レジュメ

日本の反知性主義
Anti‐Intellectualism in
Japanese Society
文学部史学地理学科西洋史専攻 2年 勝田悠暉
本読書会の構成
0.本書の編纂の意図と著者紹介
1.反知性主義の定義と起源
2.反知性主義の諸事例
3.反知性主義の本質
0.本書の編纂の意図
内田氏が発送した寄稿依頼の書面より一部抜粋
・
「・・・リチャード・ホーフスタッターの『アメリカの反知性主義』は植民地時
代から説き起こして、アメリカ人の国民感情の底に伏流する、アメリカ人
であることのアイデンティティとしての反知性主義を摘抉した名著でした。
現代日本の反知性主義はそれとはかなり異質なもののような気がします
が、それでも為政者からメディアまで、ビジネスから大学まで、社会の根
幹部分に反知性主義が深く食い入っていることは間違いありません。そ
れはどのような歴史的要因によってもたらされたものなのか?人々が知
性の活動を停止させることによって得られる疾病利得があるとすればそ
れは何なのか?・・・“日本の反知性主義”というトピックにかかわるもので
あれば、どのような書き方をされても結構です。どうぞご微志ご諒察の
上・・・」
0.著者紹介
• 内田樹(武道家、現代フランス思想専門)
• 赤坂真理(作家、司馬遼太郎賞受賞)
• 小田嶋隆(ひきこもり系コラムニスト)
• 白井聡(社会学博士、政治学・社会思想専門)
• 相田和弘(映画作家)
• 高橋源一郎(作家、文芸評論家)
• 仲野徹(生命機能研究科及び医学系研究科、細胞学専門)
• 名越康文(精神科医、思春期精神医学、精神療法)
• 平川克美(株式会社リナックスカフェ代表取締役、文筆家)
• 鷲田清一(せんだいメディアテーク館長、哲学・倫理学専攻)
1.反知性主義の起源
1.反知性主義の定義と起源
Ⅰ定義・・・「知的な生き方およびそれを代表とされる
人々に対する憤りと疑惑」
・・・「そのような生き方の価値をつねに極小化し
ようとする傾向」
●要点
→反知性主義は積極的且つ攻撃的な原理
➡知性が不在、知的な事柄に対する無関心
=「非知性的」であることとは異なる
1.反知性主義の定義と起源
反知性主義≠非知性主義
「知性」=自分の知的な枠組みそのものをそ
のつど作り替える力
知の自己刷新
1.反知性主義の定義と起源
●知性は集合的な現象である
→「人間は集団として情報を採り入れ、その重要度を
衡量し、その意味するところについて仮説を立て、そ
れにどう対処すべきにかについての合意形成を行う。
その力動的プロセス全体を活気づけ、駆動させる力の
全体を「知性」とする
1.反知性主義の定義と起源
Ⅰ定義の総括・・・詰まる所「反知性主義」とは?
「知的な生き方」=知の自己刷新を継続・反復させ、集
団における合意形成のプロセス全体を活気づけ、駆
動させる力を有する人の生の歩み
➡“このような生き方を常に最小化させる傾向”
1.反知性主義の定義と起源
Ⅱ起源・・・独立前のアメリカ全土を席巻した「信仰復
興運動」
➡“ピューリタニズム”という特定の土壌
●反知性主義
=特定の系譜をもつ“アメリカ”的現象
高学歴社会(初渡航者130名に打ち大卒98名)
1.反知性主義の定義と起源
●ピューリタン入植(1620~1646)
→ニューイングランド、人口1万人弱にまで上昇
→高水準の一般識字率(白人成年男性の3分の2を超
える)
➡同時代のどの地域と比べて
も圧倒的高さ
1.反知性主義の定義と起源
