ないところからつくる ないところからつくる

国際文化フォーラム通信 no.45 2000年1月
見る聞く考えるやってみる授業───── u
ないところからつくる
東京都立晴海総合高等学校教諭(英語)
濱中啓子
情報を受け取ると同時に発信する、意見を表明す
もう一つの柱であるビデオ作品づくりは、現在進
るとともに他の意見を聞き、別の価値観を持つ人と
行中である。まず生徒は、どのような作品にするの
話し合うことによって合意を得る。国際社会といわれ
か図書館などを利用して各自アイデアを絞り、その
ている現在、語学力だけでなく協調性などのコミュニ
アイデアを簡単な絵コンテにして、全員の前で発表
ケーション能力をを培う必要があると考えている。
した。ここまでは主に日本語で話し合うのだが、ア
晴海総合高等学校には、演技を通して主体的か
イデアを一つに絞るのはとても大変な作業である。
つ協力的に、そして創造的に言語活動を行うことを
7 人それぞれが自分のアイデアを主張しながらも、
目的にした
「ドラマ演習」
という選択科目がある。演
お互いに気を遣っているのが見て取れる。結局一
ずることによって、英語の表現やその表現が使われ
人ひとりのアイデアを少しずつ寄せ集めて脚本をつ
る状況をより深く理解できるように授業を進めている。
くった。これを生徒が翻訳し、ビデオ撮影、編集
「ドラマ演習」
には大きな柱が二つある。一つは文
を経て、学年末には一本のビデオ作品を完成させ
化祭で発表する作品づくり、もう一つはビデオ作品
づくりだ。どちらも、生徒が主体的に活動している。
る予定である。
このように、一つの作品を仕上げていく過程で、
今年度の文化祭で発表した
「シンデレラ」
では、まず
生徒は英語を学ぶだけでなく、主体性や協調性も
脚本係となった生徒が日本語で脚本を書き、次に
養っていく。文化祭で多くの観客の前で演じ、盛大
受講している7 人全員が分担して英語に翻訳した。
な拍手喝采を受けることができたが、そうした活動
その翻訳を外国人講師に修正してもらいながら、二
の中で生徒は第三者にわかってもらうことの大切さ
度ほど改訂して最終的な脚本が完成した。ディズニ
や喜びを実感することができた。常にコミュニケー
ー映画にならってミュージカル仕立てにしようと、音
ションには相手が伴うということを意識させることが
楽を持ち寄り、ダンスの振付をし、イメージに合う衣
できる
「ドラマ演習」
は、これまでの語学学習方法や
装を持ち寄り、その他さまざまなアイデアを盛り込ん
教室という枠組みにとどまらない、広がりのある授
でオリジナルな作品に仕上げた。
業だといえる。
授業例
■科目:語学コミュニケーション系列選択科目
「ドラマ演習」
■対象:語学コミュニケーション系列2年次生
授業は文化祭で発表する作品づくりとビデオ作品づくりの活
動が主であるが、2時間続きの授業であるため毎回warmupとして、また飽きさせない方策として、簡単な活動を盛り
込んでいる。その際、聞く話すだけでなく身体の動きを伴う
活動を用意するようにしている。
■具体例:
1. 名画をみて、その中の人物になったつもりで、モノローグ
もしくはダイアローグをつくる。
2. レストランで.、出された食べ物に関して文句を言う。
3. 重い絵画をつり下げるシーンを想定し、1人が指示し、2
人がつり下げるジェスチャーをする。それを撮影し、そのビ
デオを見ながら、動きや発話を批評する。
4. さまざまなものを実際に手に持ち、例えば“I’m holding a
ball.”のように言う。次に何も持たないで、何かを持ってい
るジェスチャーをする。それを見て、他の生徒は“She’s
holding a handy phone.”のように言い当てる。
絵画をつり下げるシーンを
想定。
生徒1人の指示を受け、
2人が絵画をつり下げる
ジェスチャーをする(収録ビデオから)
。
文化祭での
「シンデレラ」の
シーン
(収録ビデオから)。
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