全国水土里ネット会長賞 ながしまちょう 参加団体名:長 島 町 地 区 名:蔵之元地区(鹿児島県出水郡) 1.地域の概要 長島町は、鹿児島市の西北 83km に位置し、四方を東シナ海、八代海、長島間海峡等の海に囲まれ、島 の北部一帯を雲仙天草国立に指定されるなど豊かな自然に恵まれた地域である。山林が 59.5%、畑・水 田等の農用地が 14.7%を占めている。年間平均気温 16.8℃、年間降雨量 2,075mm(30 ヶ年平均)となっ ているが、雨は、梅雨期・台風期に集中している。小河川で流域が狭いため、降雨は一気に流出し、水 資源に恵まれていない。 本地域は、長島町の北西部に位置し、鬼塚古墳や白金古墳など重要な歴史的遺産が残された地域でも ある。また、町の北の玄関口として天草市と国道フェリ−で結ばれ、交通の要所となっている。このう ち、標高 130∼240m の山間部の緩やかな台地上に広がった畑地帯が本地区の受益地である。 地域の基幹産業は、農業・漁業であり、農業の分野において安定した農業経営を図るために、土地基 盤整備や農地の流動化による規模拡大を図る必要があった。 現在、地域の水稲栽培の水利は、溜池やボ−リングによる地下水に頼っているが、さつまいもやじゃ がいも等の畑作物においては、天水による農業を行っていることから、今後は農業用水の整備が急務と なっている。 2.事業の概要 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ 事業名:畑地帯総合整備事業(担い手育成型) 工 期 着工年度:平成 11 年度 ∼ 完了年度:平成 19 年度 総事業費:1,917 百万円 受益面積:97.7ha、受益戸数:230 戸 標準区画規模 :事業実施前 20a → 完了後 30a 1ha 以上の区画合計面積:事業実施前 −a → 完了後 −a 主要工事 ・整地工 A=69.6ha ・農道工 L=11.6km ・用水路工 L=0.7km ・排水路工 L=14.7km ・L=道路工 1.0km ・トイレ 2 箇所 ・東屋 2 棟 ・集落排水 L=0.5km 3.活動の内容 本地区は、温暖な海洋性気候と粘土質の赤色土で、主にじゃがいも、さつまいも等が栽培されている。 基盤整備の実施によって区画が大きくなり、中型トラクターの導入など作業効率が上がり、特産品のじ ゃがいもの 2 期作面積が増加した。また、夏場の休耕期間を利用した緑肥栽培も進み、担い手農家の生 産意欲と所得の向上につながっている。さらに、地元の甘藷加工場も、基盤整備後は原料の甘藷供給が 安定し、地元の雇用創出にも寄与し、事業を契機に農業経営の好循環が達成されている。 4.受益地区における農家及び担い手の状況 (1)受益地区における農家数の状況 区 分 事業実施前 総農家数 現 在(H26) 230戸( 13戸 ) 216戸( 24戸) うち専業農家数 56戸( 13戸 ) 60戸( 24戸) うち兼業農家数 174戸( −戸) 156戸( −戸) 認定農業者 13人 生産組織等(法人含む) 【注】( 24人 1組織 1組織 )内の戸数は、担い手農家数を記載。 (2)農用地の流動化状況 項 目 事業実施前 現 在(H26) 目 標(H24) 受益面積 97.7 ha 97.7 ha 担い手等の利用集積面積 13.1 ha 23.5 ha 33.2 ha ①利用権設定面積 13.1 ha 23.5 ha 30.7 ha − ha − ha 2.5 ha ②受託面積 5.農業経営状況 区分 作物名 事 業 実 施 前(10a当たり) 労働時間(hr) 収穫量(kg) 現在(10a当たり)(H26) 生産費(千円) 労働時間(hr) 収穫量(kg) 生産費(千円) さつまいも 60 2,760 138 25 2,613 142 じゃがいも(抑制) 43 2,278 271 19 2,402 279 じゃがいも(春) 71 2,617 311 46 2,664 320 ソルゴ− 19 7,304 146 5 7,304 150 イタリアン 23 6,118 122 6 6,118 126 【注】データの出典;農家聞き取り JA出荷実績等 生産費(直接経費のみでの計上)の上昇は物価の上昇分を反映させた。