(『反知性主義 アメリカが生んだ「熱病」の正体』より)
「ようやく航海を終えて辿り着き、自分の家を建て、礼
拝に用いる公的な集会所をつくり、何とか自治政府の
体制を整えたところである。」
彼らが次につくったもの
➡ハーヴァード大学
何故か・・・
➡牧師(継承者)養成のため
1.反知性主義の定義と起源
●大学創設にあたって
→ピューリタン一般市民から献金(設立資金)の捻出
➡若者がアリストテレスやツキディデス、ホラティウス
やヘブライ語聖書の研究に取りかかれるように準備を
した・・・・・・学識階級は実際、彼らのなかで貴族的な
地位にあった。
1.反知性主義の定義と起源
(『アメリカの反知性主義』53頁ℓ18より引用)
●ピューリタンの地位
→「ピューリタン社会は学識と教養ある階級を確立し、
彼らが能力を発揮できる大きな場をあたえた。ピュー
リタン牧師たちは社会で厚遇され、彼ら自身も社会に
報いた。・・・」
・中学等学校や初等学校、図書館の設立
・教育制度の基礎を築き、社会に学問志向の基盤を
据えた
1.反知性主義の定義と起源
●ピューリタン第一世代の教義
「教会の教えではなく、聖書の教えに立ち返れ」
➡真の宗教的権威の源泉は聖書にあり、その正しい
解釈にあった
聖書に対する個人主義の妥当性が根本主義者にとっ
て死活問題になった
1.反知性主義の定義と起源
●プロテスタント諸派の進出と混乱
➡母国(イギリス)より様々な宗教改革者が出現
(EX.千年王国派、再洗礼派、求正教徒<Seekers>、喧
騒<Ranters>等)
「彼らは既存の秩序や聖職者を非難し、貧者の宗教を
説き、学問や教説に対峙するものとして直感や霊感を
擁護した。」
1.反知性主義の定義と起源
●諸宗教改革者による非難
→在俗の説教者を指導者に擁し、職業的聖職者を「法
的に無効で権威もない」ものとして拒否
→大学を「悪臭漂う澱んだ池」と呼ぶ
→「教養を身につけても罪は軽減されない」と指摘
→貧者の平等主義的情念を高揚させた
➡多くの人びとが地理的にも精神的にも、教会から全
く離れてしまった
1.反知性主義の定義と起源
●“大覚醒時代(信仰復興運動)”の到来、1720
~40年代
➡ニューイングランドの諸教会は、既成階級向け
の退屈な信仰を貯蔵するだけの存在になりさ
がっていた
新世界に現れた信仰復興論者!
1.反知性主義の定義と起源
●信仰復興論者VS既成教会の牧師
●信仰復興論者
→激情的、熱弁的
→学問ではなく「精神」
➡内的確信と神との関係
についての適切な感覚
反知性主義の起源!
●既成教会の牧師
→理性的、合理的
→学問・精神ともに尊重
➡聖書の歴史的に正しい
合理的な理解を重視
知性主義の特性(?)
1.反知性主義の定義と起源
◎反知性主義の起源
アメリカの信仰復興運動(リバ
イバリズム)の折、各教会間の権
力闘争の直中に於いて顕在化し
、そして悉く利用されたのである
2.反知性主義の諸事例
2.反知性主義の諸事例
Ⅰ反ユダヤ主義者
●日本にある二つのシナゴーグ(ユダヤ教会堂)@広
尾、神戸
→在日ユダヤ“教徒”――1000人(1980年代末)
➡“日本はユダヤ教徒とほとんど無関係の国”
2.反知性主義の諸事例
しかし、「ユダヤがわかると世界がわかる」
「ユダヤ人の世界征服の陰謀」
という主旨の反ユダヤ主義的書物は絶えず出版され
る。
●これらの書物の書き手は間違いなく“知的情熱”に
駆られている
→何か知性のはたらきを阻害する要因があるのでは?
