児童労働に対する取組みの進展 2000~12 年の世界の推計と動向 要旨 ILO(国際労働機関)は 2000 年から世界の児童労働の実態を調査し、その削減努力の進捗状 況を測定してきた。2006 年からは、2016 年までに最悪の形態の児童労働を撤廃する ILO が掲げた 目標に照らして、この分析を行ってきた。このレポートは、ILO の「仕事における基本的原則及び権利 に関する宣言」を受けてまとめられ、これまでのグローバル・レポートシリーズに続くものである。主なねら いは、第 4 回目となる 2012 年時点の児童労働の推計結果を示し、2000 年から 2012 年までの動 向を明らかにすることである。この推計は 2000 年、2004 年、2008 年の結果と完全に対比可能な精 緻な推計手法に基づいて行っている。 第 1 章では、最新推計の主要な結果と動向を紹介し、その原動力となった活動について概説して いる。第 2 章では、最新の推計結果を詳細に紹介する。第 3 章では、2000 年から 12 年間の世界 の動向を示し、第 4 章では、今後の指針を提示している。本報告書は 2013 年 10 月にブラジリアで 開かれる第 3 回児童労働世界会議において討議資料として提供されるものである。 2010 年のグローバル・レポート(2010 年 5 月・ハーグで開催された児童労働世界会議以前に発表 された。)の結果とは異なり、最新の推計では、この 4 年間で児童労働に対する取組みに現実的な 前進があったこと- つまり、政府、労働者・使用者団体、市民社会が正しい方向に向かって活動 していることを示している。最悪の形態の児童労働を優先して、児童労働撤廃に向けた投資、理解、 関心は、明らかにその成果を上げている。 しかし良いニュースだけではない。前報告書の推計が強調したように、前進の速度は依然としてあま りにも遅く、2016 年の世界目標に到達するためには、このペースを加速する必要がある。 最新の推計から、1 億 6800 万人(世界の子どもの人口全体の 11%近く)が児童労働に従事して いる。健康や安全、道徳の発達を害する危険有害な仕事に従事する子どもの数は、児童労働者 全体の半数以上、8500 万人にものぼる。児童労働が最も多いのはアジア太平洋地域だが、子ども 全体に占める児童労働比率が高いのは、依然としてサハラ以南のアフリカ地域であり、5 人にひとりを 超えている。 児童労働者及び、危険有害な仕事 に従事する子どもの数 (5 歳~17 歳、2000-2012 年) 地域別 子ども全体に占める 児童労働比率(5 歳~17 歳、 2008-2012 年) アジア太平洋 南米・カリブ諸島 サハラ以南アフリカ 2000 年からの 12 年間では、変化が見られるのが大きな前進のひとつである。2012 年時点、児童 労働者の数は約 3 分の 1 にあたる 7800 万人減少したことになる。なかでも女子の児童労働者の減 少は著しく、男子の減少率が 25%に対し、女子は 40%に達している。最悪の形態の児童労働の 圧倒的多数を占める危険有害な仕事に従事する子どもの数は、半数以上減少している。また、こ うした前進はとりわけ低年齢の子どもたちの間で顕著であり、12 年間で 3 分の 1 以上減少している。 男女別 児童労働者数の推移 児童労働の減少は、2008~2012 年が最も大きく、特にアジア太平洋地域では、ほかの地域と比 べて圧倒的に多くの児童労働者数(5~17 歳)の減少が報告されている。 2008~2009 年の世界的経済危機による社会の困窮やその余波により、生計のために子どもを働 かせる家庭が増加する恐れがあっただけに、近年の進展はきわめて歓迎すべきである。減少した理 由を分析するとともに、世界経済が回復しかけたときには、年長の子どもによる児童労働のリスクに 注意を払わなければならないとも提言している。多くの国では、この間に起こった進展はまだ確かなも のとは言えず、引き続き監視し、持続可能なものとするために強化していかなければならない。 今回は初めての試みとして、世界の児童労働の推計値を、国民所得の様々なレベルに分けて示 している。児童労働の発生率は、最貧国で驚くほど高くなっているわけではない。それどころか、人数 で見ると、児童労働の数は中所得国でもっとも多くなっている。このため、児童労働に対する取組み は決して最貧国に限ったことではない。このような傾向は、同じ国内の所得水準の異なる家庭の間 でも見られる。児童労働は貧しい家庭になればなるほど多くなっているが、貧しい家庭に限った問題 ではないのである。 国民所得別 児童労働の割合、児童労働者数、 5 歳~17 歳の子ども全体の数 部門別でも最新の知見を示している。農業は最重要部門だが、サービス業や工業における児童 労働の数も決して無視できない。