PDF4 - CIAJ 一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会

コード No.
①
②
2−1
MM 応用技術
手話自動認識システム
プロフィール
対象機関名
日立製作所中央研究所
所在地
東京都国分寺市東恋ヶ窪 1-280/TEL:0423-23-1111
担当部署
マルチメディアシステム研究部
MM 応用概要
背景と目的
○
日本には現在、約 35 万8千人の聴覚障害者がおり、手話はコミュニケーションのた
めの「言語」として使われている。手話は単なる身ぶりなどではなく、言語体系を
持った言葉であり、日本人の使うものでありながら、語彙や表現方法は日本語と違
う。その結果 、基本単語といわれる 661 語を学ぶにも訓練が必要で、手話を使える
健常者の数は充分といえないのが現状である。1988 年からは手話通訳上の認定制度
が始まり、1989 年からは試験が行われる様になったが、資格取得者はまだまだ少な
く、このため聴覚障害者の人達は、医療や行政などの公共サービスを受けることに
さえ支障を感じているのが現状である。
○
以上の様な問題を背景に同中央研究所では、世界で初めて手話と日本語を自動翻訳
する「手話自動認識システム」の試作機を開発した。聴覚障害者と手話がわからな
い健常者の間で会話を可能にする同システムは、通産省が新情報処理開発機構に委
託したプロジェクトで、開発費は約1億5千万円となっている。
○
日立製作所中央研究所知能システム研究部(現:マルチメディアシステム研究部)
が同システム開発に着手したのは 1991 年からであり、1997 年で 6 年めとなる。同
研究部は当時、人口知能やパターン認識の基礎研究を行っていたが、その応用を研
究するため手話に着目したことと、企業としての社会貢献という意味もあった。
○
これまで 1995 年 10 月に、スイス・ジュネーブで開催された通信関連の国際展示会
「テレコム'95」でテレビ電話に手話自動翻訳システムを搭載した「手話電話」を出
展したほか、1996 年の「データショー」にも出展した。「手話電話システム」は、
サイバーグローブを装着して手話を入力すると機械翻訳され、英語の合成音声が相
手側に届き、逆に英語を話すと機械翻訳され、手話のアニメが相手側に再生・表示
される仕組みであった。
実施期間
○
「手話自動認識システム」は試作機のため実用化はされていない。ただし CG で手話
アニメーションを合成・編集し、聴覚障害者へ情報提供する手話アニメ編集ソフト
「マイムハンド」は 96 年1月から発売している。「マイムバンド」は UNIX・WS で動
き、単語を文字入力すると三次元 CG で表現したアニメの手話単語に自動的に変換、
若い女性のキャラクターが手話で「話しかける」システムである。
使用対象者
○
「手話自動認識システム」は、聴覚障害者と手話がわからない健常者の間で会話を
可能にする。
49
使用内容
○
「手話自動認識(翻訳)システム」は手話認識システムと手話生成システムのふた
ふたつに大別される。前者には入力装置である「サイバーグローブ」を装着するこ
とで、手話の動作を認識・機械翻訳して音声あるいは文字で日本語を表示するシス
テムであり、後者はキーボードから日本語を入力したり、マイクに向かって話した
内容を音声認識技術によって手話に機械翻訳し、三次元によるアニメで手話を再
生・表示するシステムである。
○
同システムの仕組みは、手話をする人が「サイバー・グローブ」で手を動かすと、
サイバー・グローブが磁場を利用して、手の各部の位置や動きを数値データとして
測定する。手話自動認識システムがこれらの数値を解析して、手の形状や運動の種
類を把握し、手話の内容を推論する。最後に推論の結果を文章の形にして健常者に
表示する。
○
日立・中央研究所では手話の認識に適した2段階のパターン・マッチング手法を編
み出した。まず複雑な手の動きを「手の形状(例えば人さし指だけを立てた形)」、
「方向(人さし指が下向き)」、「位置(胸の前)」、「関係距離(両手を接触)」
