抄 録 - 第24回日本意識障害学会

抄 録
第
特別講演(SL1)
神作 憲司 1,2
2
国立障害者リハビリテーションセンター研究所 脳機能系障害研究部 脳神経科学研究室、
電気通信大学 脳科学ライフサポート研究センター
我々は、脳波を用いた非侵襲型ブレイン-マシン・インターフェイス(BMI)研究を行い、特定の視覚刺激
を注視した際に生じる脳信号を利用し家電の操作やコミュニケーションを可能とする環境制御システムを開
発している。このシステムに用いる視覚刺激の強調表示の手法として、これまでの輝度変化に加えて色変化
(緑 / 青)を用いることで、使用感および正答率を有意に向上させることに成功した。
さらに我々は、内製のソフトウェア部、および非粘着性脳波用ゲル電極等のハードウェア部からなる BMI 型
環境制御システムを開発した。このシステムでは、P300、定常視覚誘発電位(SSVEP)などによる複数の
BMI 手法に対応可能である。また本システムには、脳波による入力に加えて、ボタンや筋電などを利用する
スイッチ入力、さらには視線やマウスのクリック等による入力が追加されており、多様な病態への対応が可
能である。非粘着性脳波用ゲル電極は、着脱容易で長時間使用可能なものを開発した。
我々は、この BMI 型環境制御システムを用い、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者等に対する臨床研究を進め
ている。これまで、ALS 患者 3 名(年齢 49.0、女性 1 名、ALSFRS-R=0)を対象とした半年を超える長期評
価を行い、日常使用に必要とされる操作精度を確保することに成功した。こうした BMI 技術をさらに研究開
発していくことで、麻痺を伴う患者・障害者の生活の質の向上へと貢献していきたい。
一般演題(1A1-1)
緊急度判定支援システム JTAS における意識障害のトリアージ
奥寺 敬 1、若杉 雅浩 1、高橋 恵 1、坂元 美重 1、橋本 真由美 1,2、木澤 晃代 3
1
富山大学大学院 危機管理医学(救急・災害医学)、2 横浜創英大学看護学部、3 筑波メディカルセンター看護部
【目的】意識障害は、臨床医療の現場、特に救急医療においてしばしば経験される病態である。病院前の救
急医療システムと救急外来、病院における治療の連携を円滑に進めることは治療予後にも大きく影響する。
本研究では、院内トリアージとして診療報酬化されている緊急度判定支援システム JTAS:Japan Triage and
Acuity Scale の意識障害のトリアージについて再検討する。
【方法】JTAS は日本臨床救急医学会・日本救急医学会・日本救急看護学会の 3 学会監修のもとに、カナダの
CTAS:Canadian Triage and Acuity Scale をもとに策定された。2 年前より「院内トリアージ」として診療報
酬化されており、全国各地の主に二次医療機関を中心に用いられている。この JTAS の研修コースにおいて
意識障害のトリアージについての意見を聴取した。
【結果】JTAS の意識障害のトリアージは、カナダ版と同じ内容であり、バイタルサイン、GCS:Glasgow
Coma Scale、血糖値、頭部外傷では高エネルギー外傷がトリアージレベル判定の因子とされている。補足因
子としては GCS のみが取り上げられている。この内容に関しては、GCS に加えて、JCS:Japan Coma Scale や
ECS:Emergency Coma Scale の追加の希望が圧倒的に多かった。
【結論】救急外来における院内トリアージのツールである JTAS における意識障害の判定は、補足因子として
GCS のみを使用している。今後、JCS、ECS が追加記載することが望まれる。これらを記載した新たな意識
の補足因子リストを供覧し意見交換を行いたい。
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A
会場
1
1
日 BMI 技術を用いた障害者自立支援機器の開発
第
日 1
会場
A
一般演題(1A1-2)
急性期意識障害患者における瞳孔観察の重要性ー松本サリン事件の重症例の所見より
奥寺 敬 1、岩下 具美 2
1
富山大学大学院 危機管理医学(救急・災害医学)、2 長野赤十字病院 救命救急センター
【目的】急性期意識障害における縮瞳所見は、有機リン中毒か脳幹出血を示す症候であると考えられる。サリ
ンは有機リン系の神経ガスであり軍用に開発されが、我が国では、松本・東京でテロ目的に使用され甚大な
被害をもたらした。松本サリン事件における瞳孔所見と重症度を血漿コリンエステラーゼ値(ChE)を指標
として検討した。
【方法】松本サリン事件の臨床症例において瞳孔所見と血漿コリンエステラーゼ値(ChE)の関連データをに
ついて後方視的検討を行った。瞳孔所見は、瞳孔径を用い、重症度の指標として ChE ならびに ChE の低下率
%ChE について検討した。
【成績】瞳孔は 219 例で計測されており、著明縮瞳(瞳孔径 1mm 以下)が 21 例、中等度縮瞳(1mm 以上
-2mm 未満)が 38 例、軽度縮瞳(2mm 以上 -4mm 未満)が 38 例、正常(4mm 以上)が 67 例であった。瞳孔
径 2.5mm 以上の症例で ChE が 50% 以下に低下した症例はなく、瞳孔径 1mm 未満の症例で 10 例において ChE
は正常であった。%ChE による比較では、50% 未満に低下した重症群 17 例の平均瞳孔径は 0.9mm、50-100%
未満の軽症群 30 例では平均 1.3mm、100% 以上の正常群 140 例では平均 2.2mm であった。
【結論】サリン中毒の重症例で、瞳孔所見は ChE および %ChE との比較において、サリン中毒の重症度の指
針となった。他の有機リン中毒においても同様と考えられ、急性期意識障害における瞳孔所見、特に縮瞳の
正確な観察が重要である。
一般演題(1A1-3)
血腫形成型くも膜下出血の特徴と治療指針
根本 匡章、榮山 雄紀、渕之上 裕、小此木 信一、寺園 明、桝田 博之、野本 淳、近藤 康介、
原田 直幸、周郷 延雄
東邦大学医学部医学科 脳神経外科学講座(大森)
【はじめに】血腫形成型くも膜下出血(SAH with ICH)は発症時のグレードが悪いとされ、その予後は良好
とは言えない。今回当施設が加療したくも膜下出血症例で、血腫形成型くも膜下出血の予後について検討し
たので報告する。(対象期間および対象症例)2007 年 1 月から 2013 年 12 月まで(7 年間)に当院に搬送された
くも膜下出血 230 例を対象とした。
【治療方法】WFNS で G1 から 4 に対しては積極的な加療を検討した。G5 においては発症時すでに救命が困難
な症例は手術適応から除外した。
【検討方法】血腫を形成しないくも膜下出血(SAH without ICH)と比較し、発症時年齢と Glasgow Coma
Scale(GCS)
、2 ヵ月後の Glasgow Outcome Scale(GOS)、血腫の大きさ、再破裂、動脈瘤径、発症から手
術までの時間、症候性脳血管れん縮で検討した。
【結果】くも膜下出血全体の 36 %が SAH with ICH であった。SAH with ICH の発症時の GCS は SAH without
ICH に比べ悪かった(p=0.001)。2 ヵ月後の GOS も GR+MD(予後良好群)が得られなかった(p=0.004)。
一方 SAH with ICH は、動脈瘤は大きく(p=0.001)、再破裂が多かった(p=0.003)。しかし発症から手術ま
での時間と脳血管れん縮には差はなかった。SAH with ICH の予後不良因子は、年齢と発症時の GCS であっ
た。
【結語】SAH with ICH は年齢が若く、来院時の GCS が悪くなければ良好な予後が期待できる。今回発症から
手術までの時間は予後に関連しなかったが、再破裂の危険性が高いことを考慮すると、超緊急手術が要求さ
れる病態と考えられた。
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第
一般演題(1A1-4)
1
香川大学医学部附属病院 救命救急センター、2 香川大学医学部 脳神経外科
【背景】自己心拍再開(ROSC:return of spontaneous circulation)が得られた心停止(CA:cardiac arrest)
患者の神経学的転帰と頭部画像との関連について一定の見解は得られていない。
【対象・方法】2009 年 1 月から 2013 年 12 月(5 年間)に当院に CA 状態で搬送され生存退院できた患者を対象
とした。入院中に撮影した頭部 MRI 拡散強調画像(DWI)での病変の有無と Glasgow-Pittsburgh Cerebral
Performance Categories(CPC)を後ろ向きに検討した。PET 施行例では脳ブドウ糖代謝率と CPC について
検討した。
【結果】期間中に当院に搬送された CA 患者は 528 例であった。ROSC が得られ生存退院例のなかで MRI を撮
影していた患者は 31 例(心原性 16 例、非心原性 15 例)であった。そのうち転帰不良例(CPC3,4)は 20 例、
転帰良好例(CPC1,2)は 11 例であった。MRI DWI にて何らかの病変を有する例は、転帰不良例で 18 例、転
帰良好例で 1 例であり、感度 90.0 %、特異度 90.9 %、陽性的中率 94.7 %、陰性的中率 83.3 % であった。PET
施行例は 7 例であり、そのうちわけは転帰不良例 6 例、転帰良好例 1 例であったが、全例で脳ブドウ糖代謝率
の低下を認めた。
【結論】ROSC 後患者の神経学的転帰不良例では 90 % に頭部 MRI DWI で病変を認めた。今後、画像の経時的
な変化や拡散係数について検討の余地がある。PET 検査においては低体温療法や鎮静薬の影響も除外できて
おらず、症例の集積が望まれる。
一般演題(1A1-5)
当院における重傷くも膜下出血の予後良好因子の検討
桝田 博之、淵之上 祐、寺園 明、安藤 俊平、福島 大輔、野本 淳、近藤 康介、原田 直幸、
根本 匡章、周郷 延雄
東邦大学医学部医学科 脳神経外科学講座(大森)
【はじめに】医療技術が進歩した昨今でも、くも膜下出血の予後は依然悪くいまだに致死率も高い。しかしな
がら、来院時の World Federation of neurosurgery Societies(WFNS )分類で、Grade 4 以上の重傷くも膜
下出血であったとしても、治療により Glasgow Outcome Scale(GOS)で、Good Recovery(GR)、もしくは
Moderate Disabled(MD)と予後良好な患者群が存在することも事実である。今回われわれは、当院におけ
る WFNS Grade 4 & 5 の重傷くも膜下出血の予後関連因子について検討したため報告する。
【対象および方法】2007 年 1 月~ 2014 年 8 月までの WFNS Grade 4 & 5 の重傷くも膜下出血を対象とした。2 ヶ
月後の GOS が GR+MD を予後良好群とし、SD(Severely Disabled)+ VS(Vegetative State)+ D(Dead)
を予後不良群とした。比較因子は、年齢、発症時 Glasgow Coma Scale(GCS)、動脈瘤の位置、症候性脳血管
攣縮の有無、水頭症、糖尿病および高血圧の有無、選択された外科的治療法とした。これらを予後良好群およ
び不良群とで比較検討した。
【結果】WFNS Grade 4 & 5 の重傷くも膜下出血は 92 例であり、男性は 37 例で女性は 55 例、平均年齢は 65.6 歳
であった。予後良好群は 18 例で全体の 19.6 %であり、予後不良群は 72 例で 80.4 %であった。予後良好因子と
しては、年齢(P=0.009)と発症時の GCS(P<0.001)が関係していた。動脈瘤の位置、症候性脳血管攣縮の
有無、水頭症、糖尿病および高血圧の有無、選択された外科的治療法は予後に関連していなかった。
【結果】当院では、重傷くも膜下出血 WFNS Grade 4 & 5 の 19.6 %が予後良好であった。予後良抗因子として
は、年齢と発症時の GCS が関係していた。
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1
A
会場
岡崎 智哉 1、篠原 奈都代 1、真鍋 亜里沙 1、濱谷 英幸 1、一二三 亨 1、高野 耕志郎 1、
阿部 祐子 1、河北 賢哉 1、田宮 隆 2、黒田 泰弘 1
日 院外心停止患者の神経学的転帰と頭部 MRI、PET 画像所見の検討
第
日 1
会場
A
教育講演(TL)
遷延性意識障害の脳内メカニズム
片山 容一
日本大学医学部 脳神経外科
意識には、「覚醒している」という意味と、「気づいている」という意味とがある。遷延性意識障害のほとん
どは植物状態である。植物状態は、「覚醒しているけれども気づいていない状態」である。したがって、遷延
性意識障害の脳内メカニズムを理解するには、「気づいている」という意味の意識の構造を明らかにしなけれ
ばならない。この意味の意識は、ただ単に存在することはない。常に何ものかを志向している。その何もの
かは、自己か周囲のどちらかである。それぞれを自己意識および対象意識と呼ぶ。植物状態は、このいずれ
をも喪失しているとされている。何ものかを志向するには、自己という起点が必要である。そのために、い
ろいろな感覚が一つに統合される。たとえば、視ている自分、聴いている自分、触っている自分はみな「同
一の自己」だということである。対象意識は、この空間における「同一の自己」を起点にして働いている。
もちろん、自己を起点にしているのだから、自己そのものを志向する自己意識が実現することはないはずで
ある。しかし、過去から未来に向かって持続する「同一の自己」があれば、過去や未来の自己イメージを志
向することができる。自己意識は、この時間における「同一の自己」によって生み出される。そのつどの刹
那に生きているかぎり、自己意識を持つことはできない。「気づいている」という意味の意識は、空間および
時間における「同一の自己」の成立を背景にしている。それは、複雑に絡み合った脳内の神経ネットワーク
の機能が、自己と周囲という極性のもとに統合されることである。
一般演題(1A2-1)
さまざまな運動障害に対するグルタチオン点滴治療
平川 亘
誠弘会池袋病院 脳神経外科
【目的】グルタチオン注は 40 年以上前から慢性肝炎や妊娠中毒症などの治療で使われている。近年は高濃度
グルタチオン点滴治療のパーキンソン病に対する効果が知られており、アメリカでは臨床研究が行われてい
る。このグルタチオン点滴治療をパーキンソン様の歩行障害を認める症例、遷延性意識障害症例の運動障害
に用い、有効例を経験したので報告する。
【方法】グルタチオン注 1000mg を生理食塩水 100ml 又は 50ml に溶解し 15 分で点滴投与する。通常投与量の
数倍になる。治療回数は 1 回~ 10 回。遷延性意識障害は同量を 1 日 1 回、2 週間以上継続して投与した。効果
が乏しい症例は 1600mg まで増量した。
【成績】パーキンソン様の歩行障害(25 例)に対する効果は 6 割であり、効果は治療直後に認められた。脊柱
管狭窄症や変形性関節症など整形外科的問題と診断されていた障害にも有効である場合があった。効果の持
続時間は数時間から 1 日であったが、週 1 回の治療を行うことで徐々に改善する症例、L-Dopa を減量出来る
症例を得た。遷延性意識障害(いわゆる寝たきり、植物状態を含む)の症例(5 例)では身体の固縮の改善、
ROM の改善を認め、嚥下が可能になり、摂食が可能になる症例を得た。座位困難な患者さんが車椅子乗車が
可能になった。
【結論】グルタチオン点滴治療はパーキンソン病のみならず様々な運動障害に有効である場合がある。また遷
延性意識障害の患者さんに対しても固縮、ROM 改善、摂食に有効である場合があり、意識障害の改善が期待
出来る ATD 治療薬リバスチグミン・パッチ治療(既報)と併用することでさらに有効と思われた。
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第
一般演題(1A2-2)
鈴木 雅子 1、池間 かおり 1、村井 宏美 1、田口 美知子 1、酒井 直之 2、寺尾 健 2
A
谷津保健病院 看護部、2 谷津保健病院 脳神経外科
【はじめに】せん妄は、高齢入院患者の 10 ~ 15 %に起こるといわれている。脳神経外科病棟に入院する患者
は脳卒中や頭部外傷などのせん妄の直接因子だけでなく、入院や手術などの誘発因子を併せ持ち、発症リス
クが高いと言える。我々は当院脳神経外科に入院した患者のうち、せん妄状態となった患者に対しリバスチ
グミンを投与し、効果的であったため報告する。
【方法】谷津保健病院脳神経外科に入院し、せん妄状態となった患者にリバスチグミンテープ 4.5mg を貼付
し、その改善の有無を観察した。
【対象と結果】症例は 8 例(71 ~ 87 歳:平均 78.75 歳)。脳梗塞 3 例、頭部外傷 2 例、脳室内出血 1 例、未破裂
脳動脈瘤術後 1 例、症候性てんかん 1 例であった。そのうち効果ありと判断したものは 6 例で、効果なしと判
断したものは 2 例であった。
【まとめ】リバスチグミンテープはせん妄状態の患者に対する治療として効果的な方法であると考えられたた
めここに報告する。
一般演題(1A2-3)
頭部外傷後遷延性意識障害患者に対する鍼治療- NASVA スコアを指標とした検討-
松本 淳、池亀 由香、野村 悠一、川崎 智弘、西山 紀郎、兼松 由香里、浅野 好孝、篠田 淳
木沢記念病院 中部療護センター
【緒言】遷延性意識障害患者に対する鍼治療の効果について意識障害スコア(NASVA スコア)を指標として
検討した。
【セッティング・対象・デザイン・評価】当センター入院中に鍼治療を行った頭部外傷後遷延性意識障害患者
21 例(vegetative state[VS] 8 例、minimally conscious state [MCS] 13 例)の鍼治療期間前後の NASVA スコ
ア合計点を比較した。
これらの患者は、少なくとも鍼開始 1 ヵ月前から投薬等の治療の変更は行われず、意識レベルを含めた全身
状態の変化も認めなかった。
【介入】週 2 回 4 カ月間の鍼治療を行った。
治療部位は、水溝、印堂、合谷、足三里を基本穴とした。患者の状態に応じて太渓、風池、百会、太衝等を
適宜追加した。
【結果】NASVA スコア合計点の中央値(四分位範囲)は、55.0(50.0、56.5)から 52.0(44.0、56.0)と有意
に減少した(P = 0.001)。
VS と MCS に分けて検討すると、VS 群では治療前後に統計学的に有意な変化はみられなかったが、MCS 群
の中央値(四分位範囲)は、52.2(43.0、54.5)から 47.0(41.0、51.0)と有意な減少を認め(P = 0.003)、ス
コアの変化量(減少量)も MCS 群が有意に大きかった(P<0.001)。
【考察】NASVA スコアの有意な減少を認めた MCS 群においては、鍼治療の併用が有用であったと考えられ
た。有意な変化がみられなかった VS 群については、更に効果的な治療方法の工夫が必要と思われた。
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会場
1
1
日 入院後せん妄に対するリバスチグミンの有用性
第
日 1
会場
A
一般演題(1A2-4)
NASVA 療護施設入院患者のナスバスコアを用いた治療改善効果分析
野津 真生
独立行政法人 自動車事故対策機構
【目的】独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)では、全国 7 カ所の療護施設において自動車事故に
よる重度後遺障害者(遷延性意識障害者)専門の治療と看護を行っている。平成 17 年度より適用を開始し
た「遷延性意識障害重症度評価表」(ナスバスコア)による入院患者の改善度について、統計的手法を用いた
データ分析を実施し、その治療改善効果を検証する。
【方法】調査対象は、6 療護施設(開設から間もない泉大津市立病院(委託病床)は対象としていない)であ
り、平成 17 年 6 月 1 日から平成 26 年 5 月 31 日までに退院した患者(578 人)と、平成 22 年度~ 25 年度の各年
度(当該年 6 月 1 日から翌年の 6 月 1 日までの一年間)に在院した患者(延べ 1,030 人)である。「ナスバスコ
ア」は、6 項目(運動機能、摂食機能、排泄機能、認知機能、発声発語機能、口頭命令の理解)につき各項
目 10 点でスコア化され、最重症は 60 点である。
【結果】入院から退院までの分析及び各年度毎の分析のいずれにおいてもスコア平均値が低減している。入院
から退院までの場合、入院時のナスバスコアが高くても改善している患者がいること、入院までの事故後経
過期間が短いほど改善が良いこと、並びに入院時年齢が若いほど改善が良好であるものの他の要因と比べる
と年齢の影響度合いはそれほど大きくないこと、が認められた。
【まとめ】NASVA 療護施設における治療・看護が遷延性意識障害者の改善のために有効であることが改めて
確認された。現在、療護施設では過去のような長期の入院待ちの状況は発生しておらず、一部では空床も恒
常化していることから、患者・家族及び関係機関への広報に努めるとともに、円滑な患者受け入れを促進す
る。
特別シンポジウム(SS1-1 基調発表)
意識障害生活者のあり方・生き方
(国際生活機能分類とアドバンス・ライフ・プランニング)
川島 孝一郎
仙台往診クリニック
【要旨】
山川草木悉皆成仏とはよく言ったもので、この世のすべての存在は仏の成れる姿である。すべてを尊び感謝して接すること
が基本となるのだろう。私は自然(世界)から支えられ助けられながら生きている 1)『私と自然(世界)との相補・協調関
係』が軸となる。『個人を絶対とした優生主義や健康至上主義』とは異なる世界がある。要するにものの見方によって大きな
差が生まれるのだ。
仙台往診クリニックでは脳死のお子さんをお家に帰して最期の日まで自宅生活していただいた 2 事例がある。どんな身体状
況でも自宅生活が可能となる制度が今の日本にはある。
WHO は 2001 年に国際生活機能分類(ICF)を創設し各国に対して利用することを提唱している。生活機能とは何か?生活
機能=生きることの全体である。私たちは身体がどのように変わっても、生活機能=生きることの全体からものごとを考え
支援することによって本人の生存が維持される。ICF はもともと国際障害分類(ICIDH)であったものが変更された。だか
ら意識障害生活者にも当てはまる概念である。
ICF において重要な①統合概念 2)3)を理解し、②具体的な支援策が提示されることで、どんな身体障害を持っていようが
生きてゆけるプランが生まれる。これが③アドバンス・ライフ・プランニングである 4)。
発表では①②③を紹介すると共に「人生の最終段階」における生き方にも言及する。
【文献】
1)川島孝一郎:こんなになってまで生きることの意味.ケアという思想(上野千鶴子・大熊由紀子他編).Vol.1:pp211-226.
岩波書店 . 東京 .2008.
2)川島孝一郎:「生きることの全体」を捉える「統合モデル」とは何か.訪問看護と介護.Vol.19 No.2:pp.140-145.2014.
3)川島孝一郎:身体の存在形式または、意思と状況との関係性の違いに基づく生命維持治療における差し控えと中止の解
釈.生命倫理 .Vol17 No.1:pp198-206.2007.
4)川島孝一郎:統合された全体としての在宅医療.現代思想.Vol.42-13.pp146-156.2014.
