高速度画像計測の実際 - 映像情報インダストリアル

M/特集/ナック 99.3.29 15:24 ページ 19
高速度画像計測の実際
株式会社 ナック
安藤 幸司
1. はじめに
2. 高速度カメラ
CCD撮像素子が飛躍的な技術成長を遂げている。
高速度カメラは、100コマ/秒から20,000,000コ
固体撮像素子とパーソナルコンピュータの発展で、
マ/秒の撮影が可能である。7タイプ程度のカメラ
高速度画像計測分野も飛躍的な向上を遂げた。こ
が開発されており、その中でCCDタイプとICメモ
こでは、高速度カメラ用撮像素子をはじめ特殊用
リを組み合わせた高速度カメラは、安価で市場性
途に開発されたビデオカメラと画像計測システム、
もあるため10種類程度が市販されている 1)。スポー
特に高速度画像計測分野に使われる装置について
ツ分野の3次元解析にはテープ方式500コマ/秒程
スポットをあててみたい。
度のカメラ(写真1)が使われ、DLT(Direct Linear
10年前までは16mm映画フィルムが中心であった
Transfer)と呼ばれる3次元解析手法によって、バッ
高速カメラも、今やCCDカメラを中心とした固体
トスィングの速度や短距離・長距離走の体の動き
撮像素子に主役の座を譲り、撮影したその場から
を捕らえている。リハビリテーション分野では人
データ解析ができるまでになった。フィルムカメ
体の動きがそれほど速くないので、通常のCCDカ
ラの利用は高解像力に重きをおいた宇宙開発、コ
メラもしくは200コマ/秒程度のカメラが使われ
マーシャル映画分野、劇映画、極限での撮影(砂
る。また、自動車安全実験用として耐衝撃性に優れ
漠のドキュメント、アフリカ探検など)に限られ
たカメラも開発され使用されている(写真2)
。
てきている。一方、ビデオカメラを使った高速度
画像計測は、リアルタイムなデータ解析に重きを
おいた分野に有効で、スポーツ分野(バイオメカ
ニクス)
、医療(リハビリテーション)
、モーショ
ンキャプチャ、自動車安全実験、マシンビジョン、
ロボット工学分野を中心に重要な役割を担うよう
になっている。
そこで、本稿では、高速度ビデオカメラとそれ
を用いた画像解析手法システムの概要について述
べる。
写真1 VHSテープ式カラーハイスピードカメラ
HSV-500C3
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となり、120コマ/秒の撮影速度が必要である。
露出時間は、動きの速い現象を静止させる重要
なファクタである。カメラ側にシャッタがない場
合には、ストロボなどの外部光源で露光を行う。
市販のCCDカメラの電子シャッタは1/1,000秒、研
究分野では、100ナノ秒程度の電子シャッタを切れ
るものがあり(写真3)
、さらにイメージインテン
写真2 小型一体型カラーハイスピードビデオ
「MEMRECAM Ci-4」
シファイアと呼ばれる電子管(写真4)を用いると
3nsまでの露光が可能となる。
また、CCD撮像素子は、撮像面の温度管理を十
分に行うことによりフィルム以上の階調(16ビッ
高速度カメラに求められる主な要求は、
ト=1:65,000)を持つものが現れた。さらには、
2,000×2,000画素で15コマ/秒の撮影ができるCCD
カメラも開発されるに至っている(写真5)
。
・撮影速度
高速度カメラでは記録できる枚数も重要なファ
・露光時間
・記録時間/記録枚数
クタとなる。ほとんどのカメラはICメモリを採用
・レンズ
しており、搭載できるメモリ容量には限界がある。
・操作性
320MBのRAMメモリには、256×256画素8ビット
・拡張性
画像が5,000枚程度格納できる。圧縮技術を用いれ
ば記録枚数は増やせるが、圧縮工程に時間がかか
り撮影速度に追随できないことや、M-JPEGやGIF
である。
撮影速度は、現象の動きを確実に捕らえる重要
なファクタである。物体が振動もしくは回転する
などの圧縮映像は解析に不向きといった問題が指
摘されている。
ものであれば、想定される周波数の10倍程度高い
撮影速度が必要となる。並進運動する物体であれ
ば、撮影範囲内に20枚程度の画像を捕らえなけれ
ばならない。30m/秒で移動する物体を5mの範囲
で撮影するには、
3. 画像計測
前にも述べたように、画像から得られる情報は、
位置情報と濃度情報(カラー情報)
、時間情報であ
る。1枚の映像は、
(30m/s×20)/5m = 120/s
X、Y、DR、RG、DB、T
写真3 電子シャッタカメラ
PCO社「SensiCam」
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写真4 イメージインテンシファイア
