1 太陽熱利用街区住棟セントラル給湯・暖房システム Utilising solar energy for apartment block central heating and hot-water supply system 峯 考弍 * 1.はじめに 地球温暖化防止の京都議定書が 2005 年 2 月に発効され 事業年度は平成 11∼30 年度となっており,緑豊かで災 今年で3年が経過しており、各業界こぞって徹底的な CO2 害に強い安全で快適な住宅地と,地区の中央に開設が予定 削減への取り組みが行なわれている。 されている新駅周辺には商業・業務・文化施設等の多様な 特に,生活環境の向上に比例して増加傾向にある住宅で 都市機能を有する新たな複合拠点市街地の実現を目指し のエネルギー使用量をいかに減らしていくかが大きな課 ている。地区内の計画戸数は約 7,000 戸となっており,平 題であるとともに、徹底的な省エネルギーへの取り組みが 成 20 年には駅北西の街区に民間ディベロッパー(大和ハ 求められている。 ウス工業㈱・大栄不動産㈱)により戸建 132 戸と集合 500 ここでは,住宅からの環境負荷削減のために,特定土地 区画整理事業における大規模集合住宅に,わが国では初め 戸の分譲住宅の竣工が予定されている。また,駅北東の街 区等には複合商業施設の開業が予定されている。 ての街区単位での大規模ソーラーシステムの導入を計画 したので,その概要を紹介する。 3.太陽熱利用街区住棟セントラル給湯・暖房システム 2.越谷レークタウン事業の概要 年に完成が予定されている駅北西街区の集合住宅 500 戸 地区内における地球温暖化対策の一貫として,平成 20 独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)によって整 (図2)における二酸化炭素排出量を従来のものより 20% 備が進められている越谷レークタウンは,越谷市の南東部 削減するために,建物の断熱性能の強化,高効率エアコン に位置し,東京都心から約 22km,計画面積約 225.6ha, の採用などを図るとともに街区全体の給湯・暖房負荷に対 計画人口約 22,400 人の大規模プロジェクトである。 応する大規模ソーラーシステムの導入を図っている。 本事業は、土地区画整理事業と大規模な調整池整備を一 ソーラーシステムの導入にあたっては,環境省のモデル 体的に進め,広大な水辺と都市を融合させた全国で初めて 事業「街区まるごと CO220%削減事業」の対象事業となっ の「親水文化創造都市」の形成と,街区でのエネルギー消 ている。 費に伴う CO2 排出量を 20%削減する「地球温暖化対策」 の両面を兼ね備えた新しい町づくりが進められている。 街区ソーラーシステム 導入集合住宅エリア 図1 駅北西街区 500 戸の集合住宅完成予想図 3.1 システム概要 太陽熱利用街区住棟セントラル給湯・暖房システムの概 略のフローを図2に,主要機器仕様を表1に,街区内にお ける機器等の配置を図3に示す。 図1.越谷レークタウン 土地利用計画図 <出所>越谷市ホームページ 本システムでは,7棟の集合住宅のうち,2棟の屋上に 総面積 950m2 のソーラーコレクターを設置し,回収した 太陽熱を街区内の集中熱源プラントから各住戸に循環供 給し,給湯・暖房用エネルギー消費の削減を図っている。 * ㈱ 大阪テクノクラート 代表取取締役社長 2 図2.街区ソーラーシステムフロー 表1.主要機器仕様 名称 ソーラーコレクター ソーラー給湯用熱回収熱交換器 ソーラー暖房用熱回収熱交換器 ガス焚き温水ボイラー 熱回収ストレージタンク ブースター熱交換ユニット 仕様 地域暖房用高温型ソーラーコレクター 12.5m2/基(有効面積)×76 基=950m2 プレート式 交換熱量 523.3kW プレート式 交換熱量 47.3kW 定格出力 232.6kW/基×9基 SUS 製 2槽式 容量 60,000m3×1基 プレート式熱交換器 交換熱量 174.5∼267.5kW ×9基 ストレージタンク 容量 1m3 × 9基 ソーラーコレクター(950㎡) G棟 B棟 C棟 A棟 熱源機械室 D棟 図3.街区住棟熱供給設備配置図 F棟 ブースター熱交換ユ ニット×9ユニット E棟 3 このように住宅街区に面的かつ集中熱源として太陽熱 利用設備が導入されるのは,わが国では初めての例であり また,集熱器設置面積もわが国における住宅用途の最大規 模となっている。 コレクターは1枚当り総面積 13.5m2 ,有効集熱面積 12.5m2 と大型タイプとなっている。 ソーラーコレクターは,図4に示すように,表面のガラ ス下に表面からの熱損失を防止するための対流防止テフ 太陽熱利用街区住棟セントラル給湯・暖房システムでは, ロンシートが施されており,高い断熱性を有している。こ ソーラーコレクターで加熱した温水は、ソーラー熱交換機 のため,高温での集熱が可能であり,海外では地域暖房用 ユニットを経由し給湯水加熱と床暖房など暖房回路の温 の熱源として使用されている。また,高い断熱性のため, 水熱媒の加熱に利用される。尚、暖房回路への温水温度は 気温の低下による集熱効率の低下が少なく,寒冷地の使用 太陽熱を最大限利用するため還り側温水温度を低く(≒ にも適している。 