などの「構動素」と呼ぶ 15 種類の要素に分解した。そしてサイバー・グローブが測
定した手の各部の位置や動きのデータから、パターン・マッチングにより構動素を
抽出し、次にその構動素がどのような言葉を表しているかを、もう1回パターン・
マッチングを実行して推定した。手話の特性として、同じ言葉を表すときに文脈に
よって手の位置や動かす方向が変わることがあり、こうした場合は位置や方向の構
動素を無視するルールにしておけば、同じ言葉だと認識できた。逆に同じ手の形で
も à 置や方向によって違う意味になる場合は、位置や方向の構動素も含めてパター
ンをマッチングさせた。
使用頻度
③
○
「手話自動認識(翻訳)システム」」はまだ実用化されていない。
○
「手話自動認識(翻訳)システム」は手話認識システムと手話生成システムのふた
MM 応用における
課題点・要望
ハードウェア
つに大別されるが、試作機の段階である前者は、認識単語数 150、認識率9割前後
と、実用化にはもう少し時間がかかりそうである。後者は 4,000 単語を再生し、日
常会話はカバーできる実用化の段階に達している。
○
システム開発に当たっての最大の課題は、手話動作のパターン認識の精度を上げる
ことである。人間は動作だけでなく、文脈や相手の態度から話されている内容を類
推することができるが、コンピュータの「目」はもっと幼稚であるため、発生する
誤訳や認識ミスをどの様に補正するかが問題である。点字キーボードや音声入力装
置といった視力障害者向けの情報機器に比べ、聴力障害者のための情報機器が少な
かったのは、この障壁があったからである。
50
○
開発チームは当初、データグローブの一本の指に2本ずつ光ファイバーをつけ、両
手 20 本の光ファイバーを í る光の強度によって指の関節の曲がり具合を検出し、
グローブの甲につけた磁気センサーによって手の位置と向きを調べた。片手のグロ
ーブから入力されるデータは 16 次元、両手で 32 次元のデータが1秒間に 30 回の頻
度でコンピュータに入力され、動作が認識される。しかしあらゆる動作データを集
めるこの方式では、動作の個体差に対応することが難しかった。つまり人によって
動作の速度や動かし方が異なるし、また認識単語数を増やしていけば処理データは
膨れ上がる一方であった。そこで現在は、動作を 900 程度の特徴的な動きに分解し
て、その動きを記号に変換する方式に換えた。人間が手話として見る重要な部分だ
けを記号化して取り出し、それ以外は省いてしまうことで、個体差も吸収できるし、
認識率も上がると判断した結果であった。
○
現状ではアニメーションをリアルタイムに生成するために、非常に高価なワークス
テーションの性能を必要とするが、パソコンの能力がさらに向上すれば、より安価
なパソコン用ツールで可能になる。
○
また光ファイバーによるデータグローブも耐久性に問題が生じたため、現在はサイ
バーグローブと呼ばれる特殊な金属を利用したグローブに変え、読み込むデータ量
も片手 28 次元に増やした。
○
現状では、サイバー・グローブがないと手の動きを測定することができないことか
ら、長期的には素手の映像から形状を認識したいがスーパーコンピュータ並みも演
算能力が必要になるとのことである。また今のところ特定の手話者の会話しか認識
できないことも今後の大きな課題である。日立・中央研究所では、パターン・マッ
チングに加え、記号処理やエキスパート・システム、機械翻訳などの専門チームを
有しているため、専門知識を生かして、残る課題の解決を図る方針である。
制度・習慣・
○
手話自動翻訳システムを実用化するに当たっては、手話というコミュニケーション
の特殊性を理解する難題があった。聴覚障害者といっても、生まれながらに障害を
法規制
持った人(先天的障害)と、人生の途中から聴覚を失った人(後天的障害)では使
っている手話が違い、前者は伝統的手話で使い手は手話そのもので思考している
が、後者は日本語対応型の手話で思考のベースは日本語である。また両者の中間型
