心が強くなるお墓参りのチカラ

心が強くなるお墓参りのチカラ
はじめに
はじめに
●子どもにチカラを与えるお墓参り
「お墓参りに行くようになってから、子どもたちの兄弟げんかが減った気がします」
これは、ある女性からのご報告です。
もともと、お子さんが「ありがとう」を言わない、けんかが多い、病気がち、とい
うご相談をいただいていました。
私のアドバイスは、
「お墓参りに行ってくださいね」に尽きるのですが、たいてい
の場合は、それで事足ります。では、なぜお墓参りに行くようになって兄弟げんかが
減ったのでしょうか。
のっけから言いきってしまいますが、子どものいじめやけんかはなくなりません。
恐らく戦争も。人間が有史以来、戦争を繰り返してきた歴史からも明らかです。
そして、私自身の経験からも……。
003
「私はケモノでした」
詳しくは後述させていただきますが、私には弟をいじめ続け、傷つけてしまった過
去があります。母を亡くしたさみしさや、自分のつらさ、弱さ、心にポッカリと空い
た隙間を、他の者への暴力という形で埋めていたのです。
この気持ちは、なくなりません。私が人間である以上、他者を傷つけたくなる衝動
は消えません。今でも起こり得る事実です。
しかし、私はもう人に暴力をふるうことはないでしょう。なぜならば、心が強くな
ったからです。他者への暴力は、自分自身への弱さの裏返し、そして、異質なものを
認めようとしない人間の本質です。
人が強くなるにはどうしたらよいのでしょうか?
私がもっともおすすめする方法は、
「お墓参りに行く」ことです。
なぜお墓参りに行くことが、人を、心を強くするのでしょうか?
私は、誰でも正しい心、悪い心の二面性を持っていると思っています。そう考える
と、いじめやけんか、人を傷つける行為自体はなくならない反面、他人に対する親切
004
はじめに
心も存在し続けます。
では、どうすれば善の状態でい続けられるのか。そして、人の傷みがわかる人間に
なることができるのでしょうか。
そのためには、想像力を身につけることが不可欠です。人を殴ったとき、自分の痛
みとして想像できなければ、いつまでも傷つけてしまいます。
想像力を身につける有効な手段のひとつが、お墓参りなのです。お墓参りで手を合
わせるとき、単なる墓石ではなく、亡くなった故人や先祖を想うからです。
私にとって、それは亡くなった母であり、祖父でした。
墓石に手を合わせ、大切な人、身近な人を想うことで想像力が養われます。
また、お墓参りによって現代社会で分断された家族のきずなを再び紡ぐこともでき
ます。お墓に対し、手を合わせ、拝むことを続けるうちに、自分とお墓、先祖とのき
ずながしっかりと認識できるようになり、守られているという感覚も得られるように
なります。これは、常に見られていることの裏返しで、悪いことができにくい精神を
育むことになります。
005
常に守られていることを認識できると、人は強くなれるのです。
また、お墓参りによって、人の命は有限であること、命の尊さを知ることができま
す。未来ある子どもたちが、これからの世界で強く生きてゆくには、お墓参りを習慣
化して、人として心を強くすることが必要不可欠になってくるのです。
●生きる目的・自分の存在意義を教えてくれる
成人した大人、悩み多き世代のストレス解消にもお墓参りは非常に有効です。
先日、就職に失敗し続ける若者と知り合う機会がありました。彼は就職活動に敗れ、
精神的にも肉体的にも疲れ果てていたのですが、私はまず先祖のお墓参りに行ったほ
うがいいと促しました。第4章に詳述してある基本的なお墓そうじのスキルを伝え、
1日かけてお墓そうじをしてみなよ、と送り出しました。
数日後、彼は再び顔を出し、
「もう一度やりたいことに向かってがんばってみます!」
と笑顔で挨拶に来てくれました。お墓参りに行き、夢中でお墓そうじを繰り返すこ
とにより、心のモヤモヤが消え、自分自身の本当にやりたいことが明確になったので
006
はじめに
まつ
す。お墓には自分自身の親、その親、そのまた親、先祖代々が祀られています。その
方たちと会話し、自分の存在とはいかなるものか、自己対話を繰り返すうちに心が澄
んでいくのです。ウソをつく必要がない墓前では、素直な気持ちで自分の内面と対話
できるのです。
日本を支えてきた団塊世代の方々は、故郷を捨て、家族のために身を粉にして働き
続けてきました。その反面、親、兄弟とは距離を置き、家族からも理解されない場合
いちじる
が あ り ま す。 団 塊 世 代、 そ し て 団 塊 ジ ュ ニ ア 世 代 は、 お 墓 参 り、 先 祖 供 養 に つ い て