このことから、農業部門における児童労働の対策を引き続き優先 的に重視しながら、インフォーマル経済におけるサービス業や製造業に焦点を当て、児童労働撤廃に 努めなければならない。 経済部門別 児童労働が従事する割合 その他 工業 家事労働 家事労働以外の サービス業 農業 2012 年時点での 5 歳~17 歳の割合 (%) どのようにして、この 12 年間の進展は起きたのだろうか? 児童労働の減少は、世界中、様々なレ ベルで多くの関係者の取組みにより、児童労働に反対する気運が高まったことが背景にある。各国 政府の政治的な取組み、児童労働に対して世界的に取り組むための 2 本の法的支柱となる ILO の 最悪の形態の児童労働条約(第 182 号)と最低年齢条約(第 138 号)の批准国数の増加、健全 な政策の選択、確固とした法的枠組みの構築などが、この前進の原動力として挙げられている。 138 号条約と 182 号条約の批准国数 推移 この結果は、単独の信念によってもたらされたものではなく、ILO や IPEC(児童労働撤廃国際計画) を始め様々な機関の取組みにより、児童労働の増加が、今後の私たちの社会やその子どもたちの 権利に与える負の影響に関心が高まったことによる。そして、多くの関係機関が児童労働に代わるも のの構築に貢献してきた。ILOが主導で行ってきた国際労働基準と監督制度を組み合わせた取組 み、専門的なアドバイスによる支援、パイロット事業の直接的な支援、能力開発プロジェクト、国際 的、国内の枠組み策定については特記に値する。 ILO は児童労働に関するグローバル・レポートの中で、経済成長に増して、政策の選択の重要性に ついて議論してきた。世界が経済危機とその余波に見舞われている中でも児童労働が減少を続け てきた今期(2008~2012 年)ほど、それが明白になったことはなかっただろう。各国政府が関心を深 め、取り組みを強め、また責任を自覚してきたのは明らかである。政策の選択と、それに伴う教育や 社会保障分野への投資が行われてきたことが、とりわけ児童労働の減少に関係しているように思わ れる。 この 4 年間の大きな前進は、ハーグ会議で ILO が掲げたロードマップ行動計画などが、戦略的な 政策の方向性という点から見て、間違いのない、プラスの結果をもたらすものだったことを物語っている。 法の制定、施行、教育、社会保障、国や地域レベルでディーセント・ワークの機会促進に向けた取 組みを統合して進めていくことが成功への秘訣と思われる。政労使、資金面での支援パートナーにと って、現場で政策作成、実施、監視をするなどの直接的な活動支援は、常に最優先されなければ ならない。 将来的には、十分なスピード感を持って、最も必要とされているところへ、効果的な対策を講じてい けるかどうかが重要な問題である。2016 年までに最悪の形態の児童労働撤廃の目標を達成するこ とは不可能であろう。ILOでは、これまでも現状に満足することの危険性について警鐘を鳴らしてきた が、今回の結果はその警鐘をさらに現実のものにする。これまでに大きな前進があったとはいえ、近い 未来において児童労働の蔓延を根絶するには、取り組みをあらゆるレベルで大幅に加速する必要が ある。そうするだけの 1 億 6800 万の正当な理由があるのだ。 これまでの知見や調査結果から、前に述べた4つの多面的な政策分野において、引き続き取り組 みを強化する必要性が浮かび上がる。最低年齢や子どもに禁止されている職業に関する法の整備 と施行、すべての子どもにアクセス出来る、有用かつ有意義な教育と技能開発、社会的保護の確 保、最低年齢を過ぎて就労可能な若者や、親へのディーセント・ワークの機会拡大である。 レポートではこのほか、年齢別、性別に特化した児童労働対策の強化の必要性、アフリカ地域、 農業分野に今後も継続して取り組む、また新たにインフォーマル経済における製造業・サービス業に 焦点をあてる、児童労働に対する政策や行政措置の影響を監視、評価する国の取組みを強化す る必要性も指摘している。私たちは皆、試行錯誤をしながら学ぶと共に、革新性や大胆さも持って 引き続き児童労働の根本原因について取り組まなければならない。 このほか、知識ベースの構築を進め、統計を充実させ、全ての国の統計データを確立できるよう提 言している。情報が十分にないからと言って、何もしない理由にはならない。児童労働に関する情報 を改善することは、政策対応の強化や、最も必要とされているところへ確実に資金を分配する上で 欠かせないのだ。 本報告書は、児童労働撤廃に対して期待感を持って最後までやり通す決意と、取り組みのペース を加速、強化することを伝えている。児童労働撤廃に向けたわれわれの取り組みは、まだ目標達成 には至っていないが、第 4 回となる推計結果により、達成は不可能ではないことを示している。
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