や地方ごとに方言が存在することもわかり、システムでは主要な手話をすべて取り
込む必要があった。
○
また手話は日本語と関連しながらも言語としていくつかの基本的な違いを持つ。た
とえば手の動き以外に表情や身振りも言語的な構成要素であり、特定の単語を強調
するために顎を動かしたり、口を開いて食べる動作をすることもある。また語彙そ
のものが日本語と異なる。手話では「夏」と「暑い」は同じ動作だが、ビールを「飲
む」とお茶を「飲む」では異なった表現となる。あるいはひとつの動作で複数のこ
とを表現することができる。たとえば「飛んでいる飛行機を見る」ということを、
右手と左手を使って同時に表現できる。そして助詞を使わないことも重要であり、
単純な文章、例えば「私は寿司を食べたい」は、手話では「私
寿司
食べる
好
き」となる。このように手話と日本語では表現方法と言語体系が異なるので、手話
51
自動翻訳システムでは、パターンとしての表現形態を変換するだけでなく、言語体
としての違いも翻訳する必要があった。
マーケタビリティ
○
現状では「手話自動認識(翻訳)システム」は、150 種類ほどしか、手話動作がで
きないが、美術館の窓口での展示内容の問い合わせや、ホテルのフロントで対応す
る程度の簡単な会話なら通訳できる。また職業安定所を始め、駅や行政機関などの
公共施設では大きなニーズがある。
○
耳の不自由な人(約 35 万8千人)にとって、話し相手の「言葉」が自分の目の前に
文字で現れることは夢であった。聴覚障害者の団体が一昨年実施したアンケート
で、「音声変換文字表示装置」があったらいいと思う場所を聞くと、病院、役所、
集会所がベスト3であった。今後は í 訳の出来る手話の種類を増やし、JR のみどり
窓口や行政機関の受付などで、比較的型の決まった問い合わせに対応するシステム
に結び付けていく方針である。
<手話自動認識(翻訳)システムの基本的ハードウェア構成>
UNIX ワークステーション
手話CG
生成 部
日本 語
手話変換
キーボード
手
話
手話アニメー
日
本
語
音声認 識
ション表示
マイク ・
聴
覚
障
害
者
天気がいいですね...
手話単 語
変 換
サイバーグローブ
(VPL リサーチ製)
手話日本語
変 換
UNIX ワークステーション
52
テキスト
・
健
常
者
コード No.
①
2−2
MM 応用技術
手話合成システム
プロフィール
対象機関名
社会就労センターワイドビジョン
所在地
長崎県諌早市小船越町 680-1/TEL:0957-25-330
開所年月
1992 年 4 月 1 日
代表者名
小峯
設置規模
敷地面積:954m2、建物面積:828m2/鉄筋コンクリート2階建
施設概要
○
身体障害者通所授産施設
○
○
定員:30 名
義尚(社会福祉法人じゅもん会理事長)
目的:障害者の授産施設として、作業環境・道具・自助具などを整備し、就労や知
的生産を介して、積極的に地域社会とかかわっていく機会を提供する。
②
MM 応用概要
背景と目的
○
社会福祉法人じゅもん会は、障害者の授産施設として、平成4年4月1日に社会就
労センター「ワイドビジョン」を開設した。同センターでは障害の重い人々も「何
をどのようにしたら働けるか」という観点から、作業環境、道具、自助具などを整
備し、市場性の強い授産を実施している。また、就労や知的生産を介して、「地域
ととけあう施設」をめざし、積極的に地域社会とかかわっていくことを目標として
いる。
○
社会就労センター「ワイドビジョン」での具体的な授産業務は以下の通りである。
・データベースの入力と管理
・印刷物版下作成と印刷
・マルチメディア画像処理
・手話アニメーションの作成
・インターネットアクセスポイント業務(プロバイダ業務)
・パソコン教室の実施
・陶磁器の製作と販売
○
パソコンの操作技能、就労に必要な知識の取得・訓練では、主にワープロソフトや
統合型計算ソフトの取り扱い操作から実務に使用する文章作成、数表作成などを指
導したり、データベースソフトによるデータ処理、CG 製作技法などを指導している。