著 しく拒否反応を示されることがあります。
自分自身、故郷を離れて親たちから目をそむけてきたという負い目があるのでしょ
う。また、
「今さらお墓参りなんて……」と思うかもしれません。
しかし、今だからこそ、お墓参りなのです。自分というものを分析すれば、所詮は
父と母のハーフ。祖父母のクォーターでしかありません。
自己の存在、自分が今いる価値、存在肯定にはお墓参りが最適なのです。お墓参り
は、自分が今いる場所を再確認する最高の経験なのです。
007
●人生のゴール=「死」を素直に受け入れる
お墓とは、人生のゴールです。お墓に入るとは、死そのもの。誰もが最終的には死
に至るのです。
人生の終着駅、死を前提として、いかに生きて行くか。
かたわら
あなたが死んだとき、傍にいてほしい人は誰ですか?
誰に涙を流してほしいですか? あなたの遺骨をお墓に納める人は誰ですか? あなたのお墓参りに来るのは誰ですか?
自分の死後を考えはじめると、今の人生、生きることそのものがひらけてきます。
子ども、孫に拝んでもらえる人は、肉体が滅びても死にません。
反面、そうでない人は、肉体が滅びたら即死んでしまうのです。
先日、以前お墓を通じてご縁をいただいた方から電話をもらいました。
「1週間ほど前に体調を崩しましてね、入院することになりました」
008
はじめに
「そうですか、大変でしたね」
「ええ、まあ。あのときはまだ見えていた目もほとんど見えなくなりました。一歩、
お墓に近づけた気がいたします」
い
体調を崩され、目が見えなくなったというのに、お声はなぜか嬉しそうでした。
「あとは妻のもとに逝くだけです。子どもや孫を一緒に見守ることができます。あと
のことはよろしくお願いします」
「ええ、わかりました。お大事にしてください」
そう言って電話を切りました。数週間後、息子さんからお亡くなりになったと連絡
をいただきました。
死は誰にとっても恐ろしいものです。
私とて同じです。
しかし、人はこの世界で生まれてから、今まで手に入れた執着から少しずつ解放さ
れるたびに、死の恐怖から逃れられるのです。
人生を未練なくやりきることができたとき、死を受け入れることができるのです。
009
この世界での執着を完全に手放したとき、次の世代を応援する力が手に入り、見守
る存在に変わるのです。
人は必ず死にます。そして先祖になるのです。であるならば、子どもや孫を守り、
導く先祖になりたい。そのためには、お墓参りに来てもらえるような存在でなくては
いけません。
子どもや孫から尊敬されるような人物になる。人を敬うことができる人を育てる。
双方を達成した人が、本当の意味でお墓に入り、先祖となることができるのです。
●お墓参りの効果・効能
ここまで、世代ごとにお墓との関わりをお伝えいたしました。人はすべからく、お
墓を意識して生きるべきなのです。
・お墓とは、子どもにとってチカラを与えてくれる存在
・大人にとっては生き方を確認する手段
・老人にとっては目指すべき場所
010
はじめに
これだけの効果・効能がある以上、お墓参りを人生に有効活用しない手はありませ
ん。ただ漠然と義務的にお墓参りに行っても仕方ありません。
本書では、たくさんの事例をご紹介しながら、どうしたらお墓参りを人生に上手く
活用できるかお伝えします。守らなければいけない作法やルール、効果の上がる参拝
方法もお伝えいたします。そしてお墓そうじについても細かく解説しています。
お墓参りの効果が格段にアップしますので、ご参考ください。
おもむ
もし、読み進める最中に、お墓参りに行きたくなってウズウズしてきたら、遠慮な
や
た とし き
くこの本を閉じ、墓地に向かってください。あなたが生涯にわたって赴くお墓参りの
回数が1回でも多く増えることが私の本望です。
年8月吉日 「お墓で人間教育」を提唱するお墓職人 矢田敏起
011
平成
24
心が強くなるお墓参りのチカラ◆もくじ
母が伝えたかったこと ……
母との別れ ……
崩れていく家 ……
022
止むことのない弟への暴力 ……
029
「お母さんに会いたい!」……
035
026
自衛隊に入ろう ……
041
038
章 心が強くなるお墓参りのチカラ
はじめに ……
序
003
父の店が倒産 ……
無償ではじめたお墓そうじ ……
墓碑は命の有限を教えてくれる ……
死ぬな、生きて帰ってこい ……
どこでも戦える自分になれる ……
お墓の前で心を浄化する ……
祖父との対話で立ち直る ……
057
お墓はいちばんのパワースポット ……
068
063
065
060
054
第1章 なぜ、今、お墓参りなのか?