内蔵CCDカメラ PCO社「DiCam-Pro」
写真5 2,048×2,048画素15コマ/秒
CCDカメラ SMD社「4M15」
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の6つの次元を持っている。2枚の画像の関係が特
定されているとき、ターゲット情報は3次元情報を
a 最初に追跡するターゲット1フレーム分を、手動
でクリックして覚え込ませる。
構築することができる。すなわち、
s コンピュータはクリックされたポイントとその
X、Y、Z、DR、RG、DB、T
d 自動追跡を行う手順に入る。コンピュータは前
サーチエリアをメモリする。
のフレームでメモリされた濃度情報をテンプレ
ートとして追跡するエリアに当てはめ、1番近い
となる。
通常、CCDカメラからの画像は500×500画素程
位置を特定する。
度あり、濃度情報も8ビット程度である。色情報は
f 追跡する際に利用されるアルゴリズムは、カル
視認性の点では有効であるが、画像処理を行う場
マンフィルタリングと呼ばれる線形予測法を利
合3倍の容量を確保しなければならず、また、
用する。これでターゲットがどれだけ移動して
NTSC信号のカラー情報は65TV本以上の細かい情
いるかのおおよその見当をつける。
報については色情報がなく輝度情報しか持たない
g ターゲットは被写体が移動する間、回転や倍率
関係上、輝度情報による画像処理が一般的である。
の変更、陰影によるコントラストの変化、撮像
カラー情報で画像処理を行うには、RGBカラーカ
素子のノイズによってオリジナル画像と一致し
メラをRGBケーブルを介してRGB別々のファイル
ない。これらの不一致を判断する手法として、
で格納しておく必要がある。
フーリエ・メリン変換手法を与えてターゲット
コンピュータが画像からターゲットを読み込む
とき、コンピュータに予めターゲットの特徴を覚
え込ませておく必要がある。ターゲットは通常図
が移動した方向の確かさを検証する。
h 最終的に移動したターゲット位置の確かさをオ
リジナルテンプレートを用いて算出する。
1に示すようなマーカが選ばれる。実際に撮影さ
れるターゲットマーカは、CCDの撮像面で画素に
これら画像追跡のアルゴリズムは、米国宇宙開
割り当てられるがコントラストよく撮影されるこ
発で宇宙船がドッギングする際に、画像を用いた
とはまれで、図1のようなぼやけた像となる。コ
位置合わせの画像処理技術を元にしており、この
ンピュータはこれらを検出し、濃度と位置で重み
技術をさらに使いやすく改良を加え、「Image
をつけて重心位置を計算する。これらのアルゴリ
Express」
(写真6)として商品化された。
ズムでは、リング形状のターゲットが良好な位置
検出を行っている。
図1 ターゲットの画素分布
ターゲットを自動的に追跡するプログラムでは、
さまざまな補正プログラムが追加されている。太
田の報告
によると自動トラッキングのプロセス
2)
は、以下のように行われる。
写真6 ターゲット自動読み取り装置
「Image Express」
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この装置は、自動車安全実験のデータ解析によ
アが広い場合は、土木工事で使われるトランシッ
く使われている。自動車安全実験は新車を衝突破
トを用いてリファレンスターゲット座標を特定す
壊させる関係上、実験が高価となるため1度に多く
る。3次元解析には「MOVIAS」と呼ばれるオプシ
のデータを取得する。10∼15台の高速度カメラを
ョンパッケージを使用する。
使用し、得られた画像からダミーの挙動、車の変
形を計測する。従来、こうした画像計測は1枚1枚
人手によって計測ポイントを抽出していた。しか
4. 3次元高速画像計測装置「VICON」
し、この座標抽出作業は非常に手間のかかる作業
で、自動化が求められていた。1970年代後半より
自動化の試みが幾度となく試みられたが、人間の
判断の方が格段に優れ普及には至らなかった。
1990年代になってコンピュータが高性能・低価格
化し、米国の軍用テクノロジが一般産業へ参入で
きるようになって、飛躍的な発展を見るようにな
った。
自動車実験の公的機関である日本自動車研究所
(つくば)では、ビデオ画像(ナックMEMRECAM
Ci)と自動読み取り装置(Image Express)を用い
た計測精度の実験を行い、ターゲットの読み込み
精度が0.3画素以内という結果を得ている 3)。
ターゲットマーク自動読み取り装置(Image