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第
特別シンポジウム(SS1-2)
意識障害患者の退院支援
浜松医科大学医学部付属病院 看護部 医療福祉支援センター
A
当院(浜松医科大学医学部付属病院、以下当院とする)は特定機能病院であり、急性期病院である。近年、
多くの病院では在院日数の短縮化が勧められ、当院の在院日数も 2 週間以内になっている。当院が急性期病
院である以上、当院での治療が終了した患者は次の役割機能を持った病院へ移るか、在宅へ帰るかの二つの
選択しかないことになる。急性期病院からの転院の場合は回復期病院への転院か、療養型病院への転院にな
る。しかし、最近では急性期病院から何らかの医療処置や看護ケアがあっても在宅へ帰る患者も多くなって
いる。患者本人と支えてくれる家族が在宅療養を望んだ場合には、地域のあらゆる社会資源を利用して、患
者と家族が住み慣れた地域で入院中と同じような医療と看護を受けられるように私たち専門部署が介入し、
支援を行っている。地域と連携を結ぶことでスムーズに急性期医療から在宅医療へ繋げることが可能になっ
てきている。つまり、患者を医療の場から生活の場に帰すことがスムーズに行われ、切れ目のない医療や看
護が提供できるようになってきている。今回は、私が介入した事例の意識障害のある患者の退院支援の実際
を伝える。退院支援を行うときに重要になるのが本人や家族の意思確認になるが、意識障害のある患者の場
合は本人への意思確認が困難であり、家族が患者の意思を代弁することになる。また、意識障害患者の場合、
患者は日常の医療処置や看護ケアも多く、病院での医療・看護の質を落とすことなく継続医療・継続看護が
提供できるように在宅医療スタッフと情報共有を十分行い、病院と地域が切れ目のないようにしたいと考え
る。
特別シンポジウム(SS1-3)
意識障害児の訪問看護
野中 みぎわ
訪問看護ステーション住吉第二
低酸素性虚血性脳症とは、新生児仮死に陥った結果、低酸素と虚血に基づく脳細胞の障害が起こった状態であり
意識障害、筋緊張低下、痙攣、反射の異常などの症状を認める。当事業所では低酸素性虚血性脳症により意識障
害となった小児の訪問看護を行っている。
意識がなく、全身運動麻痺で人工呼吸器を装着した A 君と家族に対し、私たちは
①医療処置の実施および指導・助言
②子どもの発育に合わせたケアや育児の方法の検討と提案
③親、家族として自信が持てるような精神的支援
④家族全体の健康を視野に入れたケア(浜松市リフレッシュ事業への参加)
行っている。
退院当初は、家族は初めて医療者を挟まずにわが子に向き合い、医療処置を実施しながら子どもの障害や病気を
切実に実感する。徐々に顔色や発汗や排泄の状態とモニターの値との関連付けができるようになり、子どもの体
調変化をつかめるようになる。その間、子どもは成長していく。日々家族が医療ケアをとおしてその子を愛おし
み育てているからこそ、この子が育っているのだと伝えることは、親・家族の努力を認めることであり、親・家
族が障害をもつ子どもを育てていく上での自信につながっていくのではないだろうか。
また、医療処置に対する指導や助言は家族が経験をつめば不要となるが、こどもの発育にあわせてケア方法の変
更が必要となり、無理なく続けられるケア方法を提案し、家族とともに検討していくことが継続して求められ
る。さらに重症児の在宅療養では、介護のために睡眠・休養が十分取れない、買い物に行けない、兄弟の世話が
できないなど、家族にかかる負担がかなり大きい。子どもだけでなく子供を囲む家族全体の支援が求められる。
訪問看護師の役割とは、意識障害児が家族の一員となる過程を支え、本人兄弟の成長発達、親の老いをも視野に
入れた長期的な視点をもって医療・保健・福祉・教育機関と連携し支援していくことではないだろうか。
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会場
日 1
工藤 ゆかり
第
日 1
会場
A
特別シンポジウム(SS1-4)
意識障害とリハビリテーション
山内 克哉、美津島 隆
浜松医科大学 リハビリテーション科
臨床現場の中で、様々な原因による意識障害患者に遭遇します。当院では、急性期からのリハビリテーショ
ンも浸透し、発症当日かもしくは翌日からのリハビリテーションを提供できる件数が年々増えています。救
命救急の充実に伴って、救命だけではなく未来に繋がる生命や生活の質まで考えられる事が浸透してきたた
めと考えられます。廃用症候群を予防し、植物状態や寝たきり状態を回避するために、早期リハビリテー
ションの介入、漫然としたリハビリテーションだけではなく、適切なリハビリテーションを提供するという
使命が我々にはあります。急性期の意識障害患者は、原因不明で搬入されることも数多くあり、その中でリ
ハビリ治療を行う事は、ただ積極的に動かせばいいという問題ではなく、適応と禁忌を十分に理解した上で
リハビリテーションを提供する必要があります。また、意識障害が重度の場合は、遷延化して植物状態にな
ることも少なくありません。その際の不活動、寝たきり状態となる廃用症候群の予防にいかに対応できるか
が重要となります。安静時における基本的リハビリプログラムから、semi-Flower 位、90 度座位、座位耐性
訓練、tilt table での起立訓練と進めていきます。心肺機能の低下予防、筋量の維持、関節可動域の維持、脳
への賦活化を促進することを目的としたリハビリが遂行されます。不幸にも遷延した意識障害患者には、そ
の後の受け入れ先まで考えたリハビリテーションを提供する必要性があります。家族の中には、意識障害
患者は在宅では介護できないという固定観念を持った方も数多くいます。急性期医療から在宅医療の中で、
リハビリテーションはすべての時期に関わることができ、非常に多くの使命を持っていることになります。
我々が提供できる急性期から行うリハビリテーションが、いかに在宅につながるかを検討してみます。
特別シンポジウム(SS1-5)
小児意識障害患者の在宅医療
岩野 歩
医療法人 コールメディカルクリニック
高度医療技術の発展により、今まで救命出来なかった患者も長期の生存が可能になった。しかし、そのよう
な方々には重度の機能障害・意識障害患者もその中に含まれる。小児科領域でも同様で NICU からの退室が
困難なため慢性的な病床不足の状態にある。このような子たちを地域に帰そうという動きが進んで来ている。
当院では地域のニーズに応える形で小児の訪問診療を開始した。疾患は蘇生後脳症、神経難病等だが、ほぼ
全員が意識障害を有している。小児意識障害患者の在宅医療に関しての問題として下記の 3 つが挙げられる。
① 小児を診療する在宅医不足②気道・呼吸管理③レスパイト施設の不足
在宅医が基幹病院の小児科と連携する事により、小児科診療経験の少ない医師による小児在宅診療は可能で
あると考える。診療上の最大の問題は気道・呼吸管理である。意識障害患者の気道浄化能、呼吸機能は進行
性に低下していくことが多く、段階に応じて気管内挿管 気管切開 喉頭分離 人工呼吸器(NIPPV 含む)
を検討していく。本人の苦痛や望みを把握が困難な状況で家族の思いに寄り添いながら方針を決めて行く必
要がある。このような方々の在宅療養生活を長期に支えていくためには、レスパイトのための施設は必要で
あるが多くの医療行為が必要であり従来の福祉系の施設では困難である。医療施設がレスパイトの重要性を
認識し柔軟な対策を講じて行かねばならない。
本人の思いを周囲が類推するしかない状況で、意識障害患者とその家族の生きる希望を見出す事が在宅医療
の現場では可能である。住み慣れた家、人との繋がりから離されることなく、人生を肯定することが出来る
ように、医療と生活両面を支えるのが在宅医療である。
急性期医療施設は救った命に責任を持つべく、このような在宅医療介護の輪の中に入って
行くべきと考える。
- 50 -
第
特別企画(SNM-1)
意識障害と ITB 療法
独立行政法人 国立病院機構 奈良医療センター 脳神経外科
A
脳卒中や頭部外傷などで、脳や脊髄が損傷をうけると、痙縮を伴う遷延性意識障害をきたすことが多い。痙
縮は、リハビリテーションや介護の妨げになるので、治療が必要であるが、その方法の一つにバクロフェン
髄中療法(ITB 療法)がある。ITB 療法は、バクロフェン持続注入ポンプを用いて、脊髄腔内投与する方法
で、脊髄 GABAB 受容体に作用して、脊髄の反射を制御し、痙縮を改善する。本法は、スクリーニングによ
り治療効果の予測が可能で、またポンプ植込後も病状に応じて、用量を調節し、痙縮を制御できることが特
徴であり、比較的低侵襲な痙縮治療法である。さて意識障害のある痙縮患者に ITB 療法をおこなうと他動的
に痙縮が改善されることは、容易に観察できるが、至適な投与量を決定するのは、本人からの情報が、得ら
れず意外と難しい。漫然と投与量を増やすと、徐脈、便秘、排尿障害など看過しやすい合併症をきたしたり
増悪させる。それ故、慎重な滴定が必要になる。さて一方、ITB 療法が意識障害を改善させるとの報告があ
る。その機序は、不明であるが、疼痛や機能障害をきたす異常な知覚刺激が脳に到達するのを抑制すること
によるのではないかとも考えられている。自験例でも、ITB 療法により、痛みが消失した症例や意識反応が
改善した症例が存在する。ここでは、ITB 療法と意識障害の関連について、自験例に文献的考察を加えて報
告する。
特別企画(SNM-2)
遷延性意識障害に対する脊髄電気刺激療法
森田 功 1、垣内 孝史 2、神野 哲夫 3、加藤 庸子 4、廣瀬 雄一 1
藤田保健衛生大学 脳神経外科、2 垣内病院 脳神経外科、3 ジャパン藤脳クリニック 脳神経外科、
4
藤田保健衛生大学 坂文種報徳会病院 脳神経外科
1
【はじめに】救急医学や救急医療システムの進歩によって、救命し得た命は確実に増加している。しかし、そ
れに伴う重症脳損傷による重度後遺症に対して医学の進歩は目覚ましいとは言えない。これらの問題に、約
30 年間にわたって当学会初代理事長 神野らによって取り組んできた。脊髄電気刺激療法もその一つであ
る。
【目的】遷延性意識障害に対して、脳波上の徐波改善、局所脳血流量の増加、脳幹網様体賦活系への刺激効
果、四肢体幹における筋過緊張の緩和などにより、意識レベルや情動変化を期待して脊髄電気刺激を行う。
【方法】全身麻酔下で第 5 頸椎棘突起を切除して硬膜外に電極を留置する。一日 10 時間ほど疼痛の出現しない
ような弱い電流で刺激する。アマンタジンや L-DOPA なども併用して、覚醒状態の改善をはかり、リハビリ
テーションや五感に基づいた刺激を行う。
【結果】遷延性意識障害の原因は大きく分類して、頭部外傷、脳血管障害、低酸素脳症があるが、その治療成
績には大きな隔たりがあった。脊髄電気刺激療法導入前に、画像検査、脳血流量測定が有用であったが、適
応を決定するには至っていない。
【考察】遷延性意識障害の治療は現在において困難と言わざるを得ない。しかし、脊髄電気刺激療法を含めた
集学的治療は、十分に有用なものと考える。
- 51 -
会場
日 1
平林 秀裕、川田 和弘、星田 徹
第
日 1
会場
A
特別企画(SNM-3)
遷延性意識障害に対する脳脊髄刺激療法
山本 隆充
日本大学医学部 脳神経外科学系応用システム神経科学分野
遷延性意識障害に対する脳脊髄刺激療法として、vegetative state(VS)には deep brain stimulation(DBS)、
minimally conscious state(MCS)には spinal cord stimulation(SCS)を施行し、それぞれ意識と運動機能
の回復について検討した。 DBS では覚醒反応を誘発する刺激強度で、25Hz の刺激を日中のみ 30 分間、2 時
間毎に施行した。また cervical SCS では、5Hz の刺激を用いて上肢の muscle twitch を誘発する刺激強度で、
日中のみ 5 分刺激 ON、25 分刺激 OFF を繰り返した。VS ならびに MCS から回復した症例は、いずれも ABR
の V 波と SEP の N20 が記録され、脳波連続周波数分析で slight desynchronization を呈し、Pain-related P250
が 7µv 以上で記録された症例で、脳損傷後 8 ~ 9 ヶ月以内に DBS または SCS を開始した症例であった。また、
VS からの脱却例は、ほぼ全例が長期 bedridden の状態であったが、MCS 症例では全例が bedridden の状態か
ら回復した。さらに 5-Hz cervical SCS によって上肢の muscle twitch を長期間誘発した MCS 症例では、上肢
の運動機能は下肢と比較して明らかに良好であった。 VS 症例では DBS によって VS から脱却しても運動機
能回復は軽度であった。一方、MCS に対する 5-Hz cervical SCS は意識の回復のみならず運動機能回復にも著
しい効果を認め、新たなニューロモデユレーション技術として期待される。
特別企画(SNM-4)
意識障害に対する経頭蓋直流電気刺激法
田中 悟志
浜松医科大学医学部
経頭蓋直流電気刺激法(Transcranial direct current stimulation: tDCS)は、頭蓋の外に置いた電極から微
弱な直流電流を与え、電極直下の脳領域の活動を修飾する手法である。tDCS は極性に応じて脳の興奮性を促
進・抑制する。また刺激された脳領域と関連する認知・運動機能を促進できることも報告されている。装置
が小型で外科手術を伴わないという特徴から、神経疾患や脳卒中に対する新たな非薬物療法として有用性が
期待されている。本講演では、まず tDCS の基礎について解説を行う。次に、意識障害に対する tDCS 研究の
知見を紹介しながら、意識障害に対する tDCS の有効性について考察を行う予定である。
- 52 -
第
シンポジウム(SY1-1)
軽度意識障害と記憶
京都大学大学院 医学研究科・脳病態生理学講座(精神医学)
A
外傷性、血管性、代謝性、あるいは物質誘発性の、昏睡に至らない意識障害には歴史上様々な名称や分類が
与えられてきたが、今日では(少なくとも急性期のものについては)それらを(低活動性のものも含め)せ
ん妄として総括し、acute confusional state とほぼ同義とする見解が一定の合意を得ている(DSM-5, 2013)。
神経心理学的な観点からみたせん妄の中心的な病態は、記憶障害というよりは注意障害である。伝統的に
外傷後健忘と呼ばれてきた状態像についても post-traumatic confusional state と呼ぶことが相応しいとの
見解があり(Stuss et al, 1999)、諸症状の因子分析も、記憶は注意と同じ因子を構成することを示している
(Thurber et al., 2015)
。すなわち、軽度意識障害における記憶障害と注意障害は組み合わせで評価され、総
合的に解釈されるべきである。その際、短期記憶、長期記憶の用語には概念上の混乱があるので、まずそれ
らを明確に定義する。その上で、注意・短期記憶および長期記憶を通じて障害がみられる場合には、検査成
績上の長期記憶障害は、注意障害を中核症状とする confusional state の反映であるとの解釈を第一に考え、
注意・短期記憶に障害がみられず、長期記憶障害のみがみられる場合は、せん妄(つまり意識障害)ではな
く、健忘症候群の可能性を考えるべきである。例えば外傷性脳損傷例では、急性期の confusional state が健
忘症候群に移行して慢性化することは多く、同一の評価尺度を経過を追って実施することも重要である。
シンポジウム(SY1-2)
注意障害
船山 道隆
足利赤十字病院 精神神経科
脳損傷後の治療経過にて、Japan Coma Scale や Glasgow Coma Scale で測定する意識障害の評価では正常レ
ベルとなっても実際の病棟生活、家庭生活、社会生活が十分に自立できない患者は少なくない。「ボーっとし
ている。ぼんやりしている」「リハビリに集中できない。行動が緩慢でテキパキできない」「すぐにつかれて
しまい、リハビリが続かない」「周囲の刺激に気を取られやすい」「ミスが多い」「自分の状況を把握できてい
ない」
「表情に乏しい」などと表現される。このような場合、注意という観点から患者の状態を把握する方法
がある。
そもそも注意そのものを定義することは困難であり、さまざまな見解があるが、高次脳機能で扱う注意とは
おおまかにいうと「さまざまな外的・内的刺激から能動的に必要な刺激を選択し(他を排除する)、行為の持
続性や一貫性をもたせる機能」といえる。いわば、注意とは高次脳機能の土台のようなものであり、注意が
障害されると多くの認知機能が障害される。
高次脳機能で扱う注意はしばしば、覚醒度・持続性、選択機能、制御機能の 3 つのコンポーネントに分けら
れて論じられることが多い。覚醒度・持続性は、ある一定期間における注意の強度の維持能力であり、意識
障害と最も関係が深い。選択機能は多くの刺激からある刺激に焦点をあてる機能であり、注意機能の中心的
存在である。制御機能は、ある認知活動を中断して異なったより重要な情報に反応する転換機能、2 つ以上
の刺激に注意を向ける分配機能、より自動的な反応を抑える行動の制御など、前頭前野からのトップダウン
コントロールや遂行機能に関わる機能である。
注意ないしは注意と関連する機能レベルは、IADL や就労において大きな指標となる。
- 53 -
会場
日 1
村井 俊哉
第
日 1
会場
A
シンポジウム(SY1-3)
意識障害と言語
前島 伸一郎 1、岡本 さやか 1、岡崎 英人 1、園田 茂 1、大沢 愛子 2
1
藤田保健衛生大学医学部 リハビリテーション医学Ⅱ講座、2 国立長寿医療研究センターリハビリテーション科
人の意志や思想、感情などの情報を、音声や文字によって表現したり、伝達するために用いる記号体系を、
言語という。言語は、社会集団内で形成・習得され、意思を相互に伝達するというコミュニケーションや抽
象的な思考を可能にし、その結果として人間の社会的活動や文化的活動を支えている。言語の基礎となるの
は意識、注意、情動などの基盤認知能力である。言語の情報処理は言語領野を中心に大脳半球で行われるが、
脳の器質的損傷によって、いったん獲得された言語能力が障害されたものが失語症であり、言語の情報処理
が損なわれた状態である。
一方、意識は脳の働きが活性化し、五感に対する刺激を感じ取ることが可能な状態で、精神活動の基盤とな
るものである。意識水準を測定する場合、Glasgow Coma Scale(GCS)や Japan Coma Scale(JCS)が広く
用いられるが、これらは言語を覚醒水準の一つの指標として用いている。
本シンポジウムでは、大脳皮質における言語機能の局在を述べ、意識障害との関連について議論を深めたい。
シンポジウム(SY1-4)
用語の解釈と病態の相違について
篠田 淳
木沢記念病院・中部療護センター 岐阜大学連携大学院脳病態解析学分野
慢性期の意識障害は「覚醒」はしているが「認識」が障害されている状態と理解されている。しかし、
「覚
醒」の理解に急性期との齟齬がある。遷延性意識障害患者の全てが「完全に覚醒」しているのではない。「覚
醒」にも程度があり、「辛うじて開眼し、瞬きがみられる」患者も、「発語があり僅かながら言語理解がある」
患者もいる。即ち、慢性期における「覚醒」の程度は急性期と異なり、「覚醒」のし易さではなく、「覚醒」
の質が問われる。慢性期の「軽症意識障害」は「完全な覚醒」状態もしくはそれに近い状態で、「認識」に障
害がある場合を指す。学術的(古典的)な意味での「高次脳機能障害」はこの意識の要素である「認識」の
障害を指すものである。
「覚醒」のレベルが低い患者でも「高次脳機能障害」は存在している。しかし、一
般に「覚醒」のレベルが低い場合には「認識」の障害を捉えることができないため「高次脳機能障害」とい
う表現をすることはない。「覚醒」のレベルが高い状態で初めて「高次脳機能障害」が前面に出る。従って、
「覚醒」のレベルが高い状態、すなわち「軽症意識障害」と「高次脳機能障害」は同一線上のレベルの違いで
はなく、ほぼ同じ障害を「意識」という観点から見た場合は「軽症意識障害」、「高次脳機能」という観点か
ら見た場合は「高次脳機能障害」と呼ぶことができる。一方、行政的な(厚生労働省基準に合致した)
「高次
脳機能障害」は器質的脳損傷に起因する記憶・記銘力障害、注意力障害、遂行機能障害、社会的行動障害を
呈する極めて限定的な障害を指し、「認識」の障害をすべて含むものではない。これらの言葉の定義を理解し
たうえで議論を進める必要がある。
- 54 -
第
シンポジウム(SY1-5)
総括と今後の展望
埼玉医科大学総合医療センター 脳神経外科
A
会場
日 1
松居 徹
- 55 -
一般演題(1B1-1)
脳神経外科専門医院における急性期から在宅へ向けた退院支援について
近藤 里美 1、金丸 江理子 1、和泉 美千代 1、大塚 清美 1,2、内田 里香 2、政木 祐美 3、宮崎 紀彰 4、
上田 孝 5
医療法人社団孝尋会 上田脳神経外科 看護部、2 医療法人社団孝尋会 上田脳神経外科 医療相談室、
医療法人社団孝尋会 上田脳神経外科 医事課、4 医療法人社団孝尋会 上田脳神経外科 麻酔科蘇生科、
5
医療法人社団孝尋会 上田脳神経外科 脳神経外科
1
3
第
日 1
会場
B
【目的】当院は、年間約 3 万人の外来患者を受け入れ、約 600 名の入院患者の退院支援を行っている。とりわ
け、重症脳疾患、意識障害、全身合併症などを有する緊急入院が約 70 %を占めている。しかしながら当院で
は、入院時から退院後の生活を見据えた関わりをモットーに受け持ち看護師が中心となり患者様・家族の意
向を尊重した積極的な退院支援のサポートを医師・薬剤師・セラピスト・ソーシャルワーカー・クラークと
いった多職種のチームで行っている。今回、退院支援を行ったケースをさまざまな角度から分析し現行の支
援を振り返り、急性期からいかに在宅医療につなげていくかの課題を導き出したい。
【対象及び方法】平成 26 年 4 月 1 日から平成 27 年 3 月 31 日までに入院し退院支援を行った 231 症例の入院形
態・疾患名・退院先・退院支援内容・在院日数を分析する。
【結果および考察】患者様、家族の意向を尊重した退院支援を基本に考え、全身及び神経学的な症状に応じて
転院先の選択ができるように常日頃から宮崎県内一円の病院やリハビリ施設などとネットワークを構築して
いる。また自宅退院においては地域包括支援センターの利用や介護支援専門員との連携が必要であり、転院
先への調整においては、医師・看護師・薬剤師・セラピスト、ソーシャルワーカー、クラークなどのチーム
医療で情報を共有することが効果的である。
【結論】急性期医療から在宅医療へ転換するためには、入院時から患者様やご家族の意向を尊重するという基
本から始まり、患者様を取り巻く多職種と確かな情報を共有し良好な連携をしつつ、退院後の予測される不
安に対して対応可能なネットワークを構築しておく必要がある。
一般演題(1B1-2)
重度高次脳機能障害者が在宅生活上抱える問題(特に排泄について)
山口 研一郎
やまぐちクリニック
【方法】1999 年 7 月以来 16 年間、クリニックにおいて、診察・診断・認知リハビリ・社会復帰支援に携わっ
た高次脳機能障害者は既に 1000 名を越えている。うち約 50 名が療護センターなどの医療機関へ入院の後在宅
生活に戻った人であり、同障害を始め、各種精神・身体症状を有しながら在宅生活を送っている。今回はう
ち 10 名を選び、特に家族にとって大きな負担となっている排泄(排尿、排便)に焦点をあてた。
【結果】全てが何らかの排泄の問題を抱えながら生活している。主には、排尿回数の多さ、尿失禁、外出時の
排尿に関する不安(トイレの場所を常に確認)、排便困難、トイレ滞在時間が長い、などである。その結果、
トイレのことが気になり外出を控える、1 日中オムツを着用している、排泄が気になるとパニック状態とな
り他のことに気が回らない、1 日のうちの多くの時間をトイレの中で過ごす、といった問題を生じることに
なる。原因としては、尿意頻回、1 回尿量の減少、便秘傾向、心因性(不安感)
、排泄に関するこだわりが考
えられる。
【考察】排泄は日常生活上、食事・入浴・睡眠と共に、大きな要素を占める。また家族の介助を要することか
