き裂を有する積層プラスチックフィルムの強度

日本包装学会誌VbL6jVbb6(1997)
股論文
LaLpLjL」L凸▲凸LdLjLdbjLdLSLdLdLDLごしづ■nhjhaL⑪しり■」LdLdL≦し▲L△■」L■L己ら■L凸已■L■L■■■ら■L凸已jL■LdL凸L■L■L▲▲凸已△い■■△い▲LjL4L4
コヮコ「可P■「■「可ワマ「可FqFqF可F、ワコP・ワqPq「も「nPqPqPqrGPqP■ワ勺P■PSヶ。「。「■「■「■「■「勺「■P■「■P■P可「勺「可テコP■ワヨワコヮ■PqP勺タョヶ9ヶ■PqPqP■PC
き裂を有する積層プラスチックフィルムの強度
小泉堯掌頗羅堕弘掌
StrengthoftheCrackedLaminatedPlasticFilm
TakashiKOIZUMr,HimshiHARADA*
Inthispaper,wehavestudiedthemechanicalchal己cteristicsoflmlinatedfilmswithclzrk
underthetensile]oads、Thisfilmconsistsofthelowdensitypolyethylenefilmwhichis
sandwichedthepolyethyleneterephthalatefi1m、Thevanouschar己cteristicsofeachfilmaIe
evaluatedThenonlmearfiactuにmechanicsisappUedtoevaluatethestrengthoffnms・Itis
shownthatthetensilest正ngthofthelEminatedfilmwithclackbeccmeshi獣]erthanthatcf
LDPEandPETfilmsundersimultaneoustension,whichdependsonsheanngstrBssesmduced
onthemterfE迄eofthefUms
Keywords:PlZ遇ticfilm,St正ngth,Laminate,CIBck
包装材料として近年広く利用されている積層フイルムにき裂を生じたときの強度評価について論じてい
る。すなわち、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)を内皮とし、ポリエチレンテレフタレート(PET)を
外皮とする積層フィルムについて、それぞれのフイルムの特性を色々の観点から評価している。とくに大
規模降伏条件下におけるき裂付き工業用材料の強度評価手法をフイルム材に適用し、その有用性を確認し
ている。つぎに、あらかじめLDPEとPETを瞬間接着剤で接合した試験片を用いて接着部のせん断強さを
評価した。この後、接着剤で接合したき裂付き積層フィルム材の強度を測定し、併せて進展き裂のモニ
ターテレビによる観察から、き製先端領域に生ずるせん断応力により、積層フイルムの強度低下は緩和さ
れることを示した。
キーワード:プラスチックフィルム、強度、積層、き裂
。中央大学理工学部(〒112束京都文京区春日1-13-27):FEmltyofScienceandEngineering>ChuoUniveIsityウ13-
27,1-ChomaKasugaBunlq/o-ku,TOIロノ・’112
333
き製を有する満層プラスチックフィルムの強度
1.緒言
thickness
LDPEO1mm
PE「005mm
プラスチックフイルムは包装用、農業用、
民生用、工業用、医療用などの広い分野で利
口 。=10mm
用されている。特に包装用フイルムでは高度
W=30mm
↓l=10mm
な利用法も考案されている。機能性内皮と強
L=90mm
度維持用外皮からなる積層構造のものでは、
Flg1GeometryoftensiIespecimen
内皮に対しては衛生性やバリアー性などの品
質保持性が、そして外皮に対しては化学的安
方向によって異方性を生ずる。この異方性を
定性と共に良好な機械的特性が要望されている。
考慮し、分子鎖セグメント、結晶主軸の配列
本論文では、積層フイルムにき製が生じた
方向を(M)で指示し、これらに垂直な方向
として、これの機械的強さを評価するため
