「肉眼解剖学・神経解剖学」 「放射線科」 - J

信州医誌,56⑹:409,2008
私がなぜ現在の科目を選んだか
「肉眼解剖学・神経解剖学」
信州大学医学部人体構造学講座
川
岸
久太郎
私が肉眼解剖学の最初の教えを受けたのは人体構造
学講座がまだ第2解剖学講座だった時代,先代教授の
清水義房先生の最後の学生として授業を受けたときで
した。当時はラテン語中心の講義で大変難しく,手探
りでご遺体から勉強させていただいていたというのが
正直なところでした。そのような状態では案の定,試
験の出来は散々で,自分自身の勉強不足を痛感させら
れました。
このため,進級した後も清水先生の後任として赴任
された森泉哲次教授にお願いをし,卒業までの毎年,
後輩の解剖実習に参加させていただき,引き続き解剖
学を勉強させていただきました。解剖学は研究しつく
された学問であるとおっしゃる方もいらっしゃいます
が,私自身は何度解剖実習に出ても毎年新たな発見が
あり,
人の体の精巧な構造と,またそれに見合った作用
があることに非常に感銘を受けたことを覚えています。
卒業を控えた頃,よりしっかりと勉強するために大
学院進級を えていたとき,森泉教授より解剖学講座
スタッフとしてのお誘いを受け,それが人体構造学講
座に所属するきっかけとなりました。
その後,森泉教授や第2内科前教授の清澤研道先生
のお計らいで臨床研修も受けさせていただきましたが,
私自身は臨床に接すれば接するほど解剖学や生理学な
どの基礎科目の重要性を思い知らされました。
現在,医学部2年生の神経解剖学と3年生の肉眼解
剖学実習で指導しておりますが,私自身は臨床も絡め
て出来るだけわかりやすい授業を行うように努めてい
ます。また解剖学という特性上,御献体いただいた
方々のご遺志を継いで,医学生が良き医師となるよう,
医療倫理や医療従事者としての心構えも理解してもら
えるようにと えて指導しています。
このようにマクロの解剖をきっかけに解剖学講座に
進みましたが,研究としては教室のテーマである神経
科学に関する研究,特に障害を受けた中枢神経系の再
生や機能を研究しております。こちらも非常に興味深
い分野であり,多くの学生に興味を持っていただけれ
ばと思っています。
(信大平11年卒)
私がなぜ現在の科目を選んだか
「放射線科」
信州大学医学部画像医学講座
高
橋
正
明
学生時代のポリクリで医療現場における画像の重要
性,おもしろさに魅かれて当時から入局を えていた。
画像の中には犯人(主病変)が必ず潜んでいる。数あ
る容疑者(鑑別疾患)の中から証拠(画像所見,カル
テや検査値,他科の検査,場合によってはさらなる画
像検査)を集め,それらから推理(読影)し,絞り込
んでいく。自分の力不足が直接結果として現れる。自
分の出した結果によって,緊急性があるのか 切除
すべきものなのか どこに病変があるのか どの治
療を選ぶべきなのか といったことに大きく関わっ
てくる。一方で同じ様な画像を呈しても,原因が違う。
逆に原因は同じでも画像上では違う見え方をしてくる。
一筋縄ではいかないのがまたやりがいをそそられる。
正直なところ,入局前まで救命救急と悩んでいた。
画像所見ではなく,患者の身体所見や検査値を主体と
No. 6, 2008
して絞り込んでいくところと,それらを短時間に判断
しなければならないことに興味があったからだ。散々,
迷った挙句に放射線科に入局したのは「どの科に行っ
ても一度はちゃんとやってみたかった科」となりそう
だからである。
実際の業務は読影だけでなく IVR があり,直接患
者と接して治療や検査を行っている。特に動脈性出血
に対する緊急止血目的の IVR などは緊急手術に負け
ないくらいに緊張感がある。時間,患者の体力との勝
負を迫られるからだ。これがあるから放射線科を選択
したというのもあるかもしれない。
また,放射線治療も末期患者の疼痛や QOL 改善と
いった対症療法はもちろんのこと,根治治療としても
重要な役割となっている。他科からの依頼照射だけで
なく,当科でも化学放射線療法も行っており,非常に
やりがいがある。
たいていの人は放射線技師と混同しているのが実情
だ。だが,医療の世界に入ったものならば放射線科の
重要性は身にしみることになる。Doctors Doctor と
呼ばれる所以だと思う。ひとつの重要な分岐点である画
像という立場から患者のために主治医に suggestion
できるよう,日々努力している。 (信大平17年卒)
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