さつまいもにおいて収穫量が減となっているが, そ の要因としては, でんぷん用から加工用に移行したためであり, 単価的には加工用が高いので収益は向上している。 区分 作物名 作 付 面 積 の 推 移 事業実施前 現 さつまいも 53.2 ha( − ha) 57.5 ha(16.7ha) 59.1 ha( ha) じゃがいも(抑制) 27.3 ha( − ha) 38.2 ha(17.8ha) 32.8 ha( ha) じゃがいも(春) 14.8 ha( − ha) 56.9 ha(30.5ha) 20.5 ha( ha) イタリアン 6.7 ha( − ha) 3.6 ha( 3.6ha) 8.5 ha( ha) ソルゴ− 3.3 ha( − ha) 7.3 ha( 7.3ha) 5.4 ha( ha) キャベツ 1.5 ha( − ha) 1.2 ha( 0.3ha) 1.7 ha( ha) 水稲 1.3 ha( − ha) 1.3 ha( 0.7ha) 1.2 ha( ha) 大根 1.2 ha( − ha) 1.2 ha( 0.2ha) 1.7 ha( ha) 109.3 ha( − ha) 167.2 ha(77.1ha) 130.9 ha( ha) 計 耕地利用率 103.5% 【注】データの出典;町生産実績、認定農業者経営改善計画書 ※上記表の( ha)には、担い手農家等の作付面積を記載。 在(H26) 167.7% 目 標(H19) 134.0% 6.営農推進の状況 (1)栽培技術関係 ・大型機械の導入(トラクターの大型化) 以前は小区画のため歩行型耕運機や小型トラクターでの耕運作業が主であったが、基盤整備後は 30ps 前後の中型トラクターの導入が進み、耕起作業の効率化が図られた。 ・作業の効率化に伴う 2 期作面積の拡大 当地域におけるじゃがいもの作型は抑制作型(9 月植え付け、1 月掘り取り)と春作型(1 月植え 付け、5 月掘り取り)の2作型がある。以前は抑制作型の収穫作業と春作型の植え付け準備が重な るため、連続して作付けを行うことは出来なかったが、基盤整備後は作業が効率的に行えるように なったために、前作の収穫から植え付け準備までの時間が短縮され、抑制作型と春作型の2期作面 積が増加した。 ・適正な土づくりの推進(夏期の緑肥栽培) これまでのじゃがいもが主体の作付け体系では、夏期のほ場管理を行わず、裸地や雑草の状態が 多かった。しかし基盤整備後は区画が拡大し農業用機械が入りやすくなったことから、緑肥の栽培 が進み、畜産農家への粗飼料供給と粗大有機物施用が進んだ。 ・堆肥の適正な施用 以前は手作業による堆肥散布であったために、適正量の施用が少なく土づくりも進んでいなかっ たが、ほ場が大区画化になったことにより、大型の堆肥散布機による堆肥散布の委託作業が拡大し、 効率的で十分な散布が行われるようになった。 (2)農産物の加工、流通、販売などに向けた取り組み ・「かごしまブランド」と「かごしまの農林水産物認証」の取得 本地区でも栽培している、温暖な海洋性気候と豊かな赤土で作られるじゃがいも「赤土ばれい しょ」は、品質が良く、県内では有数のじゃがいもの産地となっている。 平成 9 年に、一定基準の品質を持ち、消費者に自信を持ってお届け出来る農産物である「かご しまブランド産地」として指定され、安心・安全の農林水産物である「かごしまの農林水産物認 証制度」の認証を受けている。平成 27 年 3 月 24 日現在、9 回目の認証を受けた。これらの取り 組みには、JA 長島地区赤土バレイショ部会をはじめ、JA、町、県が一体となって、良質で安心・ 安全な作物を届けようとする姿勢がある。 ・焼酎原料用さつまいもの栽培 赤土は、じゃがいもだけでなく、さつまいもの生産にも適している。