Express)は、心臓部にPentium Pro 200MHzプロセ
ッサを2基搭載し、640×480画素24ビットフルカラ
ー15,000枚分の画像ターゲットを読み取り、解析
写真7 動体3次元計測システム
Oxford Metrics社「VICON」
を行う。システムは64MBRAM、HDD4.5GBを搭載
し、WindowsNT4.0環境で操作する。非常に大量の
映画「Titanic」が未曾有の興行成績を上げた。
画像データを蓄え、かつビデオテープからの画像
ストーリー性もさることながら時代考証とCG(コ
を読み込む必要上、システムにはPanasonic AG7350
ンピュータグラフィックス)のすごさを見せつけ
VCRが搭載され、30コマ/秒でハードディスクに
ている。タイタニック号の甲板を歩いている人々、
蓄えられる。ターゲット抽出ポイントは1フレーム
沈没する際に海に投げ出される幾多の乗船者のシ
50ポイントまで指定できる。得られた画像は、画
ーンは、実はすべてCGで制作され、生身のエキス
像データとともに位置変位、速度、角度処理され
トラはひとりも使っていない。このシーンを作る
てウィンドウ画面上で表示できるようになってい
にあたって、人体の動きのデータが「VICON(バ
る。
イコン)」と呼ばれる3次元データ構築装置で採取
複数台のカメラからターゲットを抽出し、この
データをもとに3次元計測を行うこともできる。3
され、米国デジタルドメイン社の技術によって肉
付けされた。
次元計測するためには、各カメラに予めカメラが
この装置は、1979年英国Oxford大学Julian Morris
どの位置で被写体を捕らえているかの定位付けが
博士によって開発されたものである。彼は医学療
必要である。座標補正には、撮影エリア全般に座
法の義手義足の開発に3次元画像計測が有効と考
標のよくわかったターゲットポイントを16点程度
え、このシステムを開発した。医学療法での歩行
写し込み、ターゲットの正確な3次元座標を入力し
分析研究は、VICONの導入により急速な進歩を遂
てカメラ画像面の座標軸を特定させる。撮影エリ
げている 4)。
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システムの骨子は、以下の通り。
には、同軸方向から投射できる光源(ハロゲン
ランプ、LEDライトなど)が搭載されている。
Viconの特長
撮影する被写体の動きの速さによって、60Hzか
ら240Hzまで3種類のカメラが用意され、サンプ
リング容量は、システムで32,000フレーム分確
● Oxford大学 Dr.Julian Morrisにより1979年に開発
→ 歩行分析分野
● 2次元センサを使った多地点同時計測
→ 3次元計測
● サンプリング周波数:60Hz、120Hz、240Hz
● サンプリング容量:32,000フレーム
→ 60Hz、4台カメラで2分10秒max
→ 60Hz、7台カメラで1分16秒
● サンプリングポイント:28ポイント/人
● データ読み込み:520×252画素を1,024×490に変換
● マーカの中心座標:重心法による中心計算
● キャリブレーション:Static手法とダイナキャル手法
● GSI-@(Geomatric Self Identification)
マーカの特定作業、簡便なマーカ特定
保されている。
d データを採取する前に、カメラの座標軸を決め
るためのキャリブレーションを行う。これには
「Dynacal(ダイナカル)
」という手法を採用して
いる。ダイナカルとは、ダイナミックキャリブ
レーションの略で、従来の静止したキャリブレ
ーション構造物を写し込む手法と異なり、基線
長500mmに配置されたターゲットマーカ球2個の
スティックを使い、オペレータが撮影エリアの
全域にわたって振り回していく。カメラはステ
ィックが振り回されている間中、マーカ座標の
採取を続け(約10秒)
、データサンプリング終了
後キャリブレーション処理に入る。ダイナカル
オプションソフト
手法はキャリブレーションがとてもやりやすく、
処理時間が従来の手法に比べ1/4に短縮された。
f 使用するコンピュータは、WindowsNT、UNIX
● VCM:日本国内で作ったソフト
関節中心座標を求めるソフト
● VCE:(VICON Clinical Evaluation)
、簡易ソフト
● VICONレポータ:3次元データ出力、ASCII出力
1枚の用紙に他種類のデータを呼び出すことが可能
● ボディビルダ:VCMが下肢に対し、ボディビルダは
体表面に対する関節中心を求めるソフト
● DIFF(Data Interchange File Format)
