ま す 。こ れ ら は プ リ ン ,ピ リ ミ ジ ン を 含 む 複 素 環 式 化 合 物 を 酸 化 ,
無毒化しています。モリブデンは吸収率がよく,通常の食品を摂取している限り欠乏する
ことはほとんどありません。過剰になったモリブデンは尿により排泄されますが,むしろ
モリブデンの過剰摂取により,銅との拮抗作用を引き起こすと考えられています。
栄 養 素 等 表 示 基 準 値 は 17μ g/ 日 で あ り , 上 限 量 は 成 人 男 性 ( 18∼ 69 歳 の 区 分 ) で 300
∼ 320μ g/ 日 , 成 人 女 性 ( 18∼ 69 歳 の 区 分 ) で 240∼ 250μ g/ 日 と さ れ て い ま す 。
モ リ ブ デ ン は 穀 類 (例 : こ む ぎ 37μ g/ 100g, 玄 米 41μ g/ 100g, 精 白 米 24μ g/ 100g),
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豆 類 (例:だ い ず 110μ g/ 100g)に 多 く 含 有 し て い ま す 。ま た ,「豆 腐 」に 24μ g/ 100g,「食
パ ン 」に 16μ g/ 100g 含 ま れ る と い う 報 告 も あ り ま す 。
おわりに
微量ミネラル元素は食品中の含有量が少ないため,これまで分析技術が追いつかず,摂
取 量 な ど の 把 握 が 難 し い 分 野 で し た 。し か し ,ICP-MS( 誘 導 結 合 プ ラ ズ マ − 質 量 分 析 装 置 )
などの高感度分析装置の発達とともに,測定技術が進歩しています。今まで捉えられなか
った濃度域でも数値として把握することができるようになりつつあり,将来,ここでご紹
介したこれらの元素についても食品機能成分としての評価が広がっていくことでしょう。
参考資料
・ 第 一 出 版 編 集 部 編 : 厚 生 労 働 省 策 定 日 本 人 の 食 事 摂 取 基 準 (2006 年 版 ) , 第 一 出 版
( 2005)
・ 「 日 本 人 の 食 事 摂 取 基 準 (2005 年 版 )」 の 策 定 に 伴 う 食 品 衛 生 法 施 行 規 則 の 一 部 改 正 等
に つ い て (平 成 17 年 7 月 1 日 付 け 食 安 発 第 0701006 号 )
・ 渡 辺 正 雄 : 新 ・ ミ ネ ラ ル 栄 養 学 , 健 康 産 業 新 聞 社 ( 1996)
・ 鈴 木 泰 夫 : 食 品 の 微 量 元 素 含 有 量 , 第 一 出 版 ( 1993)
・ 糸川嘉則:最新
ミ ネ ラ ル 栄 養 学 , 健 康 産 業 新 聞 社 ( 2000)
・ 香川芳子監修:五訂増補
食 品 成 分 表 2006, 女 子 栄 養 大 学 出 版 部 ( 2005)
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ミニ知識
2005 年 7 月 1 日 の 栄 養 表 示 基 準 改 正 で は ,こ れ ま で の カ ル シ ウ ム ,鉄 に 加 え て 亜 鉛 ,マ
グネシウム,銅が追加されました。また,食事摂取基準では微量元素としてクロム,モリ
ブデン,鉄,銅,亜鉛,セレン,ヨウ素に推定平均必要量及び推奨量が,マンガンに目安
量が策定されました。
こ れ ら 栄 養 ミネラル成 分 の 栄 養 表 示 基 準 値 を 下 表 に 示 し ま す 。
栄養成分
単位
栄養素等表示基準値
栄養成分
単位
栄養素等表示基準値
ナトリウム
mg
3500
ヨウ素
μg
90
カルシウム
mg
700
マンガン
mg
3.5
鉄
mg
7.5
セレン
μg
23
リン
mg
1000
亜鉛
mg
7.0
マグネシウム
mg
250
クロム
μg
30
カリウム
mg
1800
モリブデン
μg
17
銅
mg
0.6
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