薮田尚士 機能樹脂研究部ユニットチーフ [ 紹介製品のお問い合わせ先 ] 当社鳴瀧事業本部樹脂産業部 各 種 プ ラ ス チ ッ ク は 軽 量 で、 このような急激な電撃ショック 速やかに漏えいさせるためには、 成形加工しやすく、優美な外観 が電子機器の部品との間で発生 表面固有抵抗値を下げることが を有するなど数多くの優れた特 すると、回路が破壊されて故障 望ましい。 表1 に帯電防止の目 性をもっているため、さまざま の原因となる。近年、電子機器 的とそのために必要な表面固有 な 用 途 で 広 く 使 用 さ れ て い る。 の 小 型 化 に 伴 い、 そ の 部 品 は、 抵抗値の水準を示す。 また、要求性能、コストに応じ ますます微細化されてきている。 プラスチックを所望の表面固 て ABS 樹 脂、 ポ リ プロピレン このため電子部品はより高精密 有抵抗値とするために、さまざ (PP)やポリエチレン(PE)な になってきており、静電気放電 まな手法が提案されている。 表 どのポリオレフィン系樹脂、各 (E S D : E l e c t r o s t a t i c D i s - 2 に代表的なプラスチックの帯 種エンジニアリングプラスチッ charge)による障害対策の重要 電防止方法を示す。最も一般的 クなどの樹脂や、射出成形や押 度が増してきている。 に用いられている方法は、界面 出成形(シート、フィルム、ラ ❖帯電防止 活性剤を練り込む(内部添加) ミネート)などの各種成形法を このような防じんや ESD に か、表面塗布する方法で、プラ 選択可能なことは、プラスチッ よるトラブルに対して、プラス スチックの表面に存在する親水 クの普及に大いに貢献している。 チックにそれぞれの目的に応じ 性の高い界面活性剤に吸着した このようなプラスチックの優 たレベルでの帯電防止対策が施 空気中の水分を通して静電気を れた特性の1つとして絶縁性が されている。帯電した静電気を 漏えいさせ、帯電防止効果を発 あげられる。その絶縁性を生か して電線被覆材料をはじめ、さ まざまな用途で使用されている。 表1●プラスチックの表面固有抵抗値と帯電防止の目的 表面固有抵抗値(Ω) しかし、それゆえに摩擦などに 1013 ≦ 帯電現象 静電荷が蓄積する 帯電防止の目的 ── 応用例 ── より発生した電荷を蓄積しやす 1012 〜 1013 帯電する 静的状態での障害防止 ほこり防止 く、帯電した静電気が実使用上 1010 〜 1012 帯電するがすぐ減衰 動的状態での障害防止 フィルム、 繊維製造工程 しばしば問題となることがある。 108 〜 109 帯電しない 蓄電防止 IC パッケージ 107 〜 108 帯電しない 導電性付与 静電記録紙用導電剤 例えば、プラスチック表面に帯 電 す る と、 そ の 静 電 吸 引 力 に よって空気中のほこりや汚れを 吸着して、美観を損ねたり、プ ラスチックどうしがはり付いた り(ブロッキング)してその製 造、加工、使用時にさまざまな 表2●プラスチックの帯電防止方法 表面処理 導電性塗料 メッキ 導電性はく 練り込み ト ラ ブ ル を 引 き 起 こ す。 ま た、 静電気が人体との間で急激に放 電されると、電撃ショックによ る 不 快 感 に つ な が る。 さ ら に、 界面活性剤 三洋化成ニュース ❶ 2009 初夏 No.454 界面活性剤型帯電防止剤 高分子型帯電防止剤 (『ペレスタット』など ) 導電性フィラー ( カーボンブラックなど ) 現 さ せ る も の で あ る。 し か し、 PEO 鎖が導電性ユニットとして 性ポリスチレン(HIPS)、アク これらの方法では水洗、布ふき 選ばれてきた理由は、PEO が高 リ ル 樹 脂、 ポ リ ア ミ ド 樹 脂、 などですぐに効果が失われてし 分子固体電解質を形成できる数 PC/ABS アロイ、ポリオレフィ まうことが多いため、帯電防止 少ない汎用ポリマー鎖の1つで ン系樹脂などへの分散性に優れ 効 果 の 持 続 性 に 乏 し い。 