臨床歩行分析懇談会が作ったフォーマット
マシンでCPU200MHz以上、RAM64MBが推奨さ
れる。
VICONはCCDカメラを使って画像を取り込む
が、画像データはデータ処理部(データステーシ
ョン)で反射マーカの位置情報だけに変換される。
人体を構成するマーカは、1体当たり28個と決めら
れている。現行のデータステーションでは、メモ
リ領域が32,000枚分なので、カメラサンプリング
周波数、使用カメラ台数、計測マーカ点数によっ
a 被写体にスコッチライトと呼ばれる球形反射マ
て最終的な記録時間が求まる。
ーカを用い、人体の間接部に取り付ける。スコ
データ集録後ポイントを結んでワイヤフレーム
ッチライトは光の反射輝度が白紙の1,000倍以上
(スティック像)を定義する。この作業が実は大変
あり、入射した光の方向と同じ方向に反射する
な作業で、初期の頃のシステムではカメラごとに
という指向性を持っている。この特性を利用し
マーカの位置づけを確認し定義しなければならな
て、カメラ光軸方向から反射マーカに向けて光
かった。
「VICON370システム」では、マーカの位
を照射する。光源には、タングステンランプ
置づけを1回行えばよく、カメラごとの位置づけは
(広範囲)、LED赤外パルス光源(狭範囲)など
必要ない。これがVICONの大きな特長となってい
が使われる。
る。得られた複数台からの座標データは、当然の
s カメラは被写体に取り付けられた反射マーカの
ごとくカメラによって見方が違うため、すべての
最高輝度部分だけを抽出する。このためカメラ
カメラにわたって座標ポイントの特定をしなけれ
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ばならない。VICON370は、3次元化された画像画
クス、歩行分析、映画産業、ゲーム産業、ロボッ
面を見ながらターゲットに名前を入れていくとい
ト工学などへの応用も進むだろう。VICONシステ
う作業ですべてのカメラからの座標データを特定
ムにおいても、歩行分析、CGデータ採取、ゲーム
するという能力を持っており、かつ画面で見えに
ソフトのデータ採取のみならず、ロボット開発に
くい箇所はズームアップしたり視点を変えたりし
も大きな可能性を秘めている。人間の動きを数値
ながらマーカを特定できる。これはGSI-2
化してロボットに習わせる、あるいはロボットの
(Geometric Self Identification:マーカの特定作業)
動きを比較するなど、すでに利用は始まっている。
と呼ばれる手法で、1993年7月にVICONのユーザ
が開発した。
VICONのデータの読み込みは520×252画素であ
り、これを1,024×490でコンピュータに置き換え
る。マーカの中心座標は重心法で求める。
☆!ナック 営業技術部
3 03-3404-2321 6 03-3479-1402
VICONは、開発背景が歩行分析にあるので、人
体のアナログ計測装置(床反力計、筋電計)デー
タを同時に取り込むことができる。アナログデー
[ 参考文献 ]
1)高速度カメラの歴史
タは64chまでデータステーションで記録し、マー
URL=http://www.dango.ne.jp/anfowld/high-
カ軌跡と同時解析できるようになっている。
speedcameras.html
は人間の
2)太田和彦、Etienne Marcheret、画像処理技術
腕、指の計測の予備段階として、VICONの計測精
における自動トラッキングプロセス法と精
度を報告している。これによると彼らは、4台の
度、高速度撮影シンポジウム’97、pp.143-
200HzのCCDカメラと9mmの反射マーカを使い、
148、1997年12月
VICONの計測精度について、武井ら
5)
200×200×200mmの計測範囲で計測誤差0.1mm、
標準偏差0.22という結果を出している。
3)押久保健、デジタルハイスピードビデオカメ
ラの光学性能評価、自動車研究、第19巻第
12号、1997年12月
5. おわりに
以上、高速度カメラを用いた3次元計測の現状に
ついて概括した。
コンピュータの発展に伴い解析処理アルゴリズ
ムも洗練されてきている。今後は、バイオメカニ
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4)Oxford Metrics社 VICON
URL=http://www. metricsnet.com/
5)武井秀之、青柳誠司、高野政晴、関西大学、
人間の指の動作解析とロボットハンドへの応
用─概念とVICON370を用いた予備実験、
1997年9月