ら、大きな負担にもなっている。多くが急性期からリハビリ医療機関を経て在宅に戻る過程で、十分な排泄
技術を身に付けないまま日常生活に戻ってしまったことが一因であろう。排泄に関しても摂食・嚥下同様、
「急性期から在宅医療へ」のノウハウをさらに充実化させることが望まれる。
- 56 -
一般演題(1B1-3)
在宅生活を送る遷延性意識障害者の公的サービスの利用:現状と今後の課題
大西 久男 1、高畑 進一 1、内藤 泰男 1、田中 宏明 1、村川 雄一朗 2、堀田 晴子 3
1
3
大阪府立大学 地域保健学域 総合リハビリテーション学類、2 国立病院機構大阪医療センター、
帝塚山リハビリテーション病院
福与 博子
全国遷延性意識障害者・家族の会
【はじめに】
13 年前に頭部外傷で重度意識障害を負った娘を在宅で 7 年間介護し、この間に訪問医のご理解ご支援、PT や ST の積極的な介入により行ってきた在宅リ
ハビリの内容と今後の課題を中心に報告する。
【リハビリの内容】
1)関節可動域
・急性期直後のリハビリ入院時に指導を受けた毎日約 30 分のストレッチ
PT による体調や反応を確認しながらの週 1 回の関節可動域訓練
・足首関節が若干低下したもののほぼ維持
2)体幹機能
・PT 指導の下、体幹への接触刺激や荷重感覚入力による痙性抑制を目的に、腹臥位→膝立ち→端座位→立位(歩行)と順次進めてきた
・航空機離発着時に安定姿勢を保てるようになり宮古島などに長距離旅行
3)嚥下機能
・毎日の口腔ケア
ST による顔筋肉マッサージなど(週 1 回)
歯科医による内視鏡を用いた嚥下状況の確認(2 ヶ月毎)
・乾燥マンゴやスルメを噛むようになった
・舌の動き改善のため歯の矯正を開始
4)肺機能
・動脈血酸素飽和度低下のため、スピーチバルブ長時間装着(6 ~ 9 時間)及びベッドでのギャッジアップ角度増(25 → 35 °)
・1 ~ 3 ヶ月後から動脈血酸素飽和度向上
・更なる改善のため全閉バルブを試行(現在最大 20 分)
【結論】
・訪問医を中心とした看護師、PT、ST、ヘルパーなどのご理解ご支援、ネットワーク構築が必要
・積極的なリハビリにより糸状結膜炎抑制や自力排便などの生理現象及び声掛け反応が改善
・リハビリでの刺激や体位変換は表面脳血流動態の活性化にも有効
【今後の課題】
・誤嚥性肺炎等発熱頻度の低減(7 年間で 13 回、内入院 2 回)
・頭部外傷時に負った傷に起因する習慣性丹毒の抑制(リンパマッサージ)
・摂食機能の回復
- 57 -
B
会場
遷延性意識障害者への在宅リハビリテーションの可能性
1
日 一般演題(1B1-4)
第
【目的】遷延性意識障害者の主介護者が介護にあたれなくなった時、いなくなった時(「介護者亡き後」)、どの
ように当事者の介護を継続していくか、を考えるために、現在の公的サービスの利用状況、介護者の望む必要
なサービス等をアンケート調査する。
【方法】家族会を通じて、遷延性意識障害者の主介護者 41 名にアンケートを郵送法にて依頼した。調査項目
は、当事者自身に関すること(性別、病因、調査時年齢、受傷・発症時年齢、現在の状況等)、主介護者自身
に関すること(性別、年齢、続柄、在宅生活期間等)およびサービス利用状況(利用しているサービス、頻
度、満足度・不満度、「欲しい」サービス等)である。
【結果と考察】当事者は、男性 25 名・女性 16 名、調査時年齢は 13 ~ 80 歳と幅広いが、30 歳代が最も多く(16
名)、20 歳代(9 名)、40 歳代(6 名)と続いた。受傷・発症からの経過年数は平均 9.6 年(範囲:1 年~ 23 年)
で、28 名の当事者が在宅生活を送っていた(68 %)。主介護者は、母親が最も多く(26 名)、妻がそれに続い
た(10 名)。利用している公的サービスとして多かったのは、訪問介護、移動支援、生活介護、ショートステ
イであり、訪問介護に関しては、サービスの量と質ともに、介護者の満足度を示す結果が得られているが、利
用しなかった・できなかったサービスについては、介護者それぞれに、さまざまな不満や思いがあることも認
められた。公的サービスの現状と将来に向けて、を対比させながら考察を行い、発表をする予定である。
一般演題(1B1-5)
退院後在宅で継続的に新看護プログラムを実施出来るように個別指導を行った事例
佐藤 登志枝 1、大槻 尚美 1、大友 昭子 1、橋本 富美子 1、栗村 由紀子 1、川熊 のぶい 1、
長嶺 義秀 2、藤原 悟 3
1
3
第
日 1
会場
B
一般財団法人 広南会 広南病院・療護センター 看護部、2 広南病院 東北療護センター 診療部、
広南病院 脳神経外科
【目的】当センターでは現在までのべ 20 名以上の患者に新看護プログラムを実施した。しかし、臥床生活か
ら車椅子や歩行生活になるような本来の生活回復、再獲得が出来る患者は極わずかで、広南スコアや RNP 評
価、関節可動域測定など数値化できる評価においても明らかな改善がみられないのが現状である。今回在宅
療養予定で、新看護プログラム 28 日間 1 クールを 5 クール実施した患者は、実施中、筋緊張が緩和し、オム
ツ交換が容易になった等の介護しやすい身体になったが、終了後には部分的な介入を続けてもすぐに筋緊張
や拘縮が強くなるため、在宅介護で家族の負担軽減を目的として、家族が在宅で継続的に新看護プログラム
を出来るように個別パンフレットの作成、退院指導を行ったので、その経験を報告する。
【方法】患者自身をモデルとした写真撮影をし、個別パンフレットを作成。家族来院時に実地指導する。家族
には、在宅で出来そうか、退院指導によってどのように変化があったかを聞き取り聴取する。
【結果】実地指導後、家族のみで仰臥位から腹臥位、腹臥位から仰臥位の体位変換が可能となり、用手微振動
などの技術の習得ができた。家族からは、「家でも出来そうです。微振動をすると身体が柔らかくて、介護が
楽です。お忙しい中パンフレットまで作ってくださってありがとうございます。」と不安が軽減された様子で
感謝の言葉が聞かれた。
【考察】新看護プログラムを在宅で継続的に実施するために個別パンフレットの作成は有効であったと考え
る。今後は、継続的に新看護プログラムを実施できているか、患者の身体状態はどのように変化しているか
等を後追い調査する必要がある。
特別講演(SL2)
意識障害改善のためのリハビリテーション - 和歌山 E-mov プロジェクト 田島 文博
和歌山県立医科大学 リハビリテーション医学講座
意識障害を合併した中枢性疾患は、意識状態の程度・期間が機能的予後に大きく影響する。従って、意識障
害を積極的に改善させる合理的な方法があれば、機能的予後を改善出来る可能性がある。また、ICU 等にお
いて、人工呼吸器管理の重症患者は鎮静されているが、それを低減させる方向になりつつある。その根底に
は意識障害を改善したいという意識改革も見て取れる。我々は、痛み刺激が脳幹網様体を刺激し、さらに、
上行性のニューロンが視床を経て、興奮性に全大脳皮質へ投射し、「意識」の賦活に寄与する機序を活用しよ
うと試みた。しかし、痛み刺激を与え続けることは人道的に問題が指摘され、断念した。次に、経験的に有
効的な手段であると知られている坐位・立位刺激を用いることとした。鎮静を行われている患者や中枢性疾
患により意識障害となった ICU・HCU 患者に発症早期から座位・立位刺激を負荷し、意識賦活に務めた。ま
た、それを臨床研究として統計的に有用であるか検討した。その結果、意識状態を悪化させた症例は無く、
GCS では有意に改善を認めた。さらに、意識状態が改善した患者には運動負荷を与え、短期的には機能的予
後の改善もみられた。一方、発症 1 年以上経った JCS3 桁の意識障害患者に対して長下肢装具を処方し、介助
歩行を施行した。その結果、会話し、食事をするようになる症例を経験した。以上のように、意識障害を伴
う重症患者に対して、手術や投薬と同様の「治療」として「積極的なリハビリテーション」を施行する事は
意識障害改善のために、我々は推奨する。
- 58 -
一般演題(1B2-1 基調発表)
高周波非可聴音刺激が青壮年と老年者に与える脳賦活効果:PET と EEG による検討
岡田 裕之 1,2、尾内 康臣 2,3
浜松ホトニクス株式会社 中央研究所 PET 医用グループ、開発本部 PET 事業推進部、
浜松光医学財団浜松 PET 診断センター、
3
浜松医科大学メディカルフォトニクス研究センター生体機能イメージング研究室
1
2
守谷 俊 1、野田 燎 2
1
自治医科大学医学部附属さいたま医療センター 救急科、2 大阪芸術大学 初等芸術教育学科
長期在宅での中枢神経の賦活を継続し、意識回復に至った症例を報告する。症例は 50 代の男性。約 6 年前、
重症頭部外傷により某救命救急センターにて右急性硬膜下血腫に対する血腫除去術、外減圧術が施行され約
7 ヶ月後、水頭症に対して脳室腹腔短絡術を施行した。しかし転院した先でシャント機能不全が明らかとな
り、再建術を施行された。受傷から 1 年 5 か月後に石切生喜病院での音楽運動療法を 3 ヶ月間受けたが変化
に乏しく、帰京して経過フォローが困難となり、家族の要請によりその時から経過観察を行った。受傷から
2 年 10 か月経過時、左完全片麻痺、反応は乏しかった。頭部 CT では脳室が狭小化し、圧可変式バルブシャ
ントシステムは 3cmH2O と低値になってため、7cmH2O に変更した。治療として薬物補充療法はレボドパ・
ベンセラジド塩酸塩およびアマンタジンを継続し、毎週 1 回の通院リハビリテーションと右正中神経刺激療
法を開始し、自宅での音楽運動療法を継続した。同時期、抗けいれん薬を中止した。それから 1 か月後、そ
れまで傾眠傾向にあった意識が昼間は起きている時間が長く、反応が認められ始めた。その後、圧設定を
9cmH2O まで上昇させ管理を行っている。受傷から 4 年 3 ヶ月の時点で介助が必要であるが文章を書くことが
可能となった。文章によると、
「外見上で意識障害と判断されていた時期、記憶がはっきりしていた。しか
し表現できなかった」との衝撃的な内容であった。現在、書字によるコミュニケーションがとれる他、スト
ローで飲水可能となった。この一例を通じて急性期医療の終了後も、患者のフォローアップを確実に行いな
がら外部からの刺激を継続して行うことが重要であることを痛感した。
- 59 -
B
会場
重症頭部外傷後の遷延性意識障害に対して在宅療法の継続により改善傾向を示した 1
症例
1
日 一般演題(1B2-2)
第
ヒトの耳で感じることができる音域(可聴域)はこれまでの研究から一般に周波数帯域 20Hz から 20kHz ま
でとされており、加齢と共に可聴域が狭くなることが知られている。高周波非可聴音が生体に影響を与える
ハイパーソニック・エフェクトに関する研究が 2000 年頃から多数報告されており、これらの音はインドネシ
アの民族音楽ガムランや山奥深い森林など自然環境に存在する音などに多く含まれるとされ、これまでに若
年者を対象としてガムラン音楽によるハイパーソニック・エフェクトに関する検証がおこなわれてきた。
今回、オーケストラ音楽メディアを音源として高周波非可聴音を含む音の刺激で青壮年と老年者にハイパー
ソニック・エフェクトが発現するか、PET(Positron Emission Tomography)による脳イメージング、脳波
(Electroencephalogram:EEG)計測を用いて検証した。対象は平均年齢 36.8 歳 SD ± 7.7 歳男女合計 8 名の青
壮年健常ボランティアと、平均年齢 77.6 歳 SD ± 4.1 歳男女合計 15 名の高齢健常ボランティアとした。これら
の音刺激は脳幹を賦活し、後頭葉の α 波を増大させ、ガムラン音楽以外でも年齢に依存しない脳賦活が確認
された。また、これらの音刺激が健常高齢者の実際の生活に与える影響について老人ホームと共同で検証中
であるが、継続的な高周波非可聴音を含む音楽試聴が健常高齢者の日常の行動量を増加させ、精神症状を安
定させ得る効果があることが示された。高周波非可聴音は年齢に影響されない脳賦活作用があることが示唆
され、有効な受動的脳賦活方法として医療分野にも応用できると期待される。
一般演題(1B2-3)
在宅音楽運動療法継続による改善例
山内 幸子 1、野田 燎 2、大植 京子 3、大空 倫子 3、山田 直美 4
1
4
第
日 1
会場
B
患者家族、2 大阪芸術大学 芸術学部 初等芸術教育学科、3 石切生喜病院、
社会福祉法人 会津若松市社会福祉恊議会
平成 12 年 6 月 5 日、前交通動脈瘤破裂によるクモ膜下出血発症、緊急開頭・動脈瘤クリッピング術後脳浮腫
出現し、遷延性意識障害になる。1 年間総合会津中央病院入院後、平成 13 年 7 月 17 日から 10 月 30 日まで大
阪石切生喜病院にて音楽運動療法受療 。4 ヶ月間療法を受けたもの、あまり変化なく退院後、在宅での音楽
運動療法を開始 13 年経過した。在宅における療法継続は当初支援制度がなく家族と近隣の友人の協力を受
け、大阪から会津の自宅へ出張療法を 3 ~ 4 回 10 年間実施指導した結果嚥下機能の改善および排泄指示等の
コミュニケーションがとれるようになった。このような改善は病院では見られなかったが、在宅での音楽運
動療法の継続は支援制度を活用することで実現可能であり、また、病院では見られなかった改善や回復が見
られた。その事例報告をする。
一般演題(1B2-4)
筆記コニュニケーションを可能にした在宅音楽運動療法と地域協力
望月 恵里 1、野田 燎 1,2
1
石切生喜病院、2 大阪芸術大学 初等芸術教育学科
【はじめに】今回、在宅での療法継続により家族との意思疎通を可能にした症例を紹介すると共に地域協力の
重要性を述べたい。
【症例】私の母は 2000 年 8 月くも膜下出血を発症し、同年 12 月、石切生喜病院にて半年間、音楽運動療法を
受け、意識障害が改善した。その後、転院して在宅介護を始める。発病から 15 年、再入院することなく現在
に至る。その間、定期的にケアマネージャー、看護士、デイサービスの職員等、大勢の人達が自宅に集まり、
母の介護についての話し合いをしてきた。昨年夏、國學院大学の柴田保之先生との出会いから字が書けるこ
とがわかり、○×、数字、選択と文字を書くことでコミュニケーションが可能になる。14 年前、石切生喜病
院にて音楽運動療法を受け意識障害が改善したものの、意思疎通はできなかった。しかし、転院後、地域ス
タッフの協力により在宅音楽運動療法を継続した結果、昨年夏、筆談による意思疎通が可能になった。
【結論】家族と地域介護の援助を受けての在宅生活は、患者本人にとっても心安らぐ時間である。話すことは
できなくとも書くことでの意思表示ができることにより一層表情が良くなる。現在、本人共々、家族も希望
を持って生活することができる。在宅療養患者さんの病状改善には地域協力の重要性を示唆している。 - 60 -
一般演題(1B2-5)
脳膿瘍術後メトロニダゾール脳症による意識障害が遷延した 1 例
中山 晴雄 1,2、平井 希 1、平元 侑 1、原科 純一 1、齋藤 紀彦 1、林 盛人 1、青木 和哉 1、岩渕 聡 1
1
東邦大学医療センター大橋病院 脳神経外科、2 東邦大学医療センター大橋病院 院内感染対策室
佐藤 光夫、生沼 雅博、仲野 雅幸、浅利 潤、渡邊 一夫
一般財団法人脳神経疾患研究所附属南東北福島病院 脳神経外科
【目的】脳卒中症例のうち、自発呼吸が停止した後に回復する症例は少ない。今回、発症まもなく自発呼吸が
停止し、人工呼吸器管理を要したが、その後回復した脳梗塞の症例を経験したので報告する。
【症例】65 歳、男性。高血圧、糖尿病、AMI の既往あり。平成 AB 年 X 月 Y 日自宅で倒れているのを家族が
発見し、当院へ搬送。来院時 JCS 100、四肢麻痺あり。MRI(DWI)にて両側延髄内側部に新鮮梗塞巣が認
められ、また、MRA では両側椎骨動脈遠位部から末梢の描出は見られず、保存的に治療を開始した。入院 2
時間後に失調性呼吸となり、気管内挿管を行った。翌日の MRI では右小脳半球にも梗塞巣が伸展していた。
入院 38 時間後に自発呼吸が停止し、人工呼吸器を装着した。丸 2 日間自発呼吸は停止したが、その後徐々
に自発呼吸が出るようになり、42 日後に呼吸器管理から離脱出来た。抜管に際し、誤嚥性肺炎を予防する
ため、声門閉鎖を伴う拡大気管切開術を実施した。さらに 1 ヵ月後に胃ろう造設術を施行した。全身状態は
徐々に安定し、家族が在宅での生活を希望したため、2 ヵ月後に意識清明、完全四肢麻痺状態で自宅退院し
た。約 1 年 3 ヶ月経過したが、当院からの在宅医療(訪問診療・訪問看護)を受け、再発や全身合併症も来た
さず、在宅生活を続けている。
【結論】両側性延髄梗塞では中枢性呼吸障害が生じやすく、自発呼吸が停止した場合は予後が不良である。嚥
下障害を伴い、1 ヶ月以上の遷延性呼吸障害を来たした場合には誤嚥性肺炎対策が患者管理上重要となる。
我々が行った声門閉鎖を含む拡大気管切開術は有効であったと考えられる。
- 61 -
B
会場
急性期の自発呼吸停止から回復し得た両側延髄内側部および小脳梗塞の 1 例
1
日 一般演題(1B2-6)
第
症例は 73 歳、女性。構語障害、右上下肢の脱力が出現し、頭部 MRI を施行した結果、左大脳半球に約 2cm
大の占拠性病変を認め、発熱および炎症反応の上昇は認めないものの、画像所見から脳膿瘍が強く疑われ精
査、加療目的に当院転院となった。転院後に施行した膿瘍穿刺排膿液の培養結果から、Peptostrepto が同定
され、ABPC/SBT と MND による抗菌化学療法を開始し継続した。その後、徐々に脳膿瘍も縮小し再増大は
認められなかった。なお、胸部 CT や心エコーでは明らかな肺内シャントや PFO は認めず、先行する歯科治
療歴からは、侵入門戸については口腔内と考えられた。脳膿瘍は順調に縮小し、神経症状も改善傾向を示し
ていたが、徐々に意識障害が出現増悪し、活動性の低下と経口摂取も困難となった。臨床経過から、意識障
害の原因として MND による脳症が疑われ、頭部 MRI を施行したところ、脳梁膨大部の DWI 異常高信号を
はじめとして、MND 脳症として矛盾しない所見であったことから、MND の投薬を中止した。MND 中止後、
意識障害は改善傾向となったものの、MND 脳症発症前と比較して活動性の低下などは改善せず、リハビリ
テーション目的に他院転院後約半年かけて症状改善となった。本症例における、NMD の血清中濃度は計測
することが出来なかった。これまで、MND 脳症に関する報告は本邦においても認められるものの、各種諸
症状、特に意識障害については速やかに改善するとされているものが多い。今回、治療経過中に MND を使
用し、意識障害が遷延した稀な 1 例を経験したので若干の文献的検討を加え報告する。
一般演題(1B3-1)
生活リズム確立によるせん妄の予防効果とせん妄発生リスクの検討
山田 佳子 1、牧山 瑞希 1、根本 雅隆 1、鈴木 しほり 1、植木 大輔 1、二瓶 美穂 1、安藤 俊哉 1、
大森 ゆかり 1、関口 靖子 1、水成 隆之 2
1
第
日 1
会場
B
日本医科大学千葉北総病院 脳神経センター、2 日本医科大学千葉北総病院 脳神経センター 脳神経外科
当センターでは、脳卒中や頭部外傷等の急性期疾患の入院症例が多く、入院中にせん妄を発症する患者を少
なからず見受ける。せん妄が発症した場合には、ドレーンや点滴、挿管チューブなどの自己抜去による身体
への危険や、治療を継続して受けることができないことによる入院期間延長、その結果として起こる死亡率
の増加など、患者にとって不利益なことが起こりやすいと言われている。そのため我々は、何らかの介入を
行うことで、入院患者のせん妄発症を予防することが出来ないか検討した。せん妄は生活リズムが整えら
れることで、効率的に予防できるとされるため、生活リズムの確立を目指して、朝のラジオ体操や夜間の
フィーリングミュージック、時計やカレンダーによる日付・時間の把握等の実践による種々の複合的介入を
行った。入院患者(JCSI-1 ~ II-10)を無作為に、複合的介入を行うものと行わないものの 2 群にわけ、それ
ぞれのせん妄発生状況を調べることで、生活リズム確立によるせん妄発症予防が可能かどうかを統計学的に
検討した。さらに、年齢、性別、疾患の種類やその部位、入院の部屋タイプ(重症室など)、ベッドの位置
(窓際、廊下側など)、周囲の騒音(モニター音など)、身体抑制や点滴、ドレーンの挿入の有無、などについ
て、どの項目がせん妄発生のリスクとなるかについても検討した。せん妄の見逃しを防ぐには、特定のアセ
スメントツールを使用することが有効であると言われている。今回、我々は共通のアセスメントツールとし
て ICDSC を用いて評価したが、これは、実際に臨床現場で用いるツールとしては客観性が高く、簡便で有用
であった。若干の文献的考察を加え、報告する。
一般演題(1B3-2)
療護看護プログラム終了後の変化についての考察―評価表からの読み取り―
竹内 葉子、秋広 由美子、鈴木 敬子、岸部 友美
自動車事故対策機構 千葉療護センター 看護部
【はじめに】昨年の意識障害学会で生活予後診断に基づいた看護プログラム(以下療護看護プログラムと称す)
による介入の変化を評価表を通して考察し、「認知」の変化が「摂食」「運動」の変化を引き出す関わりに繋が
ることを報告した。今回、介入終了後 5 ~ 14 ヶ月を経過した患者について再評価した。その結果から考察した
ことを報告する。
【研究方法】対象は療護看護プログラムを実施し、現在も千葉療護センター入院中の6例。RyogoNursingProgram
(以下RNP)評価表を用いて、2015年4月時点で再評価した点数を、介入前後と比較し、変化のあった例について
検証した。
【結果】今回対象となる 6 例の内、5 例は介入終了後 5 ヶ月以上経過しているが、変化が認められた。「運動」は
3 例に点数の上昇、1 例に下降、「認知」は 4 例に上昇、1 例に下降、「摂食」は 4 例に上昇、1 例に下降、「排泄」
は 1 例に上昇があった。事例)20 代男性。介入時より摂食のアプローチを始め、終了後も継続した。介入終了
時から 14 ヶ月後で「運動」6 点「認知」8 点「摂食」13 点「排泄」3 点といずれも上昇が見られた。
【考察】療護看護プログラムは日常的なケアの組み合わせであるが、介入期間終了後の全ての介入内容の継続は
難しく、課題となっている。しかし、介入時に引き出すことのできた能力に関する関わりを終了後も継続する
ことは、その能力だけでなく他の能力にも複合的に影響して全体の機能の維持もしくは改善につながっていく
ことが推察された。
【結論】介入によって明らかになった患者の能力に対し、介入終了後も関わりを続けることで新たな能力の維持
もしくは改善にもつながる。
- 62 -
一般演題(1B3-3)
再発悪性神経膠腫に対する光線力学的治療後に遮光環境に置かれた患者への看護の検討
佐藤 由紀子 1、仁木 千晴 3、生田 聡子 3、新田 雅之 2,3、丸山 隆志 2,3、村垣 善浩 3、川俣 貴一 2
1
3
東京女子医科大学病院 社会支援部、2 東京女子医科大学病院 脳神経外科、
東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 先端工学外科学分野
小山 彩香、森本 加奈子、笠井 美登里、森 光代、高澤 千鶴、田宮 隆、三宅 啓介
香川大学医学部附属病院
【はじめに】AVAglio 試験では、初発悪性神経膠腫に対する標準治療に加え bevacizumab を投与することで
無増悪生存期間は延長するが、全生存期間では有意な延長は認められないという結果が示された。しかし、
KPS70 %以上の状態が 3 カ月延長し、QOL も維持されるという結果も示されており、bevacizumab 療法が保
険適応となって以降、当院でも bevacizumab 療法を導入する悪性神経膠腫患者は増加している。今回、看護
の視点で bevacizumab 投与前後の患者の状態を振り返り、QOL 向上に向けた看護介入法やそのタイミングに
ついて検討を行った。
【方法】当院で bevacizumab 療法を行った悪性神経膠腫患者を対象(研究に関する説明を文書と口頭で行い、
本人又は代理意思決定者に署名による同意を得た)とし、bevacizumab 療法前後の意識レベル、覚醒状況、