○
じゅもん会では、障害者の就労可能性を拡大しようと、パソコンからさらに情報処
理能力の大きいワークステーションへの事業拡大を模索中、日立製作所が開発した
手話アニメ編集ソフト「マイムハンド」を知り、1996 年6月末に1システムを導入
し、長崎市の協力・依頼により、聴覚障害者だけでなく健常者も使用可能なシステ
ムを構築している。
実施期間
○
導入時期は 1996 年 6 月末。同システムを使って実際の情報提供システムを運用する
時期(実用化時期)は 1997 年秋頃をメドにしている。
53
使用対象者
○
手話アニメ編集ソフト「Mimehand(マイムハンド)」を使用した情報提供端末(シ
ステム)づくりには、じゅもん会/社会就労センター「ワイドビジョン」で就労し
ている障害者が手掛けている。完成後の情報提供端末は、聴覚障害者だけでなく、
視覚障害者や他の障害者・健常者を含め、全ての人が使える端末を目指す。
使用内容
○
手話アニメーションの生成・編集ソフト Mimehand は、キーボードから手話単語を入
力するだけで、3次元コンピュータグラフィックスによる手話アニメーションを作
成する。笑顔、驚いた顔など表情で7種類、口は 50 音の動きに対応、首はうなずく・
傾けるなど 10 種類程度、指は 27 種類の動作を示すことができるなど、細かな変更
も容易に行うことができ、作成したアニメーションの詳細な編集を容易なマウス操
作で行うことができる。
○
オペレータが日本語単語例を文字入力すると、日常会話で必要となる手話単語約
4,400 語を内蔵した「手話単語辞書 Mimehand-D」からデータを取りだし、手話アニ
メーションを自動生成する。また、「Mimehand-D」は、新たな手話単語を追加登録
することが可能である。
○
内容の追加・変更時のスムーズな対応や、アニメーションの再利用が可能なため、
実際の手話を撮影した表示に比べ、簡単に手話映像を作成できる。また、作成した
アニメーションは、ビデオのほかパソコンでも再生できるので、情報提供システム
をはじめ、自動機や TV など、さまざまな用途に活用できる。
○
実際にじゅもん会/社会就労センター「ワイドビジョン」では、「Mimehand」を使
用して、長崎市内 150 ケ所のホテル、公共施設などの障害者用施設の一覧案内「ふ
れあいガイドマップ」を作成している。端末を操作していくと、目的地の障害者用
施設や対応が表示され、画面の一画に手話をする女性キャラクターが現れ、文字情
報を手話に翻訳して案内する。
使用頻度
○
手話アニメ生成・編集ソフト「Mimehand」を使用して、実用化される情報提供端末
は、1997 年秋頃に実用化される見込みである。
使用ハードウェア概要
○
「Mimehand」を動作するハードウェアは以下の通りである。
・UNIX ワークステーション「HITACH 9000V シリーズモデル VQ 200」
・グラフィックスアクセラレータ「VISUALIZE - 48Z」
・PEX 開発ライブラリ
○
日立では、UNIX ベースとは別に、パソコン上で手話アニメによる情報提供や操作ガ
イダンスを行える主に自治体向けの生活情報システム「PARPADEO(パルパディオ)」
も 95 年9月に上市している。「PARPADEO - PC」の価格は約 20 万円である。
54
③
MM 応用における
課題点・要望
○
ハードウェア
現状では、アニメーションをリアルタイムに生成するためには、ワークステーショ
ンの性能を必要とするため、ハードウェアの占めるコスト部分が高い。じゅもん会
/ワイドビジョンで導入したシステムはソフト込みで約1千万円程度を要した。ソ
フト(手話アニメ生成・編集ソフト)そのものは約 150 万円のため、ハードウェア
システムの負担が大きい。将来的にパソコンの能力がさらに向上すれば、より安価
なパソコン用ツールで同じ事ができるものと期待している。
○
聴覚障害者が自分の表現活動にこのツールを使うことが長期的目標であるが、コス
トが高すぎるため、まずは行政サービスの窓口や福祉関連施設での導入になると考