契約栽培ではないが、同 地区で生産される焼酎原料用さつまいも(主にコガネセンガン)は、町内の焼酎工場へ持ち込ま れ、長島の特産焼酎「さつま島美人」の原料となっている。 ・道の駅での特産品販売 町内には、「道の駅長島」と「黒之瀬戸だんだん市場」の 2 カ所の道の駅がある。同町で生産 される特産品のうち、かごしまブランドに指定されている「赤土ばれいしょ」は、もちろん同地 区内でも盛んに生産されており、町内外の消費者からの人気が特に高い。 ・6 次産業化への取り組み 担い手農家が新たに特産品を活用した加工に取り組み始めた。地域で収穫されたさつまいもや じゃがいもを原料とした加工品を製造し、地元の道の駅などの直売施設で販売している。最近は じゃがいもを利用したアイスクリーム等も開発し県外の飲食店などでも販売されている。 7.環境に配慮した取り組み ・水土里サークル活動 町では、平成 19 年 4 月に「長島町景観条例」を施行し、島全体を「石積みと花」をテーマにした景 観地区としてとらえる町づくりを進めている。町内には、蔵之元地区の水土里サークル活動組織(多 面的機能支払)が、農業・農村の有する多面的機能の維持・発揮を図るための活動を行っている。 ・土砂流亡防止 夏期の緑肥栽培は粗大有機物のすき込みによる土づくり効果のほか、表土の流亡防止にも効果が高 い。特に本町は養殖業が盛んで、海洋の環境保全には町民の関心も高く、海洋資源まで考慮した生態 系の保持に大きく寄与している。 8.その他事業実施の効果による新たな取り組み ①余剰労働力の活用方法について ・ほ場の区画整理を行ったことにより、効率的な作業が可能となり、単位面積当たりの労働時間が減少 したことから、担い手農家を中心に規模拡大の機運が高まり、地域内の担い手農家への集積が進むと ともに、近隣地域への出作も増え、町全体の遊休農地の解消につながっている。 ・これまで冬期はじゃがいも作のみであったが、作業機械の大型化や区画整理に伴う効率化が進み労働 に余裕が出たことから、冬期の新規品目としてブロッコリーの栽培が広がりつつあり、現在 3.2ha で 作付けされている。 ②新たな雇用の場の創出 ・基盤整備の地区内に平成 5 年にさつまいも加工場が完成し、ペースト加工を行ってきたが、原料供給 が不安定で経営も思わしくなかった。しかし基盤整備後はでんぷん原料用のさつまいも栽培から加工 原料用のさつまいもの栽培に転換する農家が増加したために、加工場向けの供給も安定し、加工場経 営も好転した。さらに地元の雇用も増加し、現在はピーク時には 60 名もの雇用が生まれている。 9.行政や関係者が「事業計画、施工、利活用など」において苦労した点 事業計画段階においては、農家戸数が 230 戸と多数であったため、施工同意の徴収はもとより、換地計 画の策定や工事計画の説明、地元要望の取りまとめ等に多大な時間と苦悩を強いられた。また、当地区は 国土調査時の筆界未定地が多数存在したが、その土地も整備してほしいとの要望があり、筆界未定地の解 消のため所有者間の調整も必要であった。 工事の施工においては、傾斜の大きい団地もあり、切盛が大きく転石も多く混入していたため、転石の 処理に苦慮したが、法下の腰留積石に利用することで景観に配慮した施行となり、転石を有効活用するこ とができた。 10.周辺地域への波及効果及び将来の展望 本町は県内でも有数のじゃがいもの産地として確立しつつあり、品質も高く、市場からの評価も高か った。しかし生産基盤であるほ場が狭く、担い手農家等による規模拡大は進んでいなかった。 そのような時期に、畑地帯総合整備事業で基盤整備が実施され、区画整理されたほ場での生産が始ま ったことで、効率的かつ高収益のじゃがいも栽培が可能になった。このことは、他地区での基盤整備の きっかけになるとともに、じゃがいものみで経営を確立できることを町内に示すことが出来た。その結 果、町全体のじゃがいも産地振興がすすみ、近年では生産額 60 億円を上げるまでになった。 