ADL 等について検討した。
【結果】症例は全て悪性神経膠腫と診断され、bevacizumab 療法を行い抗腫瘍効果が認められた患者である。
治療後、意識レベルや覚醒状況、ADL 等の維持または改善を認めた。
【考察】Bevacizumab の投与による抗腫瘍効果に加え、他職種と連携したリハビリの導入や食事形態の検
討、日中覚醒を促すような介入、家族が患者と関われるような指導など QOL を考慮した看護介入を行うこと
で、意識レベルや覚醒状況、摂食状況の改善、ADL の改善を認められたと考えられた。悪性神経膠腫患者の
QOL の把握は困難な場合が多いが、緩和的な介入だけではなく、QOL の向上を目指し、家族を含めた看護介
入を積極的に実施していく必要があると思われる。
【結論】Bevacizumab の投与に加え、QOL の向上を重視し家族も含めた包括的な看護介入を行っていくこと
が重要である。
- 63 -
B
会場
Bevacizumab 療法を施行した悪性神経膠腫患者に対する QOL 向上に向けての看護介入
1
日 一般演題(1B3-4)
第
【はじめに】光線力学的治療(photodynamic therapy:以下 PDT)は、腫瘍組織や新生血管への集積性がある
光感受性物質を患者に投与した後、組織にレーザー光を照射することにより光化学反応を引き起こし、細胞を
変性・壊死させる治療法である。PDT は光線過敏症の副作用予防のために術後約 2 週間、室内の採光を 500 ル
クス以下に調整する。遮光環境が患者に及ぼす影響と患者に必要な看護を検討する。
【対象および方法】2014 年 4 月~ 2015 年 3 月に当院で PDT を受けた再発悪性神経膠腫患者(Grade3 ~ 4)22 名
を対象とし経過記録から患者の状態や実施した看護ケアを抽出した。個人の特定や個人情報が公表されないよ
う倫理的配慮を行い、特に事例を表す必要のある対象者には発表の承諾を得た。
【結果】対象者 22 名(男性 15 名、女性 7 名、平均年齢 46 歳)は、術後片麻痺や失語症をはじめとした高次脳機
能障害を有していた。投与後平均 12.7 日に光線過敏症試験で過敏がない状態を確認し、屋内での遮光が解除さ
れていたが、安全のため遮光を継続している者もいた。6 名が投与後 7 日以上経過してから混乱、抑うつ、不
安状態を呈した。閉鎖された過剰な遮光をやめ、看護師の話し方やタッチングを工夫すること、思いを傾聴し
ねぎらうこと、見通しを説明し、家族にも協力を求めることによって、改善がみられた。
【考察】遮光環境は見当識や時間感覚が鈍くなり、外的情報からも隔離され、術後回復期の見通しが得られず、
患者自身では術後の環境や身体の変化に素早く適応できないことでストレスや不安が増強する傾向があると推
察された。遮光環境を適切な状態に調整し、早期から精神的苦痛への看護介入が必要であると示唆された。
一般演題(1B3-5)
慢性期意識障害に対する「意思疎通グレーディング」評価の意義と課題
宇佐見 希子 1,2、兼松 由香里 3、槇林 優 3、池亀 由香 3、遠山 香織 1、浅野 好孝 2,3、篠田 淳 2,3
1
3
第
日 1
会場
B
社会医療法人厚生会 木沢記念病院、2 岐阜大学大学院 医学系研究科 脳病態解析学分野、
社会医療法人厚生会 木沢記念病院 中部療護センター
【目的】意思疎通グレーディング評価(篠田、2004)を基盤に、意思疎通や外的刺激に対する反応の再現性、自
発運動の有無を加えた 6 段階の評価法を作成し、臨床評価指標としての利点と課題を検討した。
【対象と方法】評価対象は慢性期意識障害患者 44 人(男性 31 人、女性 13 人)で、平均年齢は 38.4 歳、受傷から
入院までの期間は最短で 3 ヶ月、最長で 13 ヶ月、在院期間は最長が 85 ヶ月、最少で 1 ヶ月だった。調査期間は
2014 年 7 月~ 9 月で、評価方法について 3 回の説明と解説用紙を配布した後、療法士 51 人(PT25 人、OT11 人、
ST13 人、MT2 人)と看護師 38 人が評価を実施した。評価の信頼性は内的一貫性をクロンバックの α によって
求め、評価者間の相関をみるため、スピアマンの順位相関分析を行った。解析ソフトは SPSS Statistics Ver.22
を使用した。
【結果】評価の信頼性統計量はクロンバックの α.726(有効数 76、除外数 13)、スピアマンの順位相関係数は r
= .537 ~ .993(p<.001)で、評価者間に正の相関を認めた。評価対象 44 人中 3 人はレベル 1A で評価が一致し、
13 人は評価がレベル 1 ~ 3 に分かれた。評価を決定づける臨床症状は身体の 1 部に随意性を認めるが指示は入ら
ない、家族や趣味・味覚など特定の人物に視線や表情変化を認めるなど微細かつ詳細な観察があった。レベル
1:わずかでも言語による意思疎通を図ることができる。A. 再現性がある B. 再現性がない レベル 2:言語によ
る意思疎通を図ることはできないが、外的刺激に対し刺激の方向に即した反応がある。A. 再現性がある B. 再現
性がない レベル 3:外的刺激に対し刺激方向へ即した反応がない。A. 非合目的だが、自発運動がある B. 自発
運動はないが、反射的な動きはあってもよい
一般演題(1B4-1)
急性期一般病棟における高次脳機能障害患者に対するケアへのスタッフの思い
鈴木 千佳代 1、田中 篤太郎 2
1
総合病院聖隷浜松病院 脳卒中リハビリテーション看護認定看護師、2 総合病院聖隷浜松病院 脳神経外科
【はじめに】高次脳機能障害患者の発症間もない時期は、安静が守れずルート類の自己抜去など対応困難な状
態が続く。高次脳機能障害は事例報告や文献は多くあるが、急性期ケアを行うスタッフの困難さに対する研
究は見当たらない。そこで、今後のケア実践への示唆を得るために、スタッフの抱えている思いを明らかに
した。
【方法】A 病院急性期一般病棟のスタッフが、高次脳機能障害患者に対する感情を表出するカンファレンスを
実施した。臨床研究審査委員会の承認を得て、ケアへの思いや対処法について、KJ 法を用いて質的記述的分
析を行った。
【結果】カンファレンス参加者は看護師 27 名、看護助手 10 名、当該病棟勤務年数は 1 ヶ月~ 14 年であった。
表出された 52 枚ラベルから 6 のカテゴリーを抽出した。「1. 治療が安全に行えない」「2. 一人で対応するのは
困難」
「3. 他の患者への影響が困る」
「4. 患者のことが理解できない」では、安全な治療の遂行のための身体
拘束や行動制止により、患者が否定的な感情を暴言・暴力で表出する内容が多かった。これに対応するス
タッフは恐怖心や怒り、苦手意識を持ち、どう接することが望ましいか「5. 自分のケアの方法に悩む」があ
げられた。また、患者の行動に合わせて接するなどの「6. ケアの成功体験」があがった。
【考察】高次脳機能障害への対応は、患者が体験している世界を理解することが大切であり、最も重要な取り
組みであると考える。また、看護師が一人で対応することに限界があり、チームでケアしていくことの大切
さを確認した。一方、ケアの成功体験をしたスタッフも存在しケア方法の共有のための語りも重要であるこ
とが分かった。
- 64 -
一般演題(1B4-2)
自動車事故重度後遺障害者へのスムーズな短期入院制度活用へ向けての取り組み
春森 友子 1、長井 誠 2、山本 琢也 3
1
宮崎医療センター病院 地域連携室、2 桜十字病院 地域連携室、3 永冨脳神経外科病院 地域連携室
藤井 渚、宇佐見 希子、後藤 礼子、遠山 香織
社会医療法人厚生会 木沢記念病院
【目的】急性期から病態管理とともに今後の生活を視野に入れた支援の意義を報告する。
【症例】アテローム性脳梗塞の 91 歳男性 A と、急性硬膜下血腫で意識障害が遷延化した 59 歳男性 B の 2 人と
その家族。
【経過】A:40 年前の脳出血で構音障害と右麻痺が残存し、今回嚥下障害が出現した。家族は胃瘻造設を拒否
し、退院は元の施設を希望した。身体と嚥下機能の向上を目標にチーム医療を提供し、患者・家族も積極的
に参加した。B:遷延性意識障害、気管カニューレがあり ADL は全介助だったが、家族は在宅を希望した。
吸引や胃瘻管理等の介護支援と並行して、妻と腹臥位・用手微振動、バランスボールを用い下肢の運動や長
坐位を行い肺炎予防や筋緊張の緩和、拘縮の改善を図った。倫理的配慮:患者と家族に看護介入の主旨を文
書と口頭で説明し、文書による同意を得たあと実施した。
【結果】A:経口摂取が確立し入院 2 か月後、施設職員に「入院前より良くなった」と言われるほど回復し元
の施設へ退院した。入院中から施設職員に患者の経過・状態を報告し連携を図り、退院時は嚥下機能の維持
を目的とした訓練方法を看護サマリーに添付した。退院 3 カ月後も、退院時と変わらず経口摂取が続けられ
ていた。B:障害者自立支援法に基づき調整を図り、患者と家族の健康的な在宅生活の継続を支援すべく身
体機能の維持に向けたサービスについて調整会議で助言をした。肺炎、拘縮悪化の予防ができ、入院 13 か月
後に自宅へ退院した。
【考察】患者・家族と一緒に同じ目標に向けた看護の提供が、患者の身体機能の維持・回復の促進とともに、
積極的な看護への協力・参加を促し、患者・家族の望む場所への退院に繋がったと考える。
- 65 -
B
会場
急性期から病態管理とともに生活の再構築を目標にした支援の意義
1
日 一般演題(1B4-3)
第
【目的】私たちは 3 年前より各指定協力病院担当者に呼びかけ、担当者相互の自主的研修会による受け入れ体
制の構築を行っている。自動車事故重度後遺障害者(以下 NASVA 介護料受給者)に寄り添った円滑な運用
方法の確立のために、その経過とこの研修の有用性を検証し報告する。
【方法】国土交通省が行っている短期入院協力病院の事業における病院相互の自主的研修会開催までの経緯、
内容、拡大への道のりをモニタリングの結果をもとに、NASVA 介護料受給者の在宅生活の QOL と照らし有
用性を検証する。
【結果 考察】指定協力病院同士が連携を深めることで、制度の課題が明確となり、必要な書式の作成、見直
し、統一化が図られた。NASVA 介護料受給者の制度活用において、吟味された課題が直接国に報告できた。
研修会で検討されていた様式が採用となり、全国の指定様式となった。研修会を各県及び参加病院で行うこ
とにより、病院内でも制度が周知され、担当者が円滑に受け入れ業務を遂行できるようになった。病院内の
担当者が他県病院担当者と連携することで、同じ課題を共有できる連帯感に繋がり、積極的に担当業務を遂
行できるようになった。直接担当者が在宅訪問を行うことで、NASVA 介護料受給者家庭の安心感に繋げる
ことができ必要性を確信できた。
【おわりに】福祉における制度の運用は、当事者抜きにして行うものであってはならない。制度が円滑な活用
となるためには、支援者個々が専門性を自覚し、常に変化する社会情勢を見据え、ソーシャルアクションを
起こし課題に働きかけるたゆまぬ努力と、多職種が連携し協力し合い、対象者に寄り添う姿勢が重要である
といえる。
一般演題(1B4-4)
脳神経外科病棟における、脳血管疾患に伴う意識障害患者の家族の体験
相曽 容貴子、洞口 智里、平野 哲子
浜松医科大学附属病院 3 階東病棟
第
日 1
会場
B
【目的】脳神経外科における重症意識障害患者家族の体験を明らかにし、家族支援を検討する。
【方法】発症時 GCS10 前後の脳血管疾患患者の家族に、(発症後 10 日目前後)と(転院前)の 2 回、面接を行
いデータをカテゴリー化した。研究参加は自由意志によるもので診療に一切関係せず、プライバシーに配慮
することを説明。
【結果】脳血管疾患に伴う意識障害患者の家族は、『突然の発症に混乱する』『死を覚悟する』体験をしてい
た。死の危機を脱した後も “ 患者とコミュニケーションがとれない戸惑い ” など『患者の機能障害に困惑す
る』を体験し『今後がはっきり分からない不安』を抱え、『患者が不憫』と感じ、一方でちょっとした機能改
善に気づき『患者の機能回復を期待する』体験していた。転院前には、『冷静になることができる』状況とな
り、『患者の機能回復を願う』一方で患者の状態から『回復が難しいことを思い知らされる』体験をし、『深
刻に考えない』などの情動的対処をしていた。また『転院に関する不安』『患者を支え続ける疲弊感』を体験
していた。家族成員や医療関係者の協力は家族にとって『周囲の協力が得られる安心感』につながっていた。
【考察】発症直後は危機的状態に陥りやすく、キーパーソンが孤立して負担を背負うことがないよう調整し、
最善の選択ができるよう支援することが重要。家族の負担を理解し、身体・精神的疲労に配慮する必要があ
る。家族の体験に関わるには、看護師が家族の体験の特徴を理解していることや、表出を促すなど、意識的
な歩み寄りが特に重要と考える。これらの看護は、家族が患者の症状を受け入れ、適応に至る過程を支える
と考える。
一般演題(1B4-5)
身体抑制における患者の体験
藤田 亜弓、鈴木 清香、相曽 容貴子、平野 哲子
浜松医科大学附属病院 3 階東病棟
【目的】安全保持のためやむを得ず身体抑制を実施した患者の体験を明らかにし、身体抑制における看護のあ
り方を検討する。
【方法】術後床上安静を必要とし気管カニューレ等、生命に関わるチューブの自己抜去の危険があるため身体
抑制を実施した患者に、面接調査を行い身体抑制中の体験を聴取し、得られたデータをカテゴリー化した。
研究参加は自由意志によるものであり本研究への参加は診療に一切関係せず、プライバシーに配慮すること
を説明した。
【結果】身体抑制中の患者は 「状況がわからない」「抑制を外そうと試行錯誤する」「声が出ず看護師を呼ぶこ
とができない苦痛」「思うように動けない苦痛」「抑制が必要な事だと納得する」 などの体験をしていた。
【考察】患者は、抑制に関する看護師の説明を聞き、必要なことだから仕方がないと理解し納得していた。し
かし一方では、なんとか抑制を外そうと試行錯誤する体験もしていた。今回の事例で私たちは観察の継続が
できない場合などにやむを得ず身体抑制をおこなったが、結果より記憶が曖昧な部分も多く、患者の安全を
守るためのやむを得ない方法であったと考えられる。患者の理解度によっては身体抑制もやむを得ないのが
現実といえる。しかし患者は「思うように動けない苦痛」を体験しており、身体抑制が患者に与える苦痛が
大きいことは明らかである。身体抑制を最小限とする努力は必須であり、できる限り見守りをしたり、患者
が抑制を外したい時にすぐに対応できるよう NS コールを確実に押すことができる準備が必要である。
- 66 -
一般演題(1B5-1)
頭部外傷後遷延性意識障害患者の QOL を高める看護
~ iPhone でのコミュニケーション~
古田 由美、土屋 郁恵、兼松 由香里、遠山 香織、浅野 好孝、篠田 淳
木沢記念病院 中部療護センター
冨田 悠、山口 麻也、松本 由比乃、田附 容子、杉山 慎太郎
市立長浜病院 SCU 病棟
【はじめに】今回、脳梗塞による意識障害がみられた患者に対し、超急性期から家族と共に覚醒を促せるよう
介入を行った結果、意識障害の改善に繋げられた症例を報告する。
【倫理的配慮】本事例は、家族に目的・内容・個人情報の保護・拒否権について説明し、同意を得た。
【患者紹介】70 代、男性。妻と二人暮らし。入院前は、日常生活動作自立。
【経過・看護介入】右内頚動脈閉塞による脳梗塞にて入院。Stroke Care Unit(以下 SCU)入室時、Glasgow
Coma Scale(以下 GCS):E3V2M4。National Institutes of Health Stroke Scale:29 点。徐脈性心房細動、心
不全認め、安静を強いられたためギャッジアップ 30 度でポジショニングを実施した。入院時、妻は危機的状
況であった。心負荷をかけないよう Range Of Motion の介入から開始し、家族にも説明して共に行った。3 病
日目より CT 上 Midline Sift の増悪、神経所見悪化がみられないため、体位の変動に伴う微細な血圧や心電図
の変化に注意し、ギャッジアップ、端坐位、車椅子乗車と段階的に離床すすめた。臥床時は傾眠様であった
が、離床時に患者へ声をかけると、指で OK サインをされた。家族にリハビリテーション(以下 RH)の場に
同席してもらうと、孫の頭を撫でる反応がみられた。徐々に家族自ら、積極的に患者に声をかけ、RH 介入さ
れるようになった。GCS:E4V4M6 へ改善。SCU 退室後、回復期リハビリ病棟を経て、在宅退院された。
【考察】超急性期の意識障害患者に対して、リスク管理を行いながら家族と共に RH を実施することで、意識
障害が改善し患者本人の意欲的な行動がみられた。家族も患者の回復を実感でき、障害受容に繋げられたの
ではないかと考える。
- 67 -
B
会場
家族と共に行う意識障害患者へのリハビリテーション
1
日 一般演題(1B5-2)
第
【はじめに】コミュニケーションは、人間の日常生活に欠くことのできない基本的な欲求であると言われてい
る。A 氏は、自分から思いを発することができないが、質問に対しては理解し、離握手や眼球の動きで Yes
- No を示すことが可能であった。そのため、コミュニケーション手段がとれないかと検討し、患者の希望も
あり使い慣れた iPhone を取り入れることとした。これを使用することで少しでも自分の思いを発することが
できれば、QOL の向上につながると考え iPhone を打てる筋力と操作のできる指づくりを中心とした看護介入
を行った。
【方法】iPhone のタッチパネルを押す指を動かすための筋力や指づくりは、温浴刺激療法中に左手指や手関
節の運動を施行。その後リフレソロジーを行う。iPhone の文字入力では、左手関節と最も随意性が良好であ
る左第 3 手指を介助で支え、伝えたい言葉や質問の答えの入力を促す。
【結果】左第 3 指が随意的に伸展し、関節可動域の拡大がみられた。また iPhone 入力では日による差はあった
が、タッチパネルを押したり離したりする動作や指を次の文字へと運ぶ時間が速くなり、入力できる文字数
が平均 1 文字増加、入力時間が平均 5 分間の短縮がみられ、質問に対する答えを入力できることもあった。ま
た、入力できることで笑顔がみられ、本人より「入力できて嬉しい」という気持ちが聞かれた。
【考察】本人より喜びの気持ちが聞かれ、QOL の向上につながる関わりができたと考える。
【結語】iPhone を使用することにより、患者とのコミュニケーションを深めることが可能であった。
一般演題(1B5-3)
口唇閉鎖に繋がる取り組みと今後の課題
工藤 翔子、大島 弓恵、船渡川 由紀、浅利 高子、蝦名 さとみ
社会医療法人 医仁会 中村記念病院 看護部
第
日 1
会場
B
【はじめに】遷延性意識障害患者は、脳神経障害により口唇閉鎖ができず、開口していることが多い。口唇閉
鎖することで、溢れ出すことなく唾液を飲み込めることが出来る。そこで、口唇閉鎖に向けて頬・口唇筋訓
練を取り入れ、実践して得られた結果と今後の課題を報告する。
【事例紹介】20 代・男性、バイクの単独事故にて受傷、びまん性軸索損傷・遷延性意識障害にて現在に至る。
入所時、開眼のみで声かけによる反応はなかったが、現在は指サインで簡単な声かけに反応ある。閉口して
も完全に口唇閉鎖できずに流涎がみられる状態である。
【方法】午前の整容時に頬骨より下方の温罨法と表情筋・口輪筋・口唇のマッサージを実施。実施前後とリク
ライニング車椅子乗車前後の上下口唇の隙間の幅を測定した。体位はベッド上仰臥位、頭部 30 度挙上を統一
した。
【経過】研究前の上下口唇の隙間の幅は平均 1.4cm。研究 1 ヶ月間の実施前は平均 1.1cm に対して、実施後は
平均 0.8cm であった。午前の乗車前は平均 1.2cm で、臥床直後は平均 1.2cm。午後の乗車前は平均 1.0cm で、
臥床直後は平均 1.2cm となった。実施後は上下口唇の隙間の幅は狭まるが、それ以外の時は口唇閉鎖の延長
は得られていない。
【考察】完全な口唇閉鎖とは至らなかったが、実施後に幅が狭まったことから頬・口唇筋訓練は有用であった
と考えられる。閉鎖維持するためには、認知機能に向上させることが必要であり、常に声かけする聴覚への
働きかけや皮膚感覚に持続的刺激を与えることが重要である。
一般演題(1B5-4)
夢を絵で実現する:障害と向き合い画家として活動するまで
水上 真由美 1、水上 卓哉 2、野田 燎 3
1
患者家族、2 患者、3 大阪芸術大学 初等芸術教育学科
【背景】私の息子水上卓哉(25 歳)は 12 年前交通事故に遭い脳にダメージを受けました。命の危機を脱した
受傷から 51 日目、愛知医科大学の後藤幸生先生と大阪芸術大学の野田燎先生により研究をされていた「音楽
運動療法」を受け、初めて立ち、歩かせてもらいました。本人はその時の様子をのちに「砂漠でオアシスを
見つけたようだった」と語ります。意識が戻ったとされるのは受傷から 1 か月半。8 か月の入院生活を終え、
一年後普通中学へ復学し、親が介助に付き添ったまま中学、高校を卒業しました。2009 年、京都造形芸術大
学通信教育入学、絵画の世界を追求する活動と、大学在学中から応募している全国公募「現展」入選、過去
5 回にわたる個展での作品発表。それを可能にした在宅での家族の取り組みや、周囲の働きかけについて制
作風景や、作品を画像で紹介しながら報告します。現在、京都造形芸術大学通信教育部洋画コースを今春卒
業。同大学、通信大学院にて勉強をつづけています。これまでの経過を以下の項目について画像とともに発
表させて頂きます。1.受傷後~入院中の働きかけと家族のきもち 2.中学・高校期入学準備から卒業までと
社会的リハビリ 3.大学期 高次脳機能障害との闘い。モチベーションを上げる取り組み、支援者との出会
い 4.本人と家族の希望
【結論】表現活動を行なう事が回復の力になります。それゆえ、本人の希望を知り、出来る限り環境を設定す
ることが障害の克服に繋がります。
- 68 -
一般演題(1B5-5)
遷延性意識障害患者に流水音を使用した排尿誘発の一事例
森下 英里、大河原 佳世、土川 美香、三鬼 達人、眞野 恵子
藤田保健衛生大学病院 看護部
三文字 郁 1、三條 加奈子 1、遠藤 裕司 1、大友 昭子 1、栗村 由紀子 1、川熊 のぶい 1、
長嶺 義秀 2、阿部 浩明 3、藤原 悟 4
1
3
一般財団法人 広南会 広南病院・東北療護センター 看護部、2 広南病院・東北療護センター 看護部 診療部、
広南病院・東北療護センター リハビリテーション部、4 広南病院 脳神経外科
【目的】睡眠とは「周期的にくり返す意識を喪失する生理的な状態」と定義され、意識障害と睡眠の境は曖昧
な場合もあり、その判断は難しい。これまで遷延性意識障害(以下、PVS)患者に対し日中の覚醒を促すケ
アを行い、夜間睡眠を確認するため脳波測定で評価したが、健常者にみられる睡眠波形そのものが確認でき
ず評価は困難であった。そこで「睡眠計スリープスキャン」(以下、睡眠計)を用い睡眠状態の評価を行い、
PVS 患者の睡眠特性の差異を広南スコア(以下、スコア)別に比較検討したので報告する。
【方法】対象:当センター PVS 患者のうち脱却者を除く睡眠計で計測が可能であった 16 名(男性 13 名、女性
3 名、平均年齢 43.8 歳)
。生活リズムを変えずに夜間(16:30 ~ 8:30)計測した。スコア最重症例(A 群)、重
症例~軽症例(B 群)の 2 群に分類し、レム睡眠、ノンレム睡眠、浅睡眠、深睡眠、および覚醒時間の割合
と、中途覚醒時間、体動回数を比較した。
【結果】レム睡眠時間は、A 群(11.7 ± 1.7 %)が B 群(7.8 ± 3.7 %)より優位に多かった。一方で、覚醒時間
は A 群、B 群に有意差はみられなかった。
【考察】A 群はレム睡眠の割合が B 群より多かったことから、A 群では寝ているように見える状態でも眠りの
質は B 群と比べ浅い場合が多い可能性があると考えられる。睡眠計の評価は PVS 患者の睡眠状態を反映する
ものと思われ、ケアの効果を検証する一つの指標となる可能性がある。今後は測定条件の調整や、日中睡眠
データの収集も検討している。
- 69 -
B
会場
睡眠計を用いた遷延性意識障害患者の睡眠評価
1
日 一般演題(1B6-1)
第
【はじめに】遷延性意識障害患者は、神経系における排尿機構の障害を抱え、また尿意を他者に訴えることが