えられる。
○
これまで手話によるガイダンスや情報提供は実写(手話使用者をビデオカメラで撮
影する)に頼らざる得なかったが、実写は一度制作してしまえば変更するとなると
追加収録や全面的な作り直しが必要であった。また、何通りもの実写を長時間かけ
て撮影する手間も、コンピュータを使ったアニメ編集ツールが実現したことで、手
話を自由につくり出し、容易に変更することを可能にした。
制度・習慣
○
視力のある聴覚障害者には文字情報でいいのでは、と思われがちだが、同福祉法人
理事長は「手話は『読む』文字とは違う『見る』独自の言語。手話を母語としてい
る聴覚障害者には手話の案内の方がなじむ面があり、多様な情報アクセス手段を提
供するには、手話の画像が必要」と説明する。
○
従来の情報伝達は音声や文字が中心で、手話情報は限られている。また、手話情報
も、人が実際に手話をした録画ビデオが用いられ、内容に変更があった時は追加収
録していた。しかし、同じ出演者をいつも確保するのは難しく、収録後、出演者が
散髪に行き、髪形が変わってしまい、結局、別の人で撮り直した例もあり、困難が
コスト
あった。
○
手話は表情、手ぶりなど多くの要素が含まれる多元的なコミュニケーションであ
り、「Mimehand」には喜怒哀楽など6種類の表情と 20 種類の身ぶりをプログラムし
てあり、聴覚障害者の日常感覚でコミュニケーションが取れる。手話通訳者養成に
も応用可能である。また、手話にも方言があり、作成・編集の容易な CG アニメは、
地域に根付いた手話文化の確立に役立つと期待されている。
マーケタビリティ
○
じゅもん会/ワイドビジョンでは、手話アニメ生成・編集ソフト「Mimehand」を使
用して制作した「ふれあいガイドマップ」などを含んだ障害者用情報提供システム
を 1997 年秋頃をメドに、長崎県・長崎市などの行政機関(県庁ロビー、市庁舎)や
空港ターミナルなどの公共施設、福祉施設などに順次実用化していくとしている。
こうした聴覚障害者だけでなく健常者も同時に使用可能な公共情報端末は、市場性
が高いと見込まれている。
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コード No.
①
MM 応用技術
MM情報端末
プロフィール
対象機関名
横浜高島屋ハートフルショップ
所在地
横浜市西区南幸 1-6-31/TEL:045-311-5111
設置・運営
(株)高島屋 横浜事業本部家具寝具部介護用売場
約 100m2(介護用品売場)
売場面積
②
2−3
MM 応用概要
背景と目的
○
大手流通 業・大手小売業各社が、高齢社会の到来で市場拡大が予想される福祉・介
護用品の販売及び売場の新設・増強に動いている。これまで専門業者が中心だった
同市場に、スーパーは大型店中心に展開を加速、百貨店も新サービスの目 ã として
取り組みに意欲的である。百貨店の中では、高島屋横浜店(横浜市)が 97 年3月に
介護用品の売場 ñ 積を移転し、約百 m2 に拡張したほか、専門業者と提携し、ベット
や車いすといった福祉用具のレンタル取り次ぎ、民間介護サービスの紹介などを行
うほか、食事や排泄など介護の仕方が学べるマルチメディア視聴システムを「百貨
店で初めて」導入した。
○
高島屋横浜店で新設した介護用品売場「ハートフルショップ」では、他の大手小売
業各社との差 ï 化を図るため、百貨店でしかも関東以北の ó 販店では初めて、マル
チメディア型介護指導視聴システム「介護太助」を導入した(関西地区ではコープ
こうべ/コープリビング甲南が導入)。
○
マルチメディア型介護指導視聴システム「介護太助」の高島屋「ハートフルショッ
プ」での位置付けは、介護技術を紹介する情報サービスの一環であり、直接販売に
結び付くものではないが、介護用品売場としての他競合店との差別化戦略の一環と
して取り入れられた。介護技術を紹介・指導する場は、自治体や福祉施設にもある
が、スタンドアロン型端末として店舗内に置くことで、他人に知られずに介護情報