また、農家の基盤整備への関心が高まり、小区画での区画整理や深耕等、土壌管理に関する意識も高 まり、町単独事業の充実にもつながった。 今後は農地の面的な整備だけでなく、効率的な作業を行うための農道や、より安定した生産を行うた めのかんがい施設の普及などさらに解決すべき課題がある。 このような課題を解決することが、本町の担い手農家が自立し、継続して営農が行える生産基盤を確 立することにつながり、本町のみならず、鹿児島県の畑作農業のモデルになると考える。 農業農村整備優良地区コンクール参加地区の概要 Ⅰ 地区の概要 ふりがな くらのもと ち く 地区名 蔵之元地区 ふりがな ふりがな 参加団体 名 ながしまちょう 称:長 島 町 住所:〒899-1498 鹿児島県出水郡長島町指江787 Tel.0996-88-5511 ふ り が な 事業の概要(事業名、工期、 総事業費、受益面積・戸数) 主要工事・規模 かわぞえ Fax.0996-88-5198 たけし 代表者氏名:川添 健 畑地帯総合整備事業(担い手育成型) 工期:平成11年度∼平成19年度、総事業費:1,917百万円 受益面積:97.7ha、受益戸数:230戸 整地工69.6ha、農道工11.6km、用水路工0.7km、排水路工14.7km、道路工1.0km トイレ2箇所、東屋2棟、集落排水482m Ⅱ 受益地区内における農家及び担い手の状況など(事業実施前→現在) 1.農家数の状況 ◇総農家数 ・内専業農家数 ・内認定農業者数 230戸(13戸)→ 56戸(13戸)→ 13人( 人)→ 216戸(24戸) 93.9 %(184.6 %) 60戸(24戸) 107.1%(184.6 %) 24人( 人) 184.6%( %) ※( )の数字は担い手の数を表す。 2.生産組織等の状況 ◇生産組織(法人含む)の数 1組織→ 1組織 3.農用地の流動化状況 ◇受益面積 ・担い手の作付面積 ・内、利用権設定面積 ・内、作業受託面積 4.農業経営状況について ◇主たる作物の労働時間 (作物名:さつまいも) (作物名:じゃがいも〈抑制〉) (作物名:じゃがいも〈春〉) 97.7ha→ 97.7ha (100 %) 13.1ha→ 23.5ha (179.3 %) 13.1ha→ 23.5ha (179.3 %) 0ha→ 0ha ( %) 60 hr/10a→ 43 hr/10a→ 71 hr/10a→ ◇主たる作物の生産費 (作物名:さつまいも) 138千円/10a→ (作物名:じゃがいも〈抑制〉) 271千円/10a→ (作物名:じゃがいも〈春〉) 311千円/10a→ 25hr/10a 19hr/10a 46hr/10a (41.6%) (44.1%) (64.7%) 142千円/10a 279千円/10a 320千円/10a (102.8%) (102.9%) (102.8%) ◇主たる作物の反収 (作物名:さつまいも) 2,760kg/10a→ 2,613kg/10a (94.6%) (作物名:じゃがいも〈抑制〉) 2,278kg/10a→ 2,402kg/10a (105.4%) (作物名:じゃがいも〈春〉) 2,617kg/10a→ 2,664kg/10a (101.7%) ◇土地利用率 事業実施前:109.3ha、103.5%→現在:167.2ha、167.7%→目標:130.9ha、134.0% Ⅲ 推薦理由 本地区は、温暖な海洋性気候と粘土質の赤色土で、主にバレイショ、甘藷等が栽培されている。基盤整備の実施によって区 画が大きくなり、中型トラクターの導入など作業効率が上がり、特産品のバレイショの二毛作面積が増加した。また、夏場の 休耕期間を利用した緑肥栽培も進み、担い手農家の生産意欲と所得の向上につながっている。 さらに、地元の甘藷加工場も、基盤整備後は原料の甘藷供給が安定し、地元の雇用創出にも寄与しているなど、事業を契機 に農業経営の好循環が達成されている。
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