ま た、 あるからである。この PEO 鎖は、 ることから、永久帯電防止効果 湿度依存性が大きく、低湿度下 ポリエチレングリコールメタク を持つプラスチックを作ること では帯電防止効果が小さい。さ リレート共重合体、ポリエーテ ができる。 らに界面活性剤型帯電防止剤が ルエステルアミドやポリエチレ 主な特長としては、 プラスチック表面に移行するの ンオキシド‐エピクロルヒドリ ①成形直後から優れた帯電防止 に伴い、表面特性(印刷性、接 ン共重合体などのように分子中 効果を発揮し、その効果が半永 着性、ブロッキング性など)に に組み込まれて使用される。 久的に持続する。 悪影響を及ぼす場合もある。 ❖永久帯電防止剤『ペレスタッ ②プラスチック自体の機械特性 これら界面活性剤の練り込み ト』シリーズ や表面特性を低下させない。 や表面塗布の欠点を解消するた 当社では、シーズ技術である ③熱安定性に優れ、成形品の耐 めに導電性フィラー(カーボン アルキレンオキシドの付加重合 熱性を損なわない。 ブラックなど)を添加する方法 によるポリエーテル合成技術と ④各種樹脂への分散性が優れる もある。しかし、フィラーの脱 樹脂とのアロイ化技術を応用し、 ため、適用樹脂の幅が広い。 落によってプラスチックやプラ プラスチックの帯電を半永久的 ⑤低湿度下でも高い帯電防止効 スチックに接触するものなどが に防止する高分子型帯電防止剤 果を発揮する。 などがあげられる。 汚 染 さ れ る 原 因 と な っ た り、 『ペレスタット』シリーズを開発 フィラー自体の色によって、プ し、上市している。 これらの特長は図1の模式図 ラスチックにカラフルな着色や 『ペレスタット』シリーズは、 に示すように『ペレスタット』 マーキングができなくなったり ポリエーテルを親水性セグメン がプラスチックの内部で均一に するなど課題も多い。 トとした特殊ブロック型ポリ 分散したあと、プラスチックが ❖高分子型帯電防止剤 マーであり、ABS 樹脂、耐衝撃 加工される際、すじ状のネット 近年は表面特性の低下抑制や 持続性など信頼性のある高分子 型帯電防止剤が注目されている。 高分子型帯電防止剤は親水性セ ペレスタット 表層内部でペレスタットがすじ状の ネットワーク(導電回路)を形成 グメントを有する高分子ででき ており、これをプラスチックと 水分 界面活性剤型帯電防止剤 帯電防止剤の連続層 相溶化(アロイ化)することで、 界面活性剤型帯電防止剤のよう 疎水基 に加工後に帯電防止剤が表面へ 移行することはない。このよう に高分子型帯電防止剤は帯電防 ペレスタット 帯電防止剤 親水基 布 止効果を半永久的に保持するこ とから、永久帯電防止剤とも呼 ばれている。 高分子型帯電防止剤は、導電 性ユニットとしてポリエチレン ペレスタットは 水洗や布ふきでも取れない 界面活性剤型帯電防止剤は 水洗や布ふきで取れてしまう オキシド(PEO)鎖を組み込ん だ タ イ プ が 検 討 さ れ て い た。図1●『ペレスタット』と界面活性剤型帯電防止剤との比較 三洋化成ニュース ❷ 2009 初夏 No.454 表3●『ペレスタット』シリーズの主な特徴 製品名 外観 融点 (℃ ) MFR 熱減量開始 表面固有 標準添加量* 屈折率 対象プラスチック [ 荷重条件 ] 温度 (℃) 抵抗値 ( Ω ) ( 質量% ) ペレスタット 淡黄色 約 30 約 135 約 1.49 300 ペレット [190℃、21.18N] 約 240 約 1 × 108 5 〜 15 PP 系樹脂 ペレスタット 淡黄色 約 10 約 160 約 1.50 230 ペレット [190℃、21.18N] 