を得たいという様なニーズに対応できる。
導入期間
○
1997 年 3 月 12 日∼
使用対象者
○
売り場来店者(健常者:要介護者=9:1)
使用内容
○
介護指導視聴システム「介護太助」は、ハード・ソフトを一体型にパッケージ化し
たスタンドアロン型のため、館内や店内に視聴コーナーが簡単に設置でき、来場者・
来店者が自分で操作しながら介護知識や技術を無料で学べるシステムである。高島
屋の場合は介護用品売り場の来店者用に設置している。
○
同システムはビデオ CD 自動送出機が内蔵されているため、見たいところは番組番号
を押すだけで、オンデマンドにダイレクトにアクセスでき、その映像をすぐに頭出
しできる。従来の介護指導ビデオテープなどの巻戻しや早送りのタイムロスが少な
い。またビデオ CD のため、一時停止もちらつきやみだれの少ない画面を再生、また
56
い。またビデオ CD のため、一時停止もちらつきやみだれの少ない画面を再生、また
見たい所を部分的に何度も繰り返し見れる区間リピート機能もある。またタイマー
内蔵により、システムの自動立上げ、終了が可能となっている。
○
同システムに収納されているビデオ CD ソフト「CARE - DAS」は、移動・排泄・食事
など生活シーン毎の介護技術を動画で収録した7枚組のソフトである。移動の仕方
ひとつとっても、「あおむけから横向き」「上からの移動」などきめ細かく、全部
で 132 項目、280 分(4時間 40 分)にわたる映像で解説してある。全シーンは特別
養護老人ホーム「茂庭苑」(宮城県)で実際に介護に携わる介護福祉士・生活指導
員が、介護者・被介護者として出演しているため、信頼性の高い生きた技術が修得
できる。「CARE - DAS」は、ホームヘルパー研修カリキュラム2級過程に準拠して
いる。
○
「介護太助」は最大 50 枚のビデオ CD が収納可能であるが、現在高島屋で以下の通
りである。
・移動動作の援助
・身体の清潔の介護
・移動動作の援助
・身のまわりのお世話
・食事の介護
・健康管理及び応急対応
・排泄の介護
使用頻度
○
「介護太助」の使用頻度は1日平均2∼3回。多い日で1日5∼6回、少ない日で
1∼2回という程度である。
使用ハードウェア概要
○
マルチメディア型介護指導視聴システム「介護太助」の仕様は以下の通りである。
メーカーは関西松下システム(株)。ビデオ CD ソフト「CARE - DAS」の製作・著作
は(株)次世代ディスク教材開発研究所。
○
○
○
カラーモニターテレビ
・
CRT・・・21 型 90 度偏向ティントフェースブラウン管
・
スピーカー・・・8×12cm 楕円型2個、出力4W
・
入力・・・ビデオ入力×2、音声入力×2
ビデオ CD 自動送出機
・
型式・・・ビデオ CD ディスクフォーマット
・
収容・・・ビデオ CD(MAX50 枚)
・
制御方式・・・操作パネルからのダイレクト選択
価格
・1セット価格・・・¥1,380,000.(7枚組ビデオ CD ソフト込み)
57
③
MM 応用における
課題点・要望
○
ハードウェア
マルチメディア介護指導視聴システム「介護太助」は、スタンドアロン型で、館内
や店内に簡単に視聴コーナーが設置できることは、ある意味でメリットであるが、
逆にハードソフト一体型にパッケージ化したため、ソフトを筐体に取り込まなけれ
ばならない分、システムが大型化してしまい、ある程度のスペースを確保しなけれ
ばならない。ネットワーク型にしてビデオオンデマンド方式にすれば、本体を小型
化でき省スペース化にすることも可能と考えられる。画面サイズは現行程度(21 イ
ンチカラーCRT)で、システム本体が小型化すれば、場所を選ばないのではと考える。
○
ビデオ CD 自動送出機が内蔵されているため、見たいところがダイレクトにアクセス
できるが、頭出しできるまでの待ち時間が約 10∼15 秒あるため、そのアクセススピ
ードが遅いと感じる人もいる。しかし、従来のビデオテープの巻戻しや早送りなど
のタイムロスや LD オートチェンジャーよりは早いため、大きな問題にはなっていな