45℃)設定している。 暖房は低温暖房が可能な床暖房、パネルラジエーター等 3.3 住戸内給湯・暖房システム の輻射暖房とする。給湯は、各棟ごとにストレージ型給湯 住戸内の給湯・暖房システムフローを図6に示す。 熱交換ブースターを設置し各戸 60℃の温水を供給する。 住戸内の暖房は,基本的に居間の温水床暖房のみとなっ 尚、太陽熱の不足分はガス焚き温水ボイラーにて補う。 ている。床暖房は快適性が高く,また,室温を低くしても 快適性が維持されるため省エネルギー性も高い。床暖房の 送水温度は 45℃∼50℃で,室内に設置したリモコンとミ 3.2 ソーラーコレクター ここで使用するソーラーコレクターの構造を図4に,設 置例を図5に示す。 キシングユニットによって室温制御、送水温度制御とタイ マー運転を行う。 図4.ソーラーコレクターの構造 図5.ソーラーコレクター設置例 ※パネルラジエターはオプションで設置 図6.住戸内給湯・暖房システムフロー 4 給湯負荷 暖房負荷 集熱量 住戸数 500戸 700,000 暖房負荷 : 2,946,193 Kwh 56.7% 600,000 給湯負荷 : 2,250,108 Kwh 43.3% 500,000 総負荷 :5,196,301 Kwh Kw 400,000 300,000 ソーラー集熱量 : 1.019,946 Kwh 暖房・給湯負荷の19.6% 200,000 100,000 0 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 9月 10月 11月 12月 給湯・暖房負荷/ソーラー集熱量 1月 2月 12月 〔単位 Kw〕 3月 4月 5月 6月 7月 8月 合 計 住戸当り 給湯負荷 251,329 227,040 220,969 215,921 204,734 185,814 174,088 128,488 152,649 147,403 160,236 181,437 2,250,108 暖房負荷 612,791 596,103 451,774 329,964 0 0 0 0 0 0 420,358 535,203 2,946,193 5,892 総合負荷 864,120 823,143 672,743 545,885 204,734 185,814 174,088 128,488 152,649 147,403 580,594 716,640 5,196,301 10,393 83,658 99,081 97,054 99,784 82,780 92,042 94,774 73,915 75,944 71,226 70,217 1,019,946 2,040 集熱量 79,471 4,500 図7.500戸での年間熱負荷及びソーラー集熱量 その他の諸室の暖房は,温水供給によるパネルラジェー 5.おわりに ターをオプションで設置できる。 集合住宅にソーラーシステムを導入した例は少なく,導 一般の給湯は住棟ごとに設置したストレージ型熱交換 入されている場合でも,そのほとんどが住戸とソーラーシ ブースター装置から直接供給される。また,浴槽の追焚, ステムが1対1の個別方式であり,有効利用率は高くはな 湯張りは,高温水を熱源とする浴槽追焚装置によって行う。 い。 本システムでは,ホテル並みに 24 時間,充分な給湯が これに対し,本システムでは集合住宅街区に大規模に導 利用でき,また,住戸内には給湯機器の設置スペースが不 入することによって利用率の向上が図られており,大きな 要であり,燃焼器具もないため安全性が高い。 環境負荷削減効果が期待できる。 3.4 維持管理システム 導入だけでなく,本システムのような環境負荷削減効果の 今後,個々の家庭における省エネルギーや新エネルギー 本システムでは,万全な保守管理体制のもとボイラー及 び搬送機器の運転状態、故障状態の情報をインターネット 大きい,自然エネルギー利用や廃熱利用システムを組み込 んだ住棟セントラルシステムの展開が望まれる。 を経由してリアルタイムで監視センターへ送り,省エネ運 転を行うとともに,万一のシステム異常や機器故障発生時 参考文献 に備え 24 時間の監視・処置体制をとっている。 (1)㈱エス・ティ総合研究所,㈱石油産業技術研究所委託調 査事業 先進型石油住棟セントラルシス テムに関する調査(平成 15 年 3 月) 4.太陽熱利用による省エネルギー効果 ソーラーコレクターの設置方位を真南、設置角度を 32° 平成 14 年度 (2)(社)空気調和・衛生工学会,都市ガスコージェネレーシ ョンシステム計画・設計と評価 2005 として算出した月別の太陽熱集熱量,集合住宅全体の予想 暖房負荷,給湯負荷,並びに,それらを集計した総合負荷 を図7に示す。 筆者紹介 街区全体の年間暖房負荷は 2,946MWh,年間給湯負荷 峯 考弍 は 2,250MWh,年間太陽熱集熱量は 1,020MWh と予想さ ㈱ 大阪テクノクラート れており,年間太陽熱集熱量は年間給湯負荷の 45%,年 代表取締役社長 間総暖房・給湯負荷 5,196MWh の 19.6%となっている。 (みね よしつぐ)
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