難しい。健康な女子を対象とした排尿調査では、ベッド上排泄では、せせらぎの流水音が尿意を促進させる
という研究報告がある(1998 年、長谷川)
。そこで、常に失禁状態である遷延性意識障害患者へもこの方法
が有用であるかを検討した。
【方法】脳腫瘍摘出後意識障害となった 68 歳女性を対象に、オムツ交換時に流水音(ECO メロディー ®)を
5 分間流し排尿量、残尿量、表情的反応を検討した。残尿量は長時間尿動態データレコーダーゆりりん ® を使
用した。
【結果】流水音の使用により 10 回中 3 回、排尿が認められた。排尿量は 100 ~ 200ml、残尿量は 50ml 以下で
あった。対象の変化として、閉眼したり筋緊張の程度が緩和したりする反応が認められた。
【考察】遷延性意識障害患者は、聴覚脳幹と中脳による音に対する反射的反応能力は残されているため音や音
楽を選択的に聞き分ける能力が残存している可能性があると報告されている。今回、流水音を用いた排尿誘
発への取り組みを行うことで、聴覚刺激に影響を与え排尿へと繋がったと考えられる。また、流水音を流し
たときに見られた閉眼や筋緊張の緩和は、リラックスした状態にあったことが示唆される。一般的に排尿時
は、副交感神経優位のリラックスした状態が必要であると報告されている。流水音の導入によりこれらの反
応も誘発されたことが示唆された。今回は、一事例のみの検討であるが、今後も症例数を増やしていき個々
の患者の排尿パターンを把握し、尿失禁を減少させていきたい。そして、褥瘡や尿路感染発症といった合併
症予防へと繋げていきたい。
一般演題(1B6-2)
測定姿勢による体組成測定値変動の検証
高橋 陽平 1、渡邊 幸恵 2、西郷 典子 2、水元 志奈子 2、横山 知幸 2、川本 佑美 3、草野 こず恵 4、
梶谷 伸顕 5
独立行政法人自動車事故対策機構
独立行政法人自動車事故対策機構
3
独立行政法人自動車事故対策機構
4
独立行政法人自動車事故対策機構
5
独立行政法人自動車事故対策機構
1
2
第
日 1
会場
B
岡山療護センター
岡山療護センター
岡山療護センター
岡山療護センター
岡山療護センター
臨床検査科、
看護部、
栄養科、
薬剤科、
外科
【目的】生体電気インピーダンス分析法(BIA)や二重エネルギー X 線吸収測定法(DEXA)での体組成測定時、手脚に
拘縮がある患者では理想的な測定姿勢をとることは難しい。今回、姿勢によりどの程度測定値が変動するかを検証した。
【対象】当センター職員 12 名(男性 6 名、女性 6 名、年齢 54 ± 8.3 歳)【測定機器】BIA:InBodyS20(インボディジャパ
ン)、DEXA:Discovery-w(Holojic)
【方法】正常姿勢、右手を曲げ胸に当てた姿勢(右手曲)、右脚を曲げ左脚側に屈曲させた姿勢(右脚曲)の 3 姿勢で比較
した。評価項目は筋肉量、体脂肪量とした。
【結果】BIA では、正常姿勢と比較し、筋肉量は右手曲では、右手で 0.28kg(13%)高値化、体幹部にも影響があり
0.82kg(4%)高値化した。右脚曲では右足で 0.47kg(7%)高値化したが、他部位に影響は無かった。体脂肪量は、右手
曲で右腕脂肪量が 0.15kg(16%)低値化した。DEXA では、筋肉量は右手曲では右手は 0.47kg(21%)低値化、体幹部で
は 0.77kg(4%)高値化した。右脚曲では性差を認め、男性群で右脚は 1.90kg(25%)低値化、左脚は 1.88kg(25%)高値
化、女性群では差は無かった。体脂肪量は筋肉量と同様の傾向を認めた。
【考察】BIA は人体が円柱であることを基本原理とし数値を計算する。手脚の屈曲によりその原理が崩れ筋肉量が高値化
したと考えた。また、他部位が体幹部に密着すると体幹として測りこむことも確認された。DEXA では、他部位との重
なりが大きい部位では誤差が大きい結果となった。右脚曲で女性群が誤差を認めなかったのは、重なりが少ないためで
あった。正しい測定姿勢をとれない患者では、このような誤差要因も考慮しつつ測定値の解釈を行う必要があると思わ
れる。
一般演題(1B6-3)
患者の QOL の向上に向けた関わり
意識障害患者に対するポジショニングでのアプローチ
平山 恵梨 1、佐藤 美佐子 1、宮嶋 かなえ 1、米山 貴之 1、髙橋 弘 1
春日居サイバーナイフ・リハビリ病院 看護部、2 春日居サイバーナイフ・リハビリ病院 リハビリテーション部、
3
春日居サイバーナイフ・リハビリ病院 脳神経外科
1
【目的】意識障害があり関節拘縮・筋の緊張の強い患者に対し、ポジショニング・筋緊張緩和の看護介入に
よる身体的変化を関節可動域測定と筋緊張評価で表し、意識状態の変化を慢性期意識障害スケールの反応ス
ケールで評価し、変化を明らかにする。
【症例】71 歳 女性。自宅で夕食の仕度中突然倒れ、救急搬送。右被殻出血発症し開頭血腫除去術施行。発
症 1 ヶ月後当院入院。意識障害あり四肢麻痺みられ刺激に対して時折開眼がある程度。気管カニューレ挿入
中、栄養管理は胃管カテーテルより経管栄養注入、自発的行動は無く ADL はベッド上で全介助状態。全身の
筋緊張が強く拘縮がある。
【方法】セラピストと連携を図り病棟スタッフにて 2 ~ 3 時間毎に声掛けをしながら患者にあったポジショニ
ング・徒手的に体幹を揺らす筋緊張緩和を実施。セラピストにより 2 週間に 1 回、訓練時、関節可動域測定・
筋緊張評価を実施。看護師により反応レベルの評価を 8 週間にわたり実施。
【結果】関節拘縮の改善・維持、筋緊張の緩和や、開眼反応・視覚反応の表出が見られ、声かけや介入時に開
眼し、声かけの方向に追視が見られるようになった。また車椅子乗車にて過ごす事が出来るようになった。
【考察】反応スケールの改善は、ポジショニングを行っていく中で、その時その時の患者の状況に合せた声掛
け・タッチングが患者への刺激になったと考える。このことは、患者の QOL の向上につながり看護者の大き
な役割であると考える。
- 70 -
一般演題(1B6-4)
臨床心理士による遷延性意識障害者家族への心理的支援に関する一報告
日比野 ゆかり、宇津山 志穂、浅野 好孝、篠田 淳
木沢記念病院 中部療護センター
関 崇志 1、阿部 浩明 1、大鹿糠 徹 1、長嶺 義秀 2、藤原 悟 3
1
広南病院 東北療護センター リハビリテーション科、2 広南病院 東北療護センター 診療部、3 広南病院 脳神経外科
【はじめに】遷延性意識障害患者は、中枢神経損傷による運動機能障害や廃用性筋力低下に加え高次脳機能障
害も合併し、動作練習に多大な介助を要することが少なくない。このような症例に対しては十分な練習量を
確保し難い場合がある。今回、頭部外傷後遷延性意識障害患者の立ち上がり練習に際し、Hybrid Assistive
limb(HAL)を用いることでセラピストの介助量の軽減と練習量の増大が図れ、HAL の継続使用後、立ち上
がり能力の向上を認めた症例を経験したので報告する。
【機器紹介】HAL は、生体電気信号を読み取り、装着者の筋肉の動きと一体的に関節運動をアシストするロ
ボットスーツである。
【症例】40 歳代、女性。自動車事故により脳挫傷、急性硬膜外血腫を受傷し減圧開頭術、開頭血腫除去術が
施行された。その後、硬膜下膿瘍摘出術や複数回の shunt 術が施行され、受傷後 2 年 10 ヶ月で当センターに
入院となった。受傷後 3 年 5 ヶ月の時点では右上下肢に軽度、左上下肢に重度の運動麻痺を呈しつつも、両側
の短下肢装具と手すりの使用により独力での立ち上がりが可能であった。その後、shunt 不全による意識障
害の増悪を繰り返し、受傷後 4 年 9 ヶ月の時点では立ち上がりに重度介助を要し練習に難渋していた。そこ
で、HAL を用いた立ち上がり練習を実施したところ、セラピストの介助量が減少し練習量の増大が図れた。
3 ヶ月経過後には立ち上がりの介助量が減少し、数十秒の立位保持が可能となった。
【まとめ】遷延性意識障害患者の動作練習に HAL を使用することで、セラピストの負担が軽減され練習量の
増大が図れた症例を経験した。個々の症例に合わせたツールを用いることで理学療法の可能性が広がること
を実感できた。
- 71 -
B
会場
立ち上がり練習に難渋した遷延性意識障害患者への Hybrid Assistive Limb の使用経験
1
日 一般演題(1B7-1)
第
【はじめに】遷延性意識障害の患者家族における心理的負担は重いと考えられる。しかし、遷延性意識障害の
患者家族に対する看護師(Ns)による心理的支援の報告は多数あるものの、心理専門職による報告例は少な
い。今回、臨床心理士(CP)が支援を行ったため、報告をする。
【対象】クライエント(Cl)は 40 代女性。第二子(10 代)が、交通外傷により遷延性意識障害となり、受傷
から 5 ヶ月後にリハビリ目的で当院に転院。付添いのため、県外から 3 回/ 1 週程度、来院していた。
【支援経過】第二子入院後 2 ヶ月時から 6 ヶ月間(計 9 回)、家族の心理的支援として継続面接を行った。
面接初期(#1 ~ #2)は、当院への不満・要望、第二子の状態への心配、自身の健康に関する話題が中心
であった。CP は傾聴しつつ、当院の対応については Ns と連携を取るなどし、環境調整を行った。
面接中期(#3 ~ #6)は、第二子の症状、自身の健康と社会との関わり、裁判や住宅改装などの現実的問
題に関する話題が中心であった。CP は共感的姿勢を保ちつつ、Cl の健康面については、指示的に関わる部分
もあった。
面接終期(#7 ~ #9)は、ネガティブな事象であっても、肯定的に捉えなおす発言が増え、Cl の困り感の
低下が認められたため、面接は終結となった。
【まとめ】自身の健康、第二子への思い、現実的問題が主なテーマであった。CP が、共感的姿勢を保ちつつ、
テーマによって対応を変えることで、Cl の困り感が低下したと推測される。
今後、更なる実践を行うことで、遷延性意識障害の患者家族に対する臨床心理士による支援の有用性と限
界を明らかにすること、遷延性意識障害の患者家族に特有の心理的負担等を見出していくことが課題である。
一般演題(1B7-2)
慢性期重度脳損傷患者に対する経頭蓋磁気刺激療法は痙縮を低減させる
鈴木 聡 1,2、泉 從道 1、黒岩 靖 1、中村 博彦 2
1
第
日 1
会場
B
鹿教湯三才山リハビリテーションセンター 三才山病院、2 中村記念病院
当院は自動車事故対策機構の短期入院協力病院として、重度痙性麻痺患者さんに対し、オールインワン 1)
による立位歩行訓練を実施。麻痺肢の機能改善に加え、遷延性意識障害の改善も得られている。他方、立位
歩行訓練により、痙性亢進が生じてしまい、結果として関節可動域制限と痙性疼痛が引き起こされ、リハビ
リテーションの阻害因子となっていた。そのためこれらの痙性亢進に対しては、クラヴィス 2)を用いて責
任筋を同定、ボツリヌス毒素(以下 BoNT/A)施注療法で対応している。しかし手指屈筋群など遠位筋に対
する施注は、BoNT/A による筋弛緩作用による一時的に麻痺肢の機能低下を起こしうる。 痙縮は、代償
動作や過剰努力の結果生じた誤った可塑性により引き起こされるが健側脳への低頻度経頭蓋磁気刺激(以下
rTMS)3)により、健側脳から患側脳への半球抑制を解除する事で、上記痙縮の軽減をはかる事が可能であ
る。 当院では脳血管障害患者に対し、rTMS 治療下で代償動作や過剰努力を排した反復促通訓練を実施す
る事で、誤った可塑性は是正され、麻痺肢の機能改善や歩容改善が得られる事が、臨床研究により経験して
いる。新たに 2 名の慢性期重度脳損傷患者に対し、rTMS 治療を実施。治療下で代償動作や過剰努力を排し
た反復促通訓練を実施したところ、即時的に痙性低減が得られ、他動介助訓練が容易となったので、若干の
文献的考察を加え報告する。 今後 6 名の脳損傷患者に対し、同等の治療を実施予定である。治療効果を持
続させるために必要な rTMS 治療頻度及び反復促通訓練課題につき検討中である。なお、1)~ 3)は国土交
通省短期入院協力病院補助金での購入を認めて頂いた機器です。
一般演題(1B7-3)
慢性期重度脳外傷患者のボツリヌス療法とリハビリテーション 介護量軽減を目的として
村山 竹美 1、高澤 太郎 1、山口 美佐子 1、萩原 千春 1、内野 福生 2、小瀧 勝 2
1
2
自動車事故対策機構 千葉療護センター リハビリテーション科、
自動車事故対策機構 千葉療護センター 脳神経外科
【はじめに】当センターでは 2011 年より、日常生活の改善目的でボツリヌス療法を開始し、2013 年の意識障
害学会で経過を発表、現在も継続している。2014 年より、理学・作業療法士でチームを作り全患者の評価を
実施。痙縮による介護量増大や異常姿勢などの問題を抱えている患者に対しても必要性が高じ施行。今回、
その後の経過について報告する。
【対象】全身状態が安定、内服薬の効果が認められない、家族の了解などを条件とし、日常生活での介護量
やカニューレ圧迫などのリスク軽減、姿勢改善などが予測される症例とした。男性 4 名、年齢 25 歳~ 49 歳で
(平均 40 歳)、事故からの経過年数は 1 年 6 か月~ 3 年 1 カ月(平均 2 年 4 カ月)。NASVA スコアは 54 ~ 58 点
(平均 55.5 点)
。
【方法】施注筋及び投与量は担当療法士が選択し医師が最終決定。4 週ごとに関節可動域と痙縮の評価、観
察、看護師や家族から介護量の変化を聴取した。通常訓練の他に、施注後 1 時間以内及び 3 日間は 1 日 3 回ス
トレッチを行った。
【結果】関節可動域や痙縮においてほぼ全症例で改善がみられた。その結果、日常生活の介護量やリスクの軽
減がみられ、看護師や家族からも同様の報告を受けた。しかし、筋損傷と思われる内出血や腫脹がみられた
症例もあった。
【考察】施注後、リハビリテーションを継続して関わる頻度を増し、他部門の協力を得られたことで目的とす
る介護量の軽減につながったと考える。しかし、評価においては数値的に反映されていないこともあり、今
後、評価方法を検討していく必要がある。
- 72 -
一般演題(1B7-4)
当院 NASVA 病棟における転帰先に関わる要因の検討
矢野 勇輝 1、別所 菜々子 1、五條 敬 1、鈴木 千香子 1、中井 基之 1、中村 博彦 2、高橋 州平 2
1
社会医療法人 医仁会 中村記念病院 医療技術部 理学療法科、2 社会医療法人 医仁会 中村記念病院 脳神経外科
佐々木 智美 1、伊藤 優美 1、鈴木 さなえ 2、鈴木 千香子 1、中井 基之 1、中村 博彦 3、高橋 州平 3
1
2
社会医療法人 医仁会 中村記念病院 医療技術部 理学療法科、
社会医療法人 医仁会 中村記念南病院 医療技術部 理学療法科、3 社会医療法人 医仁会 中村記念病院 脳神経外科
【はじめに】当院 NASVA 病棟で退院後の転帰先に難渋する症例を担当し、家族や医療スタッフ間で現状認識
や最終目標の設定に相違があるのではないかと感じた。そこで本研究は、家族・医療スタッフ間での情報共
有等の現状を把握し、課題を明確化する事を目的とした。
【対象】NASVA 病棟で 1 年~ 1 年半以上経過した患者家族・担当看護師(以下病棟)・リハビリテーション担
当者(以下リハビリ)計 15 名を対象とした。
【方法】独自に選択・自記式のアンケートを作成し、対象者に配布・回収した。
内容は、転帰先や最終目標、情報共有についての頻度や満足度とした。
【結果】情報共有の頻度や満足度に関し、リハビリと病棟間で異なる回答があった。
最終目標は、医療スタッフは同様の目標であったが、家族は自立度の高い目標を回答するケースもあった。
【考察】リハビリと病棟間で情報共有の頻度と満足度に違いが生じた。NASVA 病棟は、定期的な情報共有の
場として月 1 回のカンファレンスを行っている。しかし、他の場面では、空間的・時間的な制約からリハビ
リと病棟の協働する機会が得られにくく、必要時のみの関わりとなっている。これらから情報共有の頻度と
それに対する満足度の差に繋がったと考える。
最終目標は、医療スタッフと家族間で違いが生じた。これは、家族の回復に対する期待や希望が退院先や最
終目標に反映されたと考えらえる。
家族・医療スタッフ間の認識の差に対し、病棟での練習やコミュニケーション機会を増やす、勉強会の開催
などを行っていく事がより良いチーム医療の実現に繋がるのではないかと考える。
- 73 -
B
会場
当院 NASVA 病棟における情報共有についての意識調査
1
日 一般演題(1B7-5)
第
【はじめに】近年、回復期リハビリテーション病棟では Functional Independence Measure(以下 FIM)を用
いた転帰に関わる項目として、食事、移乗、移動、表出、問題解決などを報告していた。本報告では、リハ
ビリテーション実施がより長期間可能である当院 NASVA 病棟での転帰に関わる項目を後方的視点にて検討
した。
【対象】平成 19 年度から平成 26 年度に当院 NASVA 病棟へ入院され、転帰された 22 名。在院日数は 26.2 か
月。
【方法】カルテによる後方的調査を実施し、自宅復帰群(以下自宅群)、病院、施設群(以下転院群)に判別
した。群ごとの FIM を先行研究と比較し検討した。遷延性意識障害度スコアによる傾向も調査した。
【結果】自宅群は、先行研究と同様の項目に向上を認めた。転院群では、食事、移乗、移動に 1 点から 2 点の
重度から全介助者も多くみられた。
先行研究では自宅群の移動項目は平均 5.3 点、認知項目の合計は 28.8 点と報告され、当院では移動項目が 5.3
点、認知項目が 25.0 点と大きな誤差は認めなかった。施設群における比較では当院での点数は低値を示した。
遷延性意識障害スコアでは、表情変化など細かな改善などを追うことが可能であった。
【考察】自宅群には、先行研究により報告された項目の改善を認め、移動項目や認知項目の合計による比較
でも同等の値を示した。そのことから、意識障害を有する方にも積極的なリハビリテーションの介入は必須
であり、今後も回復期病棟、NASVA 病棟ともに報告された項目が転帰の要因となると予測できる。また、
NASVA 病棟においては遷延性意識障害スコアの変化を含めて関わりを継続してくことが望まれる。
一般演題(1B8-1)
リハビリカンファレンス導入後の看護計画の充実に向けての取り組み
小沼 みゆき、佐藤 治恵、島田 ありす、熊倉 美知子
埼玉医科大学総合医療センター 5 階東病棟
第
日 1
会場
B
【目的】近年、医療の質や安全性の向上、高度化・複雑化に伴う業務の増大に対応するため、多種多様なス
タッフが各々の高い専門性を前提とし、目的と情報を共有し、業務を分担する必要がある。それとともに互
いに連携・補完しあい、患者の状況に的確に対応した医療を提供する「チーム医療」が様々な医療現場で実
践されている。A 病棟では、前回の研究により、リハビリカンファレンスを導入した。それにより、看護師
が現時点でのリハビリ訓練状況を理解することができた。しかし、リハビリカンファレンスの内容を活かし
た看護計画の立案・修正ができておらず、患者の状態に即した看護が提供できていない。今回の研究では、
個別性のある看護計画の立案・修正とケアの統一を試みたので、ここに報告する。
【方法】前年度と今年度でのリハビリカンファレンス実施前後の看護計画の比較
【成績】前年度のリハビリカンファレンス導入後も、看護計画の立案・修正に至らなかったが、本研究後、リ
ハビリカンファレンスに参加した看護師が看護計画を立案・修正を行うことで、個別性のある看護計画の立
案・修正が可能となった。その内容をチームで共有する場を設けることにより、ケアの統一を図った。
【結論】リハビリカンファレンスに参加した看護師が、看護計画を立案・修正を行うことができ、チーム内で
共有することができた。チーム内での個別的なケアの統一を図るためにも、更なる看護計画の充実と継続が
必要であると考える。
一般演題(1B8-2)
高次脳機能障害患者の車椅子使用時の転倒予防-第 2 報 視覚的表示法の標準化の試み-
大島 こずえ、西田 香織、龍 洋子、重森 稔
柳川リハビリテーション病院
【はじめに】我々は第 22 回の本学会で、高次脳機能障害患者の視覚的学習法を用いた車椅子使用時の転倒予
防の試みとして、障害の重度とタイプに合わせて、患者が記憶すべき情報を視覚化するための学習法とその
有用性を報告した。しかしながらその後の検討で、本法が介護スタッフによって必ずしも統一的に行われな
いという問題点がある事が判明した。そこで今回、標準化したマニュアルとその応用について検討したので
報告する。
【方法・結果】車椅子操作を介助するスタッフに対して以下の手順で本法の標準化を図った。
1、当病棟の転倒報告データをもとに、対策や予防方法を再確認。
2、視覚的学習について具体的施行方法を説明。
3、操作習得マニュアルの作成と応用。
1)車椅子操作の点数評価表の作成
2)ベッド周囲の表示や車椅子へのブレーキ棒などの環境調整
3)一連の動作をマニュアルに従って患者と共に実践
4)リハスタッフとの定期的な評価と検討(週に一回)
5)患者の動作習得が可能になるまで、3)4)を反復
4、実践前後での患者自身の車椅子操作自立率を算出。
以上の方法により、約 1 ヶ月でマニュアル通りの実践ができ、以前に比べ統一的な施行が可能となった。
【まとめ】高次脳機能障害患者の視覚的学習法をマニュアル化して、スタッフ全員が共通認識を持って実践す
ることは、本法の有用性をさらに向上させることに役立つと考えられた。
- 74 -
一般演題(1B8-3)
重度頭部外傷後遷延性意識障害患者への NASVA スコア各 6 項目を用いた肺炎発症要因
の検討
野村 宜靖 1、岩井 歩 2、森 美香 2、大塚 誠士 2、横山 奈美 2、槇林 優 2、浅野 好孝 2、篠田 淳 2
1
木沢記念病院 総合リハビリテーション部、2 木沢記念病院 中部療護センター
日高 可奈子 1、高山 幸芳 1、馬場 栄一 2、立山 幸次郎 2、太組 一朗 2、足立 好司 2、
喜多村 孝幸 2、髙橋 弘 3
1
3
日本医科大学 武蔵小杉病院 言語療法室、2 日本医科大学 武蔵小杉病院 脳神経外科、
春日居サイバーナイフ・リハビリ病院 脳神経外科
【はじめに】選択的海馬切除術における高次脳機能に関しての報告は少ない。今回我々は海馬を含む脳腫瘍患
者において、手術前後における高次脳機能を評価したので報告する。
【症例】61 歳、女性。発作性頭痛にて発症。左海馬硬化の診断で経過観察中に病変部の増大がみられ、
glioma 疑いの診断で当院脳神経外科紹介。選択的海馬切除術を行い左側脳室下角に接する腫瘍のみ残し、他
は全摘出された。
【方法】高次脳機能評価として HDS-R・MMSE・WAIS-III・WMS-R を手術前・術後 1 カ月・3 カ月経過時
に実施した。
【結果】術後 1 カ月の時点では HDS-R・MMSE・WMS-R の各トータルの成績は術前の成績を下回る結果と
なったが WAIS-III は概ね変化なし。術後 3 カ月経過時点では全検査で術前の水準にまで到達し、WAIS-III
は術前を上回る結果となった。下位項目を比較すると術後 1 カ月の時点では WAIS では言語性 IQ は低下した
が動作性 IQ が向上し、WMS-R では言語性記憶は低下したが視覚性記憶は保たれる結果となっていた。術後
3 カ月で WAIS-III の言語性 IQ はやや改善・動作性 IQ は高値で変化なく、WMS-R の言語性記憶は術前まで
回復したが遅延再生は低下を認めた。
【考察】術後動作性 IQ が改善したことより非優位半球の能力が向上していた。優位半球に存在した腫瘍病変
が非優位半球の機能に影響を与え、その機能低下が生じていた可能性が考えられる。また術後 3 カ月の時点
で下位項目を含めほぼ術前の状態まで回復したが、記憶機能に関する検査項目では明らかには改善しなかっ
た。このことから腫瘍による圧迫・浮腫などが影響を及ぼして機能低下の状態にあった高次脳機能は手術後
改善するものと考えられた。
- 75 -
B
会場
海馬を中心とした脳腫瘍患者における高次脳機能障害の考察
1
日 一般演題(1B8-4)
第
【はじめに】昨年の本学会で重度頭部外傷後遷延性意識障害患者の肺炎発症要因を検討し「経口摂取をしてい
ない」「呼吸器疾患既往歴がある」「気管切開がある」「高い NASVA スコア」のいずれかを満たせば肺炎が発
