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フランスのいわゆる“ソロー封筒”システムについて 2005年1月
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1. ソロー封筒とはどんな物か?
このシステムを発明した人の名前をつけたいわゆる“ソロー封筒”は、二つの封筒部分からなる。
2. ソロー封筒の提出及び保管
ソロー封筒はフランス特許庁で購入する。現行価格は10ユーロ。二つある封筒部分に全く同じ内容物をいれる。表には提
出者または代理人の氏名、住所を記入し、全体をフランス特許庁に提出する。
フランス特許庁は封筒2つにパンチ式シールを施し、ひとつを提出人に返還し、もうひとつを特許庁にて保管する。特許
庁での保管期間は5年間で、さらに5年間の延長が可能である。(10ユーロの延長費用を支払う)
提出人は特許庁から返還されたソロー封筒を開封せずそのままの状態で保存する必要がある。
封筒は5mmの厚さしかない上にパンチシールされるので、かさばるものや液体のようなものは入れることができない。
3. ソロー封筒の役割
ソロー封筒は、提出人がその中身を創作した日、あるいは提出人が中身を知った日を示す証拠とするために使われる。証
拠としてソロー封筒を開示したいときには、所定の費用を払ってフランス特許庁に保管されている封筒の返却を要求す
る。
フランス特許庁による保管期間(5年または10年)が過ぎていて上記の必要がおこった場合には、提出人が手元に保管し
ていたもう一方の封筒を使用することができる。ただし、封筒が未開封のまま保存されていることが条件となる。
4. ソロー封筒システムの存在理由
4.1 著作権保護
ソロー封筒は、創作者が創作日を証明する目的で使用されることが多い。フランスでは著作権は創作日に発生し、一切の
出願手続きを必要としないからである。
また、フランスでは、工業デザインを含む意匠、及び全ての非技術的創作が著作権保護の対象となることに注目すべきで
あろう。
従って著作権侵害紛争において、ソロー封筒の中身が、ある日時において創作者によって創作されたことを証明するため
使用されることがおこる。
4.2 発明
発明者または企業が、ソロー封筒の中身をある時点において知っていた、またはある時点において中身に相当するものを
発明した、ことを証明することをソロー封筒は可能にする。これは次のような場合有用である。
a) 第三者による発明の冒認に対して発明者としての権利を主張するとき、
b)フランス知的所有権法L613-7条が定めるところのいわゆる先行所有権を享受するため、
L613-7条は次のように述べている。
“フランス知的所有権法が適用される領土内で、発明の出願日または優先日より以前に善意で発明を保有していた者は、
発明に関わる特許の存在にも関わらず、特許発明を個人的に実施する権利を持つ。 また、本条文が保障する権利は単独
で譲渡することは不可能で、本権利を所有する商業権、企業、または企業の一部と共にのみ譲渡できる。”
他国のいわゆる先使用権とは異なり、フランスでは、その発明を先に所有さえしておれば、後になって第三者が同じ発明
を特許出願しても、その発明をフランス領土内で個人的に実施するのに十分である。これと同様の法的規定はベルギーの
みに存在する。これに対し他国における発明の先使用権は、特許発明を出願日か優先日より以前に所有していた(知って
いた)だけでは主張できず、発明が既に実施されていたか、実施の真剣な準備がなされていた者によって享受が可能とさ
れている。
5. “ソロー封筒”を発明に関して使用することの限界
a) “ソロー封筒”はそれ自体が法的権利を与えることはない。この点をフランス企業は誤解して“ソロー封筒”に法的権
利を期待することがしばしば行われている。ソロー封筒はあくまで第三者が獲得した特許権の存在にも関わらず先所有権
を主張することをソロー封筒提出人に可能にする材料としてのみ使うことができる、のである。
b)裁判所は“ソロー封筒”の中身を厳格に吟味する。発明の先所有権は特許権の例外規定に相当するため“ソロー封筒”を
根拠に先所有権の主張があるとき、先所有の範囲は封筒に実際に含まれている内容に厳格に制限される。これは判例とし
て定着している。多くの人がこの点も誤解しており、しばしばソロー封筒に発明の詳細な説明を挿入せず、概略にとどめ
る場合が多く見られる。
c)“ソロー封筒”の実効はフランス領土内のみに及ぶ。これは即ち、特許権に対する例外規定の発明先所有権を享受し、
法的にフランス市場に置かれた製品が、並行特許の存在する他国に輸出されたなら、その製品はその国においては特許侵
害品となる可能性がある、ことを意味する。
上述の限界を承知したうえで“ソロー封筒”を使用するフランス企業はもちろん存在する。彼らの主な使用目的は、特に外
国企業との共同開発特許の場合などで、特許出願が具体化するまでの中間措置としてソロー封筒を提出し、万が一の特許
の冒認に備える、ことにある。
Jean-Jacques JOLY ©Cabinet Beau de Loménie - January 2005 翻訳/渡辺恵子
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