い。
○
「介護太助」の操作ガイダンスや操作パネルは大きめであり、使用対象者である来
店者(介護をする人)にとっては大きな問題はない。しかし、画 ñ のアイコンに直
接タッチするスクリーンタッチ方式のほうがよりわかり易いのではと考える。
制度・習慣
○
現在「介護太助」で使用しているビデオ CD ソフト「CARE - DAS」は、CD7枚組で
132 項目あり、全部見ようとすると4時間 40 分も要する。百貨店の介護用品売り場
で全編を見ることは不可能なので、在宅でネットワーク(ISDN、CATV、衛星等)経
由でビデオオンデマンドが出来ることが望ましい。高島屋介護売り場「ハートフル
ショップ」では、「介護太助」で見られるビデオ CD ソフト「CARE-DAS」7枚組セッ
トを来店者に貸し出しできるサービスを行っており、こうした在宅ニーズに応えて
いる。ただし、在宅にビデオ CD を再生するシステムが必要である
○
関西松下システムでは、今後「CARE - DAS」シリーズの続刊「在宅介護(3枚組)」、
「コミュニケーションの技術(2枚組)」、「障害形態 ï 介護技術(4枚組)」を
発売予定である。
コスト
○
「介護太助」はビデオ CD ソフト「CARE - DAS」7枚組込みで、1セット 138 万円と、
通常のデスクトップ PC や LD システム(オートチェンジャーなし)に比べれば決し
て安価ではない。しかも、高島屋・介護用品売り場「ハートフルショップ」では無
料でサービス提供している。大手流通業・大手小売店各社が福祉・介護用品の販売
に注力し初め、既存の専門介護ショップ競合店と差 ï 化するためには、新たな顧客
サービスが必要であり、「介護太助」は高島屋にとっては顧客サービスの一環と à 置
付け、長い目でみた販売促進策の一環と位置付けられる。現在高島屋で、同システ
ムを設置しているのは横浜高島屋「ハートフルショップ」だけであるが、今後他店
舗に展開するか否かは、横浜高島屋での評価・評判による。
58
制度・習慣・
○
これまで介護教育・介護指導は、公的資格を持つ人(介護福祉士等)による公的機
関(自治体・公民館・病院・社会福祉協議会等)や介護施設(在宅介護支援センタ
法規制
ー、特別養護老人ホーム等)での介護教室や教育ビデオによるものが主流であった。
そのため、他人に知れずに介護技術を学ぶというニーズには必ずしも応えられてな
かった。百貨店やスーパーなどの大手小売店の介護用品売り場のコーナーで介護技
術・介護知識を得るということは、こうしたニーズに応えるということでの意味が
大きい。逆に大手小売店にとっては、高齢化社会の到来で介護用品は大きな市場に
なりつつあるが、品揃えとともに、ノウハウの提供が差別化のキーファクターにな
りつつある。
(通産省機械情報産業局によると、介護用品市場規模は 95 年度で 8,040
億円/出荷ベースで、過去3年間の平均伸び率は7%と急速に拡大している。2005
年には最大で6兆1千億円に達する可能性もあるとしている。)
○
厚生省所管の公益法人・社団法人シルバーサービス振興会(東京/千代田)が介護
用品優良販売業者に対して与える一種のマル適マークとして「シルバーマーク」が
あるが、大手小売業の手掛ける売り場には、「シルバーマーク」がほとんど張られ
ていない。マーク取得業者は 96 年度末で延べ 952 社。うち介護用品の販売業者とし
て認定を受けているのは 528 業者だが、大半は中小であり、大手小売業ではながの
東急百貨店、阪急百貨店、コープこうべの2社1生協に過ぎない。同マークは一種
の“マル適”マークの意味を持つが、大手小売業の間では「マーク取得に一店当た
り数十万円単 à の認定料が必要になり、コスト負担が大きすぎる」との不満が強く、
マークそのものの消費者へのアピール力を疑問視する声もある。89 年から売り場を
展開している京王百貨店でもマークの必要性はないと断言している。マーク認定業
者のコープこうべすら、「意味がない」として差別化のファクターにも認めておら
ず、売り場にマークを掲示していない
59