症しやすい事を報告した。今回、この中でも NASVA スコアの各 6 項目に着目し、それぞれを比較する事で
肺炎発症要因をより詳細に検討できたので報告する。
【方法】対象は中部療護センターに H19 年~ H25 年に入院した重度頭部外傷後遷延性意識障害患者 45 名。調
査 1. 入院初期(入院~半年)の肺炎発症者数・入院時 NASVA スコア各 6 項目「運動」「摂食」「排泄」「認
知」
「音声発語」「口頭命令の理解」を調査し、肺炎発症群(16 名)・非発症群(29 名)の 2 群に分け入院時
NASVA スコア各 6 項目の点数で比較した。統計は有意水準を 5 %とした。調査 2. 入院初期に肺炎を発症した
16 名のその後を追跡調査し 1 年後の肺炎発症者数・NASVA スコア各 6 項目の変化値(入院時 NASVA スコ
ア- 1 年時 NASVA スコア)を算出した。その結果から肺炎再発群(4 名)・非再発群(12 名)の 2 群に分け
NASVA スコア各 6 項目の変化値で比較し傾向をみた。
【結果・まとめ】調査 1 の結果「運動」
「認知」「摂食」で有意差を認め入院時にいずれかが高値だと肺炎を発
症しやすい可能性が示唆された。調査 2 の結果「認知」で差がある傾向が示された。1 年後の肺炎発症者数が
減少した要因が今回は「認知」のみであったが、今後はリハビリ・看護によるケア等の影響も視野に入れ検
討していきたい。
一般演題(1B9-1)
慢性期重症脳損傷患者の脳糖代謝と消費カロリー-脳 FDGPET を用いた検討-
内野 福生 1、岡井 匡彦 1、岡 信男 1、内田 朋樹 2、西田 久美子 3、小瀧 勝 1
1
第
日 1
会場
B
千葉療護センター 脳神経外科、2 千葉療護センター PET 診療部、3 千葉療護センター 栄養科
【目的】慢性期重症脳損傷(chronic severe traumatic brain injury: cs-TBI)患者の摂取・消費カロリーは健
常者と比較して低い。理由として活動量が低いこと、筋量の減少等が挙げられるが脳糖代謝の低下も要因と
して考えられる。交通外傷による cs-TBI 患者について、FDGPET の脳糖代謝画像から得られる半定量値と
実際の摂取カロリーと比較し、脳糖代謝との関係から検討した。
【方法】対象は当院入院患者 39 例。年齢は 20 から 75 歳(平均 41 ± 16 歳)。FDGPET による脳糖代謝評価
は全脳に関心領域(VOI)を設定し、その平均集積値(SUV)と脳体積の積から「全脳集積量」
(whole
brain uptake: WBu)を算出した。Active factor を考慮した「基礎エネルギー消費量」(BEE)は HarrisBenedict の式から求めた。「活動度」は患者レベル判定表(CHIBA スコア)を用いた。患者を 2 群に(A 群
(WBu<50)27 例、B 群(WBu ≧ 50)12 例)分類し、摂取カロリー、活動度、筋緊張度、WBu との関係につ
いて検討した。
【結果】39 例中 38 例で摂取カロリーは BEE を下回っていた(平均 -330Kcal)が栄養状態に問題はなかった。
A 群・B 群の摂取カロリーはそれぞれ 1093 ± 200Kcal、1390 ± 266Kcal と有意に B 群で高く、活動度も A 群・
B 群それぞれ 20 ± 17、53 ± 20 と B 群で高かった。摂取カロリーと活動度は R2=0.51 と正の相関がみられ、摂
取カロリーと WBu の間にも相関がみられた(R2 = 0.53)。
【結論】慢性期重症脳損傷患者において、脳糖代謝の程度と消費カロリーとの間には関連がある。Cs-TBI 患
者は一般に活動量が低いので、全身の消費カロリーに占める脳での消費の割合が高い。そのため脳糖代謝の
程度は消費カロリーの設定に無視できない影響を与える。
一般演題(1B9-2)
外傷性遷延性意識障害患者の栄養アセスメントの評価
林 淳子 1、五十嵐 祐子 1、長嶺 義秀 2、藤原 悟 3
1
広南病院 栄養管理部、2 広南病院 東北療護センター、3 広南病院 脳神経外科
【目的】外傷性遷延性意識障害患者の栄養アセスメントを実施して栄養状態を把握し、現在の栄養療法を評価
する。
【方法】2014 年 9 月に入院していた外傷性遷延性意識障害患者の 31 例について、身体計測、栄養摂取状況、
血液検査、基礎エネルギー消費量(BEE)等の栄養アセスメントを実施し栄養投与ルート別に栄養状態を比
較した。
【結果】31 例のうち、男性は 23 例、平均年齢 45.1 ± 17.1 歳、平均 BMI19.9 ± 2.3、経口摂取 8 例、経腸栄養
23 例であった。経口摂取群、経腸栄養群の 2 群で比較すると、広南スコアの平均は経口摂取群 21.9 点、経
腸栄養群 58.8 点(P = 0.0406)。平均 BMI は経口摂取群 20.5 ± 2.4、経腸栄養群 19.6 ± 2.3(P=0.4087)。平均
年齢は経口摂取群 33.8 ± 13.3 歳、経腸栄養群 49.1 ± 16.7 歳(P=0.0259)で経口摂取群の方が若かった。投
与量が BEE を上回っている割合は経口摂取群 37.5 %、経腸栄養群 21.7 %(P=0.3802)であった。血液検
査データでは Alb、TP、CRP 値に差はなかったが、Hb の経腸栄養群で有意に高かった。(経口摂取群 12.5
± 0.7g/dl、 経 腸 栄 養 群 14.4 ± 0.4g/dl(P=0.0256))。 ま た、 上 腕 周 囲 長(AC)、 上 腕 皮 下 脂 肪 厚(TSF)、
上腕筋囲(AMC)を JARD2001 による日本人の身体計測基準値と比較した結果、経口摂取群では男性
AC93 %、TSF127 %、AMC88 %。女性 AC117 %、TSF176 %、AMC104 %。経腸栄養群では男性 AC96 %、
TSF126 %、AMC91 %。女性 AC98 %、TSF87 %、AMC101 %であった。
【結論】現在の栄養療法で患者の栄養状態はほぼ適切に維持されていると考えられたが、今後アセスメント項
目については微量元素の計測を追加するなどアセスメントの実施内容や頻度について検討が必要である。
- 76 -
一般演題(1B9-3)
脳卒中急性期意識障害患者における早期免疫調整栄養の効果
一ツ松 勤 1,2、一ツ松 薫 2、田中 俊也 1、石堂 克哉 1、伊藤 理 1
1
新古賀病院 脳卒中脳神経センター 脳神経外科、2 新古賀病院 NST
浅野 さつき、兼松 由香里、遠山 香織、浅野 好孝、篠田 淳
木沢記念病院 中部療護センター
【はじめに】日常的に遷延性意識障害患者の栄養管理に関わり、ハリスベネディクトの式で患者の栄養投与量
を決定している。しかし、患者にとって栄養障害の原因と思われるような問題が解決すると、それに伴い栄
養量を減量するにもかかわらず体重増加をすることがある。今回の研究によって、各患者の安静時の代謝量
がわかり、患者に合った栄養量の検討をしたい。
【方法】1.対象:中部療護センターに入院中の自力で動くことが困難な患者(NASVA スコア 50 点以上) 男性 10 名 女性 2 名 2.研究方法:1)自力で動くことが困難な患者に対し、日本光電工業株式会社 呼
気ガス分析装置 FIT-2000 シリーズ フィットメイトで安静時代謝量を計測する。患者の測定の条件:気管
カニューレ挿入中の患者(カフあり)
、食後少なくとも 4 時間以上経過している。2)1)の結果と現在の投与
量、ハリスベネディクト式の値を比較検討する。
【結果】1.現在の投与カロリーと測定した値の比較:± 100kcal 以内であった患者:4 名、100kcal 以上で
あった患者:2 名、100kcal 以下であった患者:6 名 2.ハリスベネディクト式との比較:12 人中 11 人が結果
よりもハリス式の値のほうが大きかった
【考察】測定値と投与量を比較するとほぼ近い値であった。ハリスベネディクト式の値と比較するとほとんど
が低い値を示し、自力で動くことが困難な遷延性意識障害患者はハリスベネディクト式での栄養量の決定は
過剰投与となる可能性がある。
【結論】遷延性意識障害患者の栄養投与量を決定する際には、安静時代謝量を測定し、状態の変化を考慮して
定期的に測定する必要がある。
- 77 -
B
会場
頭部外傷後遷延性意識障害患者の必要栄養量の検討
1
日 一般演題(1B9-4)
第
【目的】当施設では脳卒中急性期患者に対する感染対策として、腸管免疫能維持を図るべく 2007 年より早期
経腸栄養(EN)を開始した。当初は積極的に熱量増加を図ったが、その後緩徐な熱量増加へ変更し、さらに
EN 開始時より免疫調整栄養剤を使用した。今回、早期 EN の有効性について検討した。
【方法】対象は脳卒中急性期意識障害患者(JCS10 以上)で早期 EN(入院 48 時間以内)を実施した患者。早
期 EN 開始前(2004 年 7 月~ 2007 年 3 月)の連続 54 例を対照群とし、早期 EN 開始後安定して積極的な熱量増
加が実施できた(2009 年 10 月~ 2011 年 3 月)連続 57 例(実施 A 群)、および熱量増加は緩徐に行いかつ免疫
調整栄養剤(ホエイ含有)を早期から投与した(2013 年 1 月~ 2014 年 3 月)連続 53 例(実施 B 群)において、
絶食期間、腸管トラブル(水様便)発生率、感染症(肺炎)発生率、抗菌薬使用日数および平均在院日数に
ついて比較検討した。
【結果】絶食期間は有意に短縮し(対照群 11.2 日、実施 A 群 1.5 日、B 群 2.2 日;p<0.001)、腸管トラブル(水
様便)発生率も有意に減少した(対照群 42.6%、実施 A 群 2.0%、B 群 2.0%;p<0.001)。また感染症発生率は
有意に減少し(対照群 85.2%、実施 A 群 60.8%、B 群 35.8%;p <0.01)、肺炎発生率も有意に減少し(対照群
74.1%、実施 A 群 52.9%、B 群;15.1%p<0.01)、抗菌薬使用日数(患者 1 人当たり)も有意に減少し(対照群
14.8 日、実施 A 群 9.2 日、B 群 3.3 日;p<0.01)
、さらに平均在院日数も有意に短縮した(対照群 35.6 日、実施
A 群 25.1 日、B 群 26.0 日;p<0.001)。
【結論】脳卒中急性期意識障害患者に対する早期 EN は有効であり、緩徐熱量増加かつ早期免疫調整はさらに
感染対策上有効と考えられた。
一般演題(1B9-5)
外傷性遷延性意識障害患者の体組成の経時的変化と意識障害スコアとの関係
梶谷 伸顕 1、西郷 典子 2、水元 志奈子 2、渡邉 幸恵 2、横山 知幸 2、川本 佑美 3、草野 こず恵 4、
高橋 陽平 5、本多 和成 6
独立行政法人
独立行政法人
3
独立行政法人
4
独立行政法人
5
独立行政法人
6
独立行政法人
1
2
第
日 1
会場
B
自動車事故対策機構
自動車事故対策機構
自動車事故対策機構
自動車事故対策機構
自動車事故対策機構
自動車事故対策機構
岡山療護センター
岡山療護センター
岡山療護センター
岡山療護センター
岡山療護センター
岡山療護センター
外科、
看護部、
栄養部、
薬剤部、
臨床検査部、
リハビリ
【はじめに】外傷性遷延性意識障害患者の体組成は、時間と共に筋肉量減少、脂肪組織の増量を認め、これら
は活動量、運動量、意識障害スコアと関連することを我々は報告してきた。
【目的】今回受傷後からの体組成変化と入院時からの意識障害スコア(NASVA スコア)を検討したので報告
する。
【対象と方法】対象は、当センター入院の外傷性遷延性意識障害患者 94 名(男性 66 名、女性 28 名、平均年齢
37.5 才)である。方法は Inbody S20(インボディジャパン社製)を用いた。検討項目は、筋肉量、体脂肪量、
筋肉量%(=患者筋肉量/基準筋肉量× 100)とした。
【結果】 体 組 成 変 化 は、 筋 肉 量 % で は 男 性 78.3(3 ヶ 月) → 74.1(6 ヶ 月) → 72.3(12 ヶ 月) → 72.5%(24 ヶ
月)
、 女 性 は 以 下 同 様 77.6 → 79.5 → 76.6 → 75.0% で あ る。 脂 肪 で は 男 性 9.3 → 9.4 → 11.4 → 14.5kg、 女 性 は
12.9 → 16.7 → 18.1 → 17.1kg で あ る。 入 院 時 NASVA ス コ ア と の 関 係 で は、50 以 上( 男 女) の 群 で 筋 肉 量
%77.8 → 75.4 → 72.5 → 71.7%、脂肪 11.1 → 12.2 → 14.0 → 16.4kg、50 未満の群で筋肉量 %78.8 → 75.3 → 76.6 → 76.2%、
脂肪 8.7 → 8.6 → 11.9 → 12.7kg であった。
【考察】体組成の変化は受傷後から筋肉量は減少し、ある一定に収束する可能性が、また脂肪は体重増減によ
り増減すると考えられる。筋肉量を増加させる因子は意識障害の程度と負荷運動と考えられる。
- 78 -
特別シンポジウム(SS2-1)
静岡県内の遷延性意識障害患者の実態調査
杉山 憲嗣、野崎 孝雄、酒井 直人、徳山 勤、平松 久弥、鮫島 哲朗、川路 博史、松井 秀介
浜松医科大学 脳神経外科
桑山 雄次
全国遷延性意識障害者・家族の会
昨年の札幌の本学会で、家族会会員の回収数 151 名のアンケート調査の結果の概要をお伝えした。今回は、
在宅をめぐる実態についての発表を行う。
当会会員で在宅を選択している家族は約 6 割である。患者サイドから見た場合、在宅は入院中の生活とは
異なり、家族関係や福祉の色彩が濃く、「医療」は日常生活の一部分に過ぎない面もあるが、遷延性意識障害
者にとっては、医療は欠かせない社会資源であり、文字通り命をつなぐ生命線でもある。
遷延性意識障害は、重症心身障害児・者や難病患者、高次脳機能障害との関連で語られることも多いが、
重心児者や難病の場合は不十分ではあるものの社会的な支援策もあるが、遷延性意識障害の場合には皆無に
近い。
厚労省は医療のみならず福祉の分野でも在宅を推進しており、その方向性は大きくは誤っていないと考え
られるが、物理的に在宅ができない家庭があり、また訪問診療や訪問看護、訪問リハなど医療面だけでなく、
介護ヘルパーや通所の福祉施設などの社会的資源が圧倒的に不足しているのが実態である。
結果として、そのしわ寄せが家族にかかり、家族は混迷を深めているのは事実であり、その悩みは本当に
深い。
在宅を阻むものは何か? 翻って在宅は本当にベストチョイスなのか? 家族は自分の仕事を諦め、睡眠時
間を削り、介護漬けの生活になっていないか?
医療や福祉の制度の不備を政治の責任にすることはたやすい。しかし 10 年先には何らかの「希望」が欲し
いのも事実である。
困難な現場の中に、医療が提供すべき物理的な資源とともに、治療面以外の様々な情報などについて、家
族会アンケートを下に考察したい。
- 79 -
A
会場
患者・家族会の希望(第二報)
2
日 特別シンポジウム(SS2-2)
第
【目的】現在、全国に何人の遷延性意識障害患者がおり、どの様なケアを受けているのか、その実態は明らか
でない。今までに実態調査を行った件数は数件しかなく、静岡県における調査も過去には報告がない。そこ
で、今回、本県に於ける遷延性意識障害患者の現状の把握と、その問題点を抽出することを目的として調査
を施行した。
【方法】2013 年に秋田県で同様の調査がなされたが、今回は静岡県と秋田県の比較を行うことをも目的とし、
前回秋田県での調査を行った鈴木明文先生と佐々木正弘先生のご厚意により、同じフォーマットを使用して、
静岡県で調査を行った。
【結果】静岡県内の病院(急性期、回復期、療養型)190 施設中 30 施設から回答が得られ(回収率 15.8 %)、
また介護施設 2915 施設中 157 施設から回答が得られた(回収率 5.4 %)。このうち 39 施設(20.9 %)に 397 名
の患者が存在し、男女比は 1:3 であった。患者は療養型病院 24.75 人 / 施設 > 急性期病院 14.43 人 / 施設 > 介
護施設 3.9 人 / 施設、と療養型病院に集中している様子が認められた。80 歳以上が 73.4 %を占め、脳卒中が
64.2 %を占めていたが、第 2 位は変性疾患であった。平均入院期間は 4.2 年で、入院中の合併症は、関節拘縮
が 83.6 %と最も多く、続いて肺炎 43.5%、痙縮、排尿障害の順であった。
【考察】全体での回収率は 6.0 %と秋田県に比較して低い回収率であった。静岡県は、高齢化率 32 位、健康寿
命が女性 1 位、男性 2 位の県であるが、高齢化率 1 位の秋田県と大差ない結果と見られ、日本全体が同様の結
果を示していることを伺わせる結果であった。
特別シンポジウム(SS2-3)
静岡県における遷延性意識障害の現状と今後の方向性について
奈良 雅文
静岡県健康福祉部医療健康局疾病対策課
第
日 2
会場
A
今回第 24 回意識障害学会が静岡県浜松市において開催されるにあたり、難波宏樹会長よりサテライトシンポ
ジウム 「遷延性意識障害の現状と今後に展望」 において発表の機会を与えて頂きました。ご配慮下さりあり
がとうございます。
遷延性意識障害の現状と課題でありますが、静岡県においても全国の状況と大きな変化はありません。具体
的には
① 発症後急性期において予後不良であると判断されればその後に十分なリハビリが受療可能な回復期病棟へ
の紹介ではなく長期療養型病院への紹介を余儀なくされる。
② 回復期病棟の受け入れキャパシティが十分ではなく、人的要件特に看護師の配置が少ないため十分な医療
ケアが受けづらく転帰の向上に繋がらない。
③ 長期療養型もしくは福祉施設に入所しても医療的ケアが必要となるケースは数多いが、十分な医療的ケア
を提供できる施設となると限定される。また在宅に移行してもケアマネジャーや在宅医、訪問看護師の絶対
数が限られておりショートステイ等レスパイト施設も確保が困難である。
④ 18 歳以下の発症ならば重症心身障害の対象となり、65 歳以上疾患によっては 40 歳以上であるならば介護
保険対象となる。その間の世代は身体障害(肢体不自由)として、障害者総合支援法の障害福祉サービスの
対象となるが、介護保険制度に比べ、サービス提供基盤が少なく、身近な地域で十分なサービスを享受でき
ない現状にある。
⑤ 障害者総合支援法では、サービス提供の実施主体が市町となっているが、市町における遷延性意識障害に
対するサービスの支給件数等を正確につかむことが難しく、十分に実態が把握できていない状況にある
こういった事に鑑み、現在静岡県内市町対象にアンケート調査を行っています、この結果をサテライトシン
ポジウムで発表し今後の政策に繋げていきたいと考えています。
一般演題(2A1-1)
脳外傷後高次脳機能障害におけるフルマゼニル PET を用いた大脳皮質神経障害部位の
検出
河井 信行 1、畠山 哲宗 2、三宅 啓介 2、田宮 隆 2
1
かがわ総合リハビリテーション病院 脳神経外科、2 香川大学医学部脳神経外科
【はじめに】脳外傷(TBI)後の高次脳機能障害で原因となる異常を頭部 CT や MRI などの形態学的画像検査
で検出できないことが時々ある。我々は、びまん性 TBI 後高次脳機能障害において中枢性ベンゾジアゼピン
受容体を定量的に評価できる 11C- フルマゼニル(FMZ)を用いた PET 検査により大脳皮質神経細胞障害部
位の検出を試みたので報告する。
【対象】2009 年 6 月から 2015 年 4 月までの間に TBI 後高次脳機能障害と診断され、FMZ-PET 検査を施行した
24 名(男性 23 名、女性 1 名、平均年齢 40.2 ± 13.6 歳:18 ~ 67 歳)を対象とした。今回はびまん性 TBI 症例
のみを対象とし、15 名が入院時 GCS 8 以下の重症例、9 名が GCS 9 以上の中等症から軽症例であった。
【方法】FMZ-PET 撮像後に脳幹部を reference とする binding potential(BP)画像を作成した。その後、統
計学的画像解析ソフト 3D-SSP を用いて正常被験者群 20 名(平均年齢 24.4 ± 2.8 歳:22 ~ 30 歳)と比較して
有意(Z score>2)に神経細胞が障害された部位を検出した。さらに SEE 解析を用い FMZ 集積低下の程度を
脳回レベルで定量評価した。
【結果】重症広範性脳損傷患者 17 名全例において内側前頭回、前部帯状回など前頭葉内側面で有意な FMZ 集
積低下が認められた。FMZ 集積低下があっても同部の形態学的異常所見が認められない症例も存在した。ま
た中等症から軽症の頭部外傷患者 9 名中 6 名で同様に前頭葉内側面に FMZ 集積低下を認めた。重症例におい
ては FMZ 集積低下の程度と WAIS-III の全 IQ との間に有意な相関関係を認めた。
【結論】TBI 後高次脳機能障害患者において、入院時の意識状態に関わらず内側前頭回、前部帯状回など前頭
葉内側面に神経細胞障害が認められることが示された。
- 80 -
一般演題(2A1-2)
重症頭部外傷患者慢性期の脳 FDG-PET における統計画像解析(eZIS)の検証
山田 裕一 1,2、奥村 竜児 1、糟谷 幸徳 1、福山 誠介 1、浅野 好孝 2,3、篠田 淳 2,3
1
3
木沢記念病院 中部療護センター 放射線技術部、2 岐阜大学連携大学院 医学系研究科、
中部療護センター 脳神経外科
畠山 哲宗 1、河北 賢哉 2、河井 信行 3、田宮 隆 1
1
香川大学医学部 脳神経外科、2 香川大学 救命救急センター、3 かがわ総合リハビリテーション病院
【目的】一酸化炭素中毒は症状の自覚に乏しく、長時間の吸入により意識消失を起こし、ついには死に至る。
一酸化炭素中毒の急性期では淡蒼球が障害されやすいが、急性期の症状が消失しても亜急性期に再び意識障
害、記名力障害が出現することがあり、2 次性の局所血流障害などが原因と考えられている。我々は、一酸
化炭素中毒症例に対し FDG-PET 検査を施行し、組織障害の評価における FDG-PET の有用性について検討
したので報告する。
【対象と方法】2008 年 11 月から 2015 年 4 月に香川大学にて一酸化炭素中毒の治療を行い急性期から亜急性期
に FDG-PET を施行した 8 名(男性 6 名、女性 2 名、平均年齢 46.8 ± 15.2 歳:26 ~ 71 歳)と、同期間に香川
大学にて低酸素脳症の治療を行い急性期から亜急性期に FDG-PET 検査を施行した 12 名(男性 12 名、女性 0
名、平均年齢 63.1 ± 13.0 歳:41 ~ 86 歳)を対象とした。また正常対照群として 8 名(男性 8 名、女性 0 名、平
均年齢 43.88 ± 4.22 歳:38 ~ 50 歳)も対象とした。統計学的画像解析ソフト 3D-SSP を用いてそれぞれの群を
正常対象群と比較して有意(Z score>2)に糖代謝が低下した部位を検出した。
【結果】一酸化炭素中毒患者 8 名中全例において形態学的画像所見で明らかな損傷の認められない頭頂後頭
葉内側面に有意な FDG の集積低下が認められた。また低酸素脳症患者 12 名中 9 名で同様に頭頂葉内側面に
FDG 集積低下を認めたが、後頭葉の集積低下は 7 名であった。
【結論】一酸化炭素中毒患者において頭頂後頭葉内側、後部帯状回などに糖代謝の低下が認められることが示
された。一酸化炭素中毒後の意識障害に対し、FDG-PET は意識障害の補助診断や病態解明に有用な可能性
がある。
- 81 -
A
会場
一酸化炭素中毒患者における FDG-PET を用いた組織障害部位の検出
2
日 一般演題(2A1-3)
第
【背景】当施設での脳 FDG-PET の評価は、自施設で作成した年齢別・性別の正常群データベース(NDB)
を用いた統計画像解析で行っている。解析法には SPM による標準化をベースとする eZIS(easy Z-score
Imaging System)が一般に知られているが、脳室拡大及び脳萎縮に対する解析エラーが文献上で報告されて
いる。今回は、特に重症頭部外傷後意識障害患者(患者)にて検証することを目的とした。
【 方 法】2013 年 4 月 ~ 2015 年 3 月 に 脳 FDG-PET 検 査 を 施 行 し た 患 者 49 名 を、Evans Index(EI) = 0.3 を
カットオフとして、正常群(N 群)と水頭症群(H 群)に大別した(N 群 12 名、H 群 33 名)。体動のある 3 名