を(T)で指示することとした。なお用いた材
に、き製を有する積層フイルムに引張荷重が
料はメーカ受け入れ状態のまま使用し、とも
作用するときの力学的挙動を、金属材料の強
に結晶性高分子材料である。
度解析に適用される非線形破壊力学に基づい
Fig.1に引張試験片を示す。図中には参考
て検討している。なお、プラスチックの製
のため、中央き裂形状が併記されている。試
造・用途・経済性・環境適用性などを記載し
験片の長さLは、JIS3)に規定される3~4号試
た著書、や単層フイルムの強度を研究したも
験片を参照し、き裂材の引張試験に不都合を
の2)などはあるが、この分野の強度解析に関
生じないL=90mmに選んだ。一方、幅Wに
ついては、中央き製試験片の採用時に不都合
する研究は殆ど見当たらない。
を生じないため、き製やリガメントの長さを
2.供試材
試験条件4)が満たされるように、W=30mm
とした。また引張試験における引張速度は
積層フイルムの内皮には、厚さ100以mの
JIS試験法3)における速度B対応値として
高圧法低密度ポリエチレン(三菱化学(株)
2mm/minとした。なお試験は室温23℃の
製、LDPE)を、外皮には厚さ5qLLmのポリ
下で行った。得られた機械的性質をTablel
エチレンテレフタレート(帝人(株)製、
に示す。
PET)を使用した。PETは押出し方向、延伸
Fig.2はLDPEの応力0-ひずみE曲線を
TabIelMechanicalpropertiesofmaterialused
PET(T)
Properties
-334-
0.136
220
6.50
2
157
82
11
FrHctu妃tou獣mess几(kN/、)
99
0.133
162
55
Materialcostantoo(MPa)
、
4840
0.40
5
2
43 1 70
Yield pomtoy(MPa)
WOrk haldenmgexponent
4840
0.40
7080
2
Poisson,s mnov
LDPE
2
Young,s modulusE(MPa)
PET(M)
日本包装学会誌VbL61VO6Q997ノ
、、
示す。これより図中に示すように1.2MPaま
では線形性が保持されると見なして縦弾性係
セットを生ずる応力として降伏応力を求め
似式(1)を決めた。
00,2OQ40DOOp3001OL'20L14
Stmin
÷T=(‐:Tソ(1)
Fig.3StrBss-stmincurvesfbrPET(Machine
dircction)(Elasticrange:O~76MPa)
釦、
11
加工硬化指数nはo-E曲線を基に推定し
て求めた。
2
2
00
5。
》『
“’15
(呵凸》二)密別⑪邑的
864
000
Q1Z3
》。》》・》・
■L□鋼
■●、
lトーLlii・Iトー肥、Ⅱ
(甸凸]皇)功痘芯』一四
9870543210
8 8 85EHgHエ鎚西H H額HgUmU UHUH 5O.
0002Op4Op8Op80.1
srain
Fig.4st雁ss-straincurvesforPET(Cross
machinedirection)(Elastjcmnge:
0~60MPa)
0.15020250.3035
005
画⑪
てそれらの曲線より構成方程式のべき乗則近
0
》一一
m0
みと縦ひずみとの結果の比より求めた。そし
|…綴
.》.》
た。ポアソン比は顕微鏡下で測定した横ひず
的的⑩
(甸凸乏盲盟層四
数Eを求めた。また永久ひずみ0.2%のオフ
s0面in
Fig.2sb巳ss-st7aincurvesfWLDPE
このとき、弾塑性破壊じん性値J積分が採用
(EIasticIange:0~1.2MPa)
される。J積分を正確に測定することもでき
Fig.3は延伸方向PET(M)について、ま
るが、構成方程式が式(1)で示される材料に
たFig.4はこれと直交する方向のPET(T)
について試験片を採取して、等しい引張速度
対して、き裂が深い場合に簡便式が提案さ
れ、J積分評価に用いれるようになった。す
で試験したものである。これらの結果からそ
なわち、き裂が十分深い(α/W>0.3)と
れぞれの弾性係数、降伏応力、ポアソン比な
き、引張荷重を受ける中央き裂試験片では、