お墓は愛する故人そのもの ……
046
049
043
感じる
第2章 お墓参りは人生を好転させる
074
心の闇が埋まる ……
妻から離婚届を突き付けられて ……
077
085
妻の実家のお墓そうじをする ……
ひきこもりの 歳男を預かって ……
心からの「ありがとう」の力 ……
先祖と自分をつなぐ場所 ……
壊されるお墓 ……
お墓のシミが教えてくれたこと ……
お墓を建てることは遺族の使命 ……
087
080
091
072
「もう一度妻に会いたいんです」……
105
098
111
30
想う
お墓で起こるささやかな奇跡 ……
先祖との対話があなたの問題を解決する ……
128
第3章 これだけ知れば、あなたもお墓参りの達人
お墓参りはあなたの心を浄化する ……
お墓参りの効用 ……
基本的なマナーは厳守する ……
お墓参りのタイミングは? ……
持参する道具類はこだわろう ……
お墓参り のプロセス ……
132
136
偉人のお墓は生きる指針 ……
戦没者慰霊は日本人として当然の行為 ……
148
146
141
138
130
子どもにとって最高の学習教材 ……
158
154
151
10
訪ねる
第4章 お墓そうじの正しい方法
そうじのあとの爽快感 ……
お墓そうじのマストアイテム ……
清める
★第1段階 お墓そうじに取り掛かる前に ……
★第2段階 力を入れてごしごしと ……
171
★第5段階 金具類は洗浄剤を使ってもOK ……
★第6段階 最終段階で敷地の草抜きも! ……
182
179
176
168
164
★第3段階 デリケートな部分は毛筆で ……
★第4段階 手ごわい汚れは砥石やスクレイパーで ……
174
162
第5章 自分のルーツを見つけよう
家族ほど確かなつながりは存在しない ……
先祖調査のメリット ……
親族の生き字引は貴重な存在 ……
本籍地の役所で戸籍調査を実行 ……
家族の歴史が一気にわかる過去帳調査 ……
謄本の内容を整理して家系図を作成 ……
191
186
199
193
188
196
つながる
204
最終章 お墓との向き合い方、付き合い方
207
死があるからこそ、充実した生がある ……
209
人間関係の問題もお墓が解決してくれる ……
私たちは伝統から離れられない ……
あとがき ……
214
強くなる
巻末資料 プチ墓地めぐり100選(全国版・東京版)
お墓の基礎知識 お線香のいろは 218
出かける前にチェック! お墓そうじマストアイテム これで安心! お墓そうじ手順チェックシート 229
222
225
230
bookwall
編集協力/エディット・セブン
装幀/
心が強くなるお墓参りのチカラ
序 章 母が伝えた か っ た こ と
私は今、日本を救うのは「お墓参り」しかないと、考えています。なぜそう考える
のかというと、お金や権力ゆえの強さではなく、どんな困難な事態をも克服していく
ことのできる精神の強さは、お墓参りを通して持つことができるからです。詳しくは、
第1章以降に詳述しますが、その前に、私とお墓参りとのかかわり、そして、どのよ
うにして私のようなお墓職人が生まれたのかについて申し上げたいと思います。
でした。私が長男で9歳、下には7歳と3歳
私がお墓参りに行くという体験に、はじめて向き合ったのは小学校4年生のときで
す。前年に母が亡くなりました。享年
の弟がいました。
しかしその悪夢から覚めたとき、幼い私が、単身、向かったのが母のお墓だったの
悪くなるような、まがまがしい1年間でした。
母の死からの1年は、まさしく悪夢のような時間でした。今思い起こしても気分が