2.反知性主義の諸事例
●陰謀史観はなぜ繰り返し現れるのか
→陰謀史観というのはどこかにすべてをコントロールし
ている「張本人(author)」がいるという仮説
➡他者の苦しみから専一的に受益している陰謀集団
が存在するという物語への固着
●近代の陰謀史観=18世紀末のフランス革命を以て
嚆矢とする
2.反知性主義の諸事例
●エドゥアール・ドリュモン(ジャーナリスト)の登場.19
世紀末
→「フランス革命からの100年間で最も大きな利益を
享受したのは、ユダヤ人である。それゆえ、フランス革
命を計画実行したのはユダヤ人であると推論して過た
ない」
(「風が吹いたので桶屋が儲かったのだから、気象を操
作したのは桶屋である」という推論と同型である)
2.反知性主義の諸事例
●ドリュモンの書物『ユダヤ的フランス(la France
juive)』
→19世紀フランス最大のベストセラーになる
➡多くの読者がその物語を受け容れ、著者宛てに熱
狂的
なファンレターを書き送った。
「一読して胸のつかえが消えました」
「これまでわからなかったすべてのことが腑に落ちまし
た」
2.反知性主義の諸事例
●人類史上最悪の「反知性主義」事例
ドリュモンの物語『ユダヤ的フランス』
↓
『シオン賢者の議定書』とともに全世界に広がる
↓
半世紀後、「ホロコースト」として物質化
2.反知性主義の諸事例
●知的渇望から反知性への転換
➡ドリュモン物語を迎えた読者たちの支配的な反応は、
大きな解放感と感謝の気持ち
転換の原因=
彼らが自分程度の知力でも理解で
きる説明を切望したから
2.反知性主義の諸事例
Ⅱ反知性主義の日本的特徴
●2010年仙谷由人官房長官の発言
→「自衛隊は暴力装置である」
➡「(自衛隊は)暴力装置としての実力部隊」
国会内外から批判が噴出
2.反知性主義の諸事例
●相次ぐ仙谷に対する批判
➡インターネットの普及による「集合知」ならぬ「集合
痴」の効果
・自衛隊や警察などの国家が有する実力組織を「暴力
装置」と呼ぶことは政治学や社会学では全く一般的な
事柄
2.反知性主義の諸事例
●「暴力」という言葉が反知性主義的批判を呼び起こ
した
➡「国家の根幹には暴力があるという普遍的事実が、
この国では否定される。しかし、国家による暴力は存
在する。ゆえに、その暴力は、暴力であることを自ら否
定する暴力、すなわち否認に貫かれた暴力として行使
される。」
2.反知性主義の諸事例
●特異な暴力に対する認識の在り方を示唆するには
→戦前戦中の共産主義者の弾圧、「転向」現象
そこに介在した権力の温情主義
→“矛盾なき二面性”
2.反知性主義の諸事例
●治安維持法(1941~45)の実情
→「私有財産の否定」と「国体の変革」を禁止
・しかし、転向・悔悛するならば、この罪は(懲役はつく
としても)基本的に赦されたところにポイントがある。(EX.
佐野学)
2.反知性主義の諸事例
●治安維持法における核心とは
➡「国体の変革」を企てるという道に入り込んでしまっ
た者は、国家に対立した恐るべき犯罪者なのではなく、
不幸にもおかしな道に迷い込んでしまった可哀想な善
導すべき存在
・「一種の連帯感をもって」接しなければならい
「敵対性の否認」の存在
2.反知性主義の諸事例
●反知性主義の諸相について(まとめ)
1.しばしば権力闘争において顕在化する
2.Ⅰ非知性主義者(一般大衆)に対して、彼らが理
解し得るように単純な論理を用いる
Ⅱ敵対性を否認
3.反知性主義の本質(考察)・・・
3.反知性主義の本質
●五.一五事件にみられる社会・文化の破壊
➡「話せばわかる」・・・こうした言葉がなんの逡巡もな
しに無視されるとき、一つの社会、一つの文化は壊れ
る
→言論の力と相互理解の可能性は相互遮断の現実
性へと裏返ってしまった。
3.反知性主義の本質
●文化崩壊の潜在性
→社会が異なる共同体、異なる文化集団である以上
は、<文化>が崩壊する可能性は伏在する
→(「摩擦」を消すのではなく)「摩擦」に耐える→世界の
複雑性→これを察知すること=知性的
・・・どういうことか?
3.反知性主義の本質
●わたしたちは、とある限定された場所から世界を見
る
→世界を総体として俯瞰する場所はない
→では世界に対する解釈を正確化・立体化するに
は?
→じぶんとは異なる他の位置からの証言が重要
→じぶんに大きな修正を促す
→「自分の思想の限られたレパートリーの中に決定的
に住みついてしまう」
3.反知性主義の本質
●自己への懐疑の精神・自己の疎隔化
→じぶんをじぶんから遠ざけるということ
➡じぶんの視野を他なる者たちのそれらのあいだに、
たえずマッピングしなおす
知の自己刷新への回帰
ご清聴、ありがとうございまし
た!