約 250 約 5 × 107 5 〜 15 PP 系樹脂、PP( シート ) ペレスタット 淡黄色 約 20 ABS、HIPS などのスチレン樹脂、PBT、 約 203 約 1.51 約 285 約 1 × 109 10 〜 15 NC6321 ペレット [215℃、21.18N] PC/ABS アロイ、ポリアミド樹脂など ペレスタット 淡黄色 約 10 MS 樹脂などのアクリル‐スチレン系 約 176 約 1.53 約 280 約 2 × 109 12 〜 17 NC7530 ペレット [190℃、21.18N] 樹脂 *対象プラスチックに対して表面固有抵抗値 1 × 1011 〜 1 × 1012 Ωを付与する添加量 1×1017 ワークを形成し静電気を漏えい ズの主な特徴を示した。現在 『ペ レスタット』シリーズは ABS 樹 脂、HIPS、 ア ク リ ル 樹 脂、 ポリアミド樹脂、PC/ABS アロ NC6321』、『 ペ レ ス タ ッ ト NC7530』 、PP や PE などのポ リオレフィン系樹脂に適する 『ペレスタット 230』 、 『ペレス インフレーション成形フィルムの場合 1×10 静的な状態で ほこりが付着しない 表面固有抵抗値領域 ▲ イなどのアクリル‐スチレン系 樹 脂 に 適 す る『 ペ レ ス タ ッ ト 1×1015 表面固有抵抗値 表3に『ペレスタット』シリー 1×1016 ほこりが付着する 表面固有抵抗値領域 ▲ させているためである。 動的な状態で ほこりが付着しない 表面固有抵抗値領域 14 1×1013 (Ω) 押出成形シートの場合 1×1012 1×1011 1×1010 1×109 0 5 10 15 20 25 LDPE に対するペレスタット 230 添加量 ( 質量%) 30 測定方法:試料を ASTM D 257 に準拠して 23℃、50%R.H. の雰囲気で 24 時間調湿したあと、超絶縁計を用いて表面固有抵抗値を測定。 図2●『ペレスタット 230』添加量と表面固有抵抗値との関係 タット 300』 を 主 力製品とし てラインアップしている。 サブミクロンオーダーに分散す 230』アロイ系の押出成形シー ❖『ペレスタット』シリーズの る特長を有することから、分散 トの透過型電子顕微鏡(TEM) 性能 剤などの使用も、事前に押出機 写真を示す。この TEM による 代 表 例 と し て、 独 自 の ポ リ で溶融混練する必要もなく、樹 観察結果から、 『ペレスタット エーテルをベースにポリオレ 脂とドライブレンドしただけで 230』 が LDPE の 表 層 近 く に フィン変性技術を応用した『ペ 成形することが可能である。図 すじ状に引き伸ばされて存在し、 レスタ ッ ト 230』 を低密度ポ 3 に LDPE /『 ペ レ ス タ ッ ト 静電気の漏えい回路となって帯 リエチレン(LDPE)に使用し たときの添加量と帯電防止効果 ( 表面固有抵抗値 ) の関係を 図 2に示した。押出成形シートお よびインフレーション成形フィ ルムいずれの場合でも、良好な 帯電防止性能を発揮しているこ とがわかる。 1μm 『ペレスタット 230』 を LDPE などのポリオレフィン系樹脂に 練り込むと、ポリオレフィン系 樹脂中で微粒子となって容易に 図3● LDPE /『ペレスタット 230』(10 質量% ) 混練樹脂組成 物断面の透過型電子顕微鏡 (TEM) 写真。黒いすじ状に見えてい るのが『ペレスタット 230』で、この層が電荷の漏えい回路と なって帯電防止性を発現する 三洋化成ニュース ❸ 2009 初夏 No.454 んど変化させずに帯電防止効果 1×1017 を付与できていることがわかる。 