どを求めた。
き裂がないときの引張応力をoとすればJ積
分は次のように表わされる。
3.破壊靭性
J一一十=÷。.(CTOD)(2)
初期き製の進展中に、き裂先端に大きな塑
ここでCTODは、Fig.5に示すように、き
性変形領域が形成されるようなき裂材の強度
製が進展を開始し始める寸前のき製先端開口
は、非線形破壊力学に基づいて論じられる。
変位の略称である。(1)はき裂の状態を示
335
き製を有する澗層プラスチックフィルムの強度
引く。そして尺曲線と鈍化直線との交点を求
める。このとき
bb
l-ファ
J=(oy+0。)△・で与えられる鈍化直線を
o/2,W>200J/oy
(3)
上式が満たされるとき、交点の縦座標をjlcと
している。本邦では、現在までプラスチック
Fig51ncreaseofcracktipopening
dispIacementduetoIoads
材料のJ値を求める規格は制定されていない。
そこで上述の手法を参考とし、Fig.1に示す
し、(2)はき裂面に垂直な引張応力が作用し
長さo=10mmの中央き裂を挿入した試験片
て、僅かに開口した状態であり、(3)は先端
のCTODを、マイクロスコープを用いて測定
部近傍で塑性変形が起こり、開口変位を生じ
し、式(2)よりJ値を計算し、鈍化直線との
た状態であり、(4)はその限界状態を僅かに
交点からj)cを求めて、フイルムの強度データ
超えて先端の一部に割れを生じてき裂が進展
として提供している。Tablelに示される破
を始める状態を示している。Fig.6は、Fig.
壊靭性値はこのようにして決められたもので
1に示す形状のき裂付き試験片(PFT(M))
ある。
を用いて、ポテンシャル・エネルギのき裂長
さによる変化からJ値を求める理論式に基づ
4.実験結果
いて得られた実験結果(R曲線)を実線で示
し、式(2)を用いて得られたJ値の実験結果
4.1接着強さ
積層フィルム製品に負荷を生じたとき、品
を黒丸印で示した。これより簡便式は実用上
質の不均質性が存在する部分では一様な変形
十分な精度で利用できることが分かる。
ASTM5L6)に示される試験法では、き裂先
は保証されない。このようなとき、積層フィ
端が進展を開始する寸前の開口変位CTODを
ルム内に起こりうる可能性として、界面に生
測定し、J値を計算し、R曲線を描く。さらに
じるせん断応力、フィルム面の凹凸の発生が
考えられる。このような現象に対する力学的
知見を得る目的で、き製付き積層フィルムの
J0006
宕一z己「
引張試験を行ってき裂近傍における変形挙動
を調べた。この結果を理解するためには、予
め界面がせん断応力および引張応力によって
剥離を生ずる限界値を知っておく必要があ
る。そこで積層フイルム界面のせん断応力に
対する強さと引張応力に対する強さを測定した。
Fig.6
J-lnte屯raIsobtainedbypotentialene屯ymethodandapproximate
lbnnuIa(2)
Fig.7に示すように、PETフイルムと
LDPEフイルムの両端部30mmが重ね合うよ
-336-
日本包装学会誌VbL6Nb、6(1997)
前処理は施していない。
90mm
、)
一一一四
→
30mm→4.2単層材の破壊靭性J,c
’
 ̄しFig.10は圧延方向採取のPET
(M)に対する破壊靭性試験結果を
Fig7SpecimengeometryforshearstrBngth
二二三左岸ク
示す。鈍化直線と簡便式(2)に従
って求めたJ値のプロット点を結ぶ
R曲線の交点としてjlC=6.05(kN/、)を得
峪→→
←
←
measurement
た。同様にして圧延方向に垂直な方向から試
験片を採取したPET(T)については、より
低い値几=1.57(kN/、)を得た。
『I‐』
一方LDPEについてはjlc=15.0(kN/、)
と大きな値を得た。
Fig.8GeomeUofl80opeeItestingspecimen
65
35
30
4321
(E{zエ)「
(⑭国字二)心筋⑭』]②
2211
5050
50
①p■回5正已函
Crackextensiouu△a(m、)
005052253354
