地域活性化の現場

Regional Activation
地域が変わる──
★
われかけた
“集落意識”がいまも息づ
地域活性化の現場
いています。それでも若年層の流出、
世代間の意識差といった問題と無縁で
東近江
はなく、
コミュニティーの絆をさらに強め
るためにこの取り組みを始めました」。
◎ 栗見出在家町 魚のゆりかご水田協議会 ▶ http://menbers.e-omi.ne.jp/kurimi-dezaike/
栗見出在家町自治会長で魚のゆりか
コミュニティーがひとつになる。人がつながる。
住民全員で取り組む「魚のゆりかご水田」が
琵琶湖の在来魚保護と地域の活性化を生み出す。
くり み で ざい けちょう
琵琶湖に面し、緑豊かな田園風景が広がる東近江市の栗見出在家町。昨年、
このまちの取り組みが新聞社主催の農業賞の
「特
ご水田協議会代表も務める大林隆三
さんはこう話す。
産卵期になると水田に魚たちが跳
びはねる。かつての琵琶湖沿岸域では
どこでも見られた光景だ。ほ場(田畑)
整備が進んで、琵琶湖の魚たちが産
卵の場を失ったことはニゴロブナなど
子どもたちの田植え体験
生き物と共生する米づくりに
消費者の共感が広がる
田んぼでニゴロブナを確認
地と消費地をつなげる。魚のゆりかご水
田米はそんな役目も果たしている。
次代を担う子どもたちに
琵琶湖や農業への関心を持たせたい
の生息数が減る一因にもなった。
栗見出在家の魚のゆりかご水田も
別賞」
を受賞した。世代を超え、農家と非農家の違いも超えて、
コミュニティーがひとつになって推進する
「魚のゆりかご水田」
プ
琵琶湖の生物多様性の保護、琵琶
その事業のひとつだが、農家のみが取り
ロジェクト。琵琶湖の生物多様性の保護、付加価値の高い米づくり、人のつながりづくりなど多様な成果を地域にもたらしている。
湖の魚を用いた食文化の継承、生き物
組む他の地域と違って、非農家の住民
その一方で「田植えや稲刈りの体
と共生する農業の回復、それらを通じ
も含め地域全体で実施している唯一の
験」、
「水田の生き物調査会」や「魚の
そ じょう
板が等間隔ではめ込まれ、仕切られた
川や湖岸域の水田へ遡上して産卵す
た人のつながりと地域のにぎわいづくり。 まちだ。毎年4月に行われる魚道づくりも、
生態に関する学習会」
といった地域の
部分の水位が階段状に高くなるよう設
る在来魚の習性を利用した「排水路堰
こうしたさまざまな視点から滋賀県は
魚がすみやすい環境を整えるための周
子ども向けイベントにも熱心に取り組む。
計されている。
上げ式水田魚道」だ。
0 2 年 頃から「 魚のゆりかご水田プロ
辺清掃も住民全員が立場や世代を超え
「次代を担う子どもたちに琵琶湖や農
毎年5月中旬になると、水位調整用
排水路に流れ込む水の流れとともに
ブルーギルなどの外来魚も樋門から
ジェクト」を推進し、国と県が進める
「世
て力を合わせる。
「他の地域と比べ実施
業へ関心を持ってもらい、魚のゆりかご
の2カ所の樋門を開けて琵琶湖の水を
ニゴロブナやコイ、
ナマズなど琵琶湖の
入ってくるが、水田へ遡上する習性が
代をつなぐ農村まるごと保全向上対
面積が抜きんでて広く、魚のゆりかご水
水田を受け継いでもらうとともに地元に
農地へと引き入れる。流れ込んだ水の
魚も排水路へやって来て、堰板による
ないため階段状の魚道には入ってこな
策」事業と連動させながら輪を広げて
田米の収穫も多い」
と地元の農業団体
暮らす誇りを感じてもらいたい」からだ
行き先は約21ヘクタールの水田。
7本
段差をさかのぼり、時には勢いよく跳ね
い。
こうして在来魚だけが水田に到達
きた。現在では長浜や彦根、近江八幡
役員の今堀治夫さん。
と大林代表。
の農業用排水路には堰板という木の
ながら水田の中へ泳ぎ込んでゆく。河
し、外敵が少ない環境で産卵や受精を
など県内32地域117ヘクタール
(平成
「魚のゆりかご水田米」は在来魚の
魚のゆりかご水田を始めてから久し
行う。産まれた稚魚の生存率も琵琶湖
23年度実績)
で実施されている。
繁殖が確認された水田でつくられた米
ぶりに手作業での田植えや稲刈りを味
沿岸部と比べ30%と高い。体長2cmほ
で、県の認証を得ている。魚への毒性
わった住民も多い。
「田んぼの水生生
どに育って琵琶湖へ帰って行く6月下
が低い薬剤を使うなど、
「 生き物との共
物を身近に感じる機会になりました」
と
旬まで、
この水田は稚魚たちがゆったり
生に配慮された安心なお米」であるこ
魚のゆりかご水田協議会代表代行の
と育つ
“ゆりかご”
になるわけだ。
とが消費者に伝わりやすい。
「在来魚の
福永章さんは話す。
「以前は水田から
保護に関わりながら、付加価値の高い
魚が消えたことを気にしていなかった
米を生産でき、それが地域のにぎわい
が、私を含め住民の意識がこの7年間
につながっていく。
ゆりかご水田がもた
で大きく変わりました。
まちがはつらつと
この「魚のゆりかご水田」に栗見出
らす多様な波及効果は年ごとに深まっ
してきたように感じます」。
在家の住民が取り組むようになったの
ています」
と今堀さん。
人のつながりと持続可能な地域づく
は開村200年を迎えた2006年からだ。
ピークには3,
525袋(1袋約30㎏)の
りで栗見出在家が得たものは大きい。
「1806(文化3)年に彦根藩から新田開
魚のゆりかご水田米が収穫された。京
当地の成果がどのような展開をみせる
発を命じられ、先人たちが苦労してこ
阪神や首都圏で販売されていて好評
か注目される。今年も琵琶湖の魚たち
だ。生物多様性への関心を通じて生産
が魚道を遡上する季節が巡ってきた。
在来魚だけが水田へと遡上
安全・安心の環境で稚魚が育つ
※ひ もん
せき
産卵の場を失った在来魚保護に
県内各地に広がる
「ゆりかご水田」
の地を開墾してきたためか、他では失
階段状の堰を設けて、魚が遡上できる魚道を整備
魚道での生き物調査会
※樋門─河川などから農業用水などを取水したり、堤内地の水を排水する目的で設けられる施設。
Regional Activation
12 かけはし 2013.5
HIG A SHIO UMI
2013.5 かけはし
11