1×1016 表面固有抵抗値 (Ω) ❖今後の展開 近年は小型化、高性能化する LDPE /界面活性剤型帯電防止剤 (1質量%) 混練樹脂組成物 1×10 15 電子機器の ESD に対する要求 1×1014 性 能 が 向 上 し て い る。 例 え ば、 1×1013 小型化によって微細化した電子 1×1012 部品を搬送する際に使用される 1×1010 キャリアテープなどは、帯電防 LDPE /ペレスタット230 (10 質量%) 混練樹脂組成物 1×1011 止性能のほかに、吸水や吸湿を 0 5 10 15 20 水洗回数 ( 回 ) 25 30 測定方法:試料を綿布を用いて水洗したあと、133Pa、70℃で2時間減圧乾燥した。次いで ASTM D 257 に準拠して 23℃、50% R.H. の雰囲気で 24 時間調湿したあと、超絶縁計を用 いて表面固有抵抗値を測定。この操作を水洗回数に応じて繰り返した。 図4●水洗回数による表面固有抵抗値の変化 嫌う寸法安定性の要求レベルが き わ め て 高 く な っ て き て い る。 当社は吸水率を 1/3 まで低減さ せ た『 ペ レ ス タ ッ ト LA120』 を開発し、電子部品搬送用や寸 1×1017 法安定性が求められる特殊な用 途に対応した製品の開発も行っ 1×10 16 表面固有抵抗値 (Ω) LDPE/界面活性剤型帯電防止剤 (1質量%) 混練樹脂組成物 ている。各種分野での ESD や 1×1015 防じん対策を背景に、帯電防止 1×1014 性能のさらなる向上が求められ 1×1013 ている。特に、イオン溶出・導 電材の脱落・アウトガス成分が 1×1012 LDPE /ペレスタット 230 (10 質量%) 混練樹脂組成物 ない、いわゆるクリーンな材に 1×10 11 1×1010 15 対する期待も大きくなってきて 25 35 45 55 65 湿度 (%R.H.) 測定方法:試料を ASTM D 257 に準拠して 23℃、所定の雰囲気で 24 時間調湿したあと、超 絶縁計を用いて表面固有抵抗値を測定。 図5●表面固有抵抗値の湿度依存性 表面固有抵抗値 ( Ω ) きている。 要求性能を満足させる製品を開 測定法 ASTM D 257 MFR[190℃、21.18N](g /10min) ASTM D 1238 引張強さ (MPa) の活躍する場もますます増えて 当社は、高度化するお客様の 表4●帯電防止効果と樹脂物性 項 目 おり、 『ペレスタット』シリーズ LDPE /ペレスタット 230 (10 質量% ) 混練樹脂組成物 LDPE 3×1011 >1016 3 2 ASTM D 638 22 20 引張破壊伸び (% ) ASTM D 638 600 580 ヘーズ (% ) JIS K 7105 35 34 全光線透過率 (% ) JIS K 7105 86 86 電防止効果を発揮していること 防止性が付与できており、さら がわかる。 に湿度依存性も小さく低湿度下 図4 および 図5 に帯電防止効 でも帯電防止性を発揮している。 果の持続性と湿度依存性の比較 LDPE とアロイ化した押出成 を示す。水洗しても効果が低下 形シートの帯電防止効果とその せず、界面活性剤型帯電防止剤 特性の評価例を示した 表4 から、 では困難な持続性に優れた帯電 プラスチック本来の特性をほと 三洋化成ニュース ❹ 2009 初夏 No.454 発することで、永久帯電防止剤 のさらなる性能向上にまい進し ていく。 参考文献 1)高井好嗣、静電気学会誌、21(5)、 212(1997) 2)『 帯 電 防 止 材 料 の 設 計 と 使 用 法 』 サイエンス&テクノロジー (2007) 3)藤本武彦監修『高分子薬剤入門』 三洋化成 (1992) 4)筧哲男監修『パフォーマンス・ケ ミカルスの機能シリーズ』三洋化成 (1999)
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