及び EI 測定不能の 1 名は除外とした。PET 画像は Transmission data を 4 分収集し、Emission data は FDG 静
注 50 分後から 10 分間で収集した。次に自施設 NDB で eZIS 解析を施行し、標準脳の大脳辺縁系に設定した関
心領域(VOI)で代謝低下の割合(extent score)の平均値を両群について算出し、t 検定を用いて群間比較
した。また、QC viewer を用い、MR 画像との視覚的評価も併せて施行した。
【結果】両群間の extent score には統計学的な差を認め、H 群で数値は有意に高くなった(p=0.004)。視覚的
評価では、脳室拡大領域と代謝低下領域に一致する傾向が認められた。
【考察・結論】先行報告と同様に、脳室拡大が代謝低下として表示された。SPM による標準化では脳表カウ
ントを元に非線形変換を行うが、脳の深部領域ほど変換による標準化の影響が小さいことに起因すると考え
られる。したがって、当該患者の eZIS の評価には注意が必要であり、単独ではなく MRI による形態的評価を
併用すべきである。
一般演題(2A1-4)
外傷性脳損傷における脳アミロイド病態
池亀 由香、浅野 好孝、川崎 智弘、野村 悠一、篠田 淳
木沢記念病院・中部療護センター
第
日 2
会場
A
【目的】脳アミロイド沈着は、アルツハイマー型認知症の重要な発症機序の一つとされており、アミロイド β
と結合する Pittsburgh compound B(PiB)を用いた核医学検査(PiB-PET 検査)が本邦でも一部の施設で
認知症診断に用いられている。近年外傷性脳損傷においても、軸索損傷による軸索輸送障害などを機序とし
て脳組織へのアミロイド沈着が生じる可能性を指摘されるようになった。当施設では、重症頭部外傷が脳へ
のアミロイド沈着に与える影響、アミロイド沈着と機能的予後との関連を検討すべく本研究を開始した。
【方法】重症頭部外傷後遷延性意識障害のため当施設入院中の方でご家族の同意を得られた方に対し、当院倫
理委員会承認を得て PiB-PET 検査を行った。核種は日本核医学学会の指針に従って、11C - PiB を標準投与
量である 555 MBq ± 10 % で使用し、投与直後から 70 分間の 3D ダイナミックスキャンを行った。投与 50 分
後より 20 分間の撮像を PiB 後期相撮像として解析の対象とした。PET 画像解析は 3DSRT 等を用い、当院定
期検査の CT・MRI・核医学検査及び臨床症状との比較検討を Dr.View、SPM8 および CONN Toolbox、統計
解析を Excel および MATLAB(2012a)を用いて行った。
【結果】本検討においては、アルツハイマー病相当の高度な脳アミロイド沈着はみられていないが一部の症例
では局所的な集積上昇を示した。脳アミロイド検出量は脳血流量と相関し、局所的にはアミロイド検出部位
と脳血流および糖代謝相対的低下部位が一致する箇所も認めた。
【結論】重症頭部外傷では、脳組織形態的変化が個々の症例で異なるため一般化は困難であるが、アミロイド
沈着例においては機能的予後に関連する可能性がある。
一般演題(2A2-1)
高次意識障害と認知症
上田 孝 1、近藤 隆司 2、矢野 英一 2、小城 亜樹 2、小田 憲紀 2、相村 崇成 2、村山 知秀 3、
高山 武也 3
1
3
医療法人社団孝尋会 上田脳神経外科 脳神経外科、2 医療法人社団孝尋会 上田脳神経外科 放射線部、
医療法人社団孝尋会 上田脳神経外科 医療情報部
【目的】高次の意識は、単に過去の記憶によって裏打ちされた現在性、というだけではなく、象徴性、概念性
を獲得し、その結果として、過去、現在のみならず未来、あるいは自分自身について意識できるようになる。
それが障害された「高次意識障害」とアルツハイマー型認知症(AD)
、血管性認知症(VaD)
、混合型認知
症(MD)
、レビー小体型認知症(DLB)などとの類似性について局所脳血流の観点から考察する。
【 対 象 と 方 法】 対 象 は 意 識 障 害 を 生 じ た 49 例 と 認 知 症(AD、VaD、MD、DLB な ど)320 例 で、 測 定 は
SPECT による e-ZIS と、3 次元局所脳血流量(rCBF)測定法(3D-SRT、自動認識 ROI 解析ソフト)を用い
た。
【結果】意識に関連する 3 つの network の中で、executive control network(前頭葉背外側皮質-頭頂葉新皮
質経路)
、default mode network(内側前頭葉、後部帯状回、楔前部、外側側頭葉経路)の障害は軽度意識障
害を生じた症例に多くみられ、認知症を呈した種々の疾患における rCBF 低下領域とも共通していた。そし
てそれらは高次の意識と関連する領域と重複する。
【結論】認知症は単に記憶や認知の障害ではなく、象徴機能や言語機能によって媒介される「高次意識」の障
害といえる。
- 82 -
一般演題(2A2-2)
外部刺激と内因性刺激における脳血流変化とリハビリテーションへの応用
上田 正之 1、古澤 光 1、諸井 孝光 1、河野 美香 1、津島 聡子 1、渡邊 智恵 1、内田 里香 1、
宮崎 紀彰 2、上田 孝 3
1
2
医療法人社団孝尋会 上田脳神経外科 リハビリテーション部、
医療法人社団孝尋会 上田脳神経外科 麻酔科蘇生科、3 医療法人社団孝尋会 上田脳神経外科 脳神経外科
小城 亜樹 1、相村 崇成 1、小田 憲紀 1、矢野 英一 1、近藤 隆司 1、宮崎 紀彰 2、上田 孝 3、
谷口 尚大郎 4
1
3
医療法人社団孝尋会 上田脳神経外科 放射線部、2 医療法人社団孝尋会 上田脳神経外科 麻酔科蘇生科、
医療法人社団孝尋会 上田脳神経外科 脳神経外科、4 公益財団法人 宮崎県健康づくり協会 健康推進部
【目的】脳血流 SPECT 検査を実施するにあたり、患者負担の原因となるものの 1 つに検査時間の長さが挙げら
れる。意識障害を有する患者など静止している事が困難な被検者にとっては、長時間に及ぶ検査は耐えられず
中断を余儀なくされる場合をしばしば経験する。その中で検査を実施していくには、適切な撮像条件を選択す
る必要がある。今回、収集時間毎に局所脳血流量を測定し、脳血流 SPECT 検査の検査時間短縮に寄与できな
いか検討を行った。
【対象及び方法】脳血流 SPECT 実施患者 80 名(女性 32 名、男性 48 名、平均年齢 72 歳)。当院での脳血流
SPECT 検査は 20 分間収集にて実施している。現行法では、1 回転 2 分間収集を 10 回転分合成し、3D-SRT
(自動 ROI 解析プログラム)を用いて局所脳血流量を算出している。今回、事前に HOFFMAN 3D 脳ファン
トムにて、1 ~ 15 回転の 2 分間毎の各関心領域における時間 ‐ 局所脳血流量曲線を作成し、現在実施してい
る 10 回転分の局所脳血流量の値と比較し、同値を得るための収集時間を測定した。その後、実際の脳血流
SPECT 実施患者にて測定を行い、同様の結果が得られるか検討した。
【結果及び結論】現行法での 10 回転分の局所脳血流量値を得る為に必要な収集量は、7 回転分(14 分間収集)
以降においてプラトーと達したので、検査時間の短縮に寄与できることが示唆された。また今回の検討により
10 回転中の体動のあった数か所の回転部の削除を行っても、2 及び 3 回転分程度の収集量の削除であれば定量
値に影響がないことが示唆された。
- 83 -
A
会場
意識障害患者への脳血流 SPECT 検査時間短縮に向けた試み
2
日 一般演題(2A2-3)
第
【目的】リハビリテーション臨床の場において、音楽刺激や嗅覚刺激等の外部刺激のみならず、注意や暗示な
ど内因性の刺激が患者の運動能力を改善し、麻痺の改善や痛みの軽減に繋がることを経験している。今回、
脳血管障害後片麻痺患者に外部刺激と内因性刺激を与えることにより患者の脳血流や運動能力における影響
を検証した為、リハビリテーションへの応用も含め報告する。
【対象と方法】局所脳血流量の測定は、上田らの開発した 99mTc-HMPAO(ECD)持続静注下連続 dynamic
SPECT 法と、99mTc-ECD subtraction 法を用いて、種々の刺激前後と刺激中の局所脳血流の変化を観察
した。運動能力の評価は、安価でポータブルな赤外線を利用した運動追跡装置である KINECT(KineticsConnection)を用い、患者の自動関節運動を観察した。KINECT から導出した関節可動域、速度、加速度等
を計測し差異を調べた。外部刺激は、音楽刺激、嗅覚刺激、痛み刺激等を用いた。内因性刺激は、麻痺側・
非麻痺側への注意、各関節部位への注意、デュアルタスク、暗示、メタファー等を用いた。
【結果】言語による暗示と外部刺激の複合刺激により、脳血管障害後片麻痺患者の前頭葉、視床、その他の多
彩な部位に脳血流量の増加を認めた。
【結語】臨床において他動運動等の外部刺激に関節部位への注意を言語による内因性刺激として複合する方法
をリハビリテーションへの応用とし取り組んでいる。今後、KINECT を利用し、検証を進めていく。
一般演題(2A2-4)
安静時 functional-MRI による頭部外傷後遷延性意識障害症例の視床の機能的結合の検討
浅野 好孝 1,2、池亀 由香 1,2、川崎 智弘 1、野村 悠一 1、篠田 淳 1,2
1
第
日 2
会場
A
木沢記念病院・中部療護センター 脳神経外科、2 岐阜大学大学院 医学系研究科 脳病態解析学
【目的】安静時 functional MRI(fMRI)にて脳内ネットワークの機能的結合が解明されてきている。今回、
我々は交通事故による頭部外傷後の遷延性意識障害症例に安静時 fMRI を施行し、相互相関解析法を用いて植
物状態から最小意識状態に改善した症例群(MCS 群)と植物状態のままの症例(VS 群)の視床の機能的結
合を比較検討した。
【方法】慢性期の交通事故による頭部外傷後遷延性意識障害症例 10 例(MCS:5 例、VS:5 例)と健常者 16 例を
対象とした。入院時とその 1 年後に 3T-MRI 装置にて安静時 fMRI(GRE-EPI; TR = 2000ms、TE = 30ms、
Flip angle = 90、matrix size = 64 × 64、FOV = 230mm、35slices × 190)を撮影した。データの前処理は
SPM8 で行い、CONN toolbox(http://web.mit.edu/swg/software.htm)を使用し、視床に ROI を置き相互
相関解析(band-pass filter: 0.001-0.08Hz、uncorrected p<0.01)を行った。
【結果】左右視床にそれぞれ ROI を置くと正常群では対側視床、両側前部帯状回、両側小脳などに機能的結合
を認めた。MCS 群、VS 群ではともに対側視床、前部帯状回との機能的結合は消失、同側視床においても機
能的結合範囲の縮小を認めた。VS 群では MCS 群と比較して左右の視床とも同側視床での機能的結合範囲の
縮小を認めた。MCS 群、VS 群ともに一年後と比較して優位な変化は認めなかった。
【結論】頭部外傷後の遷延性意識障害症例では視床の機能的結合が減少していた。視床の機能的結合の程度が
遷延性意識障害の重症度と関係している可能性が示唆された。
一般演題(2A2-5)
遷延性意識障がい者に対するリハビリ施行時の前頭前野の表面脳血流動態の変化
吉川 一彰 1、金 成道 2、飯田 修平 3
医療法人社団 成煌会 瑞江整形外科 理学診療部、2 医療法人社団 成煌会 瑞江整形外科 理事長、
3
帝京平成大学 健康メディカル学部 理学療法学科
1
【目的】今回、意識障がい患者一例に対し、聴覚刺激、触覚刺激、離床に伴う動作の刺激を行い、自発性や注
意面等を司る前頭前野の表面脳血流動態の変化を観察したため、ここに報告する。
【被験者】30 代女性、診断名:頭部外傷。2002 年 5 月に交通事故にて受傷し、遷延性意識障がいと判断され
た。12 月に自宅退院し、2014 年 12 月に至まで訪問リハビリテーションにて自宅介入。現在も、訪問リハビリ
にて関節可動域訓練、座位、立位、歩行訓練を実施している。
【方法】本研究は、主治医の許可とご家族の希望と同意の上、倫理的側面に配慮をしながら実施した。表面脳
血流動態の計測には、DynaSense 社製の携帯型近赤外線組織酸素モニタ装置(pocket NIRS Duo)を使用
し、前頭前野の左右対称(右 ch1、左 ch2)となる 2 箇所から計測した。計測課題は、1 セラピストの声がけ、
2 父の声がけ、3 母の声がけ、4 叩打刺激、5 冷却刺激:左頬、6 冷却刺激:右頬、7 口腔ケア、8 座位、9 立位、
10 歩行とし、計測時間は 1 ~ 9 を 30 秒、10 を 60 秒とした。解析は、安静臥位 30 秒での各チャネルの酸素化ヘ
モグロビン値の加算平均を基準とし、各課題時の相対的な変化量を T 検定を用いて比較した(有意水準 5 %
未満)
。
【結果】課題 2・3・7・8・10 では両側の前頭前野にて、課題 9 では Ch2(左側)のみで有意に増加がみられ
た。
【考察】前頭前野は情動を司る大脳辺縁系と広範な連結があり、複雑な思考や注意面の他、感情や動機づけに
も関係している。本研究での表面脳血流動体の結果は、姿勢の変化に伴う血流変動の影響の他にも、刺激方
法の違いの関与も示唆された。
- 84 -
一般演題(2A3-1)
遷延性意識障害患者および意識清明患者における褥瘡治療期間の比較検討
白坂 有利 1、石垣 泰則 2
1
城西クリニック 脳神経外科、2 城西クリニック 神経内科
山田 昌興、冨田 雄介、村上 秀喜、中根 一、渋井 壮一郎
帝京大学医学部附属溝口病院 脳神経外科
【目的】意識障害を呈した高齢の急性期患者では、下肢静脈血栓症(deep vein thrombosis: DVT)を合併す
る頻度が高く、肺塞栓症に進行した際は致命的となる。そのため、そのような症例では、予防的治療をいつ
から開始すべきであるかを検討した。
【方法】2014 年 1 月から 12 月までに当科に入院した 323 の患者の内、年齢 60 才以上、Glasgow Coma Scale11
以下の患者 43 例を対象とした。入院時に D-dimer 値を測定し、入院 1 週間後に D-dimer 再検、下肢静脈
エコーを施行した。DVT 陽性例にはヘパリン投与を開始し、さらに胸部造影 CT にて肺塞栓(pulmonary
emobolism: PE)の有無を評価した。PE 陽性例には、vena cava protection filter 留置を行った。
【結果】DVT 陽性患者は 19 例(44.2%)、PE 陽性は 4 例(9.3%)であった。DVT 陽性例では、入院時、入院
1 週間後の D-dimer 値は、陰性例より有意に高値であった。また、脳虚血疾患例では DVT 陽性例がなかった
のに対し、脳出血例の 66.7%、外傷性脳挫傷例の 55.3% で DVT 陽性であった。しかし、入院後 1 週間からヘ
パリン投与を開始した結果、全例で血栓消失を認め、脳出血の再発も認められなかった。
【結論】DVT の危険が高いと思われる症例では、入院時からヘパリン投与を奨励する報告もあるが、脳出血
を起こす報告もみられる。本研究の結果、入院から 1 週間後にヘパリンを開始しても十分な予防効果を得る
ことができ、DVT 発生率の高い出血性病変においては再出血率も低く、適した治療時期であると結論した。
- 85 -
A
会場
急性脳神経疾患にて意識障害を呈した高齢患者における下肢静脈血栓症の分析
2
日 一般演題(2A3-2)
第
【目的】四肢体幹機能障害患者の合併症に褥瘡があり、その治癒過程には健常な炎症反応が必要である。われ
われは遷延性意識障害患者では免疫能が低下することを明らかにしてきた。今回は意識障害の褥瘡治療期間
への影響について検討したので報告する。
【方法】対象は四肢体幹機能障害を有する患者 40 例であり、それらを遷延性意識障害群(C 群)25 例、意識
清明群(A 群)15 例に分類した。C 群は、66 ± 14 歳、男 15 例、女 10 例であり、A 群が、62 ± 10 歳、男 10
例、女 5 例であった。基礎疾患は、C 群が、脳血管障害 22 例、脳挫傷 3 例、A 群が、脳血管障害 12 例、脳挫
傷 3 例であった。褥瘡に対して全例にアルプロスタジルアルファデクス軟膏とゲンタマイシン軟膏を 3:1 の
比率で混合した軟膏を用いて処置し、各群褥瘡の平均直径と治癒までの期間の相関について検討した。
【結果】統計処理をした結果、C 群では、褥瘡平均直径(X cm)と治療期間(Y か月)におけるピアソンの
相関係数が 0.982 と非常に強い相関関係ありで、回帰直線式は Y =- 0.31 + 1.05X であった。A 群では、同相
関係数が 0.972 と非常に強い相関を呈し、回帰直線式は Y = 0.09 + 0.47X であった。
【結論】四肢体幹機能障害患者に合併した褥瘡について遷延性意識障害群と意識清明群に分けて治療期間を比
較検討した結果、両群ともに褥瘡平均直径と治癒までの期間には強い相関関係があることが判明した。さら
に、遷延性意識障害群では直径 X cm の褥瘡はほぼ X か月で治癒し、意識清明群では直径 X cm の褥瘡はほぼ
半分の 0.5X か月で治癒することが明らかとなった。以上から、褥瘡の治癒期間には意識障害による免疫能の
低下が起こす炎症反応の遅延が影響することが示唆された。
一般演題(2A3-3)
Kinetics Connection(KinectTM)センサーの臨床応用
高山 武也 1、村山 知秀 1、宮崎 紀彰 2、上田 孝 3
1
3
第
日 2
医療法人社団 孝尋会 上田脳神経外科 医療情報室、2 医療法人社団 孝尋会 上田脳神経外科 麻酔科蘇生科、
医療法人社団 孝尋会 上田脳神経外科 脳神経外科
【目的】Kinect センサーとはマイクロソフト社が開発した映像センサー、距離センサー、赤外線プロジェ
ク タ ー、 指 向 性 マ イ ク を 備 え た デ バ イ ス で あ る。Kinect の ネ ー ミ ン グ の 由 来 は Kinetics( 動 力 学) と
Connection(繋がり)を組み合わせた造語である。Kinect センサーは音声認識と、非接触での骨格追跡・3
次元顔認識・ジェスチャー認識ができる。マーカーなどを使用しないので人体への負担が少なく高精度な動
作検出ができる。もともとはゲーム機用に開発されたものだったが医療現場、リハビリテーション、見守り
支援、人流計測、アパレル、デジタルサイネージ等の様々な分野で応用されている。この応用事例を参考に
して当院独自のアプリケーションを開発し、臨床現場における可能性を検討した。
【方法】今回のアプリケーション開発には Visual Studio 2012、Kinect SDK ver2 を使用した。Kinect セン
サーで取得可能な全身 25 カ所の関節の 3 次元座標をミリ秒単位で記録するアプリケーションと、記録された
データから移動量・角度・加速度などを求め、表やグラフ等のレポートで出力するアプリケーションと、記
録されたデータを骨格モデルでアニメーションするアプリケーションの開発を行った。
【結果及び結論】今回、本アプリケーションの概要とリハビリテーション部での臨床応用について報告する。
会場
A
一般演題(2A3-4)
グリオーマ患者の術前後の QOL 評価と術後の高次脳機能との関連
仁木 千晴 1、熊田 孝恒 2、丸山 隆志 1,3、田村 学 1,3、佐藤 由紀子 4、川俣 貴一 3、村垣 善浩 1,3
東京女子医科大学 先端生命医科学研究所、2 京都大学大学院 情報学研究科、3 東京女子医科大学 脳神経外科、
4
東京女子医科大学病院 社会支援部
1
【目的】グリオーマ患者の術後の QOL は、社会復帰や術前と同様の質の生活を送る上で重要である。術後の
QOL は高次脳機能と関連すると考えられる。本研究ではグリオーマ患者の術前後の QOL を評価し、高次脳
機能との関連を調べることを目的とした。
【方法】対象:初発のグリオーマ患者 39 名(男性 23 名、女性 16 名、平均年齢 40.9 歳、摘出半球:左 21 名、右
18 名、術後放射線治療施行人数:有 18 名、無 21 名)。手続き:がん患者用の QOL 質問紙 EORTC QLQ-C30
および脳腫瘍患者用の EORTC BN-20 を術前と術後 6 ヶ月後に施行した。記入後、認知課題(女子医大版認
知課題バッテリー:言語性記憶、情報処理速度など 8 の下位課題からなる)を施行した。
【結果】QOL 質問紙は機能スケール(趣味や仕事の遂行、記憶・学習など認知行動面を評価)と症状スケー
ル(倦怠感、食欲不振など症状の有無を評価)を算出した。その結果、機能スケールの「趣味や仕事の遂行」
が術前より術後に評価が低く(p<.05)
、
「情緒」は高かった(p<.05)。症状スケールは放射線治療有で術後に
「倦怠感」と「食欲不振」が有意に増大し(p<.05)、「将来への不安」が低下(p<.10)、および左半球摘出患
者に「言語機能障害の自覚」の増大が示された(p<.05)。また、術後の認知課題の成績と「言語機能障害の
自覚」との間に負の相関が(r=-.41)、「趣味や仕事の遂行」との間に正の相関が見られた(r=.72)。
【考察】高次脳機能の状態は言語機能障害など認知面のみならず、将来の不安といった精神面や趣味や仕事の
遂行といった社会復帰に関する QOL 評価項目とも関連していることが示された。今後は高次脳機能と実際の
社会復帰や生活の状況との関連を調べる予定である。
- 86 -
一般演題(2B1-1)
SST(摂食嚥下サポートチーム)を立ち上げて
渡部 明美 1、和田 奈穂 1、酒元 李奈 1、藤本 梓美 1、金丸 江理子 1、和泉 美千代 1、大塚 清美 1、
上田 孝 2、宮崎 紀彰 3
1
3
医療法人社団 孝尋会 上田脳神経外科 看護部、2 医療法人社団 孝尋会 上田脳神経外科 脳神経外科、
医療法人社団 孝尋会 上田脳神経外科 麻酔科蘇生科
【目的】脳神経外科急性期医療を担っている当院は、年間入院患者数は 618 名、内 430 件の救急車の搬入を受
け入れている。急性期脳血管障害や重症意識障害者の口腔ケアは呼吸器合併症の予防と同時に口腔の廃用予
防が必要となる。今回、私たちは摂食嚥下に問題のある患者様を抽出し看護師・ST・OT と共に口腔ケアを
行なうことにより肺炎予防に繋がり早期に経口摂取ができるのではないかと考え SST チームを立ち上げた。
【対象】重篤な神経症状、全身合併症や意識障害などがあり、摂食嚥下に問題のある患者を対象とした。
【方法】入院時看護師による口腔アセスメント評価を行う。問題のある患者様に対し、翌日より各部署(医
師、看護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士など)との毎朝のウォーキングカンファレンス
を行い ST へ再評価を依頼する。対象になった患者様の口腔ケア時看護師・OT・ST が同時に介入しケアを行
う。
【結果及び結論】SST を立ち上げることにより患者様に安楽な口腔ケアが提供できると同時に、ケアに対する
時間の短縮ができ、肺炎合併症予防と早期の経口摂取に繋げることができた。
第
日 2
一般演題(2B1-2)
森近 正和 1、永友 孔香 1、片岡 恵美子 1、渡邊 伸顕 2、本田 千穂 3、衣笠 和孜 3
独立行政法人 自動車事故対策機構 岡山療護センター 看護部、
独立行政法人 自動車事故対策機構 岡山療護センター 外科、
3
独立行政法人 自動車事故対策機構 岡山療護センター 脳神経外科
1
2
【はじめに】当院は重度遷延性意識障害患者が入院しており、入院時より表情筋マッサージなど間接・嚥下
訓練と身体全体の協調運動機能などのセルフケア能力を高められるようケアを行っている。経口摂取が可
能となった患者では経口摂取が不可能であった患者に比べて経口摂取以外の NASVA スコアの項目も改善
しているような印象がある。そこで、今回 1 食でも経口摂取が可能になった患者と経口摂取不可能な患者の
NASVA スコアを項目ごとに比較検討した。
【方法】対象は 2008 年 6 月から 2012 年 12 月までに入院した患者 37 名。1 食以上経口摂取可能になった A 群