Fig.10FracturetoughnesstestofPET
DisplacementbetweenIoadedpoims(m、)
(MachinedirBcmn)
Fig.9ExperimentaI尼sultonbothadhesivetests
4.3積層フイルム
うに瞬間接着剤で接合したフイルムの他端に
長さL=90mm、幅W=30mmのPET(M)
長手方向に引張荷重を加えて、接着部にせん
とLDPEフイルムを瞬間接着剤で貼り合わせ
断荷重を負荷して破断し、接着界面のせん断
て積層フイルムとした。これより、Fig.1に
強さてB=271毎aを得た。またFig.8は端部
示すような長さo=10mmの中央き裂を挿入
30mmを瞬間接着剤で接合して作成した剥離
した試験片を作成する。これにテンシロン万
強さ試験片を示す。図に示すように、これの
能試験機により室温23℃の下で、引張速度
非接合端に引張荷重を加えて接合部厚さ方向
21m、/mmで引張荷重を加えた。き製の破壊
の剥離試験を行って、フイルムの180度剥離
挙動を、100倍のレンズを装着したCCDカメ
強さの評価結果も求めた。Fig.9はこれらの
ラを通してモニター表示し、ビデオプリン
実験結果を示したものである。180度剥離強
ターに撮影しながら似、単位で観測した。
さは殆ど零に等しい。なお両試験に用いたフ
積層材に対するJ値の定義は現在まで見当
イルムは受け入れ状態のままであり、表面の
たらない。このため、実験中のき製形状変化
337
き製を有する積層プラスチックフィルムの強度
釦、
I029MpO
(珂生三)閉り』】ぬ
的釦夘
熟
亀乳
'
’
’
Z
’
Z
'
'
、0
ノ
L--■ろデロー
0.OOOnlOD2
Strain
Fig、11Str巴ss-straincurvesforIaminatedmms
Fig.12Photomicmgraphofcrackgrowth
inIaminatedmm
の観測結果から、き製先端が開口し、進展が
の強度評価には有用であるが、高圧法低
開始するときの応力として102.9MPaをFig.
密度ポリエチレンのように柔軟な材料の
11に示すo-E曲線から読み取った。一方、
強度評価には有用ではない。
二層のそれぞれについて独立に実験を行った
(3)J積分の評価に関する簡便式は、ポリエチ
とき、CTODを生ずる応力はLDPEが6.1
レンテレフタレート材には適用可能であ
MPa、PET(M)が81.3MPaであり、その和
ったが、高圧法低密度ポリエチレン材に
は87.4MPaとなる。この値を積層フイルム
対しては有効に適用できなかった。
に対する値と比較して積層フイルムの強度を
推定することができれば、積層フイルムの破
<引用文献>
壊靭性値は大きくなると予想した。
1)KROsbom&JenkinsW.A、,PlasticFilms
またFig.12には積層フイルムのき製が進
展を開始しはじめた直後の写真が示してある。
TechnomicPub(Basel川(1992)
2)小泉尭、納冨充雄、岸本久雄、プラスチックフ
イルムの破壊過程のその場観察、日本包装学会
5.結言
誌、3(1),16(1994)
3)JISK7208
高圧法低密度ポリエチレンを内皮とし、ポ
4)大路清嗣、小倉敬二、久保司郎、全断面塑性にお
リエチレンテレフタレートを外皮とする積層
けるJ積分の簡便式、日本機械学会誌、44(382),
フイルムが、微細なき裂を有するとき、これ
1832(1978)
の強度評価について論じ、次の結論を得た。
5)日本機械学会、弾塑性破壊靭性』c試験方法、日本
(1)積層フイルムのき裂の進展は接着界面上
機械学会、(1981)
に生ずるせん断応力によって抑制され、
6)ASTM:StandaldMethodfbrDetelTnin2tion
このせん断応力は積層フイルムのき裂に
of几,AMeEBul己cfFIactuleTm副mess,Annual
よる強度低下を抑制するように作用する。
BookofASTMStandaIds,E813-89
(2)非線形破壊力学で導入されているJ積分
(原稿受付1997年9月10日)
はポリエチレンテレフタレートフイルム
(審査受理1997年12月4日)
-338-