F-3 木造建築分野の技術及び規制、脅威と機会 CSTB構造防火安全部課長代理 ステファン・アムリ ------------------------------------------------------------------------------------CSTB、建築科学技術センターは、エコロジー・持続可能な開発・エネルギー省及び国土建設 省の管轄にあり、フランス全土に建設される建築物の質、そして安全性を高めることを目的とし た公的な機関である。研究、実験、技術評価、そしてこれらによって得られた知識を世に広く普 及させること、の大きな4つの務めがある。 木造建築産業を発展させていこうという国の施策のもと、2007年より「シネル・ボア・パート ナー(Syner Bois Partners)」として、CSTBとFCBAは、林業からはじまり、伐採した木材の 一次加工から製品加工、それを建築に使う流れの中で、民間企業に対し、革新的な技術開発など を支援する活動を一緒に行っている。 いままでフランスでは木造建築はそれほど発展してこなかった。歴史をさかのぼってみると、 15~16世紀前には国土全体の4分の3を森林が占めていたが、15~19世紀に森林を伐採し農地に したため減少していった。1789年のフランス革命まで森は王室の所有林だったが、革命後、共和 政府になると王室の手を離れ、森が荒廃してしまった。森が荒廃する一方、1779年には、フラン スの南西部のとても広い沼地帯に涵養性の松を植林し、それが今では、100万ヘクタール以上の 世界一の人工植林の森になっている。ただ残念ながら、こうした森林の木は建材には使用されず、 紙パルプ用材になっている。 19世紀を境に森林面積は増え、20世紀の初頭には、木を建築に利用したり、木製品にする木材 産業の分野が活気を帯びてくるようになった。 集成材の歴史をみると、16世紀の王室建築家、フィリベール・デローム(Philibert Delorme) は接着剤を使用せず、様々な木を集成して一つの材料とし、船底屋根に使っていた。実際に集成 材がフランスに広まったのは、19世紀に入ってからである。 現在では、異なる素材の構造体の組み合わせによる革新的な木造建築がマーケットシェアを伸 ばしている。フランス北東部の都市メス(Metz)にできたポンピドゥーセンター・メスは、内部 構造にコンクリートと鉄骨が使われ、屋根組みには木が使われている。屋根の形状は、中国の人々 が伝統的にかぶっていた帽子をイメージしている。この屋根の認定は、CSTBが行っており、構 造体にどのくらいの力がかかるのかという構造実験をしたからこそ、この設計が可能となった。 木材の屋根組に膜材を張ったが、テスト中に雪が降り、雪の重みで膜に穴が開いてしまったこと があった。 革新的な技術を実際の建築の中に使うことができるようにするには、いくつかの評価段階があ る。フランス国内の評価だけではなく、EU レベルとしての評価、認定を受けなければならない ということが、どの建材にもいえることだが、それが、使用する際のネックになっている場合も ある。 建築の基準がつくられた1950年~2000年は、フランス国内における木造建築は、技術的な遅れ の問題やシェアが少なかったこともあり建築基準の中に木造建築に関する項目がない。そのため、 木造建築は従来の工法ではなく新たな工法とみなされ、全ての評価ステップ、承認ステップを通 らなければならない。 CSTB における評価方法は、複雑な手順を踏んでいく必要があり、フランス国内でプレハブ等 の特別な工法で施工する場合、CE マークやEU レベルの認証を事前にとる必要があり、10人ほ どしかいない小企業にとってみれば、大変な手間になる。 しかし、EU のローカーボン政策がこうした傾向を覆す方向にきており、2007年3月に、 ・温室効果ガスを2020年までに1990年比20%削減する ・エネルギー効率を20%引き上げる ・2020年までにエネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合を20%に引き上げる という方針が宣言された。これを受けて2007年10月のグルネル環境協議で以下のフランス国内の 目標をたてた。 ・2012年から新しい建築物の年間のエネルギー消費を50kwh/m2以下にし、2020年までにエネル ギーポジティブにする ・2020年までに既存の建築物のエネルギー消費を38%下げる ・2020年までに再生可能なエネルギーの割合を23%にする また、グルネル環境協議を受けフランスの環境指令(法)では、 ・2010年から持続可な方法で管理された森林の木材の承認と公共建築物への優先的使用を進める ・建築物における木材最少使用率を決め、ラベル付けを行い、木材使用量を増やす ことを国として約束している。 EU で打ち出された方針を、フランスでは、木を利用することで、地球温暖化防止、温室効果 ガスの低減、並びに省エネの政策につなげている。 もう一つの政府の対策は、木材産業におけるフランスの貿易赤字の解消である。フランスの木 材供給を増やし、国内産業を伸ばしていくことである。具体的に8 ビルデイングレター 2012.8 は、2010年前までは2dm3/m2だった建築における木材の利用率を、10倍の平均20dm3/m2にする としている。この数字は、住宅の場合、または物流建物の場合、工場建物の場合によって異なる。 住宅はすでに利用比率があるため大して困難ではないが、オフィスビルや工場になると、木の利 用はむずかしい。 今まで木の利用を阻んできた様々な課題を今後改善していくため、業界のあらゆる層の人々が 一堂に集まったワーキンググループによって、30の課題が出され、また、木造建築に関する教育 制度の欠如といった問題が報告された。国はこれらの課題に取り組むため、2009年に500万ユー ロの投資を決めた。 報告内容(フランス語):http://www.developpementdurable.gouv.fr/Bois,13394.html フランスで木造建築を伸ばしていくための2009年から2013年の主な施策の中に木造構造の耐 火性能の課題がある。技術的にはそれほどむずかしくないかもしれないが、実証していくのはむ ずかしい。中層、高層の4階を超える場合には、60分から90分の耐火要求があるが、CSTBで最 近行った、28メートルの高さの建築物についての耐火実験では、耐火90分で、予測した通りの結 果は得られなかった。規制面での難しさより技術面での難しさがある。 また、木造建築、特にティンバーフレームとCLTによる、共同住宅の防音性能をどのように満 たせばよいかを提案していこうと考えている。こうした研究の結果は、先ほどモリニエ氏から紹 介のあったカタログに盛り込まれる予定である。 地震について述べると、フランスでは、近年、地震の危険性を示す地域の地図が一部変更にな った。計算方法が変わり、耐震規制の対象となる地域が増えたことにより、耐震性を的確に証明 することが重要視されている。耐震性を技術的に実証していくための研究を続けているところで ある。 FCBA では、震動テーブルを作り、屋根の骨組み及び壁の木造構造の耐震性を試験し、モデリ ングを行って、木造骨組み構造に対して取るべき措置について提案をしている。この耐震分野の 研究については、日本が進んでいるため、交流していきたい。 木造建築で一番懸念されるのは、どのくらいの耐火性能があるのかという点である。フランス では外壁を木材で囲うニーズや多層階の木造建築のニーズが増えているが、木造の外壁部分の火 の延焼をどのようにしたら食いとめることができるのかが課題である。 耐火・防火に関する規制があるために木造建築が普及しないわけではない。また、どのような 用途の建物であるのか、その中に通常何人程度の人がいるのかによって規制の要求レベルが変わ ってくる。私どもは、耐火、防火の技術的な解決策がまだない、つまり要求基準を満たせるもの がないことが問題だと考えている。
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