(18 名)とそうでない B 群(19 名)に分類。それぞれ摂食を除く NASVA スコア各項目(運動・排泄・認知・
発声発語・口頭命令の理解)ごとに何名改善・維持(悪化)したか調べ統計学的に(X2 検定 P<0.05)分析し
た。
【結果】認知は A 群:改善 17 名 維持・悪化 1 名、B 群:改善 11 名 維持・悪化 8 名、発声・発語は A 群:改
善 14 名 維持・悪化 4 名、B 群:改善 7 名 維持・悪化 12 名であった。検定の結果、認知および発声発語機
能の改善度には A 群と B 群で有意差を認めたが、その他の項目では有意差はなかった。
【考察・まとめ】1 食でも経口摂取が可能になった患者では、NASVA スコアの認知、発声・発語の項目が改
善していた。重度遷延性意識障害で経口摂取が不可能な患者であっても間接嚥下訓練や協調運動機能などの
訓練を継続していくことが意識障害改善の可能性を高めていくのではないかと考える。
- 87 -
B
会場
遷延性意識障害患者の意識レベルの改善と摂食機能の改善との関連性について
一般演題(2B1-3)
“ 上田メソッド ” を用いた嚥下障害マネージメント
渡邊 智恵 1、上田 正之 1、古澤 光 1、諸井 孝光 1、河野 美香 1、津島 聡子 1、内田 里香 1、
大塚 清美 2、宮崎 紀彰 3、上田 孝 4
1
3
医療法人社団 孝尋会 上田脳神経外科 リハビリテーション部、2 医療法人社団 孝尋会 上田脳神経外科 看護部、
医療法人社団 孝尋会 上田脳神経外科 麻酔科蘇生科、4 医療法人社団 孝尋会 上田脳神経外科 脳神経外科
【目的】急性期脳疾患を有する患者は、意識障害や言語障害、摂食・嚥下障害を多く合併しています。特に意
識障害患者では、呼吸器合併症予防のためにも、嚥下機能は最も注意を要します。当院で用いている評価方
法を使った嚥下障害マネージメントを行ったので、その方法と問題点を検討し報告いたします。
【対象】平成 27 年 3 月~ 4 月 全入院患者。女性 23 名(平均年齢 78 ± 12 歳)
、男性 37 名(平均年齢 68 ± 21
歳)
。原因疾患は、脳梗塞 30 名、脳出血 4 名、脳腫瘍 2 名、慢性硬膜下血腫 7 名、その他 17 名。
【方法】当院で実施している “ 上田メソッド ” を、入院時に行います。経口摂取開始後は、食事毎に評価しま
す。“ 上田メソッド ” は、1,開眼できるか 2,口唇閉鎖ができるか 3,挺舌できるかの 3 点で評価します。
それぞれ、0 ~ 4 点で評価し、10 点満点とします。評価点に応じて Ns、ST が共同で摂食嚥下アセスメント
シートに準じて次のステップへと進みます。
【結果】“ 上田メソッド ” にかかる時間は、1 分以内と短時間で評価できました。摂食・嚥下に関わるスタッフ
全てが食事ごとに評価し、急性期の意識障害、嚥下障害の状態の変化を把握できるといった利点がありまし
た。
【結語】“ 上田メソッド ” を用いることで、急性期における患者の病態変化をリアルタイムに更新し、安全な
摂食・嚥下に向けた取り組みへと繋がりました。しかし、病状によってはより詳細な評価が求められること
があり、今後更に検討を重ねる必要があると考えています。
第
日 2
会場
B
一般演題(2B1-4)
訪問歯科診療による遷延性意識障害患者の抜歯処置の調査
安田 順一 1、玄 景華 1、兼松 由香里 2、浅野 好考 2、篠田 淳 2
1
朝日大学歯学部 口腔病態医療学講座 障害者歯科学分野、2 木沢記念病院 中部療護センター
遷延性意識障害患者の抜歯の報告は少なく、その実態は明らかでない。今回、中部療護センターに入院して
いる遷延性意識障害患者に対し、訪問歯科診療で抜歯処置を行ったので検討した。中部療護センターへの訪
問歯科診療は、近隣の一般歯科診療所の歯科医師が行ない、抜歯などで複数歯科医師での対応が必要な場合
は、大学歯学部所属の歯科医師が協同して対応した。調査期間は 2007 年から 2014 年の 8 年間である。対象は
15 人(男性 10 人、女性 5 人)で、平均年齢は 42.1 歳であった。のべ 29 回の訪問歯科診療を行い、合計抜歯数
は 72 本(乳歯 1 本、永久歯 71 本)、1 回平均抜歯数は 2.5 本であった。1 人平均抜歯回数は 1.9 回、1 人平均抜歯
数は 4.8 本であった。抜歯した歯種は、乳臼歯 1 本、切歯 11 本、犬歯 3 本、小臼歯 13 本、第 1 大臼歯 14 本、第
2 大臼歯 16 本、第 3 大臼歯 14 本であった。1 回の処置時の抜歯数は 1 歯が 12 回、2 歯が 4 回、3 歯が 5 回、4 歯
が 5 回、5 歯が 1 回、6 歯が 2 回であった。近年の在宅歯科医療需要の増加から、う蝕歯の治療や義歯修理など
ベッドサイドで対応できることも多い。しかし、全身的な問題を抱えている患者の場合、訪問診療での抜歯
の適応は限られ、病院歯科への移送も困難なことが多い。医療設備が整っている中部療護センターでの訪問
歯科診療による抜歯は、患者にとって有益であると考えられた。最近は静脈内鎮静法下で処置する症例が増
加している。抜歯後出血がみられた症例もあり、確実な止血処置を行う必要性を感じた。早期に歯科医師が
関与し、う蝕歯を保存的治療することで、抜歯処置を減少させる可能性が考えられた。
- 88 -
一般演題(2B1-5)
咬反射と口腔内感覚が過敏な意識障害患者に対する口腔ケアの一工夫
河野 美香 1、上田 正之 1、古澤 光 1、諸井 孝光 1、津島 聡子 1、渡邊 智恵 1、内田 里香 1、
大塚 清美 2、宮崎 紀彰 3、上田 孝 4
1
3
医療法人社団 孝尋会 上田脳神経外科 リハビリテーション部、2 医療法人社団 孝尋会 上田脳神経外科 看護部、
医療法人社団 孝尋会 上田脳神経外科 麻酔科蘇生科、4 医療法人社団 孝尋会 上田脳神経外科 脳神経外科
【目的】咬反射と口腔内感覚が過敏な意識障害患者で、口腔ケア時に口腔ケア用品を咬んで離すことができな
いケースに対して、ST・NS・OT 共同で行った取り組みについて報告します。
【対象と方法】咬反射と口腔内感覚が過敏な意識障害患者(JCS I ~ III 桁)10 名を対象としました。方法は、
口腔機能状態の評価として MASA(The Mann Assessment of Swallowing Ability)、口腔ケアチェック表を
使い、通常の ST 訓練や NS ケアの際、OT が頭部を支え共同で訓練・ケアを行いました。その効果を比較検
討しました。
【結果】人の手による頭部支持下での口腔ケアを 1 ~ 2 回施行した後に、クッションやタオルなどのポジショ
ニングに移行し、この取り組みを行った 2014 ~ 2015 年は、日常のケアでバイトブロックの使用率は 0 症例で
した。取り組みを行う前の 5 年間は、年間で約 10 ~ 15 症例となる全員の口腔ケアでバイトブロックを日常的
に使用していました。
【結論】頭部を優しく支持することにより、バイトブロックを使わないことで、咬反射や口腔内の感覚過敏が
減弱し、ネガティブな反応を最大限少なくした心地よい空間での対応を提供できていると考えます。
第
日 2
一般演題(2B1-6)
高山 幸芳 1、日高 可奈子 1、馬場 栄一 2、立山 幸次郎 2、太組 一朗 2、足立 好司 2、喜多村 孝幸 2
1
日本医科大学武蔵小杉病院 言語療法室、2 日本医科大学武蔵小杉病院 脳神経外科
【はじめに】脳卒中後に嚥下障害を発症する場合がある。特に、重度失語症があると、指示理解困難から嚥下
機能評価が難渋し、経口摂取開始の阻害因子となる。今回、脳梗塞後に嚥下障害、重度失語症を有し、経口
摂取を獲得した症例と、経口摂取を開始するが誤嚥性肺炎となった症例を経験し、その違いを報告する。
【対象】症例 1.60 歳男性、左中大脳動脈領域の脳塞栓。症例 2.53 歳男性、左中大脳動脈領域のアテローム
血栓性脳梗塞。
【方法】診療録より後方視的に経口摂取獲得前後の意識レベル(JCS)と、端座位保持能力を PT の評価、発
声機能を ST の評価で調査。経口摂取獲得と意識レベル、端座位保持能力、発声の関連を考察した。
【結果】介入時、症例 1 は JCSI-3、端座位保持可能、発声可能、経鼻経管栄養。症例 2 は JCSII-10、端座位
保持困難、発声はほぼみられず、経鼻経管栄養。転院時、症例 1 は状態に著変なく経口摂取を獲得。症例 2
は JCSI-3、発声は斉唱が不確実となり、直接嚥下訓練を開始すると肺炎となり中断、経鼻経管栄養のままと
なった。
【考察】2 症例を比較すると、介入時、両例では意識レベル、発声の程度、端座位保持に差がみられた。よっ
て、重度失語症を有する脳血管疾患患者の経口摂取開始には意識レベル、端座位保持能力・発声の獲得など
の因子が影響する可能性が考えられた。
- 89 -
B
会場
重度失語症、嚥下障害を有する脳血管疾患患者の経口摂取獲得
シンポジウム(SY2-1)
意識障害を伴う嚥下障害者が在宅で活きるために
金沢 英哲
浜松市リハビリテーション病院 えんげと声のセンター
嚥下中枢は延髄にあり Central Pattern Generator(CPG)という精緻にパターン化された機構が存在し、こ
こに末梢器官や核上性の入力が入り、食物認知、咀嚼といった摂食行動が連動する。意識障害があると、末
梢の感覚入力の障害や、摂食行動(認知・食欲)の欠如が生じたり、嚥下障害から誤嚥を招き肺炎を反復し
たりする。咽頭残留した唾液を慢性持続的に誤嚥している症例もしばしばある。神経変性疾患では進行性に
嚥下機能低下をきたし、終末期は誤嚥、喀出不良と肺炎が余生を苦しめる。
水頭症、てんかん、代謝性、薬剤性、慢性硬膜下血腫等治療可能な病態が、慢性期では精査の機会を逸し
見逃されたままとなっていることがある。これらの精査・治療、薬剤性ならば見直しをまず行う。リハ
ビリテーションは、環境を整え覚醒を促し末梢感覚刺激等を起点として集学的に行う方法、中枢刺激療法
(rTMS、tDCS など)が奏効することがある。
一方、慢性期遷延性意識障害者の嚥下障害は重症で不可逆的なことがあり、特に気道吸引処置や、食事介
助・嚥下調整食の準備などが、在宅生活を目指す上で本人と介助者の多大な負担となり、誤嚥や肺炎の恐怖
が日常的な精神的ストレスにもなっている。このような状況において『誤嚥防止手術』という選択肢がある。
誤嚥防止手術は、気道と食道を分離することにより誤嚥を完全防止できるが、音声機能を喪失する。単なる
延命治療ではなく、『在宅生活を目指す』『安楽な呼吸』『(可能であれば)経口摂取』といったポジティブな
目標から手術を希望する症例が増えている。当院では全例局麻下に施行している。手術はゴールではなく、
誤嚥を制御することからの再スタートの位置づけであり、術後のサポートが大切である。
第
日 2
会場
B
シンポジウム(SY2-2)
意識障害者に対する摂食嚥下アプローチ
小島 千枝子
(元)聖隷クリストファー大学
両側の皮質延髄路が障害された偽性球麻痺で意識障害重度の患者には咬反射が出現することが多い。この
ような患者は吸引チューブや歯ブラシを咬んでしまい、吸引や口腔ケアに難渋することになる。また、咬反
射のためにスプーンを咬みこんでしまったり咬反射による開口障害のために摂食訓練もすすまない。演者は
このような症状を持つある症例との出会いから、K-point の発見に至った。K-point は臼後三角後縁のやや後
方の高さで口蓋舌弓の側方と翼突下顎ヒダの中央にあたる粘膜に位置する。K-point を刺激すると、開口障
害のある場合は開口が促され、刺激後咀嚼様運動と嚥下反射が誘発される。摂食嚥下訓練手技の多くは指示
に従うことが求められるが、K-point 刺激法は指示に従えない重度意識障害患者にも適応可能である。意識
障害が重度で摂食訓練に至らない段階でも、誤嚥性肺炎の予防のために必要な吸引や口腔ケアを K-point 刺
激で開口を促し行うことができる。またアイスマッサージや K-point 刺激によって嚥下反射を誘発すること
ができればこれが間接訓練になり、意識障害が改善した段階で直接訓練につなげることが可能となる。
直接訓練が開始できる段階になっても食物の認知に障害があると、食べ物を取り込まない、食べ物を口に
入れても口を閉じない、いつまでも口に入れたまま飲み込まないなどの症状が現れる。このような患者には
吸啜反射を利用する方法やスプーンを手に持たせる方法、赤ちゃんせんべい法などが有効である。
意識障害者に対する摂食嚥下アプローチでは意識障害の程度や段階に合せてどのような問題に対して何を
行うかの見極めが重要である。
- 90 -
シンポジウム(SY2-3)
意識障害患者に対する口腔ケア
松尾 浩一郎
藤田保健衛生大学医学部 歯科
誤嚥性肺炎予防のためには口腔ケアが重要といわれています。健常成人は 1 日に 1 - 1.5L の唾液を嚥下し
ますが、意識障害患者では、咽頭の感覚や嚥下惹起が低下するために、不顕性に唾液を誤嚥してしまいます。
唾液自体は唾液腺から分泌されたものであるので、誤嚥してもそれほど問題ないと考えられますが、唾液に
混在した口腔内の病原菌を誤嚥することで、誤嚥性肺炎の発症リスクが高まります。経口摂取していないと
いう理由で口腔内の清掃を怠ると、口腔内のバイオフィルムが増殖し、口腔汚染が進んでいきます。また、
挿管患者や気切カニューレが挿入されている患者では、チューブのカフは唾液の誤嚥防止にはならず、カフ
の隙間から唾液が micro-aspiration を起こしていくことに注意しなければなりません。そのため、誤嚥性肺
炎予防には、口腔内の病原菌を可及的に減少させるために口腔ケアによる物理的清掃が必要となります。口
腔ケアの手技においては、物理的清掃による汚染物の刷掃とともに、口腔ケアによって口腔内に溶出した汚
染物の除去が重要となります。口腔ケアによって口腔内に溶出した汚染物を除去するために、注水洗浄が行
われることがありますが、嚥下障害がある場合には、洗浄液の誤嚥が問題となります。そこで、私たちは、
口腔ケア後の汚染物除去法としてウエットティッシュでの拭き取りが効果的であることを確かめ、報告しま
した(Ikeda M, 2014)。本口演では、口腔ケアの実際の手技なども交えながら、意識障害患者への口腔ケア
の意義についてお話ししていきたいと考えています。
第
日 2
シンポジウム(SY2-4)
今田 智美
京都第一赤十字病院
摂食嚥下障害は先行期・準備期・口腔期・咽頭期・食道期の 5 期に分類される。意識障害患者の嚥下障害は
原疾患の病態により様々であるが、多くの症例で先行期は障害される。その為、意識の改善を目指すことは
嚥下障害を改善する上で重要である。我々は聴覚・触覚・嗅覚・味覚などの心地良い感覚刺激を行い、脳の
活性化を目指している。病状が許せば離床を促し、光を浴び、抗重力姿勢を保つようにしている。これらは
体内循環を促し、様々な外的刺激を得、意識改善のきっかけとなることも多い。
また、意識障害では準備期・口腔期など随意運動が障害されるだけで、咽頭期嚥下反射、更に誤嚥した時の
咳嗽反射も低下する。口腔の不使用により口腔の自浄作用が低下し、口腔衛生の悪化や咽頭・気道クリアラ
ンスの悪化を引き起こす。咽頭の慢性的な喀痰貯留は喉頭の感覚を低下させ、嚥下反射や咳嗽反射の低下を
更に低下させる。
このような意識障害に伴う機能低下を予防するため、我々はまず第一に口腔機能訓練を行い、本来の能力が
発揮できるよう取り組んでいる。
次いで意識障害患者では、咽頭期の障害により唾液誤嚥を伴うケースも多い。体位調整により唾液の咽頭へ
の流入を防ぎ、唾液誤嚥の予防に努めている。体位調整で誤嚥を防ぐことができない場合は唾液の持続吸引
や唾液腺クーリングなどによる唾液分泌をコントロールするとともに咽頭アイスマッサージを行い、唾液嚥
下の改善を目指している。
以上のように意識障害患者における摂食嚥下障害の取り組みは、24 時間ベッドサイドで継続・実施していく
ことが重要であり、看護師はその役割を果たせるよう努めている。
- 91 -
B
会場
意識障害患者に対する嚥下障害マネージメント:看護師の立場より
一般演題(2B2-1)
遷延性意識障害患者へ脱感作継続により経口摂取ができた事例~在宅介護を目指して~
鶴見 優子 1、山下 和美 1、籠嶋 弘美 1、中村 幸子 1、岩渕 聡 2、中山 晴雄 2
1
東邦大学医療センター大橋病院 看護部、2 東邦大学医療センター大橋病院 脳神経外科医
【はじめに】意識障害患者のできる力を見出し、最大限に活用する支援は生活の再構築を目指すうえで重要で
ある。今回、脳膿瘍摘出後に遷延性意識障害となった患者に、経口摂取を目標に積極的に長期介入した。そ
の結果経腸栄養から経口摂取が可能となり、意識覚醒の向上がみられ、在宅介護へ移行することができた為、
報告する。
【事例紹介・介入】先天性の知的障害あり、真珠腫性中耳炎に起因する脳膿瘍の診断で摘出術施行。術後意識
遷延により気管切開施行し経鼻経腸栄養となった。3 か月後 GCSE4V2M5 視線合うが意思疎通はとれなかっ
たが、気管切開閉鎖が可能となった。母親は「椅子に座って口から食べてほしい。」と希望していたが、口腔
ケア時顔を左右に大きく振って拒否あり、効果的な口腔ケアと嚥下間接訓練ができなかった。その為口腔周
囲の刺激に慣れるよう、拒否の少ない母親に脱感作を指導し実施した。本人の拒否状態を評価しながら看護
師も実施し回数を増やしていった。その後口腔ケア時の拒否が軽減し、笑顔や声掛けに対する頷きの反応が
増え、直接訓練を流動食から開始し、評価を継続した。
【結果】直接訓練開始から主食全粥・副食刻み食を毎食摂取可能となり、意思を確認できるような頷きや協力
動作もみられるようになった。経口摂取できたことで母親の負担は軽減し、在宅介護へスムーズに移行でき
た。
【考察】脱感作継続によって外部からの感覚刺激への過敏が軽減され、その小さな反応をタイムリーに評価
し、必要なケアを実施した事が経口摂取に結びついたと考える。脱感作や食事摂取による感覚信号が上行性
網様体賦活化系から大脳皮質を刺激することで、意識覚醒の向上につながったと考える。
第
日 2
会場
B
一般演題(2B2-2)
頭部外傷後の重度嚥下障害に嚥下失行と心理的要因が影響した一例
石川 明奈 1、池場 亜美 2、奥村 由香 2、森 美香 2、森 志保 1、槇林 優 2、浅野 好孝 2、篠田 淳 2
1
2
社会医療法人 厚生会 木沢記念病院 総合リハビリテーション部、
社会医療法人 厚生会 木沢記念病院 中部療護センター
【はじめに】嘔吐を契機に経口摂取困難となったが、嚥下失行に加え心理的アプローチを実施したことで楽し
みでのゼリー形態摂取が可能となった重度嚥下障害の症例を経験したので報告する。
【症例】10 代女性。X 年交通事故にて受傷、A 病院に搬送。急性硬膜下血腫を認め、緊急開頭術を施行。受傷
107 日目気管切開、胃ろう栄養の状態で当院に転院。
【経過】転院時は最少意識状態。発熱や痰も少なかったため、ゼリー摂取を開始。140 日頃 Yes-No 反応でや
りとり可能となった。安定してゼリー摂取していたが、236 日目に嘔吐、発熱があり摂取中止。250 日頃摂取
再開したが、摂取による嘔気・嘔吐が繰り返され、ゼリー摂取に対する嫌悪感を持つようになった。嘔吐の
器質的原因は認めなかったが、嚥下失行が顕在化し、摂取を一旦中止した。同時期、精神・言語機能の精査
可能なレベルとなり、短文レベルでの言語理解が可能と判明した。そのため摂取再開に向け食への興味を抱
かせることから始め、味当て等の訓練を経て 370 日目に経口摂取再開。定期的に嘔吐は繰り返されたが、摂
取による嘔吐や発熱なく経過した。再開当初は数口の摂取であったが、音楽を流す、話題提供する等の工夫
により、摂取量が徐々に増加。582 日目にはカップゼリー 1 個程度の摂取が可能となった。
【考察】本症例が嘔吐を契機に摂取困難となった要因は意識レベル改善に伴う嚥下失行の顕在化、心理面の影
響が考えられた。嚥下失行に対しては嚥下から注意を逸らし症状軽減を図った。心理面に対しては食への興
味を抱かせ、摂取の成功体験を重ね、モチベーションを高めた。以上のアプローチにより楽しみでのゼリー
形態の摂取が再び可能となったと考えられる。
- 92 -
一般演題(2B2-3)
全般的認知機能向上した一方で嚥下障害増悪を呈した重症頭部外傷慢性期の一例
酒井 那実 1、池場 亜美 1、奥村 由香 1、澤村 彰吾 1、槇林 優 1、浅野 好孝 2、篠田 淳 2
1
2
社会医療法人 厚生会 木沢記念病院 中部療護センター リハビリテーションセンター、
社会医療法人 厚生会 木沢記念病院 中部療護センター 脳神経外科
第
【はじめに】症例は交通事故で最小意識状態となり意思疎通困難、重度嚥下障害等を呈した。その後意識改善
し意思疎通可能となった一方で高次脳機能障害が残り嚥下障害増悪を呈した一例を経験したので報告する。
【症例】30 代男性。X 年交通事故で受傷。急性硬膜下血腫を認め緊急開頭術施行。胃瘻造設、気管切開術施
行。受傷 83 日目に当院転院。
【言語・精神機能】転院時反応無し。290 日頃、話を聞き笑う・泣く事が増加。Yes/No の返答は 612 日目より
右拇指で掻く顔の場所で、781 日目より頷き・首振りで返答可能となった。視覚障害から視覚的刺激への反
応は困難だが、820 日目時点で聴覚的には文理解が可能となるほど全般的認知機能向上を認めた。一方で聴
覚的注意障害、記憶障害等の高次脳機能障害に加え感情失禁による笑いから頚部伸展位となる姿勢の崩れが
顕著となった。
【嚥下機能】転院時より重度嚥下障害。唾液の不顕性誤嚥を認めたが徐々に減少したため 333 日目より訓練用
ゼリー摂取開始。次第に全量摂取可能となったため 425 日目に VF 実施。咽頭感覚低下を認めたが誤嚥認めな
かったため慎重にゼリー摂取継続。しかし 623 日目に摂取後側管よりゼリーが引け、以降ゼリーの不顕性誤
嚥が多くなり、759 日目に摂取中止となった。
【考察】本症例は重度嚥下障害だが意識障害のため外的刺激に注意が逸れず何とかゼリー摂取可能であった。
しかし意識障害改善し聴覚的注意障害から嚥下に向いていた注意が周囲の話や物音に逸れることが多くなっ
た。またそれらの音刺激で感情失禁が顕在化し姿勢の崩れに繋がることも増加した。これらが誤嚥増加の要
因と考えられた。今後は環境調整を行い嚥下基礎能力向上を図る必要がある。
日 2
一般演題(2B2-4)
宇久田 義樹、田中 孝子、泉 清徳
社会医療法人 雪の聖母会 聖マリア病院
【はじめに】今回右片麻痺に加え重度高次脳機能障害、視力障害を呈した症例に対し、食事動作獲得にむけて介
入し改善がみられた経験を以下に報告する
【症例紹介】30 代 女性 診断名 脳挫傷、くも膜下出血、びまん性軸索損傷、多発外傷バイク事故にて受傷、
32 週目当院転院
【初期評価 71 週目】JCS1 ‐ 3 受傷時 3 桁、転院時 2 ‐ 10、Br.stageRt2 ‐ 2 ‐ 3、MMT 左上下肢 4 体幹 2 レベル
【視力】明暗が分かる程度
【ADL】嚥下移行食を最大介助にて摂取。全介助
【高次脳機能】注意:注意転導多く動作持続、把持困難。空間認知:探索行動を行う際、リーチ到達にず
れあり。失行:観念運動失行により上肢操作拙劣。身体認識:脱抑制による不穏行動、自傷行為からボ
ディイメージ残存。言語:高次脳機能障害による失語症状。理解表出ともに単語レベル。構音障害あり。
NASVASCORE50 / 60
【経過】不穏が強いため行動観察シートを作成し、原因が主に空腹のためであるとわかった。訓練では残存した
知覚機能を利用し探索、ボディイメージの向上を図った。また物を介してのリーチが困難であったため、訓練
だけでなく食事時にも改良した自助具を導入。手とさじの距離を短くしカフ付変形型スプーンに変更を行った。
【 結 果】 間 食 導 入 後 不 穏 行 動 軽 減。 自 助 具 に て 食 物 を 口 腔 へ 取 り 込 め る が、 皿 の 探 索 に 介 助 を 要 す る。
NASVAscore22 / 60
【考察】空腹に対して間食導入が不穏行動軽減に効果的であった。また自助具の改良の際残存機能を考慮したこ
とが、動作持続や失行に対する上肢複合動作軽減に繋がったと考える。しかし視覚以外のモダリティを利用し
根本である注意機能向上を図ったが、皿への探索等の系列動作獲得が今後の課題に残った。
- 93 -
B
会場
重度高次脳機能障害、視力障害を呈した症例への食事動作獲得にむけたアプローチ