35
022
章 心が強くなるお墓参りのチカラ
序
です。
ガンの手術をしたあと、治療のために入院していた母が、1日だけ家に帰ってくる
と父から知らされたのは、私の9歳の誕生日の数日前でした。母は、まさに私の誕生
日に帰宅をするというのです。それは母のいない、さびしい生活を強いられていた私
たちに、飛び切り嬉しい知らせでした。
その日は日曜日で、私たち3人兄弟は、ふだんよりだいぶ早くから起きていました。
いつもは寝坊して、小学校に遅刻しがちだったすぐ下の弟も、この日ばかりは早起き
でした。
そそくさと朝食を食べ終えた子どもたち3人が、
「まだ、出かけないの?」
「いつになったら出る? 」
と父親に催促していたことを思い出します。
ようやく医師と約束した時間が近くなり、父が腰を上げました。私たちは喜び勇ん
で車に乗り込みました。
023
病院に着くと母の病室に小走りで行き、父が母を車いすに乗せ、車の近くまで運び
ました。車のドアをいっぱいに開けると、父は母をひょいとお姫様抱っこして車に乗
せてあげました。
ズボンの裾から見えた母の足は骨と皮ばかりになっていました。しかしその様を眺
めている子どもの私たちは、母が元気になったから、おうちに帰れるんだと思い込ん
でいたのです。
車に乗り込んだ矢田家一家はおもちゃ屋さんに寄り、私は誕生日プレゼントの野球
盤を買ってもらい、家に着くと、さっそく兄弟で野球盤のゲームを始めました。
私と下の弟は年齢が近いこともあり、お互い負けることが嫌で、日ごろから兄弟ゲ
ンカが絶えませんでした。野球盤で遊んでいても、ホームランを打たれたり得点され
たりすると本気で悔しがり、勝てば勝ったで歓声を上げて喜んでいました。
末の弟も年が離れてはいますが、兄2人と同じことをしたい盛りで、真似事でもな
んでも同じように遊んで悔しがったり、喜んだりしていました。母は子どもたちの遊
んでいる姿を目を細めながら見ていました。
そのうちに、私たちは母をこの遊びに巻き込みたくなりました。
024
章 心が強くなるお墓参りのチカラ
序
「お母さんも一緒に遊ぼうよ」
声をかけるとすぐに母も加わりました。すると母は意外に筋がよく、ホームランを
連発し、私たち兄弟は滅多打ちにあったのです。
でも、だれも悔しがりません。むしろ、嬉しいのです。母が得点するたびに、私た
ちは嬉しくて嬉しくて仕方ありませんでした。大はしゃぎしてゲームは盛り上がりま
した。
こくげん
そんな楽しい時間にも終わりが来ます。夕暮れになり、母が病院に戻らなくてはな
らない刻限になりました。
薄暗い玄関で、車に乗せるために、父は軽々と母を抱き上げました。朝と同じよう
に、私たちは病院に母を連れて行きました。
ベッドに横たわった母は、帰りのあいさつをした私たち3人の子どもの顔をひとり
ほほ え
ずつ見つめてから、言いました。
「みんな、幸せになってね」
目に涙を浮かべ、かすかに微笑みを浮かべていた母の顔を、私は今でもはっきりと
025
思い出します。
母は、それから父に顔を向けて、
「あなたも、いい人を見つけてね」
父は目を真っ赤にして、
「バカなことを言うな」と叱りつけました。
母との別れ
その後、長男の私は何度か父に「一緒に母のお見舞いに行くか」と誘われました。
しかし、私の気持ちは微妙でした。お見舞いに行くたびに母の弱っていく姿が子ども
にもわかり、それを見るのがつらかったのです。しだいに父の誘いを断るようになり
ました。
そして、母に死が訪れたのです。
その日は、学校が終ってから友だちが遊びに来ていました。私たちは2階の子ども
026